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俺と娘。の夢物語~in 狩狩~3

153 :匿名 ◆TokDD0paCo :2006/11/11(土) 20:43

十一月十一日。
前のことがあったからかもしれないけど、今年も零時になると同時にメールが届いた。
絵里かさゆだと思いながらメールを開いてみれば、驚いたことに藤本さんからだ。


 17歳オメデト
明日もガンバロー


内容こそは“らしい”文面だったけど、なによりも一番に祝ってもらえたってことがすごく嬉しい。
明日の……もう今日のだ。コンサートに備えて大阪にきているこの場で、こうして気にしてもらえるのが嬉しかった。
藤本さんのメールを読んでいる間にも、他のメンバーからもメールが届いていた。
次々と送られてくるメールを読みながらそれぞれの顔を思い浮かべて……少し切なくなってる自分がおかしかった。
メンバーからも、地元の仲が良かった友達からも、何通もメールがきたけどなにか足りない。

154 :匿名 ◆TokDD0paCo :2006/11/11(土) 20:44

優しく笑いかけてくれる人の表情が思い浮かんだ瞬間、形になったその笑顔をかき消すみたいに窓の外でなにかが光った。
ホテルの高層階なのに、なんだろうって窓際へ歩き出したそのとき、地鳴りのような音を体中で感じた。

「ひゃあぁっ!?」

なにが起こったのか、理解よりもまず身体が反応した。してしまった。
耳を押さえて小さな悲鳴を上げ、突然の轟音にへたりこんでしまった。
それは唐突にきて、あっという間に去っていったみたいだ。

静かになった部屋で、おそるおそる耳から手を離して、今度こそ窓の向こうへ目を向けてみる。
いつの間にか雨になっていたらしい。それも結構強く。
そこでやっとさっきの音が雷の音だってことを理解した。
正直得意ではない。
というよりも、泣きたくなるくらい苦手だった。

また外が光った。
ビクリと身体を縮こまらせながら耳を強く押さえる。
押し当てた手を通して、雷がゴロゴロいってるのが解る。
怖い、怖い、怖い……ただそれだけが身体を埋め尽くしていくみたいだった。

155 :匿名 ◆TokDD0paCo :2006/11/11(土) 20:44

まさかそんな迷信を信じてるわけでもないのに、お腹に手を当てて無意識におへそをかばうような格好になる。

「どうしよう……絵里かさゆんとこ……あぁ~、でもバカにされるけん」

口の中で呟きながらドアの手前で迷ってると、三度目の雷がやってきた。
フラッシュみたいな光りに必死で耳を押さえる。
もうバカにされてもいいやとノブに手をかけてグイと開いた。

周りを気にしてる余裕すらなかったから、そこに誰かがいるなんて思いもしなかった。
開けたドアの向こうにれいなよりも頭一つ以上高い人影。
反射的に声を上げそうになった口が大きな手で塞がれて、なにか声が聞こえてくる。

「ち、ちょっと田中さん。僕。僕だってば」

上げた視線の先に、雷にかき消されたその顔があった。
思い浮かんだ顔とは違って、その表情は焦って困ってるみたいだったけど。

「んーんー」
「あ、ごめん」

先輩、と言ってみたけれど言葉にならず、先輩は笑いながら手を離してくれた。

156 :匿名 ◆TokDD0paCo :2006/11/11(土) 20:45

「えっと。ちょっと入れてもらってもいいかな?」
「は? あ、どうぞどうぞ」

こういうのをと渡り船かいうんだっけ。
ん? まぁ、なんかそんな感じの。
ともかく思わぬ形で現れた救いの手に安心していたのがいけなかった。
後ろの窓から見えたハズの雷光にも気がつかないまま、ふいに鳴り響いた雷鳴に身体が反応してしまった。

「ひっ!?」
「っと!?」

瞬間、自分のものじゃないみたいな自分の声に、先輩の小さな声が重なって。
我に返ったのもやっぱり先輩の声だった。

「田中さん、雷ダメなんだっけ」

声に“困ってます”って感覚が混ざってる気がして顔を上げる。

157 :匿名 ◆TokDD0paCo :2006/11/11(土) 20:45

さっきよりもはるかに近い距離に……っていうよりも、先輩の腕の中にいる自分。
思わず飛び込んでしまったらしい先輩の腕の中でコクンと頷くと、そっと腕が離れていった。
ほんのちょっと。少しだけ名残惜しいなって思ったら、離れたはずの腕に肩を抱かれた。

「廊下じゃアレだし、とりあえず入ろっか」

そう言われて戻った部屋で、弱めにかけた暖房で暖められていく空気の中、なんとか気を紛らわせようとして先輩が色々な話をしてくれた。
先輩が入ったばかりの頃の失敗談や、それに対して言われた中澤さん等のお説教。
どんどん話に惹き込まれて、あれだけ怖がっていた雷のことも忘れていた。
ずいぶん色々な話をして、されて、時間と共にポカポカと暖まる身体と心は、先輩と二人でいるドキドキよりも安心感みたいなものを強くした。

158 :匿名 ◆TokDD0paCo :2006/11/11(土) 20:46

いつの間にか記憶が飛んで、気がつけば先輩の肩に頭を預ける格好になってて。
眠くてシパシパする視界の中で先輩が笑ってた。
先輩がなにか話してる。聞かなきゃって思うけれどよく聞き取れない。
ふわっと身体が浮かび上がったような気がする。
ゆっくりと背中がなにかに沈み込んでいくみたいで。
半ば眠っているような状態のままで、頭に浮かんだことをそのまま口に出してみた。

「かみなり……せんぱい……」

ゆっくりと目を開くけど、また同じくらいゆっくりと目蓋が落ちてくる。
そんな中でれいなの手があったかい感覚に包まれて。

「いるよ」

そう聞こえた気がした。
どんどんと、どこまでも際限なく沈み込んでいく意識の中で、最後に覚えているのは「十七歳おめでとう」って言葉だった。
今年の誕生日はいい日になるなって、夢の中までもそう思った。

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