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【小説】チープなドラマ感覚で【みたいな】

1 :名無し娘。:2006/09/17(日) 19:57
ハロプロ全般、上から下まで。
予定は未定で確定ではないけれど、書いていこうと思います。
『ヒロインx男』の形が多くなると思うので、好まない方はスルーでお願いします。
下の方でコソコソいきます。
レスしてもらえるなら喜んで受けます。
類似したものを書いてくださる方はどんどん書いてください。

101 :『夏だね』:2006/10/01(日) 17:39

淡いブルーにホタルが舞い踊っている鮮やかな浴衣姿……。
日頃のひとみからは想像も出来ないほどに…綺麗だった。

「おう…ビックリした。似合うんだなぁ……ひとみも女なんだな」
「うるさいよ、バカっ!」

言うと同時に腹を叩かれた。
……握り拳だった。

「ってて…。コレは変わらないんだな。ったく……さて、行くか」

そう笑いながら二人の背を押し、昨日と同じ祭りの会場へ向かった。
前を歩く二人の足元から、カランコロンと聞こえてくる夏のハーモニーが小気味良く俺の耳に流れ込んできた。

102 :名無し娘。:2006/10/01(日) 17:42

ここまで。
もう少し早い時期にさらせばよかったなと今頃思う。
夏祭りの話なのに……だいぶ涼しくなったなあ。

103 :名無し娘。:2006/10/01(日) 22:31
文字だけで50KBってかなり長いよ

104 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:02

五時間あまりでレスがつくとは。

>>103
そう、ですか。そうなのかー。
個人的にはあまり長い気はしなかったんですが。
300超くらいまでは書いたことがあるので。

さて、続き続き。

105 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:03

「おう、そこの綺麗なおねえちゃん! ……ありゃ? 昨日のおねえちゃん達かい。
 今日は浴衣かい。あんまり別嬪さんなんで見違えちまったぜ、おい」

昨日と同じように、同じ場所で捕まる梨華。
違うのは店のオヤジも俺達のことを覚えていたことで。
だけど、それも当然、昨日はこのオヤジさんに助けられたそうなんだから。

「昨日は本当にありがとうございました」
「いやいや、俺等の鼻先であんなガキどもにブイブイ言わせちゃ置かねぇってモンよ。
 あんちゃんも見事にやられたモンだが、大したことなさそうでなによりだぁな」
「ども」

陽気に笑うオヤジさんに頭を下げ、苦笑いした。
その時になって、やっともう一人の存在に気がついたらしい。

106 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:03

「おうっ、そっちのおねえちゃんも浴衣なんだな。昨日とは違う意味で見違えたってモンだよ。
 しかし昨日のおねえちゃん達の取り乱しようったらなぁ……あんちゃん愛されてだなぁ、この野郎!」
「お、オッサンっ、余計なこと言わなくてイイんだよ!」

言葉の途中でなにを話すのか気がついたらしくて。
顔を赤くしたひとみが、慌てて割って入ったがオヤジさんの口は止まらなかった。

 ──……な、なんで俺までドキドキしてんだ

ひとみも梨華も、それを見ている俺までも照れている中で、オヤジさんだけが楽しげに笑っていた。
どうにも間が持たなくなった俺は、この場を切り抜けようと口を開いた。

「あんまり苛めないでくださいよ。……あ、また三本お願いします」
「おう、そうかい? ……ホイ。じゃあ、楽しみなよ」

107 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:04

そう言ってチョコバナナを渡し、ひとみと梨華の背を押したオヤジさんは俺の首根っこを掴んで紙コップを手渡してきた。

「なんすか? これ」
「気付け薬だよ。どっちがコレだか知らねぇが、しっかりやんなよ。じゃあな」

小指を立たせ、無理矢理紙コップを掴ませたオヤジさんと別れ、ひとみ達に追いつこうと足を速める。
歩きながら、貰った紙コップの中の液体に鼻を近づけてみた。

 ──おぉっと……こりゃあ?

思いっ切り酒の匂いがした。
甘い香りが漂うそれを一口含んでみた。

 ――うぉ……メチャメチャ強ぇー……

種類までは解らないそのコップの中身をしげしげと眺めたが、飲むのも捨てるのも躊躇われて手に持ったままで歩きだした。

108 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:05

先を歩くひとみ達は、射的の銃を持って俺がくるのを待っているようで。
軽く手を挙げると「早く早く」と梨華に手招きをされた。
二人に追いつくと、待ちかねたようにそれぞれが狙いを定め、パンっと軽い音を鳴らせて打ち始める。
一発撃つごとにキャアキャアと嬌声をあげる梨華。
それとは対照的に、スナイパー気取りで銃を構えるひとみ。

……が、終わってみれば惨憺たるありさまで。
彼女達のタマは何一つとして目標を捉えることはなく。
それでもテンションの上がっている二人はめげることなく、次から次へとチャレンジしていった。

金魚すくいでのひとみの暴れっぷりは見事なもので。
最初に一枚サービスまでしてもらっておきながら「すくえない。この金魚ドーピングだ!」などとワケの解らない事を言い出す始末。
梨華があまりに済まなそうな顔でとりなさなかったら、一騒動起きていたかもしれないくらいだった。

ま、傍観していた俺も悪いんだが……。

109 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:05

その後も、風船釣り、輪投げ、ことごとくスカりまくる二人は、食い気に走ることに決めたらしくて。
たこ焼き、焼きそば、焼きもろこし、二人で一つずつとはいえ、見かける店という店を制覇していった。
不意にお好み焼きを喉に詰まらせたらしく、梨華がむせるように咳き込みだした。
背中をさすってやりながら、飲み物を買おうと辺りを見回した時、梨華が俺の手の中のコップに手を伸ばした。

「あっ、それ……」
「……はぁ〜…」
「なに持ってたの?」

一気に飲み干して一息ついた梨華と、何気ない風に聞いてくるひとみ。

「あ〜……あのオヤジさんに貰ったんだけど…」
「だからなに?」
「解らん。アルコールであることは間違いないと思うんだけど……」
「え? ってことは……」
「ふぅ……」
「梨華? 大丈夫なのか?」
「なにが? ……なんかあっついけど。もう平気だよ」

110 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:06

俺とひとみは一瞬視線を交わしてアイコンタクト。
強いのか? さぁ? そんな視線でのやりとり。

「大丈夫そうだよな?」
「さぁ…多分ね」
「なにコソコソしてるの? 次行こうよぉ」

先に立って歩き出す梨華は、その足どりもしっかりとしていて、取りあえずは大丈夫そうに見える。

「…行くか」
「……あ、うん」

俺とひとみは杞憂に終わった心配を隅に追いやって歩き出した。
しばらく歩くと、少し人気の少なくなってきた辺りで梨華が足を止めた。

「ヒロちゃん……あれ」

大分奥まってきた場所に見つけたのは、さっきのとは違うもう一つの射的屋。
その景品の一番上の辺りを指差して遠慮がちに梨華が話しかけてきた。

111 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:06

「欲しいの?」
「……うん」

梨華が指差しているのは、こういったトコロに置いてあるにしては出来の良さそうなリング。
アクリル…いや、プラスティックだろう透明のケースに収まった小さな小箱。

「あれは当たらないんじゃないかな……横向きだしなぁ」

そう、当たり前だけれど、面積の大きい面は伏せられている面で。
ココから見てタマの当たる部分は2〜3センチ程度。
当たるわけがないと思ってはいるけど、俺の横で期待に満ちた目で見つめる梨華に、そう素直に言えるわけもなく。

「ふぅ…やってみるわ」
「頑張って♪」
「……無理っしょ」
「そんなことないよぉ。ヒロちゃんならきっと…」
「どうだかね〜」

112 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:07

勝手なことを言い合っている2人をよそに、金を払ってタマを受け取り、コレでもかって位しっかりと詰める。
グッと身体を伸ばし、右手一本で構えた銃が細かく震えるのをなんとか押さえ付ける努力をした。

 ──頼む…当たれっ!

震えが止まる一瞬、人差し指に力を込めた。

 パン

軽い音と共に聞こえてくる悲鳴のような声。

「うわぁ〜っ!」

それは夏の夜の奇跡ってもんだった。
思わず込み上げてくる引きつり気味の笑み。

「い、一発だよ……」
「やるね〜。ほい、おめでとさん」

我が事ながら、ちょっと呆気にとられてる俺に店の人が景品を手渡した。

113 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:08

「すごぉ〜い!」

俺の腕にギュッとしがみつきながら興奮したみたいにパタパタしている梨華。
掌に収まったケースを見ると、不意に黙り込み腕を解き、一度俯いて……一歩下がる。
顔を上げ潤んだ瞳で見つめてきながら、そっと左手を差し出して言う。

「ヒロちゃん…」

その真っ直ぐな瞳の輝きと、伸ばされた指の細さに飲まれ、ケースを開き取り出したリングを見つめる。

「梨華ちゃん…」

流されかけていた俺を押し止めたのは、それまで成り行きを見ていたひとみの小さな呟きだった。
何故そうしようと思ったのかは解らない。
でも俺の身体は自然に動きだし、そっと梨華の“中指”にリングをすべらせた。

114 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:08

「…………」
「こんでイイ?」
「ありがとう…とっても嬉しい」

一瞬黙り込んでリングの填められた手を見つめた梨華が俯いてそう言った。
その声に哀しみの粒子を感じ取ったのは自惚れというものだろうか。
ぎこちなくだが空気を変えるべく声を出す。

「ひとみはなんかないのか? 俺様がゲットして進ぜようぞ?」
「うん? ……別に。ってかもう当たんないんじゃない?」
「そうかもな」

そう言って笑いながらひとみに似合いそうな景品を品定めした。

115 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:09

昨晩と違って、今夜の俺はバカヅキだったらしい。
五つあったタマで四つの景品を打ち落とすという奇跡を具現してみせた。
一つは梨華のリング、そしてそれに似た印象を受けるブレス。
それにワケの分からないトボけたキャラのキーホルダー。
そして自分用に飾りの全くないオイルライター。

「どっちがいい?」

俺はブレスとキーホルダーを右の掌にのせて差し出した。
ひとみは二つをチラッと見比べて、顔を上げ差し出されていない手を指差した。

「それがイイ」
「これか?」

116 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:10

差し出した左手に収まったライター。
それを掴んだひとみは不思議な表情を浮かべて一言だけ聞いてくる。

「イイ?」

 ──……??

その表情の意味を掴みかねて戸惑っていると、再びひとみが同じ言葉を口にする。

「イイ?」
「あぁ…ソレがいいんなら別に」
「へへっ、サンキュ」

なにが嬉しいのか、タバコなど吸わないハズのひとみは嬉々とした表情でライターを手にした。

117 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:10

そんなひとみを見ながら、何とも言えない気持ちになってきた俺は、言葉を探すように口を開いた。

「さて……花火は何時だっけ?」
「あ、あ〜……八時半から? だった?」

我に返ったように…思い出そうとする仕草を見せながらひとみが答えた。

「ん〜……まだ時間あるなぁ」
「じゃあねぇ、ホラ、かき氷買ってさ、あっちで少し休まない」
「ういっす、じゃあ俺買ってくるわ……お任せでいいのか?」

そんな梨華の提案に、周囲を見回した俺は目当ての店を見つけ二人に聞いた。

「変なのじゃなければ」
「ブルーハワイじゃなければ」
「オッケ〜」

2人の返事を背中で聞き、笑いながらかき氷屋へ足を向ける。
イチゴ、レモン、宇治金時のかき氷を両手に抱え込んで、二人に手渡して人を避けるように歩き出した。

118 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:11

そうして神社の前の石段に三人で並んで座り、花火までの時間をノンビリと過ごしていた。
あれだけ耳を煩わせた喧騒も、祭り囃子すらも遠くに聞こえる神々しい空間。

「今日はそれなりに満喫できた……よな」
「……うん」
「そうだね」

清冽な雰囲気に飲まれるように自然と少なくなる口数。
そんな中、手持ち無沙汰ではないけれど、視線はなにかを求めて彷徨いだす。
……こんな静かな空間で、なんとなく両側は見づらい感じだったから余計に。

祭りを楽しみ歩く人達は、いずれも幸せそうな笑みを浮かべている。
家族でいられる少ない一時をはしゃいで過ごす子供達、そしてそれを満足そうな笑顔で見つめる親御さん。
あるいは友達同士、グループで来ているであろう中高生位に見える子達。

あるいは……幸せそうな恋人達。

119 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:11

ふと目にとまった一組のカップル。
彼も彼女もとても満ち足りた表情をしている。
ショートカットで濃緑色の浴衣に身を包んだ彼女は、自分から彼に甘えるように腕を絡めてる。
困ったような表情を浮かべつつも、それでもそれを喜んでいるんだろう彼。

 ──俺もあんな風な表情を浮かべるんだろうか?

あんな風な?

誰と?

梨華?

ひとみ?

それとも他の誰かと……?

答えのでない思考に入り込みそうになった時、ひとみの呟きが現実に引き戻してくれた。

120 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:12

「まだ結構時間あるよね〜……どうすっかね」
「そうだなぁ…………?」

そう返事を返して気がついた。
右の肩に掛かる違和感。

「どーかした?」
「いや……」
「なんだよ……あっ」

再度問い掛けてきて、やっとこっちに顔を向けたらしいひとみも気がついた。
俺の肩に頭をのせ、スヤスヤと眠りにおちているお姫様。

「梨華…おい、梨華?」

軽く肩を揺すり、呼びかけても起きる様子はなく、長く綺麗な睫毛を微かに動かしただけだった。

121 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:13

「梨華ちゃん、花火見ないの? 梨華ちゃん!」

立ち上がり梨華の方へ回り込んだひとみが、肩を揺すってもいっこうに目を覚ます様子はない。

「さっきの酒のせいか……」
「あ……ダメだな、起きないよ。……多分」
「……はぁ」

もう少しで最大のイベントだってのに……仕方がない。
吐き出した溜息と共に意を決したが、ひとみはどう思うのかが解らない。
だから俺は、至極簡単に一言聞いてみた

「どうする?」
「……帰ろっか。見るなら梨華ちゃんも一緒じゃないと……」

語尾は掠れていって聞き取れなかった。
が、ある種の結論は出たようだった。
言葉の続きが気にはなったけれど、取りあえず後で考えることにした。

122 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:14

梨華が倒れ込まないよう支えながら、ゆっくりと立ち上がって気がついた。

「なぁ……浴衣ってどこまで足開くんだ?」
「はっ? ……この…」

そう聞いたひとみには怒りの色がちらついたようで、慌てて俺は言葉を付け足した。

「バ、バカ、違うっつーんだよ。 背負うのに大丈夫なのかって……」
「あ…あぁ、どうしよう……?」

ひとみは梨華の浴衣の具合を確かめるように見ながら、逆に聞き返してきた。
俺に聞かれても解らないから聞いたのに……。

123 :『夏だね』:2006/10/01(日) 23:14

「しゃーねぇな。抱き上げていくか……よっ!」

どうにも目を覚ます様子のない眠り姫を“お姫様抱っこ”の形で抱き上げた。

「大丈夫そう?」
「軽いもんだわ。ひとみなら解んないけどな」
「バカっ」

軽口の返答は下駄での一踏みだった。

「ぐっ……悪かった、危ないからやめろって」
「なら余計なこと言うな……バカ…」

いつもとは微妙に違うひとみの口調に戸惑いを感じたけれど……。
抱き上げた梨華にぶつからないよう、人混みを縫って歩きながら家路についた。

124 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:15

ふぅ。
……夏祭り夏祭りっと。
もう一回で終わります。

ではでは。

125 :名無し娘。:2006/10/02(月) 00:07
三角関係?

126 :名無し娘。:2006/10/02(月) 05:30
すごい、続きが気になる…
読み応えあるなぁ〜

127 :名無し娘。:2006/10/02(月) 20:14

おーー!
読んでもらえてる。

>>125
そうかな? そうだけど、そうじゃない部分も。
あ、でもそうじゃない部分は書いてないやw

>>126
っ!? そうですかそうですか。
……お茶でも如何です? 肩揉みましょうか?


さ。
さくさくいこう。

128 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:15

肩をグルグルと廻して凝りをほぐしながらリビングへと戻ってきた。

「起きてっか? 梨華、寝かしてきたわ」
「あー、うん、うちと梨華ちゃんトコ電話しといた。遊び疲れて寝ちゃったからって。
 さすがに酔っぱらって起きないなんて言えないからさ」
「そっか。……!?」

ひとみの言葉のなにかが引っかかった。
少し考えてみろ……なんて言いやがったんだった?

 ──うちと梨華ちゃんトコ?

129 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:16

自分の言葉に引っかかっているとは思ってもいないようで。
ひとみはおかしなものでも見るような目で俺を見返していた。

「なに?」
「なにって……ひとみも帰らないのか?」
「梨華ちゃんだけなんて……危なくってほっとけないじゃんか」
「なにもしねーよ」

呆れてそう言い放った俺に、いつものひとみからは信じられない程に小さな声で呟いた。

「なにも……しない、の?」
「はぁ? よく聞こえねーよ。なんだって?」
「……いいや、なんでもないから」
「なんだよ?」
「なんでもないつってんだよっ!」

130 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:16

突然弾けたように背中を向けて、ひとみは大声で叫んだ。
訳が分からなくなった俺は、ひとみの座っているソファーの後ろに回り込み、その肩を掴んだ。

「おいおい、なにキレてんだよ」
「うっせーよっ! この腐れ鈍感野郎!!」

肩に置いた手を強い力でハジかれた。

 ──い、言うに事欠いて“腐れ”だぁ?

「誰が“腐れ鈍感野郎”なんだよっ」

言いながら再び伸ばした手は、ひとみの肩を掴むことはなく。
逆にその腕を掴まれ、巻き込むように一気に引っ張られた。

「おぁ!?」

131 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:17

不意をつかれる形になった俺は、ろくに逆らうこともできず。
バランスを崩して、体ごとひとみの上に倒れ込むようにソファーの背もたれを乗り越えた。
勢い余った俺たちはソファーから転げ落ち、テーブルとの間に倒れ込んだ。

「イッてぇ〜……」

床にぶつけた頭を押さえようとして、腕の自由が利かないことに気がつく。
目を開くとそこには、鼻と鼻が触れあいそうなほど至近に、強い意志を映したひとみの眼差し。

「ヒロ、がだよ……」

ひとみの両手は俺の両肩に置かれ、完全にのし掛かられた状態になったままでひとみが呟いた。
一瞬なんの話しだったか繋がらず、返事に困っていると、ひとみは更に言葉を続けた。

「鈍感野郎……」

132 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:17

二つの言葉と話しの流れが繋がって、ヘンに納得して「あぁ」と漏らした口。
その口が閉じるよりも早く、温かく柔らかなひとみの唇が重ねられた。

「っ!?」

不慣れなことが明白な不器用さで、ただ押しつけるだけのキスに口を塞がれて。
驚きと混乱と……意外なほどに乱れる鼓動と。

どれほど長い時間──実際は解らないけれど──そうしていただろうか。
ひとみはゆっくり顔を離し、深く息を吸い込んで……なにかを怖れているような表情で口を開いた。

「これで……」

133 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:18

小さな…ホントに小さな声で。

「これで…梨華ちゃんと同じだ……」

耳に届いた言葉は思いもよらぬ言葉で。

「え……?」
「昨日の夜」
「あっ…えっ、だって……」
「ヒロは覚えてないんだろ? でも…そーゆーこと」
「お前……」

134 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:18

昨日の夜……
雨に濡れていたひとみの姿がフラッシュバックする。

「ずっと見てたんだ。あの時ずっと……。梨華ちゃんはすっごく心配そうにヒロの顔を見つめてた。
 心配そうに…大切そうに……膝の上で眼を閉じてるヒロの顔を愛しむみたいに撫でてた」
「……そう」
「それから…なにか神聖な儀式みたいに……キスしたんだ」
「…………」
「しばらくして顔を上げた梨華ちゃん…は、さ……泣いてたよ」
「…………」

135 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:19

俺は何も言えずに黙ってひとみの言葉を聞いていた。
梨華がそんなことを……ひとみが黙って見ていたってことを。

「それから少しして、ヒロが目を覚ましたんだ」
「……お前は?」
「え?」

俺は何を言おうとしているのか。
乱れたままの心とは裏腹に、言葉は勝手に紡ぎ出されていた。

「ひとみはどうだった?」
「…………」
「俺が目を覚まさないで…梨華にキスされて……お前はどうだったんだよ」

136 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:19

口にしておいて卑怯なセリフだなと思った。
答えを知っていながら、それでもひとみの口からそれを聞きたいと思っている。

「…………」

ひとみは苦しげに顔をしかめて目を逸らしてしまう。
そんなひとみの表情を見せられて、俺は自分の愚かさに心の中で舌打ちをして身を起こす。

137 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:20

「…イヤじゃなかったんだ」

ひとみの腰に手をあて、捻るように体を入れ替え起きあがろうとした時、ひとみが呟いた。

「え?」

俺たちはどちらからともなく身体を起こし、ソファーに半身をあずけた姿勢で見つめ合っていた。

138 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:21

ひとみは俺を見ながら、それでいて違う何かも見ながら言葉を続ける。

「梨華ちゃんとヒロがキスしてるのを見て…イヤじゃあなかった」
「…………」
「でも……哀しかった」
「…………」
「胸の奥の方が刺されるみたいに痛くてさ」
「…………」
「あ〜、やっぱあたしヒロのこと好きなんだなって」
「………あっ」

ずいぶんとあっさり言われちまった。
危うく聞き流すところだった──聞き流した方が良かったのかもしれない──言葉。

139 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:21

「なに?」
「いや……好き?」
「好き」

いとも簡単に言い放たれた。
自分を指差して確認すると、当たり前だって顔をして頷かれる。

「ヒロは……梨華ちゃんの方が好きなんだろ?」
「え? あ〜…」
「言わなくてイイよ」

半ば諦め混じりのふて腐れているような口調。

140 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:22

答えを出すよりも先に、再び口を塞がれた。
最初のモノよりの丁寧な、しっとりとしたキス。
唇から伝わる温かさは、普段のひとみとは違う、今のひとみの心を感じさせた。

「…っ!? ん、んん……」

自分の気持ちも解らなかった。
ひとみの事がキライなわけはない。
好きだといえるかどうか……解らない。
行く先が解らないまま、泥沼かもしれない道へ踏み出していく。

141 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:22

俺はいつしか流されるようにひとみの歯を割って舌を差し入れた。

「んっ、んむ〜」

突き放すように身を離したひとみは、少し驚いたような表情で、その白い頬を朱に染めていた。

「こんなんイヤか?」
「あっ……ううん」

そう言ったひとみはいつになく“オンナ”を匂わせていて。
それは俺の理性をぶち壊すのに充分すぎるものだった。

「ひとみ…」
「んっ…」

座り込んだままの姿勢で腕を腰に廻し強く抱きしめた。

142 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:23

俺より少し背の低いひとみの身体は意外に細くて、その思いがつい口から出てしまう。

「あれ…?」
「なに? あたしなんかヘン?」

少し身体を離したひとみは不安そうな顔で言う。

「いや……ひとみ、思ったより全然細いのな」

日頃からだぶついた、身体のラインの出ない服しか見た記憶がなかったから気がつかなかった。
久しぶりに出逢ったあの頃よりも……細くなってる、きっと。

143 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:23

それを聞いたひとみは、また少し赤くなって呟いた。

「バカっ、だから鈍感だってゆーんだよ」
「はぁ?」
「去年からダイエットしてんの!」
「去年から? あっ!?」

 ──俺が帰ってくるから…か

「もっと早く気づけよ……バカっ!」
「そっか…」
「ん…あっ」

腰に廻した手に力を込め、引き寄せてキスをした。
優しく…驚かさないようゆっくりと…少しずつ舌を差し入れていく。

「ん…はぁ」

144 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:24

どうすればいいのか解らないように縮こまっていたひとみの舌が、次第に、少しずつ反応を返してくる。
熱く、激しく交じり合う行為が、自然と互いの心を昂ぶらせていく。

「んぅ、ヒロぉ」

背中に廻した手を滑らせるように下ろしていく。
帯を通り越して柔らかな丸みのあるラインを撫で、横からふとももの下へを滑り込ませて脚を持ち上げた。

「…あっ!」

狭いスペースに横たわらせたひとみの上に、覆い被さるようにキスをした。
時折切なげな吐息を漏らすひとみとキスを続けながら浴衣の胸元に手を伸ばしていく。

「くぅ、ん……っ」

145 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:24

襟首からのラインを舐めるように滑る手は絹のような感触を受け取っていた。
きつく締まった浴衣の胸元へ、クイクイと持ち上げるように指を押し込んで。
指先に伝わる感触は、次第に柔らかな触り心地へ変わっていく。

「あっ、ん……ああっん!?」

もっとも敏感な先端に指先が届いた瞬間、ひとみの身体が小さく跳ね、覚醒したように口を開いた。

「あっ、ち、ちょっと…」
「イヤか?」
「ちが、違くて……」

言いながらひとみは胸元を合わせながら上体を起こした。
俺の反応を見て少し慌てた風に、それでいてどこかしら楽しげに口を開く。

「アタシばっかじゃさ……そこ座ってよ」

146 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:25

俺の反応を窺いながら、少し妖しげな笑みを浮かべる。
言われたとおりソファーに座ると、ひとみは俺のベルト外しジーンズに手を掛けた。

「お、おいおい…」
「いいからいいから……こーゆーの好きなんでしょ」
「は?」
「だってホラ、昨日……」

そこまで言われてやっと思い出した。
祭りの途中でそんな話を……

 ──ってアレはお前が……

そう言おうとした時には、すでに昂ぶったモノは解放されていて。

「うわぁ……」

さも珍しいものでも──珍獣扱いか?──見たような、驚きの声と表情。

147 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:25

「…んなマジマジと見んなよ」
「こう…すんだよね」

根本からそっと舌を這わせ、上へ向かって舐め上げてくる。

「うぁ…」
「あは、気持ちいいんだ。で、こうとか…」

先端を口に含んで舌先で刺激しながら深く銜えるようにされる。

「ぅ……」

みっともなく声が漏れそうになった瞬間だった。

148 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:26



 カチャ

149 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:26

「っ!?」

背後から聞こえた扉の開く音。
そして聞こえてくる眠たげな梨華の声。

「……ヒロちゃん?」

そして……思わず声が出そうな──実際出さなかったのが不思議なくらい──痛み。
涙が出そうな痛みを必死で堪えて、ソファーの背もたれ越しに、さもナニもないかのように振り返って返事をする。

150 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:27

「あ……梨華、どうした?」
「ん〜ん…」
「朝になったら起こすから……っ…寝てなよ」

 ──頼むから、寝ててくれ……

「ん…ありがと」
「全然。…おやすみ」
「うん、おやすみぃ…」

まだ寝ぼけているようだったのが幸いした。
梨華はそのまま部屋へ戻っていき、扉はカチャリと音を立てて閉じられた。

151 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:27

ホッとすると同時にぶり返す痛み。
そしてそぉ〜っと顔を上げるひとみ。

「お前……っつぅ〜」
「ごめん…噛んじゃった」

とても申し訳なさそうな顔つきで。
それでいて笑いを堪えるような声で謝ってきた。

「ごめんって……」
「コレ…大丈夫かな?」

萎えてしまったモノを人差し指と親指で持ち上げるようにしながらひとみが聞いてくる。

152 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:28

「摘むなバカっ……マジで痛いわっ…大丈夫だけど…多分」

言いながらテーブルに置かれたティッシュで微かに滲んだ血を拭き取る。
なんとも情けない姿だ……。

「……あのさ」
「なに?」
「今日はもう……?」
「ム・リ・で・す」

一言一言を強調するようにハッキリと言った。

「あ、あは、あはは……そうだよね……うちから救急箱取ってくるよ」

ひとみは苦笑いを浮かべながら、少しだけ残念そうにそう返事をし、庭先へ通じるガラス戸を開けて外へと出ていった。

153 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:28

「こっちの方が残念だっつーの」

心なしかその背中が笑うように揺れていた気がする……。

 ──……残念、だったのか?

誰が?

ひとみが?

それとも俺が?

勢いでそうなることが望ましかったんだろうか?

154 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:29

開け放たれたガラス戸の向こうから流れ込んでくる夏の薫り。
自問自答する俺の耳に、遠くで微かに花火の音が聞こえてきた。
時計を見ると、丁度花火も終わりに差し掛かるような頃合いだったから聞き違いではないだろう。
遠くで聞こえる花火の音に耳を澄ましながら、ティッシュで股間を押さえている自分。

「なんだかなぁ……?」

情けない思いに囚われながら呟いた。
この夏の間に心を決める丁度良い時間が出来たのかもしれない。
などと、前屈みの情けない格好で、少し前向きなことを考えてみた。

「夏だねぇ……」

155 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:29

 -取りあえずお終い-

156 :名無し娘。:2006/10/02(月) 20:34

……夏じゃないねえ。

それはともかくだ。
このぐらいのエロシーンはどんなもんなのかな?
様子をみながら次の投下を考えるんで、
その件については反応くれるとありがとうとゆいたいです。

では。

あ、プラスでもマイナスでも感想のようなものは、もらえるなら諸手を挙げて喜びますよ。

ではでは。

157 :126:2006/10/02(月) 22:55
全然エロでいいと思いますwこの続きってもうないのかな?
梨華ちゃんと主人公の仲も気になるし…w
次も、期待してますよ。

158 :名無し娘。:2006/10/03(火) 21:01
寸止めきたこれ

159 :名無し娘。:2006/10/04(水) 21:39
おお。意外と読んでくれてる人いるのねえ。

>>157
なくもないですよ。
相変わらず品質保証はないですけど。

>>158
寸止めしてみた。
やるならやれよって感じ? 多分そのうち。ヒロインは違うかも。

160 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:12

某番組の収録前、専用の静かな楽屋の中で、鏡の前に座る女性にメイクをしている。

「なぁ、あたしホントにコレでいいと思う?」

メイクの途中、シャドウを塗られる為、軽く瞼を閉じながら彼女が聞いてきた。
俺は目を閉じた彼女に、薄く丁寧にシャドウを重ねていきながら聞き返した。

「はい? 何がですか? このシャドウ気に入らないです?」
「ちゃうちゃう。だからなぁ、あたしの現状の事に決まっとるやん。
 付き合い長いんやから、それ位察しぃや! それと、なんでまたそんなかったい言葉遣いなん?」
「いや、今は仕事中ですから。こっちも一応プロですからね。
 プライベートでメイクやらせてもらってるわけじゃないんで、公私のケジメってヤツですね」

意図的にいつもの仕事時よりも、他人行儀に事務的な口調で答えてみた。
返ってくる答えは予想できるんだけど、これも手順の一つってものだろうと思う。

161 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:13

彼女との付き合いは結構長く、やっとこの仕事になれてきた頃のこと。
彼女等がデビューして間もない頃、メイクを担当する機会があったのが初めての対面だった。
その後も幾つかの偶然と僅かな必然でメイクを担当する機会があり、少しずつ色々な話をするくらいの仲になっていった。
一度だけだがツアー時のメイクとして帯同させてもらったこともある。

「そんなん構へんやん。相変わらず変なトコで堅いんやから……
 二人しかおらん時は普通に喋ってくれん? っていうか普通に喋れ」

あまりにも予想通りの返事に笑いだしそうになったけど、コレもいつものことだ。

「め、命令ですか? ……まぁ、いいか。じゃあ普通にやらせてもらうわ。
 で、なんだっけ、中澤の現状? あ、次は唇やるんでちょっと喋らないでな」

言いながら、彼女の唇へ口紅を塗り始める。

「んぁ、答えろや!」
「はいはい、やりながら話すから……はみ出すっ! 動くなってば」

162 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:13

初めて会った頃から変わらぬ、時々出てくる子供っぽさに、ついつい苦笑いを浮かべてしまう。
口紅を塗る手は休めず、逆に自分の思うことを問いかけてみる。

「悪くはないんじゃないの? そりゃあ昔みたいに忙しない時間じゃないだろうけどな。
 でもまだ歌えてる。だろ? 不満かもしれんけど、らしく頑張ってりゃ大丈夫だと信じろよ。
それとも……不満じゃなくて不安か?」

唇を仕上げながら彼女の表情へ目をやると、その言葉が当を得ていたことが明白なようでいて、
彼女の仲で確信があるわけではない、そんな微妙な表情を浮かべていた。

「ふむ……はいOKね。 で、そんな感じあるの?」
「ふ〜ん、やっぱプロなんやね、自分でやるのと仕上がりちゃうわぁ」
「ど〜も」
「…………」
「どしたね?」

彼女は黙り込んだまま眉間に皺を寄せ考え込むような、
それでいて自分の心の奥にある何かと向き合うかのような表情で話し出した。

「不安? うん、自分でもなぁ……よぉわからへんのよ……ホンマんトコ。
 そりゃああんな忙しさはありえへんのは解ってるしなぁ。でも……」

163 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:14

そこで言葉を切り、俯いた。
どうしてそんな気持ちになるのか、何処に原因があるのかどうしても答えにたどり着かずにいて。
そんな自分が…自分の事が解らないことがもどかしくて困惑しているようだった。

「……でも? 」
「……はははっ…なんやろなぁ」

沈みがちな雰囲気を振り払いたいのか、声を出して笑ってはいたが、その笑いは無理に作られたものであることは、あまりにも明らかで。
なんと声を掛けたらいいのか迷っていたとき、楽屋の扉がノックされた。

「中澤さん、本番お願いしまーすっ!」

言われた彼女は気持ちを切り替えるためか、両手を組み大きく伸びをする。

164 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:14

「ん〜〜〜! ほな行ってくるわ。今のは忘れてな」

 ――忘れてって言われてもな……

「なぁ、今日何時終わり?」
「ん? あ〜、ちょっと遅くなる思うけど?」
「ま、何時でもいいわ、終わったら電話くれ。ちっと酒付き合え」
「なんやねんな、それ…」
「いいだろが、なんだって。待ってっからな、じゃ俺も次行くから」

無理矢理に約束をして楽屋の扉を開け通路へ出る。
中で何かブツブツ言ってるようだが、聞こえない振りをして出てきた。

165 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:15



 …………

166 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:15

『今終わったわ。 で、どうするん?』
「おう…って、ホントに遅いのな。今から飲める店だと…」
『ほんならウチきたらええやん?』
「ん〜、そうすっかなぁ」
『散らかってるけど、別に構へん?』
「ああ、全然。じゃあ今からそっち行くわ」

167 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:15

 …………

168 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:16

「「乾杯〜」」

互いに缶ビールを一気に呷って一息ついた。
どこから話そうか考えている間に、彼女の方から切り出してきた。

「で、なんか話あるんやろ。わざわざ遅くまで待ってくれて…何やの?」
「何って……今日の話の続きだわ、すっきりしてないっしょ?
 っていうより、俺の方がすっきりしてないんだな」
「はぁ、やっぱりそれなん? なんで? もぉいいって…忘れて言うたやんか」

言いながら二本目に手を伸ばす。
どう考えても気を遣って言ってるようにしか見えない。
そんな気を遣われても、あんな表情見せられて納得いくわけがない。

「ふざけんなっつーの、あんな顔して話されて忘れろって?
 無理だね、そんなん。ほれ、諦めて言え、お互いにすっきりすんぞ!」

169 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:16

顰めっ面していたのが苦笑いに変わり、観念したかのような溜息と共に彼女は話し出した。

「だから言うたやん、自分でもよくわからないんやって。わからんもん、どうしようもないやん?」
「でも不安なんだろ?」
「……多分、そうなんやと思うけど」

互いに新しいビールを開けながらも話し続ける。
俺は何となくだが、彼女の不安の理由に気が付き始めていた。

「あのな、あの後しばらく考えててさ。
 中澤に会う前…だから八年か九年くらい前だと思うんだけど、ちょっと似たような話聞いたことあるんだわ。
 詳しくは言わんけどアイドルさんのメイク担当したのさ。
 その時、歳が近かったせいか、割とよく話してなー、その娘も今の中澤みたいなこと言ってた」

彼女はビールを飲む手を休め、神妙な顔で俺の話を聞いていた。

170 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:16

「その娘と色々話したときには、その不安の原因は『ファン』だったらしいよ」
「ファン? 自分の?」
「そうその娘のファン……本当に『自分』を見ているのかどうかに自信がもてなくなったって。
 その娘も元グループでやってた娘で、TV出ててもライブしてても自分を見るファンの眼に
 グループだった自分を見てるような気がしてどうにもならないんだと、どう思う?」
「どうって……」

そう言ったきり、彼女は俯いてしまう。
まだ彼女の中にある核心には触れてない。触れたからといって、それがなんになるのか。
結果がどうなるかに自信があったわけではなかったが、切り込んでみなければ解らないこともあるだろう。

「ひょっとして中澤にもそんな感じあるんじゃないかなっと思ってさ」
「…………」
「あるんだ?」
「もしもそうなんだったら、どうしたらいい? その娘はどうやって解決したん?」

171 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:17

 ――やっぱりソレ聞かれるよな……

そう聞かれるであろう事は解っていたが、話し出してしまった以上続けなければならないだろう。

「……しばらくしてから、アイドルである自分を全然知らない男と結婚した」
「やめてもうたん?」
「ああ、やめたよ」

はっきりと言いきった俺の言葉に、彼女はまた俯き聞き返してきた。
その声に僅かながら何かの感情を押し殺してるような気配が感じられた。

「あたしにもやめろって言いたいんかなぁ?」
「そんなん言わないよ、俺がそんな事言うわけないだろ。中澤が歌うの好きかも知ってるし……俺は…」

最後まで言い切る前に彼女が言い返してくる。
その声が僅かに震えていた。

「せやけど、その娘はそうやって解決したんやろ?」

172 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:18

少しばかり感情的になってきてる彼女の声に、引きずれないように視線を落とし極力優しく聞こえるように話す。

「その娘と中澤じゃ違うと思うんだ」
「どう違うん? 同じだと思うたからその話したんやろっ?」
「俺は『似たような』って言ったんだ。似てるだけで同じだなんて言ってない」

抑えていた感情が積み重なって、少しずつ溢れてきているように、声のトーンが上がってきている。
視線を上げて顔を見つめるとブラウンの瞳がにじんで揺れていた。
それを見てしまった俺は、より一層心を抑える努力をした……が。

「違わへんよぉ……うちも心ん中で『娘。』だった頃引きずってるのかもしれんやん。
 自分でそう思ってるくらいやもん、うちの事好いてくれるファンの子らかて、そう思ってるに決まってるやん」
「…………」
「なんで黙ってるん? なんか言ったらええやん」
「だから……中澤のファンなんだから、そりゃあモーニングん頃から好きなファンだっているだろうし。
 逆にソロになって好きになってくれたファンだっているだろ? ……俺だってそうだわ、ファン歴長いぞ。
 でも、ちゃあんと娘。を卒業したソロ・中澤裕子として好きだしな」

173 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:18

本人を目の前にしてこんなこと言う羽目になるのは気恥ずかしかった。
照れ隠しに落としていた視線をそっと上げて彼女の反応を見てみた。
掴んだ缶に視線を落としたままで、ジッとしたままなんの反応も見えない。
ホンの少しだけ下から覗けるように体勢を変えてみる。
そこから覗える顔に赤みが差してるのは酒のせいだけではなさそうだった。

「…………」
「なんか言えよ。 二人で赤くなってどうすんだよ」
「だって……今までそんな事言うたことなかったやん」
「言えなかったんだよ、んな……照れくさくって」
「……何時から?」
「仕事で初めて会った時から」
「ず〜っと? 今も?」
「ああ、ず〜っと。今も好きじゃなきゃ、それこそ言わんわっ!」
「……好き? …………ただのファンとしてだけなん?」

174 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:19

小さな声で、答えを聞くことを怖がるかのように彼女はささやいた。
そこまで言われてからやっと、俺は最後の一線まで踏み込む決心をした。

「ん、中澤裕子って芸能人じゃなく、一人の女性としても………好きだ」
「……そっか」

彼女は眼を閉じて俯き、そっと一つ息を吐いた。
そしてゆっくり瞬きをしながら顔を上げ、俺の眼を見つめた。
しばらく見つめ合った後、そのままの姿勢で再びそっと瞼を閉じた。

「裕子……」

俺は初めて彼女を下の名で呼び、そっと抱きしめて……唇を重ねた。

175 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:19

彼女が感じている不安を少しずつ取り払っていくように、慎重に…優しく。
互いの唇が触れるだけの、ソフトなキス。
時間を掛けて徐々に彼女の中へと舌を絡ませていく。

「ん……ふぅ…」

ゆっくりと身体を傾けて、彼女を仰向けに寝かせながらキスを続けていく。
服の上から彼女の華奢な身体のラインをなぞると、微かに身じろぎするような反応が返ってくる。
背中に廻した手を細い首筋へ、そして決して大きくはないが、柔らかい胸へと手を下ろし優しく揉みしだく。

「んぁ……んん……」

彼女の反応を確かめつつ、右手で胸を揉みながら、左手で服のボタンを外していく。
ボタンを外した左手をブラの中へと滑り込ませる。先端の突起を避けるようにして。

「あぁん、くっ……ん……」

176 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:20

固くなったその部分に触れるか触れないか微妙ところを刺激し続ける。

「ぁん! ……ねぇ……はぁ……」

焦れてるような恨めしそうな眼で訴えてくる。
解っているけど、その仕草が可愛くて苛めたくなり聞き返した。

「なに? どうして欲しいの?」
「……ん、もぉ、わかってやってるくせに……んんっ!」
「うん、わかってる……苛めてみたかったんだ」
「あぁ……もぉ……ねぇ」
「ごめんごめん」

一瞬だけ先端を掠めて、また遠ざける。

「くぅん……そんなん…あ、あんっ……」

177 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:20

空いてる手でブラをずらし、舌での刺激も加えてみる。
そして脇から腰をなぞり、意外にふっくらしたお尻を撫でる。

「んぁぁ――、はぁ……もぉ……苛めんでぇ…………お願いぃ!」

指で軽くつまむと同時に、反対の乳首も口に含み舌で転がす。

「あはぁっ! んんーーっ! ……くうっ! 」

焦らされた分、過剰なまでの反応で身体全体がビクッっと跳ねる。

「あ…あん……いや…う…、くぅ、もう……」
「いや? もう?」

片手で胸を刺激しながら、舌を胸から少しずつ舌へと這わせていく。
腰から足まで、ピッタリしたラインに沿って伸びているズボンのボタンを外しパンティーを露出させる。
もう、すっかりソコは濡れていた…ともすればパンティーの上からでも、その形が解るくらいに。
スゥーっとソコをなぞるように指を動かす……不意に強く擦りつける。

「やっっ……あっっ! はぁんんっっ!!」

178 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:20

突然の激しい刺激に彼女は軽く達したようだった。
少しふわついた感じになっている彼女の腰から、そっとパンティーをおろしていき、舌でそのラインをなぞるみたいに小刻みなリズムで刺激し始めた。

「ああっ、あっ、あ――――っ、あっあああん、ああん…」

その舌先が、一番敏感な突起に触れるたびに彼女の腰が跳ね上がる。
紅玉みたいに大切な宝石を、唇で挟み舌先で軽く突く。

「んんぁぁ! ……お、お願い……もぉ…」
「……仕方ないなぁ」

とは言いつつも、彼女同様こっちも我慢しきれなくはなっているのも事実。
要望に応える振りをして一気に貫くことにさせてもらった。
自分の先端を彼女の秘所にあてがって、ささやくように問いかける。

「いくよ?」
「あん、は、早く……」

179 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:21

期待通りの反応が嬉しくて、それでもゆっくりと……浅めに挿入していく。

「はぁっ、はぁぁんんぅ……あぁ、んっ!」

浅いところでゆっくり出し入れを繰り返す……

「はぁん……あぁぁ」

不意に深く押し込んでみる。

「ひぁん、んんー、イ、イイ、もっと……してぇ」

浅く浅く……リズムが単調にならないようにしながら時に深く……

「うああっ、くうぅ‥‥お、奥に当たって‥‥はあんっ!」

そうしているうちに彼女の中の締め付けが、かなり激しくなってきた。

180 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:23

彼女の全てを感じるように奥へと入り、弧を描くように動かしては、深く突く。

「くっ! そろそろヤバイかも……」

そう言いながら腰を引こうとすると、拒むように強く締め付けられ、細い腕が俺の背中へ廻された。

「あ、ん……中で……あふぅ……だ、大丈夫だから……」

言われて彼女の目を見つめる……本気、のようだった。

「ん、わかった」
「あ! はぁ……あ、あたしも……もう……あああっ! い、一緒に……」
「ああ、一緒に」

彼女の細い身体を抱きしめながら、一層激しく突いていく。

「はっん……あぅ……ん、イッ‥‥」
「んっ‥俺も‥‥イきそう」
「ダメ……も、もぉ、…んあああぁぁぁ〜〜〜!!」

181 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:23

 …………

182 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:24

「ふふふっ……」
「なにが可笑しいんだよ」
「……裕子やて」
「いいじゃんよ、そう呼びたくなったんだからさ」
「裕子なんて呼ばれたの久しぶりやわぁ」
「……そうなの?」
「うん、え〜っとなぁ……矢口以来」

言ってから、裕子は自分の言葉にさも可笑しそうに笑った。

「やぐっちゃん? ……俺はあんな小っちゃくないぞ」
「せやね、確かに小っちゃなかったわ」
「……何がだよ」
「……ナニがやろ〜ね?」

言ってから裕子は小さく笑った。
……なんて事言いやがるんだ。

「…………」
「…………」

しばしの沈黙。
そして二人揃って少し赤い顔して笑い合った。
どうやら、これからはプライベートでも彼女のメイクを担当することができそうだった。

183 :名無し娘。:2006/10/04(水) 23:26

エロ。
昔書いたのをチョロッと焼き直しただけだけど。

こんなんでもいいのかな。

書いたのは卒業して少しした頃だったなぁ……懐かしい。

激しい拒絶とかなければ、またそのうち。
ではでは。

184 :名無し娘。:2006/10/05(木) 12:31
コテハンつけないの?

185 :名無し娘。:2006/10/05(木) 12:36
これまだ続くのかな?

186 :名無し娘。:2006/10/05(木) 19:41

……連投?(違)

>>184
コテハン? ……実はコテハンも持ってるんだけど。
なんとなくコッソリやってみてた。

>>185
「あるよ」
なかざーさんの続き。需要あるのかな?

187 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:48

久しぶりに逢ったってのに……今日こそと思っていたのに。
なんでこんな事になったんだろう。
憎たらしくなる程に丈夫そうなマンションの扉を前に、頭を抱えながらそんな事を考えた。

188 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:48

 …………

189 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:48

互いのスケジュールがなかなか合わず、顔を合わすことすらも久しぶりだった。
仕事上の付き合いから友人に、そしてそういう関係になってからも変わらない距離感。
二人の間にさして変化は生じず、今でも半ば飲み友達のような間柄のままでいた。

その日は通い慣れた静かなバーで、軽く喉を潤してから裕子──中澤裕子──のマンションで俺が食事を作る。
それからゆっくり飲み直して……。
そんな予定だったんだが……。

カウンター席に並んで腰掛けて、裕子はビールをグイグイと。
俺は車で来ているため、最初の一口だけは付き合って、後はアイスコーヒーで我慢している。
裕子が化粧室へ立ったとき、何気なく見回した店の片隅で、一人の女がジッとこっちを見ているのに気がついた。

見覚えが……あった。
が、しかし、それは今この場所では思い出さない方がいい、あまり好ましくない記憶だった。

190 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:49

こちらが思い出したことに気づいたらしく、女が席を立ち、ゆっくりと歩み寄ってきた。
思わず心の中で舌打ちする。
その女が近づいてくるにつれ、強い化粧の匂いが鼻を刺激する。
女を意識しすぎた表情で妖しく微笑みながら肩に置かれた手の先で、センスの良くないネイルが光っていた。
俺の肩口に顔をよせ、しばらく一方的に囁いた後、チラッと視線を移した。
そうかと思ったら、ぐっとすり寄るようにしてから身体を離しざま媚びるような口調の言葉を残していった。

「またお店の方に顔出して下さいね。前の分もサービスしますから」

その去り際の態度は妙に意図的なモノを感じた。
ハッとして離れていく後ろ姿に目を遣ると、その向こうに裕子の姿があった。

191 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:49

 ──やられた……

裕子の両眼がスゥッと細められたのが解った。
聞き逃してくれてればとの淡い期待は、その瞬間に粉々に砕け散る。
立ち去る女の後ろ姿に一瞥くれるように首を巡らせた裕子の表情がどうなっているのか、想像して背筋に冷たいものが走った。
俯き加減にゆっくりと戻ってくる裕子は、わざとらしい咳払いを一つして椅子に座った。

「誰?」

顔を上げた笑顔の裕子が短く一言発した中に、底知れない恐怖を感じるのは俺だけじゃあないはずだ。
そこから逃げるように――意図せずに――わずかにカウンター側に首を動かしてしまう。

「顔見て話ししよか」

あきらかに感情を抑えた一言。
救いを求めるようにカウンター越しに目をやると、グラスを拭きながらも様子を窺っていた視線が逃げていくところだった。

192 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:50

「で。誰?」

同じ問いをもう一度されてしまい、もう逃げられない……そう思った。
気のせいだろうが横を向き直った首が、軋むような音を立てた気がした。

「あ〜……」
「正直に言ってみよか」

崖っぷちにジリジリと追い立てられている気分だった。

「少し前、仲間に誘われて……」
「誘われて?」
「いや、待て。断ったんだぞ。俺はイヤだって……」
「どこ行ったん?」
「え〜……」

嘘をついても逃げ切れる自信がない。
しかし正直に言えば、まず逆鱗に触れること請け合いだ。
本当のことを言って、信じてくれる状況にもないように思える。

193 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:50

「ん?」

……急かされた。

「ふ……」
「ふ?」
「……某風俗店へ」
「ほうほう。行ったんや」
「……行きました。いや、でもあれだ! なにもしてないぞ? 信じられないかもしれんが、本当に」
「へぇ〜……」

なんて重い『へぇ』なんだ……TVではあんなに連呼されてるってのに、この『へぇ』ときたら。

「信じて、ないな?」
「別に〜。アンタが何しようがアタシに関係ないしぃ」
「ま、待て。本当だって――」
「まぁまぁ。ええやん。とりあえず飲んだら」
「うっ……」

口調の気安さが、逆に俺の気を重くさせてくれたもんだ。

194 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:51

沈黙に包まれながら、アイスコーヒーを一口含むと、隣でダンッとグラスを置く音が響く。

「さっ、帰る」

グラスを置いた裕子は、俺をちらりと見たっきり、待とうという気も見せずに歩き出した。
小さくため息をついた俺は、財布を取り出して会計を済ませた。

「……じゃあ、また来るわ」
「はい。あー、頑張ってくださいね」
「同情するくらいなら助けてくれ」
「そう言われても……謝ってご機嫌取るしかないんじゃないですか」
「悪いことしてないんだけどな……ま、仕方ない。じゃあな」
「ありがとうございました」

店を出て停めてあった車に近づくと、それでも一応、一緒に帰る気はあるらしい裕子が車の左側にもたれていた。
キーを差し込み恭しくドアを開いてやると、「ありがとうございますぅ」とわざとらしくも仰せられた。
無言のままで車を走らせる緊張感に耐えきれず、ステレオのスイッチに手を伸ばしたが、何が流れたかも解らないうちに切られてしまう。
裕子のマンションへ向かう道中、俺が憂悶しどおしだったことはいうまでもないだろう……。

195 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:51

マンションの手前で裕子を降ろし、俺はマンションを素通りして少し離れた場所に車を停めて歩く。
いつもの手順、いつもの調子、いつもの……
が、開くはずのドアはいつまで待っても開く気配をみせない。
帰れということなのかとも思うが、それでも裕子の部屋のナンバーをコールする。
返事もないままにロックのはずれる音が聞こえた。

 ――……どうしたもんだ?

そう思いつつも帰るわけにもいかず、迷宮へ脚を踏み込む冒険者のような足取りで目的の地へ向かった。
頭の中でいくつもの言い訳をひねり出しながらエレベーターを降りると、左手にはすぐ目的の場所。
厚く閉ざされた鋼の扉が行く手を阻んでいる……。
などとRPGきどりで、いつまでもグズグズしてても仕方がない。
思い切ってインターフォンを押したが、しばらく待っていても返事が返ってこない。

196 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:52

ため息をつき、もう一度と腕を上げたそのとき、最後の扉が開かれた。

「なにしにきたん?」
「いや、とりあえず話を……謝ろうかな、と思ってみたんだが」
「別に謝られる覚えなんてあらへんよ?」

目も合わせようとしない。
参ったな……

「じゃあ」
「お、おいっ――」

無情にも閉ざされた扉は、俺の言葉を虚しく跳ね返してくれた。
しばしばらく考えて、もう一度インターフォンを押したが、もう反応する気もないようだ。

197 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:52

 ――さてどうしたもんか、よく考えろよ?

このまま帰るって選択肢は……今の時点ではあり得んな。
帰ってしまってもどうなるもんでもない。より悪くなるだけだろう。
インターフォンを押し続ける……ここに黙って居続ける……携帯で……ふむ。
もう一度インターフォンを押し、やはり反応のないことを確かめて、ポケットから携帯を取りだした。
アドレスからワンプッシュでコールするが、虚しく鳴り響くだけの発信音に電話を切った。
情けなくも嘆息し、メールに切り替えて文面を考える。

 『とりあえず入れてくれ。ちゃんと話そう』

送信。
一つ思い出して、もう一度メールを打つ。

 『入れてくれるまで帰らねぇ!』

送信。
さて、根比べなんざするつもりはないが……待ってみなけりゃどうにもならん。
現在……十一時過ぎか。
この踊りで岩戸が開くまで、話すべきことを考えよう。

198 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:53

 …………

199 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:53

腕の時計に目をやると、時刻はすでに十二時になっていた。
座り込んだままで様子を窺うように腕を差し上げてインターフォンを押した。
目の上にかかった髪を払って一つため息をついた。

200 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:53

 …………

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0ch BBS 2006-02-27