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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜3

1 :TACCHI:2006/09/18(月) 03:42
すいません、前スレ埋めてしまいまして(汗)
今度から、こっちでお願いしますm(_ _)m

578 :名無し娘。:2007/06/17(日) 23:54
うん
処女作いいですね。うまいとこ突いてる

579 :名無し娘。:2007/06/19(火) 20:05

「明日楽屋にお邪魔してもいいですか?ちょっと相談が」

少し小さないつもの楽屋で、昨日受け取ったメールを見る。
相談のお願いは前にもあったけど、アポを取ってくるなんて。
何か大切なことなんだろうか。

コンコン

どうやら来たらしい。
………さて。

580 :名無し娘。:2007/06/19(火) 20:05

「どうぞ」
「ありがとうございます」

目の前には新垣さん。まずはお茶をすすめる。
少しばかり雑談を交わして………そろそろかな?

「それで、相談って?」
「あ、はい」

少し姿勢を正した新垣さん。次の言葉を待つ。

「えーと」
「うん」
「…サブリーダーって、なんなんでしょうか?」
「…はい?」

前置きのない質問に戸惑う。

「いや、わたし。なったじゃないですか」
「あ、うん」
「何をすればいいのか、よく分からないんです」
「………」
「保田さんにも、聞いてみたんですけど」
「そうなんだ。何て言ってた?」
「『私は何もしなかった』って。」
「うーん」
「そんなことないと思うんですけど」
「僕もそう思うな」

保田さん、謙遜したんだろうな。

「保田さんの言うことが本当だとして」
「うん」
「保田さんのときは、それでよかったかもしれません。けど今は」
「………」
「何かしないといけない、そんな気がするんです」
「…そっか」
「せんぱい、どう思いますか?」

ちょっと途方に暮れた感じの新垣さん。
…サブリーダー、か。

正直いって、表向きだけの形式的なものだと思う。
僕たちが選んだわけでもないし。そんな表情に
なってしまうほど深刻にならなくてもいいのに。
でも今の新垣さんはそんな答え望んでないんだろうな。

ちょっと迷ったけど、思い切って言ってみることにした。

581 :名無し娘。:2007/06/19(火) 20:06

「新垣さんは、娘。大好きだね」
「もちろんです」
「娘。じゃないと駄目だよね」
「はい」
「他のメンバーはどうだろう?」
「え?」
「娘。じゃなきゃ駄目だって、新垣さんほど強く思ってるかな?」
「………」
「新しい2人とかさ、特に」
「………」
「少しずつ、弱くなってると思う。そういうの」
「………」
「何かしなきゃいけないとしたら、そこかな」

批判…だよな、これ。やっぱり。
新垣さんの表情が変わるのを見ながら、思う。
怒ってしまうだろうか?できれば…

「どう思う?」

逆に尋ね、じっと反応を待った。

582 :名無し娘。:2007/06/19(火) 20:06

「…そうかもしれません」

…よかった、受け入れてくれた。ならば。

「もしそうなら、解決できる」
「え?」
「良くすることはできると思う」
「ど、どうすればいいんですかっ?わたし何でもします!」

新垣さん…本当に娘。が大切なんだね。
もちろん、ずっと前から知っていることだけど。
気持ちのこもった強い言葉を聞いて、そんなの関係なく嬉しくなった。

「絆」
「きずな?」
「そう、絆。メンバー同士の関係を強くすればいい」
「…仲はいいと思いますけど」
「うん。でも他にも絆を強くするものがあるんだ」
「何ですか?」
「リーダーシップ」
「…えーっと?」
「この人なら信頼できる、尊敬できる。この人にならついていってもいい、って」
「…はい」
「そういう風にメンバーが思えるような、リーダーの振るまいのこと」
「それが、リーダーシップですか」
「そう。もし高橋さんや新垣さんが、リーダーシップを持てたなら」
「………」
「みんなは、より強い絆で結ばれる」
「はい」
「大事なのは」
「え?」
「新垣さんは娘。が大好きってことなんだ」
「………」
「そんな新垣さんについてくるメンバーたちは、娘。をもっと好きになるって」
「せんぱい…」
「そう信じてる」

新垣さんが僕を見つめる。ちょっと潤んだ瞳が美しかった。

583 :名無し娘。:2007/06/19(火) 20:07

…しばらくして。

「ごめん、ちょっと難しかった?」
「いえ。よかったです。せんぱいに相談して」
「…そう?」
「はい」

新垣さんは何か吹っ切れたような、さっぱりした表情だった。
…少しは役に立った、だろうか。

「それと、これは受け売りなんだけど」
「はい?」
「組織のカギは、副将が握ってるんだって」
「ふくしょう、ですか?」
「うん、サブリーダーのこと」
「わたし鍵なんて持ってないですよ」

…んなアホな。

「新垣さん、違う違う」
「え?」
「グループが良くなるかどうかはサブリーダーにかかってる、ってこと」
「………」

勘違いと本当の意味に気づいてちょっと恥ずかしそうな新垣さん。

「いつでも、どこでも、誰にでも当てはまる言葉とは思わないけど」
「はい」
「今の娘。にはぴったりだと思う。だから」
「………」
「娘。のために、頑張って欲しい」
「…はいっ!」

変にプレッシャーにならなければいいけど。
ちょっとだけ後悔しつつ、元気に返事をしてくれた新垣さんに微笑んだ。

584 :名無し娘。:2007/06/19(火) 20:15

堅苦しい話で…読みづらいな、多分。

>>577
いえいえ(^^)
初ネタお気に召していただけたようで。
今回もそうであればいいのですが。

>>578
ありがとうございます。
今回もうまいとこ突けてればいいのですが。

585 :名無し娘。:2007/06/20(水) 03:02
>>584
微笑ましくて良かったですよ。
あぁ、ガキさんらしいなぁって感じで。

娘。の現状を思えば当然かとは思われますが、ちょっと重い話が続いてますねぇ。
そろそろなんにも考えずにハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!!できるような話が読みたいなぁ…なんてw
こんこん電撃復帰なんて明るい話題も出てきた事ですしね。

586 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/06/20(水) 15:17

>>579-583 統計さん(仮称)
やべー……立て続けにものっ凄くツボを痛打されてますよ♪
もっともっとおかわりお願いします(笑)

さて、負けずになんか考えよっと。

587 :名無し娘。:2007/06/21(木) 12:59
僕はゲームに負け亀井さんの命令を1日聞かなければならない。
「先輩これに着替えてください」
「え、絵里。ちょっと」
僕にカバンを渡してきた。
僕は観念して着替える事にした。
カバンの中にはピンクのワンピースに黒のレギンス、
それにミュールが入っていた。
僕は着替え自分の着ていた服をカバンにしまおうとすると、
中に道重さんが好きそうなカバンが入っていた。
「このカバンを持って行けってことか、とほほ」
「着替えてきたよ」
「可愛いじゃないですか」
「僕の荷物はどうすればいいの?」
「スタッフさんに預かってもらようにお願いしてあります」
「じゃあ、遊びに行きましょう」
僕は1日亀井さんに付き合った。
すごく恥ずかしい思いをした日だった。

588 :『ピアニシモ』:2007/06/22(金) 00:32

空いた時間にふと気が向いて顔を出したフットサルコート。
二週間ぶりに会う元リーダー、それに里田さんは、忙しいながらも元気そうに身体を動かしている。
他には℃-uteやエッグの子が数人と、何度か会ったことのあるコーチが一人。
メンバー的に不足しているだろうことは予想通りのことだった。
入り口の脇で壁に背を預け、しばらく練習の様子を見ていると、やはりまだまだ実力差は埋めきれるものではないらしい。
ゴールの少し前にフィクソとして立つコーチに一つフェイントを入れてのシュート練習。
初歩的な動作だからこそ“慣れ”ているかどうか明確に差が出ていた。
フェイントを入れ損なったはずみで転がってきたボールをダイレクトに蹴り返す。
そこで初めて僕に気がついたよっすぃーが意外そうな表情を見せた。

「ちょっとタイムね」

蹴り返されたボールを里田さんへはたきながらそう言うと、軽い足取りで歩み寄ってきた。

「やっ」
「久しぶりじゃね? どーしたの」
「たまたまこの時間空いたからさ」
「ふーん。なに、参加すんの?」
「僕でもいないよりはいいっしょ?」
「……ま、いないよりゃいいか」

ふんと鼻をならして笑うよっすぃーはそんな口ぶりだけど、長い付き合いから喜んでくれていることは解った。
軽く柔軟をしている間に今度はよっすぃーと里田さんがフィクソになり、梅田さん以外のメンバーでシュート練習が始まる。
違うのは二対二の形になったこと、そして今度のフィクソは止める気満々だということだろう。
身体を動かしながらその様子を見ていると、まったく容赦のない二人の存在にゴールを割るどころかシュートまで持ち込めるメンバーすらいない。
スポフェスで抜群の身体能力を見せた矢島さんも、躊躇しているうちに“間”を詰められ、コートの外へボールを蹴り出されていた。
これじゃあつまらないと一計を案じ、比較的ボールの扱いが上手いように見えた千聖ちゃんを手招きした。

589 :『ピアニシモ』:2007/06/22(金) 00:33

「あの小憎たらしい二人に一泡吹かせてやりたくない?」

クイと指し示した親指の先で、この子らから見れば大先輩の二人が大人げないディフェンスを続けていた。
どうしようって顔でそれを見ていた千聖ちゃんへ「お兄ちゃんに任せな」と笑いかけると、成功したときのことを想像したらしい嬉しげな表情で頷いてくれた。
同じ℃-uteから、パートナーに最適そうな矢島さんも呼び寄せて、よっすぃーたちから見えないように背中を向けて説明を始めた。
矢島さんにはやるべきことを説明し、タイミングにだけ気をつけるようにと言いきかせる。
千聖ちゃんには必要なことを繰り返し見せる間、矢島さんに壁になってもらう。

「おーいっ、なにしてんの?」
「ちょっとね。そっちはそっちでやってなよ」
「またなんか企んでんな」
「ギャフンと言わせてみせるよ」

挑発的に言い放った言葉へ立てた中指を返される。
おいおい、いくらなんでもそれはないだろって苦笑して、千聖ちゃんへ意識を戻す。
たった数分間のレクチャーだけど、運が良ければ二割くらいの確率でいけるんじゃないかと思えた。

「さ、行っといで」
「はいっ」

緊張した様子の二人へ伸ばした両手でポンポンと肩を叩いて送り出す。

「お、ずいぶん早く戻ってきたじゃん」
「二人に一泡吹かせるには充分な時間だよ」
「言ってろ」

590 :『ピアニシモ』:2007/06/22(金) 00:33

右サイドで軽くボールを蹴り出した矢島さんが一つ二つと控え目なタッチでドリブルをしていく。
正面にいる里田さんが急激に距離を詰める。
やっぱりまだ舐めてかかっているらしい。
左後方へはたいた矢島さんは里田さんの裏を取ろうとライン際から走り出す。
ボールを受けた千聖ちゃんのワンタッチで、もうよっすぃーも距離を詰めていた。
こっちは幾分警戒しているのか、必要以上に深く入ってはこない。
走り出した矢島さんへパスを合わせる左脚。
反応したよっすぃーがパスコースへステップ。
矢島さんはフルブレーキからバックステップ。
距離を離されずに付いてくる里田さんは誘い出されたことに気づかない。
千聖ちゃんの左脚はボールの上を通り、返す動きで左前方へ軽いタッチ。
それでもキチンと付いてきたよっすぃーはさすがだった。
けれど、シューズ一つ分ほどの差で体勢が良かった千聖ちゃんの勝ちだった。
ミドルレンジで振り抜かれたシュートに、くるはずがないと思っていた梅田さんは対応できない。
一発目で二割を引き出したのは二人のセンスだった。

「うぉ――、あっぶねー!」

ボールがポストに弾かれたことをのぞけば。

「あっ……」
「惜っしいー」

申し訳なさそうに僕を見る二人へ「大成功だったね」と微笑みかける。

「でも……」
「シュートまでもってければオッケーだよ。後はまた練習して。ね?」
「はいっ」

本当に誉められていると解った二人は嬉しそうにコートへ戻っていった。

591 :『ピアニシモ』:2007/06/22(金) 00:34

入れ替わりに近づいてくるよっすぃーはしてやられたといいたげな表情で。

「あームカつく。あんなん成功するなんてさ」
「偶然にしてもいいセンスじゃん」
「かもね。さて、この悔しさをどうしてくれよっか」
「え?」

不敵なよっすぃーの笑顔に続く言葉が思い当たる。
良い流れのままで、先手を取って切り出すことにした。

「お相手しましょ」
「よっし、一対一な」

空いているゴール側で始められた一対一。
それと同時に休憩になったようで、他のメンバーが遠巻きに見ている。
後輩に恥をかかされたよっすぃーはガチモードらしい。
けれどこっちも無様なところは見せられない。
互いに本気の一対一は、最初の数本こそどちらもゴールを許さず互角以上にやれていた。
けれど絶対的な経験値で既に上回られている僕は、本数を重ねるたびに押されてだしていく。

「もらいっ!」
「うわ――、っ!」

半ば抜かれた体勢で、反応できた脚がボールに触れた、けれど。
浮いたボールが転々と転がりポストギリギリにゴールラインを割ってしまった。

「あたしの勝ちー」
「ハァ……現役には敵わないなあ。さすがだわ」
「同じだけ練習してたら負けてっだろーけどね」
「どうだか」

苦笑いで返した僕に控え目な拍手が注がれた。
流した視線の先、里田さんや他のメンバーが含みのある笑顔で僕を見ている。
違いますよと、そう言いたげに、皆が両手をヒラヒラと泳がせている。

592 :『ピアニシモ』:2007/06/22(金) 00:36

なんだろうと眉をひそめながら、更に移した視線の先。
まるで魂でも抜かれてしまったかのように、僕は呼吸さえも忘れていた。
小さく手を叩くその姿は離れていったあの頃のまま。
結った髪も、ふんわりとした雰囲気も、あの頃の面影そのままだった。
ゆっくりと近づいてくるはにかんだような笑顔。

「せんぱい」

少しだけ掠れた小さな声で呼び掛けてくれる。
自分の声が届いているか心配しているようにもう一度。

「せんぱい? お久しぶりです」
「……ぁ」
「ビックリしたっしょ? この前から一緒にやってんのさ。限定復帰ってとこかね」

からかい気味によっすぃーが声を掛けてくれなかったら、僕は……
僕は、もしかしたら……後輩たちの前で涙を流してしまったかもしれないくらいに。

「……こん、の、さん」
「はい」
「こんこん…」
「はい」

くすくすとおかしそうに笑いながら、生真面目な返事をしてくれる。
深く、止めていた分だけ深く呼吸をして。
ようやく口にした意味のある言葉はたったこれだけだった。

「おかえり」

紺野さんはぷくぷくのほっぺでやわらかく微笑んで。
少しだけ照れ臭そうに、やっぱり小さな声で言った。

「ただいま」

耳に馴染んだその声は。
今はない、忘れかけていたピアニシモだった。

593 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/06/22(金) 00:39

明るい話題なのに最後はしっとりになってまいました。
限界、寝ます。
おやすみなさい(ρ.-)

594 :名無し娘。:2007/06/22(金) 02:42
(・∀・)イイ!

595 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:01

いつもの楽屋。

そして、すぐ隣にみんなの楽屋。
少し前までは、気軽に訪れることのできる場所だった。
話して、遊んで。そうやってみんなを感じていた。

…けど今は。


藤本さんの一件以来、思いを強くしたことがある。

「もう何をどう書かれるか、分かったもんじゃない」

僕は男で、みんなは女。
もちろん、僕にとってはそんなの関係ないけど。
外から見れば、そうじゃないのかもしれなかった。
楽屋でみんなと一緒に過ごしている。
そんな光景を外の、悪い人間が見聞きしたら。
誤解や嘘や虚構で、歪められて伝わるかもしれない。
まして記事にでもなってしまったら…みんなを傷つける。
以来、こちらからみんなの楽屋に出向くことはしなくなった。

この前の新垣さんみたいに、むこうから来てくれるなら。
拒むつもりはなかった。拒むのは、さすがに不自然だ。
みんなの力になりたいという気持ちは変わってないわけだし。
けど…自分からは。

「考えすぎかな…」

臆病な自分を感じる。振り払うようにひとりごちて、目を閉じた。

596 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:01

コンコン

…ん?

コンコンコン

来訪を告げる音に、まどろみから引き戻される。そして。

「せんぱーい?」

ドアが開くと同時に、聞き慣れた声が響く。
目をこすりながら、声の主へ顔を向けた。

「亀井さん」
「せんぱい、寝てました?」
「うん、そうみたい」
「ごめんなさい、起こしちゃって」

謝りながら、亀井さんが近づいてくる。
あんなことを考えていた矢先の、突然の来訪とはいえ。

「…何か用?」

僕の言葉は、ちょっと不用意だったらしかった。

597 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:02

立ち止まって、わずかに俯いた亀井さん。
そのたたずまいが、悲しい、と僕に訴える。
小さくなってしまった声。かろうじてそれは僕に届いた。

「せんぱい…」
「あ、うん」
「何かないと…駄目ですか?」
「え?」
「ちゃんとした用がないと、来ちゃ駄目ですか?」
「そんなこと…」

あぁ、しまった。そうじゃないのに。どうやって宥めようか。
考えている僕に向けて、亀井さんが顔を上げる。
何か、意を決したような。そんな表情をしていた。

「せんぱい」
「うん?」
「最近…絵里のこと、避けてません?」
「………」
「………」
「…そんなこと、ないよ?うん」
「嘘」
「………」
「…やっぱり」

沈黙を肯定ととったようだった。亀井さんが呟く。

598 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:02

「絵里…何かしました?」
「え?」
「せんぱいに嫌われるような、何か」
「そんな。とんでもないよ」
「じゃあ」

何故。
亀井さんの瞳が、真剣であることを伝えている。
さっき考えていたことを話そうかと、ちょっと思ったけど。
何となく憚られて、適当にごまかすことにした。

「少し、距離を置こうとは思ってる」
「え?」
「ほら。多分次だから」
「…何がですか?」
「卒業」
「………」

次は僕。
確証はないけど、多少の説得力はあるだろう。

「いつ、いなくなってもいいように」
「せんぱい…」
「準備っていうか。何かそんな感じ」
「………」
「だから、避けてるわけじゃ…ないよ?」

…なんだかな。
即席とはいえ、出来の悪い言い訳に歯がみする。
しかし、言ってしまったものは仕方がない、と諦めて。
亀井さんの反応を待った。

599 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:03

「せんぱい」
「うん?」
「絵里は、テキトーすぎるけど。せんぱいは」
「………」
「いろいろ、考えすぎてる」
「………」
「せんぱい」
「あ、はい」
「考えすぎです」

語気を強めた亀井さん。その言葉が、頭の中でこだまする。
隠している本当の理由を、見透かされたように感じた。

「すごい恥ずかしいけど…絵里言います」
「う、うん」
「…もっと、いつも、近くにいて欲しい」
「………」
「卒業は、いつか来る。けど」
「………」
「そんなこと考えるのは止めて、今は一緒にいて欲しい」
「………」
「せんぱいが遠くにいっちゃうなんて、嫌」
「………」
「嫌です」
「………」
「絵里、そんなとこまで…来ちゃいましたよ?」

600 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:04

「…亀井さん」

それ、どういう…?
意味を測りかねて、言いかける。

僕は男で、みんなは女。
もちろん、僕にとってはそんなの関係ないけど。
みんな…亀井さんにとっては?

…まさか、そんなこと。
そう思い、首を小さく横に振った。

「だからせんぱい」
「…うん」
「少しだけ、絵里を見習って」
「………」
「テキトーに、なってください」
「………」
「駄目、ですか?」

頬を真っ赤に染めながら、尋ねてくる亀井さん。
そうまでして、そこまでして言ってくれるのなら。
考えすぎるのはもう止めにしよう。
そう心に誓いながら、亀井さんを見つめて。

「うん。分かった」
「…よかった」

…安堵、かな。
表情を見てそんなことを思いながら、「やだ」や「恥ずかしい」を
連発して右往左往する亀井さんを眺めていた。

601 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:05

ありえなさすぎるかなぁ、なんて。最後もちょっとくどいっぽい。

>>585
ありがとうございます。
ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!!できるような話は…
今回のは無理ですよね。ごめんなさい。気長に、お待ち頂ければ。

>>586
そうですか、よかったです。
おかわりお持ちしましたが、味の保証はできません(^^;)

>>587
女装、しかもミュールっすか。亀井さん…

>>588-592
早速来ましたね。リクエストに即応できるスキルが素晴らしいです。
℃-uteとかエッグとかよく知らないのが申し訳ない。

602 :名無し娘。:2007/06/22(金) 23:15

あーもう、コピペ失敗した。

>>595

「…けど今は」

以前と、

「藤本さんの一件以来」

以降で別レスになっている、と思ってくださいまし。
…どーでもいいんですけどね。

603 :−おかえり−:2007/06/23(土) 01:52

「あれ? あの背中…」

事務所の廊下で、久しぶりにある人を見つけた。
どうやら、こっちには気づいていないらしい。ちょっと脅かしてみるかな?

「ポンちゃん♪」
「え? え?!」

僕は、後ろから静かに近づくと声を掛けると同時に、紺野さんの腰に抱きついて
持ち上げた。

「やっぱ、軽いなぁ〜ちょっと痩せた?」
「ちょ、ちょっと降ろしてください!!」

紺野さんが、ちょっと暴れ始めたので仕方なく降ろす。

「おかえり。ポンちゃん」
「もう、先輩…。ただいまです」

頬を少し赤くしてちょっと怒った風になりながらも、やっぱり性格なのか
しっかりしてるところは、しっかりしている。

「なんか不思議だね」
「はい、そうですね。でも、帰ってこれて嬉しいです」

笑顔で、僕にそう答える紺野さん。

「そっか」
「やっぱり、先輩の近くに居たかったし…」
「え?」
「い〜え、なんでもありません。じゃ、これから吉澤さんに会ってきます」

僕に笑顔で手を振って部屋に入っていく紺野さん。
聞こえてたんだけどなぁ〜…

604 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/06/23(土) 01:58
ホント、おかえりって感じですw
推しの人が、まさか戻ってくるとは思ってなかったんで、
すごいうれしかったです。
これからも、推していきたいとおもいますwww

>>587
短い作品ですけど、すごいインパクトに残る作品でした。
これからも、よろしくお願いします。

>>593 匿名さん
うまいなぁ〜ホントうまいとしか言いようがないです。
今度、コラボ作品一緒に作りましょう♪

>>601
なんか、切ないような心が温まる作品でした。
最近、長いの書いてないから挑戦してみようかなぁ〜・・・
と、思いました。これも、なんかコラボできないかな?www

605 :『正直な鼓動』:2007/06/23(土) 22:38

それは唐突にやってきた。
なんの前触れもなしに爆ぜるように開いたドア。
驚いた僕が玄関へ出ると、そこには見慣れた顔が見慣れない表情で立っていた。

「さゆ」

呼び掛けた僕の声にも反応しないで、短く荒い呼吸をし真っ青な顔で僕を睨み付けている。
急に連絡をくれて、理由も告げずにそっちへ行くと言うさゆへ、なにかあるのかと気にしながらどうぞと返した。
そのさゆが……

「どうかした? 顔色が――」
「せんぱいっ!!」
「は、はい」
「……なんで」

僕の話を遮った日頃ほとんど耳にしたことがないほど強かった言葉が一転して。
まるで初めて会った頃みたいにささやくような弱さで口籠る。
まったく様子の違うさゆを、僕はただ立ち尽くしたまま見ていた。

606 :『正直な鼓動』:2007/06/23(土) 22:39

「なんで急に……」
「え?」
「せんぱい、ひどい。いつもそうやって一人で……」

唇を震わせながら、噛み締めた口元から絞り出すような言葉。
そこで初めて気がついた。
憤っている。
そして…哀しんでいる。
それも僕のせいで……?

「さゆ?」
「それはそうですよ? せんぱい自身のことだもん、誰に相談する必要もないですっ。
 だけどせっかくせんぱいから“さゆ”って呼んでもらえるようになって! ……なのに」
「ち、ちょっと待っ――」
「せっかくせんぱいとの距離が縮まったって嬉しかったのにっ」
「それはそ――」
「なのに卒業しちゃうなんてっ」

ああ……話が繋がった。
あまりの剣幕に忘れていたけれど、直後に絵里ちゃんからも電話をもらったんだった。
さゆから電話とかなかったですか、と。
あったよと口にした途端に電話は切られてしまったけど、そういうことなんだろうと今になって解った。
この間の件で誤解されるような話をしたんだろう。

607 :『正直な鼓動』:2007/06/23(土) 22:39

「しないよ」
「は?」

至極簡単に告げた一言はさゆという風船を一突きしたみたいで。
音を立てて空気の抜けていく様を見たような気がした。

「せんぱい…、えっと?」
「しないよ。卒業なんて」
「ホントに?」
「本当に」
「さゆみたちを置いて行っちゃったりは……」
「しないよ」

それは僕の真実。
ただ事務所の真実が違ったときにどうなるのかは……口にはできないことだった。
けれど僕の気持ちは変わらないから。
だから……

「卒業する気なんてないよ。ずっと、いつまでも一緒にいたいんだ」
「よかったぁ……」

608 :『正直な鼓動』:2007/06/23(土) 22:40

へなへなと脱力して玄関口でへたりこんださゆへ手を差し伸べる。
目の前にある僕の手を見たさゆが笑顔に変わって。
やわらかな手が僕の手に重ねられる。
引き寄せて立たせてあげたさゆが勢いのままで僕の腰へしがみついた。

「さゆっ――、こらっ」
「ホントに、よかった」
「さゆ……」

僕の胸元へ表情を隠すみたいに押し当てられた横顔からあたたかな振動が伝わる。
そのあたたかさが教えてくれた。
さゆがどれほど心を痛めてくれたのか、そして事実を知って心の底から安堵してくれたことを。

 トクン

伝わった気持ちが僕の鼓動を揺さぶった。
けれど悪くない揺らぎだと思えた。
頭で考えるのではなく、心で思うのでもない。
最も根底から波及していく最も正直な……

609 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/06/23(土) 22:44

>>587
これは突飛な(笑)
けれどどこか夢物語らしい気もしますね。

>>594
アリガトウ!

>>595-600 統計さん(仮称)
ありえなさそうな気はしないですけど。
なんかちょっと、表現したい部分が近しいのかもと勝手に感じてたりします(笑)
今回のものもやはり好ましい味でした(^^)
故に勝手にオマージュとして書かせていただきました。
それと悔やんでらっしゃるレスの区切り、感覚的に納得。

実は私も℃-uteやエッグは(ry
ベリはまぁそれなりに知っていますが、℃-uteはなんとかって程度で、ましてやエッグは……(^^;)

>>603 TACCHIさん
復帰ネタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
ですね。
うまいとTACCHIさんが感じてくださったなら、それはこちらとしては喜ばしいです。
事実はさておき(笑)

>これも、なんかコラボできないかな?www
お先にしてもーた。
TACCHIさんの作品がどうなるのか期待してます♪


最後にチラッと宣伝(^^;)
ttp://tokdd0paco.blog108.fc2.com/
始めたってか、備忘緑みたいなもんを再開したので。

610 :名無し娘。:2007/06/26(火) 20:57

「もう、さゆ」

道重さんの誤解を解いてから、ほどなく。
亀井さんがやってきて、道重さんをたしなめた。

「ごめんなさい、せんぱい。さゆが早とちりで」
「いやいや」
「絵里あとで叱っておきますから」
「いやいやいや」

道重さんが悪いと決めつけるかのように、亀井さん。
案の定、道重さんが不満そうな表情で口を挟んだ。

「でもあれは誰が聞いたって──」
「違う、さゆが──」

…姉妹喧嘩、か。
久しぶりに見るそれは、ちょっと微笑ましくて。
心の中で謝りつつ、やり合う2人を眺めていた。

611 :名無し娘。:2007/06/26(火) 20:57

…しばらくして。

適当すぎた亀井さんの説明と道重さんの早合点。
2人の喧嘩は、両成敗ということでおさまった。
すっかり仲直りして、じゃれ合っている亀井さんと道重さん。

…もう少し、この空気を感じていたい。
そう思った僕は、このまま帰って行きそうな2人を
もう少し引き留めることにした。

「あ、そうだ」
「「はい?」」
「おいしいお菓子あるんだけど、食べない?」
「「食べたーい!」」

…双子みたい。
声をそろえる2人の様子に、また笑みがこぼれた。

「じゃあお茶入れよう」
「あ、さゆみ手伝います」
「絵里もお菓子あるんで。持ってきますね」

道重さんより少しだけ年上の亀井さんが、
そう言い残して自分の楽屋へ戻っていった。

612 :名無し娘。:2007/06/26(火) 20:58

「絵里うれしそう」
「うん」
「せんぱいのおかげですね」
「お菓子の、の間違いじゃない?」
「…違うの」

首を横に振る道重さん。何が違うんだろう。

「これから言うこと、絵里には内緒で」
「あ、うん」
「最近、ちょっと心配してたんです」
「…亀井さんのこと?」
「はい」
「様子がおかしかった?」

道重さんが頷く。

「話してるときは、いつもと変わらなかったんですけど」
「うん」
「1人のときとか。見てると、寂しそうにしてて」
「………」
「何かあったのかな、って」
「………」
「それとなく聞いてみたり、考えてみたりしてたんですけど」
「………」
「結局、分からなくて」
「…そっか」

…道重さん、お姉さんしてるな。
年上の妹を気遣う道重さんの言葉を聞きながら、思った。

613 :名無し娘。:2007/06/26(火) 20:59

「でも、さっき絵里の話をちゃんと聞いて。はっきりしました」
「………」
「せんぱいが、原因だったんですね」
「………」

…そういうことに、なるんだろうか。

「絵里のこと、避けてません?」
「近くにいて欲しい」

亀井さんの言葉が、思い出される。

「…うん、そうかも、しれない」
「そうなんです」
「は、はい。そうです」

断定を避けた僕に、ちょっと不服そうな道重さん。
慌てて表現を修正した。

「せんぱい」
「うん?」
「…あの」
「うん」
「ホントに、絵里には内緒で」

念を押してくる道重さん。
今度は何だろうと思いながら、黙って頷いた。

614 :名無し娘。:2007/06/26(火) 21:00

「絵里の辛そうなとこ見るの、さゆみも辛いから」
「………」
「絵里のこと、ちゃんと見てあげて欲しい、の」
「………」
「お願い、します」

…これも、僕のせいなんだ。
真剣な顔で訴える道重さんを見て、胸が痛んだ。
それと。

…なんか、ちょっと泣きそうかも。
道重さんが、亀井さんを思う気持ちの強さが伝わって。
僕は関係ないけど、でも、とても嬉しかった。
そして。

「分かった…辛くさせちゃって、ごめん」

返す言葉は、これしか思いつかなかった。

615 :名無し娘。:2007/06/26(火) 21:00

「…それと」
「…うん」
「近くにいて欲しいのは、さゆみも同じだってこと」
「………」
「忘れないでいてくれると…嬉しいです」

2つめのお願いをするその口調は、ちょっと控えめだったけど。
亀井さんと同じ気持ちだということ。それは強く伝わった。
さっきの、取り乱した道重さんの姿を頭に浮かべながら。
大丈夫、ちゃんと届いたから、との思いを込めて。

「もちろんだよ」
「…はい」

笑顔で返事をしてくれた道重さんに、僕も笑いかける。
ちょっと潤んだ瞳が、とても印象的だった。

616 :名無し娘。:2007/06/26(火) 21:01

>>605-608 の続き、ということで。
なんか…いまいちっぽい。精進します。
ネタの出来はともかく、いつまでも仲良くあって欲しいものです。

>>604 TACCHIさん
ネタに、推しだってことが現れてますよね(^^)
コラボ、可能であればよろしくお願いします。嬉しいので。

>>609 匿名さん
オマージュ頂戴いたしました。ありがとうございます。
折角なので、設定引き継がせていただきました。

表現が近い…そうですね。匿名さんのネタに
影響を受けてると思います。なんか、ちょっと申し訳m(_ _)m。

617 :名無し娘。:2007/06/27(水) 08:16
なにこのナイスリターン

618 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:03

飛び抜けてインパクトのある声でもない。
言葉に説得力を持たせることもできない。
自分に足りないものが多いのは解ってる。
だから、今の僕にできるのは、その言葉に命を吹き込んであげることだけだった。
届けるべき相手へ、精一杯の心を込めて。

「ずっと…できるだけ一緒にいよう」
「せんぱいっ!」

619 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:03

 ――え?

「あれ……?」
「こ、小春ちゃん……?」
「いま……? あのー」
「はい?」
「せんぱい、お一人ですかあ?」
「他に誰もいないでしょ?」

僕は突然飛び込んできた小春ちゃんへ、広いとはいえない楽屋を指し示す。
小春ちゃんはキョトンとした顔で、僕の手を追いかけるように右へ左へと特徴のある大きな目をキョロキョロさせる。

「ですよね。アハッ、アハハ……」

笑い声が尻すぼみに小さく乾いたものへ変わっていった。

「大好きだ。って、聞こえた?」
「あ〜……、そのお、……はい」

その目に動揺をありありと映しだして、どうするか迷った末にという風に認めた。

620 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:04

「なにか勘違いしたわけね。これだよ」

テーブルの上へポイと放りだした薄っぺらい冊子。

「らじお、どらま……」
「単発だけど、やらせてもらえるなら頑張ろうと思ったからね」
「本読み、してたんですか」
「してたんです」
「小春はー……お邪魔しちゃいました?」
「そんなことないけど。ちょっと集中してたとこだったからさ」
「あっ、なら小春がお手伝いします!」
「え?」

これは名案だと。
心からそう考えていると表情が教えてくれる。

「こう見えても小春、声優さんもやってますからっ」
「そ、そうだね」
「せんぱいはもうセリフ覚えちゃってるんですか?」
「一応」
「じゃあ、これは小春が」

放りだした台本を手にした小春ちゃんはやる気満々なようで。
キラキラと瞳を輝かせてページをめくっていく。

621 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:04

「はいっ、じゃあここからいきましょう」

ここから?
頭からやるんじゃないのって、そう尋ねようとした。
けれど。

「あっ」
「え?」

小春ちゃんの声に反応した僕の声。
なにか待ってる様子の小春ちゃんと目が合う。

「もう、せんぱい?」
「はい?」
「ここに、『男、女を抱き締める』って書いてありますけど」
「あぁ……。いや、ラジオだから、ね」
「ちぇっ。じゃあ、いいや。もう一回いきますよ」

残念そうにそう呟く小春ちゃんが、さっきと同じように「あっ」っと小さく声をあげる。
少しばかり心の中で『やれやれ』と零しながらも、なるようになれと覚えた台詞を口にする。

622 :『リピート』:2007/06/28(木) 23:05

「嫌なら振り解けばいい。そうじゃなけりゃ……」
「イヤじゃない。イヤじゃないよ」
「いいの? 私、好きでいいの?」
「ずっと、そうでいてくれればいいな」
「ごめんね。ありがとぉ。大好き」

拙いながらも互いに気持ちを乗せた台詞を交わし合う。
どこか悪戯めいたところを感じた小春ちゃんの台詞も真剣なそれに聞こえてきていた。

「俺も。一時メチャクチャなくらいに腹立ったけど……それって、それだけ好きってことだって。
 意地にならないで認めちゃえば、こんな……泣かせなくてもよかったのにって」

どちらからともなく“間”を取って、最後の台詞へ気持ちを昂める。

「もしかしたら、喧嘩もするかもしれないけど……それでもずっとお前がいいな」
「…うん、あたしも」
「ずっと…できるだけ一緒にいよう」
「せんぱいっ!!」

 ――え?

「絵里とゆーものがありながら――、小春とそんな……、あれ?」

今夜の本番に間に合うんだろうか……。

623 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/06/28(木) 23:08

ちょっとした悪戯をしてみたりして。
まあ誰も気がつかないでしょうからいいでしょ(笑)

>>610-615
確かに含みを持たせて終わらせましたが、拾ってもらえたのは嬉しい限り。
今回もごちそうさまでした。
影響……悪影響かもしれませんが(^_^;)

624 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/06/28(木) 23:47
今日は、コメントのみで。

>>616
重さんになんか萌え〜って感じでしたw
やさしさあふれる作品よかったです♪♪

>>623 匿名さん
一発で、気がつきましたよ(笑)
うまい使い方ですなぁ〜w
あそこにも期待してます♪

625 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:03

「お菓子持ってきましたー」

楽屋の入り口から、亀井さんの声。
声のした方へ顔を向けると、そこにはもう1人。

「ついでに、れいなも持ってきましたー」
「ちょっ、絵里」

ついで扱いの上にもの扱いされて、頬をふくらませた田中さん。
けど、すぐに元の顔に戻って僕の方へと寄ってきた。

「せんぱい」
「田中さん」
「れいなも、お邪魔してよかですか?」
「もちろん」

笑顔で頷く。田中さんも笑ってくれた。
そして。

「お茶が入ってなーい!」

僕の怠慢を咎める亀井さんの声。

「あ…ごめん」
「もー、せんぱいとさゆ何してたんですかー」
「ちょっと、ね」

さっきのやりとりを思い出す。
と、道重さんと目が合う。お互いに笑みをこぼした。

「…なんか怪しい」
「な、なにが?」
「いいです」

機嫌が斜めになってしまった亀井さんをなだめつつ。
みんなで、お茶の準備を再開した。

626 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:04

「うわー、これおいしー」
「そう?よかった」
「ほら、れいなも食べなよー」
「う、うん」

僕の持ってきたお菓子は、予想以上に好評で。
おかげで、その後の話にも花が咲いた。

…しばらくして。

「また今度、お茶しましょーね」
「今度はさゆみがお菓子持ってきます」
「………」

3人は、自分たちの楽屋へ戻っていった。
一転して静かになった楽屋で、思い出す。
4人でああやって話したのは久しぶりで、楽しかった。
けど。

…ちょっと、引っかかるんだよな。
壁に寄りかかって天井を仰ぎ、目を閉じる。
話してたときちょっと上の空だったし、
お菓子にもそんなに手をつけてなかった。
それから…さっきの去り際の、何かを悔いたような表情。

「…田中さん」

気になっている人の名前を、呟いた。

627 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:04

「はい?」
「わ!」

予期せぬ声に驚いて、目を見開く。
すぐ目の前に、田中さん。全然気づかなかった。

「た、田中さん?」
「………」
「ど、どうしたの?」
「…絵里とさゆには、忘れ物したって、言いよってきました」

…答えに、なってないけど。
とりあえず、1人で戻ってきたということらしい。

「あの」
「う、うん」
「もう少し、時間よかですか?」

後悔しないために戻ってきてくれたんなら、渡りに船なんだけど。

「うん、大丈夫」

とりあえず頷いて、田中さんの言葉を待った。

628 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:05

「せんぱい」
「うん」
「…あの」
「………」
「最近、れいなたちの楽屋、来てくれんとですね」
「………」
「何か、あったとですか?」

…田中さんも、か。
亀井さんと道重さんの言葉が頭の中で蘇る。

「絵里のこと、避けてません?」
「近くにいて欲しいのは、さゆみも同じ」

聞き方は違うけど、意味はほとんど同じだった。

「…うん。ちょっと思うところがあって」
「…そうですか」

…あれ?
一言、そう呟いて俯く田中さんを見て、思う。
「思うところ」が何なのかを聞いてこない。亀井さんと違った。
けど、その表情やたたずまいは同じで。胸がまた痛くなった。
早く謝らないといけない。そう思って、口を動かし始める。

刹那。

629 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:05

「何となく、分かれてしまうんです」
「え?」
「せんぱいがいないと、分かれちゃうんです」
「…何が?」
「愛ちゃんと、ガキさん」
「え」
「絵里と、さゆ」
「ち、ちょっと」
「小春と、ミッツィー」
「た、田中さん?」

…なんてこと。

「か、考えすぎだよ」
「そうかもしれんです。いつもってわけじゃなかですし」
「…うん」
「でも、最近。せんぱいが来なくなってから」
「………」
「なんか、そんな感じになってること多くて」
「………」
「ちょっと…その、寂しいっていうか」
「………」
「…辛い」

…どっちが、なの?
娘。が細切れになってしまうということと、
自分が孤立してしまうということ。
田中さんの表情や言葉からは、分からない。

いずれにしても。
なんともいたたまれない気持ちにされられてしまう。
学校のクラスとかで、女の子が小さいグループに
分かれてしまうことがあるというのは…聞いたことがあるけど。
娘。も同じ、と。そういうことなんだろうか。
深い、深い思考に引きずり込まれそうになった。

630 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:06

「でも、せんぱいがいると」
「あ…うん」
「そういうの、なくなります」
「え?」
「せんぱいの周りに、みんな集まってきて」
「………」
「れいな、そっちの方が落ち着くんです」
「………」
「頼っちゃ駄目だって。そう思うけど、けど」
「………」
「できたら、その、助けて欲しい」
「…田中さん」
「せんぱい」
「………」
「前みたいに、一緒に、いてくれんですか?」

「辛い」と。そう告白したときの顔そのままで請うてくる田中さん。
さっき頭をよぎった理屈。今は、そんなの、もうどうでもよかった。
僕がいることで、みんながひとつになれるなら。

「いいよ」

喜んでその触媒になろうと。そう思った。

631 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:07

「………」

黙ったままの田中さん。
ゆっくりと…近づいてきて。僕の服の端をつかむ。
一瞬だけ僕の顔を見上げて。けど、すぐに俯いた。

「田中さん」
「………」
「ごめんね」

田中さんが首を横に振る。意味を、分かってくれた。

「僕にできることなら、するから」
「………」
「ね」
「…はい」
「うん」
「せんぱい」
「なに?」
「ありが…とぉ」

そう言って、俯くのを止めてくれた田中さん。
けど、僕の服をつかむのは、なかなか止めてくれなかった。

632 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/06/30(土) 23:13
スレ的にどーなのよ、というネタですが。長いし。
そして問題は、次と次の次。

>>617
ありがとう、励みになります。

>>618-623
「悪戯」が消化不良気味…でも、美味しかったです。

>>624
お粗末様でした。おかわりいかが(^^;)

>>625
道重さんの姉御肌っぷりを表現したかったので。
伝わったなら、よかったです。

633 :名無し娘。:2007/07/01(日) 00:44
長くてもいい

634 :名無し娘。:2007/07/01(日) 13:04
腕白に育って欲しい

635 :名無し娘。:2007/07/01(日) 19:36
トリプにワッラタ>◆StatPfTBPc

636 :名無し娘。:2007/07/01(日) 21:55
そのトリップになんか意味あるの?

637 :名無し娘。:2007/07/01(日) 23:22
stat=statistics

638 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/02(月) 22:38
色々煮詰まった…から、レスだけ。

>統計さん
あっ、なんか申し訳ないです(^_^;)
呼称を決めてしまったようで……トリップまで(笑)

ま、それはそれとして。
今回も美味でございました♪
滔々と流れるように話が展開されてますねえ。
で、次は次は?

こっちがしでかした悪戯は、後からブログで触れましたけど。
ホントなんてことないし、なくていいものなんで(^_^;)

639 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/03(火) 21:38

>>476-511 のデータ、再集計してwikiに載せました。
集計期間や順位の決定方法を少々変更しましたので
結果が違っておりますが、あしからず。

640 :名無し娘。:2007/07/03(火) 23:24
>>639
乙!

641 :名無し娘。:2007/07/03(火) 23:39
10万文字超えてるってすごいね

642 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/07/04(水) 00:45
>>639 統計さん
どうも、乙です。
自分が、こんなにネタ書いてると思ってなかったんで、びっくりしましたw
いつ僕の夢物語が終わるかわかりませんが、これからも
がんばって行きたいと思います。

目指せ、すべて一位(笑)

今回の田中さんの作品も、よかったです。なんかもっとおかわりほしいぐらい(笑)
次の作品期待してます♪

643 :『主観と客観』:2007/07/07(土) 22:38

せっかくのオフだってのに。
そう思いつつも着替えを済ませてドアに手を掛けたところでその動きを止める。
防音が施された厚いドアの向こうに見慣れた先客の姿を見つけた。
気づかれぬようにそっと、小さく開いた隙間から身体を滑り込ませ、その先客の立ち居振る舞いを注視する。

抑えめに曲を流しながら、ただストレッチをしているだけだというのに……その所作から目を逸らすこともできずにいた。
小さな身体で座り込んで、四肢を伸ばしていくその動作があまりにしなやかで。
野を駆ける獣の美しさにも通ずるナチュラルな強靱。
惹きつけられるように一点を見つめる視線の先。
大きく開いた脚の間へ沈む上体は、なめらかな動きを損なうことなくペタリとフロアまで辿り着く。
立ち上がった鏡の前で伸ばした右手を軽くバーに添え、左の手を緩やかに広げながらスッと退いた右足がなにもない空間に線を描き、背中から、腰よりも上がった踵まで綺麗な曲線を浮き上がらせる。

「ほう」と、つい洩らした感嘆の吐息が一つの舞を終わらせてしまった。

644 :『主観と客観』:2007/07/07(土) 22:39

「せんぱいっ!?」
「邪魔しちゃったね。ごめん」
「ほやなくてっ、いつからいたん――、ずっと見て……?」
「あぁ、うん? ついさっきだよ、愛ちゃん」
「あ"〜っ」

その外見からは不釣り合いな、けれど聞き慣れた太い声で愛ちゃんが背を向けた。
別に見られることに慣れていないなんてことはないのに。
しかも同じグループにいる僕に見られたからって、なにを今更なんて思ってしまう。

「別に恥ずかしがらなくたって……」
「やっても……」
「見られるのなんて慣れてるじゃない」
「あ"? そっ、……せんぱいやし」

なにかごにょごにょ口籠ってる愛ちゃんを微笑ましく見ながら、今し方感じたことを伝えたいと思った。
こんなに近くにいた愛ちゃんなのに、改めて思い知らされた彼女の魅力を。

「ヘンだよ、愛ちゃん。まぁ僕もだけど」

そう苦笑いした僕を不思議そうに見てくる愛ちゃんへ言葉を続ける。

645 :『主観と客観』:2007/07/07(土) 22:39

「もう五年も一緒にいるのに、今更って笑うかもしれないけどさ。
 その……見蕩れてたんだ。綺麗だなあって」
「あの…なにに?」
「愛ちゃんに」
「へっ!?」
「なんだろう、その…立ち居振る舞いがさ」
「そんなことないですって」
「や、自分じゃ気がつかないんだろうけど。バレエの動きなんだろうね。
 つま先から頭まで、指先まで、ちゃんと“形”になってるなあって」
「そ、そう…ですか?」
「うん。そりゃあモデルさんたちみたいな整い方じゃないけど、身体のラインを綺麗に見せるみたいでさ」
「…なことないです」

どうやら喋りすぎたらしい。
愛ちゃんは照れたように俯いて、小さな声で僕を否定する。
それは愛ちゃんの理由だから構わないと言えば構わない。
けれど僕がそう思っていることは事実だから、それが伝わらないままなのは哀しいことだった。

「ある」
「ウソやぁ」
「そっか、愛ちゃんは僕を嘘つきだっていうんだ。そうなんだ」

どうしても。
本気で信じてもらえないことで意地になったのかもしれない。
ちょっとずるいやり方で、とりあえず認めてもらうところから始めよう。

「やっ、違います! そんな」
「でしょ? ホントだから」
「っ――、……はい」
「うん。愛ちゃんはキレイ」
「……ホント、ですか?」
「そんな嘘、ついたことある?」
「……ありがとおございます」

真っ赤な顔で、消え入りそうな声で、そう謝意を口にした愛ちゃん。
とりあえず、一歩進んだことに満足した僕は、笑いながら誘いかけた。

「さて。じゃあ練習しよっか」
「え? あ、はいっ」

こうして僕は、その気になった愛ちゃんの動きに付いていくのに苦心することになった。

646 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/07(土) 22:45

>>639 統計(仮称)さん
グ、グレードアップしてらっしゃる(^_^;)
大変お疲れ様でした。
ああいうの、見てるだけでも楽しいです。
ましてや自分も参加しているとなればなおのこと。

しかし上にいる方々はすごいですね。

作品の続きも期待してます。

647 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:10

コンコン

目の前の扉をノックする。
久しぶりのせいか、少し緊張していた。

「はーい」

中から声が返ってくる。久住さん…だな。

「あっ、せんぱい」
「うん」
「………」
「………」
「………」
「…ごめん、お邪魔だった?」
「あー、違います違います。そうじゃなくて」
「…じゃなくて?」
「えーっと」
「………」
「いや、あのっ。まー、どーぞ?」

…ホントに、いいのかな?
ちょっとだけ、不安になったけど。
とりあえず、中に入れてもらうことにした。

648 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:11

「あれ、ひとり?」
「はい。みんなは、まだです」
「そうなんだ」
「はい」
「それとさ」
「はい?」
「電気つけないで、どうしたの?」
「あー、ちょっと」

そう言って、窓の方へ歩いていく久住さん。
後に続いて久住さんの横に並び、様子をうかがう。
視線は、空の方へと向かっていた。

「…星?」
「はい。暗くした方が見えるかなー、なんて」
「そういえば七夕だったね、今日」
「はい。なので」

そう言って、暗い空に目を凝らす久住さん。
星、か。そういえば久しく見てなかったな。
にわかに興味が湧いてきて、久住さんに倣うことにした。

けど。

649 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:11

「…見えないですねー」
「ちょっと…曇ってない?」
「やっぱり?」
「…うん」
「あーあ」

残念そうに呟く久住さん。
でもその表情は、そんなことも楽しんでいるように見えた。

「せんぱい?」
「なに?」
「織姫って、あの辺にある星ですか?」

太陽が沈む方向の、低い空を指差す久住さん。

「…うーん、違う、かな」
「違うんですか?」
「うん」
「この前、晴れてるときに見たら」
「うん」
「あの辺にすごく明るい星があったから、そうかなって」
「そんなに、明るかった?」
「はい。夕方で、まだ結構明るかったのに」
「うん」
「はっきり見えました」

夕方の西の空に、とても明るい星。おそらくは。

650 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:12

「金星、じゃないかな」
「きんせい?」
「うん」
「なんですか?それ」
「えーっと」
「………」
「織姫星は太陽と一緒で、自分で光るんだけど」
「はい」
「金星は、地球の仲間なんだ。太陽の周りをぐるぐる回ってて」
「はい」
「太陽からの光を受けて、輝く」
「へー」
「『水金地火木土天海冥』って、聞いたことある?」
「あー、それあります」
「『金』は、金星のことね」
「…そうなんだ」

…おもしろくない、よな。
ちょっと、考え込む風の久住さんを見ながら、後悔する。
こういう蘊蓄って、どういう風に言えばうまいんだろうか。
同じく考え込む僕に、久住さんが口を開いた。

651 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:12

「ここのつ、あるんですか?」
「…え?」
「その、地球の仲間」
「うん」
「………」
「久住さん?」
「…小春たちと、一緒ですね」
「………」

…なるほど、そういうことか。

「…そうだね。9人だもんね」
「はい」
「………」

…確かにそうなんだけど、さ。
ニコニコしている久住さんとは対照的に、
僕の表情は曇ったに違いなかった。

652 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:13

「それでー」
「………」
「せんぱいは太陽」
「………」
「なんです」
「…は?」

…やられた。
会心の表情で、久住さんが僕を見つめる。
忘れてたわけじゃ、なかったんだ。

「…太陽?」
「はい」
「………」
「小春たちは」
「…うん」
「せんぱいの周りを回ってるんです」
「………」
「そうして、せんぱいから光をもらって、輝く」
「………」

言いながら、久住さんは僕の手を取って。
僕の周りをくるくると、公転しはじめた。
そんな久住さんにあわせて、僕も自転をはじめる。

653 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:13

「で、でもさ」
「はい?」
「太陽って、他にいなくない?」
「…誰ですか?」
「え、えっと」
「………」
「つ、つんくさん、とか」
「えー」

明らかに不満顔の久住さん。そ、そうなんだ…

「せんぱいが」
「…僕?」
「はい。せんぱいが、いいです」
「…でも、なんで?」
「うーん」
「………」
「………」

不意に、久住さんの公転が止まる。
飽きたのかと思い、手を離そうとしたけど。
久住さんの僕の手を握る力は、弱くならなかった。
うつむき加減の久住さん。真剣な表情に変わっている。

654 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/07(土) 23:14

「せんぱい」
「うん」
「その、さっき、ごめんなさい」
「え、何?」
「さっき、ドア開けたとき」
「………」
「せんぱいが来るの、久しぶりだったから慌てちゃって」
「………」
「ぜんぜん邪魔なんかじゃないのに」
「そんなの…気にしないで」
「…はい」
「…うん」
「それと」
「なに?」
「さっきの星の話。すごく、ためになりました」
「そんなに大したこと、話してないよ?」
「そんなことないです。ああいう話って」
「うん」
「せんぱいからしか、聞けないから」
「………」
「だから…せんぱい」
「…うん」
「これからも、いろいろ教えてください」

さっきの…久住さんのたとえ。
その意味が、少しだけ分かったような気がした。
ちょっと、買いかぶりすぎだと思ったけど。でも。
できる限りのことはしてあげようと、そう思い直して。

「僕で、いいのなら」
「…もちろんです」

久住さんは、いつもの笑顔に戻ってくれた。
そして、また僕の周りを回り始める。

「く、久住さん?」
「はい?」
「ち、ちょっと」
「これ、なんかよくありません?」

僕が目を回すまで、久住さんは止まってくれなかった。

655 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/08(日) 00:10

やっべーどんどん長くなってる。
しかも曇ってるかと思いきや晴れてやがった外。

>>635
トリップを嗤われるとは思いませんでした

>>637
>>640
どもです

>>642
そちらこそ乙です 完全制覇、頑張ってください

>>643-645
愛ちゃんイイですね 流石です 勉強になります

>>646
より厳密にしたつもりなんですけど…見にくくなっただけかも
続き書きましたが… ホント素人なんでそのうち期待を裏切ります(^^;

656 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:39

撮影の順番までまだ少し時間がある。そう教えてもらってすぐに楽屋を出た。
特にどうしようと思ったわけでもなく、時間潰しに外の空気を吸ってこようと思っただけだった。
ホールで下りてくるエレベーターを待っていると、すぐ後ろで感じた気配に振り返る。

「あぁん」
「なに、その手は」

可愛らしく悔しがるさゆの両手が僕の顔まで10cmのところで止まっていた。
黒目がちな瞳が挙動不審に泳ぐ。

「ったく……」
「えへ♪」

未遂に終わった悪戯なんて気にもしない笑顔。

「で、どこ行くの?」
「せんぱいはドコ行くんですか?」
「ちょっと散歩がてらコンビニでも行こうかなって」
「じゃあさゆみもそうします」

なんの惑いもなく、さもそれが当たり前のことであるかのように言われた。
言い切られた僕としては笑うしかない。
そしてあおれを当たり前として受け入れるしか。

657 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:40

エレベーターが止まり開いたドアの中に先客が一人。
笑いあっていた僕らは何故だか少しだけ表情を戻して静かになる。
一階下でエレベーターが止まり、唯一の先客が降りていった。
締まり掛けたドアの隙間から誰かが駆け寄ってくる姿に気がついた僕がドアを開けてあげる。
開いていくドア。なぜだか隣にいたさゆが僕の後ろへ隠れるように動いた。

「ありがとうございますう」
「……おやまあ」
「せんぱい、おはようございまぁす」
「おはよ。桃子ちゃん」
「? あっ、おはようございまぁす、道重さん」
「お、おはよ……」

僕の背中からさゆの声。
あまり聞いたことがない種類の声だった。

「さゆ?」
「“さゆ”? じゃあじゃあ、わたしも“もも”って呼んでほしいですう」
「なっ――、桃子ちゃんは桃子ちゃんでいいじゃん」
「やですよお」
「え〜っ! そ、それより桃子ちゃん、なんでいるの?」
「私たちも撮影があるんですけどお。せんぱいたちもですか?」

短いけれど、どこか火花が散るようなやりとりだと感じたのは気のせいだろうか。
不意に振られてようやく居場所を得たような心地になる。

658 :『僕は知らない』:2007/07/10(火) 23:41

「え? …あ、うん。桃子ちゃんたちは僕らの後なのかな。一人でどっか行くの?」
「ちょっと、さゆみが訊いたのに――」
「お二人はどこに行くんですか?」
「うん。ちょっとすぐそこのコンビ――」
「あーっ! どこも行かないよ」

僕の言葉を遮るように、背中から身体をのりだしたさゆの声が大きくなる。
ビックリしたように――僕も驚いたけど――目を見開いた桃子ちゃんが、一呼吸置いてからその特徴のある目を細めた。

「わたしも連れてってくださーい」
「あっ、ほら。すぐ戻ってくるから。桃子ちゃんは。ね、せんぱい」

僕はなにをそんなにさゆがテンパってるのか理解できない。
というよりも、ついてきたいならいいんじゃないかなとも思うし。

「いいんじゃない」

短く言い放った僕の一言で、桃子ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
そしてさゆはおかしなくらいに肩を落とした。
二人の対比を不思議に思いながら、エレベーターを出たところで思った。
この二人、いつこんな関係になったんだろうって。

659 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/10(火) 23:42

ラジオは聴いてないんですけど、各所の話題から想像して書いてみました。

>>647-654 統計(仮称)さん
私も気にしてましたけど、気にしない方がいいらしいです、長さ。
で、ちょっとうまく数字で絡めたいい話でした。
小春いい子だなあ……(ホロリ
統計さんの“僕”がどんどんと他の誰でもない“僕”になってきてる感じがしました♪

660 :−ストレッチ−:2007/07/11(水) 00:35

「よいしょっと」

一人、ダンスレッスンの準備のため、早めに来てストレッチをする。
開脚をして、ベターっと頭を床につけて深呼吸をする。

「ん〜…やっぱり、股関節がちょっと硬くなってるかも…」
「おはようございま〜す♪」

鏡を写して見えたのは、レッスン着の絵里が立っている。
僕は、開脚したまま顔を上げた。

「あぁ、絵里。おはよ〜♪」
「あ、先輩おはよ…えぇ〜!?」

絵里は、僕を見て驚いた表情をしている。

「どうしたの?」
「先輩って、そんなに体柔らかいんですか?!」
「うん、そうだけど…あれ? 知らなかった?」
「はい、先輩コンサートの時いつも自分の楽屋に居るから」
「そっか、みんなでストレッチとかしないもんなぁ〜…あ、絵里。後ろから
 押してくれないかな?」
「はぁ〜い♪」

絵里が、僕に駆け寄ってきて背中を優しく押す。

「うわ〜、やわらか〜い♪」
「絵里も、柔らかいじゃん。それと、一緒だよ」
「でも、男の人もこんなに柔らかくなるんですね」
「まぁ、毎日努力してますから」
「さすが、先輩♪ えいっ!!」

僕の体に急に重みが加わった。

「ちょ、ちょっと絵里〜お、重い…」
「むぅ〜、重くないです〜」

絵里が、さらに僕に体重を預けてくる。ってか、背中になんか当たってるから!!

661 :−ストレッチ−:2007/07/11(水) 00:35

「ギブ、ギブ!!」
「許しませ〜ん!! 絵里は、重くないです〜」

我慢できなくなって無我夢中で体を捻る。

「キャッ!!」

僕は、気づくと絵里の上に倒れこんでいた。

「あ、ご、ごめん!!」

慌てて離れようとすると、絵里は僕をがっちりと腕でロックして離そうとしない。

「絵里?」
「先輩…たまには、甘えていいですよね?」

絵里は、僕を見つめていた。そして、ゆっくりと目をつぶる。

「・・・」

僕も、そのまま絵里の唇に…

「おはようございま〜す!!」

レッスン場に愛ちゃんが、元気に入ってきた。慌てて離れる二人。

「おぉ、●●と絵里。早いね〜」
「う、うん。ちょっと早めに来て絵里にストレッチ手伝ってもらってたから」
「ほんまかぁ〜。あ、絵里昨日話してた服屋行ってきたやよ♪」
「ほんとに♪」

絵里が、愛ちゃんの方へ向かおうとする時僕の耳元でこう囁いた。

『また、一緒にストレッチしましょうね♪』


僕は、その後なぜかレッスン場で筋トレを始めていた。

662 :TACCHI ◆wJKONNaqEI :2007/07/11(水) 00:40

今回は、亀井さんを中心に…
チョイエロでw

>>659 匿名さん
ラジオ聞いてないんですが、なんか作品見ただけで、修羅場みたいな
感じがしますねw
女の子って怖いなぁ〜って、この作品見て改めて思いましたね…


今週中にもう一本書けたら書きます。三連休は、暇なので…(泣)

663 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:00

「おはようございまーす」

久住さんとの、ちょっとした遊びが終わってすぐ。
ドアが開く音と共に、聞き慣れた声が楽屋に響いた。

「あー、ミッツィーおはよー」
「おはよ。お邪魔してます」
「あ、せんぱいに久住さん。おはようございます」

ペコリとお辞儀しつつ、改めて挨拶してくれる光井さん。
そんな彼女を見てふと思い、久住さんに問いかける。

「光井さんは…どう?」
「はい?」
「さっきの、太陽は誰かって話」
「…なんでですか?」
「………」
「………」
「…いや」
「え?」
「ごめん。なんでもない」

…自分のアホ。

664 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:01

「ミッツィー」
「はーい」

言いながら、久住さんが手招きする。
光井さんは笑みを浮かべながら、トテトテと寄ってきた。

「おふたりで、なにしてたんですか?」
「えっとねー、地球とその仲間たちの話」
「…へ?」

光井さんが首をかしげる。

「光井さん、太陽系」
「…あー」
「七夕でしょ今日。織姫星のことから、話が飛んでさ」
「そういえば、七夕でしたね今日」
「そうそう。それで、せんぱいが太陽なの」
「…はい?」

光井さんが再び首をかしげる。
久住さん…もうちょっと説明してあげないと、ね。

「僕が太陽で、光井さんたちが惑星なんだってさ」
「………」
「ほら、数。ぴったりじゃない?」
「…なるほど」

指折りしながら、光井さんが答える。納得したようだった。

665 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:01

「…わたしは、冥王星かな」
「え?」
「………」
「…なんで、そう思うの?」
「うーん。いちばん年下、だから?」
「………」
「あ、いや。なんとなくです。なんとなく」
「………」

そう言って、ごまかす光井さんだったけど。
自らの謙譲と、他のメンバーへの尊敬を意識した言葉に思えた。
まだ14歳、中学生の光井さんだけど。
こういうところが妙にしっかりしてて、感心する。

「せんぱい」
「………」
「せんぱい?」
「あ、ごめん。なに?」
「太陽にいちばん近いのって、確か水星ですよね?」
「ああ…そうだね」
「…誰でしょうね?」
「え?」
「せんぱいが、太陽なら」
「…うん」
「水星は?」
「………」

666 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:02

質問の真意。分かったような、分からないような。
そして、答えられないというか、答えたくないというか。
僕を見つめる光井さんは、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
どうやらからかわれているらしく、ちょっと憎らしく見えた。

…よーし。

667 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:03

「光井さん」
「…え?」
「光井さん、だよ」
「………」

顔を赤くする光井さん。
さっきから一転して、とても可愛らしく見えた。

「や、でもお」
「なに?」
「わたしはー。ほら、さっき」
「うん。光井さんはそう思ってるのかもしれないけど」
「………」
「僕は、そうじゃないから」
「………」
「…だめ?」
「え?」
「僕がそういう風に思ってるの、迷惑?」
「やっ、そんなこと。…でもぉ」
「でも?」
「………」

今度は、俯き加減でモジモジし始める光井さん。
ちょっと、やりすぎたかな。

668 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:04

「…ごめん」
「え?」
「冗談」
「………」
「光井さんの質問、ちょっと意地悪だったから。つい」
「…もう」
「うん。でも、ごめんね」
「いえ、わたしも。ごめんなさい」

一瞬、頬をふくらませた光井さん。
けど、すぐに笑顔に戻って、許してくれた。

「…でもさ」
「はい?」
「100パーセント、冗談ってわけじゃないよ」
「………」
「初めて会ってからまだ半年だし」
「………」
「仕事も、別々のこと多いじゃない?」
「…はい」
「だから光井さんのこと、まだよく分かってないと思う」
「………」
「だから…気になってる、っていうか」
「………」
「うまく、言えないんだけど」
「…わたしも」
「え?」
「おんなじこと、思ってました。たぶん」
「…そっか」
「はい」
「………」
「………」

そう2人で言いあい、2人で見つめあって。
そして、2人で笑いあった。

669 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:04

「…ちょっとー」
「「あ…」」

やばい。すっかり忘れてた。

「なに2人でいい雰囲気作っちゃってるんですかー」
「ごめんなさい」
「ごめん」
「だめです」

光井さんと違って、久住さんはなかなか許してくれなかった。

670 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/07/12(木) 21:05

>>647-654 の続きということで。
これで7人、順番に、ひと通り登場させ終わりました。
最後の方は、無理矢理です。こんなんでどうもすいません。

>>656-658
へぇー、こんな話が。知りませんでした。

>>660-661
こういう描写って難しいと思いますが、うまくこなされますね。

671 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:43

パーティを終えた帰り道、比較的近くに住むメンバーを送り終えた僕は車を停めミラー越しに後部座席へ目をやった。
綺麗にラッピングされた色とりどりの荷物に囲まれて、窓ガラスにもたれて静かな寝息。
一つだけ、膝の上にあるのは僕が送ったプレゼントだった。

「そんなに抱え込まなくても……」

両手で包むように大事そうに抱えられたそれは、さゆが本当に喜んでくれたという印のようでこっちまで嬉しくさせられる。
腕の中にあるそれを誰にも取られるもんかって、そんな風に主張しているみたいだった。

「誰も取ったりしないのにね」

喉を鳴らすように笑ったのが聞こえたんだろうか、さゆが「んっ」と吐息を洩らす。
ミラー越しのさゆが薄く目を開き、確かめるように瞳をさまよわせた。

「さゆ?」

後ろへ半身を乗り出して問いかけるように名前を呼ぶと、薄く開いていた瞳が僕へ向くのが解った。

672 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:43

「さゆ」
「……せんぱい?」

もう一度、抑えた声で呼びかけると、寝ていたためだろう僅かに掠れた声が返ってくる。

「さゆみ…、寝ちゃってたんですね」
「はしゃぎすぎたんじゃない?」

そうからかうと、少し身体を起こしたさゆが「そんなことないですぅ」と可愛らしい反論をしてくる。
その口振りがとても“らしくて”、僕は更に言葉を重ねる。

「いくら主賓だからってあんなにはしゃげば疲れるのも無理ないよ」
「イーッだ。……せんぱいイジワル」

拗ねる仕草も自分で言うだけあってなかなかに可愛らしいけど、本当に拗ねられると厄介なことも学んでいる。
引き時だと判断して話題を変えるために目に付いたものへ話を流した。

「にしてもさ、そんなに喜んでもらえた? それ」
「え? あぁ」

さゆは腕の中の包みに目を落とし、そのプレゼントを見つめたままで、ポツリと「嬉しいですよ」と呟いた。

673 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:44

「気に入ってくれたなら嬉しいけど。自分で言うのもヘンだけど、大した物じゃないのに」
「せんぱいがくれた物だから」
「そりゃどーも。結構悩んで決めたものではあるんだけどね。こないだのお詫びの意味――、あっと」
「おわ…なんのことですか?」
「…ほら、桃子ちゃん」
「ああ、あれ。あれは別に」
「解ってる。好きは好きなんだよね」
「そーですよ。ただあのときだけぇ……」
「うん。だから。あのときのお詫び」

そう改めて言った僕を何故だかさゆはじっと見つめている。
少し首をかしげてチラリと視線を逸らしたさゆは、少し表情を変えて話し出した。

「なら、一つお願いしていいですか?」
「…なにを?」
「オッケーしてくれなきゃ言いませんっ」

674 :『経験値』:2007/07/15(日) 23:45

妙な押しの強さにイヤな予感はしたけれど。
まあ誕生日祝いだと思って取り敢えず了承の言葉を返す。

「……いいよ」
「ホントに?」
「…ホントに」
「じゃあちょっとだけ目閉じててください」
「ヘンなことしない?」
「しません。ヘンなことってなんですか」
「……さあね。じゃあ、はい」

なかなか侮りがたい。
仕方なく目を閉じて、残った感覚に身を委ねる。
微かな衣擦れの音と揺らぐ気配。
半ば直感で身を退いて目を開くと、目を閉じたさゆがすぐそこにいた。
様子を窺うようにゆっくりと開いていく瞼が上がりきる前にヒョイと顔を寄せた。

「あっ」

頬へ手をやったさゆが小さな驚きを洩らし、それからなにをされたのか気がついたように呟いた。

「やっぱりせんぱいってばイジワルです」

自分の悪戯がうまくいかなかったことを残念そうに。
けれど少しだけ嬉しそうにはにかむさゆへのハッピーバースデイ。

675 :匿名 ◆TokDD0paCo :2007/07/15(日) 23:54

遅くなったけど道重さんおめ。
遅くなるけど明日は小春をなんとか…したいかな。

>>660-661 TACCHIさん
亀井さんで微エロいーですね。
明日辺りまた更新でしょうか。わくわく。

>>663-669 統計さん
ヤキモチ小春♪
いや、主役は光井さんですね。
そうか、もう書ききりましたか……で、次は?(笑)
まだまだ期待してますからねー。

676 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:24

連日の――正しくは一日空いてるけれど――誕生パーティだった。
一昨日のさゆのバースディは、翌日のスケジュールに余裕があったおかげでそれなりのものだったけれど、今日、小春ちゃんのそれは仕事終わりの控え室を借りた簡素なものになってしまった。
それは前から解っていたことだけど、たった二日違いで、しかも小春ちゃんの方が年下なのに、我慢を強いているようで可哀想だと感じていた。
もちろん小春ちゃんはそれに不平を言うわけではないし、表情に出すこともないけれど、きっと淋しく感じているに決まっている。

だから。
少しでも喜んでほしくて、ほんの些細なサプライズを用意した。
デリバリーのピザや買い込んだ飲み物、食べ物での簡単なパーティを終えて、愛佳ちゃんから順にプレゼントを渡していく。
そうして僕自身の番になり、目の前に小春ちゃんがやってくる。

「せんぱい?」

両手になにも持っていない僕へ訝るような愛ちゃんの声。
小春ちゃんは大きな瞳で真っ直ぐに僕を見ている。

「僕からのプレゼントはここにはないんだ」
「え?」
「おいで」

そう誘ってドアを開ける。
小春ちゃんの後についてこようとするメンバーへ「小春ちゃんだけだよ」って笑うと、一斉に不満を訴える声が上がる。
呆れた口調で「誰の誕生日?」と問い掛けたら瞬く間にその声が止んだ。
まあ何人かは言いたいことがありそうな顔だったけれど。
それは後でフォローするとして、今は小春ちゃんに意識を戻す。

677 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:25

廊下へ出たところでこっちを見て待っている小春ちゃんの背を押して、一つ隣の部屋の扉で立ち止まる。

「どうぞ、お嬢さま」

大仰な仕草で小春ちゃんに、開けた扉の奥を指し示す。
照明だけがつけられたテーブル一つしかない部屋へ小春ちゃんが入ったことを確かめて、後へ続いた僕は後ろ手に扉を閉める。
その音で振り向いた小春ちゃんが不思議そうな表情を見せたそのとき、なにも言わずに照明を落とした。

「きゃあ!?」

突然の暗闇に小春ちゃんの悲鳴が重なった。
僕は闇の中で感覚的に伸ばした手で小春ちゃんを捉える。

「やあっ、せんぱい!? 怖いよおっ」
「大丈夫だから。すぐそばにいるから。ね? 落ち着いて」
「っ……、せんぱい」

よほど怖かったのかしがみついて離れない小春ちゃんを片手に、空いた手でそっとスイッチを探った。
指先に触れた感触でそれがそうだと解り、スイッチを入れると僅かな光源となる。
まったく見えなかった小春ちゃんの顔が見えて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
その大きな瞳にうっすらと涙を浮かべ、僕の腕を掴んだ手が強ばっていることも解ったから。

「ごめん。ちょっとやりすぎた」
「…せんぱぁぃ」

顔を上げた小春ちゃんが僕を見つけ語尾が弱く震える。
驚かせたいとは思ったけれど怖がらせるつもりなんて無かった。

678 :『指定席』:2007/07/17(火) 02:26

「ごめんね。ちょっと驚かせようとした。ホント、ごめん」
「…せんぱい?」
「見て」
「え? ……うわぁ」

僕に釣られるように視線をあげた小春ちゃんが感嘆の声を上げる。

「星だぁ」
「うん。なにがいいかなって考えたとき、この前した話を思いだしたんだ」
「この前? あっ」
「小春ちゃん専用の星たち」
「嬉しいです。ありがとうございます」

僕の腕を掴んでいた手から力が抜けて、いつの間にか優しく絡めるように変わっていた。
その手が不意にクンと引かれる。

「せんぱい?」
「うん?」
「小春専用なんですよね?」

小春ちゃんが満天の星を見上げてそう確認してきた。
言うまでもなく、それは小春ちゃんのためのものだから。

「そうだよ」
「なら……こうやってる小春の横は、せんぱい専用です」
「…そっか。うん、嬉しいね」
「嬉しいですかあ?」
「うん。嬉しいよ」
「せんぱいが嬉しいと小春も嬉しいです」

そう笑う小春ちゃんはこの部屋を埋める星たちでは到底敵わない。
作られたそれではない自然な、素敵な笑顔を浮かべていた。

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0ch BBS 2006-02-27