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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜3

656 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:39

撮影の順番までまだ少し時間がある。そう教えてもらってすぐに楽屋を出た。
特にどうしようと思ったわけでもなく、時間潰しに外の空気を吸ってこようと思っただけだった。
ホールで下りてくるエレベーターを待っていると、すぐ後ろで感じた気配に振り返る。

「あぁん」
「なに、その手は」

可愛らしく悔しがるさゆの両手が僕の顔まで10cmのところで止まっていた。
黒目がちな瞳が挙動不審に泳ぐ。

「ったく……」
「えへ♪」

未遂に終わった悪戯なんて気にもしない笑顔。

「で、どこ行くの?」
「せんぱいはドコ行くんですか?」
「ちょっと散歩がてらコンビニでも行こうかなって」
「じゃあさゆみもそうします」

なんの惑いもなく、さもそれが当たり前のことであるかのように言われた。
言い切られた僕としては笑うしかない。
そしてあおれを当たり前として受け入れるしか。

657 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:40

エレベーターが止まり開いたドアの中に先客が一人。
笑いあっていた僕らは何故だか少しだけ表情を戻して静かになる。
一階下でエレベーターが止まり、唯一の先客が降りていった。
締まり掛けたドアの隙間から誰かが駆け寄ってくる姿に気がついた僕がドアを開けてあげる。
開いていくドア。なぜだか隣にいたさゆが僕の後ろへ隠れるように動いた。

「ありがとうございますう」
「……おやまあ」
「せんぱい、おはようございまぁす」
「おはよ。桃子ちゃん」
「? あっ、おはようございまぁす、道重さん」
「お、おはよ……」

僕の背中からさゆの声。
あまり聞いたことがない種類の声だった。

「さゆ?」
「“さゆ”? じゃあじゃあ、わたしも“もも”って呼んでほしいですう」
「なっ――、桃子ちゃんは桃子ちゃんでいいじゃん」
「やですよお」
「え〜っ! そ、それより桃子ちゃん、なんでいるの?」
「私たちも撮影があるんですけどお。せんぱいたちもですか?」

短いけれど、どこか火花が散るようなやりとりだと感じたのは気のせいだろうか。
不意に振られてようやく居場所を得たような心地になる。

658 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:41

「え? …あ、うん。桃子ちゃんたちは僕らの後なのかな。一人でどっか行くの?」
「ちょっと、さゆみが訊いたのに――」
「お二人はどこに行くんですか?」
「うん。ちょっとすぐそこのコンビ――」
「あーっ! どこも行かないよ」

僕の言葉を遮るように、背中から身体をのりだしたさゆの声が大きくなる。
ビックリしたように――僕も驚いたけど――目を見開いた桃子ちゃんが、一呼吸置いてからその特徴のある目を細めた。

「わたしも連れてってくださーい」
「あっ、ほら。すぐ戻ってくるから。桃子ちゃんは。ね、せんぱい」

僕はなにをそんなにさゆがテンパってるのか理解できない。
というよりも、ついてきたいならいいんじゃないかなとも思うし。

「いいんじゃない」

短く言い放った僕の一言で、桃子ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
そしてさゆはおかしなくらいに肩を落とした。
二人の対比を不思議に思いながら、エレベーターを出たところで思った。
この二人、いつこんな関係になったんだろうって。

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0ch BBS 2006-02-27