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【小説】チープなドラマ感覚で【みたいな】

1 :名無し娘。:2006/09/17(日) 19:57
ハロプロ全般、上から下まで。
予定は未定で確定ではないけれど、書いていこうと思います。
『ヒロインx男』の形が多くなると思うので、好まない方はスルーでお願いします。
下の方でコソコソいきます。
レスしてもらえるなら喜んで受けます。
類似したものを書いてくださる方はどんどん書いてください。

128 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:15

肩をグルグルと廻して凝りをほぐしながらリビングへと戻ってきた。

「起きてっか? 梨華、寝かしてきたわ」
「あー、うん、うちと梨華ちゃんトコ電話しといた。遊び疲れて寝ちゃったからって。
 さすがに酔っぱらって起きないなんて言えないからさ」
「そっか。……!?」

ひとみの言葉のなにかが引っかかった。
少し考えてみろ……なんて言いやがったんだった?

 ──うちと梨華ちゃんトコ?

129 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:16

自分の言葉に引っかかっているとは思ってもいないようで。
ひとみはおかしなものでも見るような目で俺を見返していた。

「なに?」
「なにって……ひとみも帰らないのか?」
「梨華ちゃんだけなんて……危なくってほっとけないじゃんか」
「なにもしねーよ」

呆れてそう言い放った俺に、いつものひとみからは信じられない程に小さな声で呟いた。

「なにも……しない、の?」
「はぁ? よく聞こえねーよ。なんだって?」
「……いいや、なんでもないから」
「なんだよ?」
「なんでもないつってんだよっ!」

130 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:16

突然弾けたように背中を向けて、ひとみは大声で叫んだ。
訳が分からなくなった俺は、ひとみの座っているソファーの後ろに回り込み、その肩を掴んだ。

「おいおい、なにキレてんだよ」
「うっせーよっ! この腐れ鈍感野郎!!」

肩に置いた手を強い力でハジかれた。

 ──い、言うに事欠いて“腐れ”だぁ?

「誰が“腐れ鈍感野郎”なんだよっ」

言いながら再び伸ばした手は、ひとみの肩を掴むことはなく。
逆にその腕を掴まれ、巻き込むように一気に引っ張られた。

「おぁ!?」

131 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:17

不意をつかれる形になった俺は、ろくに逆らうこともできず。
バランスを崩して、体ごとひとみの上に倒れ込むようにソファーの背もたれを乗り越えた。
勢い余った俺たちはソファーから転げ落ち、テーブルとの間に倒れ込んだ。

「イッてぇ〜……」

床にぶつけた頭を押さえようとして、腕の自由が利かないことに気がつく。
目を開くとそこには、鼻と鼻が触れあいそうなほど至近に、強い意志を映したひとみの眼差し。

「ヒロ、がだよ……」

ひとみの両手は俺の両肩に置かれ、完全にのし掛かられた状態になったままでひとみが呟いた。
一瞬なんの話しだったか繋がらず、返事に困っていると、ひとみは更に言葉を続けた。

「鈍感野郎……」

132 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:17

二つの言葉と話しの流れが繋がって、ヘンに納得して「あぁ」と漏らした口。
その口が閉じるよりも早く、温かく柔らかなひとみの唇が重ねられた。

「っ!?」

不慣れなことが明白な不器用さで、ただ押しつけるだけのキスに口を塞がれて。
驚きと混乱と……意外なほどに乱れる鼓動と。

どれほど長い時間──実際は解らないけれど──そうしていただろうか。
ひとみはゆっくり顔を離し、深く息を吸い込んで……なにかを怖れているような表情で口を開いた。

「これで……」

133 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:18

小さな…ホントに小さな声で。

「これで…梨華ちゃんと同じだ……」

耳に届いた言葉は思いもよらぬ言葉で。

「え……?」
「昨日の夜」
「あっ…えっ、だって……」
「ヒロは覚えてないんだろ? でも…そーゆーこと」
「お前……」

134 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:18

昨日の夜……
雨に濡れていたひとみの姿がフラッシュバックする。

「ずっと見てたんだ。あの時ずっと……。梨華ちゃんはすっごく心配そうにヒロの顔を見つめてた。
 心配そうに…大切そうに……膝の上で眼を閉じてるヒロの顔を愛しむみたいに撫でてた」
「……そう」
「それから…なにか神聖な儀式みたいに……キスしたんだ」
「…………」
「しばらくして顔を上げた梨華ちゃん…は、さ……泣いてたよ」
「…………」

135 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:19

俺は何も言えずに黙ってひとみの言葉を聞いていた。
梨華がそんなことを……ひとみが黙って見ていたってことを。

「それから少しして、ヒロが目を覚ましたんだ」
「……お前は?」
「え?」

俺は何を言おうとしているのか。
乱れたままの心とは裏腹に、言葉は勝手に紡ぎ出されていた。

「ひとみはどうだった?」
「…………」
「俺が目を覚まさないで…梨華にキスされて……お前はどうだったんだよ」

136 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:19

口にしておいて卑怯なセリフだなと思った。
答えを知っていながら、それでもひとみの口からそれを聞きたいと思っている。

「…………」

ひとみは苦しげに顔をしかめて目を逸らしてしまう。
そんなひとみの表情を見せられて、俺は自分の愚かさに心の中で舌打ちをして身を起こす。

137 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:20

「…イヤじゃなかったんだ」

ひとみの腰に手をあて、捻るように体を入れ替え起きあがろうとした時、ひとみが呟いた。

「え?」

俺たちはどちらからともなく身体を起こし、ソファーに半身をあずけた姿勢で見つめ合っていた。

138 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:21

ひとみは俺を見ながら、それでいて違う何かも見ながら言葉を続ける。

「梨華ちゃんとヒロがキスしてるのを見て…イヤじゃあなかった」
「…………」
「でも……哀しかった」
「…………」
「胸の奥の方が刺されるみたいに痛くてさ」
「…………」
「あ〜、やっぱあたしヒロのこと好きなんだなって」
「………あっ」

ずいぶんとあっさり言われちまった。
危うく聞き流すところだった──聞き流した方が良かったのかもしれない──言葉。

139 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:21

「なに?」
「いや……好き?」
「好き」

いとも簡単に言い放たれた。
自分を指差して確認すると、当たり前だって顔をして頷かれる。

「ヒロは……梨華ちゃんの方が好きなんだろ?」
「え? あ〜…」
「言わなくてイイよ」

半ば諦め混じりのふて腐れているような口調。

140 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:22

答えを出すよりも先に、再び口を塞がれた。
最初のモノよりの丁寧な、しっとりとしたキス。
唇から伝わる温かさは、普段のひとみとは違う、今のひとみの心を感じさせた。

「…っ!? ん、んん……」

自分の気持ちも解らなかった。
ひとみの事がキライなわけはない。
好きだといえるかどうか……解らない。
行く先が解らないまま、泥沼かもしれない道へ踏み出していく。

141 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:22

俺はいつしか流されるようにひとみの歯を割って舌を差し入れた。

「んっ、んむ〜」

突き放すように身を離したひとみは、少し驚いたような表情で、その白い頬を朱に染めていた。

「こんなんイヤか?」
「あっ……ううん」

そう言ったひとみはいつになく“オンナ”を匂わせていて。
それは俺の理性をぶち壊すのに充分すぎるものだった。

「ひとみ…」
「んっ…」

座り込んだままの姿勢で腕を腰に廻し強く抱きしめた。

142 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:23

俺より少し背の低いひとみの身体は意外に細くて、その思いがつい口から出てしまう。

「あれ…?」
「なに? あたしなんかヘン?」

少し身体を離したひとみは不安そうな顔で言う。

「いや……ひとみ、思ったより全然細いのな」

日頃からだぶついた、身体のラインの出ない服しか見た記憶がなかったから気がつかなかった。
久しぶりに出逢ったあの頃よりも……細くなってる、きっと。

143 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:23

それを聞いたひとみは、また少し赤くなって呟いた。

「バカっ、だから鈍感だってゆーんだよ」
「はぁ?」
「去年からダイエットしてんの!」
「去年から? あっ!?」

 ──俺が帰ってくるから…か

「もっと早く気づけよ……バカっ!」
「そっか…」
「ん…あっ」

腰に廻した手に力を込め、引き寄せてキスをした。
優しく…驚かさないようゆっくりと…少しずつ舌を差し入れていく。

「ん…はぁ」

144 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:24

どうすればいいのか解らないように縮こまっていたひとみの舌が、次第に、少しずつ反応を返してくる。
熱く、激しく交じり合う行為が、自然と互いの心を昂ぶらせていく。

「んぅ、ヒロぉ」

背中に廻した手を滑らせるように下ろしていく。
帯を通り越して柔らかな丸みのあるラインを撫で、横からふとももの下へを滑り込ませて脚を持ち上げた。

「…あっ!」

狭いスペースに横たわらせたひとみの上に、覆い被さるようにキスをした。
時折切なげな吐息を漏らすひとみとキスを続けながら浴衣の胸元に手を伸ばしていく。

「くぅ、ん……っ」

145 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:24

襟首からのラインを舐めるように滑る手は絹のような感触を受け取っていた。
きつく締まった浴衣の胸元へ、クイクイと持ち上げるように指を押し込んで。
指先に伝わる感触は、次第に柔らかな触り心地へ変わっていく。

「あっ、ん……ああっん!?」

もっとも敏感な先端に指先が届いた瞬間、ひとみの身体が小さく跳ね、覚醒したように口を開いた。

「あっ、ち、ちょっと…」
「イヤか?」
「ちが、違くて……」

言いながらひとみは胸元を合わせながら上体を起こした。
俺の反応を見て少し慌てた風に、それでいてどこかしら楽しげに口を開く。

「アタシばっかじゃさ……そこ座ってよ」

146 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:25

俺の反応を窺いながら、少し妖しげな笑みを浮かべる。
言われたとおりソファーに座ると、ひとみは俺のベルト外しジーンズに手を掛けた。

「お、おいおい…」
「いいからいいから……こーゆーの好きなんでしょ」
「は?」
「だってホラ、昨日……」

そこまで言われてやっと思い出した。
祭りの途中でそんな話を……

 ──ってアレはお前が……

そう言おうとした時には、すでに昂ぶったモノは解放されていて。

「うわぁ……」

さも珍しいものでも──珍獣扱いか?──見たような、驚きの声と表情。

147 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:25

「…んなマジマジと見んなよ」
「こう…すんだよね」

根本からそっと舌を這わせ、上へ向かって舐め上げてくる。

「うぁ…」
「あは、気持ちいいんだ。で、こうとか…」

先端を口に含んで舌先で刺激しながら深く銜えるようにされる。

「ぅ……」

みっともなく声が漏れそうになった瞬間だった。

148 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:26



 カチャ

149 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:26

「っ!?」

背後から聞こえた扉の開く音。
そして聞こえてくる眠たげな梨華の声。

「……ヒロちゃん?」

そして……思わず声が出そうな──実際出さなかったのが不思議なくらい──痛み。
涙が出そうな痛みを必死で堪えて、ソファーの背もたれ越しに、さもナニもないかのように振り返って返事をする。

150 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:27

「あ……梨華、どうした?」
「ん〜ん…」
「朝になったら起こすから……っ…寝てなよ」

 ──頼むから、寝ててくれ……

「ん…ありがと」
「全然。…おやすみ」
「うん、おやすみぃ…」

まだ寝ぼけているようだったのが幸いした。
梨華はそのまま部屋へ戻っていき、扉はカチャリと音を立てて閉じられた。

151 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:27

ホッとすると同時にぶり返す痛み。
そしてそぉ〜っと顔を上げるひとみ。

「お前……っつぅ〜」
「ごめん…噛んじゃった」

とても申し訳なさそうな顔つきで。
それでいて笑いを堪えるような声で謝ってきた。

「ごめんって……」
「コレ…大丈夫かな?」

萎えてしまったモノを人差し指と親指で持ち上げるようにしながらひとみが聞いてくる。

152 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:28

「摘むなバカっ……マジで痛いわっ…大丈夫だけど…多分」

言いながらテーブルに置かれたティッシュで微かに滲んだ血を拭き取る。
なんとも情けない姿だ……。

「……あのさ」
「なに?」
「今日はもう……?」
「ム・リ・で・す」

一言一言を強調するようにハッキリと言った。

「あ、あは、あはは……そうだよね……うちから救急箱取ってくるよ」

ひとみは苦笑いを浮かべながら、少しだけ残念そうにそう返事をし、庭先へ通じるガラス戸を開けて外へと出ていった。

153 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:28

「こっちの方が残念だっつーの」

心なしかその背中が笑うように揺れていた気がする……。

 ──……残念、だったのか?

誰が?

ひとみが?

それとも俺が?

勢いでそうなることが望ましかったんだろうか?

154 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:29

開け放たれたガラス戸の向こうから流れ込んでくる夏の薫り。
自問自答する俺の耳に、遠くで微かに花火の音が聞こえてきた。
時計を見ると、丁度花火も終わりに差し掛かるような頃合いだったから聞き違いではないだろう。
遠くで聞こえる花火の音に耳を澄ましながら、ティッシュで股間を押さえている自分。

「なんだかなぁ……?」

情けない思いに囚われながら呟いた。
この夏の間に心を決める丁度良い時間が出来たのかもしれない。
などと、前屈みの情けない格好で、少し前向きなことを考えてみた。

「夏だねぇ……」

155 :『夏だね』:2006/10/02(月) 20:29

 -取りあえずお終い-

156 :名無し娘。:2006/10/02(月) 20:34

……夏じゃないねえ。

それはともかくだ。
このぐらいのエロシーンはどんなもんなのかな?
様子をみながら次の投下を考えるんで、
その件については反応くれるとありがとうとゆいたいです。

では。

あ、プラスでもマイナスでも感想のようなものは、もらえるなら諸手を挙げて喜びますよ。

ではでは。

157 :126:2006/10/02(月) 22:55
全然エロでいいと思いますwこの続きってもうないのかな?
梨華ちゃんと主人公の仲も気になるし…w
次も、期待してますよ。

158 :名無し娘。:2006/10/03(火) 21:01
寸止めきたこれ

159 :名無し娘。:2006/10/04(水) 21:39
おお。意外と読んでくれてる人いるのねえ。

>>157
なくもないですよ。
相変わらず品質保証はないですけど。

>>158
寸止めしてみた。
やるならやれよって感じ? 多分そのうち。ヒロインは違うかも。

160 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:12

某番組の収録前、専用の静かな楽屋の中で、鏡の前に座る女性にメイクをしている。

「なぁ、あたしホントにコレでいいと思う?」

メイクの途中、シャドウを塗られる為、軽く瞼を閉じながら彼女が聞いてきた。
俺は目を閉じた彼女に、薄く丁寧にシャドウを重ねていきながら聞き返した。

「はい? 何がですか? このシャドウ気に入らないです?」
「ちゃうちゃう。だからなぁ、あたしの現状の事に決まっとるやん。
 付き合い長いんやから、それ位察しぃや! それと、なんでまたそんなかったい言葉遣いなん?」
「いや、今は仕事中ですから。こっちも一応プロですからね。
 プライベートでメイクやらせてもらってるわけじゃないんで、公私のケジメってヤツですね」

意図的にいつもの仕事時よりも、他人行儀に事務的な口調で答えてみた。
返ってくる答えは予想できるんだけど、これも手順の一つってものだろうと思う。

161 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:13

彼女との付き合いは結構長く、やっとこの仕事になれてきた頃のこと。
彼女等がデビューして間もない頃、メイクを担当する機会があったのが初めての対面だった。
その後も幾つかの偶然と僅かな必然でメイクを担当する機会があり、少しずつ色々な話をするくらいの仲になっていった。
一度だけだがツアー時のメイクとして帯同させてもらったこともある。

「そんなん構へんやん。相変わらず変なトコで堅いんやから……
 二人しかおらん時は普通に喋ってくれん? っていうか普通に喋れ」

あまりにも予想通りの返事に笑いだしそうになったけど、コレもいつものことだ。

「め、命令ですか? ……まぁ、いいか。じゃあ普通にやらせてもらうわ。
 で、なんだっけ、中澤の現状? あ、次は唇やるんでちょっと喋らないでな」

言いながら、彼女の唇へ口紅を塗り始める。

「んぁ、答えろや!」
「はいはい、やりながら話すから……はみ出すっ! 動くなってば」

162 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:13

初めて会った頃から変わらぬ、時々出てくる子供っぽさに、ついつい苦笑いを浮かべてしまう。
口紅を塗る手は休めず、逆に自分の思うことを問いかけてみる。

「悪くはないんじゃないの? そりゃあ昔みたいに忙しない時間じゃないだろうけどな。
 でもまだ歌えてる。だろ? 不満かもしれんけど、らしく頑張ってりゃ大丈夫だと信じろよ。
それとも……不満じゃなくて不安か?」

唇を仕上げながら彼女の表情へ目をやると、その言葉が当を得ていたことが明白なようでいて、
彼女の仲で確信があるわけではない、そんな微妙な表情を浮かべていた。

「ふむ……はいOKね。 で、そんな感じあるの?」
「ふ〜ん、やっぱプロなんやね、自分でやるのと仕上がりちゃうわぁ」
「ど〜も」
「…………」
「どしたね?」

彼女は黙り込んだまま眉間に皺を寄せ考え込むような、
それでいて自分の心の奥にある何かと向き合うかのような表情で話し出した。

「不安? うん、自分でもなぁ……よぉわからへんのよ……ホンマんトコ。
 そりゃああんな忙しさはありえへんのは解ってるしなぁ。でも……」

163 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:14

そこで言葉を切り、俯いた。
どうしてそんな気持ちになるのか、何処に原因があるのかどうしても答えにたどり着かずにいて。
そんな自分が…自分の事が解らないことがもどかしくて困惑しているようだった。

「……でも? 」
「……はははっ…なんやろなぁ」

沈みがちな雰囲気を振り払いたいのか、声を出して笑ってはいたが、その笑いは無理に作られたものであることは、あまりにも明らかで。
なんと声を掛けたらいいのか迷っていたとき、楽屋の扉がノックされた。

「中澤さん、本番お願いしまーすっ!」

言われた彼女は気持ちを切り替えるためか、両手を組み大きく伸びをする。

164 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:14

「ん〜〜〜! ほな行ってくるわ。今のは忘れてな」

 ――忘れてって言われてもな……

「なぁ、今日何時終わり?」
「ん? あ〜、ちょっと遅くなる思うけど?」
「ま、何時でもいいわ、終わったら電話くれ。ちっと酒付き合え」
「なんやねんな、それ…」
「いいだろが、なんだって。待ってっからな、じゃ俺も次行くから」

無理矢理に約束をして楽屋の扉を開け通路へ出る。
中で何かブツブツ言ってるようだが、聞こえない振りをして出てきた。

165 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:15



 …………

166 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:15

『今終わったわ。 で、どうするん?』
「おう…って、ホントに遅いのな。今から飲める店だと…」
『ほんならウチきたらええやん?』
「ん〜、そうすっかなぁ」
『散らかってるけど、別に構へん?』
「ああ、全然。じゃあ今からそっち行くわ」

167 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:15

 …………

168 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:16

「「乾杯〜」」

互いに缶ビールを一気に呷って一息ついた。
どこから話そうか考えている間に、彼女の方から切り出してきた。

「で、なんか話あるんやろ。わざわざ遅くまで待ってくれて…何やの?」
「何って……今日の話の続きだわ、すっきりしてないっしょ?
 っていうより、俺の方がすっきりしてないんだな」
「はぁ、やっぱりそれなん? なんで? もぉいいって…忘れて言うたやんか」

言いながら二本目に手を伸ばす。
どう考えても気を遣って言ってるようにしか見えない。
そんな気を遣われても、あんな表情見せられて納得いくわけがない。

「ふざけんなっつーの、あんな顔して話されて忘れろって?
 無理だね、そんなん。ほれ、諦めて言え、お互いにすっきりすんぞ!」

169 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:16

顰めっ面していたのが苦笑いに変わり、観念したかのような溜息と共に彼女は話し出した。

「だから言うたやん、自分でもよくわからないんやって。わからんもん、どうしようもないやん?」
「でも不安なんだろ?」
「……多分、そうなんやと思うけど」

互いに新しいビールを開けながらも話し続ける。
俺は何となくだが、彼女の不安の理由に気が付き始めていた。

「あのな、あの後しばらく考えててさ。
 中澤に会う前…だから八年か九年くらい前だと思うんだけど、ちょっと似たような話聞いたことあるんだわ。
 詳しくは言わんけどアイドルさんのメイク担当したのさ。
 その時、歳が近かったせいか、割とよく話してなー、その娘も今の中澤みたいなこと言ってた」

彼女はビールを飲む手を休め、神妙な顔で俺の話を聞いていた。

170 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:16

「その娘と色々話したときには、その不安の原因は『ファン』だったらしいよ」
「ファン? 自分の?」
「そうその娘のファン……本当に『自分』を見ているのかどうかに自信がもてなくなったって。
 その娘も元グループでやってた娘で、TV出ててもライブしてても自分を見るファンの眼に
 グループだった自分を見てるような気がしてどうにもならないんだと、どう思う?」
「どうって……」

そう言ったきり、彼女は俯いてしまう。
まだ彼女の中にある核心には触れてない。触れたからといって、それがなんになるのか。
結果がどうなるかに自信があったわけではなかったが、切り込んでみなければ解らないこともあるだろう。

「ひょっとして中澤にもそんな感じあるんじゃないかなっと思ってさ」
「…………」
「あるんだ?」
「もしもそうなんだったら、どうしたらいい? その娘はどうやって解決したん?」

171 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:17

 ――やっぱりソレ聞かれるよな……

そう聞かれるであろう事は解っていたが、話し出してしまった以上続けなければならないだろう。

「……しばらくしてから、アイドルである自分を全然知らない男と結婚した」
「やめてもうたん?」
「ああ、やめたよ」

はっきりと言いきった俺の言葉に、彼女はまた俯き聞き返してきた。
その声に僅かながら何かの感情を押し殺してるような気配が感じられた。

「あたしにもやめろって言いたいんかなぁ?」
「そんなん言わないよ、俺がそんな事言うわけないだろ。中澤が歌うの好きかも知ってるし……俺は…」

最後まで言い切る前に彼女が言い返してくる。
その声が僅かに震えていた。

「せやけど、その娘はそうやって解決したんやろ?」

172 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:18

少しばかり感情的になってきてる彼女の声に、引きずれないように視線を落とし極力優しく聞こえるように話す。

「その娘と中澤じゃ違うと思うんだ」
「どう違うん? 同じだと思うたからその話したんやろっ?」
「俺は『似たような』って言ったんだ。似てるだけで同じだなんて言ってない」

抑えていた感情が積み重なって、少しずつ溢れてきているように、声のトーンが上がってきている。
視線を上げて顔を見つめるとブラウンの瞳がにじんで揺れていた。
それを見てしまった俺は、より一層心を抑える努力をした……が。

「違わへんよぉ……うちも心ん中で『娘。』だった頃引きずってるのかもしれんやん。
 自分でそう思ってるくらいやもん、うちの事好いてくれるファンの子らかて、そう思ってるに決まってるやん」
「…………」
「なんで黙ってるん? なんか言ったらええやん」
「だから……中澤のファンなんだから、そりゃあモーニングん頃から好きなファンだっているだろうし。
 逆にソロになって好きになってくれたファンだっているだろ? ……俺だってそうだわ、ファン歴長いぞ。
 でも、ちゃあんと娘。を卒業したソロ・中澤裕子として好きだしな」

173 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:18

本人を目の前にしてこんなこと言う羽目になるのは気恥ずかしかった。
照れ隠しに落としていた視線をそっと上げて彼女の反応を見てみた。
掴んだ缶に視線を落としたままで、ジッとしたままなんの反応も見えない。
ホンの少しだけ下から覗けるように体勢を変えてみる。
そこから覗える顔に赤みが差してるのは酒のせいだけではなさそうだった。

「…………」
「なんか言えよ。 二人で赤くなってどうすんだよ」
「だって……今までそんな事言うたことなかったやん」
「言えなかったんだよ、んな……照れくさくって」
「……何時から?」
「仕事で初めて会った時から」
「ず〜っと? 今も?」
「ああ、ず〜っと。今も好きじゃなきゃ、それこそ言わんわっ!」
「……好き? …………ただのファンとしてだけなん?」

174 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:19

小さな声で、答えを聞くことを怖がるかのように彼女はささやいた。
そこまで言われてからやっと、俺は最後の一線まで踏み込む決心をした。

「ん、中澤裕子って芸能人じゃなく、一人の女性としても………好きだ」
「……そっか」

彼女は眼を閉じて俯き、そっと一つ息を吐いた。
そしてゆっくり瞬きをしながら顔を上げ、俺の眼を見つめた。
しばらく見つめ合った後、そのままの姿勢で再びそっと瞼を閉じた。

「裕子……」

俺は初めて彼女を下の名で呼び、そっと抱きしめて……唇を重ねた。

175 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:19

彼女が感じている不安を少しずつ取り払っていくように、慎重に…優しく。
互いの唇が触れるだけの、ソフトなキス。
時間を掛けて徐々に彼女の中へと舌を絡ませていく。

「ん……ふぅ…」

ゆっくりと身体を傾けて、彼女を仰向けに寝かせながらキスを続けていく。
服の上から彼女の華奢な身体のラインをなぞると、微かに身じろぎするような反応が返ってくる。
背中に廻した手を細い首筋へ、そして決して大きくはないが、柔らかい胸へと手を下ろし優しく揉みしだく。

「んぁ……んん……」

彼女の反応を確かめつつ、右手で胸を揉みながら、左手で服のボタンを外していく。
ボタンを外した左手をブラの中へと滑り込ませる。先端の突起を避けるようにして。

「あぁん、くっ……ん……」

176 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:20

固くなったその部分に触れるか触れないか微妙ところを刺激し続ける。

「ぁん! ……ねぇ……はぁ……」

焦れてるような恨めしそうな眼で訴えてくる。
解っているけど、その仕草が可愛くて苛めたくなり聞き返した。

「なに? どうして欲しいの?」
「……ん、もぉ、わかってやってるくせに……んんっ!」
「うん、わかってる……苛めてみたかったんだ」
「あぁ……もぉ……ねぇ」
「ごめんごめん」

一瞬だけ先端を掠めて、また遠ざける。

「くぅん……そんなん…あ、あんっ……」

177 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:20

空いてる手でブラをずらし、舌での刺激も加えてみる。
そして脇から腰をなぞり、意外にふっくらしたお尻を撫でる。

「んぁぁ――、はぁ……もぉ……苛めんでぇ…………お願いぃ!」

指で軽くつまむと同時に、反対の乳首も口に含み舌で転がす。

「あはぁっ! んんーーっ! ……くうっ! 」

焦らされた分、過剰なまでの反応で身体全体がビクッっと跳ねる。

「あ…あん……いや…う…、くぅ、もう……」
「いや? もう?」

片手で胸を刺激しながら、舌を胸から少しずつ舌へと這わせていく。
腰から足まで、ピッタリしたラインに沿って伸びているズボンのボタンを外しパンティーを露出させる。
もう、すっかりソコは濡れていた…ともすればパンティーの上からでも、その形が解るくらいに。
スゥーっとソコをなぞるように指を動かす……不意に強く擦りつける。

「やっっ……あっっ! はぁんんっっ!!」

178 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:20

突然の激しい刺激に彼女は軽く達したようだった。
少しふわついた感じになっている彼女の腰から、そっとパンティーをおろしていき、舌でそのラインをなぞるみたいに小刻みなリズムで刺激し始めた。

「ああっ、あっ、あ――――っ、あっあああん、ああん…」

その舌先が、一番敏感な突起に触れるたびに彼女の腰が跳ね上がる。
紅玉みたいに大切な宝石を、唇で挟み舌先で軽く突く。

「んんぁぁ! ……お、お願い……もぉ…」
「……仕方ないなぁ」

とは言いつつも、彼女同様こっちも我慢しきれなくはなっているのも事実。
要望に応える振りをして一気に貫くことにさせてもらった。
自分の先端を彼女の秘所にあてがって、ささやくように問いかける。

「いくよ?」
「あん、は、早く……」

179 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:21

期待通りの反応が嬉しくて、それでもゆっくりと……浅めに挿入していく。

「はぁっ、はぁぁんんぅ……あぁ、んっ!」

浅いところでゆっくり出し入れを繰り返す……

「はぁん……あぁぁ」

不意に深く押し込んでみる。

「ひぁん、んんー、イ、イイ、もっと……してぇ」

浅く浅く……リズムが単調にならないようにしながら時に深く……

「うああっ、くうぅ‥‥お、奥に当たって‥‥はあんっ!」

そうしているうちに彼女の中の締め付けが、かなり激しくなってきた。

180 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:23

彼女の全てを感じるように奥へと入り、弧を描くように動かしては、深く突く。

「くっ! そろそろヤバイかも……」

そう言いながら腰を引こうとすると、拒むように強く締め付けられ、細い腕が俺の背中へ廻された。

「あ、ん……中で……あふぅ……だ、大丈夫だから……」

言われて彼女の目を見つめる……本気、のようだった。

「ん、わかった」
「あ! はぁ……あ、あたしも……もう……あああっ! い、一緒に……」
「ああ、一緒に」

彼女の細い身体を抱きしめながら、一層激しく突いていく。

「はっん……あぅ……ん、イッ‥‥」
「んっ‥俺も‥‥イきそう」
「ダメ……も、もぉ、…んあああぁぁぁ〜〜〜!!」

181 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:23

 …………

182 :『Make-up』:2006/10/04(水) 23:24

「ふふふっ……」
「なにが可笑しいんだよ」
「……裕子やて」
「いいじゃんよ、そう呼びたくなったんだからさ」
「裕子なんて呼ばれたの久しぶりやわぁ」
「……そうなの?」
「うん、え〜っとなぁ……矢口以来」

言ってから、裕子は自分の言葉にさも可笑しそうに笑った。

「やぐっちゃん? ……俺はあんな小っちゃくないぞ」
「せやね、確かに小っちゃなかったわ」
「……何がだよ」
「……ナニがやろ〜ね?」

言ってから裕子は小さく笑った。
……なんて事言いやがるんだ。

「…………」
「…………」

しばしの沈黙。
そして二人揃って少し赤い顔して笑い合った。
どうやら、これからはプライベートでも彼女のメイクを担当することができそうだった。

183 :名無し娘。:2006/10/04(水) 23:26

エロ。
昔書いたのをチョロッと焼き直しただけだけど。

こんなんでもいいのかな。

書いたのは卒業して少しした頃だったなぁ……懐かしい。

激しい拒絶とかなければ、またそのうち。
ではでは。

184 :名無し娘。:2006/10/05(木) 12:31
コテハンつけないの?

185 :名無し娘。:2006/10/05(木) 12:36
これまだ続くのかな?

186 :名無し娘。:2006/10/05(木) 19:41

……連投?(違)

>>184
コテハン? ……実はコテハンも持ってるんだけど。
なんとなくコッソリやってみてた。

>>185
「あるよ」
なかざーさんの続き。需要あるのかな?

187 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:48

久しぶりに逢ったってのに……今日こそと思っていたのに。
なんでこんな事になったんだろう。
憎たらしくなる程に丈夫そうなマンションの扉を前に、頭を抱えながらそんな事を考えた。

188 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:48

 …………

189 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:48

互いのスケジュールがなかなか合わず、顔を合わすことすらも久しぶりだった。
仕事上の付き合いから友人に、そしてそういう関係になってからも変わらない距離感。
二人の間にさして変化は生じず、今でも半ば飲み友達のような間柄のままでいた。

その日は通い慣れた静かなバーで、軽く喉を潤してから裕子──中澤裕子──のマンションで俺が食事を作る。
それからゆっくり飲み直して……。
そんな予定だったんだが……。

カウンター席に並んで腰掛けて、裕子はビールをグイグイと。
俺は車で来ているため、最初の一口だけは付き合って、後はアイスコーヒーで我慢している。
裕子が化粧室へ立ったとき、何気なく見回した店の片隅で、一人の女がジッとこっちを見ているのに気がついた。

見覚えが……あった。
が、しかし、それは今この場所では思い出さない方がいい、あまり好ましくない記憶だった。

190 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:49

こちらが思い出したことに気づいたらしく、女が席を立ち、ゆっくりと歩み寄ってきた。
思わず心の中で舌打ちする。
その女が近づいてくるにつれ、強い化粧の匂いが鼻を刺激する。
女を意識しすぎた表情で妖しく微笑みながら肩に置かれた手の先で、センスの良くないネイルが光っていた。
俺の肩口に顔をよせ、しばらく一方的に囁いた後、チラッと視線を移した。
そうかと思ったら、ぐっとすり寄るようにしてから身体を離しざま媚びるような口調の言葉を残していった。

「またお店の方に顔出して下さいね。前の分もサービスしますから」

その去り際の態度は妙に意図的なモノを感じた。
ハッとして離れていく後ろ姿に目を遣ると、その向こうに裕子の姿があった。

191 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:49

 ──やられた……

裕子の両眼がスゥッと細められたのが解った。
聞き逃してくれてればとの淡い期待は、その瞬間に粉々に砕け散る。
立ち去る女の後ろ姿に一瞥くれるように首を巡らせた裕子の表情がどうなっているのか、想像して背筋に冷たいものが走った。
俯き加減にゆっくりと戻ってくる裕子は、わざとらしい咳払いを一つして椅子に座った。

「誰?」

顔を上げた笑顔の裕子が短く一言発した中に、底知れない恐怖を感じるのは俺だけじゃあないはずだ。
そこから逃げるように――意図せずに――わずかにカウンター側に首を動かしてしまう。

「顔見て話ししよか」

あきらかに感情を抑えた一言。
救いを求めるようにカウンター越しに目をやると、グラスを拭きながらも様子を窺っていた視線が逃げていくところだった。

192 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:50

「で。誰?」

同じ問いをもう一度されてしまい、もう逃げられない……そう思った。
気のせいだろうが横を向き直った首が、軋むような音を立てた気がした。

「あ〜……」
「正直に言ってみよか」

崖っぷちにジリジリと追い立てられている気分だった。

「少し前、仲間に誘われて……」
「誘われて?」
「いや、待て。断ったんだぞ。俺はイヤだって……」
「どこ行ったん?」
「え〜……」

嘘をついても逃げ切れる自信がない。
しかし正直に言えば、まず逆鱗に触れること請け合いだ。
本当のことを言って、信じてくれる状況にもないように思える。

193 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:50

「ん?」

……急かされた。

「ふ……」
「ふ?」
「……某風俗店へ」
「ほうほう。行ったんや」
「……行きました。いや、でもあれだ! なにもしてないぞ? 信じられないかもしれんが、本当に」
「へぇ〜……」

なんて重い『へぇ』なんだ……TVではあんなに連呼されてるってのに、この『へぇ』ときたら。

「信じて、ないな?」
「別に〜。アンタが何しようがアタシに関係ないしぃ」
「ま、待て。本当だって――」
「まぁまぁ。ええやん。とりあえず飲んだら」
「うっ……」

口調の気安さが、逆に俺の気を重くさせてくれたもんだ。

194 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:51

沈黙に包まれながら、アイスコーヒーを一口含むと、隣でダンッとグラスを置く音が響く。

「さっ、帰る」

グラスを置いた裕子は、俺をちらりと見たっきり、待とうという気も見せずに歩き出した。
小さくため息をついた俺は、財布を取り出して会計を済ませた。

「……じゃあ、また来るわ」
「はい。あー、頑張ってくださいね」
「同情するくらいなら助けてくれ」
「そう言われても……謝ってご機嫌取るしかないんじゃないですか」
「悪いことしてないんだけどな……ま、仕方ない。じゃあな」
「ありがとうございました」

店を出て停めてあった車に近づくと、それでも一応、一緒に帰る気はあるらしい裕子が車の左側にもたれていた。
キーを差し込み恭しくドアを開いてやると、「ありがとうございますぅ」とわざとらしくも仰せられた。
無言のままで車を走らせる緊張感に耐えきれず、ステレオのスイッチに手を伸ばしたが、何が流れたかも解らないうちに切られてしまう。
裕子のマンションへ向かう道中、俺が憂悶しどおしだったことはいうまでもないだろう……。

195 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:51

マンションの手前で裕子を降ろし、俺はマンションを素通りして少し離れた場所に車を停めて歩く。
いつもの手順、いつもの調子、いつもの……
が、開くはずのドアはいつまで待っても開く気配をみせない。
帰れということなのかとも思うが、それでも裕子の部屋のナンバーをコールする。
返事もないままにロックのはずれる音が聞こえた。

 ――……どうしたもんだ?

そう思いつつも帰るわけにもいかず、迷宮へ脚を踏み込む冒険者のような足取りで目的の地へ向かった。
頭の中でいくつもの言い訳をひねり出しながらエレベーターを降りると、左手にはすぐ目的の場所。
厚く閉ざされた鋼の扉が行く手を阻んでいる……。
などとRPGきどりで、いつまでもグズグズしてても仕方がない。
思い切ってインターフォンを押したが、しばらく待っていても返事が返ってこない。

196 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:52

ため息をつき、もう一度と腕を上げたそのとき、最後の扉が開かれた。

「なにしにきたん?」
「いや、とりあえず話を……謝ろうかな、と思ってみたんだが」
「別に謝られる覚えなんてあらへんよ?」

目も合わせようとしない。
参ったな……

「じゃあ」
「お、おいっ――」

無情にも閉ざされた扉は、俺の言葉を虚しく跳ね返してくれた。
しばしばらく考えて、もう一度インターフォンを押したが、もう反応する気もないようだ。

197 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:52

 ――さてどうしたもんか、よく考えろよ?

このまま帰るって選択肢は……今の時点ではあり得んな。
帰ってしまってもどうなるもんでもない。より悪くなるだけだろう。
インターフォンを押し続ける……ここに黙って居続ける……携帯で……ふむ。
もう一度インターフォンを押し、やはり反応のないことを確かめて、ポケットから携帯を取りだした。
アドレスからワンプッシュでコールするが、虚しく鳴り響くだけの発信音に電話を切った。
情けなくも嘆息し、メールに切り替えて文面を考える。

 『とりあえず入れてくれ。ちゃんと話そう』

送信。
一つ思い出して、もう一度メールを打つ。

 『入れてくれるまで帰らねぇ!』

送信。
さて、根比べなんざするつもりはないが……待ってみなけりゃどうにもならん。
現在……十一時過ぎか。
この踊りで岩戸が開くまで、話すべきことを考えよう。

198 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:53

 …………

199 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:53

腕の時計に目をやると、時刻はすでに十二時になっていた。
座り込んだままで様子を窺うように腕を差し上げてインターフォンを押した。
目の上にかかった髪を払って一つため息をついた。

200 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:53

 …………

201 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:54

どれくらい過ぎたろうと再び腕時計に目をやった。
そろそろ……一時になる頃だ。
のっそりと上げた腕でインターフォンを押そうとした。

 ――ん?

扉の向こうに微かな気配を感じた。
その瞬間、大きく開かれた扉に、危うく叩かれそうになるところだった。
開かれた扉の向こうで仁王立ちの裕子がぽつりと言った。

「近所迷惑やん。入りっ」
「あっ、おう」

さっさと室内へ消えていく裕子について部屋へと上がり込んだ。

202 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:54

さてどうしようかとリビングまでついて行くと、ローテーブルの上に数本の空き缶が転がっているのが眼に入る。
キッチンから姿を現した裕子は、転がっているのと同じ缶を手にしていた。
冷蔵庫から取り出してきた缶ビールを勢いよく開けた裕子の手から、冷えた泡を吹いた缶を奪い取ってやった。

「なにす――」

五百ミリの缶を一気に傾けてゴクゴクと飲み下していく。
捲し立てようと口を開いていた裕子が呆けたように俺を見ている前で、空けてしまった缶を握りつぶして勢いよくテーブルに置いた。

「っはぁ〜……悪かった。なにもしてないけど。怒らせたのは謝る。でも今日は話がしたかったんだ」
「……聞かん」

キッチンへ消えていく裕子の後を追うと、新たに取り出したんだろう缶ビール。
もう一度奪い取った。何度でもやってやる。

「あんなぁ……」
「聞けっ! 今日は……なぁ」

自分に勢いをつけるようにか、それともこの苛立ちを抑えるためにか、奪い取った缶を開けて一息に飲み干していく。

203 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:55

改めて口を開こうとしたとき、すっと伸びてきた裕子の手が俺の胸に当てられた。
意図が読めなかった俺がもう一度口を開くよりも早く、押し当てられた手に力がこもるのが解った。
バランスを崩して後ろに倒れ込むところ、なんとか頭を打つまいと力を込めたが、尻と背中を痛打した直後、頭の後ろでベコリと音が聞こえた。

「っつぅ〜」

痛みを自覚しながらも、音の正体が空き缶だったと気がついた瞬間、上から裕子が“降ってきた”。
細い方だとはいえ倒れ込むように覆い被されて、意図せずに口から呻きが漏れた。

「ぐふっ……っつう〜。なん――」

『なんだってんだよ』、そう言おうと開いた口は、最後まで音を出し切ることなく塞がれた。
淡いブラウンで彩られた裕子の唇で。

204 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:55

「んむっ……」

たっぷり一分ほども熱い吐息すら漏らす間もないほどに唇を重ね、言葉を交わすよりも濃密に舌を絡め合って意思を伝えあう。
やがて唇を離し、俺の上で馬乗りになるように身体を起こした裕子は、すぅっと目を細め唇を舐めて薄く笑った。

「アホぉ」

色とりどりの気持ちが入った虹のような罵りだった。

「でも好きやで」

なんて甘美な告白なのか……その言葉は痺れるように俺の中へ浸みてきた。

205 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:57

好きだと言い返そうと開きかけた口を、そっと塞いだ裕子は伸ばした両手でゆっくりと俺のシャツを脱がしていく。
脱がせたシャツを放り投げた裕子は、半立ちのままで後ずさると半ば硬くなったモノを、意図して刺激するように俺のズボンを膝まで引き下ろした。
俺の腿の上、不自由な体勢でワンピースタイプの服を脱ぎ、下着姿になった裕子は鼻にシワを寄せるような“らしさ”で笑った。

「こういうん、して欲しかったんやろ……」

熱く脈打つモノを握った裕子は、細い指を艶めかしく動かしながら滑るようにトランクスの中へ潜り込ませてきた。
そっと撫でるように触れたと思うと、ふいに締め付けるように握られる。

「っ、そうだけど……いやしかし」
「好きやないよ。でもして欲しいんやろ? 風俗行かなならんほど」
「いや、だからそれは――」
「解ってるわ」

そう笑った裕子は身体を倒してキスをしてきた。

206 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:57

唇を重ねながらも、トランクスの中の手は動き続け、次第に固さを増していくモノを刺激し続けた。
キスを終えて離れる唇は絡んだ唾液が糸を引き、いやらしく光っていた。
やがてトランクスも引き下ろされ、顕わになったモノは先端に先走る汁が洩れ出していて、裕子はクスッと笑いそれをを塗り広げるように動かした。

「他でやられるくらいならアタシがするわ」
「だからやってないし、やらね――ぅ」

言いながらも俺の上から降りた裕子の、艶やかな唇からチロリと出した舌で亀頭の先端を刺激した。
チョロチョロと掠めるような舌先を感じるたびに、ぞくりとした快感が背筋に抜けていく。

「ふふっ…なんか可愛らしいやん」
「うるせっ、誰のせい、うぁ……」

くわえ込むようにして軽く歯をたてられ、言い終えることも出来ずに小さくうめいた。
含んだ口の中でねっとりと動く舌の感触に、痺れるような感覚が広がっていく。
顔を上げて包み込むように握った手を上下に動かすが、もう一つなめらかにはいかない。

207 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:58

「んー……ちょっと足りひんなぁ」

過剰な昂奮がアルコールに力を貸しているのか、多少怪しい呂律で呟いた裕子がすぼめた口から唾液を垂らした。
上下に動かした手の動きの滑らかさに納得したように、裕子は喉をならして笑った。
手の動きは休まることなく、その上でカリから先をアイスでも舐めるように舌を這わせてくる。

「くぅっ」
「気持ちいいんや? ふうん……こんなんは?」

俺の反応を楽しむように一度離した口でそう言うと、今度は口一杯に飲み込むみたいに硬くなったモノを包み込んでいく。

「んんっ……」

喉の奥まで触れるほど深くくわえ込んだそれを、頭を動かして刺激し始めた。
ジュプジュプと音を立てて大きく揺れる髪に触れながら、こみ上げてくる快感に時折うめくような声を上げさせられる。
不意に激しく吸い込むように刺激をされ、同時に口内で舌が暴れる。

208 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:58

「うぁ…ヤバイ……」
「――っと」

唐突にイチモツへの刺激がやみ、細い指でキュッと締め上げられ、行き場のなくなった解放感が抑え込まれた。

「まだアカンよ」
「っ……なんてこと――」
「こんなんどう?」

からかうみたいに笑うと、再び俺のモノにいたずらなキスをして、裏筋をなぞるように舌を這わせてきた。
一度抑え込まれた快感が、徐々にぶり返してくるのが解る。

モノ全体を這いまわっていた舌がカリから亀頭へ上がってきて、もう一度キスをしてから軽く噛むように口内へ収まっていく。
ねっとりと熱い感覚に包まれ、次第に上下への動きが早まっていく。

209 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:59

「ゆ、裕子……」
「んっ……ふぅ、んんっ」

鼻をならすように甘くとろけた目で見つめられる。
それがなにかの合図のようだと霞のかかった頭で考えた、そのとき。
まったく違う部分での電気が走るような感覚。
背筋が痺れるような快感と同時に、抑えられていた精を一気にはき出した。
後ろの穴に中指を差し込んだ裕子が微笑みながら、くわえ込んだ口の中に熱く白濁した液体を受け止めていく。

「ぅ……」
「んふぅ…、んんむ……」

溜まっていた全てをはき出し終えると、裕子は喉を鳴らしてそれを飲み下した。
最後の一絞りまでを俺のモノから吸い出して、顔を上げるとペロリと一つ舌なめずり。

210 :『Lip』:2006/10/06(金) 21:59

惚けたような僅かな時間の後、一つ深い息をついて口を開いた。

「お、お前……どこでそんなことを」
「んん? んっふふ……あっちゃんに聞いた」
「……お前ら」
「気持ちよかったん?」
「…………」
「ほれ、素直に言うてみ?」
「……良かった」

言うと同時に裕子に抱きついて、一息に押し倒す。
突然のことに声も出せずに組み敷かれた裕子に覆い被さるようにして唇を重ねた。
一気に空けたビールのアルコールと、先ほどの行為でドロドロになった頭で、ただ互いに求め合い舌を絡ませる。
一つに熔けてしまいそうな唇を離すと、すぐに裕子に触れたくて目蓋へ、額へとキスを落としていく。
唇が耳元へ移り、赤く熱を持った耳朶を冷ますように軽く息を吹きかけて、唇で挟み込んだ。

「んあっ、ふっ……耳、ち、ちょっと待ってっ」
「んま? まふぁなひ」

211 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:00

待つつもりもなければ、待てるような理性など残っていなかった。
耳朶から舌を滑らせて小さな穴に潜り込ませると、きゅっと首を縮め、直後にビクビクと身体を反らせた。
腰を抱いていた手を伸ばしていくと、下着越しにも解るほどにハッキリと濡れていた。
確かめるように下着をくぐらせた手で、湿った恥毛をかきわけて、グッショリと濡れた秘所へ指を這わせる。

「んんっ、はあぁっ!あ、あっ、ああんっ!」

柔らかなヒダをなぞりながら、ゆっくりと奥へ入り込んでいく指を、小刻みに動かしてやる。

「ふぁぁっ! くっ! あんっ、あっ、んんぅ、や、ああっっ!」

指の動きを強くすると、それにあわせて裕子の声のトーンが跳ね上がる。
その声にのせられるように、より奥へ、大きく、早く動かしていく。

「ああああっ! やっ、あ、あかん、もうぅぁ! はああん! あああっ、いいっ、イクぅっ! あああ〜っ!!」

212 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:01

存分に昂ぶっていた裕子の身体は、思ったよりも早く絶頂を迎えて、それでいてより深い刺激を求めるように腰を上げ、紅潮した身体を震わせた。

「ハァ、ハァ、ハァ…」

脱力したようにグッタリとした裕子から指を抜き、荒い呼吸を繰り返す力の入っていない身体を俯せにして腰を持ち上げる。
太ももまでグショグショにするほどいやらしく濡れた秘所が灯りの下に晒され、我慢しきれなくなったモノを一息に挿入した。

「んくぅっ!」

奥まで突き入れると、呻くような声、グッタリしていた背中に力が入るのが解る。
膣内の感触を楽しむように、小さく腰を回すと、焦れたような声を上げながら肘で支えた背中を反り返らせる。
間近に見るその背はなめらかで、朱みを帯びた肌にしっとりと汗が浮かんで妙に艶めかしく感じる。

213 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:01

まだそのままになっていたブラのホックに指をかけ、パチンと外してやる。
ブラを脱がせながら、支えるように伸ばした手で裕子の胸の柔らかさを満喫するように揉みしだく。

「んんっ、いぃ、気持ち、いい……もっと、っ、強く……」

求められるままに強く、硬くしこった乳首を指で刺激しながら揉み続ける。

「んぅあっ、くうッ! ふうぅ、あっ、あぁぁっ!」

敏感に反応するあえぎにあわせてゆっくりと腰を引き、同じようにゆっくりと差し入れる。
膣内の肉襞が絡みつくように締め付けてくる。
腰を引くときには逃がすまいとするかのように。
押し込むときにはより深く導くように。

「はぁ、あっ、はぅん、ふあぁぁっ、くぅ、ぁあああん」

キュッと締めてくる快感に耐えながら、それでも焦らすようにゆっくりと、ゆっくりと腰を動かしていく。

214 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:02

「う…ああぁ…ゆっくり、せぇへんで…もっとぉ…もうちょっ…んんぅっ…は、速く…強く、して」
「ダメ」
「そっ、そんなっ…あはぁん! はん、やんっ!」
「して欲しい?」
「あっ、あぁぁっ……し、して、ぇ、ほしい……」
「……っ、ふ、どうするかなぁ」
「ああぁ、んっ、お、お願いぃ、やから…してぇ……」

もとよりこちらも堪えきれなくなりだしていた。
が、“お願い”に乗じて「解ったよ」などと優位に立った立場を崩さないようにささやいた。
柔らかな腰を両手で掴み、引いた腰を叩きつけるように激しく押しつけた。

「あぁぁ、うっあぁぁ、や、ふうっ、くっ、はあんっ! あぁぁぁぁぁぁん!!」

215 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:02

パンパンと音がするほど深く、強く、出し入れされるモノから。
そしてそれに呼応して大きくなる裕子のあえぎが身体中を満たしていく。

「もう、っくぅ、いく、イク、イッちゃうぅぅぅぅぅ!」
「っっ……お、俺も、もう、すぐ……」
「い、一緒に、一緒にっ、いいいっ、ああ、あああっ!」

激しく動かしていた腰を、リズムを合わせるように微妙に変化をつける。
次第に重なってくる呼吸が互いの限界が近いことを教えてくれた。
僅かに変えた姿勢で、突き上げるように腰を打ちつけると、それが合図だったように、同時に限界を迎えた。

「ああぅ、あんっあんっあっ・・・い、いいっ、いい、やっ、うぁ、あああぁぁぁぁぁあああぁあぁあああーーーっ!」

ひときわ高く、大きなあえぎと同時に、引き抜いたモノから白濁した精を裕子の尻にぶちまけた。
裕子の身体に手を回しながら崩れるように落ちていく感覚に包まれていく……

216 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:02

 …………

217 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:03

ベッドで目が覚めた俺は、隣の存在に気がついて昨日のことを思い返した。
そうか、結局ベッドに移って……なんだかな、ドロドロだな。

隣で規則正しい呼吸を繰り返す裕子の髪に手を伸ばしてみた。
派手にいじっているにしては艶のある細い髪は、見かけや言動よりも繊細なんだってことを教えてくれる。
少しだけ上体を起こして彼女の顔をのぞき込む。
だいぶ派手に飲んだせいもあるんだろう、よく寝てるようだった。

「裕子……結婚しよう」

寝ている彼女に練習がてら呟いてみた。
なにか伝わりきらない気がして、改めて考えてみる。

「一緒の墓に……」

縁起でもない。こういう言い方は好かないだろう。

「名字変えてみない? ……なんかうまくねぇな」

いざ考えてみると、うまい言葉なんて浮かばないもんだってことがよく解る。

「俺もハナたちと一緒に暮らしたいな」

ペット扱いされちまいそうだ……。

218 :『Lip』:2006/10/06(金) 22:03

「いっそありきたりだが、裕子の作ったみそ汁が……いや、ダメだ。料理は俺が作った方が――」
「ぷっ――」

一瞬、裕子の剥き出しになった細い肩が揺れたように思えた。
そっと手を伸ばして肩に触れると、微妙に、不規則にふるえているような……

「ぷはっ、あっはははっ……あ、アンタ…オモロすぎるわぁ」

シーツを胸元まで引き上げて、起きあがった裕子は爆笑しながら指先で目元を拭っていた。
涙ぐむほど笑われるとは……なんてこったい。

「後な、みそ汁ぐらい作れるわっ」
「いや、知ってるけど。俺が作った方がうまいだろ」
「否定はせぇへんけど……にしても」
「あ?」
「一区切りつくまで待って」

薄く微笑みながら、引き締めた口元がゆっくりと言葉を紡いだ。
すぐに“それ”がなにを指すのか思い至った俺は、呆れているとみえるように笑った。

「なるほど。そりゃあしゃーないわな。ゆっくり待つとするか」
「もう、そう先のことやない思うから」
「……かもな」
「ん。でも、ありがと」

そう言った裕子は、喜びの中に寂しさの微粒子を含ませた笑顔で、俺に口づけてくれた。
確かにそれは少し寂しいけれど、俺たちがそうなるのはそう先のことじゃないかもしれないと思った。



 end.

219 :名無し娘。:2006/10/06(金) 22:07

続きさらしてみた。
これも前に書いたものの焼き直しだけどねえ。
あ、先に言っとこ。この後は「ないよ」ですw
さて、ストックが無くなってきたな。

ストックが無くなる前になんか新しいの書くかな。
ではでは。

220 :名無し娘。:2006/10/07(土) 08:09
全部さらしてくれ

221 :名無し娘。:2006/10/07(土) 09:39
なぜ中澤なんだ

222 :名無し娘。:2006/10/07(土) 11:01

おふぁようごずぁいます・・ゴシゴシ(-_\)ゴシゴシ(/_-)

>>220
他の更新とバランス取りながらあげるですー。

>>221
なぜ……?
結構好き。歳が歳なだけにエロを書くことに抵抗が少なかった。
一番推しじゃないんで練習がてらw

223 :名無し娘。:2006/10/10(火) 20:54

微エロ、エロ、エロと続いたんで、そうじゃないものを。
100%エロ無し、キッズ長編。
ピュアな感じで。

224 :『小さな恋の……』:2006/10/10(火) 20:55

 1

二人が出会ったのは梨沙子が小学校へ入学する年。
孝之が小学校の六年になる年でした。

幼かった梨沙子にとって、隣家に越してきた五つも年上の男の子。
当初、梨沙子にとってその男の子は、とても微妙な存在でした。

引っ越しの挨拶にと梨沙子の家を訪れた夫婦、その背に隠れた少年。
その姿を、彼と同じように、親の背中から垣間見た梨沙子は思いました。
少し不機嫌そうに俯いたその少年は、自分とは合わないのではないかと。
その表情は子供心に自分の“味方”ではない、そんな印象を梨沙子に抱かせたのでした。

225 :名無し娘。:2006/10/10(火) 20:56

ですが親同士の親交が深まるにつれ、そんな二人が一緒にいる時間も増えていきます。
出会ってから二ヶ月が過ぎた頃、いまだ微妙な二人の感情にも気づかない両家の親たちに、留守を任される機会がありました。

梨沙子の面倒を見るように言いつけられた孝之も、大人しく言うことを聞くように言いつけられた梨沙子も。
互いに言葉少なく、ぎこちなさを残したままで過ぎていく春の夕暮れ時でした。
二人は菅谷家の居間、同じ空間にいながらも、距離を置いて座りほとんど会話を交わすこともなく時間を過ごしていました。
春とはいえど、傾いた陽が落ちるのは早いもので、梨沙子はガラスの向こうに沈んでいく夕陽を見ながら小さく溜息をもらしました。
孝之も同じように、時折梨沙子の様子をみては、また目線を逸らし溜息をついていました。

226 :名無し娘。:2006/10/10(火) 20:56

どちらも同じように、気まずい時間を過ごしていたその時、不意に孝之の耳に飛び込んできた梨沙子の声。

「きゃあ!」

おそらく、二人きりになってから初めて聞いたその声は小さな悲鳴でした。
孝之は転がり落ちそうな勢いで椅子から立ち上がり、慌てて梨沙子に問い掛けます。

「ど、どうしたの?」
「だれか、いたの……」

か細い声で庭先を指差す梨沙子に、孝之は走り出し居間を出て行ってしまいました。
独りが心細くなった梨沙子が、どうしたものだろうかと考え出す、ほんの少し前に、孝之は戻ってきました。
その手に玄関にさしてあったであろう大ぶりの傘を持って。

「ボ、ボクがみてくる」

227 :名無し娘。:2006/10/10(火) 20:57

今まで敬遠し、敬遠されていると思っていた孝之の意外な言葉に、梨沙子は驚きつつも表現しがたい気持ちが浮かんでくるのでした。
そして、その言葉と行動によって、今まで二人の間に感じていた壁が崩れていくような、そんな感覚を覚えながら梨沙子が口を開きます。

「でも…あぶないよぉ」
「だ、だいじょぶだよ。りさこちゃんはかくれてて!」

そう言って梨沙子をキッチンの方へ押しやり、孝之は庭先へ続くガラス戸に手を掛け大きく深呼吸を一つ。
ちらりと後ろに離れた梨沙子を見やり、勢いよくガラス戸を引き開け叫びました。

「だれだっ!」

その声に応えるように庭の隅でガサガサと音がします。
震える腕に力を込めて、握りしめた傘を音のした方へ向けてゆっくりと孝之は近づいていきます。
すっかり陽の落ちた薄暗い庭を、音の出所へジリジリと近づく孝之のシャツが後ろへ引かれました。
振り返った先で梨沙子と目が合い、口を開きかけはしたものの、服の裾を握る梨沙子の不安そうな表情に何も言えず、再び音の聞こえた方へ向き直る孝之。

228 :名無し娘。:2006/10/10(火) 20:57

その時でした。
先程までよりも大きな音が聞こえた、そう二人が気がついた瞬間、暗闇から影が飛びかかってきたのです。
悲鳴も上げられず倒れ込んだ二人。

しばらくして、混乱から立ち直った梨沙子がそっと目を開くと、そこには孝之のシャツの胸元しか映りませんでした。
そして梨沙子は気がつきました。
庭に倒れたはずの自分が、なんの衝撃も受けなかったことに。
理路整然と導かれる結論ではありませんでした。
けれどなんとなく、梨沙子は理解したのです。

「あっ!」

そう思い至った時、慌てて這いずるように梨沙子の下から身を起こした孝之。

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