■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 最新50
俺と娘。の夢物語~in 狩狩~3
- 722 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:28
-
亀井さんの一件から、1週間後。
ハロモニの収録に、僕は真っ先に駆けつける。
そして、番組のスタッフさんに、この前の非礼を詫びた。
謝る必要なんかないよ、とみんなに気遣われて。
感じていた負い目が、少しだけ拭われたような気がした。
しかし。
今度は、僕の番だった。体調が、芳しく…ない。
朝起きたときに嫌な予感はしていて。やっぱりだった。
夏風邪プラス夏バテ、そんなところだと思うけど。
タイミングが、最悪だった。よりによって、何故今日なのか。
とにかく…今日は、死んでも倒れるわけにはいかない。
明日はオフだから、今日さえなんとか切り抜けられれば。
そう思って。そう覚悟を決めて。収録に臨んだ。
- 723 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:29
-
その日の夜。
ベッドに横たわり、体温計を見ながら、ため息をひとつ。
熱、咳、のど。典型的とはいえ、激しい症状が辛かった。
けど、何とかごまかすことはできたはずだ、と。
誰にも気づかれなかったはずだ、と。
確認するように、今日の収録のことを思い出していた。
…ほどなくして。
着信音。
ベッドから這い出て携帯を取る。亀井さんからだ。
声を整えるための、何回かの咳。そして、ボタンを押す。
- 724 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:30
-
「…もしもし?」
「もしもし、せんぱい?」
「亀井さん、おつかれさま」
「おつかれさまです」
「うん」
「せんぱい、今、家ですよね?」
「え?」
「家にいますよね?」
「あ、うん」
「今から行きますから」
「えっ?」
「そのままで、いてください」
「ちょ、ちょっと」
「………」
「亀井さん?」
「………」
切れて…しまった。急に、どうしたんだろう?
- 725 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:31
-
あれから5分も経たずして、亀井さんはやってきた。
すぐ近くで電話してきたらしく、さすがに慌てたけど。
なんとか着替えだけを済ませ、玄関へと急いだ。
「亀井さん?」
「はぁ、はぁ…せんぱい」
ビニール袋を手にした亀井さん。
息を切らせていて、いよいよただ事ではない。
「そんなに急いで…どうしたの?」
「はぁ、はぁ…」
「………」
「お、お邪魔して、いい、ですか?」
「あ、うん。あがって」
「…はい」
- 726 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:32
-
リビングで、息を整える亀井さん。
その姿が、先週の弱った亀井さんとダブって見える。
「亀井さん、病み上がりなんだから」
「………」
「そんな無理しちゃ…駄目だよ」
「…絵里、もう平気ですから」
「………」
「そんなことより」
「………」
「せんぱい…着替えましたね?」
「え」
「そのままでいてください、って言ったのに」
「え?」
「早く着替えて、休んでください」
「え?え?」
「風邪」
「………」
「ひいてますよね。せんぱい」
「………」
…そんな。
- 727 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:33
-
張り巡らしていた防御線が、もろくも崩れ去って。
のどの辺りに溜め込んでいたものが、一気に吹き出す。
「せ、せんぱい?」
「…っ」
「だ、大丈夫ですか?」
「………」
「…せんぱい」
「………」
「と、とりあえず、横になって」
「…うん」
背中をさすられながら、寝室へと向かって。
だるい体をベッドに横たえながら、恐る恐る亀井さんに尋ねた。
「もしかして、さ」
「はい?」
「みんな…知ってる?」
「せんぱいの、ことですか?」
「うん」
「…わかりません。でも」
「………」
「スタッフさんは、知らないと思います」
「…そっか」
…よかった。
一番知られたくなかった人達には、隠し通せたみたいで。
けど、そう思って胸をなでおろしたのは、まずかったらしく。
再び、激しい発作に見舞われてしまった。
「せ、せんぱい?」
「…っ」
「せんぱい…しっかり」
背中をさすってくれる亀井さんからの、いたわりの言葉。
その声は、とても痛々しくて。なんだか申し訳なかった。
- 728 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:34
-
咳が収まるのを見計らって、亀井さんが続ける。
「…せんぱい」
「…うん?」
「絵里。今日、すごく辛くて」
「え?」
「せんぱいが調子悪そうだってことに、気がついて」
「………」
「それを隠そうとしてることにも、気づいて」
「………」
「その理由も、すぐに分かって」
「………」
「分かった、から…誰にも、何にも、言えなくて」
「………」
「先週のせんぱいみたいに、できなくって」
「………」
「早く収録が終わってほしいって」
「………」
「そう思うことしか、できなくて」
「………」
堰を切ったような亀井さんの告白と、その表情。
どれほど思いつめていたのかが、痛いほど分かって。
ますます、申し訳がなかった。
- 729 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:34
-
「だから…」
「…うん」
「謝りに、来たんです」
「…え?」
「ごめんなさい…せんぱい」
「…謝る必要なんか」
「あるんです。だから…受け取ってください」
「………」
「それと」
「…うん」
「先週のお礼。まだ。ちゃんと言ってませんでした」
「………」
「ありがとう…せんぱい」
感謝を伝える、シンプルな。けど心に響く、その言葉。
求めていたわけでは、もちろんなかったけど。
こうして実際に貰えると、この上なく嬉しくて。
今の僕には一番の特効薬だって。そう思えた。
そして。
- 730 :統計(仮称) ◆StatPfTBPc :2007/08/17(金) 22:35
-
「…本当に、申し訳ないな」
「え?」
「あ、いや」
「………」
「いろいろ、気遣わせちゃったね」
「そんなこと」
「いや、ホントに。ごめんね」
「………」
「………」
「…せんぱい」
「うん?」
「そうやって…気にかけてくれるの」
「………」
「すっごく、嬉しいですけど」
「………」
「そうしたいのは、絵里も同じだから」
「………」
「だから…せんぱいは、謝らないで」
「………」
「ね?」
「…うん」
「はい」
諭すように、亀井さん。その表情は、幾分和らいで。
背負っていた負い目を、また少し、取り除いてくれた。
500KB
続きを読む
掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50