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仏を信じよ!

130 :その道:2003/12/13(土) 23:36

彼らは何のためにその道を歩み続けているのか……。

私、小川麻琴がこのドキュメンタリー番組の制作に関わってから半年。
それから様々な方面で活躍している第一線の人物に密着取材を続けてきた。

彼らは時に孤独であり、そして寡黙であり、そして難しいまでに真面目であった。
しかし、最初の頃の私は、そうした彼らに共通する心を感じ取ることはできなかった。

ただ決められた形で取材をこなし、その活躍する姿をお茶の間に伝える……。
それで本当に良かったのだろうか、そういった懸念が今、私の頭をよぎっている。

私が伝えるべきなのは、彼らの姿ではなく、その心だったのだから……。

それに気づいたのは、つい先週のことだった……。


ノノノハヽ
∬ ´▽`)<今日密着取材しますのは、登山家として有名な吉澤ひとみさんです。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<どうも〜!よろしくっす!


吉澤ひとみ……女性登山家として日本は固より世界の山々を制覇してきた人物である。
しかし、その過酷な生き様とは裏腹に、取材に受け答えする彼女は、陽気で朗らかな印象であった。
今までに経験した様々なエピソードを笑顔で、それもユーモアを交えながら話すその様子は、
これまで小川が取材してきた様々な道のプロ達とは全くかけ離れているように映った。

131 :その道:2003/12/13(土) 23:36

ノノノハヽ
∬ ´▽`)<登山家はよく、登山をする理由を「そこに山があるから」と答えますが、吉澤さんはどうでしょうか?

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<うむ。いい言葉だね。でもね、それだけでは答えになってないんじゃないかな?

ノノノハヽ
∬ ´▽`)<と言うと、吉澤さんには別の理由があるということですか?

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<そもそも理由なんてものは無いと思うんだよな。その答えだって、裏を返せば理由が無いってことだからさ。

ノノノハヽ
∬ ´▽`)<理由は無いんですか?それはまた意外な答えですけど。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<いやいや、それはね、山に登らないとわからないことなんだよ。実際にね。

ノノノハヽ
∬ ´▽`)<それでは、答えは山にある、ということですか?

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<つまり答えを探すために山に登るってことか。うん、君のその答えもなかなか面白いものだと思うよ。


登山家が山に登る理由……それは一体、何故なのだろうか。
そこに山があるからなのか、自然を征服するためなのか、あるいは自分を見つけるためなのか……。
私たちスタッフは、その答えを探すために、吉澤さんに同行して、ある山に登ることになった。

132 :その道:2003/12/13(土) 23:37

しかし、それまで穏やかだった吉澤さんの表情も、登山道の入口に到着した途端、
それまで取材してきた様々な職人や達人たちと同じような、真剣な表情へと一変した。


J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<それでは、装備の最終点検、そして順列の確認をしてください。

ノノノハヽ
∬;´▽`)<は、はい。


そして私たちは出発した。

本来は一番のベテランが最後尾を務めるのだが、その日は取材上の問題から、吉澤さんが先頭を務め、
そしてスタッフを挟むようにして登山会の石川梨華さんが最後尾から見守るという順列を組んでいた。

緩やかな山道を登り、徐々に角度が険しくなる。
二度の休憩を挟み、私たちはいよいよ急角度の岩場に進みだした。

133 :その道:2003/12/13(土) 23:37

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<ラーク!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<えっ?

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<ば、ばかやろー!!!ラークって言ったらすぐに後ろに伝えろって言っただろ!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<す、すいません。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<たかが小さな石ころ一つでもな、それが致命的な事故に繋がることだってあるんだよ!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<は、はい……。


自然の厳しさをまざまざと見せつけられる。
それは都会で暮らす私たちが普段忘れていたものだった。

134 :その道:2003/12/13(土) 23:37

岩場を抜け、狭く荒涼とした足場を尾根伝いに進む。
ところどころに鉄の杭が埋まっており、杭と杭の間には鉄の鎖が結ばれていた。


J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<後一歩だが、絶対に油断はするな。ここからが一番危険なポイントだからな!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<は、はい。


頂上はもう目の前に迫っていた。あそこに、その答えがあるのだろうか。
初めて自分の足で山に登る私にとって、それは苦しいながらもどこか充実したものだった。
しかし、私はその吉澤さんの言葉の意味を全く理解していなかったのだろう。

私の意識はついつい目の前の頂上へと注がれ、そして頭の中で様々なことを考えていた。
それは自然への挑戦なのか、自分への挑戦なのか、それとも……。

次の瞬間、私は前から転がり落ちてきた石に足元を救われ、そして急斜面から転がり落ちようとしていた。
鉄の鎖を掴んでいたために転落することは免れたが、でもそれは私の不注意が招いてしまったことだった。

135 :その道:2003/12/13(土) 23:37

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<ばかやろー!油断するなって言ったばかりだろ!!!ラークって言ったの聞こえなかったのか!!!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<ご、ごめんなさい……。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<今回はなんともなかったから良かったものの、もし後ろまで巻き添えになったらどうするつもりなんだ!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<……。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<俺はお前らの命を預かってるが、それはお前らも一緒だ!今からでもいい!そのことを自覚しろ!!!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<は、はい……。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<……俺たちはな、山から見ればちっぽけな存在なんだよ。

ノノノハヽ
∬;´▽`)<ちっぽけな存在……。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<山にとってはな、俺たちがいてもいなくても同じなんだよ。でもな……。


吉澤さんはその後の言葉を言わなかった。
でも私には何かわかったような気がした。その続きこそが、多分私が求めている答えなのだと……。

それから三十分後、私たちは最後の岩場を乗り越え、そしてついに山の頂上に辿り着いた。

136 :その道:2003/12/13(土) 23:38

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○`〜´)<よし、それでは全員休憩!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<も、もう足がくたくたで……。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<ほらほら、座ってないで、立って周りを見てみろって!

ノノノハヽ
∬;´▽`)<えっ?

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<一体何のために登ってきたんだよ?せっかくてっぺんに来たんだぜ?

ノノノハヽ
∬;´▽`)<そ、そう言えば……すっかり忘れてました……。

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<ほれ、もうここより高いところは無いんだぜ?てっぺんだから当然だけどな。

ノノノハヽ
∬*´▽`)<うわ〜!


その瞬間、私は求めていた答えを見つけていた。

137 :その道:2003/12/13(土) 23:38

「そこに山があるから」……その言葉も確かに正しかったのだ。

ただし、その答えだけでは無い、もう一つの“何か”がそこにはあった。

それは実際に山に登ってみて初めてわかったことだった。

それは達成感でも満足感でも、自然への挑戦や征服でも、自分を見つけることでもなかった。

でも、今の私には、それを言葉として表現することはできない。

そこにあった答えは、実際に山に登らない限りわかることのできない、そして言葉では表現できないものなのだから。

そして、それは私がこれまで取材してきた様々な人たちの心の中にあったものとも共通しているように感じられた。



それぞれの道には、それぞれの答えがある。

しかし、それらの道を進む人間には、共通した“何か”があるのだ。



私はまだその道の入口に、ほんの少し立っただけなのかもしれない。

でも、“その道”には、確かに“何か”があるのだ。

それが“その道”である限り……。

138 :その道:2003/12/13(土) 23:38





ノノノハヽ
∬*´▽`)<吉澤さん、それではもう一度伺います。なぜ山に登るのですか?

J~iiiiiiiiiiiiiii]
( ○^〜^)<それはね、こうして山のてっぺんで温かいココアを飲んでチョコレートを食べるのが幸せだからさ!


答えは人それぞれ……しかしそこには共通した“何か”があることは間違いない。

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