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じゅきに あんkn@狩板
- 1 :今イ`:2002/09/03 13:58:23
- 笑え。
本家スレ「じゅきに あんkn」
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/denpa/1030964092/l50
- 38 :名無し娘。:2003/04/13 18:05:03
- さらに3ヶ月たったしな。
下層で死にスレ探してる香具師に紹介するか
- 39 :名無し娘。:2003/04/13 19:15:13
- >>38
そんな奴居るか?
今は死にスレ探す前にスレ立てる奴ばっかりだぞ。
- 40 :名無し娘。:2003/04/19 22:07:14
- じゃあ使わせていただきます
- 41 :名無し娘。 :2003/04/19 23:22:50
-
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
- 42 :名無し娘。:2003/04/19 23:23:11
-
山のあなたの空遠く、
「幸」住むと人のいふ。
ああ、われひとと尋めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く、
「幸」住むと人のいふ。
―カール=ブッセ/上田敏訳 「山のあなた」より―
- 43 :名無し娘。:2003/04/19 23:23:59
-
〜 ばいぽーら 〜
- 44 :名無し娘。:2003/04/19 23:25:18
-
1945年8月15日 正午
――― 玉砕放送
その放送を聞いた子供たちは歳を重ね、ある者は富と名声を手に入れ、
またある者は、ちいさな幸せを手に入れようともがきながらも懸命に生きた。
でも、その多くの者が己の寿命を全うすることなく、この世を去っていったという。
- 45 :名無し娘。:2003/04/19 23:26:37
-
放送を聞いたとき、日本中に落胆と悲しみが広がったのは間違いなかった。
しかし、そのとき既に多くの者が、次の時代を見つめて動き始めていた。
それが、この国民の強さであり、それを成し遂げるだけのパワーが人々から溢れ出していた。
そう、あの日が来るまでは…
- 46 :名無し娘。:2003/04/19 23:27:41
-
第一章 〜 西へ 〜
- 47 :名無し娘。:2003/04/19 23:28:25
-
雪深い山道を歩くのは慣れているはずなんだけど、ふるさとを離れて1ヶ月もが過ぎると
流石に疲れは溜まっていて、踏み出す足が鉛の様に重い。
人里を避けるように辿った山道は、もう既に丸一日が過ぎてる。なのに目の前に見えるのは雪深い山道だけ。
3重になっている軍用の皮靴も長い雪道には耐えられず、凍てつくような寒さがあたしの足を何処までもいじめる。
血液が送られなくなった足先は、すでに千切れ落ちてしまった気すらするのに…。
- 48 :名無し娘。:2003/04/19 23:30:26
-
「圭織、ちょっと待ってよ。紺野遅れてるんだから」
10メートル程先を、黙々とラッセルを続けている長身の少女が飯田圭織。
迷彩色の防寒帽から溢れ出た長い黒髪を風邪に靡かせるその姿は、雪女をも負かしてしまうほど綺麗。
でも、彼女のその見た目の綺麗で華奢な体型からは想像できないぐらい、圭織はすごい力を持っていた。
あたしたちは、その鍛えられた体に何度も救われてきたんだ。
「紺野、しっかり!」
「・・・はい」
- 49 :名無し娘。:2003/04/19 23:32:05
-
圭織は振り返り、檄を飛ばした。あたしの遥か後で、消えそうなほど小さな声の紺野あさ美が返事をした。
木々の間から見え隠れしている小さな体は、白い息を大量に吐きながら懸命あたし達について来ていた。
その小さな体からはみ出すほどの荷物を背負って。
圭織の言葉を借りるなら「彼女のこれまでの人生を詰め込んだもの」だそうだ。
でも、そう考えるとあまりにも小さな荷物。あんな小さな袋に全部入っちゃうぐらいの人生なんて…。
あたしの夢は、大きな家に住むこと。やさしい旦那様と可愛い子供たちに囲まれながら、陽だまりの中で
のんびりと暮らすこと。―――だから、あんなちいさなバックの中にあたしの人生なんか詰めきれない。
それに、あたしの人生は、まだなんにも始まっていないんだし。
- 50 :名無し娘。:2003/04/19 23:33:13
-
中に何が入っているのかは知らないけど、紺野はそれを片時もはなすことは無かった。
でも、その重さが彼女の体力を数倍も早く奪っているのは事実。
そんなんで体力奪っちゃって、もし死んじゃったら意味無いのに。
こんなに苦労して此処まで来たのに…。
紺野は何度も立ち止まりながら、黙々と歩き続けている。
- 51 :名無し娘。:2003/04/19 23:33:55
-
「休憩しようか」
圭織があたしの場所まで戻ってきて、荷物を降ろした。
白い息があたしの横で、激しく動いている。圭織も凄く疲れてるみたい。
だって、あたしらの分まで荷物を持ってるんだもん。40キロを超えているんだよ。
そんなもんを背負ったまま圭織は、此処まで歩いてきたんだ。圭織には感謝しなくっちゃ。
「今日中に、この山を越さないとやばいわよ」
「うん、わかってるよ〜。したっけさぁ…」
あたしは振り返り紺野を見た。
さっきよりはずいぶんと近づいていたけど、それでもまだ50メートル以上は離れていた。
- 52 :名無し娘。:2003/04/19 23:34:27
-
雪の表面を白い帯のような筋を従えて、風が山を駆け下りている。
その風で作られた風紋に、あたしたちが作った道が一本何処までも続いていた。
その頼りない道を、紺野が這うように進んできている。
今はまだ風は穏やかだけど、この天気がいつまでも続くとは限らない。
現にあたしたちの向かう先には、雲を携えた山が連なってる。
その雲が、いつあたしたちを取り込んでもおかしくはない。
急がなくちゃ…
気だけがあせる。
- 53 :名無し娘。:2003/04/19 23:34:56
-
紺野が漸く追いついた。あたしの横で雪の中に仰向けに寝転び、全身で息をしている。
「圭織とうちらじゃぁ体力が違うんよ。――このままじゃ紺野が…」
「わかってるよ。でも…」
圭織は、横になっている紺野の顔を見つめていた。紺野はまだ顔を上げる元気すらなく、雪の中に埋もれたままだった。
本当はあたしも、もう今日は歩きたくないんだ。でも、同じ年の圭織に弱音なんか吐きたくなかった。
「今日は此処で野営しようか。
まだ先は長いし…」
圭織の言葉が終わらないうちに、あたしは荷物を放り投げると、雪の中につっぷした。
よかった。今日はもう歩かなくてすむんだ。
- 54 :名無し娘。:2003/04/24 22:31:10
-
- 55 :名無し娘。:2003/04/24 22:31:24
-
「お腹すいたね」
圭織がすまなそうに呟いた。固形燃料はとっくに底をつき、燃やすべき小枝も
けむい煙を大量に吐くだけで、一向に燃えようとしない。
あたし達は、お湯すら沸かせない状態で、凍ったように固いパンを無言で齧っていた。
- 56 :名無し娘。:2003/04/24 22:31:58
-
多分、今一番食料を必要としているのは圭織のはず。
圭織は至極当たり前のように、あたし達の何倍も動いている。
それは、あたしらが未熟だからなんだ。
弱くて、自分のことすら満足に出来ないあたしらの所為なんだ。
そのことに一言も文句を言わずに、あたし達を引っ張ってきた圭織に
あたしも紺野も、すまないという気持ちで一杯だった。
「圭織、なっちの分たべる?」
「何いってんの。それはなっちが食べなくてはいけないんだよ」
この凍りついたように固いパンが、最後の食料だった。
この山を越せば、食料が手に入るはず…。
少なくとも雪はなくなり、道端に草ぐらい生えているはず…。
でも、もしこの先も今までと変わらないのなら…。
あたしは頭を小さく振り、この先起こりうるかもしれない最悪の考えを振り払った。
- 57 :名無し娘。:2003/04/24 22:32:38
-
今年の凶作は史上最悪だった。エルニーニョだかなんだかの所為で天候は安定せず、寒い夏をすごした結果、
あたしの人生の中で最悪の大飢饉が発生し、みんな次々と倒れていった。
向かいのおじさんが倒れ、隣のおばあちゃんが亡くなり、薫や絵里、純生、耕平までが死んだころには、
村にまともに動ける人がほとんどいなくなった。
- 58 :名無し娘。:2003/04/24 22:33:21
-
それでも、政府の発表は例年並の出来で、一部で飢饉に陥っているものの、それは一時的なものだといってた。
そして、テレビは親皇様が飢えに苦しむ村人に、食料を配る映像を毎日のように流してた。
誰もが、いつかは自分たちの村にも、その食料は届くものだと信じていた。
あたしも村を出るまでは、その発表を信じていた。うわさでは、優秀な村人が多い村から食料が配られていて、
配給が遅れているのは、村が優秀ではないということ。
だから、あたしは優秀な村を求めて、村を飛び出したんだ。
…でも、そんなものが真っ赤な嘘だと気づくのに、それほど時間はかからなかった。
- 59 :名無し娘。:2003/04/24 22:33:52
-
自分の村を出て、隣の村に行っても、その隣の村に行っても、状況は変わらなかった。
それどころか、あたしの村の方が海に接している分、いくらかマシ。
飢えた人たちは山や道に生えてる草を食べ、木の皮を剥ぎ、それでも飢えて死んでしまった自らの子まで
食べる親までいるといううわさだった。
当然、食料をめぐる争い、強盗、殺人は日常茶飯事で、そのあまりにもの数に、事実上、
警察はその機能を果たさなくなっていた。
ううん、その警察すら信用できなかった。
誰も信じられなかった。
誰も、誰も信じれない中で、あたしは圭織と出逢ったんだ。
- 60 :名無し娘。:2003/04/24 22:34:32
-
「安倍さん・・・」
「なに?」
「本当に西は、良い所なんですか?」
あたし達はテントの中で、紺野を中心に抱き合うように暖をとっていた。
外では唸るような声をあげながら風が走ってた。
テントがバタバタとハタめいて、あたしたちを脅かし続けている。
- 61 :名無し娘。:2003/04/24 22:35:35
-
「うん…、どうなんだろう?なっちも良く知らないんだよね。
でも、うちらが教科書で習ったのとは、だいぶ違うと思うんだ…」
教科書で習ったこと…。それは、西の人たちは物欲に支配され、人間性を失い、自分のことしか考えられない人たち…。
人のためとか、国のために働くことを忘れ、堕落的な生活をしている人たちだった。テレビから流される西の映像は、
薬や性に溺れる若い人達で溢れかえっていた。その姿に、あたしたち東の人々は、同じ民族として屈辱と憎悪感を感じた。
- 62 :名無し娘。:2003/04/24 22:36:27
-
それでも、西への憧れはみんなが持っていた。もちろん、それを口にすることは決してなかった。
そんな事をすれば、その家…、ううん、六人組の皆に迷惑が掛かるから…。
六人組。
昔、向こう三軒両隣と言う言葉があった。隣組と呼ばれていたそれは、
ご近所で助け合って生きていこうという意味合いがあったんだって。
でも、今は…お互いを拘束し監視するためのものになっていた。
何かあれば、六人組の連帯責任。
犯罪者が出れば、六人組全員が強制労働の名のもと、どこかへ連れて行かれてしまう。
だから、お互いがお互いを監視し、何か問題が起きそうになれば、
公安に見つかる前に闇へと葬るという恐ろしいものへと変わっちゃっていたんだ。
現に、あたしの隣の家の人が、ある日忽然と消えてしまったことがあった。
あたしは、その頃まだ生きていた父親に、その理由をしつこく聞いたんだけど、一言うるさいと言われ
殴られただけだった。
あたしは、その時子供ながらに、あぁ聞いちゃいけないことってあるんだということを知り、
この国への不信感をまたひとつ、積み上げていったんだ。
- 63 :名無し娘。:2003/04/24 22:36:55
-
「教科書で、習ったとおりだよ」
寝ていたと思った圭織が、突然起き上がって言い放った。
- 64 :名無し娘。:2003/04/24 22:37:20
-
「圭織、西に行ったことあるの?」
「ないよ。でも、軍にいるといろいろと情報は入ってくるんだ」
「どんな感じなんですか?」
「自分勝手で、強欲で、無秩序な世界だよ。民族の誇りの欠片も持ち合わせていない、
最低な連中が巣食う最低な国さ」
圭織は眉間にしわを寄せ、嫌悪感をあらわにしていた。
「でも、圭織も西に行きたいんだよね」
「この国よりマシだから…。
この国は、人が住む国じゃないよ。ううん、もう国にすらなってないよ」
- 65 :名無し娘。:2003/04/24 22:37:58
-
また、風がテントの上を走り抜けていった。
北海道だったら、その風で木々に積もった雪が舞い上がり、テントに雪が叩き付けられているんだろうけど、
この辺りの雪は水分が多くて重いから、風はただ積もった雪の上をなぞるだけだった。
もう、此処は北海道じゃないんだ。
当たり前だけど、改めて故郷を離れたことを実感していた。
北海道を離れるのは初めてだった。圭織は陸軍にいたから北海道を離れたことが有るんだろうけど、
そうでない一般の人は、自分の村の近辺しか行けなかった。
- 66 :名無し娘。:2003/04/24 22:38:31
-
旅行は許可制だった。
許可書を持たない者の旅行は違法だった。
だから、許可書を持たないあたしたちは山道を選びながら、人里を避けながら南下し続けているんだ。
この先には、仙台がある。そこに行けば食べ物だっていっぱいあるはずだし、暖かい部屋で寝ることも出来る。
- 67 :名無し娘。:2003/04/24 22:39:00
-
「あたしはどうしても西に行きたいです」
そう言う紺野の足先は凍傷が酷く、歩くことさえ困難になっている。
「紺野はどうして向こうに行きたいの?」
これまで何回も聞いた質問だった。
「どうしても行かないといけないんです」
いつもと同じ答えが返ってくる。
紺野はそれ以上の答えを言おうとしなかった。
ただ「どうしても」とだけしか…。
- 68 :名無し娘。:2003/04/24 22:39:58
-
あたしと紺野が出会ってからまだそんなに経っていないのに、紺野の衰退がはっきり分かる。
このままじゃ紺野…仙台までも無理かもしれない。
痩せこけた頬に張り付いた皮膚は妙にテカテカしている。
もともと紺野は目が大きいから…そこだけ妙に強調されちゃって、ちょっとだけ恐い。
人の事いえないんだろうな。もうずっとお風呂にはいっていないし、髪なんかぐちゃぐちゃだし、
肌だってぼろぼろ…。手なんかおばあちゃんみたいになっているし。
もう、長いこと鏡を見てないな。
恐くて見れないよ。鏡なんて…
風が唸り声を上げている。
山の彼方から、あたしたちを嘲笑っているんだ。
何処にも着きゃしないと笑っているんだ。
今のあたしたちは、ただ目を瞑って震えていることしかできなかった。
- 69 :名無し娘。:2003/05/02 02:29:47
- 面白くなりそう
更新楽しみにまってます
- 70 :名無し娘。:2003/05/11 11:05:54
- 終了?
- 71 :名無し娘。:2003/06/06 09:43:02
- 続かないの?
- 72 :名無し娘。:2003/06/28 22:36:26
- http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Keyboard/2348/fumei/uwan.swf
- 73 :名無し娘。:2003/07/17 21:32:23
- 保全
- 74 :名無し娘。 :2003/07/26 23:38:15
-
あたしの目の前に不意に手が現れた。圭織の手だ。
圭織が何も言わず、手をズイッと伸ばしてきたんだ。
あたしはその差し伸べられた手と、圭織の顔を交互に見つめた。
圭織は表情が豊かな方じゃない。
子供のころは、今とは逆にあたしより喜怒哀楽を素直に出す方だった。
でも軍隊に入り、あたしと再会した圭織は、いつも静かに笑っているだけだった。
その笑顔は、むかし学校で美術の時間に見た絵のように寂しそうだった。
なにかすっごく大事なものを失くしてしまって、それでも全てを受け入れざるを得ない自分を嘲るかのような寂しい微笑み。
- 75 :名無し娘。 :2003/07/26 23:38:55
-
あたしが躊躇して、そうやって圭織を見つめていると、また無言で手を伸ばしてきた。
「あ ありがとう」
そう言って圭織の腕につかまり上に登ると、視野が急に広がった。
尾根を越えたんだ。
後は下りだけだと思うと、力が抜けそうになる。
でも、山のすそ野はどこまでも続いている。坂が緩やかになった先もずっとずっと白い雪景色だけ…
「圭織、街は?」
「あっち」
「あっちて?なにもないべさ」
圭織が指差す先に街の姿なんか見えなかった。
- 76 :名無し娘。 :2003/07/26 23:39:24
-
「まだ見えないけど、もうすぐだから」
「もう直ぐって?」
「もう直ぐ…」
「もう直ぐじゃわかんないべさ。圭織はいつも…」「紺野行くよ!」
あたしが話してる途中なのに、圭織は大声で紺野に声を掛けると、さっさと崖を降りはじめた。
「もう!」
遥か下の方で紺野が雪の上を這っている。紺野の背負う緑色の大きなバックが紺野が一歩昇るたびに
ゆっさゆっさと揺れている。時々あたしを見上げる仕草までがじれったくなるぐらいゆっくりで、
青虫かなんかを思い出させる。
でも、しかないんだよね。ただでさえつかれきってるのに…
最後のパンを齧ってからもう2日も経っている。もうお腹が減りすぎて、空腹であることすら感じなくなってるし…。
この二日で口にしたのは、木の皮と雪だけ。
サルじゃないんだけどさ、そんなものでも口の中に入れて誤魔化していないと絶対死んじゃう気がしていた。
だから、あたしも圭織もやわらかそうな木の皮を見つけるたびに、木の皮を剥いでいた。
- 77 :名無し娘。:2003/07/27 02:54:05
- 戻ってキター!! 。・゜・(ノ∀`)・゜・。 アリガトウアリガトウ
- 78 :名無し娘。 :2003/08/11 21:28:06
- >>77
やばい・・・読んでいる人がいたとは・・・えっと・・・お待ちください・・・
- 79 :名無し娘。 :2003/08/11 21:28:54
- >>77
読んでいただいてありがとうございます。なんとかしま・・・す・・・
- 80 :名無し娘。:2003/08/13 00:32:27
- いつまでもいつまでもマッテルヨー ヽ(´ー`)ノ
- 81 :名無し娘。:2003/08/13 00:52:20
- 今のところまだ良くわかんないけど
なんか自分のツボだなぁ おもろいんで頑張ってね>作者さん
- 82 :名無し娘。 :2003/08/17 01:20:26
-
紺野は…
紺野は、あれから2度倒れた。
その度にあたしたちは歩みを止め、紺野の回復を待つしかなかった。
食料も何もないのに、回復するかどうかだってさ、わからないのに、
待つしかなかった。
こんな状況下じゃあ、経験の多い圭織の命令に逆らうことなんかできないし。
悔しいけど、あたしどうこうできるような状況じゃなかった。
- 83 :名無し娘。 :2003/08/17 01:20:59
-
紺野のザックに入ってるものは、お金。
見たわけじゃないんだけど、あの重さは絶対お金。
だから、紺野は何度倒れようが、あたしたちに荷物を触らせようとしないんだ。
- 84 :名無し娘。 :2003/08/17 01:30:11
-
早く死んじゃえ
・・・最近、その思いがどんどん膨らんでいく。
紺野さえいなければ、今頃仙台にたどり着いているはずだ。
それに、あの荷物の中身がお金なら、食料でも何でも好きなものが買える。
紺野さえ死んでしまえば…
そんなことを考える自分が嫌いだった。でも、その気持ちは、疲れが増すとともに膨らんでいって、
紺野を見るたびに、心のどっかで「死ね 死ね」と呟いている自分がいた。
それは紺野に対するあたしの態度にも、たぶん出てるんだと思う。
最近、紺野はあたしの目を見ようとしなくなっていた。
- 85 :名無し娘。 :2003/08/17 01:30:46
-
あんた、自分は気づいていないんだろうけど、ずいぶん残酷だね。
中学のときの友達の言葉。
そして、あたしの前に立つ圭織の瞳が放つ言葉。
圭織があたしを見ている。
傍らの岩に左手をつき、あたしを見上げている。
なによ!思っただけじゃん。
ちょっとだけ、紺野のことをさ…
あたしもめいっぱい力を込めて圭織を睨むけど、そんなことお構いなしに、圭織はまた黙々と降り始めた。
尾根の反対側を見ると、紺野がすぐ近くまで上ってきていた。
「紺野、行くよ」
「・・・」
返ってくる筈も無い返事を待たずに、あたしも尾根を下り始めた。
- 86 :名無し娘。:2003/08/19 00:05:00
- マタキテタ━━\(T▽T)/━━ !!!!!
楽しみに待ってます
- 87 :名無し娘。 :2003/08/31 23:37:52
-
はじめに林の中に一軒の小屋を見つけたのは、あたしだった。
壁には修復された月日に応じて煤けた板が、其処彼処に宛がわれていて、
いかにもむかしっから使っている小屋に見えた。
トタンで作ってある煙突から煙が出ているところを見ると、
誰かが使っていることは間違いなかった。
「圭織どうする?」
「多分、マタギの小屋だと思うけど…用心したほうがいいと思うのよ」
そういうと、圭織は歩き出そうとしていた。
「待ってよ!あそこには絶対食料あるんだよ。何とか分けてもらうとかしないと」
「だめ、危険すぎる。マタギってことは、銃を持っているってことだよ」
「そうかもしれないけど、あたしたち何日食べ物を食べてないのよ。このままじゃ仙台までもたどり着かないよ」
- 88 :名無し娘。 :2003/08/31 23:38:01
-
圭織の言うこともわかる。最近じゃあ、この国で見知らぬ顔を見ることはほとんど無くなっていた。
そりゃあ、仙台とか成田なんかの大都市じゃあ、そんなことは無いんだろうけど、
こんな山奥じゃ圭織の言うとおり、やっぱ危険なんだろうな。
あたしも村にいたころは、見知らぬ人って言えば、軍人なんかのお国の人しかいなかったし、
「だから、その他の知らない人は犯罪者かなんかだから、関わっちゃだめですよ」って、学校の先生も言っていた。
でも、そんなこといってられない。だって、これ以上何も食べずに歩き続けることなんかできないし、
もう、頭ん中食べることしか考えられないし、こうなった原因を全て紺野の所為にしているあたしは、
もう何度も寝ている紺野の首に手を回していたし…。
- 89 :名無し娘。 :2003/08/31 23:38:24
-
「わかった。じゃあ、あたしが様子見てくればいいんでしょ」
そういって、あたしが立ち上がると圭織が腕を引っ張った。
「あたしが行くから、なっちは紺野と此処で待ってて」
圭織は背負っていたザックをおろすと「いい?1時間待って、あたしが戻ってこなかったら、先に行って」
と言い残し、小屋に向かって歩き出した。
- 90 :名無し娘。 :2003/08/31 23:38:48
-
此処から小屋までは20メートルぐらいあった。圭織は雪を踏みしめながら、ゆっくりと小屋に向かっていた。
雪といっても、ここら辺はずいぶんその量も少なくて、歩く妨げになるようなことはない。
小屋の周りに雪は無かったし、積み上げられた薪にも屋根の上にも雪は積もっていないけど、
それでも、歩くと"ぐぐぐっ"っと雪を踏みしめる音がする。その音があたしたちのところまで聞こえてくる度
ヒヤッと背筋が凍る思いがする。それは圭織も同じ思いなのかもしれない。圭織は一歩踏み出しては耳を澄まし、
ゆっくりゆっくりと小屋に近づいていた。
圭織は小屋にたどり着くと、すばやく窓の下へと身を隠した。
窓にはガラスがはまっていた。この小屋には似合わない代物だった。普通の家なら厚手のビニールを何枚も窓に張って、
その代わり窓にはまっていたガラスを、食料かなんかに換えてしまっているのが普通だった。
中に人いるんだろうか?食べ物を分けてくれるかな?
ごはんごはんごはんがありますように。ご飯がありますように。
あたしはいつの間にか、手を合わせて小屋に向かって拝んでいた。
- 91 :名無し娘。 :2003/08/31 23:39:21
-
圭織が一瞬顔をちょこんと上げて、小屋の中を覗いた。圭織はまた、その後壁に張り付くようにじっとしていた。
じれったいなぁ〜もう!
しばらく様子を伺っているんだろうけど、じれったい。もう、なんでいつもすぱっといかないんだろう?
もう一度、今度はゆっくり中を覗くと、漸くあたしたちを手招きした。
「誰もいないみたい」
「でも、煙出てるよ」
「うん、そうなんだけど…どうする」
「入っちゃおうよ。誰か戻ってきたら、そのときはそのときで…さ」
そういいながらも、あたしはすでに扉に向かっていた。
「ちょっと、待ってよ。誰もいないんだよ」
「だから?」
- 92 :名無し娘。 :2003/08/31 23:39:55
-
小屋に入ると、暖かい空気があたしを包んできた。それに、このたまんない匂い!
土間にあるかまどの上にかけられた鍋からだった。あたしは迷わずお鍋に一直線に向かった。
「ちょっと紺野、豚汁よ豚汁!」鍋蓋を開けると、湯気の中から具のいっぱい入った豚汁が現れた。
その声で、紺野は扉にぶつかりながら転がり込んできた。
「ねえ〜、ちょっとおいしいよ。マジで」
「本当ですか?私豚汁大好きなんですよ。私にも一口飲ませてください」
こんなにはっきりとした紺野の声を久々に聞いた気がする。
でも、本当においしかった。おなかがすいているからなのかもしれないけど、一気に体中に力が漲ってくる気がする。
紺野がおわんを持ってきた。それによそってあげると、紺野はあわてて豚汁をかきこんだ。
「あつっ!」「なぁ〜ん、はんかくさいね。熱いに決まってるっしょ。ゆっくり食べれ」
でも、そういうあたしも実は口の中は火傷だらけだった。
- 93 :名無し娘。 :2003/08/31 23:40:40
-
紺野もあたしも食べることに必死で、圭織がその場にいないのに気づいたのは、あたしが3杯目をよそうときだった。
「圭織?」
圭織は体半分小屋の中に入った格好で、外を見ていた。
手を黒光りする薄い扉に手を置き、右手を腰の辺りに回している。右手の先にあるのは銃だ。
あたしたちには見せることは無いど、その存在はすぐに気がついた。
どんな銃で何発弾丸があるのか知らないけど、圭織が銃を持っているというだけで、
なんか安心感が増す気がしていた。
- 94 :名無し娘。 :2003/08/31 23:41:34
-
「圭織」もう一度圭織を呼ぶと、ようやく振り返った。
「圭織も食べなよ」「あたしはいいから」
「良いからじゃなくって、圭織も食べなくっちゃいけないの!」
あたしは入り口まで行き、無理やり圭織を引っ張ってきた。
「この家の人にむ 無断で食べることは」
「なに言ってるの、そんな場合じゃないでしょ。食べれるときに食べなきゃだめって言ったのは圭織じゃない」
「そうだけど、これは泥棒だよ」「だから!」「あっ、あたしの…」
あたしたちの言い争いを完全に無視して、ひたすら豚汁を食べている紺野からお椀を取り上げて、
圭織の目の前に突き出した。
「圭織が倒れたら、あたしたち困るでしょ?だから…ね?」
それでも、圭織はお椀を受け取ろうとしなかった。お椀を見ていた視線はすぐに外れて、入り口へと向かった。
「見張りならあたしがやるから、圭織はそれを食べなよ」そういうと、圭織は漸く豚汁を手に取って食べ始めた。
その姿を確認したあたしは、入り口のところに、圭織のしていたように半分だけ外に体を出した格好で立った。
- 95 :名無し娘。 :2003/08/31 23:42:06
-
外は相変わらず寒い。風がびゅうびゅう吹いて木々を揺らしていた。
一度暖かい所に入っちゃうと、もう二度と外に出たくない気がする。
「飯田さん、他にも食べ物が一杯あるみたいですよ」振り返ると、紺野が部屋の中を物色していた。
「紺野だめよ」紺野の手には干し肉や乾パンが握られていた。
その紺野の後の棚の中には、まだ他にもたくさん食料が貯蔵されているみたいだった。
「いいから紺野、かばんの中に詰めちゃいなよ」「ダメ紺野。いくら困っていても、人間としてやってはいけない事が…」
「圭織、お金持ってんでしょ?誰か来たらお金払えばいいじゃない。第一人殺しをするわけじゃないんだべさ」
紺野が食料をザックに詰めようとするのを圭織が止める。
もういい加減にしてほしい。奇麗事言ってる場合じゃないのに!
あたしは圭織の後ろに周り、紺野の周りにこぼれる食料をかき集め、自分のザックへと運ぼうとした。
- 96 :名無し娘。 :2003/08/31 23:42:54
-
ガタガタッ
突然、半開きのままになっていた扉が開き、女の子が入ってきた。
年のころなら15、6だろうか、古ぼけた男物の着物を着たその子は「あっ」と短く声を上げたあと
口をぽかんとあげたまま固まってしまった。
「あ あのね、うちら怪しいものじゃ全然ないんだ。ちょっとね、おなかすいてたから…ごめんね、勝手に…」
明らかに女の子の目はおびえていた。何とかしなくっちゃと思ったあたしは、笑顔でゆっくりと近づいていった。
「ごめんね、これあなたたちの食べ物なんだよね」少女があたしの手を見た。手には干し肉とお餅が握られている。
そして、少女の手には…銃が…
- 97 :名無し娘。 :2003/08/31 23:43:25
-
あたしの視線が銃に釘付けになっていることに気づくと同時に、その銃が突然あたしの方に向けられようとしていた。
散弾銃というものかもしれない。軍が持っているものとは違ってるけど、人を殺すには十分なものだということは理解できた。
わけがわからないうちに、あたしはその銃の筒の部分を握っていた。
そしてその銃から轟音が鳴り響き壁に穴があくのが横目で確認できた。
紺野が悲鳴を上げている。
2発目が発射されると、筒の部分が熱くなった。それでも、この手を離せない。だって、離したら絶対殺されちゃう。
と突然あたしは背中から押されて、少女の上に乗るような形で土間に倒れた。圭織だ、圭織が後ろからあたしごと
押し倒したんだ。圭織は散弾銃を足で踏みつけながら、あたしと少女の間に入り、少女を取り押さえた。
「圭織、どいて!」
あたしは立ち上がると、散弾銃を拾い上げ、少女に向かって狙いを定めた。
銃なんか撃ったことなかったけど、あたしを殺そうとした人をこのまま許すわけにはいかなかった。
- 98 :名無し娘。 :2003/08/31 23:44:44
-
「どいて圭織!」
少女を抑えたままあたしを振り返る圭織の顔は、ものすごく恐かった。
圭織は少女を押さえつけているというより、あたしからかばっている気がする。
「弾でないわよ。その銃は2発撃ったら、弾を充填しないとだめなのよ」
「えっ?」
一瞬あたしの気が銃に反れた。その隙に圭織があたしの持っている銃先を思いっきり引っ張った。
「あっ」あまりに突然だったんで、あたしの手からすんなりと銃が離れていってしまった。
- 99 :名無し娘。 :2003/08/31 23:45:04
-
パン
圭織があたしの頬を打った。圭織は銃先を左手で握ったままあたしの前に仁王立ちしている。
床には少女がおびえた顔をして小さく丸まっていた。
「あなた今人を殺そうとしたのよ」「正当防衛よ!」
ふっと圭織は大きくため息をつくと右手で髪をかきあげた。
「なっち、あなたさっき人殺しをするわけじゃないからって言ってたわよね」
たしかに、言ったかもしれない。でも、この子はあたしに銃を向けようとしたんだから…
「だって…」「なっち…」
「じゃあ、どうすればよかったのよ。撃たれればよかったの?」
「そうじゃない。あなたは…」
わかってる。銃を向ける必要はなかったんだって…
- 100 :名無し娘。 :2003/08/31 23:48:55
-
「紺野、早く支度して、逃げるわよ」
圭織は突然紺野の方を振り返り、強い命令口調で言うと、自分のザックを拾い上げ、出発の準備を始めた。
「あ た…食べ物は」
「あたしのザックから寝袋を全部出して、詰めるだけ詰めて」
「あっ はい…」
紺野は圭織からザックを受け取り、中から寝袋を取り出すと、食料を詰め込み始めた。
あたしはそれをただボケーと眺めているだけだった。
「なっちも早く準備して」
「え…あっ」
とにかくここは逃げなくちゃ。あたしは荷物を拾い上げ背負い、床に落ちていたビスケットをポケットに押し込んだ。
「この子は、どうするの?」「連れて行くわ」「連れて行くって?」
「しょうがないでしょ。顔見られてるんだよ」
- 101 :名無し娘。 :2003/08/31 23:49:14
-
あたしや紺野が顔を見られてもそんなに影響はないかもしれないけど、脱走兵の圭織はそんなわけには行かない。
「でも、どうするのよ」「わかんないわよ。わかんないけど、連れて行くしかないのよ」
唯でさえ、紺野という不安を抱えているのに、いつあたしたちをまた襲うかわからないよな人を連れて行くのは
無謀でしかない。やはり…
「なっち、変な考えを起こさないでよね」
あたしは少女をじっと見詰めていたらしい。圭織があたしの肩を押して、入り口へ向かわせた。
「あなたには悪いんだけど、連れて行くから立って」
未だにしゃがみ込んでいる少女の腕を引っ張り上げる圭織を右目の隅で見ていた。
空はいつの間にか雲いっぱい広がって、薄暗くなっていた。
あたしは重い足をまた雪の上に下ろした。
- 102 :名無し娘。 :2003/08/31 23:51:11
- >>86
いつもすみません。どうもマイペースなもんで、お待たせしております。
そのくせ、話がなかなか進まなくって、書いてるほうがいらいらしてきたりなんかしております。
気長にお待ちくださいませ。
- 103 :名無し娘。:2003/09/01 09:41:07
- 更新キテタワァ*・゜゚・:.。..。.:*・゜(n’∀’)η.*・゜゚・:.。..。.:*
おもろいです
自分の好きなタイプの小説なんで次回も期待してます
- 104 :名無し娘。 :2003/09/07 01:20:36
-
あたしたちはあれから夜通し歩いていた。一刻も早くあの小屋から離れなくちゃいけない。
銃声は山中に響き渡っていただろうし、山男たちの方が、あたしたちの何倍も速く歩けるだろうし。
でも、理由はそれだけじゃない。寝袋もテントもないから、夜中に寝るわけにいかなかった。
圭織は寝袋を出して食料を詰めろといったのに、紺野のバカはテントまでおいてきちゃってた。
「紺野、乾パン。…あの子にも」
あたしは圭織から受け取った乾パンの袋を紺野に渡した。紺野は袋から乾パンを鷲掴みにすると、
何度もポケットに押し込んでいた。
紺野はホントわかってない。そんなに食べても、まだ胃が受け付けるわけないのに。
あの小屋で食べたトン汁どころか、未だに乾パンですら水でふやかしてから少しずつ食べなきゃ
直ぐに吐いてしまうのに。
- 105 :名無し娘。 :2003/09/07 01:21:12
-
「はい、まこっちゃん」紺野が小川真琴に袋を渡すと、小川は口をあけたまま「ども」と頭をちょこんと下げた。
小川真琴はいつも口をあけたまま笑っている。あいつはあたしを殺そうとした。あたしはあいつを殺そうとした。
なのに、あたしにもその間の抜けた顔で笑いかけてくる。
「くち」
あたしは小川の上唇と下唇を摘むと、口を閉じさせた。それでも、小川はへらへらと笑っているだけだ。
あたしはあんたを許さないんだからね。
- 106 :名無し娘。 :2003/09/07 01:21:19
-
「まこっちゃん、こっち…」
紺野があたしの小川への視線に気づいたのか、小川を呼び寄せた。小川は少し広報にいる紺野を振り返り、
小走りで紺野の下に駆け寄った。
小川は紺野に比べて随分ふっくらした体系をしている。ううん、あれが本当の標準体型ってやつなんだろうな。
あの小屋にあった食料、こんな時代にあれだけの量の食料があるんだから当たり前なんだろうけど、羨ましい。
紺野のもあれぐらいだったらもっとかわいいんだろうな。でも、今は骨に皮が張り付いているだけみたいで
ぶきみな感じすらする。初めて紺野を見たときもやせていたけど、それでも今よりはましだった。
この食料だって、いつまで持つのかわからない。まだ街は遠いんだから。
- 107 :名無し娘。 :2003/09/07 01:56:59
- ほんのちょいだけ更新です。
狩狩に引っ越すか飼育に行くか悩んでいます。
飼育に行くなら、はじめから貼りなおしですけど…
- 108 :名無し娘。:2003/09/07 04:34:51
- 更新乙っす
しかしなっち・・・・逆恨みも(ry
どっちに移ってもついて行きますよ>作者さん
- 109 :名無し娘。 :2003/09/09(火) 20:28
- お引越し完了です。
>>108 さん、まいどです。
なつみさんは、ますます・・・
- 110 :名無し娘。:2003/09/09(火) 20:35
- 管理人さん、移転ありがとうございました。
よろしくお願いします。
- 111 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:08
-
仙台は、この国2番目の規模を誇る街だ。この街にたどり着いたとき、その規模と人の多さにびっくりした。
たしかに札幌は3番目に大きいと言われているけど、舗装された道路はメインの通りだけ出し、
その舗装道路だって、穴ぼこだらけで、まともに走れたものじゃなかった。
もっとも、行きかう車って言えば、軍用トラックや戦車だけていう寂しい状態だったんで、そんなに困ることはなかった。
市民の足といえば歩くのが基本で、ここみたいに乗り合いバスなんか走っていなかったし、
まして、個人が車を持っているなんて考えられなかった。だって、札幌にはガソリンスタンドなんかなかったし、
配給もされていなかったんだから、当たり前といえば当たり前だ。
- 112 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:08
-
駅前の大通りは幅50メートルもあり、そこをバスやら自転車が忙しなく行きかっている。
この道はテレビで何度も見たことがある。国の行事なんかの時パレードで使われる道だ。
両脇にはケヤキの木が植えられ、今はまだ枝しかないけど、春になれば緑のトンネルを形成するという話だ。
木がそのまま残っているのは信じられなかった。札幌では街路樹なんかは、いち早く切り倒されて、薪に変わっていた。
でも、ここではそれを固く禁じられていた。木を傷つけるだけで処刑されるという話だ。
ここはテレビでも映る、いわばこの国の顔のひとつだからだ。
- 113 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:09
-
その並木道を何キロか進むみ、高層マンションの群れを抜けると、突然舗装路が途絶えてしまう。
それまで続いた綺麗な街並みも忽然と消え、埃っぽいバラック小屋が建ち並んでいる。
仙台の人口の8割ぐらいがここで暮らしている人たちだ。
ぼろぼろの布をまとい、裸足のまま冷たい地面を踏みしめている人もたくさんいる。
その街の境界線に建っている小さなビルに、あたしたちは身を潜めていた。
1階の食堂を通り、奥の階段を上がっていくと突き当たりに食材の詰まったダンボールが並ぶ倉庫がある。
その奥の壁をスライドさせると、隠れ部屋が現れる仕組みだ。
- 114 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:10
-
あたしが壁を5回ノックすると、その壁が開かれた。
「お帰りなさい」小川のへらへら顔があたしを迎えた。あたしはそれを無視して部屋に入ると、
紺野を看病している圭織が振り向いた。
「お帰り。…薬あった?」「うん」あたしは紙袋の中から圭織に頼まれた薬を取り出した。
「それ、何の薬なの?」「…元気が出る薬」圭織は、その薬を蒸留水に溶かしこみ、注射器で紺野の腕に注射をした。
この部屋を用意したのも、あの薬を手配したのも圭織だった。軍にいたときのツテなんだそうだ。
圭織がどのぐらいお金を持っているのか知らないけど、あの薬も信じられないぐらい高いものだった。
そんなもの買わなくていいから、早く成田に行きたかった。でも、成田には圭織の知り合いはいないし、
西へ脱出するための資金もかなり不足していた。だから、ここでお金を稼がなければならなかった。
お金を稼ぐといっても、1階の食堂の手伝いと、この街のずっと奥にあるごみ山から拾ってくるものを売るぐらいしか
できないから、お金は全然貯まりそうにもなかった。
紺野は仙台にたどり着いてからずっと寝たままだし、圭織は軍から指名手配されているから、
そんなに表に出ることができないんで、あたしは毎日小川を連れてごみ山を漁っていた。
- 115 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:10
-
ごみ山は札幌にもあった。この街のごみ山と同じように臭くって、いつもどこかが燃えていて、
その山に大勢の人が群がって、ごみを漁っていた。
お金になるのは金属とビン、電化製品なんかも修理できるものであれば高く売ることができた。
あたしは室蘭を出ると、そのごみ山でやはりごみを漁っていた。初めは何が売れるのかどこを探せばいいのか
よくわからなくて、やたらめったらごみを掘り返して、今考えると笑っちゃうようなものを売ろうとしていた。
そんなときだった、紺野と出会ったのは。紺野はちっちゃいころからここで住んでいて、何もわかっていないあたしに
いろいろと教えてくれた。ごみの拾い方から闇市での売り方、あたしより年下の紺野が頼りの日々だった。
そしてなにより、憲兵の恐ろしさを教えてもらった。
紺野の背中には、無数の傷跡がある。憲兵に捕まったときにつけられた跡なんだそうだ。
でも、そのときに両親を殺されてしまったという傷が、一番紺野を苦しめていた。
- 116 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:11
-
仙台のごみ山でも、時々憲兵や警察による一斉取締りがある。警察はまだましだ。持っているお金を全部渡せば
逃してくれる。でも、憲兵はそのままどこかへ連れて行ってしまい。連れて行かれた人は二度とこの場に戻ってこない。
強制終了所に入れられるという話だけど、うわさでは連行される人たちの半分は憲兵に殺されてしまうらしい。
憲兵にとって、あたしたちは人間ではないんだ。運悪く声をかけられても、憲兵の顔を見てはいけなかった。
ひたすら下を見ながら「はい、先生様」と言っているしかなかった。
気をつけないといけないのは、それだけではなかった。人間の本能なんだろうか、女と見れば見境なく襲ってくる男ども
から如何に身を守るかが重要だった。もちろん、そうやって食料やわずかなお金を得てる人たちも多くいたけど、
そのまま、殺されることも少なくなかった。人間は弱い立場の者には、誰も残酷だ。朝が来るたびに、強姦されて殺された
女子供の死体で山ができるほどだった。
- 117 :名無し娘。 :2003/09/21(日) 04:12
-
ここでは、死んだ人たちは一箇所にまとめられて焼かれる。朝死体を集めて火をつける。その火はいつもお昼過ぎまで
燃えている。燃え残った肉片を野良犬たちが食べていた。もっとも、人間はその野良犬を捕らえて食べていたから、
おあいこなんだけどね。
明日あたしがあの山の中で、他の人と一緒に焼かれないという保障はまったくなかったし、誰が焼かれようと
ほとんどのものが、身内でさえ悲しむことさえなかった。
そんな中で、薬まで使って看病を続ける圭織は、ここの人たちには理解不能のことだと思う。
でも、それには理由があった。あたしが紺野と出会ったころ、紺野は軍から脱走した圭織を匿っていたんだ。
圭織は銃で撃たれた肩が膿んで、そこに蛆が湧いた状態で紺野に助けられたらしい。その状態で助けようとした紺野も
変なやつだけど、その恩を忘れずに看病を続ける圭織も奇特な存在だ。あたしにはとても真似できない。
あたしならとっくに紺野を見捨てただろうし…そっか、圭織も紺野の荷物を狙ってるんだ。
紺野は寝たきりになっている今でさえ、荷物を離そうとしなかった。強引に奪ってもいいんだけど、
圭織がそんなことは許さないだろうし、下手するとあたしのほうが圭織に捨てられてしまう。
西に亡命するには、少なくともひとり100万円は必要なんだそうだ。今現金は200万ちょっとだから、
すぐにでも2人だったら亡命することはできる。紺野が死んじゃえば、すぐに亡命することができるんだけど、
お金は全部圭織のものだった。圭織は今どちらか一人を選ぶとしたら、紺野を選ぶに決まってる。
だから、あたしは紺野が死ぬことを祈りつつ、ここで毎日ごみを漁っているんだ。
- 118 :名無し娘。:2003/09/22(月) 07:10
- 引越し後初の更新乙です
- 119 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:08
-
闇市では、いろんなものが売っている。お金さえあれば、なんだって買える。
うどんやそばやボルシチとかなんかが、おいしそうに湯気を立てている。
テレビや自転車、ラジオに洗濯機、子供用のおもちゃから金庫なんかもある。
お金があればなんだって買える。
でも、あたしらが売ってるものは、そんなに多くない。ビンとか金属は業者に持っていくか、
仲介人に売ってしまうし、電化製品とか直せるなら高く売れるんだけど、
あたしには修理なんかできないから、修理できる仲介人に安く買い取られてしまう。
今日だって、結局店先に並べた品は、脚が一本無い椅子と、持つところが取れちゃってる珈琲カップに野球帽。
店って言ったって、地べたに新聞紙を広げただけのもの。
そんな店でも運が悪いとそこいらのチンピラ風情にしょば代を取られてしまう。
- 120 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:09
-
あたしはあまり人の来ないこの場所で、小川と肩を並べて今日もまた日が暮れるまで座っているんだ。
闇市にも階級がある。電化製品や自転車を扱う店が広場の中で一番市街に近い特等席、
その次が食料や飲み物、お酒を扱うお店。いつも人だかりで、おいしそうな匂いが漂う一番活気のあるところ。
周りには野良犬やら、どこからとも無く集まった子供たちが物欲しげにうろついている。
誰かが食べ物を溢そうものなら、犬とその子らが凄まじい争いを始める。
中にはそれを面白がって、わざと食べ物を地面にばら撒く大人までもいる。
あたしらの場所は、そこからずっと奥。
奥に行くにつれてお店は質素になり、置いてある品数が減り、人も少なくなっていく。
あたしらの両隣も同じようなものだ。左側のお店は割れかけた金魚鉢1個だけだし、
右側のお店には片方しかない靴が1足と家具を解体した板切れの束だけ。
- 121 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:09
-
「おねえちゃん、その椅子いくら?」
「500円」
中年の親父が、脚の無い椅子を指差していた。
「500円?いくらなんでも高すぎるだろ」
「そう思うなら買わなきゃいいっしょ」
「脚が無い椅子なんて、薪にしかならないだろうが」
「なにいってんの。1本ぐらい脚が無くったって、十分椅子の役目を果たせるでしょ」
「冗談!薪だよ薪。精々50円ってところだろ?」
「なら帰って」
あたしはこれを椅子として売ってるんだ。薪として売るなら解体してるし、薪としてなら男が言うように
50〜60円がいいところだろう。でも、この男は明らかにこれを椅子として買おうとしていた。
薪がほしいなら隣で売っているんだし。
- 122 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:10
-
「なあ、あんた北海道出身だろ?」
男は突然あたしに顔を近づけると、小声でぼそりとつぶやいた。
「隠しちゃいるが、訛りが取れてねえ。北海道の連中がこんな所にいるのはおかしかねえか?」
「…300円」あたしは絞るような声で、値をさげた。気をつけてはいたんだけど、訛りが取れてなかった。
「200円だな」
「そんなんじゃ…売れない」あたしは顔を背けたまま、ささやかな反論を試みた。
「おい!こいつさ〜」
男は突然立ち上がり、大きな声を出した。あたしはあわてて男の手を引っ張った。
「200円でいいよ」「話しわかるじゃねえか、ねえちゃん」
男はポケットからボロボロになった100円札を2枚取り出した。あたしはその札を丹念に調べるてから、
椅子を男に手渡した。
- 123 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:10
-
「ねえ、タバコ持ってる?」「なんだよ」「1本でいいからくれない?」
「しょうがねえな、ほら1本だけだぞ」
男が差し出したタバコケースから、あたしは素早く2本抜き取った。
「あっテメエ2本とったろ」「あ〜うっさいうっさい!あたしら2人なんだから、けちけちしないでよ」
そういって男を追い払うと、「コソドロ」という捨て台詞をはきながら男は去っていった。
なにもタバコがすいたいわけじゃない。こうやって少しずつ集めたタバコも、まとめれば結構な値段で売れたりする。
そのためには、少々の捨て台詞なんか気にしてられない。
「安倍さん、椅子売れましたね〜」
小川が間の抜けた声で、間の抜けて台詞を吐いた。
「小川が横から助け舟出さないから、200円でしか売れなかったじゃない」
「いや〜でも〜」「あんた何のためにここにいるのよ。もう、小川の所為だからね」
そういって小川を睨むと「どぉも〜すんませ〜ん」と言いながら、頭をぺこぺこ下げた。
あたしは小川のこういう態度が嫌いだった。何でもかんでも誤りさえすれば、
許されると思ってるに違いなかった。
- 124 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:10
-
「ねえ、小川はなんで、ここにいるの?」
「いやぁ〜どもすんません」
「そうじゃなくって、なんで逃げ出さないの?あの山小屋に帰ろうとか思わないわけ?」
あたしたちは小川を無理やりこの街までつれてきたのに、小川は一度も不平を言うでもなく、
淡々とあたしらと生活をともにしていた。
ホントならこんなところで、あたしと一緒にゴミを漁ったり、わけのわからないものを売ってる必要なんて
全然無いのに、小川は毎日あたしの後をついてきた。
「戻っても、あまりいいことないし…」「でも、食料とか結構いっぱいあったじゃない」
「あれはオジキたちのだし、あたしはおこぼれしか貰えないから」
おこぼれだけでも、十分過ぎるほどの食事が得られるのなら、あたしならあそこに戻りたいと考えるだろう。
- 125 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:11
-
「小川ってさぁ、お父さんとかお母さんは?」
「お母さんは新潟にいるときに…」「ちょっと待って!小川って西の人なの?」
「はぁ…まあ…覚えてないんですけどね」「覚えていないって、ちょっと」
「あ、安倍さん、お客さんですよ」
小川のことは、あたしたちは何一つ知らなかった。
本当なら、紺野が小川から根掘り葉掘り聞き出すんだろうけど、紺野はずっと寝たままだから、今まで何も知らないでいた。
もちろん、あたしにも圭織にも聞き出す機会ならいくらでも会ったけど、圭織はあんなんだし、
あたしは…小川とあまり仲良くなるつもりは無かったし…
所詮彼女は、たまたま連れてくることになった荷物だからという考えがあったし、それに…
あたしは自分の性格がいやにある。
あれは事故だったんだ。不幸な偶然で、小川が悪いわけじゃないんだ。
そんなことはわかっている。わかってはいるんだけど、どうしても許せないんだ。
銃を向けたことを…
- 126 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:11
-
「安倍さん、やりましたよ。全部売れましたよ」小川の手には50円玉が握られていた。
「あ〜なんで50円なのよ」「でも、帽子穴開いてたし、カップも壊れてましたよ」
「そこを高く売りつけるのが、あなたの仕事でしょうが。あの2つで80円はいけると思ってたのに」
「すんません」
店での売り上げが250円、金属やビンが520円…
100万円なんて…
「あ〜あ」
「安倍さんどうしたんですか?」
「うるさいな」
ポケットにお金を突っ込むと立ち上がった。
「さっさと片付けなさいよ。おいてくよ」
「あっはい」
小川があわてて、新聞紙を掻き集め始めた。
- 127 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:12
-
「安倍さん、待ってくださいよ」
小川が新聞紙を抱えながら、追いかけてきた。
「ねえ、西ってどんなところ?」
「え〜、だから覚えてないんすよ、ホント」
「はぁ〜、ホント役に立たないんだから」
相変わらずこの街は煙の中にいた。空もなんだかいつも霧がかかっているようでスキっとしていない。
あの煙の向こうには、澄み切った青空が広がっているはずだ。
その空の下であたしは幸せを掴むんだ。
あたしは雑踏の中で、ポケットのお金を握り締めた。
- 128 :名無し娘。 :2003/09/28(日) 14:14
- 更新です。週一で更新できればいいのですが・・・
まあぼちぼちと
- 129 :名無し娘。:2003/09/29(月) 00:58
- 乙です。
楽しみにしとります。
- 130 :名無し娘。:2003/09/30(火) 06:51
- 更新乙です
おもしろいです
- 131 :名無し娘。 :2003/10/04(土) 18:08
-
肩をぶつけながら闇市をとぼとぼ家路へと歩いていると、広場に人だかりができているのが見えた。
広場の周りを囲んでいるコンクリートの塀で行くと、あたしは塀に膝を載せて見下ろした。
広場はその塀から2メートルぐらい下で、広さは…ちょうどバスケットコートぐらいの広さがある。
その広場に中央に一本の柱が立てられてて、その柱に一人の男の人が目隠しをされて縛り付けられていた。
「公開死刑ですね」
小川が驚くでも無く、いつもの調子で言う。あたしはその言い方とその内容に一瞬眉をひそめた。
小川の顔がどこか楽しげで、サーカスか何かで出し物を待っているように思えた。
でもそれは、小川に限ったことでなく、この広場を囲むほとんどの人が同じような顔で縛りつけられた男を見つめていた。
公開死刑が行われていることは知っている。札幌にいるときも2〜3回行われたけど、その現場を見るのは初めてだった。
- 132 :名無し娘。 :2003/10/04(土) 18:11
-
「行こ」
あたしは小川に声をかけたけど、小川は全く聞いていない様子で広場を見つめたままだった。
「小川、帰るよ」
「何でですか?公開死刑は必ず見ないといけないって、学校で教わらなかったっすか?」
「それは…そうだけど…」
確かに学校で、そう教わったけど、見たくないものは見たくない。
もうこれ以上、人が死ぬ場所になんかいたくなかった。それが例え見ず知らずの人でもいやなものはいやだ。
ただでさえ、日常的に人が死んでいくのに、わざわざ殺してまでそんなものを見せようとすることが理解できなかったし、
それを目を輝かせて見ている神経もわからなかった。
最近はあまりにも簡単に人が人を殺しすぎる。怪しいからと言って人を殺し、
口減らしだといっては自分の子供の首を絞め、一切れのパンのために誰でも殺人者へと変わっていく。
こういった公開死刑も年々増えている。
人は人の死に慣れ、死体に慣れ、そんなことに何も感じなくなった人々は死体を増やし、
最後には自分もが死体になっていくんだ
- 133 :名無し娘。 :2003/10/04(土) 18:13
-
広場では、男の罪状を役人が読み上げている。
その横では、短銃を持った男が退屈そうに立っている。いまから人の命を奪おうとする者の顔ではなく、
今晩の秘め事でも想像しているんじゃないのかと思うような、にやけた顔だ。
縛られた男は気絶しているのか、首をうな垂れたまま身動きひとつしていなかった。
読み上げられている罪状は真実なんだろうか?あの男は本当に殺されるようなことをしたんだろうか?
警察や公安が信じるに値しなくなってからもう随分経つ。彼らのご機嫌を損ねることがあれば、
いつだって誰だってあの広場の真ん中で縛り付けられてしまうんだ。
気をつけなくてはいけないのは、なにも彼らだけじゃない。
例えばあたしが適当に理由をつけて小川を警察に告発すれば、簡単に小川はあたしの目の前から消えるんだ。
でも、そんなの人間のやることじゃない。
人として… 人は…
「アイヌ ネノ アン アイヌ」
「えっ?なんですか安倍さん」
長たらしい前置きが終わり、執行人が死刑囚の前に移動した。
「行こ、小川」
あたしは小川の答えを待たずに、人垣の中へと潜り込んでいった。
- 134 :名無し娘。 :2003/10/04(土) 18:16
-
――― ぱん
後ろで銃声が響くと、一瞬の静寂の後に拍手と万歳の声があがった。
この国は、いつからこんないやな国になってしまったんだろう。
あたしは、この国が嫌いだ。好きになんか、もうなれっこなかった。
- 135 :名無し娘。 :2003/10/04(土) 22:28
- >>133
すみません、ちょっと間違えてました。
公安じゃなくって憲兵ってことで・・・どっちでもいいか・・・
>>129 130 さん ありがとうございます。励みになります。
- 136 :名無し娘。 :2003/10/08(水) 20:56
-
その日の帰り、暗い気持ちで隠れ家にたどり着くと、1階のお店の女主人石黒彩がちょうど、
ゴミ箱を抱えて出てくるところだった。
1階のお店は国民食堂になっていて、夜には合法の飲み屋をやっていた。最近は非合法の飲み屋が多い中
合法で飲み屋をやっていられるのは、ある意味特権階級…というより特殊な立場?なのかもしれない。
それは彼女の容姿にも現れている。鼻ピアス…この時代にそんなおしゃれをしている人なんていなかった。
「あっお帰り。今日はどうだった?」
「うん、なんかなぁ〜って感じ」
「そう…まあそんな日もあるよ。それより紺ちゃんのおかゆ作ったから、後で取りに来て」
そういうと彼女はゴミ箱を抱え直して、裏庭のほうに歩き始めた。
「ありがとうございます」
「いいって、奴さんには借りがあるしね」
顔だけこちらに向け、顎で2階を指した。圭織のことだ。石黒さんと圭織は昔軍で同じ隊にいたことがあるらしい。
「ほら、小川もボーとしてないで、ちゃんとお礼を言いなさいよ」
「ありがとうございます」
小川が頭をちょこんと下げると、石黒さんはゴミ箱を置き、こちらに向き直した。
- 137 :名無し娘。 :2003/10/08(水) 20:57
-
「ねえ、あんた本当に安倍なつみなの?」
「そうですけど?」
何を今更っとキョトンとしながら、あたしがそう言うと、彼女はズカズカとあたしの前まで戻ってきて、
あたしの両頬を指で摘み横に引っ張った。
「イタイ イタイ イタイイタイ!なぁ〜にすんですか!」
「あっごめん」
「なっち、なにも悪いことしてないのに!」
「―――あ〜本当に"なっち"って言うんだ、自分のこと」
気をつけてはいるんだけど、未だにこの癖が直らない。"なっち"といっていたのは、両親が死ぬまで。
親が死に、あたしの幸福な人生が幕を閉じたときに、この言い方を封印するつもりだった。
でも、癖というものはなかなか直らないもんで、興奮すると自分でも気づかない間に"なっち"と言っていた。
- 138 :名無し娘。 :2003/10/08(水) 20:57
-
「大きなお世話です。それより、なんでほっぺた引っ張るんですか?痛いじゃないですか!」
「ごめんごめん。なんかあんたいっつも不機嫌そうな顔してるんでさ」
「大きなお世話ですよ。なんで不機嫌じゃいけないんですか?」
「いやね、あたしが圭織から聞いていた"なっち"ていう子は、いつもニコニコ笑っていて、まるで天使みたいだって
聞いていたから…。あなた、なんかずっとそうやって怒ってて、笑った顔見せてくれないから、
笑った顔を天使の笑顔ってやつを一度見てみたいと思の」
「笑えるわけ無いじゃないわよ。こんな世の中で楽しいことなんか一つも無くって、毎日毎日必死に生きてるのに
笑ってられないわよ」
「そおなのかな…こんな時代だから、あなたには笑っていてほしいのにな」
「どうしてあたしだけ、そんなへらへら笑っていなきゃいけないんですか?」
「だって、あなた天使なんでしょ?」
「あたしは天使なんかじゃない」
笑っていられるなら、誰だって笑っていたいに決まってる。でも、この国じゃ誰も笑ってなんかいられない。
だから、あたしは西へ行くんだ。西がどんなところか、あたしは知らない。でも、ここより酷いところはない。
誰も笑っていない、誰も幸せになんかなれないこの国から、一刻も早く抜け出したかった。
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