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じゅきに あんkn@狩板

1 :今イ`:2002/09/03 13:58:23
笑え。

本家スレ「じゅきに あんkn」
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/denpa/1030964092/l50

2 :名無し娘。:2002/09/03 14:52:13
AAトナメのテンプレ用スレで宜しいですか?

3 :名無し娘。:2002/09/03 15:30:50
見事なまでに悲惨な>>1だ。。。


4 :名無し娘。:2002/09/03 17:00:58
>>1
これでどう笑えと?

5 :名無し娘。:2002/09/03 20:09:08
>>1のお母さん、主治医の先生、御家来、出番ですよ〜!

6 :名無し娘。:2002/09/04 23:36:55
なんでこんなに落ちてんだ?
なんか操作できんですかね?

7 :名無し娘。:2002/09/04 23:40:51
>>6
糞スレは無条件で最下層に行く様です。

8 :名無し娘。:2002/09/04 23:43:53
>>7
とも思いましたが、自力でわかりました。
それにしてもこんな最下層のカキコミを5分足らずで発見するアナタただものではないすね。

9 :名無し娘。:2002/09/05 00:23:33
>>8
狩ヒキーを甘く見てはいけません。(w

10 :名無し娘。:2002/09/10 11:54:59
すいません、このスレを使わせていただきます。
「たとえば君が小川編」をスタートさせたいと思います。

11 :名無し娘。:2002/09/10 12:05:03
 「たとえば君が小川編」

( -_-)<ただいま。

( 母 )<あの、お客さんがお見えになってます。

( -_-)<誰?

∬`▽´∬<こんばんわ。

( -_-)<小川麻琴さん・・・

12 :BLACK-RX:2002/09/11 14:38:55
( -_-)<一体どうしたというのか?

∬`▽´∬<ちょっといろいろあって・・・

( -_-)<よし、俺がしばらくかくまってやるぞ。

∬`▽´∬b<どうも。

13 :名無し娘。:2002/09/12 01:06:34
琴美キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!

14 :名無しまこちん:2002/09/13 19:35:44
( -_-)<家の中にいてもアレだからどこか遊びにでもいくか?

∬`▽´∬<えぇぇ!超うれすぃー

( -_-)<富士山でもいくか?

∬;`▽´∬< ふ、富士山は・・・

( -_-)<何か後ろめたいことでもあるのか?

∬;`▽´∬<い、いや・・・でも、明日仕事あるし・・・

( -_-)<帰るのに5時間もあれば充分だろ

∬T▽T∬<もう忘れて〜

15 :名無し娘。:2002/09/13 21:23:04
>>14
(・∀・)イイ!!

16 :名無し娘。:2002/09/13 22:54:05
あがらんの?

17 :_:2002/09/14 00:06:44


18 :名無しまこちん:2002/09/14 17:26:09
( -_-)<おまえがぐだぐだ言ってるから夜になってしまったではないか

∬;`▽´∬<わたしのせい・・・?

( -_-)<それじゃ、遊びにいくのはやめて風呂にでもいくか?

∬`▽´∬<うん!でも、家のお風呂こわれてるの?

( -_-)<べつに壊れちゃいないんだけどな

∬`▽´∬<じゃあ、なんでわざわざ?

( -_-)<理由を言う必要あるのか?

∬;`▽´∬<わ、私に何かするつもりね・・・

( -_-)<何もせんて・・・フフッ…

∬T▽T∬<い、いや〜

( -_-)<「いや〜」って何かして欲しいのか?

∬T▽T∬<そ、そうぢゃなくて〜

19 :名無しまこちん:2002/09/15 17:53:02
   風呂帰り…

( -_-)<ほらな、何もしなかっただろ?

∬`▽´∬<まこ、大っきいお風呂大好き!

( -_-)<何か飲むか?

∬´▽`∬<うん!オレンジジュースがいいな

( -_-)<じゃ、ちょっと向こう向いてて

∬;`▽´∬<ど、どうして・・・

( -_-)<だから、理由を言う必要あるのか?

∬;`▽´∬<(な、何かジュースに入れるつもりね・・・)

( -_-)<何も入れんて・・・

∬T▽T∬<(心が読めるの〜?)

20 :名無しまこちん:2002/09/15 17:59:20
   販売機の前で…

( -_-)<ほら、向こう向いて!

∬`▽´∬<わかりました・・・

ドカッ!ボカッ!ドスッ!・・・ガタガタコロン

( -_-)<ほらオレンジジュース飲め

∬;`▽´∬<こ、これ買ったの?

( -_-)<細かいこと言うな

∬T▽T∬<一緒にいるの恐いよ〜

21 :名無し娘。:2002/09/16 23:41:39


22 :名無しまこちん:2002/09/18 18:56:48
   そして、帰宅・・・

( 母 )<お帰りなさい。お風呂楽しかった?

∬`▽´∬<はい!とても気持ちよかったです

( -_-)<風呂が楽しいわけなかろう

( 母 )<ご飯できてるわよ

∬´▽`∬<うわぁ〜、ありがとうございますっ!

( -_-)<毎日食ってないのか?

∬;`▽´∬<いや・・・そういう意味じゃなくって・・・

( -_-)<なんだ?何かたくらんでいるのか?

∬T▽T∬<もう、この人いや〜


23 :名無しまこちん:2002/09/19 19:18:16

   食事中・・・

( 父 )<ただいま〜

( 母 )<あなた、おかえりなさい

∬`▽´∬<あ、こんばんは。お邪魔してます!

( -_-)<別に邪魔じゃないって

( 父 )<ん?このベッピンさんはどちらさんなのかな?

∬´▽`∬<えー、そんなぁ・・・初めまして、小川麻琴ですっ!

( -_-)<おやじもうまいこというよな

( 父 )<やっぱり可愛い女の子がいると食事がうまいよなあ

( -_-)<なんだ?いつもはまずいのか?失礼なやつだな

∬;`▽´∬<お、お父さんに向かってなんてことを・・・

( 父 )<こんな息子ですけど、よろしくお願いします

∬T▽T∬<自信がなぐなでぎまじだ。。。

24 :名無しまこちん:2002/09/20 20:35:25
   楽しい?時は過ぎて・・・

∬`▽´∬<お邪魔しました

( -_-)<泊まっていかないのか?

∬;`▽´∬<・・・んー、でも明日早いしさぁ・・・

( -_-)<何もしないのに

    ボカッ
( 母 )≡○-_-)・・・

∬;`▽´∬<じゃあ、今度はお友達連れてくるね(もう一人じゃ来れないわ・・・)

( 母)<そう?いつでもどうぞ。まこちゃんのお友達なら誰でも大歓迎やよー

( 父 )<あぁ、今度はお友達も連れてくるといいべさ

(#-_-)<いつでも好きなときに来ていいんだぞニィ

∬;`▽´∬<・・・・・・わ、わかりました・・・順番に連れてきます・・・

25 :名無しまこちん:2002/09/20 20:44:19
   家路につく麻琴

∬`▽´∬<おもしろい家族だったな・・・けっこう楽しかった♪

タッタッタッタッ…

( -_-)<おーい!

∬`▽´∬<・・・・・・えっ、何?

( -_-)<送っていくよ

∬`▽´∬<えっ、別に・・・平気だよ・・・

( -_-)<遠慮するなって

∬`▽´∬<ホントに大丈夫だよ・・・

( -_-)<でも、もう暗いし心配だから

∬´▽`∬<・・・うん、じゃあ駅までお願いね・・・

( -_-)<んじゃ、行こうか

26 :名無しまこちん:2002/09/20 20:44:39
   そして、駅に着いて

∬´▽`∬<今日はありがと、とっても楽しかったよ

( -_-)<あぁ、自分の家だと思っていつでも来いよな

∬´▽`∬<うん

( -_-)<気をつけて帰れよ

∬´▽`∬<うん

( -_-)<・・・着いたら電話しろよ

∬´▽`∬<うん。。。

( -_-)<・・・・・・仕事あまり無理すんなよ

∬´▽`∬<・・・はい

  そっと手を握る麻琴

(#-_-)<・・・・・・よ、よせよ

∬´▽`∬<へへっ・・・じゃ、また明日ね

27 :名無し娘。:2002/09/20 23:11:53
ニヤニヤ

28 :名無しまこちん:2002/09/21 18:12:45
   家に戻り1時間が経過・・・

( -_-)<・・・・・・あいつ、遅いな・・・

   さらに10分経過・・・

(;-_-)<何かあったのではなかろうか・・・

  プルルルルルルル…プルルルルルル…

( -_-)<もしもし、麻琴か?

∬`▽´∬<はい、麻琴です。今着きました

( -_-)<遅かったな。何かあったんじゃないかと心配してたところだ

∬´▽`∬<電車がちょっと遅れちゃって・・・心配してくれてありがとう

( -_-)<生存が確認できてよかった

∬;´▽`∬<ハハハハ・・・

29 :名無しまこちん:2002/09/21 18:12:47
( -_-)<柏崎は何かと危険なところらしいからな

∬´▽`∬<ええっ?もおぅ・・・

( -_-)<っていうのは冗談にきまってるだろ

∬´▽`∬<今日はどうもね、今度はうちにも遊びに来て

(;-_-)<・・・やはりそれはまだ早いんじゃないのか?

∬;´▽`∬<あ、遊びに来てって言っただけだよ・・・

( -_-)<・・・

∬´▽`∬<じゃ、もう遅いから・・・またね

( -_-)<おう

∬´▽`∬<ばいばい

  ガチャ・・・

( -_-)<ふっ、麻琴のやつ・・・

∬´▽`∬<変な人・・・くすっ


                              誰かがつづく

30 :名無し娘。:2002/09/26 22:59:39
‖.∀´)<よぉし!邪魔者は消えた・・・
 ↑>>29をこっそり見ていた保田。

31 :名無し娘。:2002/10/05 11:29:33
( -_-)<えーと、真琴?

∬∬´へ`)<・・・

( -_-)<じゃ、琴美?

∬∬;´へ`;)<・・・・・グス

( -_-)<あ、あさみ?

∬∬T▽T)<ヒーン

( -_-)<あぁ麻琴だ

∬∬´▽`)ъ

32 :名無し娘。:2002/10/19 00:09:15
マコ、復活キボンヌ

33 :名無し娘。:2002/10/19 02:26:24
マコ、復活シボンヌ

34 :名無し娘。:2002/11/05 02:15:01


35 :名無し娘。:2002/11/30 13:51:57
( -_-)<ヒバ・・・

    ゴン
∬`ヘ´∬≡○-_-)

(∬´▽`∬

36 :名無し娘。:2002/12/30 09:49:18
使わせて頂いて宜しいですか?
都合が悪ければ退散致します。

37 :名無し娘。:2003/01/08 17:14:51
>>36
一週間経って返事ないからいいんじゃない?

38 :名無し娘。:2003/04/13 18:05:03
さらに3ヶ月たったしな。
下層で死にスレ探してる香具師に紹介するか

39 :名無し娘。:2003/04/13 19:15:13
>>38
そんな奴居るか?
今は死にスレ探す前にスレ立てる奴ばっかりだぞ。

40 :名無し娘。:2003/04/19 22:07:14
じゃあ使わせていただきます

41 :名無し娘。 :2003/04/19 23:22:50


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




42 :名無し娘。:2003/04/19 23:23:11


山のあなたの空遠く、
 「幸」住むと人のいふ。

 ああ、われひとと尋めゆきて、
  涙さしぐみ、かへりきぬ。

 山のあなたになほ遠く、
  「幸」住むと人のいふ。


―カール=ブッセ/上田敏訳 「山のあなた」より―




43 :名無し娘。:2003/04/19 23:23:59



〜  ばいぽーら  〜




44 :名無し娘。:2003/04/19 23:25:18


1945年8月15日 正午
――― 玉砕放送


その放送を聞いた子供たちは歳を重ね、ある者は富と名声を手に入れ、
またある者は、ちいさな幸せを手に入れようともがきながらも懸命に生きた。
でも、その多くの者が己の寿命を全うすることなく、この世を去っていったという。



45 :名無し娘。:2003/04/19 23:26:37

放送を聞いたとき、日本中に落胆と悲しみが広がったのは間違いなかった。
しかし、そのとき既に多くの者が、次の時代を見つめて動き始めていた。
それが、この国民の強さであり、それを成し遂げるだけのパワーが人々から溢れ出していた。


そう、あの日が来るまでは…



46 :名無し娘。:2003/04/19 23:27:41


第一章 〜 西へ 〜




47 :名無し娘。:2003/04/19 23:28:25

雪深い山道を歩くのは慣れているはずなんだけど、ふるさとを離れて1ヶ月もが過ぎると
流石に疲れは溜まっていて、踏み出す足が鉛の様に重い。

人里を避けるように辿った山道は、もう既に丸一日が過ぎてる。なのに目の前に見えるのは雪深い山道だけ。
3重になっている軍用の皮靴も長い雪道には耐えられず、凍てつくような寒さがあたしの足を何処までもいじめる。
血液が送られなくなった足先は、すでに千切れ落ちてしまった気すらするのに…。



48 :名無し娘。:2003/04/19 23:30:26


「圭織、ちょっと待ってよ。紺野遅れてるんだから」

10メートル程先を、黙々とラッセルを続けている長身の少女が飯田圭織。
迷彩色の防寒帽から溢れ出た長い黒髪を風邪に靡かせるその姿は、雪女をも負かしてしまうほど綺麗。
でも、彼女のその見た目の綺麗で華奢な体型からは想像できないぐらい、圭織はすごい力を持っていた。
あたしたちは、その鍛えられた体に何度も救われてきたんだ。

「紺野、しっかり!」
「・・・はい」




49 :名無し娘。:2003/04/19 23:32:05

圭織は振り返り、檄を飛ばした。あたしの遥か後で、消えそうなほど小さな声の紺野あさ美が返事をした。
木々の間から見え隠れしている小さな体は、白い息を大量に吐きながら懸命あたし達について来ていた。
その小さな体からはみ出すほどの荷物を背負って。
圭織の言葉を借りるなら「彼女のこれまでの人生を詰め込んだもの」だそうだ。

でも、そう考えるとあまりにも小さな荷物。あんな小さな袋に全部入っちゃうぐらいの人生なんて…。
あたしの夢は、大きな家に住むこと。やさしい旦那様と可愛い子供たちに囲まれながら、陽だまりの中で
のんびりと暮らすこと。―――だから、あんなちいさなバックの中にあたしの人生なんか詰めきれない。
それに、あたしの人生は、まだなんにも始まっていないんだし。



50 :名無し娘。:2003/04/19 23:33:13

中に何が入っているのかは知らないけど、紺野はそれを片時もはなすことは無かった。
でも、その重さが彼女の体力を数倍も早く奪っているのは事実。
そんなんで体力奪っちゃって、もし死んじゃったら意味無いのに。
こんなに苦労して此処まで来たのに…。
紺野は何度も立ち止まりながら、黙々と歩き続けている。



51 :名無し娘。:2003/04/19 23:33:55


「休憩しようか」


圭織があたしの場所まで戻ってきて、荷物を降ろした。
白い息があたしの横で、激しく動いている。圭織も凄く疲れてるみたい。
だって、あたしらの分まで荷物を持ってるんだもん。40キロを超えているんだよ。
そんなもんを背負ったまま圭織は、此処まで歩いてきたんだ。圭織には感謝しなくっちゃ。

「今日中に、この山を越さないとやばいわよ」
「うん、わかってるよ〜。したっけさぁ…」

あたしは振り返り紺野を見た。
さっきよりはずいぶんと近づいていたけど、それでもまだ50メートル以上は離れていた。



52 :名無し娘。:2003/04/19 23:34:27

雪の表面を白い帯のような筋を従えて、風が山を駆け下りている。
その風で作られた風紋に、あたしたちが作った道が一本何処までも続いていた。
その頼りない道を、紺野が這うように進んできている。
今はまだ風は穏やかだけど、この天気がいつまでも続くとは限らない。
現にあたしたちの向かう先には、雲を携えた山が連なってる。
その雲が、いつあたしたちを取り込んでもおかしくはない。

急がなくちゃ…
気だけがあせる。



53 :名無し娘。:2003/04/19 23:34:56

紺野が漸く追いついた。あたしの横で雪の中に仰向けに寝転び、全身で息をしている。

「圭織とうちらじゃぁ体力が違うんよ。――このままじゃ紺野が…」
「わかってるよ。でも…」

圭織は、横になっている紺野の顔を見つめていた。紺野はまだ顔を上げる元気すらなく、雪の中に埋もれたままだった。
本当はあたしも、もう今日は歩きたくないんだ。でも、同じ年の圭織に弱音なんか吐きたくなかった。

「今日は此処で野営しようか。
 まだ先は長いし…」

圭織の言葉が終わらないうちに、あたしは荷物を放り投げると、雪の中につっぷした。
よかった。今日はもう歩かなくてすむんだ。
 


54 :名無し娘。:2003/04/24 22:31:10
  



55 :名無し娘。:2003/04/24 22:31:24


「お腹すいたね」

圭織がすまなそうに呟いた。固形燃料はとっくに底をつき、燃やすべき小枝も
けむい煙を大量に吐くだけで、一向に燃えようとしない。
あたし達は、お湯すら沸かせない状態で、凍ったように固いパンを無言で齧っていた。




56 :名無し娘。:2003/04/24 22:31:58

多分、今一番食料を必要としているのは圭織のはず。
圭織は至極当たり前のように、あたし達の何倍も動いている。
それは、あたしらが未熟だからなんだ。
弱くて、自分のことすら満足に出来ないあたしらの所為なんだ。
そのことに一言も文句を言わずに、あたし達を引っ張ってきた圭織に
あたしも紺野も、すまないという気持ちで一杯だった。

「圭織、なっちの分たべる?」
「何いってんの。それはなっちが食べなくてはいけないんだよ」

この凍りついたように固いパンが、最後の食料だった。
この山を越せば、食料が手に入るはず…。
少なくとも雪はなくなり、道端に草ぐらい生えているはず…。
でも、もしこの先も今までと変わらないのなら…。

あたしは頭を小さく振り、この先起こりうるかもしれない最悪の考えを振り払った。




57 :名無し娘。:2003/04/24 22:32:38

今年の凶作は史上最悪だった。エルニーニョだかなんだかの所為で天候は安定せず、寒い夏をすごした結果、
あたしの人生の中で最悪の大飢饉が発生し、みんな次々と倒れていった。
向かいのおじさんが倒れ、隣のおばあちゃんが亡くなり、薫や絵里、純生、耕平までが死んだころには、
村にまともに動ける人がほとんどいなくなった。



58 :名無し娘。:2003/04/24 22:33:21

それでも、政府の発表は例年並の出来で、一部で飢饉に陥っているものの、それは一時的なものだといってた。
そして、テレビは親皇様が飢えに苦しむ村人に、食料を配る映像を毎日のように流してた。
誰もが、いつかは自分たちの村にも、その食料は届くものだと信じていた。

あたしも村を出るまでは、その発表を信じていた。うわさでは、優秀な村人が多い村から食料が配られていて、
配給が遅れているのは、村が優秀ではないということ。
だから、あたしは優秀な村を求めて、村を飛び出したんだ。


…でも、そんなものが真っ赤な嘘だと気づくのに、それほど時間はかからなかった。



59 :名無し娘。:2003/04/24 22:33:52

自分の村を出て、隣の村に行っても、その隣の村に行っても、状況は変わらなかった。
それどころか、あたしの村の方が海に接している分、いくらかマシ。

飢えた人たちは山や道に生えてる草を食べ、木の皮を剥ぎ、それでも飢えて死んでしまった自らの子まで
食べる親までいるといううわさだった。
当然、食料をめぐる争い、強盗、殺人は日常茶飯事で、そのあまりにもの数に、事実上、
警察はその機能を果たさなくなっていた。
ううん、その警察すら信用できなかった。
誰も信じられなかった。
誰も、誰も信じれない中で、あたしは圭織と出逢ったんだ。




60 :名無し娘。:2003/04/24 22:34:32


「安倍さん・・・」
「なに?」
「本当に西は、良い所なんですか?」

あたし達はテントの中で、紺野を中心に抱き合うように暖をとっていた。
外では唸るような声をあげながら風が走ってた。
テントがバタバタとハタめいて、あたしたちを脅かし続けている。



61 :名無し娘。:2003/04/24 22:35:35

「うん…、どうなんだろう?なっちも良く知らないんだよね。
 でも、うちらが教科書で習ったのとは、だいぶ違うと思うんだ…」

教科書で習ったこと…。それは、西の人たちは物欲に支配され、人間性を失い、自分のことしか考えられない人たち…。
人のためとか、国のために働くことを忘れ、堕落的な生活をしている人たちだった。テレビから流される西の映像は、
薬や性に溺れる若い人達で溢れかえっていた。その姿に、あたしたち東の人々は、同じ民族として屈辱と憎悪感を感じた。



62 :名無し娘。:2003/04/24 22:36:27

それでも、西への憧れはみんなが持っていた。もちろん、それを口にすることは決してなかった。
そんな事をすれば、その家…、ううん、六人組の皆に迷惑が掛かるから…。

六人組。

昔、向こう三軒両隣と言う言葉があった。隣組と呼ばれていたそれは、
ご近所で助け合って生きていこうという意味合いがあったんだって。
でも、今は…お互いを拘束し監視するためのものになっていた。

何かあれば、六人組の連帯責任。
犯罪者が出れば、六人組全員が強制労働の名のもと、どこかへ連れて行かれてしまう。

だから、お互いがお互いを監視し、何か問題が起きそうになれば、
公安に見つかる前に闇へと葬るという恐ろしいものへと変わっちゃっていたんだ。
現に、あたしの隣の家の人が、ある日忽然と消えてしまったことがあった。
あたしは、その頃まだ生きていた父親に、その理由をしつこく聞いたんだけど、一言うるさいと言われ
殴られただけだった。

あたしは、その時子供ながらに、あぁ聞いちゃいけないことってあるんだということを知り、
この国への不信感をまたひとつ、積み上げていったんだ。



63 :名無し娘。:2003/04/24 22:36:55


「教科書で、習ったとおりだよ」


寝ていたと思った圭織が、突然起き上がって言い放った。



64 :名無し娘。:2003/04/24 22:37:20

「圭織、西に行ったことあるの?」
「ないよ。でも、軍にいるといろいろと情報は入ってくるんだ」
「どんな感じなんですか?」


「自分勝手で、強欲で、無秩序な世界だよ。民族の誇りの欠片も持ち合わせていない、
最低な連中が巣食う最低な国さ」

圭織は眉間にしわを寄せ、嫌悪感をあらわにしていた。

「でも、圭織も西に行きたいんだよね」
「この国よりマシだから…。
 この国は、人が住む国じゃないよ。ううん、もう国にすらなってないよ」



65 :名無し娘。:2003/04/24 22:37:58

また、風がテントの上を走り抜けていった。
北海道だったら、その風で木々に積もった雪が舞い上がり、テントに雪が叩き付けられているんだろうけど、
この辺りの雪は水分が多くて重いから、風はただ積もった雪の上をなぞるだけだった。

もう、此処は北海道じゃないんだ。

当たり前だけど、改めて故郷を離れたことを実感していた。
北海道を離れるのは初めてだった。圭織は陸軍にいたから北海道を離れたことが有るんだろうけど、
そうでない一般の人は、自分の村の近辺しか行けなかった。



66 :名無し娘。:2003/04/24 22:38:31

旅行は許可制だった。
許可書を持たない者の旅行は違法だった。
だから、許可書を持たないあたしたちは山道を選びながら、人里を避けながら南下し続けているんだ。
この先には、仙台がある。そこに行けば食べ物だっていっぱいあるはずだし、暖かい部屋で寝ることも出来る。



67 :名無し娘。:2003/04/24 22:39:00


「あたしはどうしても西に行きたいです」

そう言う紺野の足先は凍傷が酷く、歩くことさえ困難になっている。
「紺野はどうして向こうに行きたいの?」
これまで何回も聞いた質問だった。
「どうしても行かないといけないんです」
いつもと同じ答えが返ってくる。
紺野はそれ以上の答えを言おうとしなかった。
ただ「どうしても」とだけしか…。



68 :名無し娘。:2003/04/24 22:39:58

あたしと紺野が出会ってからまだそんなに経っていないのに、紺野の衰退がはっきり分かる。
このままじゃ紺野…仙台までも無理かもしれない。
痩せこけた頬に張り付いた皮膚は妙にテカテカしている。
もともと紺野は目が大きいから…そこだけ妙に強調されちゃって、ちょっとだけ恐い。
人の事いえないんだろうな。もうずっとお風呂にはいっていないし、髪なんかぐちゃぐちゃだし、
肌だってぼろぼろ…。手なんかおばあちゃんみたいになっているし。

もう、長いこと鏡を見てないな。
恐くて見れないよ。鏡なんて…

風が唸り声を上げている。
山の彼方から、あたしたちを嘲笑っているんだ。
何処にも着きゃしないと笑っているんだ。

今のあたしたちは、ただ目を瞑って震えていることしかできなかった。



69 :名無し娘。:2003/05/02 02:29:47
面白くなりそう
更新楽しみにまってます

70 :名無し娘。:2003/05/11 11:05:54
終了?

71 :名無し娘。:2003/06/06 09:43:02
続かないの?

72 :名無し娘。:2003/06/28 22:36:26
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Keyboard/2348/fumei/uwan.swf

73 :名無し娘。:2003/07/17 21:32:23
保全

74 :名無し娘。 :2003/07/26 23:38:15

あたしの目の前に不意に手が現れた。圭織の手だ。
圭織が何も言わず、手をズイッと伸ばしてきたんだ。
あたしはその差し伸べられた手と、圭織の顔を交互に見つめた。

圭織は表情が豊かな方じゃない。
子供のころは、今とは逆にあたしより喜怒哀楽を素直に出す方だった。
でも軍隊に入り、あたしと再会した圭織は、いつも静かに笑っているだけだった。
その笑顔は、むかし学校で美術の時間に見た絵のように寂しそうだった。
なにかすっごく大事なものを失くしてしまって、それでも全てを受け入れざるを得ない自分を嘲るかのような寂しい微笑み。



75 :名無し娘。 :2003/07/26 23:38:55

あたしが躊躇して、そうやって圭織を見つめていると、また無言で手を伸ばしてきた。

「あ ありがとう」

そう言って圭織の腕につかまり上に登ると、視野が急に広がった。
尾根を越えたんだ。
後は下りだけだと思うと、力が抜けそうになる。
でも、山のすそ野はどこまでも続いている。坂が緩やかになった先もずっとずっと白い雪景色だけ…

「圭織、街は?」
「あっち」
「あっちて?なにもないべさ」
圭織が指差す先に街の姿なんか見えなかった。



76 :名無し娘。 :2003/07/26 23:39:24

「まだ見えないけど、もうすぐだから」
「もう直ぐって?」
「もう直ぐ…」
「もう直ぐじゃわかんないべさ。圭織はいつも…」「紺野行くよ!」
あたしが話してる途中なのに、圭織は大声で紺野に声を掛けると、さっさと崖を降りはじめた。

「もう!」

遥か下の方で紺野が雪の上を這っている。紺野の背負う緑色の大きなバックが紺野が一歩昇るたびに
ゆっさゆっさと揺れている。時々あたしを見上げる仕草までがじれったくなるぐらいゆっくりで、
青虫かなんかを思い出させる。
でも、しかないんだよね。ただでさえつかれきってるのに…
最後のパンを齧ってからもう2日も経っている。もうお腹が減りすぎて、空腹であることすら感じなくなってるし…。
この二日で口にしたのは、木の皮と雪だけ。
サルじゃないんだけどさ、そんなものでも口の中に入れて誤魔化していないと絶対死んじゃう気がしていた。
だから、あたしも圭織もやわらかそうな木の皮を見つけるたびに、木の皮を剥いでいた。



77 :名無し娘。:2003/07/27 02:54:05
戻ってキター!!  。・゜・(ノ∀`)・゜・。 アリガトウアリガトウ

78 :名無し娘。 :2003/08/11 21:28:06
>>77
やばい・・・読んでいる人がいたとは・・・えっと・・・お待ちください・・・

79 :名無し娘。 :2003/08/11 21:28:54
>>77
読んでいただいてありがとうございます。なんとかしま・・・す・・・

80 :名無し娘。:2003/08/13 00:32:27
いつまでもいつまでもマッテルヨー ヽ(´ー`)ノ

81 :名無し娘。:2003/08/13 00:52:20
今のところまだ良くわかんないけど
なんか自分のツボだなぁ  おもろいんで頑張ってね>作者さん

82 :名無し娘。 :2003/08/17 01:20:26

紺野は…

紺野は、あれから2度倒れた。
その度にあたしたちは歩みを止め、紺野の回復を待つしかなかった。
食料も何もないのに、回復するかどうかだってさ、わからないのに、
待つしかなかった。

こんな状況下じゃあ、経験の多い圭織の命令に逆らうことなんかできないし。
悔しいけど、あたしどうこうできるような状況じゃなかった。




83 :名無し娘。 :2003/08/17 01:20:59


紺野のザックに入ってるものは、お金。
見たわけじゃないんだけど、あの重さは絶対お金。
だから、紺野は何度倒れようが、あたしたちに荷物を触らせようとしないんだ。




84 :名無し娘。 :2003/08/17 01:30:11


早く死んじゃえ


・・・最近、その思いがどんどん膨らんでいく。
紺野さえいなければ、今頃仙台にたどり着いているはずだ。
それに、あの荷物の中身がお金なら、食料でも何でも好きなものが買える。
紺野さえ死んでしまえば…

そんなことを考える自分が嫌いだった。でも、その気持ちは、疲れが増すとともに膨らんでいって、
紺野を見るたびに、心のどっかで「死ね 死ね」と呟いている自分がいた。
それは紺野に対するあたしの態度にも、たぶん出てるんだと思う。
最近、紺野はあたしの目を見ようとしなくなっていた。



85 :名無し娘。 :2003/08/17 01:30:46

あんた、自分は気づいていないんだろうけど、ずいぶん残酷だね。

中学のときの友達の言葉。
そして、あたしの前に立つ圭織の瞳が放つ言葉。
圭織があたしを見ている。
傍らの岩に左手をつき、あたしを見上げている。

なによ!思っただけじゃん。
ちょっとだけ、紺野のことをさ…

あたしもめいっぱい力を込めて圭織を睨むけど、そんなことお構いなしに、圭織はまた黙々と降り始めた。
尾根の反対側を見ると、紺野がすぐ近くまで上ってきていた。

「紺野、行くよ」
「・・・」

返ってくる筈も無い返事を待たずに、あたしも尾根を下り始めた。




86 :名無し娘。:2003/08/19 00:05:00
マタキテタ━━\(T▽T)/━━ !!!!!
楽しみに待ってます

87 :名無し娘。 :2003/08/31 23:37:52

はじめに林の中に一軒の小屋を見つけたのは、あたしだった。
壁には修復された月日に応じて煤けた板が、其処彼処に宛がわれていて、
いかにもむかしっから使っている小屋に見えた。
トタンで作ってある煙突から煙が出ているところを見ると、
誰かが使っていることは間違いなかった。

「圭織どうする?」
「多分、マタギの小屋だと思うけど…用心したほうがいいと思うのよ」
そういうと、圭織は歩き出そうとしていた。
「待ってよ!あそこには絶対食料あるんだよ。何とか分けてもらうとかしないと」
「だめ、危険すぎる。マタギってことは、銃を持っているってことだよ」
「そうかもしれないけど、あたしたち何日食べ物を食べてないのよ。このままじゃ仙台までもたどり着かないよ」




88 :名無し娘。 :2003/08/31 23:38:01

圭織の言うこともわかる。最近じゃあ、この国で見知らぬ顔を見ることはほとんど無くなっていた。
そりゃあ、仙台とか成田なんかの大都市じゃあ、そんなことは無いんだろうけど、
こんな山奥じゃ圭織の言うとおり、やっぱ危険なんだろうな。
あたしも村にいたころは、見知らぬ人って言えば、軍人なんかのお国の人しかいなかったし、
「だから、その他の知らない人は犯罪者かなんかだから、関わっちゃだめですよ」って、学校の先生も言っていた。
でも、そんなこといってられない。だって、これ以上何も食べずに歩き続けることなんかできないし、
もう、頭ん中食べることしか考えられないし、こうなった原因を全て紺野の所為にしているあたしは、
もう何度も寝ている紺野の首に手を回していたし…。



89 :名無し娘。 :2003/08/31 23:38:24

「わかった。じゃあ、あたしが様子見てくればいいんでしょ」
そういって、あたしが立ち上がると圭織が腕を引っ張った。
「あたしが行くから、なっちは紺野と此処で待ってて」
圭織は背負っていたザックをおろすと「いい?1時間待って、あたしが戻ってこなかったら、先に行って」
と言い残し、小屋に向かって歩き出した。



90 :名無し娘。 :2003/08/31 23:38:48

此処から小屋までは20メートルぐらいあった。圭織は雪を踏みしめながら、ゆっくりと小屋に向かっていた。
雪といっても、ここら辺はずいぶんその量も少なくて、歩く妨げになるようなことはない。
小屋の周りに雪は無かったし、積み上げられた薪にも屋根の上にも雪は積もっていないけど、
それでも、歩くと"ぐぐぐっ"っと雪を踏みしめる音がする。その音があたしたちのところまで聞こえてくる度
ヒヤッと背筋が凍る思いがする。それは圭織も同じ思いなのかもしれない。圭織は一歩踏み出しては耳を澄まし、
ゆっくりゆっくりと小屋に近づいていた。

圭織は小屋にたどり着くと、すばやく窓の下へと身を隠した。
窓にはガラスがはまっていた。この小屋には似合わない代物だった。普通の家なら厚手のビニールを何枚も窓に張って、
その代わり窓にはまっていたガラスを、食料かなんかに換えてしまっているのが普通だった。

中に人いるんだろうか?食べ物を分けてくれるかな?
ごはんごはんごはんがありますように。ご飯がありますように。
あたしはいつの間にか、手を合わせて小屋に向かって拝んでいた。



91 :名無し娘。 :2003/08/31 23:39:21

圭織が一瞬顔をちょこんと上げて、小屋の中を覗いた。圭織はまた、その後壁に張り付くようにじっとしていた。
じれったいなぁ〜もう!
しばらく様子を伺っているんだろうけど、じれったい。もう、なんでいつもすぱっといかないんだろう?
もう一度、今度はゆっくり中を覗くと、漸くあたしたちを手招きした。

「誰もいないみたい」
「でも、煙出てるよ」
「うん、そうなんだけど…どうする」
「入っちゃおうよ。誰か戻ってきたら、そのときはそのときで…さ」

そういいながらも、あたしはすでに扉に向かっていた。
「ちょっと、待ってよ。誰もいないんだよ」
「だから?」



92 :名無し娘。 :2003/08/31 23:39:55

小屋に入ると、暖かい空気があたしを包んできた。それに、このたまんない匂い!
土間にあるかまどの上にかけられた鍋からだった。あたしは迷わずお鍋に一直線に向かった。
「ちょっと紺野、豚汁よ豚汁!」鍋蓋を開けると、湯気の中から具のいっぱい入った豚汁が現れた。
その声で、紺野は扉にぶつかりながら転がり込んできた。
「ねえ〜、ちょっとおいしいよ。マジで」
「本当ですか?私豚汁大好きなんですよ。私にも一口飲ませてください」
こんなにはっきりとした紺野の声を久々に聞いた気がする。
でも、本当においしかった。おなかがすいているからなのかもしれないけど、一気に体中に力が漲ってくる気がする。
紺野がおわんを持ってきた。それによそってあげると、紺野はあわてて豚汁をかきこんだ。
「あつっ!」「なぁ〜ん、はんかくさいね。熱いに決まってるっしょ。ゆっくり食べれ」
でも、そういうあたしも実は口の中は火傷だらけだった。



93 :名無し娘。 :2003/08/31 23:40:40

紺野もあたしも食べることに必死で、圭織がその場にいないのに気づいたのは、あたしが3杯目をよそうときだった。

「圭織?」

圭織は体半分小屋の中に入った格好で、外を見ていた。
手を黒光りする薄い扉に手を置き、右手を腰の辺りに回している。右手の先にあるのは銃だ。
あたしたちには見せることは無いど、その存在はすぐに気がついた。
どんな銃で何発弾丸があるのか知らないけど、圭織が銃を持っているというだけで、
なんか安心感が増す気がしていた。



94 :名無し娘。 :2003/08/31 23:41:34

「圭織」もう一度圭織を呼ぶと、ようやく振り返った。
「圭織も食べなよ」「あたしはいいから」
「良いからじゃなくって、圭織も食べなくっちゃいけないの!」
あたしは入り口まで行き、無理やり圭織を引っ張ってきた。
「この家の人にむ 無断で食べることは」
「なに言ってるの、そんな場合じゃないでしょ。食べれるときに食べなきゃだめって言ったのは圭織じゃない」
「そうだけど、これは泥棒だよ」「だから!」「あっ、あたしの…」
あたしたちの言い争いを完全に無視して、ひたすら豚汁を食べている紺野からお椀を取り上げて、
圭織の目の前に突き出した。
「圭織が倒れたら、あたしたち困るでしょ?だから…ね?」
それでも、圭織はお椀を受け取ろうとしなかった。お椀を見ていた視線はすぐに外れて、入り口へと向かった。
「見張りならあたしがやるから、圭織はそれを食べなよ」そういうと、圭織は漸く豚汁を手に取って食べ始めた。
その姿を確認したあたしは、入り口のところに、圭織のしていたように半分だけ外に体を出した格好で立った。



95 :名無し娘。 :2003/08/31 23:42:06

外は相変わらず寒い。風がびゅうびゅう吹いて木々を揺らしていた。
一度暖かい所に入っちゃうと、もう二度と外に出たくない気がする。

「飯田さん、他にも食べ物が一杯あるみたいですよ」振り返ると、紺野が部屋の中を物色していた。
「紺野だめよ」紺野の手には干し肉や乾パンが握られていた。
その紺野の後の棚の中には、まだ他にもたくさん食料が貯蔵されているみたいだった。
「いいから紺野、かばんの中に詰めちゃいなよ」「ダメ紺野。いくら困っていても、人間としてやってはいけない事が…」
「圭織、お金持ってんでしょ?誰か来たらお金払えばいいじゃない。第一人殺しをするわけじゃないんだべさ」
紺野が食料をザックに詰めようとするのを圭織が止める。
もういい加減にしてほしい。奇麗事言ってる場合じゃないのに!
あたしは圭織の後ろに周り、紺野の周りにこぼれる食料をかき集め、自分のザックへと運ぼうとした。



96 :名無し娘。 :2003/08/31 23:42:54


ガタガタッ


突然、半開きのままになっていた扉が開き、女の子が入ってきた。
年のころなら15、6だろうか、古ぼけた男物の着物を着たその子は「あっ」と短く声を上げたあと
口をぽかんとあげたまま固まってしまった。
「あ あのね、うちら怪しいものじゃ全然ないんだ。ちょっとね、おなかすいてたから…ごめんね、勝手に…」
明らかに女の子の目はおびえていた。何とかしなくっちゃと思ったあたしは、笑顔でゆっくりと近づいていった。
「ごめんね、これあなたたちの食べ物なんだよね」少女があたしの手を見た。手には干し肉とお餅が握られている。
そして、少女の手には…銃が…



97 :名無し娘。 :2003/08/31 23:43:25

あたしの視線が銃に釘付けになっていることに気づくと同時に、その銃が突然あたしの方に向けられようとしていた。
散弾銃というものかもしれない。軍が持っているものとは違ってるけど、人を殺すには十分なものだということは理解できた。
わけがわからないうちに、あたしはその銃の筒の部分を握っていた。
そしてその銃から轟音が鳴り響き壁に穴があくのが横目で確認できた。
紺野が悲鳴を上げている。
2発目が発射されると、筒の部分が熱くなった。それでも、この手を離せない。だって、離したら絶対殺されちゃう。
と突然あたしは背中から押されて、少女の上に乗るような形で土間に倒れた。圭織だ、圭織が後ろからあたしごと
押し倒したんだ。圭織は散弾銃を足で踏みつけながら、あたしと少女の間に入り、少女を取り押さえた。

「圭織、どいて!」

あたしは立ち上がると、散弾銃を拾い上げ、少女に向かって狙いを定めた。
銃なんか撃ったことなかったけど、あたしを殺そうとした人をこのまま許すわけにはいかなかった。



98 :名無し娘。 :2003/08/31 23:44:44

「どいて圭織!」

少女を抑えたままあたしを振り返る圭織の顔は、ものすごく恐かった。
圭織は少女を押さえつけているというより、あたしからかばっている気がする。

「弾でないわよ。その銃は2発撃ったら、弾を充填しないとだめなのよ」
「えっ?」

一瞬あたしの気が銃に反れた。その隙に圭織があたしの持っている銃先を思いっきり引っ張った。
「あっ」あまりに突然だったんで、あたしの手からすんなりと銃が離れていってしまった。



99 :名無し娘。 :2003/08/31 23:45:04

パン

圭織があたしの頬を打った。圭織は銃先を左手で握ったままあたしの前に仁王立ちしている。
床には少女がおびえた顔をして小さく丸まっていた。

「あなた今人を殺そうとしたのよ」「正当防衛よ!」
ふっと圭織は大きくため息をつくと右手で髪をかきあげた。
「なっち、あなたさっき人殺しをするわけじゃないからって言ってたわよね」
たしかに、言ったかもしれない。でも、この子はあたしに銃を向けようとしたんだから…
「だって…」「なっち…」

「じゃあ、どうすればよかったのよ。撃たれればよかったの?」
「そうじゃない。あなたは…」
わかってる。銃を向ける必要はなかったんだって…




100 :名無し娘。 :2003/08/31 23:48:55

「紺野、早く支度して、逃げるわよ」
圭織は突然紺野の方を振り返り、強い命令口調で言うと、自分のザックを拾い上げ、出発の準備を始めた。
「あ た…食べ物は」
「あたしのザックから寝袋を全部出して、詰めるだけ詰めて」
「あっ はい…」

紺野は圭織からザックを受け取り、中から寝袋を取り出すと、食料を詰め込み始めた。
あたしはそれをただボケーと眺めているだけだった。

「なっちも早く準備して」
「え…あっ」

とにかくここは逃げなくちゃ。あたしは荷物を拾い上げ背負い、床に落ちていたビスケットをポケットに押し込んだ。

「この子は、どうするの?」「連れて行くわ」「連れて行くって?」
「しょうがないでしょ。顔見られてるんだよ」



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