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ときめきモーニング

1 :サボテン:2003/09/10 15:13:57
季節を選択してください

1 春
2 夏
3 秋
4 冬

636 :サボリン:2004/01/31(土) 22:53
 
 
と、みうなが、声もなく血を頭からふきながら崩れ落ちる。

「・・・・・・」

みうなの目から涙が流れて宙に飛んだ。


ドクン!


「!」

「!」

「!」


急に絵里ちゃんとれいなが頭を抱えて苦しみ出す。

…さゆみちゃんも唇を噛んで眉を寄せて苦しそうだ。


「み・・・みうなさん!!!!」


「ぐっ!ううっ!!」


「・・・・・・ぁぅっ!」


ドクン!



「さゆみん!!」

裏門からゴジラ化した里沙が見守っていた。。



「おぉお! いっ、いかん!」

体育館の裏から飯田先輩が出てきて叫んでいた。。
 
 

637 :サボリン:2004/01/31(土) 22:53
 

















      「 に ゃ ァ ア ァ お ッ !!」

















 

638 :サボリン:2004/01/31(土) 22:54
 



・・・・さ、さゆみちゃんが叫んだ。。



さゆみちゃんは頭を押さえて空を見る。

苦しそうだ。頭から風車がポトンと落ちた。

みんなボーゼンとして見守っている。

と、さゆみちゃんが両手を胸の前に据え、

手のひらの間になんか力を込めている。

鈍い光が真ん中に見える。


「や・・・・やめなさい・・・・

 さゆ・・・・そ・・・それは!」






      サァァー───────-──-─-ッ






「なっ、何だ!?」


「ひっ、光が・・・・集まってる!?」


「まさか、そんな!!」


「さゆみんが!!」

 

639 :サボリン:2004/01/31(土) 22:55
 







     キィィー────────-──-─-ッ







「!」







                         カッ







さゆみちゃんのまわりに白い球体が見える。


さゆみちゃんは肩の力が抜けたのだろうか、


丸めていた体を起こして、満足そうな表情だ。


と、辺りは光に包まれて何も見えなくなる。。。

 

640 :サボリン:2004/01/31(土) 22:56
 
 
「・・・・れいな!
 ・・・・みんなを助けるのよ・・・・
 一人でも多く・・・・」


「ど・・・・どこへ・・・・・・
 急がなかと、れいなたちも出られなくなるとよ!」


「・・・・どこでもいいから・・・・
 二人で力を合わせてみんなを飛ばすのよ・・・・」


「・・・・うん!」





気がつくと俺たちのまわりに大きな透明の球体ができている。


球の外では、上空に暗雲が立ちこめ、辺りがもの凄い嵐に包まれている。








     ドドドドォォオオオオオオオァァァアアアア!!!!









 

641 :サボリン:2004/01/31(土) 22:56
 
 
「れいな!」
「絵里!」


「今よ!」
「うん!」


「やっ!」
「ちゃっ!」



         ・


                       キュン!


         ・




・・・・うわぁ!!



いきなり学校全体が宙を浮いている。


しかも、かなりの上空だ。東京の街が一望できる。

 

642 :サボリン:2004/01/31(土) 22:57
 
 
って、おい!


・・・・ハルマゲドンが起きちゃったんですかぁ??


 ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド


ビルを次々となぎ倒しながら黒い球体がどんどん大きくなっている。


・・・・おいおいおいおい、ヤヴァすぎだぞコリャ!!!


東京全体を包み込む勢いでどんどん球体が大きくなっている。


それと共にオレたちもどんどん上空にいっているようだ。


東京湾の形が見渡せるほど上空だ。


もうビルとか道路とか見えない。


あたりを見渡すと、みんなが宙を浮いている。


って、オレも宙を浮いていた。地に足がつかない。


校舎や校庭が真横に傾いたままオレたちと一緒に宙を浮いているんだ。


どうりで下の方が見えるはずだ。。

 

643 :サボリン:2004/01/31(土) 22:59
 


あれ?体育館の方にひとみと小川さんが見える。


オロオロしている。あいつらまで巻き込まれたのか。。


他のみんなも不安そうな顔をしている。


オレも宙に浮いていると不安定で怖い。誰かにつかまりたい。


いつの間にか手錠ははずれていた。


誰につかまろうか。。





【以下の中から、一人選んでください(愛称略)】

 高橋 藤本 紺野 亀井 里田 後藤 田中

 加護 辻 石川 安倍 矢口 中澤 松浦 吉澤 小川

(ここでは親密度が0以下の人物は選択肢に表示されていません)
 

644 :名無し娘。:2004/01/31(土) 23:01
吉澤


理由:安定感があるから

645 :名無し娘。:2004/01/31(土) 23:29
捕まったら一緒に飛ぶのかな?
そこんとこ見てみたいから矢口

646 :名無し娘。:2004/01/31(土) 23:38
紺野

647 :名無し娘。:2004/01/31(土) 23:55
後藤

648 :名無し娘。:2004/02/01(日) 02:57
藤本

649 :名無し娘。:2004/02/01(日) 04:57
中澤

650 :名無し娘。:2004/02/01(日) 07:05
紺野

651 :名無し娘。:2004/02/01(日) 11:51
高橋

652 :名無し娘。:2004/02/01(日) 13:47
石川

653 :名無し娘。:2004/02/01(日) 17:20
紺野

654 :名無し娘。:2004/02/02(月) 12:53
矢口

655 :名無し娘。:2004/02/02(月) 20:07
高橋

656 :名無し娘。:2004/02/02(月) 20:13
高橋

657 :名無し娘。:2004/02/02(月) 21:06


658 :名無し娘。:2004/02/02(月) 22:30
紺野

659 :名無し娘。:2004/02/04(水) 17:01
道重

660 :名無し娘。:2004/02/04(水) 22:59
高橋

661 :サボリン:2004/02/04(水) 23:08
紺野でいきますか。

662 :名無し娘。:2004/02/06(金) 00:22
川 TーT)<票数は負けていないやよー

663 :サボリン:2004/02/07(土) 16:18
 


 ・・・・紺野さん。


オレは必死になって紺野さんの方に近づいた。


紺野さんに手を伸ばすと、紺野さんの方も手を伸ばしてくる。


 ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド


下を見ると、球体はさらに大きくなって、東京全体を覆っていく。


こちらに近づいてくるようも見える。


と、辺りが光で包まれ出す。


    ー-──--───────────────-──-─-ッ!


「紺野さん!」


「○○さん!」


パシッ。やっとの思いで紺野さんの手を握りしめた。と、


                                         カッ


辺りが真っ白になって何も見えなくなる。



 

664 :サボリン:2004/02/07(土) 16:19
 


だんだんと・・・




意識が・・





遠・・































 

665 :サボリン:2004/02/07(土) 16:20
 

















・・


















 

666 :サボリン:2004/02/07(土) 16:20
 






・・・








・・・おっと、ついつい眠ってしまったな。


…小春日和の陽気に誘われて眠ってしまったらしい。

…どうもおかしな夢を見た気がするが、、

…こんな事をしている暇はない。
今日は愛さんの家庭教師の日なのだから。
そろそろ出立せねばなるまい。

辞書と筆記用具を鞄に詰め、着物の帯を締め直していると
「□□さ〜ん、高橋様のお使いが来なすったえ〜!」
と、けたたましい真里さんの声がする。
真里さんは下宿屋の娘で、身の回りの世話を焼いてくれる人だ。

…誰だろうか、なにがあったのだろう。。
慌てて一階に下りていくと、あさ美が玄関先で待っていた。
あさ美は愛さんの所の女中だ。苦労して両親に仕送りをしている身だ。
 

667 :サボリン:2004/02/07(土) 16:21
 
「おや、あさ美じゃないか、どうしたんだい?」
「あ、□□先生、まだいらっしゃったのですね、良かったです、
 実は、今日はお嬢様が学校のお友達と予定が出来てしまって
 授業を一時間ほど遅れて始めて下さるよう、お言付けに参りました」
あさ美は、早口に一気に言うと、はぁはぁと深呼吸を始めた。
「そうかい、ご苦労だったね、
 二階へお上がりよ、お茶でも飲んでいくといい」
「そういうわけにはいきません、仕事がありますので」
「かまやしないさ、どうせお圭さんの小言を聞く仕事だろう
 それにお屋敷から走ってきたのだから休まない法があるかね
 休むのも仕事のうちさ、お圭さんには言っておくから、さあお上がりよ」
「すみません、じゃあ…」
私はあさ美を部屋に案内し、真里さんにお茶を頼んだ。

部屋へ上がったあさ美は落ち着かない素振りで
座布団の端をいじくっては大きな目をきょろきょろさせていた。
あさ美も女らしくなったものだ。少し前までは煙草盆だったのに
今では、うなじの部分で髪を二つにまとめて淡紅色のリボンをつけている。
色褪せた黄八丈にリボンが映えて綺麗だった。

ふと見ると手になにやら本を抱えている。。
あさ美は最近、愛さんの勧めで字を学び始めた。
仕事の合間を見ては教本を開いていたので女中頭のお圭さんに見つかり、
お前のような者には読み書きなど必要ないと教本を取り上げられたが、
あさ美は時折頑固なところがあり、仕事は確かにやるので返してくれと言い張った。、
お圭さんは根負けし、愛さんの手前もあって教本を返してやったという。
初めのうちは愛さんがままごと宜しくあさ美に教えていたのだが
存外に覚えが良くて愛さんでは追いつかないようになってしまった。
それで、愛さんの授業が終わると帰り際に私に読み方を聞くことがあり、
今日も素直に上がってきたところを見ると字を教わりに来たのが本当らしい。
 

668 :サボリン:2004/02/07(土) 16:21
 
案の定、お茶を飲み終わらないうちに質問をしてきた。
「先生、…これは?」
「ハヘン」あさ美の後ろから本を覗いて答える。
「…これは?」
「ボヒョウ」
「…そうして…天から落ちて来る…星の…破片を…墓標に置いて下さい…」
あさ美は首を傾けながら字を追って、唇を金魚のようにすぼませながら
たどたどしく音読した。
「…漱石かい、随分難しいのに挑戦しているのだね」
「はい、奥様に勧められて」
「うん、それは短編だから読みやすいが、…逆に難しいかも知れないよ」
「……、…」
私の話が耳に入らないようで、あさ美は必死に目を上下に動かしていた。
「日が出るでしょう…それから日が…沈むでしょう…
 …それから…また出るでしょう、そうしてまた…沈むでしょう…」
あさ美がまた音読を始めたので、私は格子越しに通りを眺めていた。
「…赤い日が…東から…西へ…東から西へと…落ちて…行くうちに、
 …あなた……待っていられますか……先生?……□□先生?」
「…ん?」
「…これは?」
「どれどれ…ウナズいた」
「…あと、これ」
「チョウシ」
「……自分は…黙って…首肯いた…
 …女は…静かな…調子を一段…張り上げて、
 百年…待っていて下さい…と…思い切った…声で…云った……」

「……」
 

669 :サボリン:2004/02/07(土) 16:22
 
「…百年かぁ、あと百年経ったら…え〜と、二千十四年ね、
 世の中は随分変わるでしょうね」
「そうかねえ」
「だって、先生、私が生まれてからで言ったって
 自動車が走るようになったり、電器が付くようになったり
 凄い変化じゃないですか?
 百年後にはもっといろいろなものが出来ているはずだわ」
あさ美は何を想像しているのか、目を輝かせていた。
「百年やそこらじゃ人間は変わらないさ
 僕たちの孫の世代はまだ生きているだろう?
 そんなものだよ百年だなんて」
「あら、先生は案外夢のないことをおっしゃるのね」
「僕ならもっと先、そうだな千年後の未来を考えるね」
「…千年後?…二千九百十四年?…だめっ、私想像つかないわ」
「ハハハ、そりゃそうだろう」
「先生には想像がつくの?」
「いや、わからないね、
 でも社会のシィステムは大きく変わっているだろうねえ
 もしかしたら人間なんて滅びているかも知れないよ」
「やだ、怖いことをおっしゃるのね」
「なあに、あさ美のようにようく食べる女が
 たくさん子を産み続ければ問題はないさ」
「…ひどいわ先生ったら」
「ハハハ、…おっと、そろそろ時間だね」
私は懐中時計を取り出して時間を見た。
「あら、もう? 何時ですか?」
「3時だよ、少し早いがそろそろ出ようか
 いつもゆったりと散歩をしながら行くのだよ
 今日はあさ美も付き合ってくれ給え」
「…はい」

二人そろって根津の下宿を出た。
小石川の愛さんのお屋敷までは言問通りをまっすぐに行くのが早いのだが
不忍通りの木々を見ながら行くのも悪くない。それに不忍の先の無縁坂には
お美貴という女が家を構えていた。お美貴は某の高利貸しの妾であるという噂だが
私が無縁坂を通る折には決まって挨拶をしてくれる、気立ての良い女であった。
少し気になっているのだが、今日はあさ美もいるのだから言問通りから行くべき
だろうか。それに言問通りには「ごとう」という団子屋があるので
途中あさ美に団子を買ってやって食べる様を観察するのも面白いかもしれない。

さて、




1 不忍通りから行く。
2 言問通りから行く。
 

670 :名無し娘。:2004/02/07(土) 17:18
1で

671 :名無し娘。:2004/02/08(日) 08:33
おぉいきなり文学的になったな
1で

672 :名無し娘。:2004/02/08(日) 15:15
1で

673 :名無し娘。:2004/02/09(月) 14:02
2

674 :名無し娘。:2004/02/09(月) 20:42
2

675 :名無し娘。:2004/02/09(月) 21:23
1

676 :名無し娘。:2004/02/10(火) 21:22
1

677 :名無し娘。:2004/02/10(火) 23:02
2で

678 :名無し娘。:2004/02/11(水) 03:55
2

679 :名無し娘。:2004/02/11(水) 04:00


680 :名無し娘。:2004/02/11(水) 15:40
2

681 :サボリン:2004/02/13(金) 15:24
 
「あさ美、少し遠回りになるが不忍通りから行くとするかね」
「はい」
あさ美は何も言わずに雪駄をからころ鳴らしながらついてくる。
不忍通りを南にゆくと左手の池から清らかな水草の匂いがした。

「好い天気だねえ」
「ええ、本当に」
そう言ってあさ美は午後の日差しを避けながら私を見上げた。
しばらくすると無縁坂に差掛かり私はいつもの癖で右に寄れた。
あさ美は進路を外されてきょとんとした顔でついてくる。
「こちらの通りの方が静かで好いのだよ」
「そうですか」

そう言って二人は無縁坂を上り始めた。坂を上ってすぐ二三軒目の右手に
御影石を塗り込んだ上がり口に、格子戸を綺麗に拭き入れた家が見えてくる。
お美貴の家だ。と、門の前を見て驚くにお美貴が立ってこちらを向いている。
普段は肘掛窓からひょいと顔を出して挨拶をするだけのお美貴が
今日に限って門先に立っていてやや深めに頭を下げてくる。
私も慌てて帽を取って礼をしたが、蝉の羽のように薄い銀杏返しの鬢に
尋常ならざる美しさを感じて思わず歩みを止めた。
お美貴はちらりとあさ美を見てから深い眼を私に寄せた。

「…なにか?」
緊張をほぐすような巧い言葉が浮かばずに
私はつい咎めるような口調になってしまった。
「…あ、…いえ、…好いお天気ですね」
「…そうですね、…好い天気です」
「……本当に」
そう言ってお美貴は鼻の高い、細長い顔にやや寂しい笑みを浮かべた。

「では、また」
「…御機嫌よう」
お美貴の声を残しながら私は歩みを早めて坂を上った。
 

682 :サボリン:2004/02/13(金) 15:24
 
後ろから慌ててあさ美がついてくる。坂を上りきって左に折れたところで
ようやく速度を落とし、あさ美がやっと追いついてきた。

「はア、はア、…□□先生、急に早足になってどうしたの?」
「いや、すまん、少し考え事をしていてな」
「…嘘だわ、先生、あの人に会って急に態度が変わったわ」
「うむ、…正直に言えばそうかもしれない
 …あの女の態度がいつもと違ってびっくりしたのだよ」
そう言いながら再びゆっくりと歩き始めた。
「先生、あの人とどういう関係なの?」
「関係もなにもあるものか、時折挨拶をする程度で、
 一度、通り掛りに蛇の退治をしてやったことがあるのだが、
 縁と言えばそれくらいで、あのように深々と頭を下げられる覚えはない」
「…なんだか思い詰めた表情だったわ、大丈夫かしら」
「何が大丈夫じゃないと言うんだね」
「私、あの人に睨まれたわ、怖い眼で、
 …あの人は先生のことが好きで、
 私を恋人か何かと思ったのではないかしら?」
「ハハハ、あさ美の少女趣味もそれくらいにし給え、さあ行こう」
そう言って私は再び歩みを早めた。…あさ美の言うことに
思い当たる節が無くもなかったが今は考えないようにした。

 

683 :サボリン:2004/02/13(金) 15:25
 
 
あさ美と一緒に愛さんのお屋敷に辿り着くと、
ちょうど道の向こうから愛さんが帰ってくるところだった。

「□□先生!」
大きな声を出して自転車を止める愛さん。
編み上げブーツが袴の裾からチラリと見える。
頭の後ろでまとめていた束髪の一部が慣性で前に出て
藤色の矢絣の肩へとはらりと掛かった。

「やア、お帰り、愛さん」
学校へは十分に歩いていける距離だのに、愛さんは新しいもの好きで
自転車を買ってもらい、クラスで一人自転車で通っている。
おまけに、上方のお祖父さんの家に行った折に宝塚という
少女歌劇団を観賞し、めっぽう気に入ったらしく劇団のスタアの
真似をして緑の袴をはいているので、クラスでも目立つ存在らしい。

「良かった、ちょうどお着きになったところね
 今日はごめんなさい、私の都合で遅らせてしまって」
「いいのだよ、僕なんぞは時間を惜しまない質なのだ
 あさ美とゆったりと散歩が出来て良かったくらいだ」
「あら、あさ美ちゃん、すぐに帰らなかったの?
 先生に迷惑をおかけしたら駄目じゃないの」
「すみません、お嬢様」
「いやいや、僕の方が散歩に誘ったのだから
 あまり叱らないでくれ給え」
「…私、仕事がありますので失礼します」
「うん、また気軽に来ると良い」
あさ美は背中を丸めて逃げるように裏にまわっていった。

愛さんはしばらくあさ美の後ろ姿を追っていたが
「さ、先生、授業をお願いしますわ」
と言って自転車を立てかけた。
 
 

684 :サボリン:2004/02/13(金) 15:25
 
 
今日は英語の構文をやり、過去完了だとか未来完了だとかを教えたのだが
自分では理解していても人に教えるのは甚だ難しい分野だ。
数学の授業の様になってしまい愛さんも私も顔をしかめて苦労した。
私は教え方というのをもう少し勉強しなくてはならないと反省した。


「それでは今日はこの辺にしておこうか」
区切りの良いところで終わりにすることにした。
「ふう、今日は大変だったわ」
と言って愛さんは眉毛を上げて溜め息をつき、辞書の頁をふわっと浮かせた。
「ハハハ、若いのに溜め息だなんて情けないな」
と言う私も眼の疲れを癒そうと目頭を押さえた。
「あら、そう言う先生こそお疲れのようよ、
 肩が凝ったのね、お揉みして差し上げましょうか?」
「いやいや結構、僕だってこれでも若いのだからね」
「じゃ、下でチョコレートでも飲んでいくといいわ、
 目が覚めますわよ、言い付けてきますので先生も直にいらっしって」
そう言って愛さんは私を残して階段を下りていった。
私は女子の部屋に一人取り残されて落ち着かずにすぐ下に降りていった。

と、廊下で割烹着を着た梨華さんと鉢合わせた。
「あら、□□先生、ご苦労様でした、
 ……いやだわ、こんな姿を見られてしまって、
 すぐにお茶の用意をしますのでリビングで待っていて下さいな」
「いえ、お構いなく」
私の言葉も聞かずに梨華さんは台所に入っていった。
普段見せない割烹着姿を見られて恥ずかしかったようだ。
梨華さんは愛さんの兄嫁で、今ではこの家の全般を任されているのだが
愛さんとの歳も近く二人は本当の姉妹のように仲が良かった。
 

685 :サボリン:2004/02/13(金) 15:26
 
リビングにお邪魔してソファに座り愛さんと話していると
あさ美ががチョコレートやら菓子やらを持って出てきた。
「ああ、すまんね、あさ美」
「奥様に倣って入れてみました、お口に合うかどうか」
「あさ美ちゃん、ご苦労様」
そう言って愛さんは早速カップを手にとってチョコレートを口にした。
あさ美が下がるのと入れ替わりに梨華さんが見えた。
授業が終わると三人でテーブルを囲んでお茶をするのが常だった。

「先程は失礼しました」と軽く頭を下げる梨華さん。
「いえ、チョコレート、美味しく戴いております」
梨華さんは割烹着を既に脱いで、亀甲絣の藤と桜の染め分け御召を着て、
やや濃い藤の半衿、藍の帯に薄い黄緑の帯揚げがのぞき、
白の帯締めが全体を引き立たせていた。頭は古風につぶし島田に結っている。
梨華さんは今時に珍しい日本女性なので姿を見るといつも心が落ち着いた。

「そう言えば、先生、
 私、先日ようやっと『人形の家』を見ましたのよ」
チョコレートを飲みながら愛さんが話題を見出した。
「おお、そうかい、どうだったかね?」
「感動しましたわ、女性の独立を描いた素晴らしい作品でしたわ」
「そうかい、…しかし僕はああいう説教臭い芝居は嫌いだね」
「あら先生、婦人解放運動に反対なさるの?」
「そういうわけじゃないが、
 芝居というのはもっとスペクタクルでなければいかん
 ああもごちゃごちゃと台詞を吐かれては幻滅してしまうよ」
「そうかしら、お義姉さんは?お義姉さんの感想を聞かせてよ」
「…私は、よく分かりませんでしたわ」と梨華さん。
「駄目ね、私たち女性の独立について語っているお芝居なのに
 お義姉さんのような古風な方はうんともすんとも言わないのだから」
「まあまあ、愛さん」
「……」
困った顔をして梨華さんが私を見て笑う。
 

686 :サボリン:2004/02/13(金) 15:27
 
「はア、でも憧れてしまうわ、
 松井須磨子さん、素敵でしたわ、
 私も独立した女性としてああ言う風になりたいわ」
「ハハハ、愛さん、宝塚の次は新劇かね、
 …でもねえ愛さん、あんまり独立独立と言い張るのもどうかと思うがね」
「…どういうことですか?」
「独立というのは一個の個人として生きることだから孤独だよ、
 愛さんが本当に独立してしまったら、
 愛さんは結婚できないかも知れないよ、それでもいいのかい?」
「あら、独立したら結婚できないなんて始めて聞きましたわ」
「だって、経済的にも精神的にも独立してしまったら
 結婚する必要がなくなってしまうではないか」

「…うーん、…先生のは屁理屈だわ」
「ハハ、困らせるつもりじゃないんだ、
 ただ僕は最近の日本の情勢について憂慮しているので言うのだが、
 昔の日本には身分によって差別があった、性による差別もあった、
 しかしそれは区別と言った方がいい、一人一人が自分の役割を果たしていた。
 地主には地主の小作には小作の、嫁には嫁の役割があって、
 みんなその役割の義務と責任を果たしてきた、まさに芝居だよ。
 しかし今日の日本は西洋の個人主義を間違った形で受け入れて
 自分勝手主義とでも言うべき主義がはびこっている。
 西洋のようにキリスト教や強い市民意識といった共通の土台を持った上での
 個人主義ならば結構なのだが日本の個人主義は何の土台もないバラバラ主義だ。
 極論すれば隣が火事になろうが自分さえ無事だったら良い。そういう主義だ。
 個人主義の間違った形は通時的にも現れている。
 個人主義を突き詰めれば、自分の先祖や子孫も関係なくなる。
 今さえ良ければいいんだという考えでやりたい放題になる。
 個人主義で行くのなら五十年先に売れる桧を今植える馬鹿がいるものか、
 それどころか先祖の植えた桧を全部切り倒す勢いじゃないかね…」
私は思わず熱くなってしまった自分を押さえようと一息ついた。
 

687 :サボリン:2004/02/13(金) 15:27
 
「……そんなに自分勝手な人ばかりではなくってよ
 皆さん、富国強兵とお国のために働いてきたのではなくって?」
愛さんがしばらく考えて言い返してくる。
「うん、でもそれは裏を返せばそういったスローガンを掲げなければ
 国民がバラバラになってしまうということさ。
 まあ、今のように国が貧しいうちはそれなりに国全体としての
 目的があるから良いものの、それがなくなったらどうなるんだい?
 共同体というのは共通の目的や夢や敵を失ったら機能しない。
 国としてのシィステムだけが残って、地主が小作を支配するといった
 分かりやすい構造ではなく、個人が個人の集団に縛られる、
 誰が誰に縛られているのかわからない、そんな社会になるだろう。
 そうやって個人に対して世界が全体として敵になってしまうんだ」

「…何をおっしゃりたいのかよく分からないわ」
「…ハハハ、僕も自分で分からなくなってきたよ、
 つまるところ、土台のない個人主義は危険だということさ、
 そして、愛さんは結婚できるかできないか、それが問題だね」
「嫌ね、そんなにご心配なら先生がもらって下さっても結構よ」
「おや、これは困ったな」
「そのかわり、私はお金のない方のところへは参れませんから
 先生は早く大学を卒業なさって、ご出世なさらなければ駄目よ」
「うーん、厳しいなア」
「愛ちゃん、あんまり先生を困らせては駄目じゃないの」
そう言って梨華さんが助け船を出してくれた。
「だって先生が難しいことをおっしゃるから…」
「いや、すまんすまん」
「さア、チョコレートは口に残りますから焙じ茶でも入れましょう」
そう言って梨華さんがチリリンと呼鈴を鳴らすと
お圭さんがもそっと顔を出してご用を聞き素早く台所に向かっていった。
「良かったわ、私もちょうど焙じ茶が飲みたかったところ、
 チョコレートで舌がダコンダコンになってしまってよ」
「ハハハ、愛さんは時折面白い表現を使うのだね」
「あら、そうかしら」
「そうよ、ふふ」
「ハハ、そうですよねえ」
そう言って梨華さんと私が揃って笑うので
愛さんはプンと向こうを向いてしまった。
 
 

688 :サボリン:2004/02/13(金) 15:28
 
その後もしばらく話をしながらお茶を戴いたが
六時半にお暇をし、下宿に帰って飯を食って眠った。
その日は真里さんが作ったという鯖の味噌煮がどうも胃に残った。


翌日は胃の調子が悪くて終日部屋でぐうたらしていた。
翌々日、散歩に出て無縁坂を通ると、
お美貴の家が引き払われていてひどく驚いた…。





それから数日が過ぎ、また愛さんの家庭教師の日が来た。


出立しようとした矢先に幾分強めの雨がザアザアと降り始めた。
私は傘を持ってコオトを羽織って外へ出た。
早速出来た水溜まりを避けながら言問通りを歩いていると
通りの向こう側に雨宿りをしていると思われるあさ美の姿を発見した。
買い物の途中であろうか。荷を背負って庇の下からぼんやりと空を見ていた。
と、あさ美は風呂敷を頭にかぶってトコトコと走り出した。
お屋敷とは反対方向に向かって行くのでまだ買い物の残りがあるのだろう。
傘も持たずに大丈夫だろうか。この雨は当分やみそうにない。
追っていって傘をさして送ってやるべきだろうか。
しかし今日は準備に手間取ったので、
そうしていては愛さんの授業に遅れてしまうだろう。

さて、




1 あさ美を追って傘をさしてやる。
2 愛さんの授業を優先してお屋敷に向かう。
 

689 :名無し娘。:2004/02/13(金) 19:18
1

690 :名無し娘。:2004/02/13(金) 20:44


ダコンダコン(;´Д`)ハァハァ

691 :名無し娘。:2004/02/13(金) 21:18
1

692 :名無し娘。:2004/02/13(金) 23:26
1で
・・・「人形の家」のくだりは「待てど暮せど来ぬ人を」?

693 :名無し娘。:2004/02/14(土) 03:17
無論1

694 :名無し娘。:2004/02/14(土) 03:43
1

695 :名無し娘。:2004/02/14(土) 12:31


696 :名無し娘。:2004/02/14(土) 21:33
1

697 :名無し娘。:2004/02/17(火) 23:29
2

698 :名無し娘。:2004/02/18(水) 00:45
1

699 :名無し娘。:2004/02/19(木) 00:43
2

700 :名無し娘。:2004/02/19(木) 00:44
ノノ*^ー^)<700です。

701 :名無し娘。:2004/02/19(木) 22:35
梨華さんの服装描写とか、ディテールも手抜きなしですね。
1で

702 :サボリン:2004/02/22(日) 00:30
 
雨の中を傘もなく走ってゆくあさ美を放っておくわけにはいくまい。
私は急いであさ美を追いかけた。

「おーい、あさ美、あさ美や!」
雨の音で縮んだ私の声をようやく聞き分け、
あさ美が立ち止まってこちらを振り返った。
目を凝らして私を確認すると強ばっていた唇を途端に緩ませた。

「無茶をするものではないよ、こんなに強い雨なのに」
私はようやく追いついてあさ美の頭に傘をさしてやった。
「□□先生……」
雨に濡れた前髪から水滴がしたたり落ちている。
その下からあさ美の眼が私を見上げる。
あさ美は濡れた顔を拭こうともせず、
ふう、はあ、と口から白い息を吐いている。

「…ひどく濡れて…かわいそうに」
私はハンカチーフを出してあさ美の頬を拭いてやった。と、
「はっ、先生、今日はお嬢様の授業の日では?」
あさ美が夢から覚めたように突然大きな声で言った。
「…そうだよ」
「いけません、もうお時間でしょう?
 遅れてしまうじゃないですか、早く行って下さい」
「こんな雨の中を駆けていくあさ美を見たら、置いては行けないじゃないか」
「それじゃ、見なかったことにして下さい、とにかく早く!」
そう言ってあさ美は私の肩を押し、自分の体を傘から出す。
「おいおい、せっかく拭いてやったのにまた濡れてしまうじゃないか!
 ともかくも買い物先まで送るから、案内し給え」
そう言って私は前に出て再びあさ美に傘をさす。
「私はいいですから、先生は…」

などと言い合ってるうちにますます雨は強くなり、
声が聞き取れないほどになった。風も強まり雨が横殴りになる。
もはや、傘をさすささない、授業に行く行かないの問題ではなくなってきた。
「…あさ美、とにかく、…私の下宿へ向かおう!」
「……はい」
雨が嵐となり、私は愛さんのお屋敷までは到底たどり着けそうになく、
あさ美にしても買い物の続行は不可能と悟ったようだ。
私はあさ美の肩を抱きながら傘をさし、来た道を戻って下宿に向かった。
 

703 :サボリン:2004/02/22(日) 00:30
 
下宿が見えてきた頃には雨も風もさらに強くなり、
ついには風に傘をさらわれて飛ばされてしまった。
二人は風に倒れないようにお互いを支え合いながら進み、
ようやく下宿の戸を開いた。

「アチャー!、アチャアチャー!」
玄関に入ると、真里さんが金槌やら釘やら板やらを持って走り回っていた。
「真里さん、この時期に台風でもあるまいし、すぐに治まるだろう?」
「器用貧乏、真里は走ります!」
真里さんは興奮して人の話も聞かずに雨戸をドンカチならしていた。
と、ピカッ!!  …バリバリバリバリッと雷が鳴った。

…この時期に雷とは。。
……真里さんの行動も大げさではないのかも知れない。
真っ白な光に、家屋がゆれるほどの大きな音だった。

「あさ美や、とりあえず居間に来なさい」
「…はい」
二階は危険に思い、私はあさ美を居間に案内し、
浴布を取ってきて渡してやった。手あぶりに火を入れて暖を取る。
あさ美もようやく落ち着いて羽織を脱ぎ、座って髪を拭いていた。と、

ピカッ!! バリバリバリバリッン!!

再び大きな雷が落ち、一瞬辺りが真っ白になった。
あさ美は何も言わずに這って私に近寄り、腕に抱きついてきた。

「……先生」
「…うむ、これはいかんな」

ピカッ!バリバリバリッン!!

「うわっ!」「きゃっ!」

「……○○さん」
「…ど、どんどん近づいて来てるな、、これはヤバイぞ…」
オレも怖くなって紺野さんの肩を抱きしめた。


 ド カ ン ッ !!


予告無く、光と同時に衝撃が走る。


光が強くて辺りが真っ白で見えない。
 

704 :サボリン:2004/02/22(日) 00:31
 
 


 ド ガ ッ !!



「うわぁぁあ!」「きゃぁああ!」



再び衝撃が走る



体が宙を浮いてる




…みたいだ








・・・紺野さん。。










・・・







 

705 :サボリン:2004/02/22(日) 00:32
 











・・




































 

706 :サボリン:2004/02/22(日) 00:32
 


・・














…ん?


ここは……どこだ?


目を開けるとボロボロになった校舎が見える。

気づくと紺野さんを抱いてオレは横たわっていた。

意識がはっきりしてきた。

またもや夢の世界に行っていたようだ。。

「…紺野さん、…紺野さん、起きれる?」
オレは紺野さんの体を起こして軽く揺すった。

「…うぅ、…あ、○○さん!」

「よかった、平気みたいだね」
「…はい、…ここはどこですか?」
「…さぁ」

まわりを見渡すと、みんなも校庭に横たわっていた。
校庭の端には校舎がある。…でも校舎の向こうは何もなかった。
…本当になにもない。。砂漠のような土が見えるだけだ。。
…風景がさっきと全然違う。…あの爆発が起きる前、
絵里ちゃんとれいなの声がした。みんなを飛ばすとか言ってたから、、
ここは……とにかく、学校ごと、どっか別の場所に移動したみたいだ。。
 

707 :サボリン:2004/02/22(日) 00:33
 
「はっ、美貴様ッ!」スタッ!
「いてっ」ガコッ!
紺野さんがいきなり立ち上がり、オレの腕を払って走り始めた。

「美貴様、ご無事ですか!?、美貴様ァ!!」
紺野さんが藤本を抱き起こして体を揺らす。
「……うぃ〜、……ん?……紺野?……どうした?」
「…あぁ、美貴様、戻られたのですね、良かったです!」
「…ん〜、なんか変な夢を見た気がするなぁ、、
 ああっ!…思い出した!! オレ…猿に操られてただろ!?
 …ちくしょう、オレとしたことが!!」
そう言って藤本が立ち上がった。青の羊のコスプレのままだった。。

「美貴様、ご無事でなによりです、
 …しかし、申し訳ありません、
 さゆみんの捕獲に失敗し、このような事態に…」
「…いや、紺野、オメーはよくやった、
 …って、ここはどこなんだ?…学校?」
「…学校なんですけど…外の風景が全く違いますね
 …美貴様がお眠りになっている間にいろいろなことがありました、
 後藤さんがさゆみんを殺そうとして誤ってみうなを撃ち、
 その衝動でさゆみんが……力を使い、、
 私たちは亀に助けられて別の場所に移動したのかと」
「うむ、少し覚えている、…とてつもない力だった」
「…はい、私たちはさゆみんに対する認識が甘かったようです」
と、

「美貴様〜、紺野さーん、○○ぅ〜」
と叫びながら絵里ちゃんが裏門から走ってきた。
後ろかられいなも走ってきて後藤さんの方に向かっていった。
「亀!」「亀ェ、生きてたか!」「絵里ちゃん!」
「良かった、みんな無事ですね?」
「ああ、ところでよォ、亀、ここはどこなんだよォ?」
「…わかんない、みんなを助けるのに必死で…、
 とにかく遠くへ…遠くへ飛ばそうとしただけだから…
 でも、ここが現実の世界だということは確かだと思う、
 ほら、あそこにちゃんと…みうなさんの……死体があるから」
そう言うと絵里ちゃんはヘナヘナと座り込んでしまった。
「大丈夫?」 オレは駆け寄って絵里ちゃんを支えた。
「うん、○○、ありがと、…無事で良かったね」
「うん、絵里ちゃんが助けてくれたんだね、ありがとう」
学校全体を瞬間移動させたのだから随分と力を使ったのだろう、
絵里ちゃんはぐったりとしていた。
「ううん、でも、さゆが…」
「そうだ、さゆみちゃんはどうなったの?」
「…わかんない」
「…そう」
 

708 :サボリン:2004/02/22(日) 00:33
 
「……みうなが死んで、さゆみんはゆくえ知らずか」
「……はい」
藤本と紺野さんは頭から血を流して横たわっているみうなを見つめていた。
「…はっ、今のうちだ紺野、猿を捕らえろ!
 これ以上好き勝手やられたらたまらんぜ!」
「はっ」
紺野さんが気を失っているまつうらさんを縛る。
「ついでに目隠しもしておけ、妙な術を使うからな」
「はっ」 紺野さんがまつうらさんの頭を布でグルグル巻きにする。
「…うぅ、…なんですか?…っ…ほどいて下さい!」
まつうらさんが気づいたようで体を動かす。
「はっはっはっ、お似合いだぜェ、まつうらァ
 猿は猿らしく檻にでも入ってろや!」
「…たん!、その声はたんね、どうしてこんなひどいことするの!?」
「ぅるせェッ、ンなこと言えた義理か!猿はしゃべんじゃねェ!」
そう言って藤本がまつうらさんに近づいて口まで縛ってしまった。
「…うぅぅ」


と、横で倒れていたまいちゃんとあさみちゃんも目を覚ました。
「…うぅ」「…ん〜」
「おお、まい、あさみ、目覚めたか!」
「美貴様!」「美貴様、ご無事でしたか!」
「おお、さっそく仕事だぜェ、ほら、そこでくたばってる
 金髪ゴリラと二色マロンと寸胴ラットの銃を奪っておけ」
「はいっ!」「はっ!」
まいちゃんとあさみちゃんが素早く動いて
気を失っている斉藤さんやマサオさんや柴ちゃんの銃を奪う。
と、斉藤さんが目覚めて
「なにしやがる!」と起きあがった。
 

709 :サボリン:2004/02/22(日) 00:34
 
「はっはっ、斉藤、久しぶりだなァ!」
「…帝……いや、藤本ォ!」
「へっ、呼び捨てかァ、随分馴れ馴れしいじゃねーか、
 オレぁ、斉藤ちゃんとお友達になれたみたいで嬉しいぜェ!」
「藤本ォ!テメエなんか亜弥様の……はっ!」
斉藤さんが藤本の足下でもごもご動いているまつうらさんを発見した。
「…亜弥様がどうしたってェ? あん?斉藤ゥ!」
「……亜弥様」
「このイモムシみたいな肉塊がオメーの言う亜弥様かァ!」ドカッ!
藤本がまつうらさんに蹴りを入れる。
「……ぅ!」
「やめろォ!」 斉藤さんが叫ぶ。
「へっ、まだ自分の置かれてる状況が分かってないようだなァ、
 猿は捕らえられ、みうなは死に、銃も奪われて、何をする?あ?」
「……<っ」
と、マサオさんと柴ちゃんも気づいて起きあがり、
ヘリからは紺野さんに連れられて村さんが出てきた。

「無理はしなくていいんだぜェ、斉藤、
 もう、かわいくもないヤツをかわいいと思いこまされる、
 そんな恐怖政治は終わったんだ、
 …言っておくがオレはオメーラに敵意はない、
 猿と共に死ぬも良し、猿を見捨てて逃げるも良し、
 それともオレの下で働くかァ? 選ぶのはオメーだぜェ、
 え?斉藤ちゃァン!どうすンだよォオ!?」
「…ちくしょう」
そう言って斉藤さんはマサオさんたちを見る。
「……オマエら、ここはいったん退くぞっ!!」
斉藤さんは振り返って裏門に向かって歩き始めた。
「…ボス!」「…うん」「待って〜」
とマサオさんと柴ちゃんと村さんが斉藤さんを追う。

「賢い選択だな、斉藤」
「あばよォ、藤本」
そう言い残して斉藤さんたち4人は裏門を出て行った。
…どこに行くつもりなんだろう。…大丈夫だろうか。
外は砂漠のような大地が続いているというのに。。
 

710 :サボリン:2004/02/22(日) 00:36
 
なんてもめていた間に、加護ちゃんたちや矢口先輩たち、
ひとみや小川さんや愛ちゃん、れいなに抱きかかえられた後藤さん、
飯田先輩など、どうやらみんな無事に目覚めたようだ。
みんな今の状況にとまどっているらしく
話しもせずに自然と藤本のまわりに集まっていた。
もっとも後藤さんや飯田先輩は遠くから見守る感じだったが。。

「さぁてと、とりあえずどうすればいいかなぁ、紺野?」
「…はい、まずはここがどこなのか調べなければなりません。
 ただ、少し見渡した限りでは街も見えず、辺りは砂漠、
 全員で移動するのは危険です。ですから先遣隊を派遣して
 他はしばらくの間ここで待機するべきです。長期になる場合、
 学校その他で食料や水を見つけて食いつなぐ必要があります。
 学校の備品をくまなく探して使えるものを集め、
 マット等で寝床を用意する必要もあるでしょう…」
「うむ…ようし、4班に分けるぞっ!」藤本がみんなに向かって声をかける。

「街を見つけるための探検隊、リーダーは紺野、ヘリは使えるな」「はっ」
「次ィ、学校内の食料調査隊、リーダーはあさみ」「はい!」
「学校内の備品調査兼寝床整備隊、リーダーはまい」「はい!」
「みうなの死体片づけ・猿の監禁監視等雑用部隊、リーダーは亀」「…はい」
「いいかァ!オメーラよく聴けェ!
 従う従わないはオメーラの自由だ、
 ただし、従わない者はオレらの邪魔をしないこと、
 オレらの確保した食糧・備品に手を出さないこと、
 オレらに敵対した場合は殺す、以上、質問あるヤツはいるかァ!?」
…加護ちゃんも中澤先生もみんな黙っている。
ここはみんな、おとなしく藤本に従うつもりなのだろう。
「…ようし、文句はないようだなァ」
「しかし、美貴様をお一人にして大丈夫ですか」と紺野さん。
「安心しろォ、銃もあるし、自分の身ぐらいは自分で守れる、
 魚は茫然自失でおとなしくしてるようだし、
 いざとなったら亀を呼ぶ、紺野、安心して行ってこい!」
「はっ、かしこまりました!」
「ようしオメーラッ、それぞれ隊員を集めて任務を遂行しろォ!」
「はっ」「はっ」「はい」「はいっ」
4人が散ってそれぞれ隊員を募集し始めた。
一部には非協力的な人もいるが隊員が集まり始めている。。

・・・オレはどうしようか。どの部隊に志願しよう。。




1 紺野さんの探検隊
2 あさみちゃんの食料調査隊
3 まいちゃんの備品調査隊
4 絵里ちゃんの雑用部隊
 

711 :サボリン:2004/02/22(日) 00:44
>>692
「待てど暮せど来ぬ人を」とは何の引用ですか?
大正時代を書きたかっただけで、あんまり考えてません。
ちなみにお美貴のくだりは森鴎外の「雁」です。
あまりに時代が遠いので作者自ら元ネタばらし。。

>>701
ありがとう。実は着物フェチです。
資料見ながら書いてたんだけど、
よく考えたら資料ない人にはワケワカメな描写だったかも。
まぁ、雰囲気だけでも味わって下さい。。

712 :名無し娘。:2004/02/22(日) 01:12
4

713 :名無し娘。:2004/02/22(日) 01:16


714 :名無し娘。:2004/02/22(日) 09:59
ときめきが・・・・

715 :名無し娘。:2004/02/22(日) 19:47
4

716 :名無し娘。:2004/02/22(日) 19:56
4

717 :名無し娘。:2004/02/22(日) 22:30
1

718 :名無し娘。:2004/02/22(日) 22:48
2

719 :名無し娘。:2004/02/26(木) 05:52
4

720 :名無し娘。:2004/02/27(金) 06:25
2

721 :名無し娘。:2004/03/04(木) 15:03
1

722 :名無し娘。:2004/03/04(木) 17:52
4

723 :sage:2004/03/04(木) 22:08
4

724 :名無し娘。:2004/03/11(木) 13:25
1

725 :名無し娘。:2004/03/11(木) 23:29
4

726 :サボリン:2004/03/12(金) 17:33
 
よし、絵里ちゃんの雑用部隊に志願しよう!
オレは絵里ちゃんのそばに行って声をかけた。
「絵里ちゃん、オレ、ここに入ってもいいかな?」
「○○! 良かった、○○が来てくれて…」
絵里ちゃんは部隊長を任されて不安だったようだ。

「おう、兄さん、よろしく頼むわ」シーハー。
「あ、加護ちゃん、…うん、よろしく」
「死体処理はうちに任しとき」シーハー。
加護ちゃんも同じ部隊のようだ。ウンコ座りで煙草を吸っていた。
…愛ちゃんとの争いもひとまず中断といったところか。

「○○!、おいらもここで働くぞっ!」ピョコン。
矢口先輩もいた。相変わらず小人のままだ。
「ああ、…矢口先輩、よろしくね」
「はい、これヨロシコ」ガサゴソ。
矢口先輩がおもむろにおんぶ用のリュックサックをオレに渡す。
…中澤先生は別の部隊のようだ。オレが矢口先輩を背負うことになるのか。。
しぶしぶオレはリュックを背負った。と、
「○○〜、ホントここってどこなんだろうね?、ケータイも通じないんだよ」
そう言いながら矢口先輩はテケテケとオレの体を登ってきて
リュックに入っていった。もそもそ。
「……そうなんだ」

「□□さん、私もよろしくお願いしますぅ〜」ペコペコ。
小川さんもいた。…体力的には頼りになりそうだな。
「あ、小川ちゃん、よろしく。
 そう言えば、あのカブ全壊させちゃった、ごめん」
「いいんですよぉ〜、そのかわり後で弁償して下さいね、
 定価で、、むふっ」
「う、うん」


他の部隊を見てみると、
紺野さんの探検隊には、辻ちゃん、安倍先輩、飯田先輩がいた。
飯田先輩もとりあえず従うようだ。

あさみちゃんの食料調査隊には、石川さん、ひとみ、れいながいた。
れいながいるということは…後藤さんも藤本に従うようだ。

まいちゃんの備品調査隊には、愛ちゃん、中澤先生、後藤さんがいた。

結局、全員がそれぞれの部隊に入り、藤本に従うことになったようだ。
しかしグループのそれぞれが別の隊に入ってるところからして
どうもみんな藤本の出方を探っているという感じだ。
…ま、紺野さんがすぐに助けを呼んでくるだろう。
それまでの間のつかの間の平和といったところか。
…みんなが争わないでいられるなら今のままでもいい、
オレはふとそんなことを思ってしまった。

727 :サボリン:2004/03/12(金) 17:34
 
なんてボーっとしてたら、バダダダバン!
ヒュルンヒュルン、タンタンタン……とヘリのエンジンが動き始めた。
紺野さんが運転席に座り、辻ちゃん、安倍先輩、飯田先輩が乗り込んで行く。
「それでは美貴様、行って参りますッ!」スチャ。
「おう!」ちゃっ。
紺野さんの叫ぶ声が微かに聞き取れた。

バダバダバダバダッバダバダバダバダッバダバダバダバダッ!

轟音と旋風を残してヘリは飛び立っていった…。

バダバダバダバダバダ、タンタンタンタタタタ・・・・……

ボーっとヘリの行方を見ていたが、ふと気づくと
他の部隊は既に任務に取りかかったようで、
オレたちの部隊だけが校庭に突っ立っていた。


「じゃ、絵里ちゃん、オレたちも始めようか?」
「…うん」
「ほら、絵里ちゃんが隊長なんだから、しっかりしなきゃ!」
「うん、じゃ…まずみうなさんの…死体を片づけなきゃだね…」
「…うん」

矢口先輩にまつうらさんの監視を任せ、
他の4人はみうなの死体のまわりに集まった。

…静かな死に顔だ。。

 

728 :サボリン:2004/03/12(金) 17:34
 
「ほな、亀吉、始めよか」スチャ。
そう言って加護ちゃんがナイフを出してみうなの腕をつかむ。
「ちょ、ちょっと待て!…加護ちゃん、何する気だよっ!」
「いややわ〜、兄さん、臓器売ろうなんて考えてまへんで、
 うちかてそこまでせこかないわ〜
 第一こんな所じゃ保存もきかんやろしなぁ…」
「…じゃ、ナイフで何しようとしてたの?」
「何ってそら、学校の焼却炉じゃ丸ごと入らんやろ?
 五体不満足にしてバラバラに焼くしかあらへんよ?」
「あわわ…何言ってんだよォ、
 ンなことまでして焼く必要ないだろ、どっかに埋めようよ」
「そうですよ〜、燃やしたら学校の灯油がもったいないですよ〜」と小川さん。
「いや、そういう問題じゃないんだけど…
 と、とにかく土葬でいこう、ちゃんと葬ってあげようよ」
「…そうかぁ、仕方あらへん、…うちの出番がのうなってしもうたなぁ」
「…じゃ、…どこに埋めようか?」
「あそこにしよう、あそこの木の下に埋めよう」
そう言って絵里ちゃんが裏門の近くの木を指差した。
…桜の木だ。春になると門のまわりを淡く染める。。大きな木だ。
「墓石の代わりに木が目印になっていいですねぇ〜」と小川さん。

桜の木の下に埋めることに決まって
オレと小川さんで必死に木のそばに穴を掘り始めた。
ざくっ、ざくっ。ふぅ、はぁ。
絵里ちゃんは体調が悪いみたいではじっこで休んでいた。
ざくっ、ざくっ。ふぅ、はぁ。…疲れた。
「あれぇ〜、加護ちゃんはぁ?
 ちょっと加護ちゃん、手伝ってよ、そこの土をどけてよ」
「やかましかぁ!
 死後硬直が始まる前に体伸ばして腕をあわせて、
 死化粧してぇ…、いろいろやることがあるんや!
 兄さんは黙って墓穴をさっさと掘らんかい!
 はよう掘らんと汚物が出てくるでェ!」
「…あ、そうなんだ、ごめん急ぐよ」
ざくっ、ざくっ。ふぅ、はぁ。
「これやから土葬はいやなんや、そもそも土葬は不衛生なんや…
 …ったく、さっさと焼いてしまえばよかったものを…」
加護ちゃんはなにやらブツブツ文句を言っている。
 

729 :サボリン:2004/03/12(金) 17:35
 
穴を掘り終わり加護ちゃんの方に行ってみると、みうなが綺麗になっていた。
なんだかんだ言って加護ちゃんは丁寧にみうなの死化粧をやってくれたようだ。
頭を貫かれて、さっきは血が大量に出ていて髪の毛まで染まっていたが
丁寧に銃痕にティッシュが詰められ、髪は綺麗にとかされて
泥だらけで真っ青だった顔も、ほお紅が塗られて綺麗になっていた。

「ほな、亀吉に小川、最期に紅をさしてやろな」と加護ちゃん。
「…うん」「はい」
絵里ちゃんと小川さんと加護ちゃんで口紅を指でさす。
「オメーラぁ、オレにもやらせろやァ」
後ろから藤本が歩いてきた。。

…藤本が最後に紅をさす。
「……みうな、すまなかった、許せ」
藤本はあまり話さないけど、みうなは元々は藤本達の仲間だったようだ。。

別れを終え、みんなでみうなを持って穴に運んで入れる。
「棺はないが、我慢しろ、ほら、手向けだ」カラン。
そう言って藤本がカミソリを穴に入れる。
「なんでカミソリを?」
「…ヤツは生前、ワキが濃くて…悩んでいたんだ、
 これで安心して眠れるだろう…うぅ」そう言って藤本が涙をこらえる。
「…そうか」
みうなとは夢の世界では幼なじみだった。
オレもなんだか悲しくなってきた。。

加護ちゃんの合図で土をかけ始める。みんなで少しずつ、無言で。
穴を掘るのは苦労したけど、埋めるのは案外早かった。
みうなの体の分だけ土が余ったので、最後に盛り土をした。
その上に加護ちゃんと藤本が煙草に火をつけて、線香代わりに添えた。
みんなしばらく無言で煙の行方を見守っていた。


……桜の樹の下には屍体が埋まっている。
みうなの体液を吸って、春には美しい花を咲かせるだろう。。

「さ、終わりだ終わりィ!
 オメーラ、さっさと次の仕事にかかれやァ」
そう言って藤本は背中を見せてトボトボと校舎の方へ向かっていった。
背中に吊る下げた機関銃が寂しそうにプラプラ揺れていた。。
 

730 :サボリン:2004/03/12(金) 17:36
 
そのあと、オレたち雑用部隊はまつうらさんの監禁に適当な場所を探した。
職員室に鍵がかけられる大きめのロッカーを見つけたので
まつうらさんを運んでロッカーに閉じこめて鍵をした。
「姐さん、しばらくの辛抱やで」
「ごめんね、まつうらさん…」ガチャ。
「うぅ…」

その後は他にすることもないので、
みんなで先生達の机に座ってウトウトしていた。
先生達が誰もいない職員室で生徒が昼寝をしている光景は違和感があった。
ひとり加護ちゃんは先生達の机を荒して煙草やら酒やらを発見して喜んでいた。

しばらくして目を覚ますと、窓の外がオレンジに染まっている。
もう夕方なのか。…何時だろう?
…時計はさっきと変わらず3時を指していた。

と、遠くからヘリの音がする。……タタタタタンタンタン。
紺野さんたちが帰ってきたんだ!

オレたちは職員室を出て校庭に向かった。
ヘリが近づいてきて気づくに、なにやら大きな物体を吊している。
プープープーという警告音の後、ひもが外されて物体が落ちてきた。

ひゅるるぅ〜、ドシン!

…豚だ。。

「なっち!」
矢口先輩が叫んで走り寄る。オレも慌ててついて行く。
「なっち、どうして!どうしてこんなことに!」
豚は首から血を流して死んでいた。
「ていうか矢口先輩、それどう見ても本物の豚だろ?」
「いや、おいらにはわかる、これはなっちだよ!
 おいらみたいに何かの魔法で本来の姿に戻っちゃったんだ!
 なっち、ごめんよ〜なっち、おいらに巻き込まれてこんなことに…」
そう言って矢口先輩は豚に抱きついて泣いていた。
 

731 :サボリン:2004/03/12(金) 17:37
 
「なっちィ…なっちィ! どうして死んじゃったンだよォ〜」
「ダーレが死んじゃったって〜?」
ヘリから降りてきた安倍先輩が後ろに立っていた。
「なっち!生きてたんだなっち!良かった!
 おいらてっきり豚になって死んじゃったのかと〜!」ピョコン。
そう言って矢口先輩が安倍先輩に抱きついていた。
「どうやったら、こんな汚い豚とめんこいなっちを間違えるんだべぇ?」
「キャハハ、そっくりじゃん豚、生きてて良かったなァこの豚ァ」ペチペチ。
「フフフ、真里は相変わらずかわいいなぁ〜」ムギュゥゥ。
「うぐぅ…」ガクッ。
安倍先輩が矢口先輩を抱き締めつけて落としてしまった。。

「そこォ!何をもめてるんですかァ?
 亀ェ、雑用部隊は豚をおろしとけェ!」
紺野さんがヘリから出てきて絵里ちゃんに指示をする。
「はい!」
「よしゃ、今度こそ、うちの出番やな!
 メタメタに切り刻んでやるで〜」
そう言って加護ちゃんが嬉々としてナイフを豚に刺して解体していた。

紺野さんの指示で、明るいうちに夕飯の準備をすることになった。
各部隊も任務を終了して集まり、教室から机や椅子を出して校庭に運び、
家庭科室などから包丁やらガスコンロやらを持ってきて料理が始まった。
米もあったみたいで炊飯も始まった。
日が暮れ始めたので、カーテンをちぎって灯油を浸し、
棒きれに巻きつけて松明をつくって四方に配置した。


豚を焼いて醤油をかけてご飯を食べる。。
それだけの夕食だったが、豚が旨くて満足できた。
みんなもお腹が減っていたようで話しもせずにガツガツ食っていた。
 

732 :サボリン:2004/03/12(金) 17:37
 
夕食が終わってしばらくすると
「ようし、オメーラぁ、集まれやァ!
 飯も終わったし、各部隊の報告頼むぜェ!」
と、藤本の号令でみんながまわりに集まった。

「じゃ、紺野の探検隊からいくか?」
「…はい、…あの〜美貴様、…私は後にしてもらえませんか?」
「…ん?…まあいい、じゃ、あさみの食料調査隊からいくぞォ!」
「はい!」
あさみちゃんのまわりに、石川さん、ひとみ、れいなが集まった。
「えーと、私たちはまず家庭科室に行きお米を発見しました。
 みなさんが今食べたお米がそうです。
 全部で30kgあったので、この人数で食べても1週間は持つでしょう。
 それと水もなんとかあります。校舎の水道は一度タンクに溜めてから
 分水される仕組みでしたので、タンクにはまだ水が残っています。
 水も飲用食用以外に使わなければ、…この人数で1週間は持つでしょう」
「…ふむ、ひとまずは安心だな」
「それと、食堂で保田というおばさんを発見しました。
 抵抗しましたので軽くボコって縛ってあります。
 サンドイッチや焼きそばパンなど、
 売れ残りのパンを10食分ほど確保しました、以上です」

「うむ、ご苦労、次、まいの備品調査隊!」
「はい!」
まいちゃんのまわりに、愛ちゃん、中澤先生、後藤さんが集まった。
「えー、備品についてもそれなりに整っていました。
 倉庫には灯油がありました。18リットル缶で20缶です。
 職員用駐車場にはガスが結構入った車が4台止まってましたので、
 移動もそれなりにできそうです。ただ、電気はストップしています。
 電話も携帯も通じません。ラジオもテレビも駄目なようです」
「…そうか」
「あと、工芸室にはいろいろ工具があって使えそうです。
 それと、保健室にはそれなりの薬が残ってます。…で、保健室では
 市井という教職員を発見しまして、抵抗はしませんでしたが
 一応縛って保健室で寝かせてあります、体調が悪いようです」
「ふむ、で、寝床はどうする?」
「はい、それについても大丈夫です。
 合宿所に十分な布団がありましたし、運動部の長屋を片づければ
 3、4人が寝るのによい部屋がいくつかできます、
 畳も敷かれているので丁度いいと思います、以上です」

733 :サボリン:2004/03/12(金) 17:38
 
「うむ、ご苦労、次、亀の雑用部隊!」
「はい!」
絵里ちゃんのまわりに、オレ(と矢口先輩)、小川さん、加護ちゃんが集まった。
「えっと、みうなさんは裏門のそばの木の下に埋めました。
 あの辺りは荒らさないで下さい。
 あと、松浦さんは職員室のロッカーに閉じこめました、
 ちゃんと鍵もしました、これが鍵です」チャラ。
「うむ、ご苦労、まつうらは絶対に外に出すなよ」
「はい」

「それと〜、各部隊、他に生存者は発見しなかったか?」
「はい」「はい」「…はい」
「そうか、オレもブラブラと見歩いてたんだが、誰もいなかった、
 ここにいるヤツらで全部ってことか、…まぁ、面倒がなくて丁度いいか。
 …よし、次、紺野、報告頼むわ」
「……はい」
紺野さんのまわりに、辻ちゃん、安倍先輩、飯田先輩が集まった。
「…えーと、何から話していいのか…
 …まず、学校の周りは砂漠ではありませんでした。
 学校の周囲2、3kmだけは赤土の地面が続いていますが
 その周りは草原と、そして広大な森が続いていました。
 森の入り口で豚を発見し、撃ってしとめて喜んでいたんですが…
 …ヘリを進め続けても森だらけで変化がなく不安になってきました。
 おまけにGPSが壊れているようで使えずに…
 テレビ・ラジオもですが、航空無線でさえ全ての周波数帯が入りません、
 で、とりあえず南に飛んで肉眼で確認しながら行きましたが、
 人工的な建造物は全く見あたらず、見覚えのある地形は全くなく…
 往復の燃料ギリギリまで飛んでみましたがダメで…結論としては、
 街は発見できず、ここがどこなのかさえ、まったくわかりませんでした。
 …すみません、美貴様…」

「…いや、ご苦労、
 ……うむぅ、一体ここはどこなんだ?」
「ふん、ここがどこだってもう関係ないよ…
 日本はとっくに沈没してるよ、あたし達の帰るところはもうないんだよ…」
後藤さんが膝で口を隠しながら独り言のようにつぶやいた。
「オメーなぁ、あの程度の爆発で浮沈空母日本が沈んでたまるかって?」
「んぁ〜、だからミキティは甘いんだよ!
 あたしたちは爆発のまだ初期の段階で飛んだんだよ、
 さゆみんの本当の力はあんなもんじゃない!」
「……<っ、
 オメーがそもそもの原因のくせに偉そうなこと言ってんじゃねェ!」
「んぁ〜!私はこうならないように頑張っただけだもん!」

734 :サボリン:2004/03/12(金) 17:39
 
「…二人とも静かに! みんな、上をご覧なさい!」と飯田先輩。
すっかり暗くなった空に綺麗な月が二つ見える。
空が澄み切って本当に綺麗だ。。
…って、おい!…月が二つ!?
「月が!」「月が二つ…」「…どういうこと?」「……」
みんなもざわざわして驚いている。
いつもの見慣れた月と、少し小さめのゆがんだ形の月が一つ。。
…確かに月が二つあった。。
「あれはおそらく、先の爆発で出来た新しい月ね、
 隕石がぶつかったようにして地球の表面がはがれて月になったんだわ」
「なっ…いい加減なこと言ってんじゃねェ!
 そんな大爆発があったら、地球全体が嵐になったり地震になったり、
 どこもかしこもボコボコになってるはずじゃねーか!」
「…そうね、だから問題は、ここがどこかじゃなくて、
 今がいつなのか、それが問題なのよ、藤本さん、北斗七星をご覧なさい!」
飯田先輩が空を指差す。
「なんだとぉ〜、オレには死兆星はまだ見えねーぞォ!」
「違うわ、ほら、理科で習ったでしょう?
 北斗七星の上の二つの星の延長線上5倍の所に北極星があるはず、
 …ほら、北極星の位置がずれてるわ」
…ん?なんだって?…そう言われればそう見えるかも。。
「…な、何が言いたい?」と藤本。
「ここはおそらく、あの爆発後、1000年から2000年後の未来!」

「な、なんだってー!!」「うぎゃー」「そんなバカナ!」
「電話はともかくラジオさえ一局も入らない、衛星も使えない、
 平穏な気候と見たこともない壮大な森、そして二つの月、
 さらに北極星のずれ、…間違いなくここは未来だわ、
 そして同じように間違いなく、人類は絶滅しているわ…」

「まさか!」「ンなことが…」「ぬはは!」「バビョーン!」
「…仮にここが未来だとして、人類が絶滅したという根拠は?」と紺野さん。
「根拠は…ないわ、でも新たな月を作るほどの爆発だったのよ、
 爆風や津波や地震でほとんどが死んだはず、生き残った人も
 灰が大気を覆い日光が届かない状態が何年も続いて、
 食料もなく、零下の中で凍えながら死んでいったでしょう…
 もし、今生き残ってる人類がいたとしても、
 文明は滅んで動物と同じような生活をしているんじゃないかしら…」

「………」「………」「……」
              「……」「……」「…」

 

735 :サボリン:2004/03/12(金) 17:40
 
「…ちょ、ちょっと待てや、この際、ここがどことか、いつとか、
 人類が滅んだかとかはどーでもええねん、
 さっきの話やと食料や水は1週間分しかないんやろ?
 救助が期待できんのやったら、この先うちらどうやって生きてくねん?」
加護ちゃんが紺野さんにたずねる。
「それは心配ないでしょう、
 広大な森があるのですから水は十分にあるはず、
 さっきの豚のように小動物もいるはずです、木の実などもあるでしょう」
「…んなモーレツ原始人みたいな生活をこれからずっとせぇ言うんか?」
「仕方ないじゃないですか」
「ほな、このまま一生お前らと仲良くママゴト続けて、
 なんもせんと中澤みたいに干からびてけってーのかえェ!?」
「な、なんやてー、加護ォ!
 ウチはこんなにピチピチな小学生やないかぁ!」
中澤先生が加護ちゃんに食ってかかる。
「加護さん! 嫌なら出て行ってもいいんですよ、
 森で勝手にのたれ死にして下さい!」
「うるせーババァ!、それより…煙草は?薬は?切れたらどうするんや?」
「ふっ、森から葉っぱでも草でも刈ってきて
 栽培すればいいんじゃないですかァ?」
「なんやてー!紺野とやら、ナメてんのかぁ!」
「…せっかく若さと金を手に入れて、新しい人生が始まるところやったのに
 なんでガキと一緒にこんな世界に来なきゃいかんねん!」
「せやからあの金はうちの…」
「いや〜、梨華おうちに帰りたい〜!
 帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい〜!」
「ぅるさいっすよ、ビーナス姉さんッ!!」
「明日からはもう新聞配達もしなくていい、
 住むところやお金の心配もしなくていい、
 なんて素晴らしい世界なんでしょう、ねぇ吉澤さぁん?」
「アホ、喜んでんのはお前だけじゃ」
「みんなでキャンプファイヤーみたいで面白いべさ」
「そもそもウチはワレのせいで巻き込まれたんやないかァ!
 加護ォ!うちのバラ色の未来をどうしてくれんねん!」
「キャハハ、豚はいいよなァ、自然が似合ってら!」
「のんはもう眠くなったのれす…むにゃ」
「やかましかァ! ババァはすっこんでろ!」


 ス ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ッ !!


藤本が空に機関銃を撃ちはなった。

「オメーラァ!静かにせんかァ!」

「……」「……」「……」「…」「…」「…」
 

736 :サボリン:2004/03/12(金) 17:41
 
「…とりあえず今日は夜も更けた、
 松明だっていつまでも燃やしてるわけにはいかねーだろー、
 空気も冷えかけているしィ、まずは寝床を準備して寝るんだッ!
 …電気は使えねーんだからなァ、夜は寝るしかねーんだよォ!」
「はい、美貴様のおっしゃるとおりです!」
「明朝、情報を整理してまた指示を出す、
 オメーラ適当に別れて就寝しろ、ヘタな真似すんじゃねーぞォ
 分かってるとは思うが、銃器は全てオレらが管理してるかなァ!」


藤本の号令でみんなおとなしく就寝の準備に取りかかった。
長屋を片づけて、合宿所から布団を運んだ。
紺野さんの指示でそれぞれに部屋が割り振られた。
1号室が藤本と紺野さんと絵里ちゃん、
2号室に後藤さんとれいなと、…市井先生も連れてきたみたいだ。
3号室には中澤先生と矢口先輩と安倍先輩、
4号室には愛ちゃんとひとみと小川さんと飯田先輩、
5号室には加護ちゃんと辻ちゃんと石川さん、
6号室はオレ一人、男だからといって隔離されてしまった。。
7号室にはまいちゃんとあさみちゃん、といった部屋割りだった。

布団をしいてすぐ寝るようにと言われたものの、
臭い長屋に一人、しかも慣れない布団で寝付かれない。
1時間ほど布団でもぞもぞしていたが、我慢できずに外に出た。

空には月が二つ、綺麗に輝いている。
月夜のせいか、目が慣れたのか、夜でも結構周りが見えた。
オレと同じように眠れない人がいたのだろう、何人かの人影が見える。

鉄棒の下の砂場にはれいならしき人影が見える。
体育館前の階段には愛ちゃんらしき人が座っている。
昇降口には紺野さんだろうか、銃を持って立っている。見張りだろう。
体育館裏のトイレの方には絵里ちゃんも見える。これも見張りかな。
裏門では藤本らしき人物が銃を持って外を見ている。

一人で眠れないよりは、誰かのそばに行って話でもしてみよう。

誰の方に行ってみようか?




1 れいなの方へ行く
2 愛ちゃんの方へ行く
3 紺野さんの方へ行く
4 絵里ちゃんの方へ行く
5 藤本の方へ行く
 

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