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ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!5

1 :◆5/w6WpxJOw :2004/02/08(日) 06:16

【10秒でわかるあらすじ】

とある事情で、とある部屋に、とある奴らが来るようになった。そんな話。


【過去スレ】

ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!! (第一部)
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1040831621/
http://yumeiro23.at.infoseek.co.jp/musume/1040831621.html
ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!2 (第一部→第二部)
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1043831353/
http://yumeiro23.at.infoseek.co.jp/musume/1043831353.html
ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!3 (第二部→第三部)
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1053111546/
http://yumeiro23.at.infoseek.co.jp/musume/1053111546.html
●ショムニ● (第三部→第四部→第五部)
http://www.omosiro.com/~sakuraotome/live/test/read.cgi/bbs/1041444474/22-

101 :名無し娘。:2004/03/29(月) 21:57
ほんとに・・・さびしくなるなあ・・
けど楽しみ

102 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:38

「うわあ、結構広いんだあ……」

私と福田との間に守られるようにして立っていた安倍なつみがそう呟きを漏らした。

安倍は前日の夕方に突然やって来たのだが、事前には何の連絡も受けておらず、
バイト中に福田から私の携帯に電話がかかってきて初めて知ったことだった。
安倍は多分、自分がどれほど危険な存在なのかがわかっていないのだろう。
こちらで仕事があって、翌日は夜まで仕事がないということで、急遽泊まることにしたらしいのだが、
それならそれで連絡をしてほしいというのが私の正直な感想だった。

とにかく、安倍というのは物事をあまり深く考えず、成り行きで行動してしまうようなところがあるらしい。
それは福田と対照的であって、それはまあ、二人の会話にも当てはまることだった。

「当たり前です。狭かったら野球できないじゃないですか。全部ホームランじゃ試合になりませんよ」
「えへへ、そっか。そうだよね」
「それで納得すんのかよ……そういう問題じゃないと思うんだけど……」

とにかく二人は二人ともマイペースだった。ただ、そのベクトルの向きは全く異なっており、
それがまあ、二人の関係を体現するものなのだろうと、そうも感じていた。

「でも思い出すなあ、昔ね、野球場でCD売ったんだよ。福ちゃんたちと」
「手売りってやつか。俺は話でしか知らないけどさ」
「懐かしいですね。あの頃のなっちは白くてほっそりしていてかわいかったんですけどね」
「福ちゃんだってぽっちゃりしてて子供っぽくてかわいかったよ!」
「なあ……昨日から言おうと思ってたけどさ、お前らさ、実は仲悪いだろ?」

前日からの二人の関係を踏まえ、私はあえて単刀直入に尋ねてみた。
どうも当事者の二人もその関係というものを認識しているように思えたからだ。

「そんなことないよ!福ちゃんとなっちは友情宣言したことだってあるんだから」
「ええ、偽りの友情ですけどね」

103 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:38

「あ、なんかそれ面白そうだよね。ドラマとかでありそう!」
「ありそう……じゃなくてさ、お前ら完全に仲悪いだろ?てか特に福田!お前安倍のこと嫌いだろ!」
「嫌いな人にわざわざそんな皮肉言うと思いますか?見ての通り、相思相愛ラブラブですよ」
「でも偽りのラブラブなんだよね?」
「はいはい。もういいから。なんとなくお前らのこと理解できたような気がする……」

二人が以前、ライバル関係にあったということは私も知っている。
ただ、その二人の実際の関係については、私の事前の予想とはかなり違ったものだっただろう。

福田が安倍に接する時の態度は、他のメンバーの時とはかなり異なっていた。
ただし、福田のそんな態度を見るのは決して初めてのことではなかった。
なぜなら、それは福田が私と接する時の態度とかなり似通ったものだったのだ。

皮肉というか、揚げ足を取るというか、それはまあ一種攻撃的なものではあるが、
しかし福田流のコミュニケーションで言えば、それは親しみがあるからこそできるものなのだろう。
そしてまた、それは安倍の方にもそうした関係が成り立つ要因があるということでもあった。

安倍については、当然私もまだよく把握しきれてはいないし、私が把握する日は多分来ないことだろう。
ただ、昨夜からずっと二人の関係を見ていて、なんとなくわかったことがあった。

それは安倍がかなり自分中心主義で、他人から何かを言われたとしても、
それをまるで他人事のように聞き流してしまうらしいということ。いや、聞き流すと言うよりも、
自分に対する言葉だということに気づかない、あるいは受け取らないと言うべきかもしれない。
ある意味お気楽というか、脳天気というか、安倍の方も少し変わっているのは確かであって、
もしかすると福田もそんな安倍の性格を知り抜いているからこそ、そうした皮肉が言えるのかもしれない。

ただし、それは福田が私と接する時とはまた違ったものであるのは確かだろう。
私の場合は自分も皮肉を言うのが大好きということで、それは当然、福田も知っていることだ。
そんな人間は皮肉に対してどこか楽しさのようなものを感じているところがあって、
しかもそれは一方的なものではなく、むしろ受け手としても通用し、それを欲しているものなのである。
一種変人であるが、それがまあ、私と福田の関係の基盤と言えるのかもしれない。

104 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:39

「今日はダルビッシュは出ないんですか?」

昨年の夏、福田と紺野と甲子園に来た日は、ちょうど話題のダルビッシュが登板した日だった。
と言っても、事前に調べて行ったというわけではなく、たまたまその日だったというだけのことだったが、
しかし福田にとってその名前はかなり印象深いものだったらしい。

「ああ、今日は出ないな。もちろんメガネッシュもな」
「それは残念です。また見られると思ったんですけどね」

無料の外野席に入った前回とは違い、その日入ったのは三塁側の内野席だった。
屋根のついている部分とアルプススタンドのちょうど中間くらい、その中段の席だ。
なんと言っても安倍なつみが一緒なのだから、人目につくことだけは避けなければならないのだ。
外野席も確かに人はまばらではあったが、一番安全そうだったのはやはりその辺りだっただろう。

それから席に座って野球を観戦し、そして色んな話になった。
野球のルールの話やアルプススタンドの応援合戦についての感想、
それから安倍がホームランを見たいと言い出し、ラッキーゾーンについての話なんかにもなった。

「昔はさ、ラッキーゾーンってのがあってさ……」
「なんですか、それ?」
「外野のさ、フェンスの数メートル前に柵があってさ、その中に入ったらホームランだったんだけどな」
「おまけってことですか?」
「そうそう。その中でキン肉マンが試合したりとかしてさ」
「それはどういう?」
「いや、はははは、まあそれは関係ないんだけど」
「気になります。へのつっぱりはいりませんから、ちゃんと説明してください!」

多分そんな話をしている時だっただろうか。カキーンという乾いた金属音が響いたとともに、
周辺から「あっ」という驚きの声が一斉に沸き起こった。
そう、打者の打ったライナー性の打球が、こちらのスタンド目掛けて一直線に飛んできていたのだ。
それもガランとした空席にではなく、その空席の真ん中に座っていた私たちの方に向かって……。

105 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:39

安倍は動転したのか、「わわわっ」と言いながら生まれたばかりの仔鳥のように手足だけをただばたつかせ、
一方の福田は両手で頭を押さえてうずくまっていた。普段は何事にも動じず、
冷静に対処する福田だったが、そういう時には自然と本来の弱さが出てしまうらしい。

結局その打球は私たちの二列前の座席に直撃して、そして下の方へと跳ね返っていった。

「……もういいぞ……頭上げても……」
「……」
「いやああ、凄い打球だったなああ、そりゃ普通びびるよなああ、なああ福田ああ」
「……な、なんですかそれ……もしかして私への嫌味ですか?」
「ははははは。いやいや、まあ別に恥ずかしがらなくてもいいんじゃね?凄い打球だったし、なあああ」
「さ、最低です!かよわいレディをからかうなんて!」
「そうそう、確かにかよわいレディだよな、安倍は。安倍の仕種はかなりかわいかったぞ」
「えへへ。なんかびっくりしちゃって」
「だよなあ。うんうん。俺もちょっとびびったもん」
「もうさくさん、最近やたらかわいい子を優遇しますよね?この前の真希の時とか……」
「そりゃ誰だって優遇したくなるだろ。実際かわいいんだから。なんか間違ってるか?」
「間違ってます!完全に差別です!区別だなんて言い訳は今日はなしですよ!」
「はいはい。ほんじゃ差別でいいから。潔く認めてやるよ」
「なんですかそれ!それじゃ話が進まないじゃないですか!」
「いいっていいって。どうせ俺元々差別主義者だし。ははははは……」
「笑い事じゃありません!」

その日は第二試合の途中まで観戦し、そしてその場を後にした。
来る時はちょうど下の組員さん――師匠ではない人だったが――が神戸に用事があるとかで、
ついでに送ってもらったのだが、帰りは阪神電車で梅田まで引き返すことになった。
本当ならもう少し試合を観戦したかったのだが、
安倍が仕事の都合で夕方の新幹線に乗らないといけなかったのだ。

ただ、電車の時間にはまだかなりの余裕があり、梅田で少し遅めの中華の昼食を取った後は、
デパ地下を回ったり、タイガース応援グッズのコーナーに寄ったりして時間を潰すことにした。

106 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:39

デパ地下に行きたいと言い出したのは安倍と福田だった。
なるべく人込みには入らないようにしたかったのだが、二人の意見が一致したということと、
人込みの方が逆にばれにくいというようなことを説得されて、しぶしぶ承諾したのだ。

まあ、その時はその説得の通り、誰にも気づかれなかったからよかったものの、
もし気づかれていたら大変なことになっていたことだろう。
最悪な場合、私が東京湾の底に沈むということにもなりかねないのだ。

そうして時間を潰した後、私たちは三人で新大阪へと向かった。
本来ならば梅田で別れてもよかったのだが、安倍が無事に新幹線に乗れるかどうか自信が無いということで、
最後まで付き添うことにしたのだ。案の定、安倍は新大阪についても右往左往するばかりで、
新幹線のホームまで見送るどころか、さらに私が車両の座席まで教えなくてはならなかったほどだ。
安倍らしいと言うか、まあ東京まで付き添わなくて済んだだけマシだったのかもしれない。

ドアが閉まり、そして安倍を乗せた新幹線はゆっくりとホームを離れていった。
多分、それが私と安倍との最後ということになるのだろう。それはかなり短い時間ではあったが……。

「さーて、それじゃ部屋に戻るか」
「そうですね」
「ところで、お前はまだ帰らないのか?」
「なんですかそれ、帰ってほしいってことですか?」
「そんなこと言ってねーだろ。ただいつ帰るのかって、ちょっと聞いただけだ」
「そうですね。あと三、四日したら帰りますよ。バイトがありますから」
「大変だよなあ。お前もさ。学校行ってバイト行って、ほんでたまにこっちにも来て」
「別に大変ってこともないですよ。楽しんでますから」
「ならいいんだけどさ、こっち来るのめんどくさくないか?」
「私にとっても必要な部屋ですからね、それくらいは我慢しますよ。それに……」
「それに?」
「いえ、なんでもないです。忘れてください……」

その時に福田が何を言おうとしていたのか、それはすぐにわかることであって……そして私も……。

107 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:39

「今頃なっちも新幹線の中で食べてますかね?」
「だろうな」

部屋に戻ってデパ地下で買った名物のイカ焼きを食べていると、姉さんから携帯に電話がかかってきた。
福田に話を聞かれないように自分の部屋へ戻る。

「あんな、圭ちゃんのことやけど……」

姉さんの話によると、二日後にラジオの収録があって、保田がこっちに来るとのことだった。
なんでも姉さんがディレクターに頼み込んで、無理に保田を加えてもらったらしい。
そこまでしてくれなくても……と思ったものの、それも姉さんの私への最後の親切だったのだろう。
ただ、番組の改変期で人数合わせが必要だったり、いつもと違って二週分の収録ということもあって、
それですんなり受け入れられたということらしかったが。

「なんの話でした?」
「ああ、明後日保田が来るんだと。姉さんは忙しくて来ないみたいだけど」

その言葉を聞いた福田の表情は、表面上は笑顔だったものの、どこか呆気ないものに見えた。

そしてそれから丸一日が過ぎた翌日の夜。私は福田のいる――彼女たちの――部屋のドアをノックした。
福田はトレーナーと綿パン姿でベッドに腰掛け、風呂上りの濡れた髪をタオルで乾かしていた。

「あのさ……実は、相談があるんだけど……」
「どうしたんですか?そんな改まって……」
「その、なんつーか、自信が無くってさ……」
「何の自信ですか?」
「まああれなんだけど……」
「あれじゃわかりませんよ。……はっきり言ってください」

福田の語気はどこか冷たかった。
それはもしかすると、その相談の内容というものに薄々気づいていたからなのかもしれない。

108 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/10(土) 23:40

「俺さ……そろそろ、まあなんつーかぶっちゃけ告白しようかなあなんて……たはははは……」
「……」

そう言ってわざとらしい笑いを浮かべたのは、単に照れ隠しのためだったのだが、
福田はその笑いには全く反応しなかった。そしていつものようにからかってくるようなこともなかった。

「恋の相談ってことですか……」
「まあ、そういうことになるんかな……」
「悪いですけど……それならお断りします」
「んん?なんでだ?」
「そんなことも自分でどうにもできないような男なんて最低ですよ。そんな男は振られて至極当然です」
「まあ、そうかもしれないけどさ……でもさ、俺は」
「どうしても相談したいのなら他の人にしてください。真希でも、裕子でも……」
「なんでだよ……俺はさ、お前のこと信頼してるし、信用してるし……お前になら何でも話せるし……」

福田はいつのまにか完全に怒っていた。私の優柔不断にイライラしたのか、それとも
今さらそんなことを言い出したことが気に食わなかったのか。でも、多分その時の私は
その福田の怒りの理由に“はっきりと”気づいていたはずだった。それまではただ、
その部屋の人間関係を壊したくないという理由でそれを意識しないようにしていただけで……。

「信頼も信用も、そんなのどうでもいいんです!なんで私なんですか!なんで私に相談するんですか!」
「……」

なぜ私が福田にそれを相談したのか……。
それはもしかすると、こうなることを最初から予想していたからだったのかもしれない……。

福田が私のことを好きだという……そういう気持ちを知った上で……。

――――――
   つづく
――――――

109 :名無し娘。:2004/04/11(日) 01:36
いつも楽しみにしてます

110 :名無し娘。:2004/04/13(火) 00:04
また、えらいとこで切りましたな
続き早めにプリーズです

111 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:51

思えば長いようで短い時間だった。よく考えると保田が卒業してからもうすぐ一年になる。
彼女の歓迎パーティーをしたのは、確かこの部屋に引っ越して来たばかりの頃だった。
あの時の私は結局彼女とキスすることができなかった。他のメンバーに邪魔されたというか、
気を利かせて二人きりにしてくれたまでは良かったのだが、まあ今となってはそれもいい思い出だろう。

それからの私と保田は、お互いに意識し過ぎたのか、どことなくぎこちない関係になっていた。
福田と市井に嗾けられて誕生日に電話したこともあった。でも、結局気持ちを伝えることはできず……。

もしかすると、私がこの部屋を出ようと決意したのは、自分を追い込むためだったのかもしれない。
自ら背水の陣を敷くことで、無意識的に臆病さの中から強さを引き出す、そういうことだったのかもしれない。

すでに私の部屋は空っぽになっていた。
自分で決めたこととは言え、それはやはり淋しく、そして虚しく感じてしまう。
ただ、それは特別なことではなく、引越しをするたびにいつも思うことでもあった。

唯一違うとすれば、私の部屋以外は何も変わっていないということだろうか。
そう、いなくなるのは私だけなのだから……。

だから当然、彼女たちに必要なものは例え私の私物であっても全て残してある。
和室にはこたつ――こたつ布団は干してから押入れにしまってあるが――があり、
そして小型のテレビとゲームが置いてある。市井がいなくなってゲームをする人間もいないのだろうが、
まあレトロなゲームが好きな市井が再び来る時のための置き土産ということになるだろう。

ただ、市井も彩っぺも、この部屋にはしばらく来れないことだろう。二人とも出産を控えているのだから。
それまで私のいないこの部屋がうまく機能するかどうかは正直不安だった。
姉さんに保田、福田、後藤、安倍……。よく考えれば残されたのはこの五人だけだった。
これに仮に辻と加護を加えたとしても七人。ただ、七人と言えどもこっちに来る機会はそんなにはない。
最悪な場合、この部屋は自然消滅してしまうことになるかもしれない……。

それは私のせいなのだろうが、しかし、私もいつまでもこの部屋に甘えていることはできなかった。
彼女たちが経験し、克服してきたように、私にもその時が来たのだから。――“卒業”という、時が。

112 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:51

その私の“卒業”の前に、色々と書いておかなくてはならないことがあるだろう。
そのまず最初は福田とのこと――私が福田に相談を持ちかけた時のこと――になるのだが、
結局は自分の愚かしさを改めて痛感させられたというだけのことだったのかもしれない。

「ひどい……ひどいです……私……ずっと……もうさくさんのこと……」
「……」
「もうさくさん、気づいてるって……そう思ってました」
「……」
「なのに……こんな形で言いたくなかったです……」
「……」

その時の私は福田に対して何も言葉をかけてやることができず、
ただ黙ったまま部屋を出るのが精一杯だった。我ながら最低な男だ。

翌朝の福田は前夜のことがまるで無かったかのようにいつも通りの様子だった。
ただ、私にとってはそれが逆に辛く感じられるものであって……。

そして夜になり、晩御飯を済ませた後、私は部屋で一人クラシックを聴いていた。
いかにも教会で流れていそうな感じの、重厚で荘厳なバッハの曲。
私が何かに失敗し、自分というものについて考える時はこんな曲を聴くことが多かった。
重圧感に潰されそうな響きが体を包み込み、そして自分の無力さを痛感させられる。

ある意味懺悔というか、壮大な次元におけるちっぽけな自分の存在というものを認識することで、
逆に自分の存在や行動というものを自虐的に正当化しようとしていたのかもしれない。
自分を取るに足らない男だと思うことで自分を守るというのが、私の基本的な性格なのだから。

と、ドアの開く音がして、福田が顔を覗かせた。
どことなく呆れたような表情をしていたのは、その音楽の意味を知っていたからなのだろう。

「はあ……またこんな暗い曲聴いてたんですか……」
「まあな……」

113 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:51

「こんな曲ばっかり聴いてるから余計落ち込むんですよ……」
「悪かったな……」
「大体もうさくさんが落ち込んでどうするんですか。落ち込むのは私の方ですよ!」

その言葉が励ましなのか、それとも私同様自虐的なものなのかはわからなかったが、
そう言ってから福田はCDの停止ボタンを押し、そして矢継早に言葉を投げかけた。

「それにこれから告白しようって男がそんなんでどうするんですか!」
「そんなことで一々悩んでたらうまくいくものもうまくいかなくなるんじゃないんですか!」
「いつまで経ってもそんなマイナスな性格だから圭だって呆れるんですよ!」
「男だったら好きなら好き、嫌いなら嫌いって堂々と言えばいいじゃないですか!」
「圭だってもうさくさんのことが好きなんですから!ずっと待ってるんですから!」

福田は全ての鬱憤を晴らすかのように、それから延々と捲くし立て続けた。
福田にしては珍しい感情の発露というか、思ってることを全てぶちまけたというか、
ただ、それも全て計算によるものだったのかもしれない。

なぜなら、そんな福田に対して、私はいつしか笑いを浮かべてしまっていたのだから。

「そうですよ。笑顔で堂々と自信持って告白すればいいんですよ。それが私からのアドバイスです!」
「ああ……ありがとな……ちょっと元気出たわ。耳痛くなったけどな」
「私が振られるのは悔しいですけど、でも最初からわかってたことですから、私は諦めます」
「てかさ……お前、本気で俺のこと好きだったのか?冗談じゃねーのか?」
「本気ですよ!そりゃもう、自分でもなんでこんな人好きになったのかって思い悩むほどに!」
「ははは。そっかそっか。それじゃあ、なんでなんだ?」
「わかりませんよ、私に聞かれても!こっちが聞きたいくらいですよ」
「それじゃ教えてやっけど、多分あれだあれ。外見だろ?俺ってなかなかいい男だからな!」
「……やっぱり好きにならなきゃよかったです……全然笑えません……」
「ははははは……」

いつしか二人はいつもの二人に戻り、そして……。

114 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:51

「もうさくさん、たまには明るい曲でも聴いたらどうですか?ほら、これなんかどうですか?」

そう言って福田が一枚のCDを選び、そして先ほどとは違った優雅な音楽が流れた。

「ヨハンシュトラウスU世か……」
「ほら、どうです?ウインナーワルツって感じで楽しくなりませんか?」
「ウインナー?」
「またそうやってとぼけて……ウインナーって言ってもソーセージじゃないことくらい知ってますよね?」
「たははは……」
「そうだ!せっかくですから、一緒に踊りませんか?ね?」
「お前と踊るのか?ここでか?冗談だろ?」
「冗談でそんなこと言いませんよ。ほら、私こう見えてもダンスは得意なんですよ!」
「てかお前ダンス苦手じゃなかったか?それにこういうのはダンスっつっても種類が違うだろ?」
「福田明日香を甘く見てもらっちゃ困りますよ。これくらいの基本は全て習得済みです!」
「なのか」
「さあさ、ほら、立って立って!」

福田は私の手を取って起き上がらせると、その手を持ったままワルツの構えらしきものをとった。
そして最初は音楽には合わせずに、声でリズムを取りながらゆっくりと動き出した。

「いいですか?私が教えますから。言う通りに動いてくださいよ」
「ほんとに大丈夫なのか?」
「大丈夫ですって。簡単なステップ覚えるだけですから。後はグルグル回ればいいんですよ」
「はあ……」
「それじゃ私の足元見てくださいよ。はい、ランタッタ、ランタッタ、ランタッタ……」
「なあ、なんでランタッタなんだ?ズンチャッチャだろ?」
「何言ってるんですか。ズンチャッチャだったら格好悪いじゃないですか!ワルツは宮廷舞踏ですよ!」
「そういう問題なのか?」
「ほら、最初はゆっくりでいいですから、ランタッタ、ランタッタ、ランタッタ……」
「こうか?」
「なかなか呑みこみが早いですね。そうそう、そんな感じです」

115 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:52

「いや、呑みこみが早いというか……えっ?……ちょっとそれ、上手すぎませんか?」
「もしかして才能あるかな?」
「才能というか……それ以前になんでもうさくさんがリード取ってるんですか!」
「ははははは……才能、かな?」
「もうさくさん!もしかして最初からワルツ踊れたんじゃないですか!」
「初心者なんて一言も言ってないだろ?ほれ、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ……」
「それならそうって言ってくださいよ!大体なんでもうさくさんが踊れるんですか!そんなのありえません!」
「お前が踊れるってのもありえねーぞ。まあ確かに俺もありえないと思うけどさ」
「人は見かけによらないというか、この前の龍笛もそうですけど、もうさくさん、一体何者なんですか?」
「んー、何者って言われてもな。見たまんまの男だな、ほれ、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ」
「知らないことばかりですよね……私……もうさくさんのこと……」
「それでいいんじゃねーの?知ってしまうとつまらん男だぞ、多分」
「それじゃ知らないままでいます。それでいいですよね?」
「はははは。まあ好きにしろって。ただ、ランタッタじゃなくてズンチャッチャだからな、それは譲れないぞ!」

そうやって狭い部屋の中を二人でグルグルと回り続け、
いつしか目が回って二人は床の上に大の字に寝転がっていた。

「もうさくさん……圭にちゃんと告白してくださいよ」
「ああ……」
「振られたりしたら承知しませんからね!」
「はははは……ってかそれ笑えないんだけど」
「まあいいです。圭が今日来てれば、私も結果見れたんですけどね……」

その日は保田がラジオ収録のために大阪にやって来る予定だったのだが、
運悪く翌日に仕事があるとかで、結局部屋に来ることはなかったのだ。

せっかくの姉さんのお膳立てが台無しになったということだったが、
ただ、もし保田が夕方にでもこの部屋を訪れていたとしても、
福田のこともあって、結局私が彼女に告白することはなかったのかもしれない。
そしてまた、福田との最後の楽しい時間を過ごすこともなかっただろう。

116 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:52

福田が帰ったのはその翌日のことだった。
春先は忙しいらしく、次に来るのは六月になるかもしれないという話だったから、
多分もう福田と会うことはないのだろう。
東京でばったり遭遇したような、そんな偶然が再び起きない限り……。

「そうそう、これさ、市井と彩っぺに渡してほしいんだけど」
「なんですか?……お守り、ですか?」
「そそ。安産祈願のさ。もうこっち来ることないだろうから」
「そうですね。わかりました。それじゃ私から渡しておきます」
「頼むな。あとよろしく言ってたって伝えてくれな」
「ええ。それじゃ、行って来ますね!」
「ああ、元気でな……」

そうして福田が部屋を出て、そして静かに玄関のドアが閉まった。
福田が去り、あと私に残されていたのは保田の訪問をただ待つことだけだった……。

それからの数日間は脱力感に覆われた日々だった。最後のバイトを終え、四月に入り、
そして桜が咲き誇るにつれて、その脱力感は徐々に膨れ上がっていた。
この部屋を出るということがいよいよ現実のものとなって迫ってきていたのだ。

ただ、それはもしかすると、福田が帰ったことが影響していたのかもしれない。
福田と一緒に過ごす時間というのは、私にとってはかなり充実したものだったのだから。
もちろん、そこには恋愛感情は無かったが、ただ、そう断言できるかと言われれば……。

私にとって福田は、一人の人間として興味深い存在だった。
自分に似たものを持っており、しかし自分には無い強さも持っている。
そんなところに私は確かに惹かれていたし、それに誰よりも呼吸が合う存在だった。
保田以上に気を許せたし、何より自分のことを慕ってくれていた。

そこに無いのはただ愛だけなのだろう。
だから、それは私がそこに愛を加えるかどうかという、恣意的な問題なのだ。

117 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:52

恋は無意識的であり、愛は意識的なもの。それが私の恋愛観だった。
そのどちらも自己の欲望に基づくことは変わりないが、そこには当然大きな違いがある。

私の経験で言えば、恋が上手くいった試しは一度もなかった。
ごく自然に好きになった女性がいたとしても、大体の場合は何もできずに終わってしまう。
遠くから見つめているだけで幸せだとか、ちょっと話しただけで舞い上がるとか、それが恋なのだと思う。
しかし人は恋だけでは満足しない。もっと近くにいたいとか、もっと一緒にいたいとか、
ぶっちゃけエッチしたいとか、まあそういう欲望を抑えきれなくなるのが人間の本性であり、愛なのだと思う。

そうして告白したことも数回あった。全て玉砕に終わったが……。
でも、恋が上手くいく人というのはそんなにはいないだろう。
恋ではなかったけれど、付き合っているうちに「愛してる」なんて言うようになるのが一般的なのだろう。
それは付き合っているということを意識することによって自然と芽生えるものなのだ。

だから、私が福田に恋をしていないのは当然ではあるけれど、
しかし、それはいつでも愛に発展する可能性は秘めていたわけなのだ。
福田は私のことを慕っており、私もそれを快く思っていたのだから。

その可能性が実現しなかったのはただ、私が別の女性に恋をしていたからなのだろう。
もし私が保田に惚れていなかったり、あるいはすでに振られていたりしていれば、
福田との関係もまた別のものになっていたことだろう。それはあくまでも可能性の話ではあったが。

結局、私がいつまで経っても保田に告白できなかったのは、
これまで恋というものを成就させたことがなかったからなのかもしれない。
だから無意識的にそれを恐れていたのだろう。でも、もうそんな必要は無いのだ。

私はこの部屋を出ると決めていたのだから。そしてもう彼女たちに会うこともないのだから。
普通なら、恋が上手くいけば、それはそのまま愛へと発展していくのだろう。
でも私は、それを恋のまま終わらせようとしていたのだ。

例え彼女が私のことを好きでいてくれていたとしても……。

118 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:52

数日が過ぎ、小雨の降る中を、私は大阪城ホールに向かっていた。
モーニング娘。のコンサートがあることを聞き、最後に紺野に会っておこうと思ったのだ。
と言っても、別にコンサートを見に来たというわけではなかった。

紺野や姉さんに電話をして、リハを見学させてもらえるようにと話をつけてもらっていたのだ。
正確に言えば、紺野に少し時間を取ってもらって少しだけ話そうと思っていたのだが、
姉さんや例のマネージャー見習いの女性の計らいで、中に入ることが許されたのだ。
もちろん勝手に入ることは当然できず、そのマネージャーさんと同行するということだったが。

慌しい裏口から連れられるようにして中に入ると、すでにリハーサルらしきものが始まっていた。
舞台の上には数人のメンバーがおり、どうやら立ち位置を確認しているらしかった。

そんな様子を少し眺めた後、マネージャーさんの後ろについて楽屋近くへと移動する。
その通路で突然声をかけられて後ろを振り向くと、そこには見知った顔が立っていた。
まあ当然会う可能性はあったわけで、そんなに驚くことではなかったのかもしれない。

それは飯田圭織だった。向こうも私がいることに驚いたらしかったが、
そんなに長いこと話し込むような余裕は当然なく、それにそんなに話すこともなかっただろう。

話したことと言えば、私があれから飯田のシングルを買ったということくらいで、
それを聞いた彼女が優しい笑顔で「アルバムも買ってくださいね」と返したことくらいだろう。

そんな話をしているところに、偶然紺野が通りかかった。
毎週テレビで姿を見ていたため、そんなに久しぶりだという感覚はなかったが、
紺野の方は私と飯田に面識があることに驚いている様子だった。

紺野ともそんなに話すことはなかったのだが、でもそれで良かったのだろう。
私と紺野は友達なのだから。だから私が“卒業”する前にただ会っておきたかっただけなのだ。

結局ライブは見ずに、マネージャーさんに何度も感謝の意を伝えた後、私は家路についた。
そしてその翌日のことだった。保田が久しぶりに部屋を訪れたのは……。

119 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:52

それはつまり、私の“卒業”へのカウントダウンの始まりであり、
私はそのためにある計画を立てていたのだったが、しかし……。

彼女は疲れていたのか、それとも私を敬遠していたのか、私の誘いには乗ってこなかった。
一緒にキャッチボールをしようと誘っても、一緒に散歩しようと誘っても、
夜になって夜桜を見に行こうと誘っても、疲れてるの一言で終わってしまうのだ。

別に告白くらいなら部屋の中でもできるのだが、
私としては、どうしてもある場所で告白したかったのだ。
それは私の気持ちを最大限表現できる場所であり……そして思い出の場所でもあり……。

そんな状況を救ったのは、その翌日の昼にやって来た後藤だった。
ハワイから帰ったばかりで、さらにすぐに春のツアーが始まるということで、
後藤はかなり忙しいはずなのだが、色々事情があってこの部屋でゆっくりしたいらしかった。
それは以前からだったが、まあ後藤にも色々苦労や悩みがあるのだろう。

この部屋を頼りにしてくれているというのは素直に嬉しいものだったが、
そう思う反面、この部屋を出ようとしていることへの罪悪感というものも感じてしまう。
私がいなくなった後、彼女たちが変わらずにこの部屋に来てくれるかどうか、それが心配だったのだ。
誰もいない部屋であれば、それはそこらのホテルと何ら変わらないのだから……。

キャッチボールをしようという誘いに対して、後藤はかなり乗り気だった。

「キャッチボールかあ。いいねえ、私もやりたい!ね、圭ちゃんもやろうよ?」
「あたしはいいよ……そういうの苦手だから……」
「そんなこと言ってないで、ね?ね?やろうよお」
「ほら、後藤もそう言ってんじゃん。せっかく来たんだからさ。な?な?」
「二人でやればいいじゃん……ほら、ごっちんやりたいって言ってるし」

私がこれほどまでに保田を誘うというのは珍しいことだった。
後藤もそれに気づいたのか、いつしか率先して保田を説得するような形になっていた。

120 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:53

「あ、私晩御飯の準備しないといけなかった。ね?だから圭ちゃんがもうさくさんの相手してあげてよ!」
「あたし作るからいいよ。あたし作るから」
「あー、それだけは勘弁してくれ。せっかく後藤が来てくれたんだから後藤の手料理……」
「それどういう意味よ」
「んー、はっきり言えば、まあ後藤の料理は美味いってことかな?」
「そりゃごっちんには叶わないけど、あたしだって……」
「ね?ね?私料理作っとくから、だからほら、もうさくさん一人じゃかわいそうだから、ね?」

後藤の説得によって、保田は渋々ながらそれを承諾した。
ただし、キャッチボールをする場所はいつもの川沿いの公園ではなかった。
ちょうど桜の季節ということで、いつもの公園は屋台なども出て、かなり人が多かったのだ。

「あれ?駐車場でするの?」
「いやさ、人のいない場所の方がいいだろ?だから車でさ……」
「もーちゃん車買ったの?」
「そんな金ねーって。下の人に借りたんだよ。ベンツじゃない方だけどな」
「そうなんだ。ねえねえ、あたしも運転したいんだけど、駄目かな?」
「やめといた方がいいんじゃねーか?俺もまだ死にたくないしな」
「どういう意味よ!」
「ははは。てかお前元気じゃんか。なんか元気なかったから心配してたんだぞ」

そして私たちが向かった場所は、とある川の河川敷だった。
本来なら休日にはそこそこ人がいるのだが、そういう人たちは花見に出かけているのだろう。
その河川敷には桜の木が無いため、周辺にはほとんど人はおらず、たまにジョギングの人が走り、
たまに自転車が走り、そして岸辺で数人が釣りをしているという程度だった。

キャッチボールを始めるも、保田の運動音痴は予想以上だった。
山なりの緩いボールを投げても、そのボールとグローブとの感覚が全くわからないらしい。
投げるたびに保田はボールを後ろに逸らし、そして予想もしないような方向へと投げ返す。

それはまあ、別の意味で楽しめるものだったかもしれないが。

121 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:53

ようやく慣れてきたのか、保田は緩いボールであればなんとかグローブに当てることができるようになった。
ただし、無事にキャッチすることは稀で、グローブに当ててそれを拾うといった感じだった。

「お、だいぶ上手くなってきたじゃん」
「うん」
「ただ、投げ方がなあ……」
「でもちゃんと真っ直ぐ投げれるようになったよ、ほら」
「まあそうだけどさ、おっとっと」
「ねえ、なんでキャッチボールとか誘ったの?それもわざわざこんなとこまで……」
「んー?まあなんつーか、たまにはお前と二人でのんびりしたいなって、さ」
「ごっちんは?」
「まあ後藤がいてもいいんだけど、でもなんつーか、お前とさ、会うのも久しぶりだしさ……」

彼女もそこまで鈍感ではないだろう。私が彼女を誘い、そしてわざわざ車で移動してまで
やって来たということで、そこに何らかの理由があるということに薄々気づいている様子だった。

「それにさ、なんつーか……」
「ねえ、さっきからなんつーかばっかりだよね?」
「ははは。だな」
「それで、なんつーか、何?」
「あ、あのさ。俺……お前に言いたいことがあって……」
「……うん」

そう言った途端、彼女の表情が少し険しくなった。
眉に力が入っているのか、どことなく緊張しているようにも見えた。
それは多分、その先の言葉を予見していたからなのだろう。

私はふーっと大きく息をした後、大きく振りかぶってボールを投げた。
そして、彼女と出会ってからずっと言えずにいた言葉を彼女に投げかけた。

「俺…………お前のことが好きだ」

122 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:53

ボールはゆっくりと弧を描き、そして彼女のグローブの中に吸い込まれるように入っていった。
そして、そのグローブの中に収まったボールを右手で取り出しながら、彼女が口を開いた。

「うん…………あたしもだよ……」

そう言ってから投げたボールは、ワンバウンドはしたものの、
それも私のグローブの中へと綺麗に吸い込まれていった。

「そっか…………安心した……」
「うん…………あたしも安心した……」

二人とも安堵の表情を浮かべていた。そしてそれは自然と笑顔になり……。

「ごめんな。遅くなって……」
「ううん、いいよ。だって、あたしもだもん」

何がどうなるというものでもなかったが、私は彼女に想いを伝え、そして彼女はそれを受け入れた。
たったそれだけのことだったが、しかし、二人ともそれをずっと待っていたのは確かだった。
ただし、それは私が全てをやり終えたことを意味していた……。

それからもしばらくキャッチボールは続き、私と彼女の心の中を白いボールが行き交っていた。

「なんかちょっと疲れちゃった。安心したせいかな?」
「ははは。それじゃそろそろやめるか」
「うん」
「それじゃ帰るか……後藤も待ってるしな」

そう言った時だった。彼女は周囲を見回し、そして私に伺うように尋ねた。
それはつまり、彼女もそれを覚えていたということだった。

「ねえ……ここさ……ここ…………やっぱり?」

123 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 19:53

「なんだ……覚えてたか……」
「うん……なんとなくだけど、なんかそんな気がしたから……」
「ははは。まあなんつーかさ……色々考えてさ……」
「ちょっと意外だったかな?もーちゃんにもそんなとこがあるんだって……」

その場所は私にとって思い出の場所だったのだ。そしてそれは彼女にとっても同じだったのだろう。
そこはあのドラマの中で、私が彼女と別れのキスをした場所だったのだ。
そしてまた、架空の話ながら、私が未来においてホームレスをしていたのもこの場所だった。

そう、私と彼女との関係はここから始まったと言ってもいいのかもしれない。
あのドラマの中で、私は自分の未来に向けて歩き出すために彼女とここでキスをしたのだ。
それは別れのキス……でも、それは現実世界の私にとっては、始まりのキスでもあった。
あのドラマがあったおかげで、そしてあのドラマが終わったことによって、
私の部屋に彼女たちが来るようになったのだから。だから、それは終わりであり始まりなのだ。
そして、この場所を選んだということには、当然今の私の決意も含まれていた。
その決意にまで彼女が気づいていたかどうかはわからなかったが。

「ねえ、確かそこの上だったよね?」
「ああ……」

そう言って私たちは斜面を上り、土手上の遊歩道へと向かった。
幸いなことに周囲に人はおらず、遠くの方に人影が見えるくらいだった。

「ここ、だね」
「ああ、だな」

二人ともそう言った後に言葉は無かった。ただ何かの予感だけを抱いていた。それはもちろん……。

――――――
   つづく
――――――

124 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:47

帰りの車の中に会話は無かった。でも、それでよかったのだろう。
カーステレオから曲が流れては消え、消えては流れる……。
そんな中、誰がリクエストしてくれたのか、偶然にも私の好きな曲が流れ始めた。

   素敵な別れさ 出会いの未来があるから
   夢かなう日まで 今はここでそう Bye For Now

   Oh Bye For Now マジじゃ言えないけれど
   誇りに思うよ 君の横顔
   Oh Bye For Now ちょっと切ないけれど
   今はこの場所で Bye For Now

   君の旅立ちを 誰にも止められない
   心に決めた 君だけの勇気だから

   素敵な別れさ 出会いの未来があるから
   夢かなう日まで 今はここでそう Bye For Now

   Oh Bye For Now マジじゃ言えないけれど
   誇りに思うよ 君の横顔
   Oh Bye For Now ちょっと切ないけれど
   今はこの場所で Bye For Now

   記憶の瞳が 想いにかがやくよ
   誰もが微笑んだ 君の笑顔忘れはしない

   素敵な別れさ 出会いの未来があるから
   夢かなう日まで 今はここでそう Bye For Now

   すべての明日は いつだってきっと君の味方さ
   夢かなう日まで 今はここでそう Bye For Now

125 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:47

曲が終わり、パーソナリティがアーティスト名と曲名を告げる。

「はい、ということで、T-BOLANで『Bye For Now』、聴いてもらいましたー」
「ラジオネーム『みかんのいれもん』さん、いかがだったでしょうかー、はい、それでは次の……」

陽気なパーソナリティの声がどこか羨ましくもあり、そして恨めしくもあり……。
私はただ黙ってその声を耳に入れ、そして彼女もまた黙ったまま前を向いていた。

無事に駐車場につき、そして部屋へと戻る前に一階の部屋に立ち寄り、車の鍵を返す。
それは私が初めて、自分のために彼らにお願いしたことでもあり、
そしてそれもまた、私がこの部屋から旅立つという決意を表すものでもあった。

鍵を返している間、彼女はエレベーターの中で私を待ってくれていた。
慌てて乗り込み、そして閉まるボタンを押した。すると……。

彼女は突然、私に抱きつき、そして……。

「ねえ……どこにも……行かないよね……」

やはり彼女も私の何らかの決意に薄々気づいていたのだろう。
それまで長い間、ただ黙っていただけの男が、突然気持ちを伝えるというような行為に出たのだから、
それがただ事ではないと考えるのも、また当然だったのかもしれない。

私は彼女を優しく抱きとめ、そして……答えた言葉は、
多分、私が生まれてから一番辛く、そして一番切ない嘘だった……。

「ああ……どこにも行かないよ……」

その彼女の温もりは、私に幸せを伝えるとともに、私の罪悪感を助長するものでもあった……。

とその時だった。エレベーターの扉が開いた瞬間、びっくりしたような、ある声が周囲に響いたのだ。

126 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:47

「わあおー!……やーるじゃん!お二人さん!」

その声の主は後藤だった。偶然にも、後藤はエレベーターを待っていたのだ。
後藤は手に鍋を持っており、下の部屋に料理を届けようとしていたらしい。
そこで目に飛び込んできたのが、私と保田の抱擁……驚くのも無理はなかっただろう。

「あ、違うの、違うの、これは……」
「いいっていいって。それよりよかったじゃん、二人とも!おめでとう!」

なぜか言い訳する保田に対して、後藤がかけた言葉は祝福だった。
後藤は多分、それを始まりだと捉えたのだろう。
でも、それは私にとっては終わりの抱擁であり、そして別れの抱擁だった……。

翌日、二人は一緒に帰り、そして部屋には私だけが残った。
そして、その時点でもう、私の役目は全て終わったということになる。

……。

そして数日後、私の部屋は空っぽになっていた。
でも、心の中には抱えきれないほどのたくさんの思い出が詰まっていた。
彼女と出会い、そして彼女たちと過ごし、それは良くも悪くも楽しい思い出だった。
そしてまた、彼女たちのおかげで、私は少し前向きになれたのかもしれない。

それまでの私は、ただ過去に縛られてばかりの男だった。
過去を生きようとし、そして生きられないことに苛立ちと諦めを覚えていた。
でも、そんな私に対して、彼女たちは大切なことを教えてくれた。

過去を生きるのでも、現在を生きるのでも、未来を生きるのでもない、
全てを生きればいいのだ。人には過去もあり、現在もあり、未来もある。
だったら、そんなことにこだわらず、全てを生きればいいのだ。
なぜなら、それらは全てが全て、自分に繋がっているのだから……。

127 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:48

リビングのテーブルの上に書置きを残し、そして最後にもう一度部屋を見渡す。

正直、いつまでもこの部屋にいたいという思いもあった。
でも、自分だけが立ち止まっているわけにはいかなかった。
例え彼女たちが私を必要としてくれていたとしても、私が彼女たちを必要としてはいけないのだ。
この部屋は彼女たちのための部屋であり、私のための部屋ではないのだから……。

彼女たちもまた、私のそうした気持ちに気づいてくれることだろう。
そして、快く送り出してくれるはずだろう。私のその“卒業”を……。

玄関へ向かい、そして靴を履く。
決意がぶれないように靴ひもをきつく縛り、そして立ち上がる。

玄関の横の壁に飾られているハワイの民族の仮面がその様子をじっと見守っていた。

「それじゃ……行ってくる、な……」

誰に言うわけでもなく、私は民族の仮面に向かってそう呟いた。
そして、玄関のドアを開けようと手を伸ばした、その時だった。

私が開けるよりも早く、そのドアが先に開いたのだ。
そして、その向こうには一人の女性が立っていた……。

その女性はただ黙ってこちらを見つめていた。
私もただ黙ってその女性を見つめていた。

口元が何か言いたそうに動いていた。
でも、それが何を言おうとしているのかはわからなかった。

ただ、その言葉には心当たりがあった。
なぜなら、その言葉は多分、私の本心でもあったのだから……。

128 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:48

廊下を一人の男が歩いている。
コツコツという靴音が重く薄暗い照明の中を移動しているようでもあった。

男はその廊下の突き当たりに一瞬立ち止まると、何か一言呟いた後、
その左側にあったドアを開けて、その中へとゆっくりと入っていった。

「ああ、来たのかね」

部屋の中で待っていたのだろう、年配の男が声をかけた。
頭はやや薄く、顔の筋肉はそれまでの男の人生を表すかのように引きつったまま固まっていた。

「遅くなってすいませんでした。少しまとめるのに時間がかかったものですから」

男はそう言って、手に持っていたクリアケースを差し出した。中には白い書類が詰まっていた。
しかし、年配の男の方は特に急いでいた様子も無く、それを受け取らずに窓の外を眺めていた。

部屋の中は無機質だった。壁は白く、蛍光灯の薄い明かりがその白さをようやく照らしていた。
部屋の片隅には簡素なベッドが置いてあったが、しばらくの期間使用されていないらしく、
やや埃をかぶって、ぼやけた感じを醸し出していた。
まるでそのベッドだけが現実のものではないかのように。

「あの患者が亡くなってもう一ヶ月になるかね」

年配の男はそう言って口をつぐんだ。視線は窓の外を見つめたままだった。
男はこの仕事を始めてもう何十年も経つ。
どんなことにも慣れている、そしてどんなことにももう驚かないだろう、と、
そう若い男は思っていた。しかしその患者に関してだけは違っていたのだろう。
だからこそ、彼にこの仕事を頼んだのだ。もちろん、あくまでも研究対象として、なのだろうが。

男は白いベッドを見た。あの患者はこの部屋に入院していた。確かにここにいたのだ。
しかし、今はもういない。彼は二年間の入院生活の末、自ら死を選んだのだ。

129 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:48

ベッドから窓の外へと視線を移す。外ではやんわりと雪が舞っていた。

「雪ですね」
「ああ、今年の初雪になるのかな」

二人の会話は、その患者に関わった長い時間を知っていて初めてわかることだっただろう。
彼はこの病院では珍しいくらいまともな患者だった。思考も言動も、行動も安定していた。
しかし、やはりここの患者であることには違いなかった。

彼は一言で言えば、単に妄想癖のある人間だった。
最初にこの病院を訪れた時は、外見も内面も、ほとんど普通の人と変わらなかったほどだ。

ただ一つだけ違っていたのは、彼の妄想が単なるイマジネーションの類に収まらなかったということだろう。
彼は、その自己の妄想を現実だと信じていたのだ。そして、その妄想の中に“確かに”彼は住んでいた。

ある意味、自分の中で理想とする世界を構築していた、そういうことになるのかもしれない。

「君はどう思うかね?彼の話を……」

年配の男が窓の外から部屋の中へと振り返りながら尋ねた。

「そうですね。なかなか興味深いと思いますけど、でもやっぱり現実とは……」
「君は現実と仮想の区別を説明できるかね?」

年配の男は若い男の言葉を遮るようにそう言うと、再び窓の外へ視線を戻した。
二人とも白衣を着ているのは、二人がこの病院の医者であるからだ。
年配の男の方がその患者の最初の担当であり、少し前からは若い男の方がそれを引き継いでいた。
ただ、それもその患者が死ぬまでのことであって、今は二人とも別の患者を担当していた。

「現実と仮想ですか……それは現実じゃない世界が仮想……ということなんじゃないですか?」
「それでは君にとって現実とは何だね?今いる世界を現実だと証明することはできるかね?」

130 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:48

年配の男の問い掛けには、多分哲学的な意味も含まれていたのだろう。
この仕事をしていると、そういう深いことを自然と考えるようになるのだ。
ただ、その若い男の方は、まだそこまで深い思慮に思い至ることは無い様子だった。

「それは……」若い男はそこまで言って口を閉ざした。

現実を証明する、それは果たして可能なことなのだろうか。
それとも、それはいわゆる“悪魔の証明”の類に入ってしまうものなのだろうか。

“悪魔の証明”――それは悪魔がいることを証明するのは容易いが、
悪魔がいないことを証明することは事実上不可能である、というものである。

例えば、“白いカラスがいる”ことを証明するには、実際に白いカラスを見つければいい。
しかし、“白いカラスがいない”ことを証明するには、世界中の全てのカラスを漏らさずに調べ、
そして最終的に断定しなくてはならないのだ。もし1億匹のカラスを調べて全て黒だったとしても、
次の一匹が白いカラスかもしれないし、あるいは次の世代で白いカラスが生まれるかもしれない。

それは事実上不可能なのだ。そして、それは現実を証明することにも当てはまるのかもしれない。

普段生活しているこの世界を、人々は現実と感じ、そして考えている。
しかし、それが本当に現実の世界なのかどうか、それは誰にもわからない。いや、わかりえないのだ。
もしかすると、その世界以外に本当の現実の世界があり、今いる世界は仮想の世界なのかもしれない。

ただ、もしそうだとしても、それは本当の現実の世界というものに触れて初めてわかることなのだ。

「彼にとってはあの世界こそが唯一の現実の世界だったのだよ。我々とは違う世界だがね」

若い男はクリアケースから書類を引っ張り出すと、ベッドの横にあった机の上にそれを並べた。
その年配の男の言葉が彼にとってまるで説教のように難しく聞こえたのかもしれない。

「一応テープ起こしをして、彼のその……“現実”の世界を経過ごとに文字にしてみました」

131 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:49

男は“現実”という言葉を少し意識しながらそう言うと、年配の男の顔色を窺った。
その書類には患者がこれまでに口走ったことが順番に書かれてあった。
もちろん、それをまとめたのはそこにいる若い彼だ。

彼はこの一ヶ月間、録音されていた患者の言動を全て聞き取り、それを文字化する作業に追われていた。
もちろん、今担当している患者の面倒を見ながらだ。だからこそ、若い男はその年配の男に対して、
どこか反発した感情を抱いていたのかもしれない。それは若い下っ端の医者にありがちな感情でもあった。

「どうだったね?彼の世界は」そう尋ねて、年配の男が続ける。
「私は現実の世界よりも、彼の世界の方がよっぽど整然としていると思うがね」

そう言われて若い男は思った。確かにそれはそうかもしれない。
彼の語っていた世界は、単なる妄想癖の患者の話とは思えないくらい、まともなものだったのだ。

「ええ、もっと支離滅裂かと思いましたが、一応全てが一つの線になってましたし、病気とは思えないほどで」

その患者の話――彼にとっての現実世界だ――は大まかに五つに分かれる。
最初の話(その書類では『第一部』と定義してある)は、彼の家庭の生活に関する話だった。
そこでは彼は家族に囲まれて生活しており、そして一人の居候的な女性が話のメインだった。
その女性は歌手をしていたが、定期的に彼の家に泊まっており、そこで彼は彼女に恋をしたのだ。

「私もね、最初彼の話を聞いたときは、これはこの病院に来るような患者ではない、とね、そう思ったのだよ」
男は同意を求めるでもなく、しみじみとそう語った。

「ただね、彼は自分でそれは現実ではない、ということを認めてしまったのだよ。それで少し考えさせられたね」

年配の男が言っているのは、その書類における『第二部』と定義された部分のことだろう。

その患者はある日突然、それまでとは全く別のことを口走るようになったのだ。
しかし、それは単に(彼にとっての)現実の世界を移り変えた、というようなものではなかった。
彼にとって、その現実の世界はずっと一つであり、それまでの話は単なる現実を語る序章に過ぎなかったのだ。

132 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:49

「下手なドラマを見ているようだったね。と言っても、彼もそれまでの話をドラマだと言っていたがね」

その患者はそれまでの話はドラマの中の出来事だったと語った。
つまり、彼はそれまで、その仮想の世界の中で暮らしていたことを自分で認めてしまったのだ。
しかし、だからと言って、彼の次の話が現実であるということには当然ならない。
次の話も――正常な人間から見れば、しょせんは彼が頭の中で作り上げた虚構の世界に過ぎないのだから。

「あの時はね、私も彼は正常な人間であって、一応現実と仮想の区別がついていると思ったんだがね」
「でも、それは逆だったんだよ。彼は仮想の世界を一度構築することで、確固たる現実というものを作ったんだ」

年配の男はそう言ったものの、ただ、若い男にはそれは疑問だった。
その患者はあえて仮想の世界を作ることで、次の世界を本当の、現実のものとしたのだろう。
しかし、そこからは、現実と仮想の区別がついているといった男の正常な脳裏が垣間見えるのも事実だ。
だから若い男にはそれが不思議でならなかった。
その患者はその頃はまだ正常だったのではないのか、単なる普通の妄想癖に過ぎなかったのではないか。
これまで作業をしていて、それが疑問でならなかったのだ。

二人の会話――途中で多少議論っぽくなったところもあるが――はしばらく続いた。
窓の外の雪はいつのまにか止んでいたものの、寒さは部屋の中へもしっかりと伝わってきていた。
外の世界には音は無かった。しかし、そのシーンと静まり返った無音の状態が、
今にも中の世界へ襲い掛かってくるかのような、そんな張り詰めた緊張感が存在していた。

「君はどう思うかね。彼がその結末を話すことなく、死んでしまったということを……」

若い男はそれを聞いて少し自信ありげな表情を見せた。
それはこれまでその患者の話を文字化する作業を行っていたという自負があったからなのだろう。
確かに担当していた期間が長いのは、当然年配の男の方だった。
しかし、若い男はここ数日間、毎日のようにその患者の世界に“実際に”触れていたのだ。

「そうですね。彼にとって、その世界だけが唯一の居場所でした。だから、彼が死を選んだということは」
男が一呼吸置く。「彼は多分、その世界でも、居場所を失ってしまったんでしょう。だからこそ、死を……」

133 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:49

それに対して年配の男が尋ねた。

「つまり、彼はその彼の“現実”から追い出され、それに悲観して死を選んだということかね?」
「ええ、そうです。彼の話では、一応は自分から部屋を離れたことになってますけど……」

若い男の考えはこうだった。
その患者はとある世界に住んでいた。それはその患者にとっての唯一の現実世界だったのだが、
そこでは彼は、彼の部屋を定期的に訪れる数名の女性たちとともに暮らしていた。

彼はその女性たちを、『モーニング娘。』という歌手グループを卒業した存在だと説明していた。
“卒業”というのは、それを脱退した、もしくは脱退させられた、という意味の、彼の世界の用語だ。

その世界において、彼は一人の女性に恋をしていた。第一部から登場する保田という女性だ。
彼の世界はその保田という女性との関係を一応の主軸として進んでいた。
であるならば、彼がその結末を語らずに死んでしまったということは、それはつまり、
その保田と彼との関係に何らかの異変が生じたということなのだと、若い男は考えていた。
その患者の世界は、その女性との関係でこそ成り立っていたのだから。
だからこそ、その女性を失うことで、その彼の現実世界は存在意義を失ってしまい、そして……。

年配の男は彼のその考えをうんうんと頷きながら聞いていた。
しかし、その頷きは決してその考えを認める、というものではなかった。
若い男の考え方自体は評価しつつ、しかしその内容には同意できかねない、そういう意味が含まれていた。

「確かに君の考え方も、彼の世界を正しく捉えているだろう。しかしだね、私はそれは全くの逆じゃないかと」

それを聞いて若い男は渋い表情を浮かべた。
その言葉がそれまでの彼の作業を全て否定しているように彼には感じられたのだ。
自分に面倒くさい作業を押し付けておいてそれは無いだろう、と、そう思うのも当然だったかもしれない。

「それでは、どういうことだと……?」
「私はね、むしろ彼が彼女とうまくいったからこそ、死を選んだんだと思うんだがね」

134 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:50

若い男が理解できない、といった素振りを見せた。
年配の男はそれを見ない振りをしつつ、あるいは相手にせず、ゆっくりと言葉を続けた。

「もっとも、私は彼がそれで満足したからこそ死んだ、とは思わないんだがね」
机の上の資料をなんとなしに眺めながら更に続ける。
若い男は余計にわからない、といった表情を浮かべた。

「むしろ、彼はうまくいったことで、その世界が終わってしまうということを自ら意識し、そしてその世界から……」
「それでは、彼はその世界が仮想であることを認識していたと?」
「いや、そういうことじゃないよ。彼にとっての現実というのはそもそも……」

そう言ったところで若い男が立ち上がった。さすがに寒さに耐え切れなくなったらしい。

「冷えてきましたね。ちょっとコーヒーでも持ってきます」
「ああ、それじゃお願いするかな。ここはさすがに冷えるからねえ」

しばらく時間が空き、再び若い男が戻ってきた。手には二つのコーヒーの入ったカップを持っていた。

「お待たせしました」
「それで話の続きだがね、普通妄想癖の患者というのは、現実逃避の対象として世界を構築するんだが」

年配の男は感謝の言葉も言わないままに話を続けた。
ただ、若い男もそれには慣れているといった感じで、特に気にする様子は見られなかった。

「あの患者はね、むしろ自ら苦悩の世界を構築しようとしていた、そう思えるんだがね」
「自分から、ですか?わざわざ?」
「ああ。だからこそ、彼は自らその世界にリアリティを感じ、現実世界だと認識することになったんだと……」
「わからないでもないですけど……」

二人同時にコーヒーをすする。カップから立ち上る白い湯気が揺れては消えていった。
その湯気を目で追いながら、年配の男が再び口を開いた。

135 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:50

「彼にとって、その世界は現実なんだよ。だからこそ、そこは苦悩の世界でなくてはならなかった」
「それじゃ、彼が死んだのは、それが苦悩の世界ではなくなってしまったから、ということですか?」
「まあ私の個人的な見解だがね。それに、私はあの最後に出てきた人物は、保田ではなく、むしろ……」

そう言って男は再びカップに手を伸ばした。そしてさも旨そうにそのコーヒーを口に含むと、
フーッと深い息を吐いた。まるでその次の言葉が言ってはいけない言葉でもあるかのように、
そして、その言葉をコーヒーとともに飲み込んだかのように。

「むしろ何ですか?保田ではないとすれば、それは……」
若い男はじらされては溜まらないとばかりにその先を促した。
しかし、年配の男は口を開かなかった。彼はただ、どこか面白そうな表情で若い男を見ているだけだった。

その表情は、まるでその若い男に対して、その答えはすでにわかっているんじゃないかね、と、
そう尋ねかけているようでもあった。そして実際、若い男はそう察していた。

「それじゃ……」
若い男はそう言って一旦言葉を止めると、
まるでそれまで眠らせていたものを唐突に目覚めさせたかのように、矢継ぎ早に言葉を発した。
それは多分、彼がずっと、どこかに感じていたことだったのだろう。

「それじゃ…あれは保田ではなく……?だからこそ……その世界は終わりを……?」
年配の男はそれを聞いて顔の筋肉を緩めた。
それは硬直したまま固まっていた筋肉が久しぶりにほぐれたような、ぎこちない笑顔だったが、
ただ、その仕事を彼にまかせたことが正しかったと、そういった笑顔でもあったのかもしれない。

「その答えは誰にもわからないよ。彼が死んでしまった今となってはね……」


   『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる……!!!』

   第五部 「ある患者の現実」 終わり

136 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:50

――(著者あとがき)――


これは以前、ある精神科の病院において、一人の入院患者の語った言動について、
二人の医者が意見を交わした時の話を再現したものである。


その患者がどのような人間だったのか、それを知る術は今となっては残されていない。
しかし、彼が、その患者が、どのような“現実”に住んでいたのか、それについては、
その二人の医者が残した、彼のレポートを見ることで、それなりに知ることができるだろう……。


人が何に生き、何のために死ぬのか、それは哲学的な意味を含む難しい問題ではあるが、
その答えは人それぞれであり、中にはこの患者の例にあるように、
現実とは違った世界、妄想の中に生きるということも決して否定されるべきことではないのかもしれない。


ただ、私が今回のこのドキュメンタリーの取材で感じ、そして一冊の本として出版しようと思ったのは、
それは皆さんに対して、一つの問いかけをしたかったから……それが大きな理由だったのかもしれない。


皆さんにとって現実とは何か……そしてそれが現実である由縁は何か……。
この本を書き上げて、私はようやく、その答えを……自分の答えを見つけたような気がしている。
もちろん、それは私だけの答えではあるが……。




   『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』

   第五部 「ドキュメンタリー・ある患者の現実」 完

137 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:50

――(以上引用)――

これは、ちまたに流布している一つの物語である。
ある日突然、自分の家に歌手がやって来て、そして一緒に暮らすようになるという物語。
それは物語ではあるものの、しかしどこか都市伝説的な様相を呈しているものでもある。

その証拠に、こうした類(たぐい)の物語はちまたにおいて様々に語られており、
この『モーニング娘。』という名前の歌手グループに関する物語もそれは一つではない。
家にその歌手グループの現役メンバーがやって来るというスタンダードな話の他に、
ここで紹介した脱退メンバーがやって来る話、お好み焼き屋にやって来る話、
太平洋の孤島にやって来る話、そのメンバーがじょんいるという不思議な踊りをする話など、
それは枝分かれを繰り返しながら進化(と、そして衰退)を続けているのである。

そして、ここで紹介した物語の場合も、それは一つの物語でありながら、しかし一つではない。
と言うのも、その結末は語られる場所や人によって様々に変化しているのだ。
登場人物の保田という女性とゴールインした結末もあれば、別のメンバーとの結末もあり、
またバッドエンドもある。そしてここで紹介した物語は、その中でも例外的な結末を持ったものである。
つまり、精神病院の患者の話というまとめられ方で終わっているものであって、
更にその後にドキュメンタリー本という結末が付加されている点は注目に値するだろう。
これはこうした類の都市伝説というものが発生し、変化する過程を考える上で貴重な資料と言えよう。

そして、この系統の都市伝説で一番不思議なのが、その登場する歌手グループの名前である。
『モーニング娘。』というその名前は、明らかに非現実的な印象を持っており、一般的とは言えない。
特に末尾の『。』などは、常識的とは言えないものであって、それが現実の物語として語られ、
そして受け入れられている点で、それは都市伝説というものの在り方に一石を投じるものであろう。
非現実が現実として語られる……。ただし、私はそこにこそ、都市伝説というものの答えがあると思っている。
今の時点では結論は出せないが、それは社会が益々複雑化していくことによって徐々に姿を現すことだろう。
今から10年後、夢の21世紀を迎えた時、我々はその答えを知るのかもしれない。


   『とある一つの都市伝説〜その系統と発生のメカニズム〜』 結

138 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:51

「まあ、こんな感じですかね?」

一人の女性がパソコンに向かってそう問い掛けた。もちろん答えは返ってこない。
その女性はもう一度、そのパソコンに浮かんだ文字列に目を移すと、ふーっと、一つ溜息をこぼした。

それはあまり納得がいっていない、というようにも見え、
そしてまた、長かった作業がようやく終わったことに安堵したようにも見えた。

電気ポットから急須に一定量のお湯が注し落ちる。中には緑のお茶っ葉が入っていた。

「やっぱりお茶が一番ですね」
と、今度は電気ポットに向かって問い掛ける。いや、同意を求めたといった方がいいだろう。
どうやら独り言が癖になっているらしい。部屋には彼女の他に姿は無かった。

彼女はお茶を入れた湯のみを持つと、再び元のパソコンの前へと戻った。
パソコンの画面に見える文章は、多分小説なのだろう。それもその女性が書いたものであるらしい。

再びその画面に見入りながら、やはり独り言を口にする。
今度は自分の書いたものを客観的に批評するような口ぶりだった。

「うん。まあまあですね。精神病の患者に都市伝説……我ながら複雑で期待を裏切る結末です」
「ただ……やっぱり最後は書けませんでしたね……あれが……私だったってことは……」
「最後くらい自分の希望通りに書いても良いのかもしれませんが……」

そう言うからには、そこに書かれてある文章は、彼女の希望通りとは言えないものなのだろう。
それも『私だった』と言ったことを踏まえると、その小説には彼女自身も登場しているということになる。

彼女はしばらくパソコンの前で考える素振りをすると、今度は思い出したように壁の時計を見上げた。
時刻は夕方の六時。それを見て彼女は慌てたようにパソコンを閉じて台所へと向かった。
それはそろそろ誰かがその部屋に帰ってくるということを意味していた。
そして、彼女がその誰かのために料理を作ろうとしている、ということも。

139 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:51

ピンポーンとインターホンの音が響き、玄関のドアがガチャリと音を立てた。
そして数秒して、台所に一人の男性が顔を覗かせた。

「ただいま〜。いい臭いすんなあ。今日は何だ?……β(ベータ)か?」
「残念ですけど、今日はα(アルファ)ですよ」
「なんだよ、またαかよ。……なーんてな。作ってくれるだけ感謝しないとな」
「そうですよ。ちゃんと感謝してくださいよ。こんな美少女の手料理が食べられるなんて、幸せ者ですよ!」
「自分で言っちゃうところがなあ。……まあお前が言うと単なる自虐に聞こえるんだけどな」
「自虐ってどういうことですか!」
「なんだ?聞きたいのか?なら説明してやってもいいけど……本当に聞くか?」
「やっぱりいいです」
「だろ?……な?」
「そうそう、昼に裕子から電話がありましたよ。今夜こっちに来るそうです」
「まじかよ……。この前も無理やり朝まで飲まされたんだぞ。たまにはこっちのことも……」
「いいじゃないですか。裕子だって色々大変なんですから。それだけもうさくさんを必要としているんですよ」
「必要……ねえ……。ただの生贄だと思うんだけどなあ……」

そんな会話が続く。部外者からはそれが冗談なのか本音なのかよくわからない内容だったが、
ただ、先ほどまでの一人の時と違い、彼女はどこかうきうきしている様子だった。

会話が終わり、男性の姿はすでに台所から、そしてリビングからも消えていた。
そして再び、彼女は独り言を呟いた。今度はかき混ぜている鍋に向かって……。

「……やっぱり……書かなくて正解でしたね……」

「だって、それは今も続いているから……今も……この部屋で……」




 『ほぼ毎日、元娘。たちがとある奴の家に行く・・・!!!』 完

140 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:51

新垣「うーん、こりゃ駄目だまめ」

その言葉に、隣にいた少女が不思議そうな表情で声をかけた。

紺野「えっどうして?私は面白いと思うんだけど……特に最後のオチの連続とか……」
新垣「面白いとかそういうことじゃ無いまめ。これじゃ芥川賞は無理まめ」
紺野「芥川賞って……里沙ちゃん、そんなの狙ってたんだあ」

少女は呆れつつも、どこか感心するような口調でそう答えた。

新垣「そうまめ。里沙たんは第二の綿谷りさになるまめ。名前も同じまめ」
紺野「名前はそうだけど……でも……」
新垣「それはどういう意味まめか?あさ美ちゃんは里沙たんが綿谷りさより劣ってると言うまめか?」
紺野「劣ってるとかじゃなくて……それ以上に話題になると思うんだけど……」
新垣「それはそうまめ。モーニング娘。の絶世の美少女が芥川賞を取るんまめ。国民栄誉賞も夢じゃないまめ」
紺野「で、でもさ、そういうのって、仕事にも影響しちゃうんじゃないの?卒業させられちゃうかもよ?」
新垣「……それは困るまめ。里沙たんは歌手業の片手間で適当に娘。小説を書くのが好きまめよ」
紺野「それじゃ、芥川賞なんて取っちゃったら、余計に駄目なんじゃない?」
新垣「……それもそうまめ。うっかりしてたまめ」
紺野「あ、でもペンネームならいいのかな?」
新垣「ペンネームまめか。さすがはあさ美ちゃんまめ。それなら幾つか考えてあるまめ」
紺野「本当?」
新垣「本当まめ。これまでに100の候補を考えたまめ」
紺野「100も???」
新垣「そうまめ。あさ美ちゃん、良かったら選んでくれるまめか?」
紺野「う、うん。いいけど……」
新垣「それじゃ今から読み上げるまめ」

141 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:51

新垣「1番、豆垣里沙」
紺野「ちょっと変わってると思う。もう少し普通な方がよくない?」
新垣「2番、小根垣里沙」
紺野「それもちょっと……」
新垣「3番、新垣里沙太郎」
紺野「男なの?」
新垣「4番、新垣(あらがき)里沙」
紺野「漢字は同じだよね?」
新垣「5番、新垣(あらがき)里沙太郎」
紺野「合体させても……」
新垣「6番、織田信長」
紺野「え?なんで急に?」
新垣「7番、豊臣秀吉」
紺野「そういうのはペンネームとは違うと思うけど」
新垣「8番、羽柴誠三里沙」
紺野「それは選挙のおじさんじゃ……」
新垣「9番、木下藤吉郎里沙」
紺野「よくわからないけど、どうして秀吉なの?」
新垣「10番、綿谷りさ」
紺野「それはまずいよね?他人だし」

142 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:51

新垣「11番、りさ綿谷」
紺野「名字と名前入れ変えても……」
新垣「12番、リサ・ワタヤ」
紺野「カタカナでも同じだし……」
新垣「13番、芥川賞作家・綿谷りさ」
紺野「特定したら余計に駄目だよね?」
新垣「14番、モーニング娘。新垣里沙」
紺野「それじゃペンネームの意味無いし」
新垣「15番、モーニング娘。5期メンバー新垣里沙」
紺野「だからばれちゃうってば」
新垣「16番、モーニング娘。5期メンバー筆頭・新垣里沙」
紺野「筆頭って言われても……」
新垣「17番、モーニング娘。(UFA所属)」
紺野「いや、それだとグループになっちゃうから。しかも所属まで言わなくても」
新垣「18番、モーニング娘。プロデューサーつんく♂(肩書きのみ)」
紺野「だからってプロデューサーも駄目でしょ?勝手に人の名前騙るのとかも。て言うか肩書きだけなの?」
新垣「19番、モームスメンバーR・N」
紺野「騙ってないけどペンネームになってないし」
新垣「20番、新垣メンバー」
紺野「そのメンバーは容疑者って意味だから……」

143 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:52

新垣「21番、新垣里沙」
紺野「え?それそのままじゃん……」
新垣「22番、新垣里沙・通称新垣」
紺野「通称って言うか、ただの名字だよね?」
新垣「23番、新垣里沙・通称新垣里沙」
紺野「どういうこと?」
新垣「24番、新垣里沙・幼名日吉丸」
紺野「幼名って……」
新垣「25番、新垣里沙・改め豊臣秀吉」
紺野「なんでまた秀吉?」
新垣「26番、新垣里沙・旧姓綿谷」
紺野「だからそれはまずいよね?」
新垣「27番、新垣里沙似」
紺野「それは別人ってこと?」
新垣「28番、新垣里沙似・実は本人」
紺野「駄目じゃん……」
新垣「29番、新垣里沙似・実は本人と見せかけて綿谷りさ」
紺野「見せかける意図がわかんないし、似てないし、そもそもペンネームと言えないし」
新垣「30番、新垣里沙似・実は羽柴誠三里沙」
紺野「だからなんで秀吉なの?」

144 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:52

新垣「31番、前田利家」
紺野「秀吉じゃないけど、結局は同じことだよね?」
新垣「32番、利家とまつ」
紺野「それだと作品名になっちゃうよね?しかも大河ドラマだし」
新垣「33番、部屋と利家とまつ」
紺野「それは何?もしかして歌?」
新垣「34番、ウラジホストクで遭いましょう」
紺野「え?それは何?歌っぽいけど元ネタがわかんないんだけど」
新垣「35番、ウラジホストク」
紺野「それは地名だから、ペンネームじゃないし」
新垣「36番、ウラジホ」
紺野「略しても同じだし」
新垣「37番、アラジオ」
紺野「なんか違うし」
新垣「38番、アラガキ」
紺野「微妙にスライドしてるし」
新垣「39番、モーニング娘。5期メンバー新垣里沙(国民栄誉賞受賞予定)」
紺野「予定って言われても……」
新垣「40番、モーニング娘。5期メンバー筆頭侍・新垣里沙・幼名日吉丸(国民栄誉賞受賞予定)」
紺野「それはもうペンネームとしては完全に間違ってるよね?よね?」

145 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:52

新垣「41番、第一回選択希望選手・新垣里沙・メインヴォーカル担当・ウラジホストク在住」
紺野「色々言いたいんだけど、とにかくペンネームにしては長すぎるよね?」
新垣「42番、新垣」
紺野「だからって名字だけっていうのも……」
新垣「43番、里沙」
紺野「それもちょっと……」
新垣「44番、新垣」
紺野「聞いたし」
新垣「45番、里沙」
紺野「それも」
新垣「46番、新垣」
紺野「だから聞いたって」
新垣「47番、里沙」
紺野「……」
新垣「48番、芥川賞作家・新垣里沙」
紺野「絶対受賞させてくれないと思う……」
新垣「49番、さしみ賞作家・新垣里沙」
紺野「それ、なに?」
新垣「50番、モーニング娘。5期メンバー筆頭侍・新垣里沙・またの名を羽柴誠三里沙」
紺野「またの名ってのが普通はペンネームだよね?でもどうしても秀吉?」

146 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:52

新垣「51番、綿谷りさには負けないと自負している新垣里沙」
紺野「心意気を言われても……」
新垣「52番、芥川賞作家・綿谷りさには絶対に負けないと自負している新垣里沙」
紺野「それはもう伝わったから……とりあえず長いから……」
新垣「53番、綿谷」
紺野「だから、それはまずいでしょって。確かに短いけど」
新垣「54番、りさ」
紺野「それも」
新垣「55番、スティッグマイヤー」
紺野「……」
新垣「56番、さしみ賞作家・スティッグマイヤー」
紺野「いや、さしみ賞は貰ってないと思うけど……」
新垣「57番、ポポローニャ=ボルタフスキー」
紺野「突然ロシア人?」
新垣「58番、ウラジホストク在住・ポポローニャ=ボルタフスキー」
紺野「そこでウラジホなんだ。でもペンネームに住所はいらないと思うけど」
新垣「59番、金原ひとみ」
紺野「それはなんか、初めて普通っぽいんじゃない?里沙ちゃんだってことわからないし」
新垣「60番、芥川賞作家・金原ひとみ」
紺野「って、もう一人の方……!」

147 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:53

新垣「61番、『インストール』『蹴りたい背中』でお馴染みの綿谷りさ」
紺野「だから……特定しちゃったらまずいでしょ?」
新垣「62番、ウラジホストク在住・綿谷りさ」
紺野「間違った特定されても……」
新垣「63番、モーニング娘。7期メンバー・綿谷りさ」
紺野「勝手に加入させるのはどうかと。……もしかして娘。に『インストール』とか言いたいとか?」
新垣「64番、……」
紺野「図星っ!」
新垣「65番、そろそろ疲れてきた新垣里沙」
紺野「変な名前ばっかり考えるから……」
新垣「66番、でも頑張る。だってそれが里沙たんなんだも〜ん。by里沙」
紺野「まだやるんだ。てか、それも候補なの?」
新垣「67番、新垣(あらがき)里沙太郎秀吉」
紺野「また秀吉……」
新垣「68番、新秀(あらひで)」
紺野「略した?」
新垣「69番、芥川」
紺野「それは問題だよね?」
新垣「70番、芥川新秀(あらひで)」
紺野「それも問題だけど……でも、もしかして一番まとも?」

148 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:53

新垣「71番、芥川新秀こと新垣里沙」
紺野「せっかくまともだったのに」
新垣「72番、芥川新秀こと新垣里沙改めポポローニャ=ボルタフスキー」
紺野「ねえ、漢字四文字に決めたら?」
新垣「73番、飯田圭織」
紺野「確かに四文字だけど、かなりまずいよね?」
新垣「74番、鈴木秀行」
紺野「どこかで聞いた名前だけど、なんで鈴木?」
新垣「75番、鈴木 Daichi 秀行」
紺野「そいつかよ……」
新垣「76番、新垣 Daichi 里沙」
紺野「鈴木だから“Daichi”なんだと思うんだけど」
新垣「77番、新垣 Hideyoshi 里沙」
紺野「新垣で秀吉ってのがわからないんだけど……」
新垣「78番、新垣 Seizou 里沙」
紺野「誠三でも同じだってば」
新垣「79番、誠三⇔秀吉」
紺野「意味わかんないし」
新垣「80番、L⇔R」
紺野「……」

149 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:53

新垣「81番、ポポローニャ⇔ボルタフスキー」
紺野「ねえ、その名前一体なんなの?」
新垣「82番、ポポローニャ⇔ボルタフスキー」
紺野「えっ?」
新垣「83番、ポポローニャ⇔ボルタフスキー」
紺野「いやっ、だからそれ、全部同じ……だよね?」
新垣「84番、ポポローニャ⇔ボルタフスキー」
紺野「同じだよね?ね?」
新垣「85番、ポポローニャ⇔ボルタフスキー」
紺野「ってか、繰り返す意味が……」
新垣「86番から90番、ポポローニャ⇔ボルタフスキー」
紺野「だからってまとめなくても……てか最初からまとめてよ」
新垣「91番、メロン⇔記念日」
紺野「その記号は一体何を……?」
新垣「93番、マロン⇔記念日」
紺野「マロンはいいんだけど、番号飛ばしたよね?」
新垣「95番、新垣 Daichi 里沙⇔誠三@日吉丸 .co.jp」
紺野「い、意味が……しかもまた飛ばしてるし」
新垣「96番、新垣里沙・通称」
紺野「えっ?通称なに?」
新垣「97番、百姓から関白に上りつめた男、豊臣秀吉の生まれ変わり⇔新垣 Daichi 里沙太郎秀吉」
紺野「頭が痛くなってきた……」
新垣「98番、誠三」
紺野「も、もう秀吉でいいから……」
新垣「99番、誠三」
紺野「だからもういいってば……」
新垣「100番、にいがき(←なぜか変換できない)里沙」
紺野「今まで変換できてたよね?ね?」

150 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:53

新垣「……もうペンネームはいいまめ。また今度決めるまめ」

新垣はそう言って紺野の顔を見た。それに対して紺野は少し迷惑そうな顔を浮かべた。
それも当然だろう。ほとんど笑えないネタを延々と聞かされたのだから。

でも紺野は思った。それを聞かされたのが自分一人でよかったのかもしれない、と。
ネット大好き人間の新垣がそのようなことをもし仮にネット上に書き込んだりしていたら、
それはもう非難が殺到するか、あるいは冷笑の嵐が吹き荒れるか……。

紺野が帰った後、新垣は再び自分のパソコンを起動し、その完結した文章を読み返していた。

新垣「ふむふむまめ。やっぱり最後は福田さんで終わらして正解だったまめ」
新垣「精神病の患者の話じゃ今までの読者があまりにも不憫まめ」
新垣「やっぱりこういうのは希望を残しておくべきまめね。さすがは里沙たんまめ」
新垣「しかも保田さんではなく福田さんで終わらせるところが大どんでん返しって感じがするまめ」
新垣「一億二千六百万人の里沙たんファンもこの結末にはきっと驚くはずまめ」

新垣が書いた文章、それは一年以上にもわたって連載していた稚拙な娘。小説の最終話だった。
そしてその締め方、オチとして、新垣は夢オチならぬ精神病オチを使うことにしたのだ。
しかし、それでは読者が不憫だと思った新垣は、急遽それに更に文章を付け加えていた。
読者などほとんどいないにも関わらず、別の意味で自信過剰なところが新垣の悪いところかもしれない。

新垣は再びキーボードの上に両手を伸ばした。
小説の完結を示す“『ほぼ毎日、元娘。たちがとある奴の家に行く・・・!!!』 完”という文字の下に、
黒い棒のようなカーソルがゆっくりと点滅していた。

そして一文字一文字を確認するように、慎重に最後の言葉を入力する。
それが新垣の娘。小説の締めくくりである、作者の後書きだった。

151 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:54

 『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』

 長い間ご愛読いただきまして、ありがとうございました。
 セブンからの読者の方、それ以降の読者の方、とにかく、ありがとうございました。

 これにてこの話は完結です。

 私としても長い間連載していたということで、かなり淋しいのですが、
 でも、その淋しさもまた、人生を豊かにするものだとそう信じています。

 それでは、またいつか皆さんに会える日が来ることを祈って……。

 by 冬のオペラグラス@作者

















   『新垣里沙の娘。小説生活〜綿谷りさには負けないもん〜』 終わり

152 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:54

「ふーっ……やっと終わったー!」

広いリビングに一人の女性の声が響き渡った。
それは多分、部屋の反対側にいた一人の男性に対して言った言葉だったのだろう。

彼は無意識的にそう感じ、仕方なく彼女の近くに歩み寄ると、おもむろに声をかけた。

「何が終わったんだ?」
「うん。前にも言ったよね。あたしがネットで小説書いてるって話」
「ああ、そう言えばなんか聞いたことがあったような気がしないでもないような……」
「なーによ、それ!人がせっかく終わらせたって言うのに、労(ねぎら)いの言葉くらいあってもいいでしょ?」
「労いって言われてもなあ、大体どんな小説書いてんだ?」
「それは別にいいでしょ!もーちゃんには内緒だよ!」
「内緒はないだろ?こうして二人で暮らしてもう半年だぞ?俺の秘密はすぐ聞きたがるくせに!」

そう言ってもーちゃんと呼ばれた男性は少し怒ったような表情を浮かべた。
ただ、以前ならば――同棲し始めた頃ならば、それは軽い冗談として流れていったことだろう。
しかし、お互いに相手が笑っただけで幸せな気分になれたあの頃はもう遠いどこかへと……。

「いいじゃん!これね、ほんとに長かったんだから。ね?だからさ、労ってほしいんだ。お願い!」
「なんで俺が労わなきゃいけないんだよ。もういいよ。俺疲れたから……部屋で休んでるよ」
「ねえ、ねえってばあ!……バカ!……もーちゃんのケチ!……」

彼女がそれほど労いの言葉に固執したのには理由があった。
彼女が書いていた小説、それは彼女ともーちゃんとの恋愛を描いたものだったのだから。
そして、彼女がそれを書き始めたのが、実はもーちゃんと付き合いだした頃だったのだ。
そう、それはまさに、お互いに相手が笑っただけで幸せな気分になれた頃……だっただろう。

「はあ……せっかく終わらせたのに……やっぱりもーちゃん、私のこと……」

彼女はそう言ってから、何度も何度も、深く溜息を吐いた。

153 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:54

彼女には最近気になることがあった。あまり表情には出さなかったものの、
最近彼女が少し苛立っていたのもそれが原因だった。

それはもーちゃんに別に好きな人ができたんじゃないか、ということだった。
それは付き合い始めた頃から覚悟していることではあった。
彼女は自分に自信が持てないでいた。それはその容姿が最もな理由だっただろう。
今は女優という仕事をしているものの、それでも色物扱いをされ続けているのは彼女自身も理解していた。

そして、だからこそ、彼がいつか自分の元から去ってしまうのではないか、
そういった不安をずっと抱き続けていたのだ。

そして更に、その不安が増大したのが二、三ヶ月ほど前のことだった。
彼女の昔の仕事仲間が部屋に遊びに来たのだ。名前は福田明日香と、そして中澤裕子。
そして、その日を境に彼の態度が少しおかしくなったと、そう彼女は感じていた。

特に彼が浮気をしたとか、そういう証拠があるというわけではなかった。
しかし、彼女にとって、その疑惑は証拠が無ければ無いだけ膨らむものだった。

そして驚くことに、彼女はその怒りをその小説にぶちまけてしまったのだ。
いや、ぶちまける、という表現は明らかに間違っているだろう。
それは決して、怒りのあまりの文章、展開というものではなかったのだから。
それはかなり冷静な、そして計算づくのものだったのだ。

彼女はその小説の中で、彼と彼女たち――福田と中澤のことだ――を意図的に接近させたのだ。
その理由……それは、最後に思いっきり二人を叩きのめし、そして勝利の余韻に浸るため……。

しかし……しかし……彼女はそれを実行することができなかった。
それがどれだけ虚しいことなのか、書いているうちに痛いほど身に染みてきていたのだ。

だから彼女はその最初の計算通りにその小説を終わらすことはできなかった。

154 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:54

そしてまた、彼女はそんな卑怯な自分のことを、自分で嫌いになってしまっていたのだ。
だからこそ、彼女は予定していたはずの、彼女が最後に彼の前に現われるという結末を
うやむやにしてしまったのかもしれない。

ただ、そのままで終わらすことはもっと回避しなくてはならないことだった。
そこで彼女は苦心の末に、一つの作戦を実行することにしたのだ。
それが、夢オチのような場面転換を幾度となく重ねるという、ほとんど反則とも言える終わり方……。
今までの話はなんだったのか、と誰もが思うその展開こそが、彼女に残された唯一の作戦だったのだ。

様々な作者を作り上げては、それぞれの作品を次々と重ね合わせ、どれが本筋なのかわからなくする。
その中にはなぜか福田の存在もあったが、ただ、それも彼女の後悔の表れなのだろう。
友人であるはずの福田に対してあらぬ疑いを勝手にかけ、そしてそれを憎んでいたのだから。
だから彼女は、そんな自分を救うために、自分を許せなくなる前に、
その償いとして、福田を一人の作者として登場させたのだろう。

ただし、それでも彼女の中の疑惑というものが完全に消え去ったというわけではなかった。

そこが女性の恐ろしいところでもあるのだろう。――と、寺川光太は改めて思った。

寺川光太は調査会社の人間である。いわゆる探偵業というやつで、今は個人で小さな事務所を開いていた。
しかし、探偵と言っても、一般の人々が想像する探偵というものとは全く違った稼業だろう。
現在の仕事は、女優・保田圭の素行調査。ただし、それは尾行とかそういう程度のものではなかった。

すでに一ヶ月前からその仕事は開始されており、今はこうして彼女の動作を逐一観察できるほどであった。
彼女の部屋には盗聴器や小型盗撮カメラが幾つも仕掛けてあり、彼女の電話の内容や、
パソコンで何をやっているのか、その押したボタンの一つすらも、全てが把握できるようになっていたのだ。

完全に違法であるが、しかし寺川にはそれを気にする様子は微塵も無かった。
むしろ、その違法性を楽しんでいるような、そんな感じにも見えただろう。
それもそのはず。最近の調査機材はどれも小型で優秀であり、
寺川は彼女の独り言どころかその吐息までもを全て捕捉できていたのだから。

155 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:55

そして何より、最近の寺川はこの保田という女優に少しづつ好意を持ち始めていたのだ。
寺川も最初は保田のことはほとんどタイプではなかった。他のメンバーと比べるとより一層そうだっただろう。
しかし、その保田という女性の私生活を見れば見るほど、何か惹き込まれるものを感じたのだ。
そして、そんな寺川が一番楽しみにしていたのが、それが保田と彼氏との夜の営みだった。

カメラやマイクは部屋中の至るところに仕掛けられていた。当然、寝室にもだ。
二人の営みはあまり頻繁とは言えず、むしろ一ヶ月でたった二回という程度のものだったが、
しかし寺川にはそれがまた、その欲望を掻き立てるのにちょうどいい具合になっていた。

そして、次に二人がその営みを行ったのは、それから一週間後のことだったのだが、
しかし……それを寺川が観察することはなかった。

その営みが行われた日の二日前、東京湾から寺川の水死体が上がったのだ。

それは新聞やテレビでも報道された。ただ、彼の身元がわかった後になっても、
彼が小さな調査会社を運営していたことは全く触れられることが無かった。
ただ何らかの仕事上のトラブルに巻き込まれたのではないか、というありきたりな報道がされるだけだった。
そしてこの事件も他の例に漏れず、人々の記憶から次第に消えようとしていた。しかし……。

「あのお、警部補……れすよね?ちょっと発言してもよろしいれしょうか?」
「ん?後にしろ後に!こっちは忙しいんだ。ったく、今月だけで管轄内で殺人が三件……」
「れも、れも、これきっと重要な情報なのれすよ。えっとれすね……」
「一体なんだね!情報があるならまず本部に報告してくれ!大体君は交通課じゃないのかね?」

警部補と呼ばれた50代くらいの男性は若い新米の婦警をそう一喝すると、
堅苦しい表情で冗談と思しきものを呟きながら廊下の奥へと消えていった。
「これじゃまるで週一の刑事ドラマじゃねーか……事実は小説よりも何とやら、か」

「うーん。刑事ってのはよくわからないのれす。とりあえず捜査本部に行けばいいのれすかね?」

そう確認するように言ってから、新米婦警は二階へと階段を登っていった。

156 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:55

「おう、辻巡査じゃねーかよ。一体どうしたんだい?いかにも困ってますって顔してるぜ?」
「あう。吉澤巡査部長。ちょうろ良かったのれすよ。捜査本部に行きたいのれす」
「捜査本部って、あの殺人のかい?」
「そうなのれすよ」
「おいおい、俺っちたちは交通課だぜ?それが何の用で刑事課のテリトリーなんて行くんだい?」
「重要な情報が手に入ったのれすよ」
「わお、マジでか?」
「それはよくわからないのれす。れも石川しゃん……石川巡査長からそう言われたのれす」
「おいおい、それで本部なんてよく行くつもりになったなあ。あそこはへんくつ者の溜まり場だぜ?」
「それはわかるのれすよ。さっきも鬼瓦みたいな警部補に怒鳴られたばかりなのれす」
「ははは。鬼瓦ってことは、あの警部補か。そりゃ災難だったなあ」
「そうれすよ。思い切り怒鳴られたのれす。鬼瓦のくせに最低なのれすよ」
「そうだよなあ。顔は同じ鬼瓦でも女優の保田さんとは偉い違いだよな」
「保田しゃんというと、あの元モーニング娘。の保田圭しゃんれすか?」
「そうそう。実はなあ、俺っちも昔、モーニング娘。に憧れてた時期があったんだよなあ」
「そうなのれすか!ののもなのれすよ!」
「おう、そうか。でもなあ、オーディションに参加する前に解散しちゃったんだよ。何年前だったかな?」
「ののが中学生らった時なのれす。らから7年くらい前れすかね?」
「そっか。もうそんなになんのか。懐かしいなあ。今じゃ活躍してるのは何人いるんだか……」
「飯田しゃんに保田しゃんれしょ?それにのの、市井しゃんのファンなのれすよ」
「おう、俺っちも市井さんは好きだぜ?」
「それは奇遇なのれす。ののも市井しゃんみたいに清楚で素敵な女性になりたいのれす」
「ははは。そりゃそうだよなあ。俺っちも市井さんには憧れちまうもんなあ」
「……そう言えば、後藤しゃんはあれからろうなったんれすかね?」
「さあなあ、結局あれで解散しちゃったもんなあ。シャブなんて、人間壊れるだけなのにな」
「そうれすね……いくら後藤しゃんれも、覚醒剤らけは許せないのれす」
「おっと、そんなことより、さっき言ってただろ?重要な情報ってどういうことなんだ?」
「そのことれすか。実はれすね、今朝知らない車が止まってるって署に通報があったのれす」
「ふむふむ」
「それれレッカー移動に向かったのれす。そしたら、車内から怪しげなものがたくさんれてきたのれす」
「あやしげなもの?」

157 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:55

「バッカモーン!なんでもっと早く報告せんのだ!」
「ひぃっ、すいませんなのれす。れも……れも後にしろって言われたのれす」
「ったく、これだから最近の新人は……」
「とにかくお前はもう下がっていいから。手の開いてる者を全員招集させろ!至急証拠品の分析だ!」

レッカー移動されたその車の持主は都内に住む銀行員だった。
しかし、銀行員は忙しくて車にはほとんど乗らず、車は自宅から1km離れた駐車場に停めたまま、
一ヶ月ほど全く見ていなかったという。そして、その間に盗難にあっていたということがわかった。
つまりは盗難車だ。それも、その銀行員が車のケアをしていなかったということを知っていたとなると、
それはかなり念入りな下準備をしていたという可能性も出てくるのだ。

ただ、その車の盗難が寺川光太殺人事件とどのように繋がるのかは今のところ判明していなかった。
わかっているのは、その工場脇に放置された車の中から、寺川に関係すると思われる、
膨大な量の書類や、そして写真やディスクなどが見つかったということだった。
その車を盗んだのが寺川なのか、それとも別の人物なのかも今のところは不明である。

「わお、それじゃ大手柄じゃないか!」
「そんなことないのれすよ。鬼瓦しゃんにまた怒鳴られたのれす」
「ははは、そりゃまあ、捜査本部もかなり慌ててるってことなんじゃないかな。殺人三件山積みだしね」
「それにしても、寺川ってのは何者なんれすかね?ののには何も教えてもらえなかったのれすよ」
「そりゃそうだよ。あちらさんは外部には一切情報は渡さないからね。交通課も外部ってこと」
「れも、ののたちが見つけたんれすよ。少しくらい教えてくれてもいいんじゃないれすかね?」
「まあ、そういう枠組みってのが組織ってもんだからな。それは仕方ないって」
「うーん、あれ?」
「ん?どうしたんだ?」
「ポケットの中に何か入ってるのれす」
「?」
「あ、これ……朝あの車の中を確認した時にうっかりポケットに入れてしまったのれすよ」
「おいおい、それはちょっと……まずいんじゃないのか?」
「れも、おかしいれすね。ろうしてそんなことしたんれすかね?」
「とにかく、まずそれが何なのか見てみろよ」

158 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:55

「写真なのれす……それも三枚重なってたのれす」
「写真か、何が写ってるんだ?ちょっと見せてみろって」
「……あ、ああ!!!い、市井しゃんなのれす!!!」
「市井さんって?あの、市井さん?」
「お、思い出したのれす!そうれす。のの、市井しゃんの写真をうっとり眺めてたのれす」
「そしたら、一緒にいた石川しゃんに『何ぼーっとしてんの!』って怒られて……それれつい……」
「その反動で無意識的にしまっちまったってわけか」
「れも、れも、なんれ市井しゃんの写真があるんれすかね?これ、家の中みたいれすけろ……」
「ほんとだ。って、これ……盗撮ってやつじゃないのか?」
「と、盗撮れすか!な、なんて卑猥な響きなのれしょうか!そ、それじゃ寺川って男は?」
「……盗撮マニア……ってこともあるけど、これはひょっとすると……もっと複雑な事情があるのかも!」
「ろ、ろうしましょう。これ、今から本部に……」
「バカッ!ちょっと待て。いいか?その写真は何枚くらいあったんだ?」
「えーと、よくわからないけろ、たくさんあったのれす。たくさんの書類と一緒にカバンに入ってたのれす」
「書類……ってことは、その書類で寺川に関連したものだとわかったわけだな?」
「多分そうらと思うのれす。石川しゃんが何か叫んで、それれ急いれ報告してくれって」
「なるほど。となると、これはこれで面白いことになるかもしんねーぞ!」
「これ、ろうしましょう。やっぱり本部に……?」
「まあ待て。大量にあった写真の中からたった三枚だぜ?となると、無くても困らないものかもしれない」
「ろういうことれすか?」
「俺っちたちで捜査するんだよ!この事件を……っていうか、その寺川って男がしてたことを、な!」
「の、ののたちが捜査れすか???」
「ああ。交通課だなんて言ってるけど、やっぱりドラマだって刑事が主役だぜ?」
「れ、れもほんとに大丈夫なんれすかね?」
「なーに、いいってことよ。それに……気になるしな。この写真に写ってたのが……市井さんってことが!」
「わかったのれす。ののも捜査するのれす!」
「よし、それじゃ、二人で捜査……ってのも心もとないな。そうだ。梨華は今どうしてるんだ?」
「石川しゃんなら、さっき捜査本部れ一緒に怒られたのれすよ。その辺にいると思うのれす」
「よし、それじゃまずは、俺っちたちの捜査本部結成と行くか!」
「了解なのれす!」

それが彼女たちを定められた運命へと導くことになるとは、その時はまだ……。

159 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:56

書類が散乱した机越しに、二人の男が向き合っていた。
灰皿からはタバコの煙がモクモクと立ち昇り、辺りをぼやけた空気に変えていた。

「で、君はこれを……本気で私に提出する気かね?」
「ええ。自信作なんです。どうです?凄いでしょ?」
「ああ、凄いね。それも物凄く……だが、それは……別の意味でだ!!!」
「だ、駄目ですか?」
「駄目だ。大体何だねこの脈絡の無い展開は!」
「それが狙いなんですけど……」
「君は狙いとか、そういうことを言える立場にあるのかね?」
「いえ……それは……」
「やれやれ。君のような無能な新人をなんでうちで使わなきゃいけないんだか……」

椅子に座っている方の男は向かいに立っている男にわざと聞こえるようにそう呟いて、
タバコに火をつけた。灰皿にはまださきほどのタバコが煙を立ち昇らせていたが、
それももしかすると嫌がらせの類だったのかもしれない。

「まあいい。上の方から君の脚本をどうしても使ってくれと言われてるからね……」
「そ、そうですか。ありがとうございます!」
「ただね……これはさすがに長過ぎるんじゃないかね?全部やるとしたら半年は……」
「すいません。まさか採用されるとは思わず、ついつい筆が進むままに書き進めたものですから」
「えーと、まず最初の部分は……これか。『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』……」
「はい、そうです。ある家庭に上がりこんだ娘。を主役にしたホームドラマです」
「それはいいんだが、ただねえ、主役が保田ってのは使えないよ。やるとしてもキャラ変更ね」
「そ、そうなんですか?でも、保田さんもコントには出てますよね?それにこれは保田さんじゃないと……」
「それで次が第二部だっけ?これは元娘。たち……これは当然却下、あるいはキャストと脚本変更」
「はあ、でもそれは元娘。だからこそ……」
「で、第三部は未来編か?そりゃコントとしては未来でもいいが、脚本が最悪だよ、これは」
「す、すいません……それは自分でもそう……」
「はあ。第四部……問題外……まあ軽いヤンキーキャラのコントならいけないこともないが」
「ですよね……」

160 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:56

「第五部……これは第二部の延長だったな。これも当然キャストの変更」
「……」
「で、この最後はなんでこんなに複雑なんだ?」
「それが狙いですから」
「それはさっきも聞いたが、どうしてこんなわけわからないの書くかなあ」
「でも……」
「精神病の患者に都市伝説に福田に、新垣の日記は、これは別コーナーならいけるか」
「本当ですか?」
「うーん、ただ彼女たちに漫才ってのはどうかね。以前にも他局さんで失敗してるからねえ」
「そうなんですか」
「で、次がまた保田か……ん?なんだねこの展開は?」
「すいません。それもわかりにくいですよね。突然殺人事件になったり……」
「いや……これは……使えるんじゃないか?今のところ辻と吉澤と石川がメインなのかね?」
「は、はい。そうです。その三人がメインです!」
「うーん、辻のスケジュールがどうなるかだなあ。ただ、刑事モノはコントとしても確かにやりやすいな」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、ただ、続き物ってのは困るんだよね。やっぱり単発モノじゃないと」
「そ、それじゃ毎回オチがあるように作り直したらどうでしょうか?」
「うん。それならまあ、いいかもしれないな。規模もちょっと小さくした方がわかりやすいかもな」
「規模を?」
「そうだ。例えばだ、そうそう、舞台を駅前の交番にして、出てくるのは町内の事件」
「町内……ですか?」
「おお、そうだ。それでいこう。タイトルは『駅前交番物語』だ!……とすると……」
「と、すると?」
「キャストはこれじゃ問題だな。婦警は年上がいいだろう。中澤(30)と、そうだな、後は矢口(31)だ」
「そして、交番の前には病院とバス停だ。そして近所の幼稚園の生徒や魚屋がよく通る設定にしよう!」
「あ、あの……それじゃこの脚本とは全然違って……」
「これをどう変更するかは君の腕次第だよ!期待してるよ!」
「は、はあ……」

 『ハロモニ。劇場の舞台裏〜駅前交番物語誕生秘話〜』 終

161 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:56

書類が散乱した机越しに、二人の男が向き合っていた。
灰皿からはタバコの煙がモクモクと立ち昇り、辺りをぼやけた空気に変えていた。

「で、君はこれを……本気で私に提出する気かね?」
「ええ。自信作なんです。どうです?凄いでしょ?」
「ああ、凄いね。それも物凄く……だが、それは……別の意味でだ!!!」
「だ、駄目ですか?」
「駄目だ。大体何だね、特にこの最後の展開は!」
「はあ、一応コントの台本が出来上がるまでの過程をですね……」
「君ねえ、ものすごくわかりにくいんだよ。特に区切りが無いと、どれがどの話なのやら」
「いえ……それは……」
「それにねえ、視聴者はこんなコントの舞台裏の身内ネタなんて興味ないんだよ」
「まあ、それはそうですけど……」
「視聴者が見たいのはモーニング娘。なんだよ。君の脚本はその基本がわかってない!」
「はあ……でも身内ネタで数字取ってる番組も結構ありますよね?」
「だから君は勘違いしてると言ってるんだ。例えこれをコントでもドラマでも、とにかくだな……」
「……」
「これを視聴者に見せて、一体どれだけの反響があると思うんだね?」
「それはまあ、あまり無いかと……」
「……やれやれ。君のような無能な新人をなんでうちで使わなきゃいけないんだか……」
「すいません。やっぱり無理ですよね……」
「いや、一応上の方から君の脚本を来月から使えと言われているんだ。なぜかは知らないけどね」
「……」
「ったく、どこのコネだか知らないが……まあいい。とにかく、これを使えってことだから……」
「はあ。ありがとうございます」
「とりあえず、使えそうな部分は……刑事モノくらいだな。ここをコント風に修正するように。わかったかね?」
「は、はい」

そして一ヵ月後、彼が書いた刑事ドラマ風の脚本がテレビで放映されることになった。
一週目は彼が最初に書いた脚本にあったままの進行であり、辻・吉澤・石川の婦警三人が、
ある殺人事件を独自に調査することを決意するまでを描いたシリアスなストーリー。
そして二週目は……。

162 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:56

署内のとある一室。そこに交通課の三人の婦警がひそかに集まっていた。

「とにかく、俺っちたちの唯一の武器は、この三枚の写真ってことだ」
「でも、この三枚の写真で何がわかるのかしら?その……殺人事件との関係が」
「それはまだわからないよ。ただ、これがあの殺された寺川が撮った写真だとすると……」
「それが殺された原因?ってこと?」
「その可能性が高いってことよ。こうやって有名人のスキャンダルを餌にしていたのかもしれないだろ?」
「それにしても市井しゃんは綺麗なのれす。さすが結婚したい“独身”女優ナンバーワンなのれす」
「ほんとね、でも、ちょっと後ろめたいな。こうやって部屋の中を覗くなんて……」

そう言って石川は複雑そうな表情を浮かべた。
スリルや波乱を望む吉澤や辻とは違い、石川は刑事ドラマにはほとんど興味を持っていなかった。
むしろ交通課の婦警を目指して警察官に志願したほどなのだ。
そんな石川が吉澤の呼びかけに同意してこうして独自の捜査に加わったのは、
二人のように推理ごっこがしたいからではなく、ただ単に親友の吉澤に誘われたからだった。

「二枚目の写真は……これも市井しゃんれすよね?」
「ああ、サングラスをかけて変装してるみたいだけど、格好から言って市井さんだろうね」
「これ……ろこなんれしょうか?ろこかの通りみたいれすけろ」
「うーん。後ろの建物に看板みたいなのが見えるけど……文字までは読めないな」
「ねえ、この三枚目の写真って、これってやばいんじゃない?」
「え?どうして?」
「だってこれ、隣に写ってるの、男の人でしょ?」
「だね。でもマネージャーさんかもしれないし、ただの友達かもしれないぜ?」
「そうならいいんだけど、でもちょっと、寄り添ってる風に見えない?」
「まあ、市井さんもいい年だし、カレシの一人や二人くらいいても……別に、な?」
「でも、この写真だけじゃ何とも言えないよね?部屋の中と、男とのツーショットだけじゃ」
「うーん。いきなり行き詰まりかあ。やはりこれだけじゃ捜査は無理なのかなあ」
「……あれ?この二枚目と三枚目の写真……ちょっと気になるのれすよ」
「ん?どうした?」
「これ、二枚目は、市井さんが一人れ、ろこかの建物に入るような、そんな感じなのれす。れも……」

163 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:57

「三枚目は……そこから二人れ、れてくるところに見えるのれす」
「……確かにそうだな。背景に写ってるレンガ模様の壁も一致するし……ってことは?」
「市井さんは一人でその建物に入り、そして男と二人で出て来た……そしてそれを写真に撮られた……」
「おいおい、梨華。それがそんなに重要なことなのか?」
「だって、普通はわざわざそんな写真なんて撮らないでしょ?撮るからには、それなりの理由が……」
「……!ってことは、寺川にはこの二枚の写真を撮る理由があった?それはつまり……!」
「それがスキャンダルってことじゃ?」
「おい、確か、課に画像分析の装置があったよな?ナンバープレートの分析に使うやつ!」
「それがろうしたのれすか?」
「わかった。それでこの写真を分析しようってことでしょ?」
「イエス、アイドゥーーーン!」

一時間後、三人は駐車違反取り締まりと称して署を離れ、都内のある通りにやって来ていた。
そこは有名なラブホテル街だった。そして写真に写ってる風景が今、三人の目の前に広がっていた。



「あのお、一応書き上げたんですけど、二週目はこれでどうでしょうか?」
「どうって言われてもね、君の脚本を使えって言われてるんだから、私には何も言えないんだがね」
「はあ……」
「ただね。君がどんなコネを持っていようと、大事なのは数字と、そして反響だよ」
「それはわかってます」
「とにかく、この刑事ドラマへの反響次第で、次をどうするかを決めるから。この二週分の反響でね」
「と言うことは……」
「視聴者の反響によって、続けるか、それとも打ち切るか、それを決めるってことだよ」
「はあ……」
「もし視聴者からの好意的な反響があれば続けるし、逆なら即打ち切りだ。わかったかね?」
「はあ……まあ、わかりました」
「もっとも、首を洗って待っていた方が身のためだとは思うがね。ふははははっ」


 『ハロモニ。劇場の舞台裏〜刑事ドラマの行方〜』 終

164 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:57















.

165 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:57

「ごめんなさい」
「まあ……別にお前が謝るようなことじゃないし……」
「でも……許可があるまで見ないって約束してたのに……」
「まあ見るなって言われると見たくなるのが人間ってもんだからな」
「……」
「それに、第四部は一応お前が監修してたんだし、そりゃ続き読みたくもなるわな」
「……」
「おいおい、そんな落ち込むようなことじゃないだろ?大体お前は俺の心配をしてくれたんだし」
「それはそうですけど……」
「俺も自分でもやばいと思ってたからな。こんなん書いてるようじゃ……」
「……」
「わかったよ。お前の言う通り、明日にでもまた精神科に行って薬処方してもらってくっから……」
「ごめんなさい……」
「だから謝ることじゃないだろ?こんな展開書いてたら確かに正常とは言えないからな」
「……」
「まあいいや。とりあえず晩飯にすっか。今日は二人っきりだし、お前の好きなもんでいいぞ」
「……」
「ん?どうした?なんか言いたいことでもあるのか?」
「あの……その……もうさくさん、もしかして、私のこと……」
「はあ?」
「いえ、なんでもないです……」
「なんだそりゃ。なんか今日のお前おかしいぞ。何かあったのか?」
「あの……もうさくさん……もしかして私に気がありませんか?」
「ゔふっ……な、なんだよ突然」
「だって、あの小説でもうさくさん、私のこと書いてましたよね。私が、もうさくさんのことを……って」
「なんだ、そんなこと気にしてたのかよ。あれはあれだ。ただのフィクションだろ?」
「で、ですよね」
「そうそう。俺が好きなのはあいつだけだからな。まあお前がもうちょっと色っぽければなあ」
「それ、どういう意味ですか!」
「ははは。まあいいじゃん。ってか、逆にお前の方が俺に気があるんじゃねーの?」
「な、ななななにバカなこと言ってるんですか!私がもうさくさんごときに惚れるなんて、そんなことは!!!」
「ほらほら、そうやってムキになるとことかさ」

166 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:57

「もうさくさんなんて嫌いです!」
「ははは。そういうところはほんっと素直なんだよな。いっつもは頑固なのにさ」
「悪かったですね。どうせ私は頑固ですよ!それももうさくさん以上に!」
「はいはい。さーて、それじゃ、晩飯作るか。お前どうするよ?一緒に作るか?」
「性格の悪い人とは一緒に作りません。作るんだったらお一人でどうぞ!」
「ったく、つれないなあ、ほんっと……」

彼女たちが私の家に来るようになって、早一年が過ぎた。
その間、色んなことがあった。中には辛いこともあった。
でも、多分私は、誰よりも幸せだったことだろう。

自分の恋は小説の中ではまあうまくいったけれど、それはまだ実行には移していないことでもあって。
その決意には、まだ誰も――勘の鋭い福田ですら気づいてはいないのだけれど。

明日、部屋に彼女がやって来る。保田が、久しぶりにこの部屋に……。
私はそこで、自分の気持ちにけじめをつけようと思う。
小説の中で書いたように、あの思い出の場所で……。

ずっと言えなかった言葉を、彼女に……。







   『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』

   第五部 「変わらぬ日常と、そして……」

   ―― 完 ――

167 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:58

*月*日――

長かった私の現実もようやく完結を迎えた。
人はそれを単なる脳内妄想だと、キモヲタの妄想だと言うかもしれない。
でも、それは私にとっては、はっきりと現実だった。
そして私はその現実の中で、とても幸せだった。
誰が何と言おうと、その私の幸せを否定することはできない。

でも、その幸せを続けるわけにはいかなかった。
幸せはいつかは消えてしまう。
例え消えなくても、必ず最後には無くなってしまう。
人間いつかは死ぬのだから。
問題は、死ぬ時に自分が幸せだったと思いながら死ねるかどうか、だろう。

だからこそ私は幸せをここで止めるのだ。
自分が満足している今こそがその時だと、そう思ったから。

168 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:58

*月*日――

身の回りの整理を始めて三日目、バイトも辞め、部屋もだいぶ片付いた。
必要なもの以外は全て処分するか、ダンボールに閉まって積んである。

これなら例え私が死んでも困ることはないだろう。

169 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:58

*月*日――

部屋が少し淋しい。
片隅に茶色いダンボールが積んであるけど、それでもガランとしている。

テレビも冷蔵庫も捨ててしまい、あるのはCDラジカセと電気ポットくらいだ。
それと布団と数日分の衣服、どれもその日までは必要なものだ。

でも、まだその日時と場所と方法が決まらない。

血を見るのは嫌いだし、苦しむのは嫌だし、高い所は苦手だ。
ここはやはり練炭というものを買うべきだろうか。
明日にでも近くのホームセンターを覗いてみよう。

170 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:58


七輪と練炭を購入。
タバコを吸うついでに、試しにその炭に少しだけ火をつけてみる。
これなら苦しむこともなく、幸せなままいけそうだ。

後はその日時と、そして最後に聴く音楽を決めなくてはいけない。
やっぱり最後は好きな曲に囲まれていたいから。

姉さんの『二人暮し』か市井の『journey』、後藤の『サヨナラのLOVE SONG』あたりがいいだろうか。
でも無難に『Never Forget』というのもありかもしれない。

171 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:59

*月*日――

そろそろカップ麺とほか弁にも飽きてきた。
貯金を残していても意味がないし、パーッと贅沢するべきかもしれない。

172 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:59

*月*日――

結局、最後の曲は『LOVE-計算チガイ-』に決めた。
私にとって思い出の曲だから。

173 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:59

*月*日――

荷物を処分する。部屋がスッキリした。

174 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:59

*月*日――

私は幸せだったのだろうか。

175 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 22:59

*月*日――

私は幸せだった・・・。

176 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 23:00

*月*日――



.

177 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 23:00

*月*日――



.

178 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 23:00

*月*日――



.

179 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 23:00

*月*日――



.

180 :◆5/w6WpxJOw :2004/04/19(月) 23:00

*月*日――

この日には多分、私はもういない。
だからあらかじめ書いておきたい。

この日記が例えここで終わっていたとしても、
この日付けで途絶えていたとしても、私の幸せは永遠に続いていく。

明日も、明後日も、来週も、来月も、来年も・・・例え宇宙がなくなっても・・・。

私は幸せを抱いたまま、幸せを抱いたままの状態でいつづけるのだから。

ずっとずっと・・・。



私はそう、信じている。










   『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』

   ―― 完 結 ――

181 :名無し娘。:2004/04/20(火) 07:11
おおおおおおおおおおおお。乙。

182 :名無し娘。:2004/04/20(火) 10:55
終わってしまったあ〜〜〜〜〜〜〜
乙彼様でした。

183 :名無し娘。:2004/04/21(水) 02:05
保田つながりで、まさか >>136 で「河童」をもってきて、すげーうまくまとめたと思ってたのに、その続きがあるとわ。。。 乙でした!

184 :名無し娘。:2004/04/22(木) 00:51
うおー…面白かったあ…
読んでてこんなに疲れたり、達成感を感じたのははじめてかも
お疲れさんでした

185 :名無し娘。:2004/04/30(金) 04:21
最後の更新から10日も過ぎて、終わった事に寂しさを覚えるのは俺だけか?
終わりのない物語なんてないのは知ってるが、いつかまたどのような形でも逢える事を期待してます

186 :F:2004/06/12(土) 07:27

ほんと、何やってんですかね。あの人は。
まさかこんなことになってたなんて思いもしませんでしたよ。ええ。

大体あの人はいっつもそうなんですよ。
優柔不断というか、考えすぎというか、真面目すぎるというか、
自分の気持ちにすら素直になれない人ですからね。
相手がどうだとか、相手の迷惑になるとか、そんなことばっかりで。
それで結局とんでもない最終回書いてんですから、呆れて物も言えませんよ。ええ。

まあ、ちょっとだけ頼りになるかなっていうようなところはありましたけどね。
でもそれとこれとは別の問題ですから、それは今は置いておきます。

問題は、いったい何を書いてるんだってことです。
一応見るなとかなんとか言われてましたけど、そりゃ見ちゃいますよ。
だって勝手に部屋を出て行ったんですよ。普通は心配しますよ。

それで見てみたらこれです。わけのわからない最終回。
もうなんか精神的にやばいですよね。半分フィクションと言えこれはね。

特に最後なんか練炭自殺ですか?
あの人にそんな勇気があるとは思いませんから心配はしませんでしたけどね、
でももし私以外が見たらどう思いますかね。絶対に笑えませんよ。
さすがの真希も、大笑いだとか小笑いだとか、そんなこと言いませんよ。これは。

とにかく、私がこうして書き込んだのには理由があります。
要約すれば、みんな心配してるから連絡先くらい教えろ、ということです。
もちろんここに書けなんて言いませんよ。見てるかどうかもわかりませんし。
でも、こっちの連絡先はわかってますよね?
なら電話なりメールなり手紙なり、手段は色々あるじゃないですか。
それなのに何の連絡も寄越さず、いきなり消えたままなんてありえませんよ。

はっきり言って私は怒ってます。突然いなくなったこともそうですけど、
この第五部の内容にもです。ちょっと長くなりますけど書かせてもらいますから。

187 :F:2004/06/12(土) 07:27

まず最後の部分ですけどね、圭に告白したとかキスしたとか、
それっぽいことが書いてありますけど、それ嘘ですよね?

この前圭を尋問したんですが、そのようなアプローチは受けていないということでした。
大体おかしいんですよね。告白して成功したのに部屋を出て行くなんて矛盾してます。
ですからその部分については、多分にフィクションということでいいんだと思います。

まあ私としましても、圭ともうさくさんがうまくいくことを望んでいたわけで、
あの壮絶なる圭の卒業歓迎パーティ以来、ほとんど進展がないことを心配していたわけですよ。
あそこでチューしてれば歴史は変わっていたというのが私たち全員の総意だと思います。

ただ、第五部の中にも、私たちがけしかけたとか、そのようなことが幾つか書いてあったので、
一応そういうこと自体には気づいていたということで、それはそれで安心なんですが、
ただね、ありえないようなことも幾つかあるんですよ。ええ。

例えば私がもうさくさんに好意をよせているような記述。結構ありますよね。
笑いましたよ。でもありえないです。断言しますけど、それはありえません!絶対に!

そこで思ったんですけど、もしかしてもうさくさん、私に好意を持ってたんじゃないですか?
じゃないとありえないですもん。大体私は社交ダンスなんて踊れませんよ。釣りは一緒に行きましたけど。

でもちょっと困るんですよね。そこではっきり「イエス」と言われるとそりゃ当然困ります。
でもはっきり「ノー」と言われてもそれも複雑なんですよね。乙女としては。
そんなこと書くとどこが乙女なんだとか言われそうですけど、というか言いに来てくださいよ。

今の部屋がどういう状態なのかわかってますか?
はっきり言って誰もいませんよ。もちろんもうさくさんがいなくなったことが原因ですけど、
その後に裕子と圭の大喧嘩なんかもあって、今じゃ誰も寄りつきませんよ。その必要もないですし。

188 :F:2004/06/12(土) 07:27

でも一応、一つだけ進展はあったんですけどね。とりあえずそれが言いたかったわけです。
部屋の合鍵をですね、圭織と、それと石川さん辻ちゃん加護ちゃんに渡したんですよ。
なっちにはすでに渡してありましたからね。そして一度みんなで集まったんです。
裕子と圭と私と、圭織と石川さんの五人で。集まれたのがその五人だけだったわけですが。
でもそこでちょっと揉めちゃったんですね。些細なことだったんですけど、
冷蔵庫の中がですね、卵とか野菜とかが腐ってたとかで、ほんとつまんないことですよ。
もうさくさんが部屋にいたら、そんなことにはならなかったんですけどね。それはわかりますよね。

それで最初は二人だけの喧嘩だったんですよ。いつも通りと言ってもいいかもしれませんが。
でもそこに他の面子も巻き込まれて、もう最悪な空気ですよ。
一応部屋を出る時には冷蔵庫の中身を使い切るという約束を決めて解決したんですけどね。
でも一度そんなことがあると駄目なんですよ。特に仲介役がいませんから。

そんな感じで、今は多分誰も寄りついてないと思います。
一応裕子がドラマの収録が終わって暇らしいので、よくそっちに泊まってるそうですけど、
そう聞いたら余計に行けなくなりますよね。私は一度だけ裕子と一緒になりましたけども。
あと真希から聞いた話ですけど、一度だけなっちが泊まったそうですよ。
なんでも観葉植物を育てようとして、すぐに枯らしてしまったそうです。
そりゃそうですよ。誰もいませんし、いても裕子が水をあげるとは思えませんからね。

それはいいんです。問題はですね、一度ちゃんと説明してほしいということですよ。
出て行った理由とか、今何してるとか、そういうことをですね、説明する義務があると思うんです。
突き詰めればそのせいでぎくしゃくしてるわけですから。みんな。

そこで話は戻りますけど、圭とのことです。
もうさくさんがいなくなって、圭がどうなったか知ってますか?
彼氏と幸せに・・・とか単純に考えてたとしたら大馬鹿者ですよ。
もうさくさん驚くかもしれませんけど、圭はカレシとは別れたそうです。ええ。
もうさくさんがいなくなったことで別れる決意を固めたそうです。
わかります?
もちろんわかりませんよね。もうさくさん、そういうのは全く駄目ですからね。
わからなくてもいいですけど、とにかく、それももうさくさんのせいなんですよ。
それだけは覚えといてください。

189 :F:2004/06/12(土) 07:27

それで圭の話は終わりです。それで、次は私の話になりますけど。

もう一度言っときますけど、私がもうさくさんに想いを寄せてるとか、それはありえませんから。
確かに裕子たちと同様に、年の差はあるけどいい友人だというのはありますけど、
でもそこにそれ以上のものはありませんよ。あくまでも友人だということです。
これは心に留め置いてください。

ただね、人間的に興味があったのは事実です。
思考理念は似ているのに、そのベクトルの方向は全く違いますからね。
そういうところに興味を覚えるのは当然の成り行きだと思います。
でも、それを勘違いしてもらうと困るんですよ。ええ。かなり困ります。

もちろんこれを読んでこれを事実だと受け取る人は一人もいないと思いますから、
それが私にとって何らかのマイナス要因になるというようなことはないのでしょうが、
しかしその半分には事実が含まれているというようなことを忘れてもらっては困ります。
バファリンの半分が優しさであるように、第五部の半分は事実なんですから。
もう終わったことですけど、それは念を押しておきます。

それで次ですけど、そろそろ真希のことを話しましょうかね。
もうさくさんがいなくなった後、最初に部屋を訪れたのは真希でした。
当然驚きます。部屋は空っぽで机の上に手紙が置いてあったんですから。
それからすぐに私のところにも連絡網が回ってきました。ええ。
まあそんなことはどうでもいいです。

多分一番ショックを受けたのは真希ですね。それはなんとなくわかりますよね。
私なんかは波乱を好む精神を兼ね備えていますけど、真希は結構弱い部分がありますからね。
圭もショックだったんでしょうけど、圭の場合はそういう部分をあまり見せようとしませんから。

真希は色々その原因について考えたそうです。それから数日後に会って一緒に遊んだんですが、
その時に色々と話して聞いたことなんですけども。自分の責任なんじゃないかとまで言ってました。
あっさり否定してあげましたけども。あの人は優柔不断の上に馬鹿だから自分の気持ちに
素直になれなくてついにそのジレンマから逃げだしたというようなことをですね。
我ながら完璧な推理ですけど、ただ、余り納得してはいなかったみたいです。
なぜか知りませんが、真希はもうさくさんのことを男らしい男だと信じてましたからね。
だからそのような逃げるという行為について納得がいかなかったんだと思います。

190 :F:2004/06/12(土) 07:28

結局のところ、裕子曰く、あの人は仕事の都合でいなくなったという話になって、
それで失踪の原因は表向きは解決したことになったんですけど、それも明らかに嘘ですよね。
まあもうさくさんのことですから、裕子にだけは何らかの相談をしていてもおかしくはないわけですが。

というか、よくよく考えるとそれもありかもしれませんね。
色々脚色してありましたけど、もうさくさんが裕子のお見合いに立ち会ったのは事実ですし、
もしかしてその時のキスも本当なのかなあなんて思わせられましたし。当然本人には聞けませんけどもね。
まあそれはいいです。もうさくさんが誰とどんなキスをしようが私には関係ありませんから。
それはいいとして、裕子なら何か知ってるかもしれないというのはありえるかもしれません。
ただ、そこが逆に納得いかないんですよ。なぜ裕子にだけ理由を告げて、他には内緒なのかということ。
仮にも私はもうさくさんの師匠であって、それはもうさくさんも第五部の中で実際に書いてることで、
それなのに師匠の私に何の相談もせずに裕子にだけ相談するというのは納得いきませんよ。
まあでも裕子が本当に知ってるかどうかはまだわかりませんし、それは私が尋ねればいいことですけど、
でも他人の口から聞くというのは私はあまり好きではないので、
やはり本人の口から言ってもらわないことには始まらないというのが私の意見です。

少し長い文章になりましたが、次の話に移ります。

彩と紗耶香ですけど、私もしばらく会っていないので、そこがどうなってるのかはわかりません。
一度彩から電話がありましたけど、もうさくさんがいなくなったことの確認をされただけでしたから。
ただ、あまり心配はかけさせないでくださいよ。二人とも身重なんですから。

それで次は石川さんの話です。
石川さんとは昔一度だけ会ったことがありましたけど、話したことは一度も無かったわけです。
そういう意味で、新しいメンバーがどんどん来るということは私にとっては重大事なわけです。
特に私の場合は一緒に活動したメンバーはたった七人ですから、他は全く知らないわけです。
でも真希と親友になれたように、他のメンバーでもそのような可能性は十分にあるわけです。
特に石川さんは圭のことを慕ってるみたいなので、ということは私とは実質的に姉妹なわけですよ。
そういう点で今後が非常に楽しみなわけですが、それなのにもうさくさんのせいで誰も部屋に
寄り付かなくなってしまったわけですよ。それに関して責任を取れとは言いませんけど、
色々問題があるので連絡くらいしてほしいというのが私の一番言いたいことなわけです。
ちょっと変な文章になってしまいましたけど、そこはわかりますよね?

191 :F:2004/06/12(土) 07:28

それで次です。圭織ですね。
第五部にもありましたけど、圭織と大阪城ホールで会ったというのは本当だったそうですね。
これはあさ美から聞いたことなんですけど、そうそう、あさ美のことも話さなきゃいけませんね。
一応あさ美とは一緒に第四部を考えた仲なわけで、そのことはそれでいいんですけど、
あさ美は今ちょっとした問題を抱えてるみたいで、是非もうさくさんに相談したいなんてことを
電話で話してたんですけど、あさ美はもうさくさんがいなくなったことを知らないんですよね。
しばらく部屋にも来てなかったみたいですし、色々と事情があるみたいなんですけども。

それであさ美の話は終わりで、圭織のことなんですけど、
あの鼠園で会ったことがあったというのは本当の話なんですかね?
ここを読んで知ったことですし、本人に尋ねるわけにもいかないので聞いてないんですけど、
まあ多分にフィクションだとは思いますけども、しかし圭織の話を聞いていて、
ありえない話でもないと思うわけです。二、三回しか会ったことがないはずなのに、
もうさくさんのことをなぜか好意的に捉えてるような節がありましたから。
ダサい男には見向きもしないあの圭織がですよ。そこがちょっと気になったわけです。

まあそんなことはどうでもいいんですけど、とりあえず今日はこのくらいにしておきますかね。
というかなぜこんな近況文を私が書かなくちゃいけないかってことですよ。
あの変化を好まないもうさくさんが部屋を出て行ったくらいですから、
ここを今も読んでるという可能性はあまり無いとは思うんですけど、
でも変化に耐え切れなくなってまた元の鞘に収まろうとするのももうさくさんですから、
多分にここを読んでいる可能性もまだあるわけで、そういう意味でこうして書いたわけです。

とりあえず私が言いたかったことは、最初にも書きましたけども、連絡してほしいということです。ええ。
ちょっと余分なことを書きすぎてしまいましたが、とにかくそれが伝わればよしとします。

   From F

192 :F:2004/06/12(土) 07:36
追記)
私用の書き込みをさせてもらいました。申し訳ありません。

193 :名無し娘。:2004/06/12(土) 14:12
ヒサブリにキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

194 :名無し娘。:2004/06/12(土) 19:48


195 :名無し娘。:2004/06/24(木) 01:09


196 :名無し娘。:2004/06/24(木) 13:54
ANN

197 :名無し娘。:2004/06/27(日) 13:06
ANN ANN

198 :名無し娘。:2004/07/27(火) 13:50
保全だyo

199 :名無し娘。:2004/08/22(日) 04:26
c

200 :名無し娘。:2004/08/29(日) 22:23
200

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