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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜3

647 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:10

コンコン

目の前の扉をノックする。
久しぶりのせいか、少し緊張していた。

「はーい」

中から声が返ってくる。久住さん…だな。

「あっ、せんぱい」
「うん」
「………」
「………」
「………」
「…ごめん、お邪魔だった?」
「あー、違います違います。そうじゃなくて」
「…じゃなくて?」
「えーっと」
「………」
「いや、あのっ。まー、どーぞ?」

…ホントに、いいのかな?
ちょっとだけ、不安になったけど。
とりあえず、中に入れてもらうことにした。

648 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:11

「あれ、ひとり?」
「はい。みんなは、まだです」
「そうなんだ」
「はい」
「それとさ」
「はい?」
「電気つけないで、どうしたの?」
「あー、ちょっと」

そう言って、窓の方へ歩いていく久住さん。
後に続いて久住さんの横に並び、様子をうかがう。
視線は、空の方へと向かっていた。

「…星?」
「はい。暗くした方が見えるかなー、なんて」
「そういえば七夕だったね、今日」
「はい。なので」

そう言って、暗い空に目を凝らす久住さん。
星、か。そういえば久しく見てなかったな。
にわかに興味が湧いてきて、久住さんに倣うことにした。

けど。

649 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:11

「…見えないですねー」
「ちょっと…曇ってない?」
「やっぱり?」
「…うん」
「あーあ」

残念そうに呟く久住さん。
でもその表情は、そんなことも楽しんでいるように見えた。

「せんぱい?」
「なに?」
「織姫って、あの辺にある星ですか?」

太陽が沈む方向の、低い空を指差す久住さん。

「…うーん、違う、かな」
「違うんですか?」
「うん」
「この前、晴れてるときに見たら」
「うん」
「あの辺にすごく明るい星があったから、そうかなって」
「そんなに、明るかった?」
「はい。夕方で、まだ結構明るかったのに」
「うん」
「はっきり見えました」

夕方の西の空に、とても明るい星。おそらくは。

650 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:12

「金星、じゃないかな」
「きんせい?」
「うん」
「なんですか?それ」
「えーっと」
「………」
「織姫星は太陽と一緒で、自分で光るんだけど」
「はい」
「金星は、地球の仲間なんだ。太陽の周りをぐるぐる回ってて」
「はい」
「太陽からの光を受けて、輝く」
「へー」
「『水金地火木土天海冥』って、聞いたことある?」
「あー、それあります」
「『金』は、金星のことね」
「…そうなんだ」

…おもしろくない、よな。
ちょっと、考え込む風の久住さんを見ながら、後悔する。
こういう蘊蓄って、どういう風に言えばうまいんだろうか。
同じく考え込む僕に、久住さんが口を開いた。

651 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:12

「ここのつ、あるんですか?」
「…え?」
「その、地球の仲間」
「うん」
「………」
「久住さん?」
「…小春たちと、一緒ですね」
「………」

…なるほど、そういうことか。

「…そうだね。9人だもんね」
「はい」
「………」

…確かにそうなんだけど、さ。
ニコニコしている久住さんとは対照的に、
僕の表情は曇ったに違いなかった。

652 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:13

「それでー」
「………」
「せんぱいは太陽」
「………」
「なんです」
「…は?」

…やられた。
会心の表情で、久住さんが僕を見つめる。
忘れてたわけじゃ、なかったんだ。

「…太陽?」
「はい」
「………」
「小春たちは」
「…うん」
「せんぱいの周りを回ってるんです」
「………」
「そうして、せんぱいから光をもらって、輝く」
「………」

言いながら、久住さんは僕の手を取って。
僕の周りをくるくると、公転しはじめた。
そんな久住さんにあわせて、僕も自転をはじめる。

653 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:13

「で、でもさ」
「はい?」
「太陽って、他にいなくない?」
「…誰ですか?」
「え、えっと」
「………」
「つ、つんくさん、とか」
「えー」

明らかに不満顔の久住さん。そ、そうなんだ…

「せんぱいが」
「…僕?」
「はい。せんぱいが、いいです」
「…でも、なんで?」
「うーん」
「………」
「………」

不意に、久住さんの公転が止まる。
飽きたのかと思い、手を離そうとしたけど。
久住さんの僕の手を握る力は、弱くならなかった。
うつむき加減の久住さん。真剣な表情に変わっている。

654 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:14

「せんぱい」
「うん」
「その、さっき、ごめんなさい」
「え、何?」
「さっき、ドア開けたとき」
「………」
「せんぱいが来るの、久しぶりだったから慌てちゃって」
「………」
「ぜんぜん邪魔なんかじゃないのに」
「そんなの…気にしないで」
「…はい」
「…うん」
「それと」
「なに?」
「さっきの星の話。すごく、ためになりました」
「そんなに大したこと、話してないよ?」
「そんなことないです。ああいう話って」
「うん」
「せんぱいからしか、聞けないから」
「………」
「だから…せんぱい」
「…うん」
「これからも、いろいろ教えてください」

さっきの…久住さんのたとえ。
その意味が、少しだけ分かったような気がした。
ちょっと、買いかぶりすぎだと思ったけど。でも。
できる限りのことはしてあげようと、そう思い直して。

「僕で、いいのなら」
「…もちろんです」

久住さんは、いつもの笑顔に戻ってくれた。
そして、また僕の周りを回り始める。

「く、久住さん?」
「はい?」
「ち、ちょっと」
「これ、なんかよくありません?」

僕が目を回すまで、久住さんは止まってくれなかった。

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