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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜3

1 :TACCHI:2006/09/18(月) 03:42
すいません、前スレ埋めてしまいまして(汗)
今度から、こっちでお願いしますm(_ _)m

617 :名無し娘。:2007/06/27(水) 08:16
なにこのナイスリターン

618 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:03

飛び抜けてインパクトのある声でもない。
言葉に説得力を持たせることもできない。
自分に足りないものが多いのは解ってる。
だから、今の僕にできるのは、その言葉に命を吹き込んであげることだけだった。
届けるべき相手へ、精一杯の心を込めて。

「ずっと…できるだけ一緒にいよう」
「せんぱいっ!」

619 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:03

 ――え?

「あれ……?」
「こ、小春ちゃん……?」
「いま……? あのー」
「はい?」
「せんぱい、お一人ですかあ?」
「他に誰もいないでしょ?」

僕は突然飛び込んできた小春ちゃんへ、広いとはいえない楽屋を指し示す。
小春ちゃんはキョトンとした顔で、僕の手を追いかけるように右へ左へと特徴のある大きな目をキョロキョロさせる。

「ですよね。アハッ、アハハ……」

笑い声が尻すぼみに小さく乾いたものへ変わっていった。

「大好きだ。って、聞こえた?」
「あ〜……、そのお、……はい」

その目に動揺をありありと映しだして、どうするか迷った末にという風に認めた。

620 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:04

「なにか勘違いしたわけね。これだよ」

テーブルの上へポイと放りだした薄っぺらい冊子。

「らじお、どらま……」
「単発だけど、やらせてもらえるなら頑張ろうと思ったからね」
「本読み、してたんですか」
「してたんです」
「小春はー……お邪魔しちゃいました?」
「そんなことないけど。ちょっと集中してたとこだったからさ」
「あっ、なら小春がお手伝いします!」
「え?」

これは名案だと。
心からそう考えていると表情が教えてくれる。

「こう見えても小春、声優さんもやってますからっ」
「そ、そうだね」
「せんぱいはもうセリフ覚えちゃってるんですか?」
「一応」
「じゃあ、これは小春が」

放りだした台本を手にした小春ちゃんはやる気満々なようで。
キラキラと瞳を輝かせてページをめくっていく。

621 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:04

「はいっ、じゃあここからいきましょう」

ここから?
頭からやるんじゃないのって、そう尋ねようとした。
けれど。

「あっ」
「え?」

小春ちゃんの声に反応した僕の声。
なにか待ってる様子の小春ちゃんと目が合う。

「もう、せんぱい?」
「はい?」
「ここに、『男、女を抱き締める』って書いてありますけど」
「あぁ……。いや、ラジオだから、ね」
「ちぇっ。じゃあ、いいや。もう一回いきますよ」

残念そうにそう呟く小春ちゃんが、さっきと同じように「あっ」っと小さく声をあげる。
少しばかり心の中で『やれやれ』と零しながらも、なるようになれと覚えた台詞を口にする。

622 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:05

「嫌なら振り解けばいい。そうじゃなけりゃ……」
「イヤじゃない。イヤじゃないよ」
「いいの? 私、好きでいいの?」
「ずっと、そうでいてくれればいいな」
「ごめんね。ありがとぉ。大好き」

拙いながらも互いに気持ちを乗せた台詞を交わし合う。
どこか悪戯めいたところを感じた小春ちゃんの台詞も真剣なそれに聞こえてきていた。

「俺も。一時メチャクチャなくらいに腹立ったけど……それって、それだけ好きってことだって。
 意地にならないで認めちゃえば、こんな……泣かせなくてもよかったのにって」

どちらからともなく“間”を取って、最後の台詞へ気持ちを昂める。

「もしかしたら、喧嘩もするかもしれないけど……それでもずっとお前がいいな」
「…うん、あたしも」
「ずっと…できるだけ一緒にいよう」
「せんぱいっ!!」

 ――え?

「絵里とゆーものがありながら――、小春とそんな……、あれ?」

今夜の本番に間に合うんだろうか……。

623 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/06/28(木) 23:08

ちょっとした悪戯をしてみたりして。
まあ誰も気がつかないでしょうからいいでしょ(笑)

>>610-615
確かに含みを持たせて終わらせましたが、拾ってもらえたのは嬉しい限り。
今回もごちそうさまでした。
影響……悪影響かもしれませんが(^_^;)

624 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/06/28(木) 23:47
今日は、コメントのみで。

>>616
重さんになんか萌え〜って感じでしたw
やさしさあふれる作品よかったです♪♪

>>623 匿名さん
一発で、気がつきましたよ(笑)
うまい使い方ですなぁ〜w
あそこにも期待してます♪

625 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:03

「お菓子持ってきましたー」

楽屋の入り口から、亀井さんの声。
声のした方へ顔を向けると、そこにはもう1人。

「ついでに、れいなも持ってきましたー」
「ちょっ、絵里」

ついで扱いの上にもの扱いされて、頬をふくらませた田中さん。
けど、すぐに元の顔に戻って僕の方へと寄ってきた。

「せんぱい」
「田中さん」
「れいなも、お邪魔してよかですか?」
「もちろん」

笑顔で頷く。田中さんも笑ってくれた。
そして。

「お茶が入ってなーい!」

僕の怠慢を咎める亀井さんの声。

「あ…ごめん」
「もー、せんぱいとさゆ何してたんですかー」
「ちょっと、ね」

さっきのやりとりを思い出す。
と、道重さんと目が合う。お互いに笑みをこぼした。

「…なんか怪しい」
「な、なにが?」
「いいです」

機嫌が斜めになってしまった亀井さんをなだめつつ。
みんなで、お茶の準備を再開した。

626 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:04

「うわー、これおいしー」
「そう?よかった」
「ほら、れいなも食べなよー」
「う、うん」

僕の持ってきたお菓子は、予想以上に好評で。
おかげで、その後の話にも花が咲いた。

…しばらくして。

「また今度、お茶しましょーね」
「今度はさゆみがお菓子持ってきます」
「………」

3人は、自分たちの楽屋へ戻っていった。
一転して静かになった楽屋で、思い出す。
4人でああやって話したのは久しぶりで、楽しかった。
けど。

…ちょっと、引っかかるんだよな。
壁に寄りかかって天井を仰ぎ、目を閉じる。
話してたときちょっと上の空だったし、
お菓子にもそんなに手をつけてなかった。
それから…さっきの去り際の、何かを悔いたような表情。

「…田中さん」

気になっている人の名前を、呟いた。

627 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:04

「はい?」
「わ!」

予期せぬ声に驚いて、目を見開く。
すぐ目の前に、田中さん。全然気づかなかった。

「た、田中さん?」
「………」
「ど、どうしたの?」
「…絵里とさゆには、忘れ物したって、言いよってきました」

…答えに、なってないけど。
とりあえず、1人で戻ってきたということらしい。

「あの」
「う、うん」
「もう少し、時間よかですか?」

後悔しないために戻ってきてくれたんなら、渡りに船なんだけど。

「うん、大丈夫」

とりあえず頷いて、田中さんの言葉を待った。

628 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:05

「せんぱい」
「うん」
「…あの」
「………」
「最近、れいなたちの楽屋、来てくれんとですね」
「………」
「何か、あったとですか?」

…田中さんも、か。
亀井さんと道重さんの言葉が頭の中で蘇る。

「絵里のこと、避けてません?」
「近くにいて欲しいのは、さゆみも同じ」

聞き方は違うけど、意味はほとんど同じだった。

「…うん。ちょっと思うところがあって」
「…そうですか」

…あれ?
一言、そう呟いて俯く田中さんを見て、思う。
「思うところ」が何なのかを聞いてこない。亀井さんと違った。
けど、その表情やたたずまいは同じで。胸がまた痛くなった。
早く謝らないといけない。そう思って、口を動かし始める。

刹那。

629 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:05

「何となく、分かれてしまうんです」
「え?」
「せんぱいがいないと、分かれちゃうんです」
「…何が?」
「愛ちゃんと、ガキさん」
「え」
「絵里と、さゆ」
「ち、ちょっと」
「小春と、ミッツィー」
「た、田中さん?」

…なんてこと。

「か、考えすぎだよ」
「そうかもしれんです。いつもってわけじゃなかですし」
「…うん」
「でも、最近。せんぱいが来なくなってから」
「………」
「なんか、そんな感じになってること多くて」
「………」
「ちょっと…その、寂しいっていうか」
「………」
「…辛い」

…どっちが、なの?
娘。が細切れになってしまうということと、
自分が孤立してしまうということ。
田中さんの表情や言葉からは、分からない。

いずれにしても。
なんともいたたまれない気持ちにされられてしまう。
学校のクラスとかで、女の子が小さいグループに
分かれてしまうことがあるというのは…聞いたことがあるけど。
娘。も同じ、と。そういうことなんだろうか。
深い、深い思考に引きずり込まれそうになった。

630 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:06

「でも、せんぱいがいると」
「あ…うん」
「そういうの、なくなります」
「え?」
「せんぱいの周りに、みんな集まってきて」
「………」
「れいな、そっちの方が落ち着くんです」
「………」
「頼っちゃ駄目だって。そう思うけど、けど」
「………」
「できたら、その、助けて欲しい」
「…田中さん」
「せんぱい」
「………」
「前みたいに、一緒に、いてくれんですか?」

「辛い」と。そう告白したときの顔そのままで請うてくる田中さん。
さっき頭をよぎった理屈。今は、そんなの、もうどうでもよかった。
僕がいることで、みんながひとつになれるなら。

「いいよ」

喜んでその触媒になろうと。そう思った。

631 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:07

「………」

黙ったままの田中さん。
ゆっくりと…近づいてきて。僕の服の端をつかむ。
一瞬だけ僕の顔を見上げて。けど、すぐに俯いた。

「田中さん」
「………」
「ごめんね」

田中さんが首を横に振る。意味を、分かってくれた。

「僕にできることなら、するから」
「………」
「ね」
「…はい」
「うん」
「せんぱい」
「なに?」
「ありが…とぉ」

そう言って、俯くのを止めてくれた田中さん。
けど、僕の服をつかむのは、なかなか止めてくれなかった。

632 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:13
スレ的にどーなのよ、というネタですが。長いし。
そして問題は、次と次の次。

>>617
ありがとう、励みになります。

>>618-623
「悪戯」が消化不良気味…でも、美味しかったです。

>>624
お粗末様でした。おかわりいかが(^^;)

>>625
道重さんの姉御肌っぷりを表現したかったので。
伝わったなら、よかったです。

633 :名無し娘。:2007/07/01(日) 00:44
長くてもいい

634 :名無し娘。:2007/07/01(日) 13:04
腕白に育って欲しい

635 :名無し娘。:2007/07/01(日) 19:36
トリプにワッラタ>◆StatPfTBPc

636 :名無し娘。:2007/07/01(日) 21:55
そのトリップになんか意味あるの?

637 :名無し娘。:2007/07/01(日) 23:22
stat=statistics

638 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/02(月) 22:38
色々煮詰まった…から、レスだけ。

>統計さん
あっ、なんか申し訳ないです(^_^;)
呼称を決めてしまったようで……トリップまで(笑)

ま、それはそれとして。
今回も美味でございました♪
滔々と流れるように話が展開されてますねえ。
で、次は次は?

こっちがしでかした悪戯は、後からブログで触れましたけど。
ホントなんてことないし、なくていいものなんで(^_^;)

639 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/03(火) 21:38

>>476-511 のデータ、再集計してwikiに載せました。
集計期間や順位の決定方法を少々変更しましたので
結果が違っておりますが、あしからず。

640 :名無し娘。:2007/07/03(火) 23:24
>>639
乙!

641 :名無し娘。:2007/07/03(火) 23:39
10万文字超えてるってすごいね

642 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/07/04(水) 00:45
>>639 統計さん
どうも、乙です。
自分が、こんなにネタ書いてると思ってなかったんで、びっくりしましたw
いつ僕の夢物語が終わるかわかりませんが、これからも
がんばって行きたいと思います。

目指せ、すべて一位(笑)

今回の田中さんの作品も、よかったです。なんかもっとおかわりほしいぐらい(笑)
次の作品期待してます♪

643 :『主観と客観』:2007/07/07(土) 22:38

せっかくのオフだってのに。
そう思いつつも着替えを済ませてドアに手を掛けたところでその動きを止める。
防音が施された厚いドアの向こうに見慣れた先客の姿を見つけた。
気づかれぬようにそっと、小さく開いた隙間から身体を滑り込ませ、その先客の立ち居振る舞いを注視する。

抑えめに曲を流しながら、ただストレッチをしているだけだというのに……その所作から目を逸らすこともできずにいた。
小さな身体で座り込んで、四肢を伸ばしていくその動作があまりにしなやかで。
野を駆ける獣の美しさにも通ずるナチュラルな強靱。
惹きつけられるように一点を見つめる視線の先。
大きく開いた脚の間へ沈む上体は、なめらかな動きを損なうことなくペタリとフロアまで辿り着く。
立ち上がった鏡の前で伸ばした右手を軽くバーに添え、左の手を緩やかに広げながらスッと退いた右足がなにもない空間に線を描き、背中から、腰よりも上がった踵まで綺麗な曲線を浮き上がらせる。

「ほう」と、つい洩らした感嘆の吐息が一つの舞を終わらせてしまった。

644 :『主観と客観』:2007/07/07(土) 22:39

「せんぱいっ!?」
「邪魔しちゃったね。ごめん」
「ほやなくてっ、いつからいたん――、ずっと見て……?」
「あぁ、うん? ついさっきだよ、愛ちゃん」
「あ"〜っ」

その外見からは不釣り合いな、けれど聞き慣れた太い声で愛ちゃんが背を向けた。
別に見られることに慣れていないなんてことはないのに。
しかも同じグループにいる僕に見られたからって、なにを今更なんて思ってしまう。

「別に恥ずかしがらなくたって……」
「やっても……」
「見られるのなんて慣れてるじゃない」
「あ"? そっ、……せんぱいやし」

なにかごにょごにょ口籠ってる愛ちゃんを微笑ましく見ながら、今し方感じたことを伝えたいと思った。
こんなに近くにいた愛ちゃんなのに、改めて思い知らされた彼女の魅力を。

「ヘンだよ、愛ちゃん。まぁ僕もだけど」

そう苦笑いした僕を不思議そうに見てくる愛ちゃんへ言葉を続ける。

645 :『主観と客観』:2007/07/07(土) 22:39

「もう五年も一緒にいるのに、今更って笑うかもしれないけどさ。
 その……見蕩れてたんだ。綺麗だなあって」
「あの…なにに?」
「愛ちゃんに」
「へっ!?」
「なんだろう、その…立ち居振る舞いがさ」
「そんなことないですって」
「や、自分じゃ気がつかないんだろうけど。バレエの動きなんだろうね。
 つま先から頭まで、指先まで、ちゃんと“形”になってるなあって」
「そ、そう…ですか?」
「うん。そりゃあモデルさんたちみたいな整い方じゃないけど、身体のラインを綺麗に見せるみたいでさ」
「…なことないです」

どうやら喋りすぎたらしい。
愛ちゃんは照れたように俯いて、小さな声で僕を否定する。
それは愛ちゃんの理由だから構わないと言えば構わない。
けれど僕がそう思っていることは事実だから、それが伝わらないままなのは哀しいことだった。

「ある」
「ウソやぁ」
「そっか、愛ちゃんは僕を嘘つきだっていうんだ。そうなんだ」

どうしても。
本気で信じてもらえないことで意地になったのかもしれない。
ちょっとずるいやり方で、とりあえず認めてもらうところから始めよう。

「やっ、違います! そんな」
「でしょ? ホントだから」
「っ――、……はい」
「うん。愛ちゃんはキレイ」
「……ホント、ですか?」
「そんな嘘、ついたことある?」
「……ありがとおございます」

真っ赤な顔で、消え入りそうな声で、そう謝意を口にした愛ちゃん。
とりあえず、一歩進んだことに満足した僕は、笑いながら誘いかけた。

「さて。じゃあ練習しよっか」
「え? あ、はいっ」

こうして僕は、その気になった愛ちゃんの動きに付いていくのに苦心することになった。

646 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/07(土) 22:45

>>639 統計(仮称)さん
グ、グレードアップしてらっしゃる(^_^;)
大変お疲れ様でした。
ああいうの、見てるだけでも楽しいです。
ましてや自分も参加しているとなればなおのこと。

しかし上にいる方々はすごいですね。

作品の続きも期待してます。

647 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:10

コンコン

目の前の扉をノックする。
久しぶりのせいか、少し緊張していた。

「はーい」

中から声が返ってくる。久住さん…だな。

「あっ、せんぱい」
「うん」
「………」
「………」
「………」
「…ごめん、お邪魔だった?」
「あー、違います違います。そうじゃなくて」
「…じゃなくて?」
「えーっと」
「………」
「いや、あのっ。まー、どーぞ?」

…ホントに、いいのかな?
ちょっとだけ、不安になったけど。
とりあえず、中に入れてもらうことにした。

648 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:11

「あれ、ひとり?」
「はい。みんなは、まだです」
「そうなんだ」
「はい」
「それとさ」
「はい?」
「電気つけないで、どうしたの?」
「あー、ちょっと」

そう言って、窓の方へ歩いていく久住さん。
後に続いて久住さんの横に並び、様子をうかがう。
視線は、空の方へと向かっていた。

「…星?」
「はい。暗くした方が見えるかなー、なんて」
「そういえば七夕だったね、今日」
「はい。なので」

そう言って、暗い空に目を凝らす久住さん。
星、か。そういえば久しく見てなかったな。
にわかに興味が湧いてきて、久住さんに倣うことにした。

けど。

649 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:11

「…見えないですねー」
「ちょっと…曇ってない?」
「やっぱり?」
「…うん」
「あーあ」

残念そうに呟く久住さん。
でもその表情は、そんなことも楽しんでいるように見えた。

「せんぱい?」
「なに?」
「織姫って、あの辺にある星ですか?」

太陽が沈む方向の、低い空を指差す久住さん。

「…うーん、違う、かな」
「違うんですか?」
「うん」
「この前、晴れてるときに見たら」
「うん」
「あの辺にすごく明るい星があったから、そうかなって」
「そんなに、明るかった?」
「はい。夕方で、まだ結構明るかったのに」
「うん」
「はっきり見えました」

夕方の西の空に、とても明るい星。おそらくは。

650 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:12

「金星、じゃないかな」
「きんせい?」
「うん」
「なんですか?それ」
「えーっと」
「………」
「織姫星は太陽と一緒で、自分で光るんだけど」
「はい」
「金星は、地球の仲間なんだ。太陽の周りをぐるぐる回ってて」
「はい」
「太陽からの光を受けて、輝く」
「へー」
「『水金地火木土天海冥』って、聞いたことある?」
「あー、それあります」
「『金』は、金星のことね」
「…そうなんだ」

…おもしろくない、よな。
ちょっと、考え込む風の久住さんを見ながら、後悔する。
こういう蘊蓄って、どういう風に言えばうまいんだろうか。
同じく考え込む僕に、久住さんが口を開いた。

651 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:12

「ここのつ、あるんですか?」
「…え?」
「その、地球の仲間」
「うん」
「………」
「久住さん?」
「…小春たちと、一緒ですね」
「………」

…なるほど、そういうことか。

「…そうだね。9人だもんね」
「はい」
「………」

…確かにそうなんだけど、さ。
ニコニコしている久住さんとは対照的に、
僕の表情は曇ったに違いなかった。

652 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:13

「それでー」
「………」
「せんぱいは太陽」
「………」
「なんです」
「…は?」

…やられた。
会心の表情で、久住さんが僕を見つめる。
忘れてたわけじゃ、なかったんだ。

「…太陽?」
「はい」
「………」
「小春たちは」
「…うん」
「せんぱいの周りを回ってるんです」
「………」
「そうして、せんぱいから光をもらって、輝く」
「………」

言いながら、久住さんは僕の手を取って。
僕の周りをくるくると、公転しはじめた。
そんな久住さんにあわせて、僕も自転をはじめる。

653 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:13

「で、でもさ」
「はい?」
「太陽って、他にいなくない?」
「…誰ですか?」
「え、えっと」
「………」
「つ、つんくさん、とか」
「えー」

明らかに不満顔の久住さん。そ、そうなんだ…

「せんぱいが」
「…僕?」
「はい。せんぱいが、いいです」
「…でも、なんで?」
「うーん」
「………」
「………」

不意に、久住さんの公転が止まる。
飽きたのかと思い、手を離そうとしたけど。
久住さんの僕の手を握る力は、弱くならなかった。
うつむき加減の久住さん。真剣な表情に変わっている。

654 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:14

「せんぱい」
「うん」
「その、さっき、ごめんなさい」
「え、何?」
「さっき、ドア開けたとき」
「………」
「せんぱいが来るの、久しぶりだったから慌てちゃって」
「………」
「ぜんぜん邪魔なんかじゃないのに」
「そんなの…気にしないで」
「…はい」
「…うん」
「それと」
「なに?」
「さっきの星の話。すごく、ためになりました」
「そんなに大したこと、話してないよ?」
「そんなことないです。ああいう話って」
「うん」
「せんぱいからしか、聞けないから」
「………」
「だから…せんぱい」
「…うん」
「これからも、いろいろ教えてください」

さっきの…久住さんのたとえ。
その意味が、少しだけ分かったような気がした。
ちょっと、買いかぶりすぎだと思ったけど。でも。
できる限りのことはしてあげようと、そう思い直して。

「僕で、いいのなら」
「…もちろんです」

久住さんは、いつもの笑顔に戻ってくれた。
そして、また僕の周りを回り始める。

「く、久住さん?」
「はい?」
「ち、ちょっと」
「これ、なんかよくありません?」

僕が目を回すまで、久住さんは止まってくれなかった。

655 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/08(日) 00:10

やっべーどんどん長くなってる。
しかも曇ってるかと思いきや晴れてやがった外。

>>635
トリップを嗤われるとは思いませんでした

>>637
>>640
どもです

>>642
そちらこそ乙です 完全制覇、頑張ってください

>>643-645
愛ちゃんイイですね 流石です 勉強になります

>>646
より厳密にしたつもりなんですけど…見にくくなっただけかも
続き書きましたが… ホント素人なんでそのうち期待を裏切ります(^^;

656 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:39

撮影の順番までまだ少し時間がある。そう教えてもらってすぐに楽屋を出た。
特にどうしようと思ったわけでもなく、時間潰しに外の空気を吸ってこようと思っただけだった。
ホールで下りてくるエレベーターを待っていると、すぐ後ろで感じた気配に振り返る。

「あぁん」
「なに、その手は」

可愛らしく悔しがるさゆの両手が僕の顔まで10cmのところで止まっていた。
黒目がちな瞳が挙動不審に泳ぐ。

「ったく……」
「えへ♪」

未遂に終わった悪戯なんて気にもしない笑顔。

「で、どこ行くの?」
「せんぱいはドコ行くんですか?」
「ちょっと散歩がてらコンビニでも行こうかなって」
「じゃあさゆみもそうします」

なんの惑いもなく、さもそれが当たり前のことであるかのように言われた。
言い切られた僕としては笑うしかない。
そしてあおれを当たり前として受け入れるしか。

657 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:40

エレベーターが止まり開いたドアの中に先客が一人。
笑いあっていた僕らは何故だか少しだけ表情を戻して静かになる。
一階下でエレベーターが止まり、唯一の先客が降りていった。
締まり掛けたドアの隙間から誰かが駆け寄ってくる姿に気がついた僕がドアを開けてあげる。
開いていくドア。なぜだか隣にいたさゆが僕の後ろへ隠れるように動いた。

「ありがとうございますう」
「……おやまあ」
「せんぱい、おはようございまぁす」
「おはよ。桃子ちゃん」
「? あっ、おはようございまぁす、道重さん」
「お、おはよ……」

僕の背中からさゆの声。
あまり聞いたことがない種類の声だった。

「さゆ?」
「“さゆ”? じゃあじゃあ、わたしも“もも”って呼んでほしいですう」
「なっ――、桃子ちゃんは桃子ちゃんでいいじゃん」
「やですよお」
「え〜っ! そ、それより桃子ちゃん、なんでいるの?」
「私たちも撮影があるんですけどお。せんぱいたちもですか?」

短いけれど、どこか火花が散るようなやりとりだと感じたのは気のせいだろうか。
不意に振られてようやく居場所を得たような心地になる。

658 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:41

「え? …あ、うん。桃子ちゃんたちは僕らの後なのかな。一人でどっか行くの?」
「ちょっと、さゆみが訊いたのに――」
「お二人はどこに行くんですか?」
「うん。ちょっとすぐそこのコンビ――」
「あーっ! どこも行かないよ」

僕の言葉を遮るように、背中から身体をのりだしたさゆの声が大きくなる。
ビックリしたように――僕も驚いたけど――目を見開いた桃子ちゃんが、一呼吸置いてからその特徴のある目を細めた。

「わたしも連れてってくださーい」
「あっ、ほら。すぐ戻ってくるから。桃子ちゃんは。ね、せんぱい」

僕はなにをそんなにさゆがテンパってるのか理解できない。
というよりも、ついてきたいならいいんじゃないかなとも思うし。

「いいんじゃない」

短く言い放った僕の一言で、桃子ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
そしてさゆはおかしなくらいに肩を落とした。
二人の対比を不思議に思いながら、エレベーターを出たところで思った。
この二人、いつこんな関係になったんだろうって。

659 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/10(火) 23:42

ラジオは聴いてないんですけど、各所の話題から想像して書いてみました。

>>647-654 統計(仮称)さん
私も気にしてましたけど、気にしない方がいいらしいです、長さ。
で、ちょっとうまく数字で絡めたいい話でした。
小春いい子だなあ……(ホロリ
統計さんの“僕”がどんどんと他の誰でもない“僕”になってきてる感じがしました♪

660 :−ストレッチ−:2007/07/11(水) 00:35

「よいしょっと」

一人、ダンスレッスンの準備のため、早めに来てストレッチをする。
開脚をして、ベターっと頭を床につけて深呼吸をする。

「ん〜…やっぱり、股関節がちょっと硬くなってるかも…」
「おはようございま〜す♪」

鏡を写して見えたのは、レッスン着の絵里が立っている。
僕は、開脚したまま顔を上げた。

「あぁ、絵里。おはよ〜♪」
「あ、先輩おはよ…えぇ〜!?」

絵里は、僕を見て驚いた表情をしている。

「どうしたの?」
「先輩って、そんなに体柔らかいんですか?!」
「うん、そうだけど…あれ? 知らなかった?」
「はい、先輩コンサートの時いつも自分の楽屋に居るから」
「そっか、みんなでストレッチとかしないもんなぁ〜…あ、絵里。後ろから
 押してくれないかな?」
「はぁ〜い♪」

絵里が、僕に駆け寄ってきて背中を優しく押す。

「うわ〜、やわらか〜い♪」
「絵里も、柔らかいじゃん。それと、一緒だよ」
「でも、男の人もこんなに柔らかくなるんですね」
「まぁ、毎日努力してますから」
「さすが、先輩♪ えいっ!!」

僕の体に急に重みが加わった。

「ちょ、ちょっと絵里〜お、重い…」
「むぅ〜、重くないです〜」

絵里が、さらに僕に体重を預けてくる。ってか、背中になんか当たってるから!!

661 :−ストレッチ−:2007/07/11(水) 00:35

「ギブ、ギブ!!」
「許しませ〜ん!! 絵里は、重くないです〜」

我慢できなくなって無我夢中で体を捻る。

「キャッ!!」

僕は、気づくと絵里の上に倒れこんでいた。

「あ、ご、ごめん!!」

慌てて離れようとすると、絵里は僕をがっちりと腕でロックして離そうとしない。

「絵里?」
「先輩…たまには、甘えていいですよね?」

絵里は、僕を見つめていた。そして、ゆっくりと目をつぶる。

「・・・」

僕も、そのまま絵里の唇に…

「おはようございま〜す!!」

レッスン場に愛ちゃんが、元気に入ってきた。慌てて離れる二人。

「おぉ、●●と絵里。早いね〜」
「う、うん。ちょっと早めに来て絵里にストレッチ手伝ってもらってたから」
「ほんまかぁ〜。あ、絵里昨日話してた服屋行ってきたやよ♪」
「ほんとに♪」

絵里が、愛ちゃんの方へ向かおうとする時僕の耳元でこう囁いた。

『また、一緒にストレッチしましょうね♪』


僕は、その後なぜかレッスン場で筋トレを始めていた。

662 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/07/11(水) 00:40

今回は、亀井さんを中心に…
チョイエロでw

>>659 匿名さん
ラジオ聞いてないんですが、なんか作品見ただけで、修羅場みたいな
感じがしますねw
女の子って怖いなぁ〜って、この作品見て改めて思いましたね…


今週中にもう一本書けたら書きます。三連休は、暇なので…(泣)

663 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:00

「おはようございまーす」

久住さんとの、ちょっとした遊びが終わってすぐ。
ドアが開く音と共に、聞き慣れた声が楽屋に響いた。

「あー、ミッツィーおはよー」
「おはよ。お邪魔してます」
「あ、せんぱいに久住さん。おはようございます」

ペコリとお辞儀しつつ、改めて挨拶してくれる光井さん。
そんな彼女を見てふと思い、久住さんに問いかける。

「光井さんは…どう?」
「はい?」
「さっきの、太陽は誰かって話」
「…なんでですか?」
「………」
「………」
「…いや」
「え?」
「ごめん。なんでもない」

…自分のアホ。

664 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:01

「ミッツィー」
「はーい」

言いながら、久住さんが手招きする。
光井さんは笑みを浮かべながら、トテトテと寄ってきた。

「おふたりで、なにしてたんですか?」
「えっとねー、地球とその仲間たちの話」
「…へ?」

光井さんが首をかしげる。

「光井さん、太陽系」
「…あー」
「七夕でしょ今日。織姫星のことから、話が飛んでさ」
「そういえば、七夕でしたね今日」
「そうそう。それで、せんぱいが太陽なの」
「…はい?」

光井さんが再び首をかしげる。
久住さん…もうちょっと説明してあげないと、ね。

「僕が太陽で、光井さんたちが惑星なんだってさ」
「………」
「ほら、数。ぴったりじゃない?」
「…なるほど」

指折りしながら、光井さんが答える。納得したようだった。

665 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:01

「…わたしは、冥王星かな」
「え?」
「………」
「…なんで、そう思うの?」
「うーん。いちばん年下、だから?」
「………」
「あ、いや。なんとなくです。なんとなく」
「………」

そう言って、ごまかす光井さんだったけど。
自らの謙譲と、他のメンバーへの尊敬を意識した言葉に思えた。
まだ14歳、中学生の光井さんだけど。
こういうところが妙にしっかりしてて、感心する。

「せんぱい」
「………」
「せんぱい?」
「あ、ごめん。なに?」
「太陽にいちばん近いのって、確か水星ですよね?」
「ああ…そうだね」
「…誰でしょうね?」
「え?」
「せんぱいが、太陽なら」
「…うん」
「水星は?」
「………」

666 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:02

質問の真意。分かったような、分からないような。
そして、答えられないというか、答えたくないというか。
僕を見つめる光井さんは、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
どうやらからかわれているらしく、ちょっと憎らしく見えた。

…よーし。

667 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:03

「光井さん」
「…え?」
「光井さん、だよ」
「………」

顔を赤くする光井さん。
さっきから一転して、とても可愛らしく見えた。

「や、でもお」
「なに?」
「わたしはー。ほら、さっき」
「うん。光井さんはそう思ってるのかもしれないけど」
「………」
「僕は、そうじゃないから」
「………」
「…だめ?」
「え?」
「僕がそういう風に思ってるの、迷惑?」
「やっ、そんなこと。…でもぉ」
「でも?」
「………」

今度は、俯き加減でモジモジし始める光井さん。
ちょっと、やりすぎたかな。

668 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:04

「…ごめん」
「え?」
「冗談」
「………」
「光井さんの質問、ちょっと意地悪だったから。つい」
「…もう」
「うん。でも、ごめんね」
「いえ、わたしも。ごめんなさい」

一瞬、頬をふくらませた光井さん。
けど、すぐに笑顔に戻って、許してくれた。

「…でもさ」
「はい?」
「100パーセント、冗談ってわけじゃないよ」
「………」
「初めて会ってからまだ半年だし」
「………」
「仕事も、別々のこと多いじゃない?」
「…はい」
「だから光井さんのこと、まだよく分かってないと思う」
「………」
「だから…気になってる、っていうか」
「………」
「うまく、言えないんだけど」
「…わたしも」
「え?」
「おんなじこと、思ってました。たぶん」
「…そっか」
「はい」
「………」
「………」

そう2人で言いあい、2人で見つめあって。
そして、2人で笑いあった。

669 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:04

「…ちょっとー」
「「あ…」」

やばい。すっかり忘れてた。

「なに2人でいい雰囲気作っちゃってるんですかー」
「ごめんなさい」
「ごめん」
「だめです」

光井さんと違って、久住さんはなかなか許してくれなかった。

670 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:05

>>647-654 の続きということで。
これで7人、順番に、ひと通り登場させ終わりました。
最後の方は、無理矢理です。こんなんでどうもすいません。

>>656-658
へぇー、こんな話が。知りませんでした。

>>660-661
こういう描写って難しいと思いますが、うまくこなされますね。

671 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:43

パーティを終えた帰り道、比較的近くに住むメンバーを送り終えた僕は車を停めミラー越しに後部座席へ目をやった。
綺麗にラッピングされた色とりどりの荷物に囲まれて、窓ガラスにもたれて静かな寝息。
一つだけ、膝の上にあるのは僕が送ったプレゼントだった。

「そんなに抱え込まなくても……」

両手で包むように大事そうに抱えられたそれは、さゆが本当に喜んでくれたという印のようでこっちまで嬉しくさせられる。
腕の中にあるそれを誰にも取られるもんかって、そんな風に主張しているみたいだった。

「誰も取ったりしないのにね」

喉を鳴らすように笑ったのが聞こえたんだろうか、さゆが「んっ」と吐息を洩らす。
ミラー越しのさゆが薄く目を開き、確かめるように瞳をさまよわせた。

「さゆ?」

後ろへ半身を乗り出して問いかけるように名前を呼ぶと、薄く開いていた瞳が僕へ向くのが解った。

672 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:43

「さゆ」
「……せんぱい?」

もう一度、抑えた声で呼びかけると、寝ていたためだろう僅かに掠れた声が返ってくる。

「さゆみ…、寝ちゃってたんですね」
「はしゃぎすぎたんじゃない?」

そうからかうと、少し身体を起こしたさゆが「そんなことないですぅ」と可愛らしい反論をしてくる。
その口振りがとても“らしくて”、僕は更に言葉を重ねる。

「いくら主賓だからってあんなにはしゃげば疲れるのも無理ないよ」
「イーッだ。……せんぱいイジワル」

拗ねる仕草も自分で言うだけあってなかなかに可愛らしいけど、本当に拗ねられると厄介なことも学んでいる。
引き時だと判断して話題を変えるために目に付いたものへ話を流した。

「にしてもさ、そんなに喜んでもらえた? それ」
「え? あぁ」

さゆは腕の中の包みに目を落とし、そのプレゼントを見つめたままで、ポツリと「嬉しいですよ」と呟いた。

673 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:44

「気に入ってくれたなら嬉しいけど。自分で言うのもヘンだけど、大した物じゃないのに」
「せんぱいがくれた物だから」
「そりゃどーも。結構悩んで決めたものではあるんだけどね。こないだのお詫びの意味――、あっと」
「おわ…なんのことですか?」
「…ほら、桃子ちゃん」
「ああ、あれ。あれは別に」
「解ってる。好きは好きなんだよね」
「そーですよ。ただあのときだけぇ……」
「うん。だから。あのときのお詫び」

そう改めて言った僕を何故だかさゆはじっと見つめている。
少し首をかしげてチラリと視線を逸らしたさゆは、少し表情を変えて話し出した。

「なら、一つお願いしていいですか?」
「…なにを?」
「オッケーしてくれなきゃ言いませんっ」

674 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:45

妙な押しの強さにイヤな予感はしたけれど。
まあ誕生日祝いだと思って取り敢えず了承の言葉を返す。

「……いいよ」
「ホントに?」
「…ホントに」
「じゃあちょっとだけ目閉じててください」
「ヘンなことしない?」
「しません。ヘンなことってなんですか」
「……さあね。じゃあ、はい」

なかなか侮りがたい。
仕方なく目を閉じて、残った感覚に身を委ねる。
微かな衣擦れの音と揺らぐ気配。
半ば直感で身を退いて目を開くと、目を閉じたさゆがすぐそこにいた。
様子を窺うようにゆっくりと開いていく瞼が上がりきる前にヒョイと顔を寄せた。

「あっ」

頬へ手をやったさゆが小さな驚きを洩らし、それからなにをされたのか気がついたように呟いた。

「やっぱりせんぱいってばイジワルです」

自分の悪戯がうまくいかなかったことを残念そうに。
けれど少しだけ嬉しそうにはにかむさゆへのハッピーバースデイ。

675 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/15(日) 23:54

遅くなったけど道重さんおめ。
遅くなるけど明日は小春をなんとか…したいかな。

>>660-661 TACCHIさん
亀井さんで微エロいーですね。
明日辺りまた更新でしょうか。わくわく。

>>663-669 統計さん
ヤキモチ小春♪
いや、主役は光井さんですね。
そうか、もう書ききりましたか……で、次は?(笑)
まだまだ期待してますからねー。

676 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:24

連日の――正しくは一日空いてるけれど――誕生パーティだった。
一昨日のさゆのバースディは、翌日のスケジュールに余裕があったおかげでそれなりのものだったけれど、今日、小春ちゃんのそれは仕事終わりの控え室を借りた簡素なものになってしまった。
それは前から解っていたことだけど、たった二日違いで、しかも小春ちゃんの方が年下なのに、我慢を強いているようで可哀想だと感じていた。
もちろん小春ちゃんはそれに不平を言うわけではないし、表情に出すこともないけれど、きっと淋しく感じているに決まっている。

だから。
少しでも喜んでほしくて、ほんの些細なサプライズを用意した。
デリバリーのピザや買い込んだ飲み物、食べ物での簡単なパーティを終えて、愛佳ちゃんから順にプレゼントを渡していく。
そうして僕自身の番になり、目の前に小春ちゃんがやってくる。

「せんぱい?」

両手になにも持っていない僕へ訝るような愛ちゃんの声。
小春ちゃんは大きな瞳で真っ直ぐに僕を見ている。

「僕からのプレゼントはここにはないんだ」
「え?」
「おいで」

そう誘ってドアを開ける。
小春ちゃんの後についてこようとするメンバーへ「小春ちゃんだけだよ」って笑うと、一斉に不満を訴える声が上がる。
呆れた口調で「誰の誕生日?」と問い掛けたら瞬く間にその声が止んだ。
まあ何人かは言いたいことがありそうな顔だったけれど。
それは後でフォローするとして、今は小春ちゃんに意識を戻す。

677 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:25

廊下へ出たところでこっちを見て待っている小春ちゃんの背を押して、一つ隣の部屋の扉で立ち止まる。

「どうぞ、お嬢さま」

大仰な仕草で小春ちゃんに、開けた扉の奥を指し示す。
照明だけがつけられたテーブル一つしかない部屋へ小春ちゃんが入ったことを確かめて、後へ続いた僕は後ろ手に扉を閉める。
その音で振り向いた小春ちゃんが不思議そうな表情を見せたそのとき、なにも言わずに照明を落とした。

「きゃあ!?」

突然の暗闇に小春ちゃんの悲鳴が重なった。
僕は闇の中で感覚的に伸ばした手で小春ちゃんを捉える。

「やあっ、せんぱい!? 怖いよおっ」
「大丈夫だから。すぐそばにいるから。ね? 落ち着いて」
「っ……、せんぱい」

よほど怖かったのかしがみついて離れない小春ちゃんを片手に、空いた手でそっとスイッチを探った。
指先に触れた感触でそれがそうだと解り、スイッチを入れると僅かな光源となる。
まったく見えなかった小春ちゃんの顔が見えて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
その大きな瞳にうっすらと涙を浮かべ、僕の腕を掴んだ手が強ばっていることも解ったから。

「ごめん。ちょっとやりすぎた」
「…せんぱぁぃ」

顔を上げた小春ちゃんが僕を見つけ語尾が弱く震える。
驚かせたいとは思ったけれど怖がらせるつもりなんて無かった。

678 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:26

「ごめんね。ちょっと驚かせようとした。ホント、ごめん」
「…せんぱい?」
「見て」
「え? ……うわぁ」

僕に釣られるように視線をあげた小春ちゃんが感嘆の声を上げる。

「星だぁ」
「うん。なにがいいかなって考えたとき、この前した話を思いだしたんだ」
「この前? あっ」
「小春ちゃん専用の星たち」
「嬉しいです。ありがとうございます」

僕の腕を掴んでいた手から力が抜けて、いつの間にか優しく絡めるように変わっていた。
その手が不意にクンと引かれる。

「せんぱい?」
「うん?」
「小春専用なんですよね?」

小春ちゃんが満天の星を見上げてそう確認してきた。
言うまでもなく、それは小春ちゃんのためのものだから。

「そうだよ」
「なら……こうやってる小春の横は、せんぱい専用です」
「…そっか。うん、嬉しいね」
「嬉しいですかあ?」
「うん。嬉しいよ」
「せんぱいが嬉しいと小春も嬉しいです」

そう笑う小春ちゃんはこの部屋を埋める星たちでは到底敵わない。
作られたそれではない自然な、素敵な笑顔を浮かべていた。

679 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/17(火) 02:27

小春おめ

680 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 22:59

「うーん」

いつもの楽屋。
大きな鏡を前に、前を向いたり横を向いたり。
いつも以上に、自分の身なりが気になっていた。

とある番組の収録。その都合で、スーツを着ることになった。
仕事でまともにスーツを着るのなんて、初めてかもしれない。
最初は、番組の方で用意してくれることになっていたけど。
丁度よい機会だと思って、自分で新調することにした。
仲の良いスタイリストさんに、いろいろアドバイスをもらって。
そうして完成した一着を今、身につけている。
注文したときには、それなりに納得したつもりだった。
しかし、ひとりでこうして着てみると、どうにも違和感がある。
普段、滅多に着ないこともあるんだろうと思う。でも。

「…着られてる、かな」

自嘲と諦めの混じった言葉を吐いて、鏡から離れた。

681 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:00

コンコン

みんなの楽屋への入り口。来訪を告げる。

「遊びに来ませんか?」

高橋さんからの誘いの電話。
今の自分の格好のことをすっかり忘れて、
いつもの調子で応じてしまったことを少し後悔していた。

「笑われちゃうかな」

さっき鏡の前で抱いた感情をそのままに、ぼやく。
と、目の前の扉が開いて高橋さんが現れた。

「せんぱい?」
「高橋さん」
「あ…」
「…来たよ」
「………」
「…高橋さん?」
「………」

言葉を発しない高橋さん。その視線が上下に動く。

682 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:01

「…変?」
「えっ?」
「いや、服」
「あ、やっ」
「高橋さん黙っちゃったから」
「………」
「やっぱり、おかしかったかなって」
「いや、あの。ほやなくてっ」
「ん?」
「ちょっと、びっ、びっくりしてしもうて」
「…そっか」
「はい…ごめんなさい」
「そんな。謝らないでよ」
「はい…ごめんなさい」
「いや、だから」
「あ…はい」
「うん」
「あ。とりあえず、どうぞ?」
「…うん。お邪魔します」

…びっくりした、か。
それはそれで、ちょっとショック…かも。

683 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:01

高橋さんに続いて、楽屋の中に入る。

「せんぱいのスーツ姿って、初めてかも」
「だよね」
「はい。なんか、新鮮ですね」

高橋さんが改めて、僕の方を眺めてくる。

「せんぱい?」
「なに?」
「クールビズ、ですか?」
「え?」
「だって」

高橋さんはそう言って、手を何かつまむような形に変える。
それを自分の首にあて、次いで胸元の方へと動かしていった。

「ああ、ネクタイ?」
「はい」
「まだ時間あるから、後でしようと思って」
「あ、そっか」
「うん」
「………」

少し考える風の高橋さん。次の言葉を待った。

684 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:02

「…せんぱい?」
「なに?」
「その、よかったら」
「うん」
「わたしが…締めて、あげましょか?」
「え?」
「ネクタイ」
「………」

控えめな、そしてためらいがちな提案。
即答できずに黙っている僕に、高橋さんが続ける。

「…イヤ、ですか?」
「あ、いや」
「………」
「嫌ってことは、ないんだけど」
「したら」
「…じゃあ、お願いできる?」
「はい!」
「持って来るから、ちょっと待ってて」
「はい、待ってます」

…まあ、いっか。
結局押し切られた形になってしまったけど。
嬉しそうな高橋さんを見て、そう思った。

685 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:02

「よろしくね」
「はい、せんぱい」

高橋さんは、僕が差し出したネクタイを受け取ると、
僕のすぐ目の前まで寄ってきて、シャツの襟に手を添えてきた。

とても慎重な、高橋さんの手つき。
慣れていないというのも、もちろんあるんだろうけど。
とても大切に扱われているように感じられて、すごく心地よかった。
それと。

…ドキドキする。
なんだろう、これ。よく分からない。困った。
と、とにかく。気づかれたら、すごく気まずい。きっと。
そう思って、動揺を表に出すまいとした。その矢先。
僕の首に手を回したまま、高橋さんの動きが止まる。

「せんぱい」
「な、なに?」
「わたし、さっき嘘つきました」
「さっき、って?」
「ドア開けたとき。せんぱい見て、びっくりしたって」
「ああ、あれ」
「はい。でも、びっくりしたんやなくて」
「うん」
「見惚れちゃってた。わたし」
「…え?」
「かっこいいです。せんぱい」

686 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:02

「………」

上目遣いの高橋さんから投げられる視線と、
ストレートど真ん中な褒め言葉。
さすがに照れくさくて、否定してしまいたくなる。

「また…冗談ばっかり」
「んなことないです。それとも」
「…え?」
「せんぱいは、わたしが嘘つきだって。そう思うてるんですか?」
「いや、そんなこと」
「はい。ホントですから」
「………」
「せんぱい?」
「…うん。ありがとう」

笑みを浮かべる高橋さん。再び手が動き始める。
そして。

「この前と、逆になりましたね」
「この前って?」
「ほら、レッスン場」
「…あっ」
「ね」
「…そうだね」
「はい。お返しです、せんぱい」

高橋さんの笑顔。
さっきのより何等級も、明るく輝いていた。

687 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/20(金) 23:04

…ベタなネタで、なんとも頂けないですが。
>>643-645 をご覧になってから戻ってきてくださると、なお良しです。
匿名さん、設定拝借しました(^^;

>>671-674
さゆが積極的ですね、最近(^^)

>>676-678
また使ってくださったようで。嬉しいですね、こういうの。
小春ちゃんも喜んでくれたようで、よかったよかった。

688 :名無し娘。:2007/07/21(土) 02:45
ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!!

689 :『やっぱり好きで……』:2007/07/25(水) 00:10

「ちょっとお」

薄いピンクのルージュがひかれたくちびるがそう動いていた。
言葉としては伝わってくる。けれどそれが意味を成すには、僕はあまりに……驚いていた。
いや、見惚れていたという方が正しいかもしれない。

「どした? だいじょーぶかい? これ」
「や、どうなんでしょ」
「飯田さんみたいんなっちゃってますね」

近くにいた二人と話している声がする。
新垣さんと愛ちゃん、だったと思う。

「おーい。戻っといで」

ぶんぶんと小さな手が目の前で振られ、そのままぺちりと僕の頬を刺激した。
そのあまりにやわらかな感覚が僕を現実へと引き戻す。

690 :『やっぱり好きで……』:2007/07/25(水) 00:11

「あっ……」
「あ、帰ってきた? カオリみたくなったかと思ったっしょ」
「や、あの…、はあ」
「久しぶりに遊びにきたのにさ。人の顔見ていきなりどっかいっちゃうんだもん。
 なあんかもう、安倍さんちょっとショックだよ」

ふいに楽屋へ……、僕が遊びにきていた娘。の楽屋へ顔を出した安倍さんが、拗ねた演技で僕を責める。
芝居だと解っていながら、僕はその責める仕草にドキリとさせられてしまう。

「だ、だって安倍さん……。その……」
「なーに? 言ってごらん」
「その……、髪」

やっとそう口にした僕へ、安倍さんがクスクスと笑った。。
リズムでも取るように小さく身体を揺らし、「切っちゃった」と、ただ一言。

691 :『やっぱり好きで……』:2007/07/25(水) 00:14

「はあ…。ビックリ、しました」
「そんだけ?」
「っと、あ〜……、可愛い、です」
「年上に向かって可愛いはないっしょ。でも……ほんと?」
「はい。ホントに。やっぱり僕の中の安倍さんはショートのイメージが強くて」

不満げだった口調が瞬く間に変わった。
雲間から光を差す太陽みたいにあったかい笑顔で。

「そっか。うん。ならよかった」
「え?」

良かった? なら?
その言葉に繋がる“元”が思い浮かばず困惑した僕へ、少しからかいを滲ませた安倍さんが笑う。

「ん。なんでもないよ」
「ちょ…、ええ?」
「はい。いいから。思い出さなくて」

少し慌てた安倍さんがそう言った。
思い出す……?
そしてさっき自分で口にした言葉が。

「あっ! でも…」

まさか、と。
一つだけ思い当たったシーンが僕の口を動かし、安倍さんは何とも言い難い表情になる。

「僕……、ですか?」
「……どうかなあ」

曖昧な、どうとでもどうにでもとれる呟きを残して視線を逸らせた。
その横顔が嬉しそうに見えたのは、それに短くなった髪からのぞく耳朶が赤く見えたのは、僕の気のせい……なのかな?

692 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/25(水) 00:14

時期的なことは脳内で補正してください(^_^;)

>>680-686 統計さん
スーツかあ、なるほど。
いいなあ…不馴れな愛ちゃんにネクタイ締めてもらう……はぅ

うまく使っていただいたので、こちらもまた虎視眈々と狙ってようと思います(笑)

693 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:32

「はいっ、できました!」
「うん、ありがとう」

首まわりにほどよく収まったネクタイを感じつつ、
高橋さんにお礼を伝えてから、ほどなく。

「おはようございまーす」
「あ、おはよ」
「おはよう、亀井さん」
「…あーっ!」

…参ったな。
この調子じゃ、他のみんなにも同じ反応をされそうだ。

「せんぱい、スーツじゃないですか」
「う、うん」
「へぇ…」
「………」
「うん。とっても素敵です、せんぱい」
「あ、ありがと」

笑みを浮かべ、軽い調子でそう話す亀井さん。
高橋さんとの違いに、少し戸惑いを覚える。

694 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:32

「…けど」
「え?」
「曲がってないですか?」
「なにが?」
「ネクタイ」

亀井さんが、僕の首元に顔を近づけてくる。

「そんなこと、ないと思うけど」
「…せんぱい?」
「うん?」
「ちょっと、そのままでいてください」

そう言いながら亀井さんは、僕の返事を待たずに。
高橋さんが締めてくれたばかりのネクタイを、
するすると、ほどき始めてしまった。

「あ…」

高橋さんの口から漏れた、弱々しい声。
その意味が痛いほどよく分かって、慌てる。

「ち、ちょっと」
「せんぱい、そのままです」
「いや、あの」
「………」
「あ、高橋さん!」

もはや聞く耳持たずの亀井さんと、
楽屋の出口へと駆けていく高橋さん。
結局僕は…2人とも、止めることができなかった。

695 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:33

「できましたー」
「あ、ありがと…」

狼狽えつつも、とりあえず、お礼の言葉を返す。
一方亀井さんは、とても満足げな表情。
けど、僕の前から離れようとはしない。

「…亀井さん?」
「えへへ」
「な、なに?」
「…えいっ」
「わ!」

かけ声とともに、僕の胸に飛びついてくる。
思いも寄らぬ展開に、その場で固まってしまった。

「か、亀井さん?」
「………」
「急に、ど、どうしたの?」
「…せんぱい」
「………」
「すっごく、ドキドキしてますよ?」

僕の胸に耳をあてている亀井さんが、ささやく。
鼓動は、意志に反して大きくなるばかりだった。

696 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:34

ようやく離れてくれた亀井さん。
さっきの行動の理由を、説明してくれた。

「前に、読んだことがあるんです」
「…なにを?」
「女の人にネクタイを締めてもらうとドキドキする、って」
「………」
「ちょっと、試したくなっちゃいました」
「それで、あんなこと?」
「はい。ごめんなさい、いきなりで」
「………」
「でも、よかった」
「え?」
「せんぱい、ちゃあんとドキドキしてくれました」
「………」

もはや隠しようのない事実と、
頬の染まった亀井さんから注がれる視線。
気まずさと恥ずかしさの大波が、僕に押し寄せる。

「で、でもさ」
「はい?」
「いきなり抱きつかれたら、普通ドキッとするでしょ?」
「あ、そっかあ」
「…うん」
「…でも」
「な、なに?」
「えへへへ」

そんなのどうでもいいんです、とでも言いたげに。
亀井さんの表情はさっきと全然変わらなくて。
理屈をこねることで試みた、わずかばかりの抵抗は
さざ波を起こすことすら、できなかった。

697 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:35

「…あ」
「はい?」
「だとしたら、さ」
「はい」
「ネクタイが曲がってた、っていうのは?」
「はい。ちょっと…嘘ついちゃいました」
「…やっぱり」

瞬間、僕の意識は切り替わる。

「あっ、せんぱい?」
「ごめん、ちょっと出てくる!」

698 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:36

楽屋を飛び出していった高橋さん。
幸い遠くには行ってなくて、すぐに見つけることができた。

「高橋さん…」
「…せんぱい」
「…うん」
「ごめんなさい。わたし、へたっぴで」
「高橋さん、違うんだ」
「え?」
「亀井さんも、ネクタイ締めてみたかったんだって」
「………」
「曲がってる、っていうのは口実だったみたい」
「…そうですか」
「うん。だから」
「………」
「ね」
「…はい」

予想に反して、高橋さんの表情は晴れきらない。
まだなにか、気にしていることがあるんだろうか。

699 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:36

「亀井さんのこと…許してあげて」
「許すもなんも…怒ってなんかいません」
「…ホントに?」
「はい。大切な仲間やし」
「…そうだね」
「はい。けど」
「え?」
「ライバルでもあるんやって、思いました」
「…ライバル?」
「…はい」
「………」

その言葉の意味、なんとなく、分かれていない気がする。
そう思って、真意を尋ねようとしたけど。

「せんぱい」
「う、うん」
「戻りましょ」

高橋さんは、その機会を与えてくれなかった。

700 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:46
>>680-686 の続きです。

>>688
萌えていただけたようで、なによりです。

>>689-691
なんか、待ちかまえていたかのようなお話ですね。
遂に髪キッタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! という感じでしょうか

701 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/26(木) 19:38

>>693-699 統計さん
続いてくれてありがとー。
そうですか、ライバルとして認識しましたか(^_^;)
読みながら自分の想像(妄想)したのとは違う流れになったのが素敵でした。

さて、なんか考えるぞー。

702 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:14

とある病院の、待合室。

何かを見ているようで、何も見ていない。
誰かを待っているようで、誰も待っていない。
備え付けの長椅子に座ったまま、呆けたように。
去来する記憶と感情に呑まれ、流されていた。

703 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:15

ハロモニの収録。
最後に、ちょっとだけ遅れてやってきた亀井さん。
挨拶をと思って顔を見た途端、不安になる。
前にも見たことのある、調子が悪いときの表情だった。

「亀井さん?」
「…おはようございます」
「大丈夫?」
「え?」
「調子、悪いでしょ?」
「………」
「無理しない方が、いいよ?」
「…せんぱい」
「ん?」
「ありがとう」
「…うん」
「でも大丈夫。平気です」
「………」

心配させまいとするその言葉、予想はしてたけど。
安心することなんて、できるわけなかった。

704 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:15

案の定、亀井さんの体調は悪くなる一方に見えて。
見るに見かねた僕は、番組のスタッフさんに
休ませてあげてほしい、とお願いした。
しかし。

スタッフさん達は、いい顔をしてくれない。
今後の予定とか、いろいろ都合があったんだろう。
当然だ。そんなの、分かっているはずだったのに。
そのときの僕は、我慢することができなくて。
ちょっとした言い争いにまで、発展させてしまった。
大丈夫だから、と口では僕を制する亀井さん。
けど、結局収録どころではなくなってしまって、
近くの病院で診てもらうことになった。

先に収録の終わった僕は、単身病院へと駆けつける。
亀井さんは眠っていて、覚醒するにはまだかかるから、
今日の面会は諦めた方が良いとのことだった。
看護師さんがたまに通るだけの、静かな待合室。
備え付けの長椅子に腰掛ける。と。
さっきまでの記憶や感情が、どっと吹き出してきた。

705 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:16

…しばらくして。

「せんぱい?」
「あ、新垣さん」
「…カメは?」
「落ち着いたみたい。今、眠ってるって」
「そうですか」
「収録、終わった?」
「はい。他のみんなは、別の仕事があって」
「…そっか」
「はい」
「………」
「あの。隣、いいですか?」
「あ、うん」

僕の隣に腰掛けてきた新垣さん。
少しの沈黙を挟んでから、言葉を継いできた。

「…びっくりしちゃいました。さっき」
「ん?」
「せんぱい、珍しく怒ったから」
「………」
「………」
「…だって、さ」
「はい?」
「ライブとかなら、多少無理するのも分かるけど」
「………」
「あの番組で。あの内容で」
「………」
「無理させる必要なんて、あるの?」
「…せんぱい」
「そう思ったら…抑え、きかなくなって」

706 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:16

思わず吐露してしまった今の気持ちと、
その毒にあてられて、明らかに困った風の新垣さん。
しまったと思い、慌てて取り繕いの言葉を探す。

「…ごめん」
「え?」
「こんなこと言っちゃ、いや、思っちゃ駄目だよね」
「………」
「それと、もうひとつ謝らないと」
「…なんですか?」
「やりづらくなっちゃったでしょ。収録」
「………」
「ホント…ごめん」
「せんぱい…」
「………」
「せんぱい?」
「ん?」
「なんで…震えてるんですか?」
「…あ」

全然、気がつかなかった。でもその理由は。

「…偉い人たちに、生意気言っちゃったし」
「………」
「どうやって責任とろう、なんて考えたら」
「………」
「ちょっと、ビビっちゃったかも」
「………」

戸惑いの表情を隠さずに、新垣さんが僕を見つめる。
弱ったところを見せてしまったことを、ひどく悔いた。
そして、今度はどう言い訳しようかと。考え始めた、その時。

707 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:16

「せんぱい」
「…うん」
「その、責任の取り方とか」
「………」
「そもそもせんぱいに責任があるのか、とか」
「………」
「そういうの、よく分からないですけど。でも」

言いながら、新垣さんは僕の両手を取って。
自分の両手で、そっと包み込んでくる。

「…新垣さん」
「その震えは、止めてあげます」
「………」
「わたしの、責任で」
「………」

手から伝わる、新垣さんの体温。
心の中の、チクチクとした何かが溶けていくような感覚。
不思議な、けど心地良いそれに、少しの間身を委ねていた。

708 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:17

「新垣さん、ありがとう」
「もう、大丈夫…ですか?」
「うん」
「…よかった」
「え?」
「せんぱい、いつもの顔に戻ってくれました」

そう言う新垣さんも、いつもの笑顔に戻っていて。
僕も胸をなで下ろしかけたんだけど。

「…それにしても」
「うん?」
「カメがちょっと、羨ましいかも」
「羨ましい?」
「…はい」
「………」
「せんぱい?」
「なに?」
「もし、わたしがカメみたいになったら。せんぱいは」
「………」
「………」
「…新垣さん?」
「…いえ」
「え?」
「なんでも、ないです。ごめんなさい」

そう言って、何故か謝る新垣さんの表情は、髪に隠れて。
窺い知ることは、できなかった。

709 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/07(火) 21:21

前々回のハロモニを見て、考えました。
完全に時機を逸してますが。

710 :名無し娘。:2007/08/07(火) 22:41
ガキさぁぁーん・・・

711 :−笑顔の君−:2007/08/08(水) 23:48

亀井さんが、入院した次の日。お見舞いのフルーツを持って再び病院に行くと、
亀井さんに似た女性が僕に会釈した。僕も、不思議な感じで会釈する。

「どうも、亀井の母親です。いつも、お世話になってます」
「あ、こちらこそ、亀井さんにはいつもお世話になってます」

慌てて再び頭を下げる。亀井さんのお母さんは、亀井さんに似ていてお母さんには見えなかった。

「あの子今寝ちゃってね」
「あ、そうなんですか? じゃあ、これ亀井さんに…」
「●●くん、ありがとうね。そうだ、ちょっと時間いいかしら?」
「は、はい。今日はオフなんで…」
「じゃあ、そこの喫茶店でいいかしら?」

病院内にある喫茶店に入って、向き合って座る。なんだか、ちょっと恥ずかしかった。

712 :−笑顔の君−:2007/08/08(水) 23:49

「●●くん」
「はい」

亀井さんのお母さんが僕に深々と頭を下げる。

「あ、あの・・・」
「絵里のこと、本当にありがとうございます。●●くん、スタッフさんに言ってくれたんですって?」
「そ、そんな・・・でも、止めることできませんでした・・・」
「絵里ね、あなたのこと話すときすっごく笑顔なの。先輩から今日お菓子もらったぁ〜だとか
 先輩に丁寧にダンス教えてもらったとかね」

亀井さんのお母さんの話を聞くたびに、亀井さんの笑顔が想像できた。

「今日もね、私に『先輩が、娘。に居てよかった。絵里、先輩の後輩でよかった』って笑顔で・・・」

僕は、その言葉に涙がポロポロと頬を伝うのがわかった。お母さんから、ハンカチを渡される。

「グスッ…すいません。すっごく嬉しくて…。・・・あの絵里さんに伝えてくれませんか?
 僕は、君が後輩で本当によかったと思ってるよ。早く笑顔で僕たちの…仲間の所に戻ってきてくれって」
「はい。伝えておきます」
「あ、すいません。ハンカチ・・・洗って返します」
「いいのよぉ〜、気にしないで」
「じゃあ、僕そろそろ・・・」
「ありがとうね」
「こちらこそ、ありがとうございました」

亀井さんのお母さんに深々と頭を下げて病院を去る。
お見舞いに行ったはずなのに、なぜか僕が元気を貰ったそんな一日だった。


絵里、君の笑顔が大好きです。

713 :TACCHI:2007/08/08(水) 23:53
すいません、パソコン壊れてしまい更新できませんでした・・・
亀井さんのお母さん、初登場ですw

>>709 統計さん
コラボさせていただきました。しかも、亀井さんも想像でしか登場しないという・・・(汗)
ガキさんの話も一瞬考えたんですが、こっちの話の方が話が先にできたんで、
こちらを載せましたが、いかがでしたでしょうか?

ハロモニ最近見てないなぁ〜。見なきゃ・・・

714 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/09(木) 00:22

>>713
これはこれは、お久しぶりです。
で…こういうの、本当に嬉しいです。ありがとうございます
ガキさんバージョンも、是非(^^)

715 :名無し娘。:2007/08/09(木) 08:22
おか絵里

716 :MONIX ◆XBvOzcZfYg :2007/08/10(金) 02:39
( M _ O)<恥ずかしながら帰ってまいりました・・・
       リハビリ1発目、いかせて頂きます
       (リハビリで大転倒する可能性ありですが・・・)

717 :-仲間外れ???-:2007/08/10(金) 02:40

秋のツアーに向けてリハーサルが始まった頃・・・

リハが終わって楽器を片付けて最後に楽屋に戻った僕を待っていたのは
何とも不思議な光景だった。まず、楽屋に入る扉の前にはジュンジュンが立っている、
そしてその足元には僕のバッグと大きなビニール袋がひとつ・・・

 「ジュンジュ〜ン、何してんの???」

僕はジュンジュンに尋ねる

 「あ、●●センパイ、これ」

僕はジュンジュンが指差す楽屋の扉を見る、するとそこには貼り紙が1枚貼ってある

---●●先輩、入室禁止!!(着替えには隣の部屋を使って下さい)---

の一言、それからいたる所に普段みんなが書いているイラストが書いてあった・・・

 「え〜???なんだこれ???」

思わず僕はそう呟いてしまった。
ジュンジュンの方を見ると、どう説明していいのかわからないような顔をしている・・・
それは恐らく言葉の方の問題であって、楽屋の中で何が行われているのかは知っているのだろう
ジュンジュンをここで問い詰める意味はないし、よくよく考えれば年頃の女の子の集団である
モーニング娘。・・・・・・・・・その中で唯一の男である僕抜きで話したい事もあるのだろう・・・
そうなると・・・・・・・・・ジュンジュンは中にいなくていいのか・・・・・・う〜ん???

考えれば考えるほど頭が痛くなってきた僕は半分諦めのような返事をジュンジュンに伝えた

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