■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 901- 最新50


レス数が950を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。
俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜

1 :名無し娘。:2003/09/09(火) 18:55
前スレ

俺と娘。の夢物語
http://teri.2ch.net/mor2/kako/977/977128657.html
俺と娘。の夢物語〜第2章〜
http://teri.2ch.net/mor2/kako/986/986831774.html
俺と娘。の夢物語〜第3章〜
http://www.metroports.com/test/read.cgi/morning/1004618557/

このスレを狩と共に終わらせてしまうのは、
余りにも惜しい。

901 :てと:2004/11/23(火) 21:34

 1日目。
 朝ごはんを適当に済ませると、僕達は今回の目玉とも言える場所へ。
 6期はHEY!×3で行った時まだいなかったから、もしかしたら初めての子もいるかもしれない。

 「先輩れいなジョーズ乗りたい。」
 「えーやっぱE.Tだよ〜!」
 「バックトゥーザフューチャー!!これは引けない!」

 やっぱり3人だと収拾がつかない。ちょっとだけ飯田さんの偉大さを感じつつ、
 よく考えたらあの人そんなまとめられてないじゃん、って気づいた。

 「ユニバーサルエクスプレスブックレット使うから順番に行こうか。」

 ユニバーサルエクスプレスブックレットはその名の通りほとんど並ばずに乗れるチケット。
 収録の時は並ぶ事なんかなかったけどこうやって普通の客として来ているだけに、
 こういうのを使って上手く日程をこなさなければならない。
 当たり前なんだけど、なんか違和感を感じた。

 「よし、さゆ、勝負だ。」
 「負けないの。」 
 「じゃ〜んけ〜ん。」
 『ぽん!』

 僕らが買った種類は4種類のアトラクションをすぐに乗れる。でもE.Tとバックトゥーザフューチャーは
 被ってしまい、どっちかにしか使えなかった。
 結果、亀井さん勝利。E.Tは並ぶ事になった。

902 :てと:2004/11/23(火) 21:38

 先に二つ乗れるのを乗ってしまい、E.Tに乗るため並ぶ事に。
 さっきまですいすいと乗れていたのが嘘みたいに混みまくる。
 長時間並んでいても3人は話題が尽きない。ずっと話続けていてこっちが驚いてしまった。

 「こういうのは並ぶんが一番楽しかったりするんです。」

 なるほど、田中さんの言葉には説得力を感じた。

 1時間かけてE.Tを乗り、シュレッグの3Dやらジュラシックパークライドやら、
 最後にスパイダーマンに乗って帰ると、そのまま夕食へ。

 「どこ行く?」
 『お好み焼き!』
 「おお。」

 打ち合わせしたかのように、さっきとは反対に考えが一致。
 あらかじめ調べておいた(というか中澤さん御用達の)美味しいお好み焼き屋さんに行った。
 

903 :てと:2004/11/23(火) 21:44

 お店にはいって適当にお品書きをなぞる。中澤さんに薦められたものを頼むと、
 目の前の鉄板でお好み焼きを焼き始めた。この間の実演販売を何故か思い出した。
 
 「おお!」

 美技。当たり前だけど僕にはあんな風に焼けない。
 ヘラでキレイに四等分されたお好み焼きをお皿に乗せる。えっと確かモダン焼きだっけ。
 中にソバが入った種類の奴ですごく美味しかった。

 「美味しい〜。」
 「せやろ。」
 『え?!』

 横に座ってた金髪の女の人が帽子を取る。なんで店の中で帽子をかぶってたのかと思いきや、
 中澤さんだった。

 「うちも呼べや〜。」
 「ストーカーですか?」
 「なんやと亀井こら!」
 「怒ったー!」

 意外な人物の登場もあってか、お好み焼きもより一層美味しく感じられた。

904 :名無し募集中。。。:2004/11/24(水) 03:09
いい感じ!

905 :名無し娘。:2004/11/24(水) 09:37
修学旅行ってことは・・・

906 :てと:2004/11/24(水) 17:11

 1日目夜。
 トランプやらUNOやら人生ゲームやら、どこから持って来たんだってくらいに3人は
 それぞれの鞄から取り出してみせた。

 「どれやんの?」
 『――――!!』
 「じゃんけんね。」

 意見がバラバラだったのでジャンケンで順番を決め、人生ゲーム→トランプ→UNOの順に。

 「うちも入れて〜なぁ〜。」
 「じゃあ中澤さんには銀行という非常に重要な役職に就いてもらいます。」
 「任せい!」

 道重さんに乗せられて銀行役を買って出た中澤さん。その風景はなんかちょっと悲しい。
 中澤さんは偶然(かどうかは定かではない)にも同じホテルで、明日は朝一で帰るらしいから
 人生ゲームが終わると帰っていった。

 「先輩孤独な一生終えてますね。」
 「そういう亀井さん離婚しすぎ。」
 「えー、子ども産みまくるれーなよりマシですよ!」
 「れいなはさゆよりマシたい。多額の生命保険賭けて死亡事故枠狙って当てたっちゃ。」
 「勝つための手段に過ぎないの。」

 怖・・・。

907 :てと:2004/11/24(水) 17:23

 「じゃあもう寝るぞー。」
 『えー』
 「先生を困らせないで下さい」
 『はーい』

 なんだかんだノリがいい3人を残して僕は部屋へと戻った。
 今日はちょっと振りのチェックをしたかったから、CDを流して何回か練習する。
 男故のソロパートの少なさはダンスでカバーしないと。1回くらいセンターにならないかなぁ、
 なんて思ったこともあったけどそれじゃ「娘。」じゃないよな、と思って考えるのをやめた。
 
 「・・・・・。」

 そのことを思い出すと、自然とつんくさんから受けた宣告を思い出した。
 あと1ヶ月。でも僕にある選択肢は2つではない、1つだ。分かっているけど、離れたくない。
 不安もあるかもしれない。依存してしまっているのかもしれない。
 でも・・・いつまでもここに居ついていいはずもない。いつかは巣立たなきゃいけないんだ。
 まるでピーターパンのような気分がした。

 ピンポーン

 「はい。」

 本当に夜這い来た・・・。誰だろう?確率高いのは亀井さんか道重さんだよな・・・。

 ガチャッ

908 :てと:2004/11/24(水) 17:24

 「・・田中さん?」
 「先輩・・・。」

 その表情はすごく誘うような魅力的なものだったけど、鬼のTシャツで相殺されている。

 「・・・絶対じゃんけんに負けてきたろ。」
 「そぎゃんことなか!!・・・先輩。」

 身を寄せてくる田中さん。絶対罠だ。・・・・・乗ってあげるか。
 僕は田中さんの細い身体に腕を回すと、そっと抱きしめた。
 田中さんの体がビクッと震える。
 髪の毛をそっと撫でながら、ふとドアの方に目を移すと、ドアに挟まりかかったレンズがそこにはあった。
 そしてもうちょっと高い位置からかざされた携帯(おそらく証明)
 亀井さんはさっと顔を出すとニヤニヤしていた。

 「不潔です!!」
 「そう来たか!!でも今時不潔ですは使わないよ。」

 田中さんをそっと離すと、何故かへなへなと地面に崩れ落ちてしまった。
 顔が微妙に赤い。

 「帰ると!」
 「え?れいな?」
 「いいから!」

 なんかいきなり半ギレになった田中さん。二人を引っ張って出て行ってしまった。
 
 「・・・・?」
 
 よく分かんないけど、嵐は去った。

909 :名無し募集中。。。:2004/11/24(水) 17:44
すごくいい感じ!!!!!!

910 :名無し娘。:2004/11/24(水) 21:42
先生余裕あるなあ

911 :名無し娘。:2004/11/25(木) 02:11
1ヶ月って記者会見で卒業発表すらしてもらえないのか・・・

912 :名無し募集中。。。:2004/11/25(木) 02:25
れいあn

913 :てと:2004/11/25(木) 20:55

 2日目朝。起床を告げに部屋のチャイムを鳴らすと、あ゛ーい、と眠たそうな返事が聞こえてきた。
 間もなくしてドアが開く。

 ガチャッ

 「―はよーございます・・・。」

 眠たそうな目をこすりながら田中さんが顔を見せた。
 
 「他の二人は?」
 「絵里もさひゅは寝てます・・・。」
 「起こしますか。」

 僕は部屋の中へとは入っていくと、ベッドの中で熟睡している二人の前に立った。
 田中さんは道重さんの方に行ってくれたから、亀井さんを起こす。

 「亀井さん、朝だよ。」
 「・・・・・・・・。」

 肩をそっと揺する。目を瞑ったまま横向きに寝ている亀井さんの髪がそのたびに僅かに揺れた。

 「亀井さんっ。」
 「・・・・絵里は白雪姫です〜・・・。」
 
 むにゃむにゃ、とワザとらしく呟きながら、亀井さんの口元は緩やかな曲線を描いていた。

914 :名無し募集中。。。:2004/11/26(金) 16:01
ムフー

915 :てと:2004/11/26(金) 18:51

 2日目。
 とりあえず3人とも目を覚ましたみたいだったから、僕は聞いた。

 「どこに行きたい?」

 実は2日目の予定は完全な白紙、3人の行きたい所に連れて行こうと考えていた。
 何も意見がなければ適当にその場で作ろう、そう思って言ったら、3人の意見はここでも合わない。

 「絵里たこ焼き食べたいです!」
 「場所お願い。」
 「異人館村なんか素敵じゃないですか?!」
 「それ神戸だよ。」
 「れいな鴬張りのとこ行きたいです!」
 「京都です。」
 『せんぱいワガママ!!』

 なんで?!僕?僕なのか?
 いきなりワガママ呼ばわりされて困ってしまったけど、とりあえずここを仕切らなきゃいけない。

 「たこ焼きは食べれるとして、異人館村と鴬張りはどっちかしかいけないよ。」

 回ること自体は不可能ではないけど、明日の仕事は朝早い。
 なるべく早く家に帰してあげる事が先輩としての務めというもの。
 道重さんと田中さんは気合の入った顔で拳を握っていた。どうやらじゃんけんをするらしい。

 『じゃんけんぴょん!!』

916 :てと:2004/11/26(金) 18:58

 ピヨピヨピヨピヨ。

 「すごーい!!」

 意外と道重さんが一番はしゃいでたりするから、世の中分からない。逆に田中さんは期待しすぎてたらしい。
 ちょっと不満そうだった。

 「あんま鶯っぽくないと。」
 「まあまあ。」

 道重さんと亀井さんは他人の迷惑も顧みずに走り回っている。ばれたら問題だぞ、これ。

 不意に、一羽の雀が廊下に降り立った。ちゅんちゅん、と鳴きながら歩いている。
 田中さんはそれを見ると、目つきが変わった。慎重に、少しずつ近づく。
 そっと一歩一歩歩き、

 ピヨピヨピヨ

 しかし田中さんの足が奏でた鶯の鳴き声は雀を逃がすには充分だったみたいだ。
 田中さんは飛び去ろうとする雀ににゃぁ、とじゃれたけど届かなかった。

917 :てと:2004/11/26(金) 19:08

 昼までに大阪に戻ると、そこでたこ焼きと明石焼きで有名なお店に入った。
 実はツアー中何度かよっすぃとかと間抜けて来たことのある店だったりする。
 初めて来たときはごっちんもいたな、なんて軽く感慨に耽る。すると、

 「あ!!」
 「頂きまーす♪」

 お箸で持ち上げられたたこ焼きは、あっと言う間に亀井さんの道重さんの中へと納まってしまった。
 
 「あー絵里も絵里も」
 「れいなも」
 「ちょっと待てぃ!!ええい曲者がー!」

 意味不明なノリに3人は喜んでいる。そして喜びながらたこ焼きを次々と自分の陣地?へ。
 
 「あ〜・・・・。」

 既にたこ焼きは半分にまで減らされていた。まだほとんど食べていないのに。
 3人は満足そうな顔で僕に笑いかけた。・・・ま、こんなのもありか。


 帰りの電車も3・1で、今度こそ僕が1に座った。
 出発してから10分ほどしてトイレに行くために席を立つと、3人とも帽子を深くかぶったまま
 眠りに落ちていた。口元しか見えないけれど、安らかなその寝顔を見ると、何故か少しだけ、安心した。

 「・・・お疲れ。」

 僕は口を僅かに動かすと、トイレへと歩き出した。

 きっとあの声は、3人の耳には届いてないだろうけど。それでいい、そう思った。

918 :名無し募集中。。。:2004/11/26(金) 19:54
おお!いいねぇ

919 :名無し娘。:2004/11/27(土) 05:05
朝一の電車で大阪行ってくる!

920 :てと:2004/11/27(土) 20:35

 小川さんが口を半開きにしてぼーーっとしている。その具合は以上で、なんだか眠そう。
 意識がどこか別の世界に飛んでいってしまっているみたいだった。

 遊びに来た辻ちゃんがそれを狙っている。
 その目はまるでどこかの国のスナイパー。
 一定の距離感を保ったままに、慎重に、慎重に、何度も練習をしている。
 そして覚悟を決めたのか。辻ちゃんの腕から、それは放たれた。

 ボンッ!!

 小川さんの目の前で鋭い角度で跳ねたスーパーボールは、見事に小川さんの口の中に突き刺さった。

 「ほご!おごご!!」

 それに気づいた小川さんは口を閉じてしまった。変な声を出してもがいている。
 口の中からボールを出すと、ニコニコ笑っている辻ちゃんに、今まで見たことのないような笑顔を見せた。

 「のんつぁん!!」
 「怒ったー!!!」
  
 なんだか二人とも、すごく楽しそうだった。

921 :てと:2004/11/28(日) 21:13

 中澤さんと飲みにいった。
 旅行から帰ってきてまだ間もないし、そこで中澤さんと会ったからなんか変な感じがする。

 「ついこの間行ったばっかっすよね?」
 「ええやんたまには。ほら、飲み。」

 グラスにお酒を注がれて、仕方なしに口に運ぶ。
 一応まだ未成年だけど、中澤さんはあんまり気にしていない。
 確かにみんな飲んでるし、うちかて飲みまくりやったわぁ、っていう中澤さんの言い分も分かるけど。
 中澤さんのグラスにも御酒を注ぐと、中澤さんはそれをくいっと、飲み干した。

 「あ〜。・・・お前この間の旅行、なんやあれ。」
 「まあ修学旅行みたいなもんですよ。」
 「修学旅行・・・か。」

 どこを見ているのか、よく分からないような顔をしている。
 グラスを軽く揺らすと、中にのお酒は少しだけずれたテンポで揺れ、そのたびに光が少し乱反射する。
 
 「そや・・・。一つ質問してええ?」
 「質問。」
 「心理テストみたいなもんや。」
 「・・・いいですよ。」

 中澤さんの意図がよく読めなかったけど、別に断る理由なんて無い。

922 :てと:2004/11/28(日) 21:21

 「道が―――あるとするやん?」

 中澤さんは手を空中で広げて道を作ってみせた。
 その目こそ据わっているけど、まだ全く酔ってないように思えた。

 「そこをバスが走っとる。乗ってのはお前らや。」
 「はぁ。」
 「そこで!」

 ばーん、と手刀で空中を切裂く。中澤さんはじっと僕の目を見た。

 「道の幅が減った。バスが通るには狭い。いや、通れなくも無いんやけど、乗用車が走るのがちょうどええ。」
 「・・・・。」
 「そこに乗用車が一台、ある。みんなお前に乗れ、言うた。」

 中澤さんはそこでグラスに手を取ると、くいっと残りのお酒を全て飲み干した。
 大きな音を立ててグラスをテーブルに置いた。

 「お前ならどうする?」
 「・・・・・・・。」

 正直、返答に困った。今自分が置かれている状況を、置き換えたような図。
 中澤さんは分かって言っているのか、いないのか。おそらく前者だろう。
 
 「決断の時は、すぐそこまで来とるで。」
 「・・・分かってます。分かってますけど」
 「悩むのは分かるねん。でも・・男なら決めろや。」
 
 中澤さんはコートを片手で強引に椅子から持ち上げ、学生鞄を持つ男子校生のようなポーズで構えた。 
 そしてこっちを見て1回、頷くと、店から出て行った。
 ・・・男なら決めろや、か。

923 :名無し娘。:2004/11/29(月) 21:01

 空き時間に、お昼ご飯を探しにそのとき空いてた新垣さんに誘われてコンビニへと足を運んだ。
 たまにはお弁当以外のものも食べたいな、と思って色々さがすけど、結局パンか
 おにぎりか、ラーメンかあれこれ迷っているうちに弁当で妥協してしまう。
 今日もいつものように弁当を拾い上げるとレジに運んだ。
 
 先にお弁当を買ってお店の外で待っていると、少し遅れて新垣さんが、ちょっと嬉しそうに出てきた。
 
 「どうしたの嬉しそうだけど。」
 「あ、分かります〜?これこれ。」

 新垣さんはコンビニのビニール袋からそれを取り出して見せると、再び笑顔を見せた。
 
 「ホッカイロー!」
 「ドラえもんみたい。」
 「あはは。暖かいですよ〜。もうこれがないといけない季節になっちゃったんだから
  1年って早いですよね〜。」
 「ホント。もう年末だもんね。」
 「紅白まであと1ヶ月ちょっとですよ!」
 「あ・・・そうだね。」
 「?」

 動揺を露骨に出してしまったような気がして、顔を背けてしまった。
 振り返ると新垣さんは僕のことを心配そうな顔をして見ていた。
 
 「どうか・・・しました?」
 「いや、なんでもないよ。俺もホッカイロ欲しいな〜。」
 「あ〜ダメですよ、これは私のですから!残念!」
 「石川さんにだけはならないようにね。」

 冬の風は、頭を冷やすにはちょうどいいみたいだ。

924 :てと:2004/11/30(火) 18:50

 飯田さんのアトリエに連れていってもらった。
 なんでもつい最近絵を描いたみたいで、とりあえず誰でもいいから見せたかったらしい。
 僕はフラフラっと付いていって絵を見ると、その巧さに唸ってしまった。

 「すっげー・・・・。」

 どこだかよく分からないけれど、並木道の紅葉を美しく描いていた。
 赤、オレンジ、黄色が混ざり合い、一つの木を作り上げる。もう散ってしまった葉でさえ
 綺麗に一つ一つ丁寧に描かれていた。

 「大好きな場所。」
 「・・・・・・・・・・・お〜。」
 「あんたが交信してどーすんの。」
 「あ、すんません。でもこれ・・・。」
 
 僕は一つだけ疑問があって、質問した。

 「なんでここに矢口さんがいるんですか?」
 「ああ、ちっちゃいから。」
 「え゛」
 
 飯田さんがなんで矢口さんを選んだのか、結局よく分からなかった。

925 :てと:2004/12/01(水) 21:10

 突然僕らの前に襲い掛かった現実は、驚くほど大きなもので。
 気が動転して一瞬どうすればいいのか、分からなかった。
 
 中澤さんの表情が痛々しい。
 その声はあまりに辛い。でも不幸中の幸いか、今は前を向くしか選択肢がなかった。
 いつも見慣れているモニターも、見たくなんかなかった。

 深く頭を下げる。
 今日の昼、ここで頭を下げていたもう1人のメンバーのことを想って。
 僕達が出来ることなんて、頭を下げることと、歌うことくらいしかない。

 だから、今は全力で歌おう。
 ただただ、ひたむきに。

 だから、今は全力で歌おう。
 全てを忘れて。

926 :てと:2004/12/02(木) 21:23

 午後になって冷え込んできた。テレビ局の外に少し居ただけで身体が大分冷えてしまった。
 冷え切った身体を温めるため、僕は局内の自販機にジュースを買いにいった。
 お金を入れて、コーヒーを買う。
 
 横の椅子に座ろうとすると、ごっちんが缶を持った姿勢を保ったまま壁に寄りかかって寝ていた。
 隣に腰を下ろしてじーっと見つめてみたけど、起きる様子なし。
 僕はコーヒーをそっとごっちんの顔の前に翳すと、そっとほっぺにそれをくっつけた。

 「ふぃっ!・・・ん〜・・あったかいや。」

 驚いて変な声を出したけど、うっすらと目を開けたごっちんは微笑んでくれた。
 でもこっちを向くとすぐに、

 「おりゃ」
 「うあ!」

 冷たい缶を思い切り押し付けられて思わず声を出してしまった。
 ごっちんは満足そうに笑った。

 「お返しお返し。」

927 :てと:2004/12/03(金) 18:16

 携帯をポケットの中にしまうと、視線の先には愛ちゃんと新垣さんがいた。
 新垣さんはコンビニ袋から肉まんをとりだすと頬張っている。
 二人で雑談をしながらおやつタイムといったところだろうか。

 愛ちゃんはあんまんを持っていたらしく、ちぎって新垣さんに渡した。
 新垣さんはそれをおいしそうに食べると、お返しに肉まんをちぎる。

 はい、と愛ちゃんの前に出した瞬間、
 どこからか現れた紺野さんがパクッ、と食べてしまった。
 びっくりする二人。
 もう一回、とちぎって渡すと、
 今度は小川さんが顔を出してきて一口でイン。

 も〜、と言いながら笑う二人。小川さんと紺野さんは満足顔。

 楽屋は今日も平和だ。
 

928 :名無し娘。:2004/12/03(金) 21:35
イイヨイイヨー       

929 :てと:2004/12/04(土) 23:13

 「ドラマ見たよー。」

 石川さんは何の前触れもなく突然僕にそう言った。
 びっくりして何を言っているのかよく分からなかったけど、すぐに思いだす。ああ、最近出たあれか。
 
 最近僕はドラマに出演させて頂いてそれが昨日オンエアーされたらしい。
 石川さんは何を言うのだろう、そう思っていたら口から飛び出した一言はいただけないものだった。

 「相変わらずヘタだね。」
 「?!」
 「もっとこう、なんていうのかなぁ、迫力が足りないんだよね。オーラ?」

 カチンと来て思わず僕は禁じてに即手を出してしまった。 

 「・・・ハイカラさんに言われたくない。」
 「!ちょっと、昔のことを持ち出さないでよ!」
 「いや進歩ないし」
 「何〜?!」

 年甲斐性もなく追いかけっこ。
 
 85年組はなんだかんだまだまだ子どもだよな、自分でも思った。

 「ハイカラさんが通りま〜す♪」
 「も〜う!」

930 :てと:2004/12/05(日) 23:58

 今日の楽屋はチャンピオンずシップで大盛り上がり。
 楽屋は比較的マリノスを応援する人が多かった。
 矢口さんなんかは「真里サポだよ?真里サポ」って自分の名前を主張していた。
 よっすぃ〜は「サントストゥーリオかっけー!絶対日本人じゃないのに日本人かっけー!」
 なんて久々にかっけーを連発。やけに活き活きしていた。

 試合は0−0のままハーフタイム。そこで収録の時間が来てしまった。

 「一発で決めるよ!」

 みんな一致団結したときは強い。本当に一発で撮りを決めてしまった。
 でもだからといって後半開始に間に合うわけではなくて、みんな大急ぎで楽屋に戻った。
 
 楽屋の扉を開けると、付けっ放しだったテレビから大歓声。
 マリノスが1点を先制していた。二つの感情がぶつかり合う楽屋。
 僕は「ウィーアーレッズ!」ってよっすぃ〜と連発してただけに凹んだ。

 試合はマリノスが勝ったけど、レッズサポーターの「ウィーアーレッズ!」が止まらない。
 でも楽屋の中では矢口さんが止まらなかった。

 「勝った勝った勝ったー!!」
 「うっさいうっさいうっさい!矢口さんうっさい!!」

 試合は終わっても、レッズコールが終わっても、楽屋は納まりそうにない。

931 :てと:2004/12/06(月) 20:22

 藤本さんと原宿で適当にふらついていると、サッカーの練習場みたいな場所を見つけた。
 サッカーをしている大学生をじーっと見ていると、藤本さんはいなくなっていた。
 アレ、と思って行方を捜すと、背中に何かを当てられた。

 振り返ると、藤本さんが跳ね返ってきたボールをキャッチして弾ませていた。
 右手で上手くボールをコントロールしてバウンドさせて、足の間を通して左手に移す。
 何回かボールを弄ぶと、そこでキャッチした。

 「どう?ワンオーワン。」
 「・・・どっから持って来たの?」 
 「落ちてた。」
 「・・・やろっか。」
 「よーしやろー!かかってきなさい!」

 

932 :てと:2004/12/06(月) 20:31

 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ・・・。

 腰を低く保ったままに、ボールは地面と掌を往復運動する。
 左か、右か?

 「ホントさー。」
 「ん?」

 すっと左方向に風を切る感覚。
 あ、と口から出た言葉は白い息だけを残して、藤本さんを掠めた。
 
 「美貴が入ってから、結構経つよね。」

 ふわっと浮き上がるように地面を蹴ると、手首を軽く返すように動かして
 ボールを押し出す。
 黒い放物線を描いたボールは、ボードに当たることなくネットを捉えた。

 「4点リードー。」

 球を両手に持って地面に弾ませながら、笑顔で僕の方を振り向く。
 僕に向かってボールを強く前へと突き出すと、ボールは一直線に僕の胸に届いた。
 鋭いチェストパスを放った藤本さんは、強い目をして言った。

 「まだ、諦めてないから。あんたには負けないよ?」
 
 すっと右手の人差し指を掲げると、

 「もう1本。さあ、来い。次で決めるよ。」

 勝てないな、藤本さんには。

933 :てと:2004/12/07(火) 19:07

 誰かが買ってきたのか、飴玉の袋が机の上に置かれていた。
 みんなそれを取ったりして適当に食べている。段々と少なくなる飴。
 
 僕が食べようと思ったときにはもうほとんど飴は入っていなくて、
 いも味という興味を惹かれるのがラス1だった。

 試しに食べてみよう。
 手を伸ばしてそれを取ろうとすると、誰かの手とぶつかった。
 手を辿って顔までつくと、紺野さんだった。
 目が合う。
 紺野さんは悲しそうな顔をしながら手を引く。

 なんだかものすごい罪悪感に駆られて僕はそれを持ち上げると、紺野さんに差し出した。
 代わりにりんご味の飴を取って食べてみせると、紺野さんはすごく嬉しそうな顔をした。
 
 でも、芋味ってなんだったんだろう。
 すげー気になる・・・。

934 :てと:2004/12/08(水) 18:17

 矢口さんがさっきから大騒ぎ。
 何してんだろう?と思ったら携帯を手に怒ったり喜んだりしていた。
 なんだいつものことか、と思ったけど、いつも僕は気になっていた。

 何を見てるんだ?

 悪口サイト、なんて言ってるのは聞いたことあるし、いつ聞いてもそうとしか答えない。
 個人的に自分も何を言われているのか、興味があったし、今日は勇気を持って覗き込んでみた。

 「みんなよー。」

 矢口さんはそう言いながらも僕が見える範囲でしか隠さない。
 少しだけ見えたその文字を見て、驚いた。

 2ちゃ(ry

 「世の中にはすごいもんがありますからね・・・。」
 「お前なに悟ってんの?!」

 キャハハ、と笑われたけど、なんだか乗る気分じゃなかった。

 いつだっけな、食いまくりとか、はぶられてるとか、書かれたの。

935 :名無し娘。:2004/12/09(木) 13:10
なるほど、「僕」も標的にされたことあるのねw

936 :てと:2004/12/09(木) 19:03

 あそびで、ほんの遊びで曲作りをしていた。
 とは言ったものの、本格的なものとは程遠くて、保田さんのパソコンを使って作った
 ニ曲(くらい作っていた気がする)より全然しょぼい。ギターを使って作っただけ。

 「十分で作ったしな・・・。」

 回音とかそういった装飾音をも使いこなす保田さんは、なんだかんだすごい。
 できの悪いバンドの曲よりもよっぽどいいんじゃないだろうか。

 「終わった〜・・・。」

 わざと大きな声を出して、保田さんが僕に言ってきた。
 リアクションに困る。そういちいち作ったことを自慢してこなくても。
 
 「まずまずかしら。」

 すました顔で保田さんはそう言うけど、すぐに慌て出した。

 「あれ?何よ!!」
  
 ガチャガチャッ!!
 
 キーボードを狂ったように押しまくる保田さん。
 
 「どうしました?」
 「フ・・・フリーズした・・・。」

 ご愁傷様です。

937 :てと:2004/12/10(金) 18:46

 自転車をこいで、今日もコンビニへとお昼ご飯探索。
 掘り出し物を求めて今日はちょっと遠くまで出向いてみた。
 
 テレビ局を出て10分近く走ったところにあるそのコンビニに入ると、
 何故かよっすぃとすれ違った。

 「おお、よっすぃ」
 「おお、珍しいね」
 「たまには遠出しようと思ってさ」

 ニコニコと笑うよっすぃ。
 片手にはコンビニ袋がぶら下がっているけど、多分大した量は入っていない。
  
 「なんかいいのあった?」
 「おにぎりが豊富だよ。」
 「マジで?」
 「マジマジ。ハロプロくらい豊富」
 「どんだけだよ」
 

938 :てと:2004/12/10(金) 18:46
 笑いながらおにぎりを物色しに歩く。
 よっすぃはそのままコンビニの外へと出て行った。

 「あれ、そんなないじゃん」

 ふと外を見ると、よっすぃを目が合う。でも向こうは明らかにまずい、と言った表情。
 
 何故かよっすぃは自転車に跨っていた。

 「あ゛!!」

 よっすぃはなんか言っていたけど硝子越しでよく分からない。
 なんか「ばれちまったらしょうがねぇ」なんて言っているっぽかったけど。

 よっすぃはすっと自転車のキー(スペアキー?)をポケットから取り出してみせると、
 鍵を開けて、一気に足をかけた。

 「おい!!」

 慌ててコンビニの外に出ようと急いだけど、それより速くよっすぃは走り去っていった。

 「……」

 どうしよう、この距離。

939 :名無し娘。:2004/12/11(土) 00:24
スペアキーワロタ。
それにしてもシチュエーション無限だな。感心。

940 :てと:2004/12/11(土) 18:17

 楽屋への道をゆっくりと歩いていると、何か変な声が聞こえた。
 歩けば歩くほど、その声は確実に大きくなる。
 
 「?」

 どこかの楽屋から声が漏れているのかもしれない。
 歩けば歩くほどに近くなるその高い声は、やがてはっきりと聞き取れるようになった。

 辻ちゃんと加護ちゃんだ。

 ゆっくりと楽屋の前に立つと、ドアが開きっぱなしだった。
 閉めておこう、そう思ってそのとき、ちょっとだけのぞきこむと、
 そのとき見えた光景はなんだかひどく現実的だった。

 「せーの、」
 『だぶるゆーでーす』
 「微妙だね」
 「微妙やな。ちょっと被ってないな。まあええや、次はトークの時の打ち合わせや。
  うちが指を1本立たせたら「へぇ〜」で2本は「そうなんですか?」やったな。
  それから・・・・。」

 全部聞くことを、僕の全身が拒んだ。
 そっとドアを閉じると、ちょっとだけ悲しくなった。

941 :てと:2004/12/12(日) 21:09

 「せんぱーい!」
 「何?」

 楽屋に戻ると道重さんがこっちに向かって手を振る。
 僕が聞き返すと同時に道重さんは漫画本を掲げて見せた。

 「ああ、もう読んだの。」
 「面白かったです!」

 たくさんの漫画本を僕に渡す。

 「クリリンのことかー!」
 「うぉ!びっくりした。」
 「だってクリリンをスーパーサイヤ人のダシに使ってるんでもん。
  あと天津飯とヤムチャの弱さ具合もひどいですよ!
  魔人ブウもダラダラしすぎです!」
 「分かった、分かったから道重さん、あのね?」
 「はい?」

 久々に読んだからか興奮し気味だったけどやっと止まってくれた道重さんに、
 僕は言った。

 「何も全巻一気に返すことないよね?」

942 :名無し娘。:2004/12/12(日) 23:08
42巻も貸すなよ

943 :てと:2004/12/13(月) 17:08

 楽屋の空気が重い。
 矢口さんと藤本さんはにらみ合ったまま全く動かなかった。
 石川さんはそれを見て慌てて、声が上ずっている。

 「ちょ、ちょ、ちょっと二人とも!そんなにらみ合わないで楽しく!ね?」

 ♪

 ここ最近よく耳にするようになったあのイントロが何故か室内を流れ出した。
 途端に踊りながら入ってきたのは5,6期の7人。でも顔は泣いている。

 ジャンジャンジャン♪
 
 バンッ!

 ドアが開く。そして出てきたのは、
 
 「おーれーおーれー・・・・」

 ジャガジャガジャンッ♪

 「マツウラサンバー♪おーれーおーれー・・・・」

 ジャガジャガジャンッ♪

 「マツウラサンバーーーーー♪」

 ジャガジャジャンジャンジャジャン♪

 『ボツ』
 「えー絶対ウケますよぉ〜!」

 松浦さんの持ち込みネタは一瞬にして破棄された。

944 :てと:2004/12/14(火) 17:50

 「寒いねー」
 「ホントですよー」

 愛ちゃんと一緒に帰り道を歩く。
 駅までの道のりも段々と寒くなってきて、コートも必須になってきた。
 でも、今日はなんとなく寄り道をした。

 「でもホント変だよ」
 「そんなことないですよ!じゃあ先輩も書いてみて下さい!」

 公園は寒さの割に人が結構いて、子どもが元気そうに駆け回っていた。
 子どもは風の子、なんてよく言ったものだな、なんて考えると年をとった気がする。
 愛ちゃんは走り回る子どもを楽しそうに眺めていた。

945 :てと:2004/12/14(火) 17:50
 あるとき子どもが愛ちゃんと激突した。

 「愛ちゃん大丈夫?」
 「はい。」

 子どもを撫でると、子どもはニコッと笑ってもーにんぐむすめだ!、と指差した。
 一歩遅れてその子どものお母さんと思われる人が慌てて駆け寄ってきた。

 「どうもすみません」
 「ドンウォーリー」
 「・・・・どうもすみません」

 お母さんは子どもを連れるとあっと言う間に離れていってしまった。

 「why?why?why?」

 そ、そりゃぁ、なぁ・・・。Mother本気で引きますよ・・・。

946 :てと:2004/12/15(水) 18:30

 前回赤点だったけん、と田中さんは教科書片手に必死に勉強をしていた。
 こういうときの楽屋にいる先輩メンバーの心中は一つ。

 こっち来るな・・・。

 答えられる保証がない、というより分かるはずがない。
 勉強もせずに仕事ばかりしているメンバーがほとんどの中、
 しっかりと学校に通っている亀井さんは珍しいくらいで。
 田中さんも義務教育から解き放たれたらどうするのだろう。

 「先輩」

 ビクッと身体が反応する。勿論僕を含めて。
 誰に聞く?誰に聞く?
 不安が走る。

 田中さんは教科書とノートを手に、僕の前に立った。

 「分からないんで教えてください」

947 :てと:2004/12/15(水) 18:36

 藤本さんと石川さんがハイタッチを交わすのが見えた。
 矢口さんは僕を見てウケまくっている。
 僕はとりあえず教科書を見てみることにした。
 もしかしたら分かるかもしれないし・・・。

 しかし生憎田中さんが聞いてきたのは僕にとって完全に欠落している部分だった。

 デビュー後上京して、学校に入るまでにブランクが少しあった。
 そのため義務教育のはずなのに習ってない単元があった。
 そして田中さんの質問と偶然それは合致。どうしろと。

 「あ〜、なんていうか〜」
 「やめとけやめとけ、そいつこー見えてバカだからさぁ」
 「よっすぃが言うな。」
 「れいないい?」

 フラフラと近づいてきた亀井さんは、教科書をチェックすると、ささっと解いた。
 ポカンとする田中さん、笑う亀井さん。
 亀井さんはニコニコしながら道重さんの横に戻った。

 ここで紺野さんがコンビニから戻ってきた。
 それを見た瞬間、先輩メンバーが一斉に紺野さんを取り囲んだ。

 『なんで早く帰ってこなかったんだよ!』
 「へ?」

948 :てと:2004/12/16(木) 19:12

 一人での仕事が終わって帰ろうとすると、
 同局で別の撮影をしていた亀井さんとばったり会った。
 適当に話をすると、

 「あ、そうだ!」

 亀井さんは思い出したように鞄の中からたくさんの写真を取り出した。
 それを僕に渡すと、旅行のやつです、と笑った。

 「おお〜、よく撮れてるねー。全員が写ってるのほとんどホテル内だけど。」
 「アハハ・・・。しょうがないですよぉ、下手に頼めないし。」

 いっそのことお店でお店の皆さんと仲良く写真とってサイン書いてもよかったのかな、
 そんなことを思いながら一枚一枚写真を眺めていく。

 「うぉ、中澤さんの顔すごいことになってる」
 「ホントだー!すごいですよこれ。」
 「あ、これで終わりか。・・・ん?なんか足りなくない?」
 「え、気のせいですよ。じゃあ絵里は仕事がまだあるんで行きますね」
 「あ、うん。じゃあね、お疲れ様」
 「お疲れ様でーす」

 去り行く背中を見つめながら、撮られたはずがなくなっていた写真を思い出して、
 思わず笑った。
 田中さんが持ってるのかな?

949 :てと:2004/12/17(金) 17:49

 ――これ誰のかな?
 ――分かんな〜い

 声が聞こえる。でも僕はそれに興味を示す気にはなれなかった。
 眠い。今はただ寝たかった。
 
 ――あ、愛ちゃんこれ誰のか分かる?
 ――ん〜?知らんよ?
 ――誰のだろう。

 なんの話をしているのか、
 少しだけ気になったけどそれよりも眠気が僕の頭を支配していた。
 今度こそ深い眠りに。

 ――なにそれ
 ――あ、美貴ちゃん。かけてかけて。
 ――え?いいけど。
 
 かける?かけるってなんだ?眠いから脳が動かない。

 ――wow wow wow 青春♪
 ――色々あるさぁ〜♪
 ――人で遊ばない。
 ――はーい。

 ああ、なるほど。
 なんのことだか分かった瞬間、こめかみ辺りに圧迫感を感じた。
 
 「ん?」
 『おおー』
 「インテリインテリ」
 「イケメンイケメン」

 フレーム越しに爆笑するメンバーの嬉しそうな顔が見えた。

950 :てと:2004/12/19(日) 00:18

 ついさっきまで秋だったような気がするのに、もうこんなに寒い。
 ぎりぎりの生活を送り続けてきて1年の積もり積もった疲労感がやばかった。
 からだはきついけどみんなも一緒なんだろう。今年ももう終わりだし、あと一分張りだ。
 
 「らいねんもがんばりましょーね。」
 
 らくそうな顔をしている愛ちゃん。ちょっと目を疑ってしまう。
 すいすいと歩いていくその姿は力強かった。

 とうとうつんくさんに言われた1ヶ月が終わってしまう時が来た。
 1ヶ月、悩み悩んだ結果を、明日伝えに行く。でも、今までやってきたことから
 0になって、再スタートするというのは少し怖くも感じた。

 回想する癖が、最近出るようになった。加入当初から今までのことを何故か思い出す。
 デビューして、ぎこちない空気が和らいで、後輩ができて、頑張って。
 すいすいと、今の愛ちゃんの歩く姿のようには行かないけれど、なんとかやってきた。

 「どうしたんですかボーっとして、来年も頑張らなきゃいかんのですから!」
 「え、あ、うん!」

 気合を入れられると、二人で駅までゆっくりと歩いた。

951 :名無し娘。:2004/12/19(日) 13:15
いよいよか・・・

952 :てと:2004/12/19(日) 19:04

 そっとドアに手をかける。遂に約束の期日が訪れてしまった。
 この日まで何度悩み、苦しんできただろうか。
 時間の進みがこんなにも早く感じた事はなかった。

 「失礼します。」
 「来たな。」

 つんくさんは待ってましたと真剣な顔をして言うと、
 機材を弄る手を休めて僕の方へと身体を向けた。スタジオ備え付けの椅子を拾うと、向かい合う。
 
 「どや、決心はついたか?」
 「・・・はい。」

 僕の回答の仕方が不満だったのか、

 「なんや釈然とせぇへんなぁ。でもお前かて分かっとるやろこの現状を。
  この判断はお前の将来、いやハロプロの将来を決める言う手も大袈裟ではない。」

953 :てと:2004/12/19(日) 19:04

 確かにそうかもしれない。
 話題に乏しい、いや逆に言えば話題を作ってもメディアの煽りが減った今、
 加入当初過去最高の反響を呼んだといわれる僕を動かすのは定石といえるかもしれない。
 逆に言えばそれに手を出さなければならないほどに苦しい状況だという裏返しかもしれないけど。

 「そう・・・ですね。分かりました、やります。」
 「よし、そーと決まったら曲作るで!男の曲は久々かもしれんな〜。」

 つんくさんは一人嬉しそうな笑顔を見せている。
 僕は曖昧な作り笑顔でしかそれを返せなかった。

 「お前ギター弾けるんやし、一緒に作るか?」
 「・・・それ笑えないっすよ。」
 「せやなぁ。」

954 :てと:2004/12/20(月) 21:45

 それから仕事が終わった後時間が早ければつんくさんのスタジオまで行って
 お互いに曲についてひたすら試行錯誤を続けた。
 真面目に、商品としての作曲は初めてだったから楽しかったけれど、
 胸がすっきりしないのも確かだった。

 みんなには半分伝えた。
 ソロデビューするという事。
 それだけを伝えて、卒業については一切話さなかった。
 それが僕の胸に重く圧し掛かっているのかもしれない。

 『今日元気がなかった気がするんですけど、どうかしました?』

 愛ちゃんからのメールは、僕を悩ます原因の一つだった。
 愛ちゃんだけじゃない。他のメンバーからも似たようなメールを幾つか受信した。
 そのうち何人が、感づいているのか・・・。

 「隠せないな、メンバーには」
 「ん?どないした」
 「いや、なんでもないです」

 葛藤の中、僕は今人生において最も苦しい経験をしているかもしれない。

955 :名無し娘。:2004/12/21(火) 10:53
揺れてるな

956 :名無し募集中。。。:2004/12/21(火) 11:17
おお!佳境にはいってきたね!
いい感じだ

957 :てと:2004/12/21(火) 20:13

 僕がモーニング娘。に入って以来、たくさんの時間をメンバーと共にしてきた。
 仕事以外でも様々な時を共に過ごし、喜怒哀楽して。
 彼女達のことを僕は本当の家族のように思っているし、彼女達を思ってくれていると思う。
 そんな家族に隠し事をするという行為は、自分にとって耐えられない事だった。

 「つんくさん。」
 「なんや。」
 「メンバーに明かします。」

 これが僕の答えだった。
 彼女達を騙しているという罪悪感は辛すぎる。
 
 「待て、まだ早い。」
 「様子がおかしいらしくてみんなに心配かけてしまって・・・。
  それにみんなに隠し事なんてしたくないんですよ。」
 「あかん、まだ早い。」
 「どうしてですか!みんなに知らせないことで一体なにが」
 「遅かれ早かれ。」

 つんくさんは僕の言葉を遮った。

 「そうなるんやから同じやろ?」
 「・・・・っ。」
 「お、おい!待ちぃ!」

 その場にいられなくなった僕は、気づいたらドアを開けて外へと飛び出していた。

958 :てと:2004/12/22(水) 20:48

 飛び出したはいいけれどどうしよう。
 気づくと僕はスタジオからかなり離れた位置まで走っていた。
 建物からは出ていないけれど、つんくさんといた部屋とは全然違う位置にいた。

 僕は間違っているのだろうか。
 僕はただ、嘘をつきたくないだけなのに。
 かけがえのない家族に、本当のことを話したいだけなのに。

 ソファに座る。顔が上げられずに僕は俯いたまま動けなかった。
 目を閉じる。
 目の前に広がるのは当たり前だけれど暗闇だ。
 分からない。どうすればいいのか。分からない。
 そんなときだった。

 「どうした?下なんか向いて。」

 中澤さんがそんな僕に気づいてくれたのは。

959 :てと:2004/12/22(水) 20:55

 それは今にもほどけてしまいそうな糸を解くには充分すぎるきっかけだった。

 僕は糸が切れてしまったみたいに全部、中澤さんに話してしまった。
 ソロデビュー、卒業、メンバーに明かしていないこと、つんくさんに言われた言葉。
 全部、隈なく話した。
 中澤さんはそれを聞いて随分急やな〜、と困ったような顔をした。

 「なにもかもそうなんです。」
 「・・・でもな?裏を返せばそれだけお前に賭けとるっちゅうことならへんか?」
 「・・・・!」

 中澤さんは僕の横にどかっと腰掛けると、背中をさすってきた。

 「みんなに言わずに隠すのはお前の性格やときついやろな。
  せやけどあんたは耐えなあかん。」
 「なんで」
 「・・・カオリなんか正直な話、いつ卒業するかなんかファン以外気づかんで?
  それに予定を割り込んで、しかも発表の場が発表の場やしな。
  元々お前がモーニングでも卒業して一番大きく騒がれるやろうし。
  久々に話題を作れるかも分からん。」

 はぁ、と中澤さんは溜息をつくと、続けた。

 「残念な事に余裕がないからな。うちらは。
  すっと漏れてしまう可能性を少しでも抑えたい気持ちは分かるわ。
  発表の場にポイントがあるわけやし。」
 「・・・そうですね。耐えるしか、ない・・・。」
 「力になれなくてすまんな。」

 中澤さんはそう言って立ち上がると去っていったけれど、
 力になれなくて、なんてそんなこと、全然ないですよ?

960 :名無し募集中。。。:2004/12/23(木) 08:32
どうなるどうなる!!

961 :てと:2004/12/23(木) 20:26

 僕のソロデビューCDのリリース日は娘。の新曲1週間後に決定した。
 曲の初披露はミュージックステーションのスペシャル。
 そこで歌う直前にいきなり卒業のことを宣言しろ、とつんくさんに言われた。

 確かに上手いやり方だ、と思う。
 ゲストも豪華だから普段より視聴率が高い。
 みんな後半に畳み掛ける大物を待っているのに対して、
 僕達は18歳未満のメンバーがいるから序盤には出番が終わる。視聴率は高いだろう。
 
 ここまでは良かった。納得したし。
 でもメンバーに卒業を伝えるタイミング。一体いつ言えばいいのか。

 「もう明日やし、お前のタイミングでええ。」

 とつんくさんは言ってくれた。
 でもここまでずっと話せなかった罪悪感が、僕の口を重くした。

 もう金曜日は目の前まで来ている。
 でもファンの人達、一般の人達と同時の発表だけはできない。
 それは一種の裏切り行為にも思えた。

 悩み悩んで彷徨っている間に、金曜日はもう目の前まで来ていた。

962 :名無し募集中。。。:2004/12/24(金) 01:00
構成力の凄さに脱帽です。リアルとアンリアルを
本当に上手く絡めてますなぁ

963 :名無し募集中。。。:2004/12/24(金) 03:31
うめえょ・・ホントにすごく主人公?に引き込まれるよ・・・
次は終に!!!!あぁ・・更新が待ち遠しいよ

964 :名無し募集中。。。:2004/12/24(金) 11:06
主人公が娘。を卒業したあとも書けるんだったら
書いてほすぃなぁ

965 :名無し娘。:2004/12/24(金) 13:41
他の人が書いてくれればいいよ
続ける気がないから終わらせようとしてるんだし

966 :てと:2004/12/24(金) 18:57

 番組が始まる直前の楽屋は少しだけ静かだった。
 遂にここまで来てしまった。今言わないともう、間に合わない。
 でも遅くなればなるほどに硬く閉ざされた僕の口元は、本当に臆病で。
 本番が近づくことによる緊張よりも、
 言わなきゃいけないという自分自身へのプレッシャーが僕を硬くしていた。

 時間は刻一刻と近づいている。もうスタンバイはすぐだ。
 そのとき、横にいた藤本さんが、僕の耳元で囁いた。

 「もう時間だよ。」
 「え、まさか。」

 まさか、藤本さん知ってる?
 小さな声で返すと、藤本さんは頷いた。

 「みんなね。」
 「え?!」

 小声ではいられない衝撃を受けた。思わず声を上げてしまう。
 藤本さんは極めて冷静な顔で――いや、装っているのだろう――続けた。

967 :てと:2004/12/24(金) 18:57
 「愛ちゃんなんか、泣いたんだから。」
 「・・・・。」

 そう言われて愛ちゃんの方をそっと覗く。心なしか、目が少しだけ赤く思えた。
 藤本さんは勤めてか、終始冗談っぽい口調で話していた。

 「愛ちゃんの涙は高いよ?あんたもしっかりしないと。ほら。」
 「うん、分かった。」

 胸の中で鞭を打つ。競馬で馬にスパートをかけるように、強く叩く。
 そうでもしないと動いてくれそうになかった。

 「因みに誰が聞いたの?」
 「え、美貴。うじうじしてて言えそうになかったから言っちゃった。」
 「言っちゃったって・・・。」
 「ほら、もう始まるよ。」
 「うん。言うわ。」

 全部知っているみんなに、僕は全部話した。

968 :名無し娘。:2004/12/24(金) 22:05
イイヨー。感情移入しながら読んでるよ。

969 :名無し募集中。。。:2004/12/25(土) 12:10
続き!続き!
主人公イイヨ!

970 :てと:2004/12/25(土) 20:25

 「こいつ、やっと言いやがった。」

 そういう矢口さんの目に溜まったものを見ると心苦しかった。

 僕の告白に、みんな少しも怒らずに最後まで聞いてくれた。
 むしろ今までなんで言わなかったんだよ、と怒ってもらいたいくらいの気持ちだったのに、
 みんな優しすぎると思う。
 
 「そんなんで俺抜けても大丈夫か?」
 「何言ってるの〜!それより私より先に卒業ってどういうこと??」
 「ん〜、ごめんとしか言いようがない・・・。」
 「謝んなよ!!」

 藤本さんだった。
 強く鋭い目をして、僕の事をじっと見て。
 でもすぐに笑顔になった。

 「そんなんでソロやれないよ。もっと胸を張って。」
 「藤本さん・・・」
 「そうですよ!頑張って下さいよ!!!」

 リアクションは十人十色だった。
 激励してくれる娘もいれば、冗談っぽく引き止める娘もいて。
 泣き付くような娘はいなかったけれど、
 何人か明らかに目が赤くて潤んでいたのが見えてしまって、辛かった。
 本当、ごめんとしか言いようがない。
 今まで言えなくて、そして、いきなり消えて。

971 :てと:2004/12/25(土) 20:33

 舞台裏に移動して、僕達の登場を待つ。
 立っている時、服の袖を掴まれる様な感覚を覚えた。
 そしてその正体にすぐ気づく。

 「・・・愛ちゃん?」
 「・・・すみません。来年も、がんばろうって・・・」

 本当に、謝ることしかできない。
 僕は口を開こうとしたけれど、口元を押さえ込まれた。
 愛ちゃんは目を軽く拭うと、言った。

 「何も言わないでください・・・。そんで、一つだけお願い、聞いてくれます?」
 「・・・うん。」

 愛ちゃんは僕の手に指を絡めた。
 ぎゅっと握られる手。

 「もう謝らないで下さい。」

 言われて気づいた。
 僕は謝る事で、逃げていたのかもしれない。
 一人勝手に謝って、全部を済ませた気になって。
 みんな納得しているはずなんて、ないのに。

 だから僕は愛ちゃんに言われたように、謝ることを辞めよう。
 現実と向かい合って、逃げないで。
 今の僕にはまだ、ちょっと難しい事かもしれないけれど。

 「うん。」

 握られた手を、僕は強く握り返した。
 

972 :名無し募集中。。。:2004/12/26(日) 14:59
うわーん、いいよ!!!
佳境!!!

973 :名無し娘。:2004/12/26(日) 17:03
高橋かわいいな・・・

974 :てと:2004/12/26(日) 23:39

 「お〜」

 ここが僕が娘。でいられる最後のステージ。
 そう思うと少しだけ不思議な気持ちになる。
 今日は誰よりも早く来たかった。誰よりも長く居たかった。
 一秒一秒、一曲一曲を噛み締めたいから。

 急遽卒業コンサを行うことになったから人が来るのかどうか、正直すごく不安だった。
 僕なんかが卒業しても、誰も来てくれないんじゃないかって。
 こんなこと考えるのも変なのかもしれないけれど、
 それが僕が「娘。」でいれたどうかの証になると思うから。

 リハを済ましてあとは始まりの時間を待つだけ。
 すごい緊張が僕を襲う。
 こんなに緊張したのは加入当時初めてテレビに映ったとき以来かもしれない。

 ボンッと肩に手を乗せられた。
 後ろを振り向くと、飯田さんだった。

 「カオリより先に卒業しやがって」

 笑った。そう言って笑うと、飯田さんは今度は僕の背中を2回、叩いた。

 「ビシッと決めなよ」
 「・・・はい!」

975 :てと:2004/12/26(日) 23:45

 ステージ上へと飛び出すと、歓声の大きさに一瞬たじろいだ。
 そこにはがら空きの客席なんてどこにもなくて、大勢のファン。
 みんな、来てくれたんだ。

 オープニングから快調に飛ばす。
 一曲一曲を、大事に。
 僕にとっても、みんなにとっても、忘れられない夜にしてやる、そう思いながら。

 コンサでは恒例となった浪漫のギターソロ。
 下手くそかもしれないけれど精一杯弾く。いつもよりうねりすぎて、みんな笑っていたけど。
 ギターソロを終えると不思議と拍手が沸き起こって、僕達を盛り立てた。

 「ありがとう!!」

 大声で叫ぶと、みんなが返してくれる。
 これだから、コンサはやめられないんだ。

976 :名無し募集中。。。:2004/12/27(月) 06:08
いいのぉ

977 :名無し募集中。。。:2004/12/27(月) 10:21
なけるよ

978 :てと:2004/12/27(月) 20:51

 コンサート、アンコールも順調に済ますと、
 あとは卒業セレモニーを残すのみとなった。

 会場は静まり返って、僕の事を見ている。巨大のモニターには僕が映し出されている。
 マイクを持つ手が、震えていた。

 目を閉じて、鋭く息を吐く。
 胸に手を置いて摩ると、僕はマイクを口元に向けた。

 『今日は、本当に僕のために、かどうかは分からないけど来てくれてありがとう』

 茶化す様に言うと客席が軽く沸く。
 でもメンバーは誰一人として笑っていなかった。それがちょっと辛い。

 『なんで僕がモーニング娘。に入ることが出来たのか、疑問でならないけれど、
  今はただつんくさんに感謝したいです。
  だって、こうやってみんなと同じ時を共に出来たんだから。』

 ドッと湧く観客。嬉しくてたまらなかった。
 チラッと客席から涙を覗かせている人を見て、ちょっとだけ泣きそうになりながら。
 僕は続けた。

979 :てと:2004/12/27(月) 20:59

 『そして、もう一つ。つんくさんに感謝したい事があります』

 ここでまた、一息つく。
 胸がきゅーっとしめつけられる様な感覚を覚えるのは、何故だろう。
 僕は顔をみんなの方へと向けた。顔はもうよく見えない。
 視界が開けるのを邪魔する何かが、僕の目の前に広がって、空間を歪ませていた。

 『みんなと、モーニング娘。のみんなと、
  ハロプロのみんなと、出会えて良かった。心からそう思う。』

 大きな歓声が聞こえた。でもそれを確認できる目は今の僕にはない。
 鼻を啜る。
 目頭がすごく熱かった。
 でも今日は、拭っちゃいけない。そう思った。

 『ホント、情けない。泣かないって決めてたのに。』

 頑張れ。

 そんな声が次々と耳に飛び込んでくる。
 うん頑張る。頑張るけど・・・今の、その一言はちょっと痛すぎるよ。

980 :てと:2004/12/27(月) 21:12

 『最後に、本当に最後になりますが・・・。』

 心を、出来るだけ落ち着かせる。
 精一杯、精一杯気丈でいたいから。
 メンバーにこれ以上、情けない姿を見せたら、ちゃんと卒業できないから。

 『これから僕は、一人で活動していくことになりますが、
  どうか、これからもずっと、
  モーニング娘。を、ずっと応援してやってください。』

 目から雫が零れ落ちると、視界が少しだけ開けた。
 メンバーの顔が映って、少し驚いた顔をしているのが確認できた。
 何人も涙を流している。
 僕のために涙を流すなんて、そんな安い涙流しちゃダメだよ。
 それに、まだ話は終わってないよ。

 『みんなの、がんばってる姿を、
  ずっとその目で、その心で、見続けてあげてください。
  これがモーニング娘。の僕からの、みんなへの最後のお願いです』

 大歓声がステージ上の僕達を包む。もうダメ、ごめん。
 涙が止まらなかった。

981 :てと:2004/12/27(月) 21:21

 僕の涙がひかないうちに、みんなのスピーチが始まった。
 5、6期は一番年長の愛ちゃん、亀井さんが代表になって、
 4期以前は全員一言ずつくれるという段取りだったけど、
 何を言うのか、リハで触れなかったから知らなかった。

 「先輩、卒業おめでとうございます!」

 元気一杯の声が飛びこんできて、安心したのも束の間。
 亀井さんの方へと視線を移すと、肩が震えていたのが目に入った。

 「先輩の分まで、絵里達頑張りますから!心配しなくて、いいんですよ?」

 意地悪だな、まだ泣かせたいの?
 胸の奥から目まで何かが繋がって、一気に熱くなるような、そんな感じがした。

 「世界一可愛い後輩を持って、先輩は幸せですよ!!
  以上!!エ・リ・ザ・ベ・ス・キャメイでしたぁ!!」

 ワッとみんなが僕達を包む。涙を隠してくれるかのように。

982 :てと:2004/12/27(月) 21:30

 「先輩。」

 愛ちゃんは、精一杯気丈に振舞おうとしているのがよく分かった。
 震えているのに、体が震えているのにグッと力を入れて、無理矢理抑え込んで。
 それだけで、言葉は要らないくらいだった。
 だってこれ以上話されてしまうと、また涙が出てしまう。

 「卒業、おめでとうございます。
  あたし達5期は、入ったばっかんときに先輩に大分迷惑をかけたり、
  お世話になったりしました。ホントに、感謝して、ます。」

 途切れ途切れになる言葉達が、逆に僕の胸にじわじわと響く。
 今はどんな言葉を聞いても、もしかしたら泣いてしまうのかも。

 「ごめんなさい、泣きそーで、大したこと言えません・・・。
  お互い成長して、これからも頑張りましょう・・・。」

 大きく一礼した愛ちゃんの背中はやっぱり震えていて、僕の体も気づいたら震えていた。

983 :てと:2004/12/27(月) 21:39

 藤本さんは6期とは何故か別枠でここに入った。
 マイクを持つその手の先、目はやっぱりどこか睨んでいるようで。
 でも精一杯笑ってくれた。

 「卒業オメデト。」

 ワザと軽いノリを装ってくれているのが、嬉しかった。
 これ以上泣かせるような一言が続くと、壊れてしまう。

 「美貴より先にソロになってんじゃねぇよ!!」

 客席大爆笑。
 さっきまで泣いていたメンバーさえも笑っていた。
 藤本さん自身も笑っている。
 ちょっと笑えないけれど、思わず笑ってしまった。

 ま、これで涙も拭けたでしょう。そんな顔をしている藤本さん。
 アイコンタクトで返すと、笑ってくれた。

 「待ってろよ。」

984 :てと:2004/12/27(月) 21:39

 「卒業おめでとう。」

 よっすぃ〜はあくまで冷静。
 涙を見せる様子もなく、むしろ笑顔を見せてくれた。
 この方が、僕も楽かもしれない。

 「入ったばっかのとき、おどおどしてるあんた、可愛かったよ。でも・・・。」

 お客さんもこの時ばかりは少しだけ笑った。
 でも、そのあとの一言はやっぱりよしこの上手さだ。

 「カッコよくなりやがって。かっけーよ、今のお前。」

 思わず少し笑ってしまった。
 ありがとう、聞こえないように呟く。
 でもよっすぃ〜の方が、かっけーよ。

 「じゃあ、あばよ!」

 大きな盛り上がりを見せる客席。やっぱ、すごい。

985 :てと:2004/12/27(月) 21:48

 僕のフライングで追い抜かれる形となった石川さんは、
 ちょっとだけ複雑な表情でマイクを持っていた。
 でも、マイクを口元に向けると、パッと笑顔が咲く。

 「卒業おめでとう。」

 ありがとう、そう返したくなるような言い方だった。
 
 「あなたが入ってきたとき最初、男の子ってこともあって、
  あんまり話せなかったよね。今でも覚えてる。」

 加入当初、僕はあまりみんなと話すことが出来なかった。
 それまでテレビの向こう側にいた人達が、というのもあるし。
 僕を避けてた石川さんに気づいてしまったのもあるし。
 でも、

 「でもいつだったかな。私が熱出しちゃったとき。
  お薬が切れちゃっていて。
  北海道で、
  冬なのに雪の中スタッフよりも誰よりも先にお薬探しに行ってくれて。
  あそこから打ち解けたよね、あのときはありがとう。」

 改めてお礼を言われると照れくさい。
 でも、僕が追い抜かしたことを一言も口にしない石川さんを見ているだけで、
 ちょっと瞼の裏が忙しいことになっていた。

 「寂しくなるけど、なやみがあったらいつでもお姉さんに相談しなさいよ。」

 あのときの約束、覚えていたんだ。
 くすっと笑う石川さん。大歓声。その影で、静かに頬を伝う何かを隠した。

986 :てと:2004/12/27(月) 21:53

 矢口さんが、小さい体を少しみんなより前に出して立つ。
 マイクを両手で抱えていたけど、左手を離すと右手で持った。

 「卒業おめでとう。」

 笑顔はない。何もかもが突然だったから、無理もないのかもしれないけど。
 僕はまた一息深く吐き出すと、矢口さんのほうに目を向けた。

 「最初入ったときは、ホントどうしようかと思ったけど、
  すぐにそんな心配がないって分かったよ。これだけ大きくなっちまったしな。」

 ここで始めて笑顔を見せてくれた。目が合って、僕も笑い返す。
 笑顔になっているか、自信ないけど。

 「これから色々大変だと思うけど、自分の力を信じて、根性で乗り切れ。
  ここまで来れた、その持ち前の根性でさ。」
 「・・・はい!」

 思わず返事をする。マイクは手にない。
 ただ、精一杯声を張り上げた。

987 :てと:2004/12/27(月) 21:58

 最後の一人である飯田さんが、ゆっくりと僕に近づく。
 何歩か歩み寄った所で、その足を止めた。

 「卒業おめでとう。」

 その大きな目は確実に僕の目を捉えている。
 その瞳を見つめ返すと、吸い込まれそうな、そんな錯覚を覚える。

 「モーニング娘。としては今日が最後だけど、
  これからは一人のソロアーティストとしての人生が始まるんだよ。」
 「・・・はい。」

 ファンの人に見てもらう、ということを忘れてしまったみたいに、
 僕達はお互い目をあわせて話した。

 「長く長くて、険しくて険しい人生になると思うけど。がんばってよ。
  人生ってのはさ、ホント素晴らしいもんなんだから。」

 観客からざわめきが起こり始める。僕も気がついた。
 この曲で、締める、モーニング娘。としての僕。悪くないかもしれない。

 「ソロアーティストとして、しっかり大成できるように祈りを込めて、」

 飯田さんはマイクをファンのみんなへと向ける。
 矢口さんが横に立つと、合図をかける。

 「せーの!!」
 『I wish!!!』

 やめてよこんな演出。
 また涙が出てきちゃったじゃないですか。

988 :名無し募集中。。。:2004/12/28(火) 01:31
いやはや、最高ですな
てとさん素晴らしいです

989 :名無し募集中。。。:2004/12/28(火) 07:57
うーーん!!
とてもよいですよ・・・
あとはメンバーとの絡みかな

990 :名無し娘。:2004/12/28(火) 20:22
1000が先か500kが先か

991 :てと:2004/12/28(火) 21:58
 誰もいなくなった会場の静けさは、祭りの後の静けさと同じ。
 この静かな空間で、今日という日を一人、振り返った。
 目を瞑ると何の音もない、何もない、ただの闇。
 なんとなく感慨に耽っていると、後ろからちょんと肩を叩かれた。振り向くと指がほっぺに当たる。

 「なにしてんですか?」
 「終わったな、って思って」
 
 愛ちゃんだった。

 「これからは一人でこの会場を埋めなきゃ。みんななし、自分の力で」
 「…本当に卒業しちゃうんですよね」
 「うん」

 ゆっくりとステージの真ん中へと、二人で歩く。
 こんなに広いステージを、一人で駆け回る。少しだけ怖い気もした。

992 :てと:2004/12/28(火) 21:59

 「やめないで、なんて言いません」

 愛ちゃんは精一杯、と思える笑顔をみせてくれた。

 「言ったってどうしよもないし、それに…」
 「それに?」
 「…やっぱいいです」
 「え」

 愛ちゃんの目は、セレモニー中と同じくらいに潤んでいた。見るだけで、涙腺を刺激される。
 愛ちゃんはさっきよりもニコッと笑うと、

 「ソロアーティストとして活躍する先輩、楽しみにしてます」
 「……」

 やばい、涙が出てきた。でも、ここで僕がすべき事は、泣くことじゃない。
 僕は愛ちゃんと同じように、グッと引き締めると、

 「ありがとう」

 今僕の出来る、最高の笑顔で返した。

てとの『僕と娘。の夢物語』終わり。

993 :てと:2004/12/28(火) 22:05
容量の最後を自分で埋めてしまいそうですが、あとがきをさせてください。
書き始めた当初、夢見さんの言葉を信じて繋ぎを出来ればと思って書き出しました。でも僕の書き込み速度が上がるにつれ、
僕以外の職人さんの書き込みが減って乗っ取りみたいになってしまって、すごい罪悪感を覚えました。
このスレは本来参加型のスレ。僕一人の行動で他の人達が書き込めないのだとしたら…そう思うと辛いです。
遂に小説スレで紹介されるようになってから、もはや参加型のスレの空気は完全に亡き者にされ、正直色んなものに押しつぶされそうになりました。
だから僕はこのスレを持って身を引かせてください。僕が書いたものをなかったものとして、夢物語を続けてください。
我侭で、身勝手なのは分かってます。調子乗ってんじゃねぇと言われても仕方ありません。
でももし、書いてもいいと言う声があるなら…その時は書かせて頂きたいと思います。読みたい方が、もしいるのなら。
でもその時は、こんな風に毎日書く、なんて事は自粛します。
以上、長々と書きましたが僕の拙い文章を読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。

てと。

500KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail(省略可)

0ch BBS 2006-02-27