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【小説】チープなドラマ感覚で【みたいな】

1 :名無し娘。:2006/09/17(日) 19:57
ハロプロ全般、上から下まで。
予定は未定で確定ではないけれど、書いていこうと思います。
『ヒロインx男』の形が多くなると思うので、好まない方はスルーでお願いします。
下の方でコソコソいきます。
レスしてもらえるなら喜んで受けます。
類似したものを書いてくださる方はどんどん書いてください。

660 :『きみのえがお』:2007/03/08(木) 00:37

僕はたまらず彼女を抱きしめ、自分の全てを伝えたいとささやいた。

「好きだよ」
「嬉しい……」

彼女の声が、鼓膜をくすぐった。
汗で乱れたウェーブのかかった前髪を整え、可愛らしいおでこにキスを落とした。
くすぐったそうに首をすくめる彼女にもう一度「好きだよ」とささやく。
込み上げてくる幸福感を閉じこめておきたいと、寄り添い抱きあって眠った。

661 :『きみのえがお』:2007/03/08(木) 00:43

 …………

662 :『きみのえがお』:2007/03/08(木) 00:44

あれはとても……とても幸せな時間だったんだ。
どんどんと彼女のことを知っていって、彼女への想いを深めていって。
僕といる時の彼女は、いつも嬉しそうな表情を見せてくれていたんだ。

それなのに……
あれはいつだったろう。
もしかしたら、何かが違ってきたのはあれからだったかもしれない。
僕にとっては些細な出来事で、時が経てば泡のように消えてしまうに違いない。
その程度のことだったとしても、もしかしたら彼女にとっては……
あの生真面目で、不器用だけど一所懸命で、それでももう一つ自分に自信を持てない彼女なら……

663 :『きみのえがお』:2007/03/08(木) 00:45

 …………

664 :名無し娘。:2007/03/08(木) 00:47

眠気MAX!
今日はこのあたりでおやすみなさい(+.+)(-.-)(_ _)…

665 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:16

新曲のリリースと幾つかの特番への出演。
そんなものが重なると、僕等の逢える機会は少なくなる。
それは仕方のないことで、ちゃんと心得てはいたし納得していた。
それでもどこかで我慢…というかで焦れてもいたのかもしれない。
連絡こそ取っていたけれど、久しぶりに逢えた彼女は、いつもにも増して輝いて見えた。

「少しは時間とれるようになった?」
「あ〜、うん。幾つか収録するのも残ってるけど」
「そっか。元気だった?」
「うん……なんか、何ヶ月も会えなかったみたいだよ」
「ん、それくらいに感じたよ……」
「え、あ、えっと…」
「だから、今日会えたの、すごい嬉しい」
「あ、え、あの……うん、ありがと」

いつまで経ってもこういった言葉に対する耐性をもてないでいる彼女は、頬を染め言葉に詰まりながら俯く。
そんな彼女を愛おしく想い、そっと指先を近づける。

「またこんなにしちゃって……」
「ひぁ! あっ、ちょ、ちょっと……」

朱に染まった頬…ほっぺたを突いた指先から逃れようと、身を捩りながら、小さく抗議の声。
僕はククっと喉をならして笑いながら「ごめん」って謝った。

666 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:17

「んん、もう…すぐそうやってからかうっ」
「ホント、ごめん」
「もういいっ」

そうやって許してはくれるけれど、ほんの少しだけ拗ねているのが窺える。
それがまたなんとも言えないんだけど……そうしつこくして怒らせたくも――泣かせたく、かな――ない。

「明日はゆっくりで平気なんだよね?」
「うん。お昼からだから…あの、泊まっても……いい?」
「イヤなわけないだろ?」
「よかったぁ」

食事は済ませたと申し訳なさそうに言う彼女に、僕はお腹が減ってないからと嘘をつく。
いや、正しくは嘘でもないのだけど……実際、一人で食事を摂るよりも、ただ彼女との時間が欲しかっただけで。

そうやって同じ時間を過ごしていると、もたげてくるのは“もっと”という想い。
隣り合って座っていれば肩を抱きたいと思い、肩抱いていればキスをしたいと思う。
どこかで足りないと感じていた時間を取り戻そうとするように、膨らんでいくジリジリとした感覚。
一度膨らみだした想いは、抑えることが出来ないほどに僕の中を埋めていく。

667 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:18

「えっ? うそうそ、そん、や……」

想いに任せて縮めた互いの距離と、腰に廻した手の強さに、あさ美は慌てたように身を逸らそうとした。
けれど、それはただバランスを崩すだけの意味しかなかった。
小さく悲鳴を上げて後ろへ倒れ込んだあさ美に、体重を掛けないように気をかけて身体を重ねた。

「いい?」
「あ、あの…だって、急に……ビックリしちゃ──、んんっ」

これだけ近い距離で見る柔らかな唇に、返事を待つだけの時間すら惜しくなって唇を重ねた。
触れ合った唇が言葉を紡ごうとする動きにあわせるように舌を絡ませた。

「んむぅ、っ…」

一度堰を切ってしまった欲望に突き動かされるように、腰に廻した手で服の上からブラのホックを外す。
空いている手は裾から服の中へとすべり込ませている。

「あ、やだっ──、あんっ……」

おなかの上で滑らせた手を緩んだブラの隙間へもぐり込ませ、彼女のイメージそのままのようなふっくらした胸に手を伸ばした。
唇、耳朶、首筋とキスを落としながらゆっくりと服をせり上げていく。
羞恥からだろうか、弱々しく拒むような身動ぎが、少しずつ、少しずつ消えていく。

668 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:19

 〜♪

いよいよ行為に没頭していくその時に、場違いなリズムが部屋に響いた。
彼女は閉じていた目をうっすらと開き、眠りから覚めるように現実へと戻っていく。

「あっ……」

慌てたように――それでも拒絶と取られないようそっと――僕の胸に手をあてて、目線で行動を懇願される。

「…ごめんなさい」

そう言われてしまって、どうにもやるせない気持ちになり、身体を起こした。

「はぁ……」
「あの…」
「いいよ。出なよ」

申し訳なさそうになにか言いかけた彼女を促した。
「ごめんね」と一言呟いて乱れた服を直してから、急いで自分の鞄から携帯を取り出して部屋を出た。

しばらくして戻ってきた彼女は、とても沈んだ表情をしていて。
両手で携帯を握り、切り出す言葉を探しているように見えた。

「どうかした?」
「あの……」
「なに? 誰からだった?」

少し言葉が強くなってしまっていたのかもしれない。
彼女はどこか怖がるように、少し身を竦ませながらポツポツと口を開いた。

669 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:20

「あの…マネージャーからで……」
「もしかして?」
「あ、うん…明日、少し早くなったからって」
「…何時?」
「九時には来てくれって……」

知らず知らずに溜息がもれていた。
少しじゃないだろ、とは思いながらも言葉には出せずに、口をついて出たのは別のことだった。

「なら仕方ないよ」
「あの、ほんとにごめんなさ──」
「シャワー浴びた方がいいよ。早めに寝ないと」

意識して彼女の言葉を遮った。
情けなくもあり、大人げないとも思ったけれど……
彼女は少し寂しげに「うん」と一言だけ残してバスルームへ消えていった。

することもなくベッドへ横になり、眼を閉じていた。
しばらくするとドアの音と一緒に小さな声が聞こえる。

「寝ちゃった?」
「……ん、起きてるよ」

目を開けて首だけ動かしてみると、淡いピンクのスウェット姿の彼女が入ってきたところだった。
ベッドの上で身体をずらすように動かして一人分の場所を空ける。
彼女は静かに近づいてくると、そっとベッドに腰を下ろした。

670 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:21

「あの、ね……」
「大丈夫だよ。気にしてないから。寝ないと明日持たないだろ」

もう少し、場所を空けるフリをして視線を逸らせた。

「……うん」

呟くような声がして、部屋の電気が消される。
寂しそうなあさ美の声に、ちくり、と胸が痛む。
背中越しに彼女が横たわるのが、ベッドの沈み込む感覚で解った。
眠れもしないクセに、意地になったようにしばらく眼を閉じていると、シャツがクイっと引かれる。

「なに?」
「ね…こうしててもいい?」

僅かに向き直って問い返すと、ささやくような言葉と同時にそっと腕を絡ませてきた。

「ダメ?」

よほど機嫌を損ねたと感じているみたいだって思った。
そうさせるような態度を見せた自分に自己嫌悪気味になって、一つため息をついた。

「いいよ」

なるべく優しく聞こえるように注意してそう言ってあげた。
すると彼女は静かに眼を閉じて、まるで仔猫みたいに鼻先を僕の腕にすりよせてきた。
僕は彼女の髪をそっと撫でながら、いつの間にか眠りに落ちていったんだ……

671 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:22

 ………

672 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:23

「……ん?」

微かな気配にふと現実に立ち返らされて、目を凝らして部屋を見遣った。
いつの間にか眠ってしまってたんだろうか、部屋の中は暗く、窓から差し込む間接的な明かりだけが部屋を照らしていた。

 夢…を、見ていたのかな

夢だったのかもしれないけれど、あれは確かに現実にあったことでもあった。
そう思いながら、上体を起こそうとしてやっと気がついた。
僕を現実に呼び戻した気配の正体に。

「………」

身体をベッドに預ける姿勢で床に座り込んで、そのまま寝てしまったんだろうか。
彼女は自分の腕を枕に、ベッドに突っ伏してすうすうと寝息をたてていた。
うっすらと笑顔を浮かべているように見えるその寝顔は、奇妙に思えるくらいに僕を落ちつかせてくれた。

「あさ美……」

不思議なほどに満ち足りた気持ちの僕は、夢でしていたようにそっと彼女の髪を撫でる。
幾度かそうしていると、綺麗に整えられた彼女の眉がピクリと動いて、睫毛が微かに揺れた。
慌てて手を浮かせると、かわいらしい唇が小さな吐息を柔らかく漏らして、ゆっくりと目を開いていく。

673 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:24

「ごめん。起こしちゃったね」
「………」
「おかえり」
「…ただいま」

半ば無意識に返事をしたんだろう。
ぼんやりとした意識を覚醒させるみたいに眼を閉じ、眉根を寄せて、そしてゆっくりと開く。

「あ…あれ?」
「おはよ」
「あっ、ごめんなさい」

幸せな空色だった気分が雨雲に侵食されていく。
そんな切なく淋しい感覚だった。

「なんで謝るの?」
「え? あ、あの……」
「謝られるようなこと、されてないよ?」
「あっ……」
「あのさ──」

 〜♪

それが最悪のタイミングだったのか、それとも最悪の事態を救ってくれるタイミングだったのか。
ハッキリと決められないような時に鳴りだしたあさ美の携帯。

「っ……出なよ。マネージャーからかもよ?」
「あっ──、…うん」

何か言いかけたようだったあさ美が、躊躇うように身動ぎをして、それでも、仕方ないというように部屋を出て行った。

「はぁっ…また、なんで……」

足音が遠ざかるのを確認して、深く、重い息をはいた。
掴み損なった温かな時間を惜しむように、掌を見つめて……強く握り、ひらく。

674 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:24

僕は最近よく考えている。
いつかこの関係に限界がやってくるんじゃないだろうかと。
僕か、それとも彼女か……
どちらになのかは解らないし、その限界というものがどんな形でやってくるのかも解らない。

 ──けれど…

そう遠くない先に“それ”は待っているような、そんな気がしてならなかった。
そんな先の見えない思い囚われた心を引き戻すように、強く握っていた手に温かな感覚が重なる。
いつの間にか戻ってきたあさ美が、僕の手にその小さな手を重ねて話し出した。

「あの、ね……キライになった?」
「……え?」
「こんなこと言うの、おかしいのかもしれないけど……
 嫌われたくないの……わたしのこと、好き?」

泣きそうなあさ美の表情。
すがるような、救いを求めるような、そんな表情。

「…好きだよ」

記憶の世界と現実の狭間にいた僕は、あさ美の言葉に無意識の言葉を返す。
そこでやっと問われた言葉の内容に気がついて、俯いていた顔を上げる。

675 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:26

「……嬉しい」

見慣れたはずの彼女の顔が、忘れかけていた表情を浮かべていた。
僕は息をするのも忘れて、その表情を見つめていた。

 出会った頃より、ずっと大好きだよ――

そう言いたかったはずなのに、その言葉は出てきてくれなかった。
あの頃より大きくなった“好き”という気持ちと一緒に、僕の心の中に膨らんだものが、その言葉を、押し留めてしまった。

「あの、ねっ……」
「……え? なに?」
「ハ、ハズかしいの…そ、そんなにジッと見られると」
「あっ、ごめん」
「もぉ……」

柔らかなほっぺたを朱に染めて、困ったように俯きながら文句にもならない言葉を呟いている。
そんな彼女がさっき浮かべた表情は……
間違えるはずもない「僕の喜ぶ顔を見るのが好き」だって、そう言ってくれた、あの表情だった。

なぜまたあの表情を見せてくれたのか、僕には解らない。
きっと彼女自身もそんなこと意識してのことではないだろう。
それに、その笑顔を取り戻すよりも“終わり”が来る方が早いのかもしれない。

 でも……

それでも。
僕はもう一度、あの表情を見たいと心から思うんだ。

もう一度……

……もう一度……

676 :『きみのえがお』:2007/03/09(金) 22:26


end.

677 :名無し娘。:2007/03/09(金) 22:37

途中いろいろあって時間がかかったけれど、まずこんな感じです。
容量は…まだなんか書けますね。
さてどうしようかな。

678 :名無し娘。:2007/03/16(金) 20:22

もう時期外れもいいとこですが来年まで寝かすのもなんなんで。
お正月に書いた話。

679 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:24

 初詣




それはとても健やかな眠りであるように彼の目には映っていました。
彼は約束通りに彼女の家を訪ね、家人により通されたこの部屋で、その寝顔を見ていました。
履行されない約束など気にもしていないような、それは満ち足りた笑顔で。
意図してのものではなく、ついクスッと洩れてしまった笑みに視線の先で閉じられていた目蓋が反応しました。
細く長い睫毛が揺れて、二度三度と繰り返されるまばたきの間にブラウンの瞳がのぞきます。
やがてゆっくりと覚醒していく意識と共に、しっかりと見開かれた瞳が彼を掴まえました。

「たかちゃん……?」

寝起き故でしょう、少し掠れた声に、呼ばれた彼――孝之――は「うん?」と曖昧な声を返します。
どちらも幸せそうな笑顔を浮かべ、僅かな時間を見つめ合い、季節に不似合いの暖かな時間が過ぎていきました。
そんな満たされた時間から先に抜け出したのは、今し方まで寝ていたはずの少女――梨沙子――の方でした。

680 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:24

「たかちゃん!? なんでいるの!」
「え? りさちゃんのお母さんに――」
「っていうか、今何時!?」
「あ、三時くらい、かな?」
「……もう、バカぁ! 出てって! すぐ着替えるから」

慌ただしく――それでも寝間着姿を隠すために布団をかぶったままで――梨沙子に言われた孝之は、苦笑しながら腰を上げ部屋を出るのでした。
他人から見ればさも複雑に見えそうな、楽しそうな苦笑いを浮かべた孝之がドアの向かいに背もたれて数分。
そっと開かれたドアから顔を出した梨沙子は、そこにあるべき姿を確認すると、照れ隠しからだと誰にでも解るような口調で「待ってて」とすげない言葉を残し階下へと降りていきました。
そんな言葉と一緒に残された孝之も、全て弁えたように寝癖のついた髪を見送ってクスクスと笑い、言われたとおりにその場で待つのでした。

681 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:25

タンタンと軽い足取りで戻ってきた梨沙子はすっかり整えられた髪と、ほんの少しだけ、うっすらと化粧をした姿で。
それは雪のように白い肌を損なうことなく引き立たせ、同じように白を基調とした服装にとてもよく映えているものでした。
階段を上がりきった梨沙子が立ち止まり、なにか言いたげに――言って欲しげに――後ろ手を組んで少し上にある孝之の顔を見上げます。
孝之はそうされることが解っていたように、グッと親指を立てて芝居めかした調子で「格好いいじゃん」と声を掛けました。
言われた梨沙子は嬉しそうにニッと笑うと、「じゃあ行こっ」と跳ねるように孝之の腕を取るのでした。

682 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:26

並んで歩く二人はかなりに対照的で、かぶってるニット帽まで白で揃えられ、いまだ小学生である梨沙子と、マフラーから靴まで黒で染められた高校生の孝之。
二人をよく知る者からみればともかく、言葉にできる状況ではとても“合わない”二人でしたが。
けれど、そうして歩く姿は、とても小学生には見えない梨沙子のおかげもあって、互いに――少なくとも梨沙子にとって――納得できる印象を他者に与えられる二人なのでした。
そうして暗い道を並んで歩き、普段であれば動いていないはずの電車を数本乗り継いだ二人は想像以上の人並みに馴染んで、ごく当たり前のカップルのように見えたことでしょう。
皆が皆、同じ方向を目指して歩く人混みの中で、少し窮屈ではあったものの手を繋いで歩ける梨沙子は幸せそうな笑顔で。
多少の気恥ずかしさを残しながらも、離れてはいけないと理由づけられる孝之も、それを否とは思わずにされるがままで歩くのでした。

683 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:27

「やっぱすっごい混んでるね」
「だね。大丈夫? 今日疲れちゃったら大変なんじゃない?」
「だいじょーぶですぅ。もうすぐ中学生だし、コドモじゃないもん」

予定が詰まっていることを気遣う孝之に、冗談めかしながらも本心を織り込んだ言葉を返す梨沙子。
相応の時間と誤解や曲解、葛藤を経て、二人は互いのことを理解しだしていました。
それは“形”を成すよりも前から、紡がれてきた想いからのことで、そしてそれ故にすれ違うこともある二人で。
そんな二人……梨沙子にとって、こうして過ごせる時間そのものが大切でもあったのでした。

「はぐれちゃったら一人で帰れる?」
「え? ……帰っ、ちゃうの?」
「だってこんな状況ではぐれちゃったら……さ」
「か、帰れるよっ! 帰れるに決まってるじゃん」
「だよね? 子供じゃないんだもんね?」
「当たり前だよっ」

そうなると解っていて、それでもそんな梨沙子を見るためにからかう孝之と、からかわれていることは知っていながらも言わずにはいられない梨沙子。

684 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:28

この部分は以前と変わらず、些細なことで意地になる梨沙子に笑いかけながら、孝之は今でも変わらず、一つの気持ちをしっかりと抱えているのでした。
それは幼い頃の希望であり誓いでもあり、そして変化に気がつきだした二人の約束でもある気持ちでした。
孝之が心の奥に抱えているそれを改めて確認していると、そんな感慨ごと押し流すような人の流れに巻き込まれていました。

「わっ――」

危うく引き剥がされていきそうになった梨沙子を掴まえて、混み合う人の中でなんとか二人の距離を縮めると、予想以上に近い距離で梨沙子の顔が綻んでいました。
少し息を乱して赤みがさした頬で、恥ずかしげだけれどそれでも嬉しそうに笑う梨沙子。
あまりに至近なその瞳から、気恥ずかしさが孝之の身体を動かすのでした。
僅かな隙間から人混みに割り込み、ともすれば離れてしまいそうな梨沙子の手をしっかりと握り、頑なに前を向いたままで歩いていきます。
自分を振り返りもせずに歩いていく孝之へ、不平一つ洩らさずにただ幸せそうに握られた手を見ながら付いて歩く梨沙子でした。

685 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:30

そうして時間をかけてようやっと賽銭箱の前まで辿り着いた二人は、どちらからともなく一度視線を交わして、クスリと笑い合って今年一年の願をかけるのでした。
どちらもその願いを口に出すことはありません。
けれどその願いのうちの、少なくとも一つだけは、間違いなく叶うであろうことは疑いもしない二人でした。

けして長くない時間、並んで眼を閉じ手を合わせていた二人は、周囲の空気に急かされるようにその場を後にして歩き出します。
境内を奥へと進んでいき、なんの為のものなのかも理解していないままで買った破魔矢を手に、おみくじの内容に一喜一憂し、飲み慣れない甘酒を買ってみたりもする。

「どう?」
「…………」
「あははっ、聞かなくても解った」
「びみょー」

への字にした口元を開いてそう洩らした声色に孝之は声を上げて笑い、笑われた梨沙子はますます渋い表情を作ってみせるのでした。

686 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:31

笑いを収めた孝之が、「ミルクティでも買おうか」と、カップを受け取ろうとすると、手を引いた梨沙子が変わらぬ表情のままで言いました。

「いい。全部飲むから」
「ホントに? 僕が飲むよ?」
「いいのっ。もう大人なんだから」
「ふうん。そっか。ならいいけど」
「うん」

そして約束――主に梨沙子が希望した――通り、初日の出を見るのに適した場所へ移動するために、上ってきた長い石段へ差し掛かったとき、小さな混乱が起こったのです。
少し前方、石段の降り口辺りで人の流れが滞り、一度乱れた流れはちょっとした奔流めいていて、繋いでいたはずの手さえいつしか離れ、二人の距離が遠のいていきました。
人の流れに押され、孝之が落ちつけたのは石段の半ば、少しだけ広がった手すりを掴んだときでした。
すっかり離されてしまった梨沙子を探そうと、目一杯背伸びをしてみたり、手すりに手をかけて跳ねてみたりしても、流れていく人混みの中に梨沙子の姿は見つけられませんでした。
見失ってしまった梨沙子を心配し、下方に見つからないのならと人の流れに逆らって、幅の広い石段を横切るように上がっていきます。

687 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:32

きょろきょろと辺りへ目を配り、梨沙子の姿が見つからなければ更に石段を上がっていく。
そんなことを繰り返し、再び石段を上がりきり、人混みを抜けて奥の広場へと出て、見える限りに探して歩いても梨沙子は見つかりませんでした。
それならばと踵を返し、来た道を戻り少しでも見晴らしのいい場所を選んで石段の下へ目を凝らします。
雑多な人の中から白い人影を見つけては「違う」と呟き、下へ、下へと視線を流していきました。
その目がはるか遠く、石段の登り口まで差し掛かったとき、もしかしたらと思える真っ白な姿を見つけたのです。

慌てて走り出した孝之の脚は、すぐに人の壁に遮られ、心中と裏腹に遅々としたものに変わります。
けれどそんな中で、なんとか隙間を見つけては前へと急いで、うっすらと汗すらかきながらも階段を下りきったとき、そこにいたはずの真っ白い姿は消え失せていました。
息を乱した孝之が肩を落とし両手を膝にあてて深い息をついたとき、背中に当たる感覚に気がつきました。

688 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:33

振り向いたその先、遠慮がちに触れた手の持ち主は不安そうな表情で孝之を確認すると、大きく安堵の息を漏らして笑顔に変わります。

「り、りさちゃん! よかったぁ……」
「えへへ」
「っ、もう……はぁ」
「あのね」
「え?」
「ぐーって押されちゃってここまで来ちゃってね」
「うん」
「最初どーしようってすっごい怖かったんだけどね。でも絶対解ってたから」
「って……?」
「たかちゃんがね、絶対捜してくれるって、解ってたから。なるべく動かないで待ってたの」
「…………」
「やっぱりちゃんと見つけてくれた♪」

小さなバッグから出したハンカチで孝之の汗を拭い、そう笑う梨沙子は自分の言葉を何一つ疑うことなく信じていて。
言われた孝之はもう一度、深く長く息をついて、空いている梨沙子の手を取り笑いかけるのでした。

「うん。行こっか。もう日が出ちゃう」
「そーだね。行こっ」

689 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:34

二人が手を繋ぎ向かった場所は、梨沙子が仕入れてきた情報――人が少ない穴場だとの――通り、割合静かで、それでいて遠く東の方向に海が見える。
まさに初日の出を見るための穴場だと言えるような、そんな場所でした。
二人並んで手を繋いだままで、遠い海を見つめてなにも話さない時間を過ごします。
やがて暗い海の向こうに僅かな朱が差して、日常と変わらない、けれどどこか神々しい太陽が顔をのぞかせてきます。

「りさちゃんはさ、なにをお願いしたの?」

繋いだ手に、ほんの少しだけ力を込めて、梨沙子の横顔を見つめる孝之が聞きました。

「んー? えっとね、色々。いっぱいお願いしたよ」

昇りゆく太陽を見つめながら梨沙子がそう返します。

「そっか。全部叶うといいね」

孝之は同じように朝日へ目をやり、欲張りな梨沙子を微笑ましく思いながらも心からそう言いました。

690 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:36

「でもね」

梨沙子が強く手を握りかえし、そう呟いたことでもう一度顔を廻らしたそのとき。

「もう一個は叶っちゃったから♥ きっと全部叶うもん」

すっと離れていく香りに気づき、そしてくちびるに触れたやわらかさに気づき、呆然としたままの孝之に梨沙子が言葉を継ぎました。

「今年からコドモじゃなくなるって言ったでしょ」

僅かに強がりの色が滲む気がしたその声。
それが気のせいではないということを、梨沙子の真っ赤な耳元が孝之に教えてくれていました。

形になった想いは梨沙子を成長させていました。
それがいつか孝之に追いつき、二人の想いが重なるまで、孝之はこうして驚かされるのだろうなと思うのでした。

形を変えていく二人の恋。
いつまでも続いていく物語。

小さな恋の……

691 :『小さな恋の……』:2007/03/16(金) 20:37



end.

692 :名無し娘。:2007/03/16(金) 20:38

…あと40KBちょいか

693 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:50

今年も夏を迎えようとしている。
あたし達が、お互いを意識するようになったあの夏。
あの夏から一年がすぎて、あたし達はどうなるんだろう。
変わろうとしない関係に変化が生じるなにかはあるんだろうか。
それとも今年も夏がきて、そして何事もなかったように過ぎていくんだろうか。

そもそも変わることを望んでいる人間がいるのかどうかも解らない。
この関係がどうなっていくことを望んでいるんだろう……
あたしは……

694 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:51

 また、夏がくる

695 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:52

「なぁにしてんだろ、あたし……」

夏を待ちきれないような暑さと、梅雨の名残のような居心地の悪さの中で、ジャングルジムの上に腰を落ち着けて沈みつつある大陽を見ていた。

ぱっとしない気候に比して、今この場所は、あたし、吉澤ひとみにとって結構心地よかったりする。
湿度は高い感じだけれど、吹き抜けていく風は夏の匂いがするし、なにより高い場所から何かを見下ろすのは悪くない。
だけど、あたし的に気分はおかしなくらいブルーだったりする。
その原因もよくよく考えてみれば、そうおかしなことじゃないんだけれど、でもそうじゃないような気もする。

「なんであんなトコ見ちゃうかな〜……」

なんてボヤいてみても、見てしまったものは仕方がないし、今ここにいるほどに動揺してしまったのも仕方がない。
動揺、してるって気がつかなかったくらいには動揺していたんだ。
そもそも、そんな動揺するようなシーンを見てしまったきっかけも自分にあって、他の誰になにを言うことでもなかった。

696 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:52

ただ時々しているように、ベランダ越しに幼なじみであるヒロの部屋に……中村博之の部屋に顔を出そうとしただけだった。
そのこと自体は、階段を下り家を出て、アイツの家へ入り階段を上る、などという手間を大幅に省いただけの行為。
アイツだって文句を言いながらも、それを気にするようなこともなかった、ハズだし。
実際、その時も驚かれはしたけれど苦笑いされただけだった……と思う。

二人とも。

そう、アイツと……もう一人、大切な幼なじみの石川梨華、梨華ちゃん。
いつものように、ひょいとベランダを渡ってヒロの部屋をのぞき込んだあたしを、二人ともがそういう表情で見ていた……んじゃないかな。
どこか気まずげに感じたのはきっと自分のせいだと、多少落ち着いた今なら解っていた。
なのにそのときのあたしは、ひどく動揺して大慌てで部屋に駆け戻った。
それどころか、いてもたってもいられなくなって、あげくにこんなところまできてボーっと空なんて眺めてる。

697 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:53

冷静になって考えてみれば、あれは梨華ちゃんらしい“世話焼き”の一つだったんだ。
ヒロに膝枕をしてやって、ニコニコしながら耳掃除なんかしてやってただけだ。

 ――うんそうだよ。ただそれだけじゃんか

ただヒロのヤツがくすぐったそうにニヤけた顔で、すっげー嬉しそうにしてただけで……
そんであたしは……なんであんなにショックだったんだろう。
アイツが梨華ちゃんのことを好きだってことなんて、戻ってきて直ぐに解ってたことじゃん。

アイツが久しぶりに戻ってきたとき、梨華ちゃんを見つめて呆けたような顔をしてたの、覚えてる。
戻ってきたアイツと、初めて三人で出かけたときに、少し前を歩いていた梨華ちゃんを見て言った「完璧に“女の子”になったなぁ」ってセリフだって。
あたしは当たり障りのない返事を返したけど、すっげぇドキっとしたんだ。
そういう風に改めて見る梨華ちゃんは、確かにこれ以上ないってくらい“女の子”だったんだから。

698 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:54

細くてやわらかい髪は綺麗に揺れていたし、細い身体は壊れちゃいそうに華奢だ。
そのくせ出るべきトコロは柔らかなカーブでその魅力を主張してる。
性格だって大人しくて控えめでも――もちろんそれ以外の面だってあるけど――いられるし、基本的にはやさしくって可愛らしく見える。
誰かといるときはいつも笑顔で、滅多なことじゃ声を荒げたりも――あたしには別だけど――しない。
ちょっと意地っ張りで色黒だけど、それだって男の目からみればアクセントみたいなもんだろうって思う。

つまりあたしとは正反対。
それがアイツの好みなんだ……

そんなこと解ってた。
なんで自分じゃないんだろうなんて考えること、それ自体が滑稽なくらいに違う。
そして梨華ちゃんだって……アイツのことを好きなんだし。

699 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:54

アイツが離れていってしまったときの彼女の鬱ぎ込みようはヒドかった。
まるで笑顔を忘れてしまったんじゃないかって、本気で思ってしまいそうなくらいだったんだから。
時が経つにつれて、いつからか笑顔を見せるようになったけれど、それだってアイツが戻ってきたときのモノとは比べようがない程度のモノだった。
そう、アイツが戻ってきて、梨華ちゃんはホントにいい笑顔を見せるようになった。
アイツがまたあの家に帰ってきて、幸せそうに笑うようになったんだ。

 ――敵わないよ……

そう思った。
そう思ったのに……去年の夏。
思い出すだけで顔が熱くなる。

700 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 22:55

 ――なんであんなことしちゃったかなぁ

祭りの熱に浮かされてたのかもしれない。
そう思おうとすると心が痛くなる。
それは自分の心に嘘をつこうとしてるからだって、気がついたのはいつだったろう。
あの日、最後までいっちゃってたら、うちらはどう変わっていたんだろう。

きっと梨華ちゃんを泣かせちゃって、アイツとだってウマクいく訳なんて無くって、最悪なことになってたかもしれない。
色々考えれば考えるほど、そういう“先”しか思い浮かばなかった。
三人が三人とも、幸せになるなんてことは……
そうなる未来なんて見えなかった。

701 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:04

「よっちゃん♪」

どうにも寂しい想像に花を咲かせそうになっていたあたしに、聞き覚えのある声が呼びかけてきた。
っていうか、あたしのことをそう呼ぶのはこの街に彼女しかいないわけだけれど。

「梨華ちゃん……」

目線を下に流していくと、いつも通りに柔らかな笑顔を浮かべた梨華ちゃんがあたしを見上げていた。
なんだかその笑顔は、近所の子供だとか妹の面倒をみる“お姉ちゃん”のように見えた。

「そんなトコでなにしてるのぉ?」

その声だって迷子になりかけている子供にかける声みたいだ。
よくあることだってのに、今はそれが妙に癪に障った。

「……なんだってイイじゃん」

解っていながらも目をそらし、ふてくされた声を投げ返す。
だからあたしは子供なんだろう。
そこまでは解ってる。直らないけど。

「別にいいんだけどさ……よいしょっ」

 ――よいしょ??

702 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:05

慌てて視線を戻すと、梨華ちゃんがゆっくりとよじ登ってこようとしている所だった。
運動苦手じゃないはずだけど、いかにも慣れてなさそうなぎこちなさで、ゆっくりと慎重に。
でも、なんだかやたらと嬉しそうに登ってくる。

「ち、ちょっと梨華ちゃん!?」
「――しょっと。……え?」
「え? じゃなくてさっ。なんで登ってくるの」

あたしの質問に笑顔だけを返して、梨華ちゃんはあたしの隣まで登ってきた。
その笑顔は、あたしが知り尽くしているはずの“幼なじみの梨華ちゃん”なのに、初めて見るような不思議な笑顔だった。

「ふぅ。……いいね、ココ」
「……」

なんだか混乱したままのあたしをよそに、梨華ちゃんは一人でしゃべり続けた。

「ここ…さ、私たちの家からだと少し遠いよね」
「……そーだね」

よく解らないけれど、……なんか遠回しに追いつめられてる気がする。
そのせいもあって、ぶっきらぼうになるあたしの言葉に、梨華ちゃんは少しイヤな微笑みをみせた。

703 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:05

「よっちゃんってば、時々ココきてるもんね」
「……そーだね」

そんな気がしたよ。
やっぱ知ってたのか……イヤな幼なじみだなぁ。

「“なにか”あると、ココにくるんでしょ?」
「……さあね」
「うふふっ」
「なんだよ」
「べっつにぃ〜」

ゆとりのある態度。
なんかムカつく。

「なにしにきたのさっ」
「ヒロちゃんがくるよりはいいんじゃないかなって思ったから」
「っ……」
「よっちゃんが逃げたから、ヒロちゃんってば追いかけていこうとしたんだよ?」
「ふんっ、別に逃げたんじゃないや」
「そう? どっちでもいいんだけど」
「……な、なんだよっ」

何か言いたげにあたしの顔をのぞき込むような仕草に、投げやりな言葉をぶつけてしまう。
それに対する返事みたいに、フフッて笑顔を浮かべた梨華ちゃんはゆっくりと口を開いた。

704 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:06

「ヒロちゃんがきたほうがよかった?」
「なっ――」
「よっちゃん、ヒロちゃんのこと好きだもんね」
「そ、そんなわけないじゃん!」
「別に隠すことないのに。正直に言っちゃいなよ」
「そ、そっちこそどうなんだよっ。梨華ちゃんの方こそ、ヒロのこと好きなんでしょ!?」
「……うん。好きだよ」

 ――え…?

あまりにあっさりと聞かされた答え。
口にされないだろうと思っていた予想通りの答えは、予想以上にあたしの心に激しく響いていた。

「ひとみちゃん」
「え?」

同じように、あっさりと浮かび上がった呼び名。
確か小学校に上がった頃だったか、そう呼ばれることが照れくさくて、無理矢理に代えてもらった呼び名。

705 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:06

「わたし“も”ヒロちゃんのことは好き」
「……」
「ひとみちゃんもそうでしょ?」
「……」

ムスッと押し黙る。
それが答えだって解っている梨華ちゃんは、喉を鳴らすように笑うと話を続けた。

「もし……ううん。わたしがヒロちゃん好きで、だとするとひとみちゃんはどうする?」
「……どうって?」
「きっと、変に遠慮したり距離を置こうとかって考えるでしょ」
「っ……、なんでそう思うのさ」

そうかもしれない。
いや、きっとそうするだろう。
今までのように三人で、なんて無理に決まってるから。
だったら……

「ひとみちゃんならそうするよ」
「もしそうだとしたら……、だったらなに?」

梨華ちゃんがなにを言いたいのかよく解らない。
要点をついているようで要領をえない。

706 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:07

「それはいいの」
「はぁ?」
「でもね。ヒロちゃんが好きなのはひとみちゃんだから……」

急に一人で納得されて、その上でさらっととんでもない言葉を口にされた。
なにを言ってるのか耳には入ってきても理解できないくらいに。

「……え?」
「それくらい、一緒にいれば解るよ」
「ち、違うに決まってんじゃん! アイツは梨華ちゃんのことが――」
「ううん」
「っ……」
「わたしじゃないよ。わたしは……、そうだなぁ……“お隣のお姉さん”かな」
「……なんだよ、それ」

それはとても寂しそうな笑顔だった。
全然理解できない……なんなんだよ。

「だからね、わたしは今まで通りでいさせてほしいの。ただのお姉さん」
「……」
「ひとみちゃんと、ヒロちゃんの……お姉さん」
「……」
「いつか、ヒロちゃんがそのことに気がついて、二人が“恋人”になるまで」
「も、もしだよ。もし、そうだったら……その時梨華ちゃんはどうするのさ」
「……」

あたしの質問に答えは返ってこなかった。
胸が痛くなるほど儚げに笑った梨華ちゃんは、とても自然に目をそらしてなにも言わない。

707 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:08

「ふ、ふざけんなよっ!」
「ちょ、危ないよっ」

握った拳をぷるぷる震わせながら、ジャングルジムのてっぺんで立ち上がったあたしを抱き寄せるみたいに支える梨華ちゃん。
どうにも我慢できなくなった。
そんな結論はイヤだ。
あたしはそんなの望まない。

「三人でいりゃあいいじゃんかよっ」
「だって――」
「だってもなにもないっ! 梨華ちゃんはヒロも好きだけどあたしのことも好きだろっ!?」
「え? ……そりゃ――」
「あたしだって梨華ちゃんも、ヒロも……まぁ、好きだよ」
「ありがとう……」
「ヒロは……まぁ、この際アイツはどうでもいいや」
「よくないと思うんだけど……」

困ったように眉を寄せる梨華ちゃんに、あたしは不敵に――見えるように――笑い返した。

「あたしがヒロを好きだとして、梨華ちゃんがヒロを好きでもいいんだよ!」
「そんな……」
「イイのっ! 梨華ちゃんがヒロを好きでも、きっとあたしもヒロを好きかもしれない」
「……」
「あのバカがどっちかを選んだら、その時は……仕方ない」
「なんかおかしくない……?」
「イイんだって。あたし達は三人でいてイイの」

強引な、理屈にもならないような言い様で梨華ちゃんを言いくるめてやった。

708 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:09

「……お〜い」

あたしがなんとなく満足したとき、呆れたような、困ったような声音が割り込んできた。

「ヒロちゃん……」

驚いたように梨華ちゃんが呟いた。

「……やっと見つけた。んなとこでなんしてんだよ」

公園の入り口から、どう話し出したらいいのか迷ってるみたいなヒロの声。
あたしは降りていく動作の間に、梨華ちゃんの耳元に口を寄せてささやく。
ビックリした風な梨華ちゃんに、目で念をおして先に立ってジャングルジムを降りた。

「なにしにきたんだよ」
「なにって……あれだ、どうしてっかなってさ」
「どうもしないっつーの。女同士のナイショ話だよ」
「……そっか」

どうも“らしくない”ヒロに、どうしたもんかと考えていると、梨華ちゃんがやっと降りてきたところだった。
振り向いて、梨華ちゃんに唇の動きでもう一度念を押した。
梨華ちゃんは困っているようだったけれど、きっと大丈夫。
そう思ってあたしは動き出した。

「なにが“そっか”、だよ」
「あ〜……あぁ」

言葉を探すようにモゴモゴと動く口に自分の唇を押し当ててやった。

709 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:09

 数秒。

710 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:10

硬直したままのヒロから離れて、その固まったままの身体を梨華ちゃんの方へ押しやった。

「わわっ!?」

転びそうになったヒロを支えて、なお迷っている梨華ちゃんへ、“やれっ!”と手で催促すると、梨華ちゃんは意を決したように頷いた。
梨華ちゃんとヒロのキスシーン。
腹をくくったせいか、不思議と心は傷を受けることもなく、おかしな満足感すら感じている気がした。

数秒後、耳まで赤くした梨華ちゃんが、逃げるみたいに小走りにあたしの隣にきて。
硬直していたヒロが口元に手をあてた姿勢でゆっくりとこっちへ向き直った。

「な、な……ぁ?」

なにか言おうとしてるけど、言葉になりきらずにパクパク動くだけの口。
思わず笑顔になって隣の梨華ちゃんを見ると、梨華ちゃんも笑いをこらえながらあたしを見ていた。

711 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:10

「あははっ」
「ふふふっ」

二人で見つめ合って笑いあう。
すっげー楽しい気分だった。
なんともいえない高揚感に、頭の中に浮かんだ感覚を、なんの飾り立てもしないままに口にしてみた。

「ね?」
「うん♪」

ただ一言だけ。
意味なんて持たない言葉は梨華ちゃんにも伝わったらしい。
それだけであたし達は、バカみたいに笑いあった。笑いあえた。

「な、なんなんだよ……」

あたし達へ釈然としない目を向けながら、憮然とした表情でボヤいてるヒロ。
それを見て、また笑いあうあたし達に、呆れたような苦笑いを浮かべたヒロは、しまいにはヤケになったみたいに「勝手に笑ってろ」なんて呟く。

712 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:12

先のコトなんてワカンない。
でも、あたしはこのままでいたいって思った。
二人も良いけど……三人でいたい。

変わるなら変わってもいい。
けど、無理に変化を求める必要なんてないんだ。
こんなちっぽけな悩みなんて、きっと時間が解決してくれる。

流れていく雲みたいに、少しずつ形を変えながら、時間っていう風に任せて進んでいこう。
そしていくつかの夏を経て、あのときこんなことを考えたんだって、そう話して三人で笑いあうんだ。

どんな風にか形を変えてるかもしれないけれど。
三人で。
三人で笑いあう。
そう決めた。

713 :『また、夏だね』:2007/04/07(土) 23:13



end.

714 :名無し娘。:2007/04/07(土) 23:16

梅雨もこないうちから夏を先取り

嘘ですごめんなさい
今書いたらこんなイメージでは書かないだろうし

さて次で終り…くらいかな

715 :名無し娘。:2007/05/06(日) 12:42
マジすか

716 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:24

それは暮れのとある日、とある路上でのこと。
宗教に無関心な者にでも……もとい、無関心な者にこそと言うべきだろうか。
本来の意味から遠く離れてしまった――だからこそ大きな――イベントを間近に控えたその時期は、街中が煌びやかなイルミネーションで彩られている。
街を歩く人々もそれぞれのセンスを競うように華やかに、なにに遠慮することもなく着飾った姿で時を過ごす数日間。

しかしそんな時期でもそぐわない人間というのはいるもので。
駅の改札を出て歩く一人の少女を挟むようについて歩く二人組の男。
見るからに柄の悪そうな二人が、いかにも大人しげな少女にまとわりつく光景。
よくある光景だと言ってしまえばそれまでのこと。
けれど少々違うのは、挟まれている少女の方。
その少女はなかなかに特別な存在とも言える女の子だった。

派手ではないけれど背格好に似合った可愛らしい服装。
大きめの帽子を深めにかぶった眼鏡の奥の素顔。
それはいくつものメディアの向こう側にいる存在。
数百人、数千人、それ以上の人間を惹きつけることができる魅力を持った少女だった。

717 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:25

それこそ文字通り“キュート”なルックスを隠した帽子、眼鏡のおかげか、覗き込むように話しかけている男たちは気がつかない。
そもそも彼らにとっては、そこそこの外見でさえあれば誰でもよかったのだから。
が、そんな彼らだからこそ、少女が明らかに嫌がる姿勢を見せても引く気などあるわけもなく。
人目を引きたくない少女の控えめな拒絶が余計に男たちを調子づかせ、よりしつこくさせるという悪循環が続いていた。
世間というのは冷たいもので、迷惑がっているのが明瞭に解るその状況でも、誰一人として助けに入る人間などいもしない。
業を煮やしたのか次第に強引になっていく誘いに、少女もさすがに困り切ったようで、俯きがちな眼鏡越しの表情でもそれと解るほどに困惑を顕わにしていた。
少女がどれだけ脚を速めても、男たちはしつこくまとわりついて離れず、ついには少女の腕を掴んで引き留めようという手段へ移った。
握手程度の接触には慣れてはいるものの、腕を掴まれ引き留められるなどということは未経験な少女。
大いに動揺し、わたわたと慌て、さてどうするのが正しいのか感情と理性の狭間で揺れ、ハッキリとした言動には移れずにいた。
目立つことは避けたかったその少女が、ついには思い余ってなんとか走って逃げようかと考えたそのとき、思いもかけない救いの手が差し伸べられた。

「メリークリスマース♪」

718 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:25

赤地に白が彩られたその腕は、少女と男たちに向かって時期に見合うビラを差し出していた。
呆気にとられながらも目をやったビラには、少女――だけとも限らないが――の大好きなケーキがいくつもいくつもプリントされている。
が、それも食欲以外の欲求に囚われた男たちには関係のないことで、ケーキのチラシだろうがサンタクロースだろうが、今の彼らにとっては邪魔以外のなにものでもありはしなかった。

「んだよっ、ケーキなんかいらねえんだよコラッ! 消え――」
「メリークリスマースッ」

男の一人が気色ばみ定型ともとれる台詞を言い捨てようとするその途中、サンタクロースの明るい声が割り込んだ。
クリスマスケーキのビラを握った腕と一緒に。
明るい祝詞の中に憤りをちらつかせながら。

「あっ……」

719 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:26

突然のことに少女が上げた小さな声。
と同時に男の一人が苦悶の声を残しアスファルトに膝をつき崩れ落ちる。
空いた空間にはサンタの腕と、その拳の先で挟まれてしわくちゃになってしまったビラが一枚。
残された男が現実に気づいたとき、もう一度、サンタの明るい祝詞が響いた。
繰り返されるのは同じ光景。
その場に立っているのは少女とサンタのみ。
深めにかぶった赤い帽子と鼻から下がすっかり隠れる白い髭。
どこからどうみてもサンタクロースではあったけれど、相対する二組にとっては正反対の存在だった。
その夢が詰まった白い袋から少女にとっては救いを。
男たちにとっては戒めをプレゼントしたサンタクロース。

機先を制され半ば這いずるように逃げていく男たちに一瞥くれ、サンタがもう一度、今度は正真正銘言葉通りの口調で。
改めて差し出されたケーキのビラを勢いで受け取ってしまった少女を置いて、サンタは看板を手に立ち去っていった。
少女は逃げていった男たちの情けない背をチラリと見て、そして反対方向へ視線を廻らせ去っていったサンタの姿を見つけようとして数秒。
どこか角を曲がりでもしたのか街並みにサンタの姿はなく、手渡されたチラシへ目を落とし、もう一度顔を上げてはたと気がついた少女。

「サンタさん……だ」

クリスマスイブを翌日に控えたその日。
ぽかんと立ちつくす街の中で、その少女、鈴木愛理はポツリと呟きました。

720 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:27

 …………

721 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:27

「もぉ、だからそーじゃないんだってばあ」
「はいはい、わかったから。よかったね、いい夢見れて」
「だからぁ……あー、もういいよぅ」

愛理は自分の話をすげなく聞き流す少女に、拗ねたように頬を膨らませて背を向ける。
背を向けられた少女は年長らしい寛容さをみせようと、ご機嫌をうかがうような笑顔で愛理の肩を抱き覗き込んだ。

「ごめんってば。信じるから。ね?」
「ウソ。舞美ちゃんぜったい信じてないー」
「信じたってば。ってゆーかビラ配り、ケーキ屋さんの宣伝でしょ」

プイと背けられた顔へ、二度までは続かない寛容さは舞美と呼ばれた少女の性格故か、それとも二人の関係からなのか。
ともかく、まさしく正論を突きつけられた愛理は、そんなことは承知している、けれど感情論としてそうではないのだと、そう話したいのに語彙がついてこず、言葉にもならない言葉で異議を唱えてみる。

「ふんだっ。舞美ちゃんはいーよね。なんか幸せらしいし」
「っ――、な、なんの話?」
「えりかちゃんと話してるの聞いちゃった」
「あっ、あれは別に、そんなんじゃない……んだよ?」
「うーそだあ」

722 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:28

「ウソじゃ……あれ? って、愛理……そーなの?」
「えぇ?」
「そっか、そーなんだ……」

言外に洩れていた心情に気づいた舞美は、ニコニコと笑いながら愛理を覗き込むように見つめてくる。
そんな風に見られた愛理は自身でも気づいていなかった心情を覗かれたようで、驚くほどの気恥ずかしさを感じ頬を朱らめてしまう。
それは舞美にとって核心をついたとの笑みをもたらせて、更に言葉を重ねさせる結果に繋がるのだった。

「それはズバリ、初恋ですねっ!?」
「知らないってばぁ」
「きゃー、かわいいっ」

そっぽを向いてしまった愛理にも構うことなく一人で盛り上がる舞美へ、気恥ずかしさと呆れがないまぜになったような口調で愛理が言う。

「舞美ちゃんしつこいっ」
「あっ、愛理ぃ。愛理ちゃんってばぁ」

ばっさりと言い捨てられながら、それでも嬉しそうについてくる舞美を構うこともなく、愛理は帰り支度をはじめるのだった。

723 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:34

 …………

724 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:35

用意するからという車を迎えがくるからと断って出た事務所。
少しばかり大回りをした後で駅へと向かうその道すがら、先日と同じ通りに同じ姿を見かけた愛理はハッとして歩みを速めた。
件の赤い衣装は白を基調とされた今の街にとても印象的で、それでいて不思議なほどの融和を感じさせるものだった。
その背中へ後数歩まできた愛理が緊張した面持ちで、少し高鳴る胸へ手をやりながら控えめな声をかけた。

「あのっ……」
「はい?」

それは期待していた言葉でも、期待していた声音でもなく、振り返ったその帽子の下の顔つきは愛理が肩を落とすのに充分なもの。
声をかけられたサンタはそれが誰であるかなど気づきもせず、途惑ったように、それでいて仕事に忠実らしく手にしたビラを差し出した。
失望しながらも儀礼的に、昨日とは違うそれを受け取った愛理に、笑顔を浮かべたサンタが離れていった。
しばらくその背中を見ていた愛理が、受け取ったビラへ目を落として呟く。

「そんなうまく会えるわけないのかな」

昨日のビラに書いてあった店へ連絡すれば早いことくらいは愛理にも解っていた。
実際に電話で問い合わせもしたけれど、今のご時世電話一本で個人の詳細など教えてくれるわけもない。
実際に店を覗いてもみたけれど、さして大きくもないその店にサンタの姿は見えなかった。
やはり外を廻っているのだろうと、しかたなく昨日と同じ道を歩いていた愛理が見つけたのは違う店のサンタだった。

725 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:36

「クリスマスだからって……もう」

そう呟いて同じ色彩の違う背中を追った愛理の視線があるものを捉えた。
それに気がついた愛理は一瞬身体を強ばらせ、それでもすぐに手近な路地へ入り込んで。
そっと顔を出した先では先程のサンタが足を止め、数人の男に囲まれているところだった。
声こそは聞こえないけれどその状況、そこに昨日絡まれた二人の男たちが含まれていることで、なぜサンタが掴まったのか愛理はすぐに気がついた。
囲まれたサンタは手にしたビラを投げ捨てられ、違うと解ってなお腹立ちまぎれに小突かれ逃げ去っていく。
愛理は入り込んだ路地から今歩いてきた方向へ目を戻し、万が一にもあのサンタがいはしないかと確認し、そして路地を奥へと抜けて歩いた。
小走りに進みながらも周囲を見回し、やがて見つけた赤い衣装へ駆け寄って、その前へ回り込んだ愛理が「あ〜ん違う」と、下げた眉尻で焦りと共に洩らす。
訝しげなサンタへ構うことなく、愛理は立ち去ろうとし、思いとどまったように振り返りこう言った。

「サンタさん、おうち? お店? に帰った方がいいですよ」

愛理は残されたサンタの反応など気にもとめず走り出した。

726 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:36

そうして間違えること二人、いったいこの街に何人のサンタがいるのかと嘆息した愛理が歩みを止めたとき、視界の端にまたも赤い影が入り込んでくる。
今度こそと、そう感じ横断歩道を渡った愛理は、車道の向こう、愛理が通ってきたのとは違う道から件の男たちが姿を現すところを目にした。
脚を速める愛理、男たちはサンタの姿にも愛理にも気がついていないようで。
小走りに追いかけサンタの前に回り込んだ愛理は、帽子の下の顔を覗き込み「見つけた!」と小さく、けれど嬉々とした声を上げた。

「……?」

不思議そうに見つめるサンタへ、「昨日はありがとーございました」、などと場違いにもペコリと頭を下げる愛理。
それをへしかめた白眉で胡乱そう見たサンタは、たっぷり二呼吸分してからやっと表情を緩める。

「あー……絡まれてた娘」
「はい」
「わざわざそれを言いに?」
「えっとそうじゃなくって……あっ、きてください」

サンタの赤い衣装を引っ張って、小走りに歩を進める愛理。
引かれたサンタはわけも解らないままについて行くだけ。

727 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:37

人混みを押し退けるように縫って進む二人は多少の注目を浴びながら、その間にも愛理が状況を伝えようと口を開いた。

「昨日の人たちが探してるんです」
「昨日の……。ああ、別にあんな奴ら、構わないんだけど」
「五人も六人もいるんですよ?」
「それくらい……、いや、ちょっと微妙かも」
「ほらあ」
「だからってあんたがいてくれてもどうにもならんだろ」
「そこはちゃんと考えてますぅ。こっちです。一緒にきてっ」

強引に手を取って歩く愛理と、手にした看板を掲げもせずに大股で歩くサンタ。
そんなおかしな取り合わせはその速めた脚故にか、目的とした地までものの数分で辿り着く。
その頃になって遠くから怒鳴り声が追いかけてきたようでしたが、人混みに紛れて入り込んだビルの中、少しだけ弾ませた息を整えながら愛理がニッコリと笑った。

「もー平気ですよ」
「ここ……どこ?」

サンタの問いかけには答えず……というよりも、そもそも聞いてすらいなかった愛理はなにやら受付めいた幾分厳めしい窓口で会話を交わしている。

728 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:38

しばらくして振り返った愛理がニッコリと笑顔で、ひょいと挙げた両手で小さくVサインをし、「いこっ」とエレベーターホールへ歩き出した。
サンタはそれを見送り受付へと目をやって、視線を合わせようともしない相手に肩をすくめ、仕方なさげに後を追うだけだった。

エレベーターで何階かへ上がり、押し込まれた部屋の中、しばらく待っていてと座らされた椅子の上で、落ちつきなく部屋を見回す白い髯も赤い帽子もないサンタは落ち着かなさそうで。
帽子を指先で遊ばせながら見回した限り、なんのための部屋かも解らない部屋の中でどうしたものかと考えてた。
やがて壁に立てかけた看板を思いだし、店に戻ろうかと腰を上げかけたとき静かに扉が開く。

「どこ行ってたの? それよりここどこ?」
「ここ? えっとですね、このフロアは倉庫みたいな? とこなんですけど」
「倉庫? あ、そうじゃなくて。あー、ここ……」
「あ、そういう意味ですか。うちの会社のですけど」
「うちの? きみ、社会人なの?」
「しゃかいじ……? 一応、学校も行ってます」

要領を得ない会話に、バイトみたいなもんかと口の中で呟いて、サンタは一人で納得した素振り。
一方の愛理はそんなことは気にもせず、ニコニコと微笑みながらサンタの肘の辺りを軽く掴み関心をひいた。

729 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:47

「じゃん!」

着込んでいたコートをパッと開いたその中には、純粋な白と鮮やかな赤と、そして白にも近い肌色でした。
振り向いたサンタはその姿勢のままで表情ごと凍ったように硬直し、クスクスと微笑む愛理はどこまでも楽しそうに。

「お揃いでーす。着替えてみちゃいました」

脱いだコートを片手に持って、くるりと一つターンを決めた愛理を見つめるサンタクロース。
瞬きもせず、言葉も発しないサンタを不思議そうに見た愛理は、眉尻を下げ不安そうに口を開く。

「あれ……、似合ってませんか?」

覗き込むように傾げられた顔は肩に寄せられていて、その肩はきめ細かそうな肌が顕わになっている。
華奢な肩と愛らしいおへそと、そして細いけれど若々しく健康的な魅力がある太ももが露出されたサンタクロース。
キュートなサンタは困ったような、泣き出しそうな、やるせなくなるような表情で、大きなサンタの言葉を待っている。
その落ち着かない時間も長くは続かずに。
突然持ち上げられたサンタの腕がほっそりとした愛理の肩を掴む。
目を見開いた愛理がなにかを言おうとするよりも早く、その小さな身体は力強い腕に引かれ大きな胸に包まれた。

「ひゃっ!?」

730 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:48

情けない声をあげて抱きすくめられた愛理は訳が解らないままで、それでもずれた髭越しに見える表情には嫌悪は湧かず。
それどころか真剣なその表情が凛々しくすら見えて、二度しか会ったことがない人間に抱きしめられながらもそんなことを思える自分に驚く愛理。
が、抱きしめたサンタの側はそれだけでは終わらず。
薄くリップの塗られた愛らしいくちびるが塞がれ、嬌声からはほど遠いうめくような息が洩れ出す。

「んんぅー」

急き立てられるように身体を寄せるサンタから、話せるだけの間をおこうと身体を反らせたる愛理でしたが、退いた距離は瞬く間に埋められ、限界を超えたバランスに二人はもろとも倒れ込んでしまう。
頭こそ打たずに済んだものの小さなお尻と、そして背中から倒れ込んだ愛理が「うぅん」と息をつくような声を洩らし、瞬きしながら開いた目の前に、帽子をなくしたサンタの前髪が揺れていた。

731 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:48

「あっ……」

前髪の奥に見えた瞳の真剣さに、流されるように受け入れたくちびる。
最前までされていた、押しつけるだけのそれとは違う、様子を窺うようなくちびるは少しだけカサついていた。
冬だからかな、などとずれたことを考えながら、初めての“キス”を受け入れていた。
心にわき上がる不思議な気持ちと、深いキスを続ける息苦しさ。
寄せた眉根と酸素を求めるような吐息。
離れていったくちびるに、代わるように入ってくる酸素に喘ぎながら、胸元へ伸ばされたサンタの手に愛理はビクリと反応を返した。

「ち、ちょ――、んんっ……」

押し止めようとした言葉は言葉になりきらず。
ちょっとした悪戯心が引き起こした事態は、くすぐったいような、電気でも走るような刺激を愛理へもたらしその身体が小さく跳ねた。
自分の意思とは違うところで反応する身体を不思議に思いながら、震えるような甘い刺激に流されていく。
強引に押し上げられた衣装の下に淡いピンクのブラが垣間見え、その上を擦るように動く指が育ちきらない胸を刺激する。
ブラ越しの小さな胸を包み込む掌から伝わる熱が、そのまま流れ込んでいるように愛理の身体を熱くしていた。

732 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:49

「ぁ、……はぁ、んっ」

自分の口から出た声は、本人ですら初めて聞く艶をまとっていた。
鼻にかかった甘さを火照りと一緒に吐き出す、その吐息までも熱っぽさを帯びてきていた。
脇から腰へ、そして少女らしい幼さを残しつつも柔らかなラインを描くヒップへ。
胸元へ舌を這わせながら滑っていくサンタの指先は、愛理から理性という羽衣を一枚ずつ剥いでいくようだった。

「やぁ、……だ」
「やだ?」

意識の外で口にした声に、問い返したサンタの目が真っ直ぐに愛理を見つめていた。
霞がかった理性の中で、問われた言葉を考える。
内股を撫でる手の感覚が、泡になって浮かび上がる気持ちを愛理に教えていた。

「や……、じゃ、なぁ、……い」

733 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:49

答えを待つまでもなく、サンタの指先がミニの中へと這い上がっていて。
熱のこもるスカートの中、しっとりと濡れた部分をサンタの指が探り当てる。

「はあっ、ん」

下着の上から、その“形”が解ってしまうほどに擦りつけられる指から伝わる刺激。
その甘く強すぎる刺激がよりいっそう、可愛らしいヒップを包み込む薄い布地を濡らしていく。
乱れた息で喘ぐ愛理が気づいたとき、その一枚すらも手早く引き下ろされてしまった。
そんな状態で外気に触れた慣れない感覚が、愛理に僅かな理性を呼び戻させる。

「あっ――」

けれどその僅かに戻った理性も、産毛のように薄い恥毛のその下、きれいなピンク色の秘所をなぞる指先に吹き飛ばされる。
指先の動きに合わせて聞こえる湿り気のある音が、初めて感じる種類のとてつもない羞恥と、そんなわけがないと否定したくなる喜びを愛理に感じさせていた。
五感で恍惚を感じているその間にも休むことなく続けられる行為は、いつしか指先から舌先へ変わり、それまでよりも強い昂ぶりを与える。
ピチャピチャと淫靡な音をたてる舌先が小さな突起へ触れる。

734 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:50

「あっ、んんぅっ!」

目の前でフラッシュたかれたように視界が白く弾け、痺れるほどの快感が背筋から身体中へと広がった。
焦点の合わない視界の中で、サンタの“それ”が目にとまった愛理は「あぁ」と心の中で息をついた。
初めてがこんなところなのかなと、浮かんできた感情が、跳びかけた理性を繋ぎ止めた。
半ば無意識に差し上げられた細い腕が二つの身体へ割ってはいる。

「なんで? いいだろ?」

ここまできて、そう言いたげなサンタの声に、幼い中芽生えだしてる本能めいたものが刺激される。
その瞬間は年の差などなくなり、子供に甘くなる親のように、イヤとは言いきれない愛理がいた。

「あの……、やじゃないけど」

ほっそりした腕を交差させ胸を隠しながら、複雑な感情に揺れる愛理が口を開いた。
半ばまで身体を起こしたサンタが先を促すために言葉を返す。

「けど?」

735 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:51

「まだ卒業もしてないのに……」
「中学生でするのなんて、そんなめずらしいことじゃないだろ」

言葉と同時に身体を重ねようとしたサンタへ、慌てた愛理が早口で「違うの」と言った。
動きを止めたサンタへ、少し躊躇しながら、どこか恥ずかしげに愛理が言葉を重ねる。

「小学校……」
「え?」
「卒業してないの」
「……そう」
「うん」
「えっと……はっ!?」
「やっぱりまだ早いかなあ、なんて」
「……あぁ、そう、かもね」

ゆっくりと身体を離したサンタが、困り顔で頭をかきながら同意する。
愛理も同じように身体を起こして困り顔で、続く沈黙の中サンタがどうするかを待っていた。

736 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:51

「今さ」
「え?」
「小六?」
「そうだけど」
「来年中学生?」
「うん」
「そっか」

再びの沈黙。
小首を傾げる愛理へ、サンタが独り言のように呟いた。

「とりあえず、今度どっかデート行く?」

考えて、ようやく口にされた言葉は愛理を笑顔にするのに充分なものだった。
パァっと華が開くような笑顔になった愛理は、「うん」と元気な声を返し、それから口々に行きたい場所を並べ立てた。
疲れたように「どこでもいいよ」と呟くサンタへ、素敵な悪戯でも思いついたように言いました。

「まだちゃんと成長するんだから、待っててね」

737 :『はっぴーくりすます』:2007/05/06(日) 23:52



end.

738 :名無し娘。:2007/05/06(日) 23:58

もう時期外れもなにもあったもんじゃねーって感じですが。
まあ今更気にしてもしゃーない。
さしみ賞の裏でひっそりと幕を下ろす。
つもりで、キッズに始まりキッズに終わる。
けど、なんか微妙な数字で残りがあるなあ……終りますか。

>>715
レスありがとーございます。
そんな感じで。

ではでは。

739 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:12

二人で観ていたテレビ。
そのブラウン管の向こうでの出来事。
なごやかだったはずの空間に微妙な空気を持ってきた一幕。
初めて一緒に観るその番組は……ちょっとばかり笑えない内容になっていた。

「まいさぁ……」
「な、なによぉ」
「いくらなんでもこりゃあないんじゃないかい?」
「ど、どれのことかなー」
「どれって……どれもだけどさあ。ヒドイにもほどがあるでしょ」
「でもビリじゃなかったし」
「でも三点は十二分にヒドイじゃん?」
「こないだのは難しかったんだってば」
「前にもさ、なんだ。あれか県庁所在地だよ? 神奈川って……」
「……そ、ち、違うよ? あれはさ、ホラ、あれよ、テレビ的な。
 ま、まぁしろーとにはワカンないでしょうけどね」
「まぁわかりませんけどね」

そう曰う彼女、里田まいは、えらく挙動不審で焦りの色を濃くしていることがありありと解る。
まぁ彼女にも彼女なりの心情があるんだろう。
いや、そんなところも可愛いとか思ってるんだけど。
そんな流れでふといつもの流れへ持っていくためのイタズラ。

740 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:12

「じゃあさ、例えばだけどね。ちょっと問題出してもいいかな?」
「い、いいよ。なんでもきなさい!」

そんなに力まなくてもいいんだけどさ。
あえて解んないだろう問題をだすことにする。
いやいや、別に意地悪じゃなくてね。
素直になるまいが見たいからなんだよ。
……ごめん、嘘です。
少しいじめてみたいってのもあります。ええ。
ちゃちゃっと自分の好きなとこからチョイスしてみよう。

「では歴史からの問題です」
「ヘキサゴンッ」

いや、別にそんな、番組とかじゃないから。

「大政奉還ってなーんだ?」
「たいせーほーかん……」

考えてる考えてる。
もしかして、惜しい答えくらいは出てきたりするのかな。

「キーボード……に関係ある?」
「ブー。キーボードって? パソコン? 楽器? ま、どっちも関係ありまっせーん」

なんの話だろうって苦笑い。
なにを連想したのかも、僕には解りませんよ。

「次いこうか」
「えーっ! 違うの? 違うんだ……」

いや、それなりに自信があったの? 今の答えって。
まぁ、あったのか。なんかぶつぶつ言ってるしねえ。

741 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:13

「問題」
「はーい……あっ、ヘキサゴン!」

ちょっと拗ねてるし。
後、ヘキサゴン言われても効果音とか出ないから。

「“誠”の一字が描かれた旗印と言えば?」
「……まこと?」
「そう」
「……ドラムを――」
「ブー。違います」

最後まで聞くまでもないと思い途中で遮らせてもらう。
なんだよドラムって……なんで楽器づいてるのかなあ。
ん? あ、でもちょっと解ったかも。
となると……?

「さ、じゃあ最後の問題です」
「ヘキサゴン」

……はいはい。
この際この反応はもう気にしないでいこう。

「寺田屋騒動。さてなんのこと?」
「なんかつんくさんの結婚のとき! とか、かな?」
「……ふはははっ、やっぱりそうくるんだ」
「な、なにがおかしいのよぉー。うちら大騒ぎだったんだよ、ホントに。全然知らなかったんだから」

テレビ上でならばともかく、僕が笑ったことには不満があるらしい彼女はその整った顔一杯に気恥ずかしさと不平を表した。
文句を言いながらも一生懸命に話してくれて、それでも恥ずかしがっているトコロなんかはやっぱり可愛らしい。

742 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:13

「いや、ごめん。まいはそれでいいと思うよ。僕は好きだから」
「そ、そう? なんかやだなぁ、もう」
「さ、それはともかく」

仕切り直した僕の言葉に、まいがピクリと反応をする。
ふむ、鋭いな。
ごそごそと取りだしたスケッチブックを目にしたまいは渋面を見せる。

「やっぱりだ。また描くの〜?」
「いいじゃん」
「できあがったの見たことないじゃんっ」
「……。さっ、準備して」
「え〜っ!」

ぶつぶつ文句を言いながらも彼女は身支度を始める。
かれこれ半年以上、付き合っているうちにいつの間にか生じた二人の強弱、というか上下関係というか。
意外と好きなんじゃないのかなんて考えまで浮かんでくるほどに、まいが強く拒んだ記憶が僕にはない。
などと黙考してる間に、まいは身支度を終えた。
まぁ身支度といっても……要は脱ぐだけの話だ。
フローリングの一部に敷いてある毛足の長い絨毯の上、用意した真っ白なシーツ一枚で身体を隠したまいが口を開いた。

「はぁ、もう。こっち向いてていいんでしょ?」
「うんうん、オッケー」

743 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:14

背中を向けたままでこちらへ視線を流したまいの言葉へ、満足感ありありの言葉を返す。
その身を半ばまで晒した彼女の身体は、ごくありきたりな蛍光灯の光ですら眩しく見せるようだった。
健康的な褐色の肌はなめらかに光を受けて、どれほど精妙な彫刻ですら表現し得ない生の艶めかしさを感じさせる。
身じろぎした肩から腰の美しい曲線とそれへかかる薄茶の髪。
意識なければ口元が緩むほどに創作意欲をそそられる。

「髪、前へ持ってってくれる?」
「ん……、こう?」

胸元でシーツを押さえた手に気をつけながら、空いた手を首筋へ伸ばし髪を梳きながら肩越しに胸元へ流していく。
その仕草も、梳かれる髪も、そして項の後れ毛までも、作り込まれた精緻さではないと主張するように婀娜っぽい。

「いーねー、その首筋。そそられるわあ」
「うるさいっ、もぅ……バカッ」

どっちがだよ、とはさすがに言わない。
別に僕だって威張れたもんじゃないし、ましてやつまらないことで彼女を傷つけるつもりもない。

「ホント、綺麗なんだよね〜」
「またそんなこと……」

いやホントに。
……黙ってると相当なもんなんだけどね。
これも前に言ってえらく拗ねられたことがあるから言わないけど。

744 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:14

「綺麗綺麗」
「全然心がこもってない」

マジメに言えば照れるくせに。
実際、その均整の取れたスタイルは非の打ち所がないだろうと思う。
勿論個人的な好みはあるだろうにしろだ。
身長だって低くはなく、締まった身体にマッチョではない柔軟な筋肉がバランスを良く見せている。
くびれたウエストの上下には女性らしい、やさしいふくらみが魅力的なカーブを描いている。
これは……色々なものをそそるワケだ。
鉛筆を置き、開けたばかりの真新しい絵筆に変えた。
筆先を指の腹で摘んで弾くと、サラサラと軽い感触が流れていく。

 ――これは使える

すいと上げた筆を払うように動かした。

「ひゃあっ!?」

奇声と共に反り返った背中がくるりと向きを変え、強い瞳が僕を睨み付けた。

「な、なにしたのっ、今ぁ」

なにをしたと、そう宣った口元で、彼女の背を撫でた絵筆をヒラヒラと揺らして見せた。
揺れる筆先を追って、半ば条件反射で目を左右に連動させたまいが、僕の手をパンと叩き絵筆を遠ざける。

745 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:15

「そうじゃないっ。なにをしたの、って訊いたのっ!」
「えっと……撫でましたけど」
「なんでっ」
「……」
「な・ん・でっ!」

拗ねた素振りで口をとがらせた僕へ、そんなもので騙されるもんかと、一語一語を強く問い糾してくる。
仕方がないと、ニヤリと笑った僕は「欲望に負けて」と正直に答えた。
ヒクリと頬を引きつらせたまいは、イヤな予感でもしたんだろう。
……いや、まぁ勘が鋭くなってきたね。
っていうか、もう何度目かの事なんだけど。

ジリジリとにじり寄る僕から逃れようと背を向けたまい。
逃がすまいと掴んだシーツを引き合う。
細い身体のどこにそんな力が、とは思うけれど、所詮は女の子。
引き寄せたシーツと、おまけ――いや、シーツの方が要らないんだけど――にまいが付いてきた。

「やっ、バカ、ちょっと……」
「有無は言わせない。ってか聞かない」

引き寄せた細い身体を掴まえて強引な体勢のままでキスをした。
これなら否も応も言えまい。
抗うまいが諦めるまで、離さないくちびるは段々と深く繋がっていく。
口内で暴れる舌に観念したのか、力が抜けてきたところでようやくまいのくちびるを解放してやった。
互いに酸素を求めて深い呼吸をしあった後、「最後まで描かないじゃん」と些細な抵抗をされた。

746 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:15

「……描くよ」

イヤらしく笑って見せて、まだ離さずにいた絵筆を掲げる。
またまたイヤな予感がしたんだろう、まいはえらく焦った表情で口を開く。

「な、……なにする気?」
「ひひっ♪」
「ウソでしょ?」
「そう思う?」
「……思わない」
「そういうこと」

逃げだそうとしたまいの腰にすかさず伸ばした腕を絡めて、俯せになった脚の上に身体を寄せる。

「待って! やだってば。絶対くすぐったぃ――ひゃっ!?」

首筋へ這わせた筆先にまいの言葉が途切れる。
やっぱくすぐったいだけなんだろうか?
そっと降ろしていく絵筆のタッチを微妙に変えて、肩胛骨から脇腹へのラインをトレースしていく。

747 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:16

「っ――」

ピクンと身じろぎして逃げたけれど、僅かに反応が違った気がする。
脇腹から方向転換して脇へ這い上がらせた筆の動きに合わせて、まいの身体が小刻みに揺れる。
くちびるから洩れ出す声が若干甘さを帯びている。
明確な理由は特定できないけれど、抗おうとする力――もしくは気持ち――が無くなったらしく、絨毯へ仰向けになって胸を手で覆い隠しているまい。
視線を落としてみれば、そっちは巻き付いたシーツが辛うじて隠して。

「ちょ――」
「隠さないで。こんなに素敵なんだから」

いわゆる甘いささやきとかいう感じ。
キャラではないけれど、この状況では通用することも経験則で知っていた。
ジッと見つめていれば、おずおずと力を抜いていくように腕が解かれていく。

「キレイだよね」
「そんなことないよぉ」

748 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:17

計らせてもらったわけじゃないから知らないけれど、一応Dカップらしい胸は口にしたとおり綺麗な――少し離れ気味だと本人談――形をしている。
やわらかな丘陵へそっと筆先を這わせる。
歯を食いしばっているのはくすぐったさを堪えてるのか、それとも羞恥なのか。どう見ても後者っぽいけど。
一度刺激に対して解き放たれてしまった“感覚”は押さえられないようで、丘の頂上のそれはさっきまでよりも自身の存在を誇示している。

「ふあっ、つっ……」

敏感なポッチを刺激され、意識とは別のところで洩れた声を飲み込んでいる。
しなやかな毛先はなめらかなお腹を滑り降り、シーツの隙間をくぐっていく。
絵筆と一緒に僕がもぐり込んでも、手にしたシーツを手放す気はないらしい。
薄暗闇の中で筆先がなめらかな肌とは違う感触を伝えてくる。
微かに熱のこもったシーツの中で深く息を吸い込むと、馴染んだ香りの中に夜の匂いがする。
遠回しに“そこ”をなぞっていくたびに、ビクンと反応を返すまいが愛らしい。
無色な色彩を拾っていた筆先が、赤みがかったピンクの小さく可愛らしい突起を撫でる。
ひときわ高くなる嬌声が、ただでさえ消えかけていた僕の理性を吹き飛ばしてしまった。

 ――もう我慢できない

749 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:17

………

……



750 :『Dessin』:2007/06/04(月) 22:18

「あれ?」

気怠い微睡みの中、まいの声が耳に舞い込む。
少し前まで隣でシーツにくるまっていたはずなのに、なにをしているんだろうと半睡のままで思う。

「これ……」

どれ?
これ?
あれ……ちょっと寒いなあ。
しぶしぶ開いた目を瞬くと、その先にすらりとした脚とシーツに覆われた魅惑的なヒップと。
そして八号のキャンバスに描かれた自分をしげしげと眺めてる嬉しげな顔だった。



end.

751 :名無し娘。:2007/06/04(月) 22:21

最後の最後で容量使いきりの書下し。
ピッタリで満足です(笑)

では、ありがとうございました♪

752 :名無し娘。:2007/06/05(火) 07:31
まだ残ってるよ!

753 :名無し娘。:2007/06/09(土) 16:58
この残量じゃもう書けないようっ

754 :名無し娘。:2007/07/01(日) 00:36


755 :名無し娘。:2007/07/01(日) 13:17
続編どこー

756 :名無し娘。:2007/07/02(月) 00:36
続編? どの?

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