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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜3

676 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:24

連日の――正しくは一日空いてるけれど――誕生パーティだった。
一昨日のさゆのバースディは、翌日のスケジュールに余裕があったおかげでそれなりのものだったけれど、今日、小春ちゃんのそれは仕事終わりの控え室を借りた簡素なものになってしまった。
それは前から解っていたことだけど、たった二日違いで、しかも小春ちゃんの方が年下なのに、我慢を強いているようで可哀想だと感じていた。
もちろん小春ちゃんはそれに不平を言うわけではないし、表情に出すこともないけれど、きっと淋しく感じているに決まっている。

だから。
少しでも喜んでほしくて、ほんの些細なサプライズを用意した。
デリバリーのピザや買い込んだ飲み物、食べ物での簡単なパーティを終えて、愛佳ちゃんから順にプレゼントを渡していく。
そうして僕自身の番になり、目の前に小春ちゃんがやってくる。

「せんぱい?」

両手になにも持っていない僕へ訝るような愛ちゃんの声。
小春ちゃんは大きな瞳で真っ直ぐに僕を見ている。

「僕からのプレゼントはここにはないんだ」
「え?」
「おいで」

そう誘ってドアを開ける。
小春ちゃんの後についてこようとするメンバーへ「小春ちゃんだけだよ」って笑うと、一斉に不満を訴える声が上がる。
呆れた口調で「誰の誕生日?」と問い掛けたら瞬く間にその声が止んだ。
まあ何人かは言いたいことがありそうな顔だったけれど。
それは後でフォローするとして、今は小春ちゃんに意識を戻す。

677 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:25

廊下へ出たところでこっちを見て待っている小春ちゃんの背を押して、一つ隣の部屋の扉で立ち止まる。

「どうぞ、お嬢さま」

大仰な仕草で小春ちゃんに、開けた扉の奥を指し示す。
照明だけがつけられたテーブル一つしかない部屋へ小春ちゃんが入ったことを確かめて、後へ続いた僕は後ろ手に扉を閉める。
その音で振り向いた小春ちゃんが不思議そうな表情を見せたそのとき、なにも言わずに照明を落とした。

「きゃあ!?」

突然の暗闇に小春ちゃんの悲鳴が重なった。
僕は闇の中で感覚的に伸ばした手で小春ちゃんを捉える。

「やあっ、せんぱい!? 怖いよおっ」
「大丈夫だから。すぐそばにいるから。ね? 落ち着いて」
「っ……、せんぱい」

よほど怖かったのかしがみついて離れない小春ちゃんを片手に、空いた手でそっとスイッチを探った。
指先に触れた感触でそれがそうだと解り、スイッチを入れると僅かな光源となる。
まったく見えなかった小春ちゃんの顔が見えて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
その大きな瞳にうっすらと涙を浮かべ、僕の腕を掴んだ手が強ばっていることも解ったから。

「ごめん。ちょっとやりすぎた」
「…せんぱぁぃ」

顔を上げた小春ちゃんが僕を見つけ語尾が弱く震える。
驚かせたいとは思ったけれど怖がらせるつもりなんて無かった。

678 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:26

「ごめんね。ちょっと驚かせようとした。ホント、ごめん」
「…せんぱい?」
「見て」
「え? ……うわぁ」

僕に釣られるように視線をあげた小春ちゃんが感嘆の声を上げる。

「星だぁ」
「うん。なにがいいかなって考えたとき、この前した話を思いだしたんだ」
「この前? あっ」
「小春ちゃん専用の星たち」
「嬉しいです。ありがとうございます」

僕の腕を掴んでいた手から力が抜けて、いつの間にか優しく絡めるように変わっていた。
その手が不意にクンと引かれる。

「せんぱい?」
「うん?」
「小春専用なんですよね?」

小春ちゃんが満天の星を見上げてそう確認してきた。
言うまでもなく、それは小春ちゃんのためのものだから。

「そうだよ」
「なら……こうやってる小春の横は、せんぱい専用です」
「…そっか。うん、嬉しいね」
「嬉しいですかあ?」
「うん。嬉しいよ」
「せんぱいが嬉しいと小春も嬉しいです」

そう笑う小春ちゃんはこの部屋を埋める星たちでは到底敵わない。
作られたそれではない自然な、素敵な笑顔を浮かべていた。

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