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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜3
- 693 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:32
-
「はいっ、できました!」
「うん、ありがとう」
首まわりにほどよく収まったネクタイを感じつつ、
高橋さんにお礼を伝えてから、ほどなく。
「おはようございまーす」
「あ、おはよ」
「おはよう、亀井さん」
「…あーっ!」
…参ったな。
この調子じゃ、他のみんなにも同じ反応をされそうだ。
「せんぱい、スーツじゃないですか」
「う、うん」
「へぇ…」
「………」
「うん。とっても素敵です、せんぱい」
「あ、ありがと」
笑みを浮かべ、軽い調子でそう話す亀井さん。
高橋さんとの違いに、少し戸惑いを覚える。
- 694 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:32
-
「…けど」
「え?」
「曲がってないですか?」
「なにが?」
「ネクタイ」
亀井さんが、僕の首元に顔を近づけてくる。
「そんなこと、ないと思うけど」
「…せんぱい?」
「うん?」
「ちょっと、そのままでいてください」
そう言いながら亀井さんは、僕の返事を待たずに。
高橋さんが締めてくれたばかりのネクタイを、
するすると、ほどき始めてしまった。
「あ…」
高橋さんの口から漏れた、弱々しい声。
その意味が痛いほどよく分かって、慌てる。
「ち、ちょっと」
「せんぱい、そのままです」
「いや、あの」
「………」
「あ、高橋さん!」
もはや聞く耳持たずの亀井さんと、
楽屋の出口へと駆けていく高橋さん。
結局僕は…2人とも、止めることができなかった。
- 695 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:33
-
「できましたー」
「あ、ありがと…」
狼狽えつつも、とりあえず、お礼の言葉を返す。
一方亀井さんは、とても満足げな表情。
けど、僕の前から離れようとはしない。
「…亀井さん?」
「えへへ」
「な、なに?」
「…えいっ」
「わ!」
かけ声とともに、僕の胸に飛びついてくる。
思いも寄らぬ展開に、その場で固まってしまった。
「か、亀井さん?」
「………」
「急に、ど、どうしたの?」
「…せんぱい」
「………」
「すっごく、ドキドキしてますよ?」
僕の胸に耳をあてている亀井さんが、ささやく。
鼓動は、意志に反して大きくなるばかりだった。
- 696 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:34
-
ようやく離れてくれた亀井さん。
さっきの行動の理由を、説明してくれた。
「前に、読んだことがあるんです」
「…なにを?」
「女の人にネクタイを締めてもらうとドキドキする、って」
「………」
「ちょっと、試したくなっちゃいました」
「それで、あんなこと?」
「はい。ごめんなさい、いきなりで」
「………」
「でも、よかった」
「え?」
「せんぱい、ちゃあんとドキドキしてくれました」
「………」
もはや隠しようのない事実と、
頬の染まった亀井さんから注がれる視線。
気まずさと恥ずかしさの大波が、僕に押し寄せる。
「で、でもさ」
「はい?」
「いきなり抱きつかれたら、普通ドキッとするでしょ?」
「あ、そっかあ」
「…うん」
「…でも」
「な、なに?」
「えへへへ」
そんなのどうでもいいんです、とでも言いたげに。
亀井さんの表情はさっきと全然変わらなくて。
理屈をこねることで試みた、わずかばかりの抵抗は
さざ波を起こすことすら、できなかった。
- 697 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:35
-
「…あ」
「はい?」
「だとしたら、さ」
「はい」
「ネクタイが曲がってた、っていうのは?」
「はい。ちょっと…嘘ついちゃいました」
「…やっぱり」
瞬間、僕の意識は切り替わる。
「あっ、せんぱい?」
「ごめん、ちょっと出てくる!」
- 698 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:36
-
楽屋を飛び出していった高橋さん。
幸い遠くには行ってなくて、すぐに見つけることができた。
「高橋さん…」
「…せんぱい」
「…うん」
「ごめんなさい。わたし、へたっぴで」
「高橋さん、違うんだ」
「え?」
「亀井さんも、ネクタイ締めてみたかったんだって」
「………」
「曲がってる、っていうのは口実だったみたい」
「…そうですか」
「うん。だから」
「………」
「ね」
「…はい」
予想に反して、高橋さんの表情は晴れきらない。
まだなにか、気にしていることがあるんだろうか。
- 699 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/26(木) 00:36
-
「亀井さんのこと…許してあげて」
「許すもなんも…怒ってなんかいません」
「…ホントに?」
「はい。大切な仲間やし」
「…そうだね」
「はい。けど」
「え?」
「ライバルでもあるんやって、思いました」
「…ライバル?」
「…はい」
「………」
その言葉の意味、なんとなく、分かれていない気がする。
そう思って、真意を尋ねようとしたけど。
「せんぱい」
「う、うん」
「戻りましょ」
高橋さんは、その機会を与えてくれなかった。
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