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全部
1-
101-
201-
301-
最新50
●ショムニ●
1 ：
名無し娘。
：2003/01/02 03:07:54
坪井千夏 （ ｀.∀´） 杉田美園 川＇v＇从
丸橋梅 川ｏ・-・） 神谷慎太郎 川 ’ー’川
徳永あずさ （～＾◇＾） 寺崎部長 （●´ー｀）
日向リエ （ ‘д‘） 岡野（人事部） （ ´ⅴ｀）
塚原佐和子 （ ＾▽＾） 右京友宏 （ ´ Д ｀）
宮下佳奈 从‘ 。‘从 三田村英ニ（海外事業部） ∬∬´▽｀）
井上課長 （０＾～＾）
前川社長 从#~∀~#从
前社長 （ ｀◇´）
ネコ （ ・e・）
2 ：
名無し娘。
：2003/01/02 03:10:01
前スレ（？）
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1041425074/
文句のある方は参加しなくて結構ですので荒らさないで下さい。
3 ：
名無し娘。
：2003/01/02 03:10:40
正直、羊でやってください
最近狼でうまくいかなかったから狩っていうのいやです
4 ：
名無し娘。
：2003/01/02 03:12:34
立てた者勝ちということでこれ以上キャスト論争はしません。
純粋にネタだけのスレにします。
5 ：
名無し娘。
：2003/01/02 03:46:04
更新はまだですか？
6 ：
名無し娘。
：2003/01/02 05:35:26
>>5
早すぎ。
狩では一ヶ月待ちくらいは当たり前。
7 ：
名無し娘。
：2003/01/02 08:01:02
>>2
> 文句のある方は参加しなくて結構ですので荒らさないで下さい。
ずいぶんと偉そうな口の利き倒し方だな。
さすがオオカミから流れてきた糞スレだけのことはある。
8 ：
名無し娘。
：2003/01/02 08:03:01
∩ ノノハヽヽ ｼｮﾑﾆ言うな！
((( ⊂´⌒つ｀ Д ´）つ )))
ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ!
9 ：
名無し娘。
：2003/01/02 08:27:18
千夏はいいらさんで。
10 ：
名無し娘。
：2003/01/02 08:31:34
マターリ進行だからアンチはそのうちどっかいくでしょ。
少し間を空けて沈んでから初めたほうがいいね。
11 ：
名無し娘。
：2003/01/02 13:35:27
千夏は三佳
12 ：
名無し娘。
：2003/01/02 18:49:08
w
13 ：
名無し娘。
：2003/01/02 19:26:03
hozen
14 ：
名無し娘。
：2003/01/03 14:30:12
見なれぬスレがあると思って覗いてみれば、なんじゃいこの怖いスレわー。
15 ：
608
：2003/01/05 23:29:26
発想は言い！
うまく立ち回って面白くしてくれよ！
16 ：
名無し娘。
：2003/01/20 01:37:44
ほぜｎ
17 ：
名無し娘。
：2003/01/30 13:53:54
↓いたづら
18 ：
名無し娘。
：2003/01/31 07:12:03
（ ‘д‘）＜ヅラちゃうわ！
19 ：
これにします
：2003/02/21 18:11:08
坪井千夏 川‘～‘） 杉田美園 川＇v＇从
丸橋梅 川ｏ・-・） 神谷慎太郎 川 ’ー’川
徳永あずさ （～＾◇＾） 寺崎部長 （●´ー｀）
日向リエ （Ｏ＾～＾Ｏ） 岡野（人事部） （ ´ⅴ｀）
塚原佐和子 （ ＾▽＾） 右京友宏 （ ´ Д ｀）
宮下佳奈 从‘ 。‘从 三田村英ニ（海外事業部） ∬∬´▽｀）
井上課長 （ ‘д‘）
前川社長 从#~∀~#从
前社長 （ ｀◇´）
ネコ （ ・e・）
20 ：
名無し娘。
：2003/02/21 18:56:30
〆⌒ヽ
( ‘д‘)∧ ＜お～よしよし
( つ(･e･)
(＿)＿)uu)~
[庶務ニ課]
〆⌒ヽ
( ‘д‘)＜みなさんおはようございます
（～＾◇＾）＜よっすぃーと松浦は廊下の電球交換、石川と紺野は名刺配り、
ｵｲﾗとカオリはトイレットペーパーの交換！
（ ＾▽＾）＜名刺…
（＃＾▽＾）ぽっ
（＃＾▽＾）＜後藤さんに渡そうかな…
川‘～‘)＜早くしろよ石川～
（＾▽＾）＜あ、はーい
〆⌒ヽ
( ‘д‘)＜あのー、カツラをさがしてるんですけどぉ…
从‘ 。‘从 （Ｏ＾～＾） 川‘～‘） （ ＾▽＾） （～＾◇＾） 川ｏ･-･）
☆課 長 の ヅ ラ を 探 せ ！ の 巻☆
( ‘д‘) ( ´ⅴ｀) ( ´ Д ｀) (●´ー｀) 从＇v＇从 ∬´▽｀)
川‘～‘)＜ヅラがないぃぃ？んなの知らないよ、ねぇ？
从‘ 。‘从＜見てませんけど
（ ＾▽＾）＜どっかに落ちてるんじゃないですかぁ～？
川o･-･）＜別にﾊｹﾞってバレてるんだから（ｒｙ
（～＾◇＾）＜猫でもかぶってれば～
∧∧
(･e･)ヽ~
( ‘д‘)
( )
(＿)＿)
（～＾◇＾）＜もうそれでいいじゃん
――――――――――ということで終了―――――――――――
＠ノハ＠
（＊｀◇´）＜コレ拾ったんやけど、可愛いよな！メンコイやんな！
( つと）
(＿)＿) (∀~#；从 ＜みっちゃん…
( し）
(_(＿)
21 ：
名無し娘。
：2003/06/08 20:51:31
。o。
○
。o。
○
22 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 00:47:56
再利用してもよろしいでしょうか？
また明日来ます。
23 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:37:38
２ちゃんねるの「私のニュース板」（通称セブン）において小説を連載していましたが、
このたび、諸事情によりこちらの板に移転させていただくことにしました。
タイトルは『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』で、
第三部がちょうど100レス分進んだところです。
ご迷惑をおかけするかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
なお、第一部・第二部は読むのにかなり時間がかかりますので、以下に概要を載せておきます。
第三部も一応概要は載せておきますが、できれば最初から読まれた方がいいかと思います。
24 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:38:02
【過去スレ＆ミラー】
ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1040831621/
（第一部）
http://2chlog.homeftp.org/20030126/1040831621.html
ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!2
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1043831353/
（第一部→第二部）
http://dat2ch05.free-city.net/030523-1043831353.html
ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!3
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1053111546/
（第二部・最終回→第三部）
http://dat2ch09.free-city.net/030625-1053111546.html
※この他にも現役メンバーが集まる部屋（初代～三代目作者）や、
現役メンバーが集まるお好み焼き屋のスレなどもありますが、
読んでいなくても特に影響はないかと思います。
25 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:38:31
【第一部・ドラマ編】
人生の方向を見失い、仕事を辞めて大阪の実家に帰ったもーちゃんこともうさく。
そこに待っていたのは、まるで家族のように平然と過ごす見知らぬ女性。
その馴れ馴れしい態度に戸惑うも、それはすぐに驚きへと変わる。
その女性はモーニング娘。の保田圭だった・・・。
やがて彼女と接するうちに、次第に彼女に惹かれていくもーちゃん。
喧嘩したり、仲直りしたり、秋の京都でデートさせられたり・・・。
そんな順調な生活に、また新たな存在が加わる。それが五期の紺野あさ美。
最初は家族に馴染めずに泣いてばかりの紺野。
しかし、その頑張り屋の性格で徐々に悩みを克服していく。
ただし、その家で悩んでいるのは紺野だけではなかった。
母、姉、彼・・・その三人もそれぞれの悩みを抱えていた。
そしてもちろん、卒業を控えた保田もそうした一人だった。
二月に入り、保田は突然彼を散歩に誘う。
川沿いを歩きながら、彼女はその日が最後だと伝える。
最後のキスを交わし、別れを受け入れる彼・・・。
その直後、彼は決意を固める。人生を再び歩き出すことを。
そして新たに旅立とうとする彼の目の前に現れたのが・・・。
26 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:38:52
【第二部・現実編】
今までの話は全てドラマの中の話だった。
保田圭卒業ドラマ・・・彼はそのドラマに素人ながら参加していたのだ。
彼はドラマの中の役と同様、人生を見失っていた。
そしてそれが偶然ドラマの監督の目に留まり、こうして抜擢されるに至ったのだ。
ドラマの収録が終わり、大きな喪失感を覚える彼。
その一番の理由・・・それは彼女の存在だった・・・。
彼はいつしか、ドラマの中の役と同様、彼女に惹かれていたのだ。
そんな彼の（本当の）部屋に突然やって来たのが・・・中澤姉さんと保田。
そしてそれから、その部屋には続々と見知らぬ女性たちがやって来るようになった。
中澤裕子、市井紗耶香、後藤真希、石黒彩、福田明日香、そして保田圭・・・。
それはモーニング娘。を卒業したメンバー、そして卒業するメンバーだった。
彼女たちがそれぞれ悩みを抱え、そして過去のしがらみにとらわれていることを知った彼は、
彼女たちを受け入れ、そしてその問題の解決を見守ることに決める。
中澤姉さんとキスしてしまうというハプニングなどもあったが、それぞれとの親交を深めていく。
途中、紺野が現役ながら特別に部屋へ来ることを許されたり、より広い部屋に引っ越すなど、
その部屋は着々とその準備を整え、そして５月５日、ついに保田卒業の日を迎える・・・。
数日後、保田卒業歓迎パーティーが開催され、現役の紺野も含めた卒業メンバーが勢ぞろいする。
それぞれに楽しみながら時間が過ぎていき、いつしか部屋は保田と彼の二人きりに。
そこで二人はお互いの気持ちを確かめるためにキスしようと決意するが・・・。
27 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:39:56
【第三部・未来編】
2015年春。モーニング娘。が解散してから十年の月日が経ち、メンバーはそれぞれの人生を歩んでいた。
芸能界にいるメンバー・・・。芸能界から引退したメンバー・・・。行方のわからないメンバー・・・。
それぞれ様々な悩みを抱えているそんなメンバーの間に持ち上がった一つの話題。
それは同窓会・・・モーニング娘。の同窓会を開こうというものだった。
しかしモーニング娘。だったのは遠い昔の話。メンバー間の交流も今では一部のメンバーに限られていた。
途中、保田があることを未だに引きずっていることに気づいた紺野は中澤に一つのことを提案する。
それは卒業メンバーが集まっていた部屋の主、もーちゃんをその同窓会に呼ぶこと。
最初は反対だった中澤も、その紺野の熱意に押され、彼を探すことを約束する。
大体のメンバーに連絡が行き届き、メンバー間の交流も密になっていくが、
それでもまだ連絡の取れないメンバーもおり、更に彼の所在も全くわからないままだった。
唯一わかったのは彼が実家に送った大阪消印の手紙だけ。
それを知った中澤と保田、それに紺野の三人は、もーちゃんを探しに大阪に行くことを決める。
以下、本文へ続く。
※第三部はこれまでとは文章形式が異なります。できれば最初から読まれることをお薦めします。
28 ：
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:44:37
それでは続きを更新します。
29 ：
101
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:44:54
----Future Episode - actress51 "Sayaka Ichii"
スタジオに入り、まどかのレコーディングに立ち会う。
と言っても、初日からうまくいくとは思ってなかったんだけどね。
十年のブランクがあるから、今日は現場の空気に慣れさせるだけで終える予定だったんだけど、
まどかは期待以上に歌いこんで来てた。周りのスタッフがその歌唱力に圧倒されるほど・・・。
ただ、そうは言っても幾つか改善するところはある。
「あのさ、サビの部分はもっと大きなイメージなんだよね。力強く主張する感じ・・・・」
そうした軽い注意を幾つかしただけで、まどかはより一層その曲を魅力的に歌い上げる。
それはその曲を作った私自身が驚くくらいの仕上がりだった。
私自身も一応歌手だけど、レベルの違いを思い知らされるほど。
そこで考えた。
本当はこの曲ともう一曲、カップリングの曲を用意してたんだけど、
ちょっと考え直した方がいいかもしれない。それはちょっとした私の閃き。
「じゃあ、今度は演奏なしでやってみるから、独唱で好きなように歌ってくれる？」
「そう、自分で歌いたいように歌えばいいから。アレンジしてもいいよ」
それに対してまどかはまたしても期待以上の歌声を披露する。
それは私の作った曲だけど、だけどもう私の手元を離れてた。完全に佐伯まどかの曲になってた。
周りのスタッフから更なる感嘆の声が漏れる。
「よし！じゃあこれカップリングでいこうよ！」
その提案にスタッフも頷く。元々まどかに関しては私が全権を委任されてるけど、
でもそうじゃなくてもこれに反対する人はいなかったと思う。
30 ：
102
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:45:18
当初カップリングに予定してた曲は私がまだ売れる前に作った曲で、自慢の曲だった。
そう、明日香と二人で作曲を競ってたあの頃に作った曲。
今の私の曲とは違って単純なメロディだけど、ちょっと叙情的な感じがする曲。
もちろん今回のために現代風にアレンジはしてるけど、
それがどうも元の曲を壊してるような気がして・・・それにいまいち歌詞も合ってないのよね。
いい歌詞さえ見つかれば、A面でも十分通用すると思うんだけどな・・・。
そう言えばこの曲を作った時、あの人に言われたっけ。
曲はいいのに歌詞はありきたりで最悪だって・・・。
でも・・・その時確か、明日香は全く逆のことを言われてたっけ。
歌詞はいいのに曲はいまいちだって・・・。
・・・！
じゃあ、この曲に明日香の歌詞をつければ・・・！
そっか。今まで一度も考えたことなかったけど、
私の曲に明日香の歌詞をつけてもらえばいいのよね？
お互いの曲を交換して歌うんじゃなくて、二人の長所を合わせれば・・・。
なんでそんな単純なことに気がつかなかったんだろ。
私の普段の曲に明日香の歌詞は似合わないけど、この曲なら十分に・・・。
収録を終え、早速明日香にその曲を送る。
今回まどかのためにアレンジした曲と、そしてアレンジする前の曲を添えて・・・。
そして、その返事が私に届いた時、その曲には新しい魂が宿っていた。
明日香のつけた歌詞、それは最近の私たちの同窓会の話をヒントにしたものだった。
タイトルは・・・『永遠の絆』・・・。
31 ：
103
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:45:38
----Future Episode - actress52 "Madoka Saeki"
今日は私のデビュー曲の収録の日。
市井さんから曲を渡されて以来、かなり歌い込んだつもりだったんだけど・・・。
やっぱりプロの世界は違う。まだ幾つか改善するところがあるって。
注意された点を改善しながら歌い直し、なんとか市井さんのオッケーを貰う。
だけどまたまた難しい注文が入って・・・。今度は独唱で歌うことに・・・。
最初は少し戸惑ったけど、最後にはなんとか自分らしく歌い上げることができた。
もっと時間がかかると思ってたけど、収録はその日のうちに終了。
そして、そのたった一日で私のデビューに関する仕事も全て終了。後は発売日を待つだけ。
本来ならジャケット写真の撮影とかイベント活動とか、色々とやることはあるんだろうけど、
今回の私のデビューに関してはちょっと特別。歌番組にも出演しないことになってる。
と言うのも、今回の曲には『佐伯まどか』という名前は出さないことになってる。
それは私と市井さんが相談して決めたことで、事務所もそのことは了承してる。
私としても過去の延長じゃなくて、あくまでも一新人としてゼロから再出発したかったし、
市井さんも私の歌声だけでどれくらい通用するかを試したかったみたい。
それで決まったのが、歌手名を公表しないで曲名だけで売り出すという作戦。
いかにも話題性を重視する市井さんらしいやり方だけど、それは私の意思を尊重してくれたから。
実は私、こうして歌手としてデビューすることにはなったけど、今の仕事を辞めたくはなくて・・・。
それで市井さんに話したら、じゃあ声だけでメディアには一切露出しないでいこうってことになった。
もちろんいつかはばれてしまうんだろうけど、でも以前のオーディションの時だって、
市井さんですら私のことに気づかなかったくらいだから・・・。
収録を終えて市井さんからある話を聞く。
32 ：
104
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:45:56
それは同窓会にあの大阪の部屋のおじさんを呼ぶという話だった。
「もちろん覚えてますよ！色々励ましてもらいましたから・・・」
そう、あのおじさんがいなかったら、私はこうして再デビューすることはなかったかもしれない。
それだけに、あのおじさんに会えるというのは私にとって嬉しいことだった。
でも・・・そのおじさんの消息がわからないらしくて・・・。
「そうなんですか。私も最後に会ったのは三年くらい前ですから・・・」
そう言った瞬間、市井さんの表情が変わり、まるで犯人を問いつめる刑事みたいに質問を投げかける。
「・・・ええ、三年くらい前に・・・場所ですか？・・・大学の図書館でしたけど・・・」
市井さんの話では、あのおじさんはもう何年もメンバーの前に姿を現してないんだって。
だから私がおじさんと再会してたことは意外な収穫だったみたい。
「何か調べものをしてたと思いますよ。確か・・・鬼について調べてるって言ってたような気がします・・・」
あまり詳しくは覚えてないけど、あの時、私は確か図書館で卒業論文の資料を探していた。
それで書庫で偶然あのおじさんに出会って・・・。私は全く気づかなかったんだけど・・・。
その話を聞いて市井さんが何か納得したような表情を浮かべる。
あのおじさん、大学時代に民俗学を専攻してたらしくて、専門は鬼の伝承だったんだって。
「でも覚えてるのはそれだけです・・・何の仕事してるとかまではちょっと・・・」
話が終わり、市井さんが携帯を取り出す。どうやら中澤さんに私の話を報告してるみたい。
慌ててるところを見ると、本当におじさんの行方は何もわかってないみたい。
だけど一つだけわかったことが・・・。それは先輩たちが、今あのおじさんを必要としてるってこと。
33 ：
105
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:46:13
----Future Episode - actress53 "Kaori Iida"
それは突然の来客だった。
玄関を開けると、久しぶりに見るケイちゃんの笑顔があった。
「ケイちゃん・・・どうしたの？」
そう尋ねる。本当は泣いて抱きつきたいくらい嬉しかったはずなのに、
だけど、その時の私、嬉しさよりも戸惑いの方が大きかった。
それはもちろん・・・自分の弱さを見せたくなかったから・・・。
ケイちゃん、近くに来たから寄ってみたって。・・・だけど多分それは嘘。
多分私の様子を見に来たんだと思う。私が突然同窓会しようなんて提案したから・・・。
「え？・・・うん、ちょっとね、仕事が忙しいみたいで・・・」
慎吾さんのことを聞かれる。そりゃそうよね・・・もう夜の九時なのに、部屋には私一人・・・。
だけど、ケイちゃんには全てお見通しだった。
ケイちゃんは家に上がった時から、家の様子を丹念に見渡してた。
だからすぐにわかったんだと思う。そこに二人の生活の痕跡が無いってことに。
「・・・・・・・・・・・・うん・・・」
それは私が自分の弱さを認めた瞬間。他人に初めて弱さを認めた瞬間だった。
でも・・・それはケイちゃんだから・・・ケイちゃんだから認めることができたと思うの。
気づいたら私、ケイちゃんの前で泣いてた。他人の前で涙を見せるなんて・・・何年ぶりだろ。
でも・・・それでよかったんだと思う。だって・・・それでやっと本当の私に戻れたんだから・・・。
ケイちゃんに全てのことを話す。
モーニング娘。だった頃のこと、解散してからのこと、引退してからの仕事のこと、
そして慎吾さんとの結婚生活がうまくいっていないこと・・・。
34 ：
106
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:46:30
ケイちゃんは全ての話を頷きながら聞いてくれた。そして一つ一つのことに対して理解を示してくれた。
ケイちゃんはずっとわかってくれてたんだ。私の気持ち・・・。私の悩み・・・。私の孤独・・・。
だけど私の性格を知ってたから・・・だからそっとしててくれた。だってそれは私が望んでたことだから・・・。
「ごめんね・・・ずっと・・・心配してくれてたなんて・・・私・・・」
涙が止まらなかった。それで思い出したの。以前にも同じようなことがあったってことに・・・。
2004年1月。私はなっちと二人でモーニング娘。を卒業した。
でも、それは前からわかってた。二人とも突然ソロの話が出たりして・・・それは解雇のための準備だった。
なっちはなんで辞めさせられるのかってかなり怒ってたけど、私はもう諦めてたし、逆に嬉しかったほどだった。
正月のハロプロコンサートが最後の舞台だったけど、私は一度も泣かなかった。
だけど・・・それも強がってるだけだったの。
それから少ししてから、私となっちはあの大阪の部屋に招かれた。
それは私たちの卒業歓迎パーティー・・・。そして、私がケイちゃんの前で泣いたのはその時だった。
本当のことを言うと、彩や明日香や紗耶香なんかと顔を合わせるのはすごく気まずかった。
現役の頃は色々問題があったしね・・・。でもみんなはそんなこと気にしてなかった。
ううん・・・気にしてたのかもしれないけど、でも新しい関係を始めようとしてくれてた。
それに気づいた時、私とっても嬉しかった。やっとみんなの仲間になれたって思った。
でも・・・それと同時に、急にモーニング娘。を卒業したことへの淋しさが込み上げてきて・・・。
そんな私に気づいたのがケイちゃんだった。
みんながいると話しにくいだろうからって言われて、それで二人で近くの公園に・・・。
そこで私、今日みたいに泣いてた。自分でも信じられないくらい泣いてた。
そんな私にケイちゃんが言ってくれた言葉があった・・・。それはとても大切な言葉・・・。
「泣きたい時は泣けばいいよ。圭織はもう一人じゃないんだから」
だけど私、そんなことすっかり忘れてた。ずっと忘れてた。
私は一人じゃないってことを・・・。私には大切な仲間がいてくれるってことを・・・。
35 ：
107
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:46:47
----Future Episode - actress54 "Kei Yasuda"
圭織の自宅に来るのは今日で二度目。
一度目は四年くらい前。圭織が結婚したばかりの頃だった。
その時は真里と梨華の三人で来て、新婚の圭織をからかって帰ったんだっけ。
圭織と慎吾さんが付き合い始めたのはあたしがまだ卒業する前のことだから、
ゴールまで十年以上もかかったことになる。
その間に何度か離れたりくっついたりを繰り返してたみたいだけど、
結婚に踏み込めなかったのは圭織の性格があったからだと思う。
圭織は決して他人に自分の弱さを見せない人。
あたしも似たような性格だけど、圭織は徹底してた。
例え恋人でも、親友でも、決して自分の弱さを見せないように気丈に振舞ってた。
でも・・・だからこそずっと心配だったの。
その強さは・・・弱さの裏返しだから・・・。
だから圭織が結婚するって聞いた時、あたしは安心したの。
圭織もやっと誰かに頼ることができるようになったんだって思って。
でも・・・それも長くは続かなかったみたいね。
「ねえ、慎吾さんはまだ帰ってないの？」
そう言ったけど、でも本当はその時点でもう全部気づいてた。二人がうまくいってないってこと。
「ねえ圭織・・・あたしがなんで来たかわかってるよね？」
「じゃあ、わかるよね・・・・。もう無理しなくていいってこと・・・」
「だってあたし・・・そのために来たんだから・・・」
36 ：
108
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:47:05
そう言うと圭織は突然泣き崩れる。今までためていたものが一気に溢れ出したかのように。
圭織はかわいそうな人・・・。ずっと前からそうだった・・・。
圭織はいつも一人だった・・・。みんなが一緒の時も・・・みんなの中にいる時も、圭織は一人だった。
誰とも心を通わせることなく、誰とも打ち解けることなく、それを一人心の中にしまってた。
だけど今日、圭織はあたしに心を許してくれた・・・。それはあの時以来・・・。
圭織があたしに打ち明けてくれる。
結婚生活がうまくいってないこと、みんなと離れて淋しかったこと・・・そして同窓会を提案した理由・・・。
でも全部わかってた。だって・・・あたしはそれでも圭織の親友だから・・・親友だって思ってるから。
しばらくして圭織が落ち着きを取り戻す。
「あたしもね・・・圭織ほどじゃないけど・・・ほら、結構強がってる方でしょ？」
「でね・・・あたしもこの前・・・やっと素直になれたの・・・あの人のことで・・・」
こんな話、以前のあたしなら絶対にしなかったと思うの・・・誰にも・・・。
でも・・・あさ美があたしのことを心配してくれて・・・。それにゆうちゃんや紗耶香も・・・。
「それであたしもわかったの・・・これが仲間なんだって・・・」
「自分のことを自分よりもわかってくれる・・・それが仲間なんだって・・・」
仲間・・・その存在を思い出させてくれたのは・・・圭織のおかげ。
だって理由はどうであれ、圭織が同窓会をしようって言ってくれたから、
あたしはこうしてあの人のことで素直になれたし、それにみんなとの絆を思い出せたの・・・。
「ごめんね・・・本当はもっと早く圭織に会いに来るべきだったんだろうけど・・・」
「ほんっと頑固でどうしようもないよね・・・あたしも圭織も！」
そう言うと圭織が笑顔を見せる。それは久しぶりに見る圭織の本当の笑顔だった。
37 ：
109
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:47:26
----Future Episode - actress55 "Asuka Fukuda"
同窓会の話はいまいち進んでいないみたいだけど、
先週聞いた話ではもうさくさんを呼ぶという話が持ち上がってるみたい。
少し懐かしくなって、部屋の隅の棚からあの頃に作った曲の入ったMDを取り出す。
その中には私の作った曲の他に、紗耶香が作った曲も入っている。
少しだけどケイの作った不思議な曲も入っているし、もうさくさんの感想なんかも入っている。
こうしたMDが一日では聴けないほど残っている。私にとって大切な宝物・・・。
仕事が忙しい紗耶香と違って、私は毎日をこうして結構のんびりと過ごしている。
私の場合、自分の歌う曲だけ作ればいいし、基本的にテレビにも極力出ないことにしているから。
だから仕事と言えば、月に一度のラジオと、毎年行っている小規模なコンサートくらい。
後は曲作りの毎日だけど、私の場合、一年間に出すシングルは一枚か二枚だし、
アルバムも一枚だけだから、月に二曲も作れば十分に間に合うペース。
だから一曲に費やす時間も多いし、例えボツになった曲でも、
こうして繰り返し聴いては改善して新しい曲に作り直したりしている。
そして今日もまた、こうして昔の曲を聴いてイメージを膨らませている。
だけど、その日は本当に偶然だった。
紗耶香と二人で作曲を競っていた頃の曲を懐かしく聴いていると、紗耶香から荷物が届く。
それは紗耶香が昔作った曲・・・。それも・・・私が今、聴いていた曲だった。
その曲には手紙が添えられていた。この曲に詞をつけてほしいって。
こんな偶然、滅多に無いことだと思う。
非科学的な運命なんて私は信じないけど、でもその時だけは別だった。
偶然にしろ運命にしろ、これは私たちにとって意味のあることだって思えたから。
38 ：
110
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:47:45
だから最初に思い浮かんだのが私と紗耶香との関係。
二人が出会ったのは偶然だし、こうして友達として付き合っているのも偶然。
そして今日こうして紗耶香から曲が送られてきたのも偶然。
だけど、イメージを膨らませているうちに、それは単なる偶然じゃないってことに気づいた。
それは偶然じゃなくて・・・必然・・・。そして、そこにあるのは絆・・・。
同窓会の話が持ち上がってから、私もそうした絆を実感することが多くなった。
私は行けなかったけど、先週はケイからあさ美の部屋に遊びに来ないかって誘われたし、
そこに集まったメンバーでデビューしようって話が持ち上がったことも聞いている。
それで出来上がったのが、モーニング娘。の同窓会をテーマにした詞。
それぞれの人生を歩んでいた仲間たちがふと昔のことを懐かしく思い出し、
連絡を取り合って再会し、再び夢を語り合い、それを追い求める・・・。
タイトルは・・・『永遠の絆』・・・。
出来上がった詞を元にして私が紗耶香の曲を歌ってみる。
イメージはぴったりだった。だけど・・・一人で歌うような曲ではないような気もする。
そう、どちらかと言うと大勢の仲間と一緒に歌いたいと思えるような曲。
それで思った。これをみんなと歌いたいって。
もちろん紗耶香の作った曲だし、紗耶香に依頼されただけだから、
その曲を誰がどう歌うかは紗耶香の勝手。
だけどそれではもったいないような気がして・・・。
しばらくして紗耶香から返事が来る。やっぱり紗耶香も同じことを思ったみたい。
この曲を私と二人と歌いたいって・・・。二人の曲にしたいって・・・。
だけど、その最後にはこうも書いてあった。
二人で歌いたいけど、でももし出来るのならこの曲をみんなで歌いたいって。
考えてることは一緒だった。だってその絆は・・・決して二人だけのものじゃないから・・・。
39 ：
111
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:48:03
----Future Episode - actress56 "Yuko Nakazawa"
今日はある約束の日。うちは偶然こっちの仕事が入って、前日の夜から泊まってたねんけど、
ちょっと寄るところがあったさかい、時間に遅れてしもて・・・。
待ち合わせの場所にはすでに二人の姿があった。
「あー、わりいわりい。ちょっと寄るところあってん・・・そんな怖い顔せんでもええやん・・・」
ケイちゃんはちょっとご立腹みたいやけど、紺野はさほどでもない感じや。
「ん？・・・紺野、なんやその右手の紙袋は？」
「なんや、弁当買うてきたんかいな・・・うちがせっかくお好み焼き買うてきてあげたんに」
そう言うと二人が反応を見せる。そりゃそうや、二人にとってもこのお好み焼きは特別やから。
「ようわかったなあ。そやで、あっちゃんの店のやで。二人とも久しぶりやろ？」
あっちゃんの店言うんは、つんくさんが昔行きつけだったお好み焼き屋。
ほんでうちもよう連れてってもらってたんやけど、ある時からメンバーも出入りするようになって。
まあ、昔あったメンバーの憩いの場の一つってとこやな。
解散後は向こうの事情もあって一時閉店しとったんやけど、
五年くらい前にあっちゃんが仕事やめて再び店始めよって。
ほんで今では市内に四店舗もあるチェーン店や。まあうちが少し出資したんやけどな。
「アホか。これ買うたんは支店やから、今日はあっちゃんには会うとらんで」
あっちゃんとうちは昔微妙な関係やってん。と言うても、ケイちゃんとあん人ほどやなかったけど。
まあうちも若かったし、プライドが許さんかったってのはあったんやけどな。
そやけど今は向こうも妻子持ちやし、今となってはどうでもええことやろ。
40 ：
112
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:48:21
「しかしあれやな。まさかうちら三人が新喜劇見に来とるなんて知ったら、周りの人も驚くやろな」
席に座り、紺野の買うてきた昼飯とうちの買うてきたお好み焼きを食べながら漫才を見る。
漫才見ながら飯食うのはなんや団体客のおばちゃんみたいやけど、紺野曰くそれが通なんやと。
そう言えば紺野はようあん人にここに連れて来てもらってたみたいやな。
石川が新喜劇入ったんも、もしかしたらその影響があるんかもしれへんなあ。
新喜劇が始まり、舞台にヒロイン役の石川が登場する。
テレビでは見たことあるんやけど、こうして生の舞台を見るのは初めてやった。
そやけどほんまに生き生きしとんなあ。なんやこれが適材適所ってやつやろか。
新喜劇が終わり、三人で楽屋に立ち寄る。
楽屋言うても他の芸人と十把一絡げの大部屋やけど、ほんでも石川はほんま満足そうや。
周りの芸人が珍しそうにうちらの周りに集まってくる。
中にはうちが使うたことのある顔見知りの芸人もおるけど、半分は名前も知らへん芸人や。
そやけど紺野は毎週新喜劇欠かさへんらしく、その場の全員からサイン貰って喜んどる。
「紺野、そろそろ行くで！・・・ほな、石川も頑張りーや！」
石川はこの後夕方のローカル番組に出るらしくて、夜にもう一度会うことになっとる。
そやけど石川はほんま大阪の空気に馴染んどるみたいやなあ。
うちなんか、関西人やのに大阪では嫌いなタレントランキングの筆頭やで。
昔上沼のおばはんに叩かれて以来、うちはこっちの空気が苦手やねん。
吉本を出てタクシーで市内を移動する。行き先はもちろん・・・。
そやけど案の定何の情報もなしや。あの部屋はうちが解約したさかい、もちろんおるわけあらへんし、
近所に住んどったとしても見つけるのはほとんど不可能や。
うちら年長組があん人とよう利用しとった居酒屋も潰れとってあれへんし、
十年も経っとるさかい、あん人の情報が手に入りそうな場所もほとんどあらへん。
そやけど、市内のどっかにおるんは間違いないねん・・・。
41 ：
113
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:48:38
----Future Episode - actress57 "Kei Yasuda"
空港からタクシーに乗り市内へ向かう。
最初に向かった先は大阪城。それを提案したのはあさ美。
あさ美はあたしがまだ完全に素直になれてないって思ってるみたい。
だからあの人との思い出の場所を廻ってあたしの気持ちを確かめようとしてるみたい。
大阪城公園はあの人とよく散歩した場所・・・。
あの人は街中の喧騒が嫌いで、こうした静かな場所でのんびり過ごすのが好きだった。
せっかく二人きりなのに、釣り竿を持って来て大阪城の堀で一日中釣りをしたり・・・。
二人とも絵が下手なのに、道具を持って来て風景を描いたり・・・。
あたしはもっと普通のデートがしたかったのに、向こうにはそういう意識はなかったみたい。
いつかは忘れたけど、あさ美と三人で来て、ここであの人と喧嘩したこともあったっけ。
そんなことを思い出す。
それにしても・・・あの頃と変わらず、今もブルーシートが目に付く。
「ははは・・・まさかね・・・」
あさ美の話はもちろん冗談だろうけど、でも確かにありえる話かもしれない。
あの人のことだから、こうしてホームレスでのんびり暮らしてても不思議じゃないと思う。
世間体とかプライドとか安定した生活とか、そういうものを全く気にしない人だったから・・・。
それを聞いてから自然と周りのブルーのテントに目がいってしまう。
そんな自分を見て、やっぱりあの人のことを必要としてるってことに気づく。
しばらくのんびりとその辺りを散策し、時間になって約束の場所へ向かう。
でもゆうちゃんは三十分も遅刻。なんでもあっちゃんの店に寄ってたんだって。
だからって遅刻が許されるわけじゃないし、そこまで遅れた理由にはならないけど・・・。
42 ：
114
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:48:57
今日こうして大阪に来たのはあたしのため。
だけどこうして吉本に来たのはあさ美のリクエスト。
あさ美はあの人の影響で大の新喜劇ファン。
あたしもあの人と一緒に来たことがあるけど、それも一度だけだったと思う。
でもあさ美と梨華は何度もここに来てたみたい。
そこにはあたしの知らないあの人の姿がある。でもそれも当たり前。
あの人はあたしだけのものじゃなかったから。だから普通に付き合うこともできなくて・・・。
新喜劇を見た後、ゆうちゃんの顔パスで楽屋に立ち寄る。
梨華と会うのはこの前一緒に高橋の舞台を見に行って以来。だけど電話は毎週のようにかかってくる。
あたしにとっては昔から妹みたいな存在だし、向こうもあたしのことを姉のように慕ってくれてる。
「うん、ちょっとびっくりさせようと思ってね！」
大阪に来ることは言ってあったけど、こうして新喜劇を見に来るとは言ってなかったから、かなり驚いてたみたい。
あさ美が周りの芸人からサインを貰ってる間、梨華と話をする。
だけど梨華もあの人のことは知らないんだって。あっちゃんが新しい店を出したことは知ってたけど・・・。
梨華と別れ、タクシーに乗って見覚えのある町に向かう。
以前利用してた地下鉄の駅、そこからあの部屋までの通り。そうした街並みは全然かわってなかった。
でもよく買い物してたスーパーは潰れてたし、居酒屋も潰れてた。
あの部屋のあったマンションは今もあったけど、最初の部屋は駐車場になってた。
それが十年の歳月・・・。あたしの知ってる町だけど、それはあたしたちが過ごした町じゃなかった。
でも、それも当然なんだろな。あたしだって、あれから色んなことがあったんだし。
結婚もしたし離婚もした。ハリウッドでデビューもしたし、今は二時間ドラマで活躍してる。
そんなの、十年前には想像もできなかった・・・。
でも、あたしの気持ちは少しも変わってない・・・。だからあの人も・・・。
43 ：
115
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:49:16
----Future Episode - actress58 "Asami Konno"
「ねえ保田さん、ここでもーちゃんさんと喧嘩したの覚えてますか？」
そう尋ねると、保田さんが苦笑いを浮かべる。やっぱり覚えてたみたい。
そうだよね。思い出って、いいことよりもそういうことの方が印象が強いから。
今日は保田さんと中澤さんと三人で大阪に来ることになってたけど、
中澤さんは用事があるらしくて、後で合流することになってる。
だからそれまでこうして思い出の場所を廻ってみることにしたの。
「全然変わってませんね・・・景色も・・・それに青いテントの数も・・・」
「もーちゃんさんのことだから、ホームレスしてたりするかもしれませんね・・・」
それは冗談だけど、でも昔、もーちゃんさんからあることを聞いたことがあったから・・・。
「だってもーちゃんさん言ってましたよ。将来は思い出の場所で気ままに暮らしたいって」
思い出の場所・・・その話を思い出したから、今日は一番にここに来てみたの。
もちろん本当にホームレスしてるとか、そんなことは無いと思うけど､
でも私たちがここに来るのと同じように、もーちゃんさんも昔のことを思い出してるかもしれないって思って。
でももしそんなことがあったとしても、ここでこの瞬間に出会うなんてありえないことだと思う。
それがあるとすれば、それは運命・・・。だから私は保田さんをここに連れてきたのかもしれない。
二人は運命の糸で結ばれてるって・・・そう信じてるから・・・。
時間になって待ち合わせの場所へ向かう。人通りの多い場所なのに三十分も待たされる。
「これですか？お弁当ですよ！」
「ここではつまらない漫才見てる間にお弁当食べるのが通のやり方なんですよ！」
44 ：
116
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:49:37
それは昔もーちゃんさんから教わったこと。
もーちゃんさんにはよくここに連れて来てもらってた。
もーちゃんさんは新喜劇が大好きだったし、石川さんも興味があったみたいで・・・。
それで三人揃った日にはよくここに来てた。もちろんお弁当を用意して。
他にも教わったことがある。一番近くの金券ショップじゃなくて、
少し離れた場所にある店の方がチケットが安いとか・・・。
今日は中澤さんが関係者からチケット手に入れてくれてたみたいだけど・・・。
新喜劇はいつも通り爆笑の連続だった。
だって石川さん、ヒロインなのに「真っ黒け」とか「ぶりっこ」とか散々言われてるんだもん。
それでキレて啖呵切るんだよ。大声で怒鳴ってみんなに説教。凄い迫力。
だけど最後はいつも通りのオチ。先がわかっててもおもしろいんだよね。
中澤さんと保田さんはあまり笑ってなかったみたいだけど・・・。
新喜劇が終わり、石川さんに会いに楽屋に。
そこにはさっきまで舞台にいた芸人さんたちがたくさんいた。
こんなこともあろうかと思って、実はサイン色紙を用意してたんだよね。
それから楽屋を出て昔過ごしたあの部屋へ。
だけどもちろん住んでるはずもなく、結局その日は何の成果も無かった。
もーちゃんさん、絶対思い出の場所にいると思うんだけどな・・・。
だけど、気づいたの。もーちゃんさんの思い出の場所・・・。
それは私の知らない場所かもしれないって。
だってもーちゃんさんがいるとすれば・・・それは保田さんとの思い出の場所のはずだから。
「保田さん・・・保田さんにとって一番の思い出の場所ってどこですか？」
そう尋ねる。でも保田さんは答えてくれなかった。ただ笑ってた。
でも私にはわかる。それは二人だけの大切な思い出だから・・・だから例え私でも・・・。
45 ：
117
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:49:54
----Future Episode - actress59 "Rika Ishikawa"
「わあ、ケイちゃん！それにゆうちゃんにあさ美ちゃんまで～！！！」
「も～、来てくれるのなら教えてくれたっていいのに～！！！」
突然やって来た三人。わたしも驚いたけど、それ以上に周りのみんなが驚いてた。
だって今やBIG3と言われてるゆうちゃんに、二時間ドラマの女王のケイちゃん、
それに映画で活躍してて男性ファンの多いあさ美ちゃん。
一人でも凄いのに、それが三人も揃ってやって来たんだよ～！
大阪に来るとは聞いてたけど、まさか三人揃ってここに来るなんてね・・・。
「あ～、それあっちゃんのお好み焼きでしょ？ちょうどお腹減ってたんだよ～！」
それはゆうちゃんが買ってきたらしいんだけど、余ったからくれるんだって！
あっちゃんの店にはよく行くんだけどね。だって色々サービスしてくれるから。
だけど今日三人がやって来たのはあっちゃんじゃなくて、もう一人のおじさん、もーちゃんさんを探すため。
「うん・・・私も知らないよ。ずっと会いたいと思ってたんだけどね」
ケイちゃんがずっともーちゃんさんのことを忘れられずにいたことはつい最近知った。
それはわたしがケイちゃんに結婚するかもしれないって報告をした時。
その時ケイちゃん自分のことのように喜んでくれた。
・・・でも一つだけ言われたことがある。本当に好きな人としないと後悔するよって・・・。
その時は冗談だと思ってた。またわたしをからかってるんだなって。
・・・でも違ってた。それに気づいたのは先週。
ケイちゃん言ってた。同窓会にあの人を呼ぶことになったって。それで今度探しに行くことにしたって。
その時の声・・・とても嬉しそうだった。
それでわかったの。ケイちゃんがず～っともーちゃんさんを想い続けてたってこと。
そして、ケイちゃんが結婚したかったのは本当はもーちゃんさんだったってこと。
46 ：
118
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:50:12
「そっか～、もーちゃんさん、今大阪にいるんだ～」
ゆうちゃんから大体の話を聞く。
だけど大阪にいるかもしれないってことだけで、わざわざ三人で来るなんて、ちょっと強引だよね？
でもケイちゃんがこんなに真剣な顔してるの久しぶりだし、それにたまに見せる笑顔なんか、
ここ数年は見たことないような表情で、まるであの頃のケイちゃんに戻ったみたいに生き生きしてるし・・・。
もしかして、ゆうちゃんとあさ美ちゃんがケイちゃんのために付き合ってくれてるのかな？
うん・・・きっとそうだよ。だって二人ともわたしと一緒で昔からケイちゃんのこと大好きだったから・・・。
だけど・・・せっかく来てくれたのに、わたしは何の役にも立てそうもない・・・。
ずっと大阪に住んでるのに・・・もーちゃんさんの情報なんて何一つ知らない・・・。
「う～ん・・・ここに見に来てくれてるかもしれないけど、でも舞台の上からじゃわからないし・・・」
もーちゃんさんは新喜劇の大のファン。今はわからないけど当時はそうだった。
新喜劇と駐在さんは毎週ビデオに録画してたし、ここにもよく連れて来てもらってた。
それでわたしは新喜劇に興味を持ったんだけど・・・でもわたしにもできるって思ったのは、
もーちゃんさんが教えてくれたから。新喜劇のある人のことを・・・。
その人はOPD出身で新喜劇に転身した人。もーちゃんさんファンだったんだよね、梶本姉さんの。
それにそれ以前からモーニング娘。の番組で珠代姉さんや花子姉さんとコントとかやってたから、
新喜劇には全然抵抗はなかった。むしろずっと身近に感じてたくらい・・・。
それでモーニング娘。が解散して仕事が減り始めた頃に、本気で考えるようになった。
まだ迷いはあったけどね。だけど、ちょうど亜依ぼんと二人で漫才やることになって、
それで、もしかしたらわたしはこっちの世界の方が合ってるのかもしれないって思って・・・。
話が終わり、三人が部屋から出て行く。あさ美ちゃんは最後までサインを貰い続けてたけど。
でも今日はとっても嬉しかった。今のわたしはこうして新喜劇のみんなと一緒に過ごしてるけど、
たまに懐かしく思い出すことがあったから・・・。モーニング娘。のみんなと過ごしてた頃を・・・。
47 ：
119
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:50:30
----Future Episode - actress60 "Sayaka Ichii"
今日は事務所で会議が行われる日。
事務所の社長はもちろんのこと、レコード会社、広告代理店、スポンサーの関係者なども集まって、
今後の経営の方針を話し合う重要な会議。・・・だけど本当は私が呼ばれる前に全て決定されてること。
ほとんど形だけの会議で、私に異議を申し立てることは許されてない。
と言うのも、私は事務所に雇われてる単なるプロデューサーで、肩書きはあっても役職は無いに等しいから。
ある意味傀儡・・・昔のつんくさんと全く同じ立場と言ってもいいかもしれない。
ただ、それでも私の発言は大きな意味を持ってる。
この事務所が上向きなのも、私のプロデュースの成功があってこそ。
"Love Telepathy"は全盛期は過ぎたけど、まだ安定した人気と売上を保ってるし、
"Life has started"に至っては、歴史に残るような記録を打ち立てようとしてる。
今までは単に事務所の方針に文句が無かったから何も言わなかったけど、
最近では少しその方針に疑問も感じ始めてる。その最初のきっかけはメンバーを増員するという話。
大々的に売り出した"Love Telepathy"のニューシングルが、予想――５０万枚――の半分に満たなかったこともあって、
メンバーを入れ替えてアイドル性を増やそうという方針が持ち上がったのが先々月のこと。
私はもちろん大反対だった。かつてのモーニング娘。の失敗を生で見てるから・・・。
でも事務所はそれを失敗ではなく、成功・・・むしろ模範と見てたみたいで・・・。
確かに増員した当初は成功だったのかもしれないけど、でも最後の方はみんなが知ってる通りなのに・・・。
さすがに私以外の人の中にも反対する人がいて、その話は流れたからいいようなものの、
その代わりに事務所は新しいユニットを作る計画を立てて、今はもうその準備に入ってる。
私としてはこれ以上ユニットが増えるとまともな曲が作れなくなると反対したんだけど、
事務所は５０万枚売るよりも３０万枚を二つ、あるいは２０万枚を三つ売った方が利益になると考えてるみたい。
だけど、その事務所には恩義があるから・・・結局受け入れてしまって・・・。
48 ：
120
◆w6WpxJOw
：2003/06/26 20:50:49
私が復帰してインディーズで何曲か出してた時、その事務所だけが私を拾ってくれた。
宣伝すれば絶対に売れる曲だって・・・。売れないのは曲のせいじゃないって言ってくれて・・・。
それでその事務所に入ってから、私の曲は少しずつ売れるようになった。
一年目は市井紗耶香という名前を浸透させるだけで精一杯だったけど、
二年目にはヒット曲も生まれ、三年目には念願の紅白出場も果たした。
その時に学んだのが、売れるのは実力じゃなくて人気と売り方次第だってこと。
だけど最近ではその考え方にも疑問を持ち始めてる。それはまどかと再会したから。
売り方次第でどうにでもなる曲を作るより、本当の曲を作りたいって思えるようになったから。
それが私の原点だったのに、いつのまにかそんなことも忘れてしまって・・・。
会議が終わり、それからはまた曲作りの日々。
だけど私、今回は久しぶりにのんびり休むことにした。なんだか気が乗らなくて・・・。
それで気づいたら、ある町に来てた。
そこは昔、私が住んでたことのある北陸の田舎町。そう・・・あの人と暮らした町・・・。
三日前、私はケイちゃんから大阪に行くという話を聞いた。それはあの人を探すため・・・。
だけど結局見つからなかったって聞いたから・・・。それで私もあの人を探そうって思って。
少しでもケイちゃんのためになればって・・・。それが私のせめてもの罪滅ぼしだから・・・。
大阪にいるという話は聞いてたけど、でもそれはあくまでも可能性だから。
だから私は自分のできることをしようって思って・・・。それは私の知ってるあの人の痕跡を探すこと。
その町は全然変わってなかった。東京と違ってゆっくりとした時間が流れてた。
それはあの人が私の元を去った時と同じ・・・私がこの町を去った時と同じままの時間・・・。
懐かしい街並みを見て、あの人が残していった手紙――そこに書いてあった言葉をふと思い出す。
もう一度お前の曲が聴きたいって。お前にならできるはずだって。だから諦めるなって。
例え売れなくても、お前が満足できる曲を作れって。それを待ってる人がどこかに必ずいるからって。
それが私の原点・・・。なのに私・・・いつのまにか売ることばかり考えるようになってた・・・。
自分が作りたい曲・・・歌いたい曲・・・それが私の全てだったのに・・・。
49 ：
121
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:11:38
----Future Episode - actress61 "Maki Goto"
助手席に座り、のんびりと流れていく景色を眺める。
車は都心を離れ、川沿いの曲がりくねった県道をゆっくりと進む。
緑の山々・・・川のせせらぎ・・・そして運転席のもうさくさん。
「やっぱり髪切って正解でしたね！・・・まだまだ全然イケてますよ！」
そう言うともうさくさん、言葉の使用法が間違ってるなんて私を注意する。
『全然』は否定の意味で用いないといけないって・・・。でもそれは単なる照れ隠し。
もう三十半ばのおじさんだけど、そういうところは昔と変わらずにウブなまま・・・。
今日は久しぶりのドライブ。と言っても運転してるのはもうさくさん。
私の車なんだけど、日本を離れてる間はずっと貸してるから、私よりも慣れてるかもしれない。
しばらくして目的地に到着。ここはもうさくさんが以前来たことがある場所らしくて、
川に吊り橋がかかってたり近くに滝があったりして、落ち着いた雰囲気の場所。
その木陰にひっそりと小さな三重塔が立ってる。そんなに古いものじゃないみたいだけど、
もうさくさんの話では、鬼が一晩で立てたって伝承があるらしくて、以前もそれを目当てで来たんだって。
そう言えばもうさくさん、以前仕事で鬼の伝承を集めてたんだっけ・・・。
その塔から少し歩いた先に吊り橋がかかってて、それを渡った先の川原に天然の温泉がある。
看板に書いてあった名前はそのまま鬼の湯。これも鬼に関する言い伝えがあるみたい。
あまり知られてない温泉らしくて、そばに簡易な脱衣所があるだけで入浴料は無料。
混浴だけど私たちだけだったから、特に戸惑うこともなかったんだけど・・・。
でも、もうさくさんはちょっと困ったような顔を浮かべてた。その理由はもちろん・・・。
「やっぱり気になっちゃいますか、私の身体？」
それも当然。だって私の身体は半分は男のままだから・・・。
性同一性障害者が手術をしなくても性別を変更できるようになって、私も戸籍上は女性になったけど、
でもあそこにはまだ男のモノがついたまま。それももうさくさんよりもちょっと大き目のモノが・・・。
50 ：
122
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:11:59
「ほんっと不思議ですよね・・・。自分でもそう思います・・・」
「でも実在するものは実在するんですよ！ほんとのことなんですから！」
それは私の身体のこともあるけど、それとは別のもう一つのことについて・・・。
それはもう一人の私。もう一人と言っても、今ではほとんど私と一体化しちゃってるけど・・・。
私には以前、もう一つの人格があった。だけど二重人格なんかとはちょっと事情が違ってた。
私の身体を利用してる存在と言った方がわかりやすいと思う。一種の憑依現象みたいなもの。
「悪魔や妖魔なんて、多分誰も信じてくれないですよね。もうさくさんだけですよ、信じてくれたの！」
もうさくさんは悪魔みたいに変身した私の姿を見たことがある。それも二度も。
一度目は私がまだもうさくさんの部屋に行き始めたばかりの頃。
その時はその存在によってほとんどの記憶が消されてしまったんだけど、
二度目は私の意思が大きくなり始めてた頃だったから、そうはならなかった。
「そうですよね。私みたいな存在がいるんですから、きっと鬼や天使なんかもいると思いますよ！」
「もしかしたら、もうさくさんの身近にいるかもしれませんよ、私みたいに！」
でももうさくさんは全然気づいてなかったみたい。
私以外にもメンバーの中に特殊な存在がいるってことに・・・。
「今日は楽しかったです！・・・久しぶりにのんびりできて・・・」
帰りの車の中でそう話し掛ける。だけど楽しかったのはのんびりできたからじゃなくて・・・。
こうしてもうさくさんと一緒に過ごせたから・・・あの頃みたいに・・・。
それでふと思ったの。私もそろそろ落ち着いた方がいいのかもしれないって、そんなことを。
でも・・・さすがにそれだけは言えなかった。ううん・・・それは言ってはいけないことだったから・・・。
だって・・・もうさくさんはずっと・・・。
51 ：
123
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:12:23
----Future Episode - actor62 "Mousaku"
「しかしあれだな・・・お前と二人で温泉って・・・やっぱり変な感じがするよなあ・・・」
それは私の素直な感想だった。と言っても、そこには様々な理由がある。
一つ目は年齢。私も今や三十代半ばの完全なおっさん。それに対して目の前の後藤はまだ二十代。
今年三十路を迎えるらしいが、それでも若くて綺麗な女性と一緒に混浴することなど滅多にないこと。
そして二つ目は、その後藤自身のことについて・・・。
「それでも男なんだよなあ・・・」
ただ、それが残念なことなのか、安心できることなのかは自分でもよくわからない。
胸なんかは定期的なホルモン剤の影響でどう見ても女の膨らみがあるし、下半身には逆にアレがついてる。
もちろんバスタオルを纏ってるので、そこまではっきりとは観察できないし、
観察する以前に、普通の女性の裸を見るよりも緊張してしまうのだが・・・。
「しかしほんっとに不思議だよな・・・その身体のこともそうだし・・・それにもう一人の人格なんてさ・・・」
そう言うと後藤がニコリと微笑み、口元から少しいびつな形の白い歯がチラリと姿を見せる。
その歯が牙みたいに伸びる時、それが後藤のもう一人の人格が表に出てきた時・・・。
目がつり上がって血走り、耳がとんがり、体が紫色に染まり、背中に大きな羽が生える。
そんな後藤の姿を一度だけはっきりと見たことがあった。かなり昔の話になるが・・・。
「だよなあ・・・まあ俺も実際に見なかったら、お前がどれだけ真顔で言っても信じなかっただろうな」
「でもなあ、お前見てたらさ、なんか鬼とか天使とかも本当はいるんじゃないかって思えてくるんだよな」
「ははは・・・まさかな・・・」
しかし、後藤のような存在が実在する時点でその可能性はゼロではないのだろう。
もっとも、あのモーニング娘。のメンバーの中にはさすがにいないだろうが・・・。
52 ：
124
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:12:41
帰りの車の中で後藤が尋ねてくる。
「結婚？・・・うーん、一度も考えたことないな。お前はどうなんだ？一応結婚は普通にできるんだろ？」
「そっか・・・まああれだ。俺みたいないい加減な男はあれだけどさ、お前は家庭が似合うと思うけどなあ」
そう言うと助手席の後藤が嬉しそうに微笑む。ただ、どこか淋しそうにも見える。
「ははは・・・そりゃ凄い質問だな。・・・メンバーの中で結婚するなら、か・・・そうだなあ・・・」
「あー、それは駄目駄目。保田はほら、結婚とか家庭とかそういうタイプじゃないから・・・」
そう答えるも、モーニング娘。のメンバーの中で唯一私が愛してしまった女性。それが保田圭。
しかし、結婚となると話は別だ。そもそも彼女と私は性格も全く違うし、それぞれ求めるものが違っていた。
たまに一緒に過ごすからまだ良かったものの、毎日一緒に暮らすとなるとかなり辛いものがあると思う。
「そうだなあ・・・結婚するなら・・・やっぱり小川かな？」
モーニング娘。のメンバーの中で、私がよく知っているのは解散以前に来ていた、いわゆる旧メンバーたち。
その中でも性格に棘が無くて私を落ち着いた気分にさせてくれたのが・・・小川と・・・そして・・・。
「小川はまだ独身なのか？・・・いや、別に本気で考えてるわけじゃないけどさ」
後藤曰く、数年前に結婚式の案内状が実家に届いたらしい。ちなみに、それまでは婦人警官をしていたらしい。
「ははは、そっか。そりゃ残念だなあ・・・じゃあ結婚は諦めるとすっか！」
そう言ってチラリと横の後藤を見る。後藤はその答えに微笑みを浮かべていた。
その笑顔を見て、ついもう一人の名前を言ってしまいそうになる。・・・それは後藤・・・後藤真希。
私にとって、彼女は安らぎの存在。そこには恋愛感情は無いが、私はずっとそんな彼女に惹かれていた。
しかし、さすがにそれは言うべきではないのだろう。・・・今のこの関係を続けるのであれば・・・。
53 ：
125
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:12:58
----Future Episode - actress63 "Mari Yaguchi"
「いい加減にしろっつってんだよ！！！いつまで甘えれば気がすむんだよ！！！！！」
その突然の怒号に目の前にいる女性が一瞬にして縮み上がる。
「てめえは昔からそうだったよな。悪いことは全て他人のせい。昔から全然かわってねーじゃねーか！」
「おいらよ、ほんとのこと言うと、お前が劇団に入ったって聞いた時、ちょっと見直したんだぜ！」
「いつも他人まかせでちやほやされることに慣れてたお前がよ、一人で一からやり直したって聞いてさ・・・」
「でもよ・・・結局全然かわってねーじゃねーか。いつまでそうやって昔のことでウジウジしてんだよ！！！」
「大体賞を取れなかったのだってお前の実力が無かったせいだろ！紺野のせいじゃねーだろーが！！！」
高橋が紺野に対してわだかまりを持ってることは誰もが知ってること。
そしてその原因がある映画の賞ということも・・・。
だけど賞を取ったとか取れなかったとか、そんなことははっきり言ってどうでもいいこと。
問題は、高橋が紺野に負けたことを根に持ってるということ。賞なんか関係なく、ただ紺野に負けたことに。
「いい加減に目を覚ませよ！・・・そりゃ紺野に負けたことは悔しかったろうよ・・・」
「でもよ、だからって紺野を恨んでもしかたねーだろ！紺野が賞取ったのだって紺野が頑張った結果じゃねーのか！！！」
そこまで言って一息つく。・・・今のところ、ここまでの演技はほぼ完璧。
昼ドラしか主役の来ない二流の女優だけど、こういうシーンは結構得意なんだよね。
高橋もおいらに怒鳴られるなんて思ってもいなかったみたいで、結構効いてるみたいだし、
この前の新垣の説得とは違って、今回はうまくいくかもしれない。
タバコを取り出してライターで火をつける。高橋は何かを我慢したままじっとおいらの方を見てる。
だけどすぐには話し掛けない。演技ってのはね、セリフじゃないんだよ、こういう間が一番大事なんだから。
54 ：
126
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:13:16
タバコを吸い終わり、先ほどとは違う優しい口調で話し掛ける。
「そりゃあよ、紺野だって性格的にちょっと問題はあると思うぜ、おいらも・・・」
「紺野は頑固で理屈っぽいしよ、みんなの前でリーダーのおいらを思いっきり批判したこともあったよな」
「だけどよ、あの頃の紺野のこと思い出してみろよ。・・・紺野は誰よりも頑張ってただろ・・・」
「事務所がお前を押してた時もよ、新垣がイメチェンして人気が急上昇した時もよ、紺野はずっと地道に頑張ってただろ！」
「歌もダンスも演技もトークもいまいちだったけどよ、お前たちに負けないようにって、ずっと頑張ってただろ！」
「それにな、お前が自分だけ頑張ってた時、紺野はどうしてたか思い出してみろよ・・・」
「紺野はいつもお前たち同期のこと応援してたじゃねーか。勝ち負けとかじゃねーんだよ、それが仲間ってもんだろ！」
おいらだってそうだ。同期だったケイちゃんとさやっぺ。解散した後一番売れてたのはおいらだった。
でも今は違う。ケイちゃんは誰もが思いもつかなかったイリュージョンで今や女王と呼ばれる存在。
さやっぺに至っては今じゃ日本で一番勢いのあるプロデューサー。それに比べておいらは・・・。
「悔しい気持ちはおいらもわかるよ。そりゃ悔しいだろうさ。でもよ、それをいつまでひきずるんだって話なんだよ！」
「それによ・・・お前のその一人よがりのせいで、紺野がどれだけ苦しんでるか考えたことがあんのかよ！」
「・・・どうせあれだろ？自分ではもう後戻りできなくなってたんだろ？なあ・・・正直に言えよ・・・」
「ずっと誰かに引き止めてほしかったんじゃねーのか？そんな自分に嫌気がさしてたんじゃねーのか？」
「やっぱそうか・・・。じゃあせっかくの機会だ。おいらがお前に引導渡してやるよ・・・」
人を殴るなんて久しぶり。それもメンバーを殴るなんて、ほんっとに久しぶりだった。
でも高橋はずっとそれを待ってた。だからおいらも容赦はしない。だって、それがリーダーとしてのおいらの役目だから。
55 ：
127
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:13:33
----Future Episode - actress64 "Sayumi Michishige"
中澤先輩から電話がかかってくる。もちろん同窓会のことについて。
残念ながら同窓会自体を番組にするっていう話は駄目だったけど、
私が簡単な取材をするくらいなら全然オッケーだって。
それとメンバーが許可するなら、写真なんかも全然使っていいって。
映像に関しては現役のメンバーの場合は色々と手続きがいるみたいだけど、
それはこちらの交渉次第になるから、後は私が頑張らないとね。
早速同窓会の話を企画会議に提出。
映像が使えるかどうかわからないことがちょっと心配だったけど、でもなんとか二時間の枠を貰うことができた。
それはエンタメの時間枠で、そこで私を司会にしたモーニング娘。特集をやることになった。
もちろんまだ同窓会の日程が決まってないから、いつになるかはわからないけど・・・。
後は私が各事務所と交渉するのと、昔のモーニング娘。の映像の許可を取らないといけないんだけど、
毎週やってる山口県の音楽ランキングや商店街散策コーナーとは全然違って、かなり緊張するなあ。
仕事の時間が終わり、その後でれいちゃんに電話をかける。
実はその番組でちょっと考えてることがあってね。
「あ、れいちゃん？さゆみっちゃけど、今暇？」
「あんね、同窓会の話なんだけどね、今日企画会議でオッケーもらったっちゃね」
「それでね、実はれいちゃんにも出てほしいっちゃけど、どうかなあ？」
「うん、まだ日にちは決まってないっちゃけど、えりちゃんにも後で電話しよう思っとおけん・・・」
そう、私が考えてるのは、れいちゃんとえりちゃんと私の三人で司会をすること。
それならもし同窓会の話が流れても、ロッキモニ。の生同窓会にすることができるから。
56 ：
128
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:13:51
一呼吸置いてえりちゃんに電話をかける。
「あ、えりちゃん？さゆみっちゃけど・・・久しぶりっちゃね！」
「最近仕事とか忙しいっちゃない？この前もかけたけど通じんかったけん・・・」
「うん・・・そうそう、同窓会っちゃけど、もちろん参加するよね？」
「よかったあ・・・。実はね、さゆみが今度モーニング娘。特集の番組することになったっちゃけど・・・」
「それでもしよかったらえりちゃんにも出てほしいなって思って・・・」
「うん、日程はまだ決まってないっちゃけど、れいちゃんもオッケーだって・・・」
えりちゃんは仕事柄ちょっと難しそうだったけど、でも休日一日くらいだったら何とかなるって。
翌日・・・いつも通りお昼の街角拝見コーナーの生録を終えて局に戻る。
そしたら、私の知らないうちに大変なことになってた。
ロッキモニ。の三人で司会をするって話を朝にちょっと話したんだけど、
それがどうも凄い噂になってしまってて・・・。
県内だけの小さなケーブルテレビ局だし、普段は地元の特集企画くらいしかやらないから、
独自に芸能人を使うってこともほとんどなくて、それでうちだけでやるにはもったいないって話になってた。
それでまずれいちゃんの人気がある福岡のケーブルテレビ局に話が行って、
気づいたら九州各県のケーブルテレビ局でも放送するってことになってしまって・・・。
モーニング娘。ってもう過去のものだと思ってたけど、でも全然違ってた。
今でもモーニング娘。を待ってる人たちがいて、そうした人たちが番組制作に関わってる世代になってる。
解散して十年も経ってるけど、でもまだモーニング娘。は消えたわけじゃなかった。
みんなの記憶の中にしっかりと残ってたみたい・・・。私たちの絆と同じように・・・。
57 ：
129
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:14:11
----Future Episode - actress65 "Ai Takahashi"
今日は久しぶりの休み。だけど私には休んでる余裕なんて無い。
それは他のメンバーも同じ。みんなそれぞれ自分の欠点を補おうと、こうして寝る間を惜しんで頑張ってる。
だから私も負けてられない。だってみんなが狙ってるのは私の主役の座だから。
私がこの劇団に入った頃は、休みの日はのんびりと過ごしてた。
でもそれじゃ追いつけないって思うようになって、休日にも練習に参加するようになった。
それまでは毎日が疲労の連続で、休日くらいはゆっくりしたいって思ってたけど、それは間違いだった。
初めて覗いた休日の練習。そこには普段私に対してきつく当たってた先輩たちの姿があった。
それも一生懸命汗を流してる姿が・・・。
それまでは私はただの意地悪な先輩たちだと思ってた。
私がモーニング娘。だったから、それで便所掃除なんかをやらせたり、わざと無理難題をふっかけたり・・・って、
そう思ってたし、舞台の配役も実力とは関係なしにただの年功序列だと思ってた。
でも違ってた。先輩たちは後輩に見えないところでそれ以上の努力をしてた。それはモーニング娘。の先輩たちと同じ・・・。
それで私も頑張ろうって思うようになった。幸い、休日は自主練習の日だったから、
先輩たちは普段よりも優しく接してくれたし、つきっきりでアドバイスしてくれたりした。
そんな先輩たちに努力を認められ、私は今の私になった。
だから今度は私の番。私が後輩たちに何かを伝える番・・・。
お昼の休憩の時間になり、休憩室に向かう。
と、そこには意外な人の姿があった。・・・それはリーダーの矢口さん。
「矢口先輩・・・どうしたんですか？」
そう尋ねると矢口さんが笑顔で答える。昔と変わらず元気一杯って感じの笑顔。
矢口さん、私がここにいるって聞いて、それで朝からずっとそこで待ってたんだって。練習を邪魔しないようにって。
一声かけてくれればよかったのに、ずっと待っててくれたなんて・・・。
58 ：
130
◆w6WpxJOw
：2003/07/02 20:14:30
だけど矢口さんが来たのは・・・もちろん楽しい理由なんかじゃなかった。
それは同窓会のこと・・・そして私のこと・・・。
矢口さん、少しずつ語気が荒くなる。でも言ってることは当たってた。
私、本当はそんな自分を止めたかった。自分でもわかってた。あさ美は関係ないって。
それなのに・・・。私はずっとそれを引きずってしまってた。
そして一度引きずったらもう後には戻れなかった。
だからメンバーの結婚式で呼ばれた時なんかも、一度も出席できなかった。
あさ美と顔を合わすことができなくて・・・。どういう態度をとればいいのかわからなくて・・・。
みんなもそんな私のことに気づいてた。だから保田さんは何度も私にやり直そうって言ってくれた。
でも・・・私のプライドがそれを許さなくて・・・。
でも今日の矢口さんは違った。私を説得に来たんじゃなかった。矢口さんは最初から私を叱りに来てた。
私が素直になれなかったのは、私が甘えてたから。他人に・・・そして自分に・・・。
矢口さんはそんな私に気づいてた。だから・・・。
その頬の痛さは、今まで生きてきた中で一番の痛さだった。
でもその痛さは単なる表面的な痛さじゃない。心の痛さだった。
今までの私の愚かさに対する心の痛さ・・・そして私のせいで傷ついてたあさ美の心の痛さ・・・。
矢口さんに殴られて、私はようやく素直になれた。
例え矢口さんのそれが臭い演技だったとしても、そんなことは全然関係ない。
だって矢口さんは私を立ち直らせようと思ってわざとそんな演技をしてくれたんだから。
夕方になり、矢口さんから聞いたあさ美の住所へ向かう。
私の心にケジメをつけるために・・・そしてあさ美に謝るために・・・。
残念ながらあさ美は留守だったけど、でも今日じゃなくても私の気持ちは変わらない。
あさ美とはまたすぐに会えるんだから・・・私たちの同窓会で・・・。
59 ：
131
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 05:59:34
----Future Episode - actress66 "Asami Konno"
東京での舞台挨拶を終え、いよいよ私主演の映画が公開される。
大阪から帰ってきてから今日までの一週間、色んなメディアの取材を受け、私も久しぶりに忙しい毎日を過ごしてる。
今日もこの取材が終わったら映画を撮影した仙台に行って、そこの夕方の番組に出演することになってる。
その後は更に札幌に行ってラジオに出演する予定。
そのラジオ番組は以前私が出てたコーナーがあった番組。
元々は安倍さんが卒業した頃にソロで出演してたんだけど、一人じゃ難しいってことで、
すぐに私と藤本さんの二人がその応援として呼ばれるようになったんだよね。
・・・と言っても、モーニング娘。が解散するまでの一年数ヶ月という短い期間だけだったし、
安倍さんと藤本さんが仲が悪かったりして色々問題もあったけど、でも私にとってはとても楽しい仕事だった。
仙台のテレビ出演が終わり、飛行機で札幌へ。
久しぶりに本場の札幌ラーメンを満喫して、その後ラジオ局へ。
早速番組が始まる。もう十年以上も続いてる番組だけど、
プログラムの構成もパーソナリティの人も昔とは変わってて、ほとんど番組枠と名前だけが残ってる感じ。
いよいよ放送開始！・・・でも番組冒頭でゲストとして紹介されたまではいいんだけど、
それからすぐ音楽コーナーが始まって、映画の話題は全然出てこない。おまけに、
私が以前この番組にレギュラーで出てたって言ってみても、司会の人はそんなことも知らなかったみたいで。
なんだかないがしろにされてるみたいで、珍しく嫌な気分になっちゃった。
仕事だし、映画の宣伝をする大事な機会だから、もっと頑張らないといけないんだろうけど・・・。
全く意味の無い個人の音楽独断ランキングが終わって、ようやく情報コーナーで私の映画の話になる。
こういうランキングって普通はゲストの曲を入れたりして話を盛り上げたりするもんだけど、
この人一体何年この仕事やってるんだろ。喋りもなんか勢いだけだし、格好つけた喋り方がくどくて・・・。
昔はラジオ局の普通のアナウンサーが司会で、とってもおもしろいおじさんだったんだけどなあ。
映画のことを質問される。でも質問の仕方もなんかやる気が感じられないのよね。
質問の内容もありきたりだし、いい加減うんざりしちゃって、放送中に何度ボイコットしようと思ったことか。
60 ：
132
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 05:59:51
でも・・・そんな私の不満はすぐに解消されることに・・・。
それと言うのも・・・その直後にとんでもないハプニングが起こってしまって・・・。
それは・・・番組ジャック！！！
しかも・・・それをやってのけたのが・・・驚くことに安倍さんと藤本さんだった。
どこで話を聞きつけてきたのか知らないけど、とにかく二人は突然部屋に乱入してきて、
それで司会の人を人質にとって番組を無理やり乗っ取ってしまって･･･しかも生放送中に・・・。
ガラスの向こうにいるディレクターの人も最初は戸惑ってたけど、
でもこの三人のメンバーの顔ぶれを見てそのまま放送することに決めたみたい。
そう言えばこのディレクターさん・・・昔見たことがあるような気がする・・・。
久しぶりに会う安倍さんと藤本さん、でもそんなにのんびり話をしてる余裕もなくて・・・もちろんだけど。
とにかく安倍さんと藤本さんは番組内容に不満があったらしくて、それをマイクに向かってぶつけてた。
それで一通り文句を言い終わった後、藤本さんが改めて番組ジャックを宣言。
そして安倍さんが私たちに合図を送る。・・・最初はわからなかったけど、でもすぐにわかった。
それは私たちの懐かしいタイトルコール！
「なっち、あさ美、ミキティの・・・夜なのに～モーニングGOGO～！」
こうしてほぼ十年ぶりに私たち三人の番組が始まった。・・・と言うか勝手に始めちゃったんだけどね。
最初は懐かしいねって話で盛り上がって、その後は私の映画の話題に・・・。
ディレクターさんも私たちのジャックを正式に――と言うか成り行きなんだろうけど――認めてくれたみたいで、
ちゃんとCMも普通に入れて、その間に番組に届いたたくさんの電話のメモやファックスを渡してくれる。
なんでもラジオ局の電話回線がパンク状態なんだって。こんなハプニングだから当然なんだろうけど・・・。
中には私たちの番組を覚えててくれた人たちもいたみたいで、そういうのがとっても嬉しかった。
それともう一つ嬉しかったのが、モーニング娘。や私たちの曲を聴きたいっていうリクエスト。
私は解散直後にシングルを一枚出しただけだけど、でもそれを覚えててくれてる人もいて・・・。
「それでは、私の最初で最後のソロ曲、"Perfect Dream"です。聴いてください！」
61 ：
133
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:00:09
----Future Episode - actress67 "Miki Fujimoto"
カランカランとドアについてる重い鈴の音が聞こえ、カウンターに向かう私の隣の席に誰かが座る。
まだ早い時間で空席は幾らでもある。と言うことは私目当ての客なのだろう。
目の前のグラスを飲み干し、ふと隣を見る。
・・・しかし、私の予想は半分は当たっていたものの、半分は完全に間違っていた。
「なっち・・・！？」
それはなっち・・・。どこで聞きつけてきたのかは知らないが、それは確かに安倍なつみだった。
マスターがなっちの前にグラスを差し出す。私の知り合いということで、多分なっちの分もサービスになるのだろう。
なっちはそのカクテルを一口飲み、ニコリと笑う。
この天使のようなスマイル・・・これが以前の私は大嫌いだった。
セクシーでもなければ男に媚びるような笑みでもない。なのに世の男どもはこのスマイルに魅了される。
それが気に入らなかった。例えそれが天性のアイドルの素質であったとしても・・・。
しかし、そんな話も現役時代だけの話。
モーニング娘。解散後、私はあることがきっかけでなっちと仲良くなった。
もちろん性格的に相性が悪いので、そこまで仲良くなったというわけではなかったし、
それに、それはある意味、私がなっちに借りを作ったということなのかもしれないけど・・・。
モーニング娘。が解散した時、なっちはすでに卒業してソロとして活動していた。
歌も歌い、ドラマにも出て、それまでに卒業したメンバーの中では一番活躍してたと言えるかもしれない。
しかし、そんななっちと違い、解散して再びソロに戻った私はあまりパッとしなかった。
解散後は数人のメンバーが順にシングルを出すことになってたけど、私の順番はかなり後の方で、
しかも売上は出したメンバーの中でもかなり下の方だった。
それで事務所は私の人気が無いと判断し、それから歌の話もドラマの話も私にはほとんど来なくなった。
・・・そして、その頃だった。なっちが私にある話を持ちかけてきたのは・・・。
あれは確か、大阪にあった仲がいいのか悪いのかよくわからない部屋でのこと・・・。
62 ：
134
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:00:25
その時の私には、テレフォンショッピングの話が新たに持ち上がっていた。
もちろん引き受ける気は無く、事務所に散々文句を言ったことを覚えている。
それに対してなっちには、あるドラマの依頼が来ていた。主役ではなかったもののちゃんとしたドラマだった。
しかし、なっちはその仕事に不満があったみたいで・・・。
それで私はそのなっちの態度に腹を立て、そして当然のように大喧嘩になった。
特になっちの「私もテレフォンショッピングの仕事がしたいなあ」という脳天気な言葉が私に火をつけた。
その部屋のおっさんが止めに入り、なっちを殴り倒すには至らずに終わったけど、
でも、そのことがきっかけで私はなっちの代わりにそのドラマに出演することになった。
と言うのも、なっちが言ってたその言葉・・・それは決して嫌味ではなく、なっちの本心だったから。
お互いの仕事を交換するなんて、最初は事務所も全然相手にしてくれなかったけど、
でもドラマの役も元モームスなら誰でもよかったみたいで、なっちの説得によって事務所もしぶしぶ承諾。
「あれからもう何年になるんだろうね・・・」
そう言ってからふと思い出す。それは以前なっちと出てたラジオ番組のこと。
マスターに頼んでラジオをつけてもらう。確かこの曜日のこの時間だったはずだけど・・・。
番組はまだ続いていた。ちょっと様変わりしてたけど・・・でも驚いたのはそのことじゃなくてその日のゲスト。
だけどその扱いがあまりにひどくて・・・。それで文句を言おうとしたその時だった・・・。
なっちが天使のスマイルを浮かべ、そして悪魔のようなセリフを口にしたのは・・・。
タクシーでラジオ局に向かい、そして生録中のスタジオに乱入。
私たちの姿を見てみんな目を丸くしてたっけ。特に紺ちゃんの驚きようは半端じゃなかった。
紺ちゃんは私とはかなり仲がいい方だった。モーニング娘。に加わる前から仲が良かったし、
二人でカントリーに加入した後はそれ以上の仲になった。ある意味なっちとは正反対の存在。
ジャック宣言をして勝手に番組を進める。戸惑っていた紺ちゃんもようやく理解したみたいで、笑顔を浮かべる。
マイクに向かって話す・・・ただそれだけのことなのに、それが私にとってはとても楽しくて、そして嬉しいことだった。
こんな感覚は引退してから初めて。・・・だけど、なっちにはまた一つ借りができてしまったみたい・・・。
63 ：
135
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:00:43
----Future Episode - actress68 "Natsumi Abe"
なっちの日記
なっちはね、昨日とっても楽しいことがあったの！
それはね、懐かしい仲間と出会ったこと！そして一緒に冒険をしたこと！
とっても楽しくてね、なっち、また芸能界に戻りたいなって思っちゃった！
昨日ね、なっちはね、札幌に行ったんだよ！
ちょっと気になることがあったからね！それはね、同窓会に関係ある話なの！
三日くらい前にね、かおりんと話したんだけどね、なんでもミキティと連絡が取れないんだって！
でもね、なっちはミキティの居場所知ってるんだよ！
だって札幌にいる友達から聞いたことがあったんだもん！あるバーに毎晩のように出没するって！
だからね、なっちが行ってみることにしたの！久しぶりに北海道に帰りたかったし！
それにみっちゃんと喧嘩しちゃって今週はずっとみっちゃんの機嫌が悪かったから！
乱太郎のことはちょっと心配だったけど、でも乱太郎はちゃんとお留守番できるって言ってくれたから！
それでね、飛行機に乗って札幌に行ったよ！
そしたらね、噂通りの店にミキティがいたんだよ！
一人でお酒を飲んでたみたいで、もちろんなっちも一緒に飲んだよ！
ミキティはなっちと違ってちょっと痩せてたけど、でも昔よりも綺麗になってたよ！
それもただ綺麗なんじゃなくて、ちょっと深みのある綺麗さっていうのかな？
でも向こうもなっちのこと見て、同じようなことを感じたはずだよ！
ただ可愛いんじゃなくて、ちょっと深みのある可愛さって！
直接聞いたわけじゃないけど、ミキティの目はそう言ってたよ！なっちはそうだと思うよ！
それから昔のことを話したよ！色んな思い出話だよ！
モーニング娘。とミキティで大喧嘩したこととか、ミキティがモーニング娘。に入ってみんなから無視されてたこととか、
なっちがミキティと罵倒合戦を繰り広げたこととか、とにかく楽しい思い出話だよ！
64 ：
136
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:01:00
それでね、そんな話をしてたら、昔なっちが出てたラジオ番組の話になったんだよ！
なっちがメインでね、それでミキティと紺野ちゃんの二人も出てた番組だよ！
なっちのコーナーは終わっちゃったけど、その番組自体はまだ続いてるんだって！
それでね、ちょうどその日がその番組の日だったんだけどね、そこにね、偶然紺野ちゃんが出てたの！
もちろんびっくりしたよ！だってちょうどその話をしてたところだったし！
でもね、なんだか司会の人の進行が滅茶苦茶下手なの！
それにね、ゲストなのに紺野ちゃんのこと全然触れようとしないんだよ！
それでなっち、ちょっと怒っちゃったんだよね！だって紺野ちゃんだよ！
なっちのモーニング娘。のかわいい後輩だよ！怒るのが当然だよね？
だからね、言ってやったの！・・・「なっちの番組を汚すな！」って！！！
そしたらミキティも同意してくれてね、それで二人で文句を言いに行くことにしたの！
ラジオ局の入口で止められちゃったけど、でもなっちの顔を見てすぐに通してくれたよ！
当然だよね！だって引退しちゃってるけど、なっちはなっちだもん！
それでね、収録してる部屋についたんだけどね、ミキティがね、どうせならパーッと派手にやろうって！
それでドアを蹴飛ばして乱入して、二人でラジオを乗っ取っちゃったの！
とっても楽しかったんだよ！周りの人たちはみんな呆然としてたし、
それに紺野ちゃんもおめめをまんまるにして驚いてたんだよ！
ミキティと会うのも久しぶりだったけど、紺野ちゃんと会うのも久しぶりだったよ！
紺野ちゃんはしばらく見ない間にすっかり大人になってたよ！なっちもびっくりしたよ！
それでね、色んな話をしてね、それでね、紺野ちゃんの曲をかけてね、
それでね、なっちの曲をかけてね、それでね、ミキティの曲をかけたよ！
とっても楽しい一日だったよ！でもね、なっち、ちょっと淋しいなって思うの・・・。
だって昔のなっちは毎日そういう仕事してたんだよ。だから・・・なっち、昔のなっちが羨ましくなっちゃって・・・。
65 ：
137
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:01:17
----Future Episode - actress69 "Hitomi Yoshizawa"
「ガキさ～ん、あいかわらずチャーミングっすね～！」
「いいっす、いいっす！全然いけてるっすよ！最高にかわい～っす！」
「う～ん、やっぱりベストジーニストは違うっすね～！着こなしが全然違うっす！」
そう言うとガキさんがちょっと嬉しそうな笑顔を見せる。
「ウワーオ！その笑顔っす！最高っすよ！まさに百万㌦の笑顔っすよ！」
「いいっす、いいっす！まだまだ全然オッケーっすよ！これは今年ブレイクするっすよ！」
モーニング娘。の同窓会・・・。
それに参加を表明してない数少ないメンバーの一人・・・それが新垣里沙・・・通称ガキさんだ。
ガキさんはモーニング娘。が解散した頃、えり先生と並んで一番勢いがあったメンバーだった。
ベストジーニストにベストドレッサー、ベストジュエリー、それにベスト電器のCM・・・と、
とにかく色んな賞を総なめにして、将来がかなり期待されていた存在だった。
それが結婚・・・離婚をして・・・今ではこの有様・・・。
どう見てもあの頃のガキさんとはまるで別人・・・。特に目は完全に死んでて、あの頃の輝きは全く無くなってた。
「ガキさんどっすか？ちょっとウインクでもしてみましょうか？そっす、ウインクっす！」
「いいっす！悩殺っす！まだまだ全然輝きが違うっすよ！最高っすよ！」
「それじゃ次いってみましょうか！久しぶりに見たいっす！ガキさんの必殺技！まゆげビームっす！」
豚もおだてりゃ木に登るって言うけど・・・でもガキさんは豚とは程遠い痩せ細った体をしてた。
ある意味お豆だけにジャックと豆の木の豆の木みたいな・・・。ってことは私がその豆の木に登ろうとしてる役ってこと？
66 ：
138
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:01:34
「感動したっすよ！こんな感動久しぶりっすよ！ちょっと一人で感動するにはもったいないっすよ！」
「どうっすか？みんなにもまゆげビーム見せつけてやりましょーよ！絶対みんな感動するっすよ！」
「そうっすよ！その意気っすよ！同窓会でまゆげビームっすよ！」
頭が悪いというか、単純というか、そういうところは私と似てるのかもしれない。
これは私だけが気づいてることだけど、ガキさんの頭の中には二通りの答えしかない。
一つは誉められて喜ぶということ。そしてもう一つは怒られてすねるということ。
そして喜べば喜ぶほどオーラが増し、そしてすねればすねるだけオーラが消える。
だからガキさんを扱う時はとにかく誉めること。誉め続けること。それがポイント。
なのにこれまで説得しに来たヤグっさんも紺野もどうもそれがわかってなかったみたいで・・・。
家に帰り、中澤さんに電話をかける。
それはもちろん、新垣の説得に成功したことを伝えるため。
「ええ、ガキさんも参加するって言ってましたよ。そのうち連絡くると思いますけど」
「ははは・・・いやいや、全然大したことじゃないっすよ！普通のことをしたまでっす！」
そこまで言ったところで、中澤さんが私にあることを頼む。
「もっすぃっすか？ええ・・・なんか連絡が取れないってのは聞いてますけど・・・」
それはもっすぃについて調べてほしいって話だった。と言っても私にじゃなくて、うちのダーリンに・・・。
もっすぃは三年くらい前にメンバーの一人と偶然再会したらしいんだけど、
その時の様子では何か執筆関係の仕事をしてるっぽかったらしい。
それでうちのダーリンが出版社にいるから、よければ調べてほしいってことだった。
「こっちは全然オッケーっすよ！まかせといてくださいって！楽勝っすよ！」
67 ：
139
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:01:51
----Future Episode - actress70 "Risa Niigaki"
半年間一度も開いたことの無かった窓・・・揺れることを忘れていたカーテン・・・明かりのついていなかった部屋・・・。
暗く・・・暗く・・・暗く・・・暗く・・・暗く・・・暗かった部屋・・・。
その暗かった部屋に温かい光が射しこみ、部屋の中を明るく照らす・・・。
暗かった部屋にまばゆい光をもたらしたもの・・・それは開いた窓・・・。
違う・・・それは窓を開けたからじゃない・・・開いたのは・・・私の心・・・。
久しぶりに眺める外の景色・・・それは以前と少しも変わっていなかった。
でもその見慣れたはずの景色が、なぜか新鮮に思えて・・・。
先月、矢口さんとあさ美の二人が私を訪ねてきた。
この家に私が戻ってきてから、私に会いに来た人は二人が初めてだった。
だから本当は・・・少し嬉しくて・・・。
もちろん最初は二人のことを疑っていた。でも違っていた。
矢口さんの愚痴やあさ美の表情から、二人が私を嘲笑いに来たのではないことはすぐにわかった。
矢口さんは私を嘲笑うような優位な立場にはいないし、あさ美はあまり優劣を考えない子だから。
でも、二人が来たのは、ただ同窓会の話を伝えるためだった。ただそれだけだった。
決して新垣里沙に会いに来たのではなく、モーニング娘。の一メンバーに会いに来ただけ。
モーニング娘。なんて私にとっては単なる通過点に過ぎない。
そんな通過点の同窓会になんて、私が参加する意味は無いし、
それにそこに行けば私を嘲笑う連中もたくさんいる。
だからもちろん参加するつもりはなかった。・・・その時は。
その考えが変わったのは昨日。それは吉澤さんが私に会いに来たから。
吉澤さんは私のことを誰よりもわかってくれていた。私の才能を。
そして私の才能を少しも恐れず、その才能を羨望の眼差しで見ていたのも吉澤さんだけだった。
68 ：
140
◆w6WpxJOw
：2003/07/08 06:02:07
私は新垣里沙。芸能界の頂点を極めたこともある新垣里沙。
今となっては昔のことなのかもしれない。しかし吉澤さんだけはそうは思っていなかった。
吉澤さんは今でも私のその才能を惜しみ、そして私の必要性をわかってくれていた。
そして私が芸能界に復帰し、そこに降臨することを望んでいた。
「わかりました。同窓会には出席することにします」
「ええ、愚か者たちに本物のまゆげビームをお見舞いしてやりますよ！」
同窓会の話を承諾し、吉澤さんを見送った後、二階の自分の部屋に戻る。
それまでは暗く、空気が澱んでいた部屋。だけど、その部屋とはその日がお別れだった。
その部屋は新しく生まれ変わった。私が生まれ変わるのと同時に・・・。
「パパ、車出してくれる？美容院行きたいから・・・」
久しぶりにパパの運転する車に乗る。
そう言えばモーニング娘。だった頃は毎日パパに送り迎えしてもらってたっけ。
解散して頂点を極めた頃は、事務所から専用の送迎車と運転手が用意されていたけど、
今思うとパパに送り迎えしてもらっていた頃が一番楽しかったのかもしれない。
そう、あの頃が一番楽しかったのかもしれない。人気がどんどん急上昇し、頂点を目指していたあの頃。
決して頂点に君臨している時じゃなく、頂点を目指していたあの頃。その頃が一番楽しかったのかもしれない。
そう考えると、私の前途にはまだまだ楽しみが溢れているように思えてくる。
なぜなら、今の私は絶望のどん底にいるから。そして、それは再び頂点を目指すためのスタートラインだから。
モーニング娘。に入った頃もそうだった。その時もコネ疑惑でどん底からのスタートだった。
だから今回も同じことなのかもしれない。どん底から頂点を目指す。その第二の物語。
「もう一度私の前に跪かせてやる！もう一度！」
そう小さく呟くと、運転席のパパが不思議そうな表情を浮かべる。
車から見える街の景色は昔と少しも変わっていなかった・・・。
69 ：
141
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:26:42
----Future Episode - actress71 "Makoto Ogawa"
トゥルルルルル・・・トゥルルルルル・・・。
駄目だ・・・繋がらない・・・。
せっかく重要な情報を入手したって言うのに、あーしゃったらどこ行ってるんだろ？
もしかしたら先週のラジオジャックの件でまだマスコミに追われてるのかな？
居ても立ってもいられず、新幹線に飛び乗って東京へと向かう。
行き先はもちろん、あーしゃの部屋。そしてその次の行き先は・・・。
東京に着いてから再びあーしゃに電話をかける。
今度は無事に繋がり、情報を手に入れたこと、そしてあーしゃの部屋に向かっていることを伝える。
あーしゃの部屋に着く。
「ごめんね、突然来たりして・・・。でもね・・・電話で伝えるよりも直接見せようと思って・・・」
そう言ってからある白い用紙をあーしゃの前に差し出す。
「そこの名前のところ見てみて。ほら・・・あるでしょ？・・・もーちゃんさんの名前が！」
そう、私が手に入れた情報・・・それはもーちゃんさんの消息だった。
「ほんとはこういうのっていけないんだけどね。でも同期の友達に無理言って調べてもらったの」
「今年の二月の事件だけど、でもそこに住んでたのは間違いないみたいだから・・・」
それは二月に大阪で起こったある事件についての資料のコピー。
いわゆる少年グループによるホームレス襲撃事件だけど、その資料にもーちゃんさんの名前が載っていて・・・。
「最初は本人かどうか疑問だったんだけどね。でもほら、大阪にいるって言ってたでしょ？」
「それにそこの備考のところ読んでみてよ。ね？いかにももーちゃんさんらしいと思わない？」
70 ：
142
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:27:12
「早期の通報によって警察が駆けつけて、少年グループ全員を検挙したってあるけど・・・ほら、その下・・・」
「ね？・・・もーちゃんさんならやりかねないでしょ？」
そう言うとあーしゃがコクリと頷き、笑顔を浮かべる。
「私もね、昔もーちゃんさんに説教されたことあるよ。はしゃぎすぎちゃった時とか、ね・・・」
「でもまさか少年グループをやっつけて、しかも正座させて説教なんて・・・ちょっと信じられないよね？」
もーちゃんさんは頑固で曲がったことが大嫌いな人だった。
見た目はパッとしないけど実は体育会系出身で、人間関係にもある程度の緊張感を必要としてたみたい。
だけどいつか言ってた。一番嫌いなのは自分自身だって。
自分の行動が自分の目標とする規範についてきてないって。だからそんな自分が嫌いだって・・・。
ある意味真面目過ぎたのかもしれない。だから普通の生活が出来なかったのかもしれない。
もしこの資料に載っている名前が本人のものであるならば・・・。
「ホームレスって・・・一体どんな暮らししてるんだろうね？」
翌朝、二人で新幹線に乗って大阪へと向かう。
本当は中澤さんや保田さんにも連絡したかったんだけど、あーしゃが自分たちの目で確かめてからにしたいって。
でも本当は違うと思った。あーしゃは多分、もーちゃんさんに一番に会いたいんだと思う。
だって、あーしゃはあの頃、もーちゃんさんのことが好きだったから・・・。
それがどのレベルなのかは私にはわからないけど・・・。
あーしゃは一時期、保田さんを慕いながらもどこかで対抗意識を持っていた。
でも、もーちゃんさんは保田さんのことが好きだったし、あーしゃもそれを知ってた。
それは絶対に叶えられない恋。そして、そのあーしゃの気持ちに気づいてたのは私だけだった。
でも、だからこそ、今回だけはあーしゃが一番になってもいいと思うの・・・。
71 ：
143
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:27:55
----Future Episode - actress72 "Asami Konno"
安倍さんと藤本さんのラジオジャックから一週間。
マスコミは二人の芸能界復帰の可能性を探ってるみたいで、
私のところにも色んな取材の人がやって来るようになった。
と言っても、それも最初の三日間くらいで、今ではもうその話題も下火になってるけど・・・。
でもあの翌日には一部のスポーツ誌の一面を飾ったし、大きな話題になったのも確か。
中にはモーニング娘。再結成への布石なんて冗談みたいな記事が載ってたりも・・・。
でも、あながちそれも冗談とは言えないのよね・・・。
同窓会の話が出てきてから、メンバー同士が頻繁に会うようになったのも確かだし、
そこでみんなでデビューしようなんて話が出てきたのも本当のこと。
それが本気かどうかは別にしても、私たちの中でモーニング娘。だったことを振り返る機会が多くなってるのは事実。
それで最近思うことがあるの。今の生活も仕事も順調でそれには満足してるけど・・・。
でも・・・どこかで満たされない気持ちがあるって。それはあの頃の楽しかった仲間との時間・・・。
あれから仕事やプライベートで様々な人間関係を構築してきたけど、やっぱり一番楽しかったのは・・・。
例の計画の打ち合わせを午前中に済ませると、電話がかかってくる。
それは藤本さん・・・ううん、美貴ちゃんからの電話だった。
私は先週、藤本さんって呼んでたけど、でも昔は美貴ちゃんって呼ぶ仲だったんだよね。
美貴ちゃんはモーニング娘。の中で一人だけ浮いた存在だった。ただ私だけが仲がよかった。
だから私を頼ってきてくれたんだと思う・・・。
美貴ちゃんの電話。それは私のコネを使って復帰できないかって話だった。
先週のラジオでまた芸能界の仕事がしたくなったみたいで、
それでどんな小さな仕事でもいいから、とにかく復帰したいってことだった。
私はただの女優だから特にコネなんて無いんだけど、でも中澤さんに話を取り次ぐことにした。
美貴ちゃんはちょっと嫌そうだったけどね。
72 ：
144
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:28:27
昼になり、バラエティ番組の出演のためにテレビ局に向かう。
その番組は友近さんが司会の番組で、そこそこの視聴率を稼ぐ人気番組だった。
収録は夕方の四時から。二週撮りなんだけど、私の前の週のゲストは偶然にも矢口さんだった。
ちょっと楽屋で話しただけだったんだけど、話題は里沙ちゃんと愛ちゃんのこと。
矢口さんが愛ちゃんを、吉澤さんが里沙ちゃんを説得したって話はすでに聞いて知ってたけど、
でも矢口さんは詳しい話は教えてくれなかった。実際に会って話してみればってだけで・・・。
ただ安心できたのは、愛ちゃんが私と会って話がしたいって言ってたって聞けたこと。
私たちの同窓会・・・それは最初は本当に単なる同窓会の話に過ぎなかった。
でも今は違う。
その同窓会はもーちゃんさんと保田さん、そして私たちとの再会の舞台でもあり、
そして、私にとっても愛ちゃんや里沙ちゃんと再会し、仲直りするための大切な場でもある。
でも、それは決して私だけの特別な考えじゃないと思うの。
他のメンバーもきっと、それぞれの思いを持ってその同窓会に参加しようとしてると思うの。
収録が終わり、マネージャーに誘われて食事に行く。
保田さんからマネージャーの話を聞いてから、私のマネージャーを見る目は変わった。
それまではただ冷たくて仕事に厳しいだけの人だと思ってたけど、
でもそれも全て、私を信頼し、必要としてくれているからだってわかったから。
食事中に電話がかかってくる。それはマコから。
何度もかけたらしいんだけど、仕事からずっと電源を切ってたから、それで通じなかったみたい。
マコはなんだかとても慌ててるみたいだった。
重要な話があるらしくて、それで私の部屋に向かってるところだって。
急いで家に戻ると、すでに部屋の前にマコが待ってた。
マコはとっても嬉しそうな表情を浮かべてた。それですぐにわかった。
私たちの同窓会をする日が近づいてきてるって。
73 ：
145
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:28:55
----Future Episode - actress73 "Yuko Nakazawa"
同窓会の話は結局うちが中心になって進んどる。
まあ最初からうちが幹事やねんけど、それでも仕事が忙しうて一人ではどうにもならへん。
彩も積極的に手伝おてくれとるし、最近では矢口もうちの部屋に立ち寄るようになったんやけど、
そろそろ最終的な日程を決めへんとあかん。
問題は真希と連絡が取れへんことと、あの男の行方がわからへんことやけど、
でもそれはもう無視してええんかもしれへん。
真希は外国行ってていつ帰ってくるかわからへんみたいやし、あの男はそもそもおまけみたいなもんやから。
今日の予定は昼の番組一本だけ。そしてそれが終わると二日間はオフや。
最近はどうも疲れが溜まってるみたいで、金曜日が来るとなんや安心するんやなあ。
火、水、木と三日連続で夕方や夜にも仕事が入ってるさかい、そのせいかもしれへんけど。
そやけどどうも体調が良くないねん。医者はただの過労や言うとったけど、
もしかしたらそろそろ世代交代せなあかんのかもしれへんなあ。
とりあえず選択肢は三つや。昼の番組だけに専念して他の仕事を降りるか、
それとも昼の番組を友近や陣内あたりにでも譲って、ギャラのええ夜の番組だけにするか・・・。
それか、全ての仕事を降りて芸能界を引退するか・・・。
でも最後の選択肢だけはうちには不可能やろ。
うちから仕事を取ったら何も残らへんさかい、うちが引退するんは死ぬ時だけや。
そやけど事務所の経営に専念して、後輩の成長を見守るってのもおもろいかもしれへんけどな。
そないなことを考えてたらうちの若い衆から電話がかかってくる。
「なんやて？それほんまか？・・・よっしゃ、ほなわかった分だけでええさかい、すぐに送ってや！」
それは思いもよらへん情報やった。これはおもろいことになってきそうやで！
74 ：
146
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:29:24
若い衆からのファックスを受け取る。
そこには不動産ファイルのコピーと、そして簡単な地図が載っていた。
しかし、まさかあの男を探す過程で別の名前が出てくるとは思わへんかったで。
もしかしたらそういうことなんやろか・・・。
まあ、とにかくそれは行ってみればわかることや。
「あ、彩か？うちや、裕ちゃんやで！・・・今日仕事いつまでや？やっぱ夜までなんか？」
彩に電話する。と言うても彩の家やのうて圭織の事務所やけど。
「そっか。いやな、ちょいとおもろい情報入ったんで一緒に確認しに行こか思おてな・・・」
一応簡単な事情を説明する。彩もかなり意外やったらしくて、驚いた声出しとったわ。
「えーとな、それとそこに圭織おるやろ？圭織にもこのこと伝えてもらえへんか？」
「ほな、詳しいことは後で電話するさかい。もしかしたらうちが一人で先に行くかもしれへんけど・・・」
彩と圭織を誘ったものの、二人の仕事は夜までやった。
ほんまはケイちゃんにでも連絡するべきなんやろうけど、
そやけど、もしもそこにあの男がおるなんてことになったら、ケイちゃんには大打撃やろ。
そやからあえてケイちゃんを避けて、彩と圭織に連絡したんや。
しばらく考え事をする。あの男がいるのは大阪。そしてそこで見つけたのは別の名前。
それはやはりそういうことなんやろうか？そこにあの男もおるんやろうか？
考えても結論は出ず、ふとあることを思いつく。
それはメンバーの中で一番冷静だった人物・・・。そしてあの部屋で一番真希と仲が良かった人物・・・。
「ああ、明日香か？うちや、裕子やけどな、今日暇か？・・・一緒に大阪にでも行かへんか？」
「ちょいとおもろいもん見つけてな。うん？ちゃうで、もうさくやのうて、真希や。そうや、後藤真希の部屋や」
75 ：
147
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:29:51
----Future Episode - actress74 "Aya Ishiguro"
「もうどこもやってないみたいね・・・スポーツ誌にも載ってなかったし・・・」
そう言ってテレビを消す。
仕事中にテレビを見るなんてことは普段はないんだけど、今週は特別。
だって久しぶりにモーニング娘。が話題になってたから。
と言っても、話題の中心はなっちと紺ちゃん、それにミキティこと藤本の三人。
最初にそれを聞いたときはびっくりして圭織と二人でずっとテレビにかじりついてたっけ。
圭織はなっちに電話してその時のことを教えてもらったみたいだけどね。
と、事務所の電話が鳴り、受話器を取る。
「あ、裕ちゃん？・・・どうしたの、慌ててるみたいだけど？」
「え？仕事は夜までだけど、もしかして何かあったの？」
それは同窓会についての新たな情報だった。
それも裕ちゃんも予想してなかったほどの意外な情報。
裕ちゃんにはちょっと特殊な親戚がいる。それはあっちの筋の人たち。
裕ちゃん自身はあまり積極的に関わろうとはしてなかったみたいだけど、
でもどうもその親戚に跡取りがいなかったらしくて、
昔から裕ちゃんを姐御に据えて、組を存続させようとしてたみたいで・・・。
裕ちゃんが芸能界を目指したのも、そこから逃げたかったからって聞いたことがある。
でもそのことは今回の情報とはあまり関係なくて、
ただ、その組の人たちに、もーちゃんの居場所を調べさせてたってだけで。
でもその収穫はかなり大きかったみたい。
だって、それは残っていた二つの問題を同時に解決することになるかもしれなかったから。
76 ：
148
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:30:26
「うん、じゃあ後で圭織と相談してみるね。行くとしても夜になると思うけど・・・」
「私はそれでもいいよ。うん、じゃあ向こうで合流ってことでいい？」
受話器を置き、裕ちゃんの話を圭織に伝える。
圭織もそのことが意外だったらしく驚いた表情を浮かべてた。
でもすぐに理解したようで、今度は何か面白そうな表情を浮かべてた。
どうもからかういい材料ができたって思ったみたい。
また口喧嘩したいとは言ってたけど、どうやら本気だったみたいね。
もーちゃんはメンバーそれぞれにとってそれぞれの意味を持った人。
そしてあの部屋も、メンバーそれぞれにとってそれぞれの意味を持っていた。
裕ちゃんは愚痴をこぼす相手を求めて。私は単なる家庭の煩わしさを紛らわすため。
紗耶香は他に行き場が無くて。明日香は私たちに会って自分の現状を確認するため。
そしてケイちゃんは好きな人に会うため。
それが最初のメンバー。それから少しずつ人数が増え、最後は全員が集まる部屋になったけど、
その後のメンバーも私たちと同じようにそれぞれの思いを持っていたのは確かだと思う。
中でも一番変わってたのは圭織だった。圭織にとってあの部屋は喧嘩の場だった。
私も裕ちゃんや明日香たちとよく喧嘩してたけど、でもそれとは違って圭織は喧嘩が主目的だった。
そうしたそれぞれの思いがメンバーの中にはあり、それが同窓会の一つの目的にもなってる。
もちろん、今はまだもーちゃんの居場所が判明したわけじゃなくて、可能性の段階だけど・・・。
圭織の判断によって仕事はいつもより早く切り上げることになった。
裕ちゃんは待ちきれなかったらしくてすでに大阪に向かったみたいだったけど。
大阪に向かう新幹線の中。不思議と心は穏やかだった。
それが私たちにとって新しい始まり、新しい動乱の始まりになるという予感を抱えながらも・・・。
77 ：
149
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:31:05
----Future Episode - actress75 "Kaori Iida"
「あなた・・・お帰りなさい・・・」
そう言うと慎吾さんはちょっと照れたような表情を浮かべる。
慎吾さんが家に帰ってきてから一週間が経とうとしてる。
きっかけはケイちゃんだった。
ケイちゃんに相談して、私は自分の気持ちに素直になれた。
それでわかったの。私はまだ慎吾さんのことを愛してるって。
強がって一人でも生きていけるなんて言ってたけど、それは嘘だったって。
それで私から慎吾さんに連絡を取った。
向こうはこっちさえ良ければ元に戻ってもいいって言ってくれた。
それで一週間前に慎吾さんが家に帰ってきた。
まだ二人ともお互いにギクシャクしてるけど、
でもそれもなんだか新婚の頃を思い出すような感じで・・・。
それが私の新しい生活の始まりだった。
でも、その時はまだ私は気づいてなかった。
私の、私たちの、もう一つの新しい生活が始まろうとしてたことに。
翌朝、慎吾さんを見送った後、自分の事務所に向かう。
「おはよう、彩！どう？今日もやってる？」
最近、私はちょっと性格が穏やかになったと思う。
自分の気持ちに素直になれて、それを大切にしようって思い始めたのかもしれない。
それがどう関係あるのかはわからないけど、人の呼び方も少し変わってきてる。
以前のように「石黒さん」とは呼ばなくなったのはその典型かもしれない。
そこには他人と距離を取っていた昔の自分はもういない。
78 ：
150
◆w6WpxJOw
：2003/07/14 22:31:44
「そっか・・・。でもそれもそうよね。あれからもう一週間になるから・・・」
彩がテレビを消し、私も残ってた仕事の依頼の整理にかかる。
仕事と言ってもそんなに堅苦しいものではないんだけどね。
店舗の内装のデザインを考えたり、インテリアのセッティングをしたり・・・。
店舗の他に普通の家庭やたまに企業からの依頼なんかもあるけど、
でも私たちは単なるアドバイザーに過ぎないから、仕事の依頼というより、
簡単な相談相手と言った方がいいのかもしれない。
中にはカーテンの色を決めてくれ、なんて依頼もあるし・・・。
そういった依頼の中で私が一番気に入ってるのは、デザイン。
それも内装とかじゃなくて、マークやロゴ、キャラクターなんかのデザイン。
これはある意味私の趣味みたいなもので、本業ではないんだけど、
でも評判を聞いてそうした依頼がくることも多い。
特に昨日は意外な人物からお店のマークのデザインを頼まれた。
それは私たちの後輩、紺野からの依頼だった。
なんでもお芋屋さんを始めるみたいで、最終的には宅配事業を展開する計画らしかった。
紺野らしい計画だなと思いながら、幾つかお芋っぽいマークを考えてみる。
しばらくして事務所に電話がかかってくる。
それは裕ちゃんからの電話だった。ごっつぁんの部屋が見つかったって・・・それも大阪で。
それを聞いた瞬間にピンときた。でもそれは私だけじゃないと思う。
彩も驚いてたし、それに裕ちゃんも多分驚いたはずだと思う。
「なんだか面白くなりそうね」
彩と話し、その日の夜に大阪に行くことに決める。
帰ってきたばかりの慎吾さんには悪いけど、でも、今回は仕事じゃないから。
だからわかってくれると思うの。だって慎吾さんも、仲間を大切にする人だから・・・。
79 ：
151
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:16:56
----Future Episode - actress76 "Hitomi Yoshizawa"
「あ、梨華～？よっすぃだけどさ～、ちょっと聞いてくれないかな～」
「中澤さんからちょっと頼まれてたんだけどさ～、うん、ちょっとした調べ物なんだけど」
「それでさ～、見つけちゃったんだよね～。もっすぃ～の連絡先！」
「そうそう、やっぱり大阪だったんだけどさ～、ほら、俺っちって大阪の地理全然駄目じゃん？」
「それで梨華に案内してもらおうと思ってさ～。どう？明日とか空いてない？」
「いやいや、それはまだなんだけどさ～。だってほら、こういうのって自分の手柄にしたいじゃん」
「それに中澤さんに教えたら絶対自分の手柄にするじゃん。だからさ～、ちょっと内緒にしとこうかな？って」
「うん、こっちはいつでもいいんだけどさ～。梨華はどうなの？明日空いてる？」
「そっか～。じゃあ明日の昼前にそっちに行くよ。うん。それじゃ、切るぜベイベェ～！」
受話器を置いた後になって気づく。明日は金曜日・・・。
昼に出かけるとしても、帰って来られるのは夜。
そして翔太が幼稚園から帰ってくるのが夕方。
ってことは、翔太をしばらく一人にしてしまうことになる。
うちの人は明日も仕事だから、夕方に翔太の面倒を見ることはできないし・・・。
仕方なく梨華ちゃんに一日延期するように頼もうと受話器を取るも、
なんだか変な胸騒ぎがして、寸前で思いとどまる。
なぜかはわからなかったけど、それは明日じゃないといけないような気がして・・・。
後になって思えば、それはある種の予感だったのかもしれない。
でもその時は、まさかそんなことが起きるなんて、全く予想もしてなくて・・・。
80 ：
152
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:17:15
「あ、えり先生ですか？翔太のママですけど・・・。ははは、そうそう、そうっす。よっすぃっすよ」
「ちょっと頼みごとがあるんっすけどね。明日の夕方なんすけど・・・」
結局えり先生に夜まで翔太の面倒を見てもらうことにする。
近くにはえり先生以外に信頼できる知り合いがいなかったから。
あまりえり先生に迷惑をかけるのはあれだけど、
でも今回のことはえり先生にも関係ある話だから。モーニング娘。として・・・。
「もっすぃの居場所がわかったんすよ。それで明日梨華と確認に行くんすよ」
「ははは、じゃあえり先生も仕事さぼって一緒に行きますか？・・・冗談っすよ、冗談！」
電話だから顔は見えなかったけど、でもえり先生もちょっと嬉しそうだった。
私の場合はモーニング娘。を卒業してから、あの部屋で一年半くらい過ごしてる。
でも最後まで現役だったメンバーは、結局半年ちょっとしか過ごしてない。
だからあまりあの部屋やもっすぃにも思い入れは無いと思ってたんだけど、どうも違ったらしい。
まあ、そう言う私も、あまり積極的にあの部屋に行ってたわけじゃないんだけど・・・。
翌朝、翔太を幼稚園に送り届け、えり先生にもう一度翔太のことを頼む。
ただ一つだけ条件があったけど・・・。
それはお土産を買って帰ること。こういうところはしっかりしてるんだよなあ、えり先生って。
午前中になんとか大阪に到着し、梨華ちゃんと合流する。
一緒に食事をするも、梨華ちゃんにはあまり時間的な余裕がなかったみたいで・・・。
今日は舞台の出番はないらしいんだけど、金曜は夕方の番組に出なきゃいけないみたいで。
それで急いでタクシーに乗って目的地に向かう。
でも、手に入れた連絡先の住所にはもっすぃの名前はなかった。あったのは・・・。
「後藤？・・・後藤って・・・まさか・・・ごっつぁん？？？」
81 ：
153
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:17:32
----Future Episode - actress77 "Rika Ishikawa"
「あ～、よっすぃ～？どうしたの～？・・・うん、もちろん聞くよ聞くよ～！なんでも話してよ～！」
「中澤さんから？へえ・・・凄いじゃん。それで何を頼まれたの？ねえ、なになに？」
「・・・うっそ～！それほんと～？もーちゃんさん見つけたの～？」
「凄いじゃん、よっすぃ～！やっぱり大阪にいたんだね～。全然知らなかったよ～」
「うん・・・うん・・・。え？よっすぃがこっち来るの？でもほら、中澤さんは？」
「そっか～。あははは、中澤さん怒らないかな～？でもまあ、いいのかな？」
「わたし？わたしは空いてるよ。仕事は夕方だけだから。うん」
「うん、いいよ。・・・わかった。じゃあこっちに来たら連絡してね？うん、じゃあね～！」
よっすぃからの電話。それはもーちゃんさんを見つけたという話だった。
ううん。それはまだ本当かどうかわからないけど、でも大阪にいるのは本当だったみたい。
わたしもその話を聞いてとっても嬉しかったんだけど、ちょっとだけ淋しかった。
だってもーちゃんさん、大阪にいるのなら、どうしてわたしの前に姿を見せてくれなかったんだろって。
市井ちゃんと逃げちゃったこともあるのかもしれないけど、でもそんなの昔の話だし、
もーちゃんさんはあの頃、わたしたちにとって大切なお友達だったのに。
それに東京のおじさんたちだって、中には今でも年賀状のやりとりをしてる人だっているし、
お好み焼き屋のあっちゃんはずっと大阪だから、たまに会うことがあったりするし。
それなのにもーちゃんさんは、ずっとわたしたちの前に姿を現さなかった。
連絡の取り方がわからなかったのかもしれないけど、でもそんなの幾らでも方法はあると思う。
なのに一度も・・・。それはわたしたちを忘れたということなの？それとも別の理由があるの？
82 ：
154
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:17:49
翌日の昼前。駅までよっすぃを迎えに行って、その近くで一緒に食事をする。
でもあまりゆっくりもしてられなくて・・・それと言うのも今日は３時からの番組に出なくちゃいけなくて。
食事の後、タクシーに乗ってよっすぃが手に入れた住所に向かう。
そこは新大阪駅からタクシーで十五分くらいの場所だった。
繁華街みたいな賑わいはないけど、真新しいマンションが立ち並んでいて、そこそこの住宅街という感じ。
わたしはほとんど来たことがない地域だったけど・・・。
近くには淀川が流れていて、タクシーを降りた場所からも道路のすぐ先に堤防が見えた。
周辺には四棟のマンションが立っていた。そして、そのうちの一つが目的の場所。
ただ、よっすぃのメモにはマンション名は書いてなくて、ただ番地の後ろに部屋番号が続いていただけだった。
最初に入ったマンション。その部屋番号にはもーちゃんさんの名前はなかった。
次も同じだった。三つ目も同じ。そして四つ目も・・・。
これで周辺のマンションは全部違ったことになる。でも・・・一つだけそれっぽいのが。
「ねえ、これポストに後藤って書いてあるよね・・・？」
「もしかしたら・・・この部屋じゃない？」
その番地にある四つのマンションのうち、もーちゃんさんの名前は一つもなかった。
でも、よっすぃの手に入れた情報がもしも正しいとしたら・・・。
「行ってみようよ！違うかもしれないけど・・・それしかないよ」
ちょうどオートロックのドアを宅配便の人が開けたばかりだった。
よっすぃと二人でそのドアを通り抜ける。後はエレベーターで上へ上がるだけ。
部屋の前で少し立ち止まり、よっすぃと顔を見合わせる。そしてインターホンを押す。
反応は無かった。留守なのかもしれない。そう思って立ち去ろうとした時、ガチャリと部屋のドアが開く。
そして、そこから顔を見せたのは、わたしたちが全く予想もしていなかった人物だった。
「え・・・な、なんで？？？」
83 ：
155
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:18:06
----Future Episode - actress78 "Sayaka Ichii"
まどかのデビューを一週間後に控え、仕事も一段落ついて久しぶりにゆっくりと過ごす時間。
もちろんいつも通りの作詞作曲、それにレコーディングの立会いなどもあって忙しいのは以前のまま。
しかし、それでも私は久しぶりにプレッシャーから解放され、のびのびと仕事をするようになっていた。
作詞作曲も今までのような乱発ではなく、今は一つの曲をじっくりと吟味するようになった。
それは今まで私が一人で背負ってきた仕事を、事務所に減らしてもらうように頼み、そして受け入れられたから。
その最初はまどかのデビュー後のアルバムの企画だった。
まどかと接し、私が痛感したのは、私の音楽の限界、そして私の音楽の狭さだった。
なにか私一人の曲を歌わせるだけではまどかの良さが引き立てられないような気がして。
それでまどかのアルバム曲を外部から発注することにした。もちろんプロデュースは私のままだけど。
以前の私にとってはそれは屈辱だったかもしれない。でも今の私は自分からそれを望んでいた。
確かに一人で様々なユニットをプロデュースすれば、それは私にとってもかなりの名誉、そして実績になる。
しかし、そうした自己保身のせいで、本来は使えないような失敗作の曲を歌わせるのにはうんざりしていたのも事実。
無名の新人ということで最初の反応は薄かったものの、
まどかのサンプルを配った途端、様々な有名な作曲家からオファーが来るようになった。
しかし、それは決して自分の曲を売りたいがためではなかった。
私も作曲家の端くれだからわかるけど、作曲家にとって嬉しいのは、
自分の曲が売れることよりも、いい歌い手に歌ってもらえるということ。
売上げというのは曲の良し悪しとはあまり関係ない。売れる曲がいつも名曲とは限らない。
それは私がいつも言われていたこと。そんな批判はそれまでは無視していたけど・・・。
そのことに私が気づかされたのは、私がまどかと再会したからなのだろう。
すでにまどかのアルバム曲はほとんど完成しており、後少しすればレコーディングができるまでになっている。
その中には明日香の曲も予定されている。これは向こうからじゃなくて私からお願いしたものだけど・・・。
後はシングルの売れ方を見て、事務所が発売戦略を決定するだけ。
まどかとの再会は私にとって大きな意味を持っていた。そしてもう一つの再会も・・・。
84 ：
156
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:18:23
「え？・・・思い出したって・・・何を？」
そう尋ねる。電話の向こうにいるケイちゃんが戸惑った口調で答える。
ただ、それも私にはどこか嬉しそうに聞こえた。
「・・・そうなんだ・・・。うん・・・あははは、だからもう私は何とも思ってないってば」
「ただ・・・一言お礼が言いたいだけだよ。あの人のおかげで、私は立ち直れたんだから・・・」
ケイちゃんの話。それはあの人の居場所だった。一箇所だけ心当たりがあるって・・・。
それは今の時点では単なる想像に過ぎないものだった。でも、ケイちゃんは自信があるみたいで・・・。
そのケイちゃんの声に少しだけヤキモチを感じる。
あの人の思い出・・・それはメンバーの誰もが少なからず共有しているもの。
でも、それを一番多く持っているのは、やっぱりケイちゃん。私なんかではなく・・・。
それが少し悔しかった。昔から・・・あの頃からずっとわかってたことだけど・・・。
「で、でも・・・どうしてそれを私に？」
それはわざわざ私に報告するようなことじゃない。ケイちゃんの思い出なんだから。
最初はそう思って、ちょっとケイちゃんを恨めしく思った。
もちろん今の私があの人に未練があるというわけではなかったけれど。
でも違ってた。ケイちゃんは私に内緒であの人に会いに行くことができないだけだった。
だって、ケイちゃんは私とあの人の関係を一番気にしてたから・・・。嫉妬とかじゃなくて・・・。
それに、もし私が今でもあの人のことを好きだなんて言ったら、多分ケイちゃんは潔く譲ったと思う。
ケイちゃんはそういう人。自分のことよりも他人のことを考える優しい人・・・。私とは大違い・・・。
「うん・・・ありがとう・・・。でも・・・今度は邪魔しないからね」
ケイちゃんから誘われ、翌日、私は大阪へと向かった。
ただ、その時の私は、あの人に会えることよりも、ケイちゃんをあの人に会わすことの方が楽しみだった。
85 ：
157
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:18:41
----Future Episode - actress79 "Kei Yasuda"
この前あたしたちが大阪に行った時、あさ美はこんなことを言ってた。
もーちゃんは思い出の場所にいるはずだって。昔そんなことを言っていたって。
あたしもそれは否定しない。でも・・・あたしはあることを一つだけ隠してた。
それはあたしにとってのあの人の思い出。あの人との忘れられない思い出・・・。
それはあたしにとってなぜか認めたくないことだった。
だってあの人との思い出は他にもたくさんあるから。
なのに、あたしにとって一番の思い出は、やっぱりそれだった。
もういい年した大人の女性がいつまでもそんな些細なことを心の奥にしまってるなんて、
それが少し恥ずかしかったのかもしれない。だから誰にも言い出せなかった。
でも・・・もうそんなことを言ってる余裕はなかった。
裕ちゃんは見つからない以上は、もーちゃんや真希がいなくても同窓会をするって言い出してた。
それも当然。二人が見つからないことを除けば同窓会のお膳立ては全て揃ってた。
メンバーの大部分は同窓会が待ち遠しくてたまらないといった感じだったし、
仕事のスケジュールなどで早く予定を埋めておきたいという気持ちもあった。
だからあたし一人が躊躇してる場合じゃなかった。
紗耶香に電話をかける。それは一人では不安だったから。あの人に会った時に・・・。
だから紗耶香に話をした。あさ美やゆうちゃんではなくて、紗耶香に・・・。
だって、あたしの気持ちを誰よりわかってくれるのは、同じ気持ちを経験したことのある紗耶香だけだったから。
「思い出の場所・・・見つけたよ。そう・・・あたしとあの人の・・・」
「うん・・・まだわからないけど・・・でも、多分そこだと思うの・・・」
「それで・・・紗耶香にも一緒に行って欲しいんだけど。だって、紗耶香も・・・もーちゃんのこと・・・」
受話器の向こうから紗耶香の照れ笑いの声が聞こえる。嘘のつけない笑い声が・・・。
86 ：
158
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:18:57
翌朝、待ち合わせ場所に向かうと、すでに紗耶香と、そしてもう一人の女性が待っていた。
その女性は久しぶりに会うメンバーの一人。７期メンバーの佐伯まどか――通称サッキー――だった。
サッキーが紗耶香の曲でデビューするという話はすでに明日香から聞いて知っていた。
そして昨日は、紗耶香自身から最近サッキーがよく出入りしているという話も聞いていた。
ただ、サッキーも一緒に来るという話はそれまで全く知らなかった。
もしかすると、紗耶香もあたしと同様に、一人では不安だったのかもしれない。
あたしが紗耶香を誘ったように・・・。
「今度デビューするんだって？紗耶香の曲だったら絶対売れるよ。もう間違いないって」
笑いながらそう言うと、サッキーではなく紗耶香が頬を膨らませて反論する。
予期した反応。ただ、向こうもそれがあたしのからかいだってことはわかってる。
そんな様子をサッキーが楽しそうに眺めている。
「それにしても、しばらく見ないうちにほんっと成長しちゃったねえ。今いくつだっけ？」
「あははは・・・それじゃもう子供扱いはできないわねえ」
飛行機で大阪に向かい、タクシーに乗って目的の場所へ向かう。
記憶は少し曖昧だったけど、でも多分そこで間違いはないと思う。
川の土手上に上がり、周りを見渡す。あたしの予想が正しければ、あの人はこの近くに・・・。
土手上の通路を歩く。そこから見渡す風景はあまり変わっていない。
ただ、近くに新しいマンションが立ったりしてるくらいで、後は以前のまま。
問題はここからどうやってあの人を探すかということ。
近くの不動産屋を当たるか、それとも周辺の聞き込みをするか。
とにかく、時間はたくさんある。そのために早朝に待ち合わせをしたんだから。
土手上から葦の茂った河川敷を見下ろす。そこでふと、以前のあさ美の言葉を思い出す。
まさかね・・・そう思いながらも一人土手から降りる。心地良い風が吹き抜ける。
しかし、その瞬間、あたしはその風に何かを感じた。
その風はあたしの耳に音楽を運んでいた。それは聞き覚えのある・・・ジャニス・ジョプリンの曲・・・。
87 ：
159
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:19:23
----Future Episode - last actor "Mousaku"
その日は朝から気持ちのいい一日だった。
空は晴れ渡り、空気は少し暑いけれども、風がそれを和らげてくれる。
来週には梅雨が始まるという予報で、こんな天気はしばらくやってこないかもしれない。
ただ、私がこうしてここで過ごすのも、今回は今日が最後。
梅雨入りを告げる雷。それにまつわる行事や伝承を調べるため、
私は明日から久しぶりに全国を回って仕事をすることにしていた。
お気に入りの"Ball and Chain"をリピート再生しながらテントの中を整理する。
ここを出払うのは何度目になるだろうか。ここで数ヶ月暮らしては出払い、
そして戻ってきてはまた暮らす。そうした生活をもう何年も続けている。
思えば一箇所に定住して暮らした記憶はほとんどないかもしれない。
一番長く暮らしたのは、あの大阪の部屋だった。
彼女たちと暮らした時間、それが私にとって一番長い時間。
それからは半年や一年周期で住居を転々とし、今はそうした生活に慣れきっている。
テントの中にある荷物。その中で部屋に持ち帰るのはCDデッキと数枚のCDなど。
後のテレビなどは毎回、近くの仲間に預かってもらうことにしている。
テレビを抱え、テント――これも今日中には畳むことになる――の外に出る。
と、少し離れた場所に一人の女性が立っているのが見えた。
その女性はゆっくりとこちらに近づき、そして笑顔で私に話し掛けてきた。
「こんなところにいたんだ・・・」
それは久しぶりに聞く声・・・そして久しぶりに見た笑顔だった。
「ああ・・・久しぶりだな・・・」
そう答える。二人の間に不思議な時間が流れる。
それは長かった空白の時間がほんの一瞬であったかのように感じさせるものだった。
88 ：
160
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:19:43
「よくここがわかったな」
そう言うと彼女がすぐに答える。
「勘よ、勘。・・・あたしの勘はよく当たるから・・・」
笑いながらそう答える彼女。その表情は昔と少しも変わっていなかった。
ここは私にとって思い出の場所だった。
しかし、それは私だけの思い出ではなかったのかもしれない。
彼女がここに現れたのが、そして会いに来てくれたのが・・・その証拠なのだろう。
「元気そうで安心したよ・・・」と彼女。
それに対して「お前も元気そうだな・・・」と答えると、彼女は何も言わずに笑って頷く。
「結婚はしてないの？」と唐突に彼女。「してるように見えるか？」と私。
「見えないけどさ、だってもういい年でしょ？子供がいたっておかしくない年だし」
「ははは・・・そう言われればそうだよな。でも結婚もしてなけりゃ子供もいないよ、多分」
「多分って何よ？もしかしてどこかで子供作って逃げてきたとか？」
「冗談だよ冗談。まあその可能性も無きにしも非ずだけどな・・・」
「強がらなくてもいいってば。もーちゃんはそんな人じゃないから・・・」
そこで初めて彼女は私の名前を呼んでくれた。そしていつのまにか二人は昔の二人に戻っていた。
あの頃と同じように笑い、そしてあの頃と同じように話をする。
「お前はどうなんだよ。確かバツイチだったろ？」
「よく知ってるわね。もしかしてずっとあたしのことチェックしてたとか？」
「ははは・・・まあな。こう見えても古くからのお前のファンだからな・・・」
まるでずっと会っていなかったことを感じさせないような会話が続き、
ニ、三分して彼女が思い出したように私に話しかける。
「あのね、今日はあたしだけじゃないから・・・ちょっと待ってて・・・」
そう言って彼女は後ろを振り向き、遠くに向かって手を振る。
89 ：
161
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:20:00
堤防の土手上に二人の女性の姿が見えた。
二人は何か話をしながらゆっくりとした歩調でこちらへ近づいてきた。
二人ともすぐにわかった。それは市井と佐伯。
不思議な組合せだったが、あれからの時間を考えると別に不思議ではないのかもしれない。
私が知っている彼女たちの関係・・・それはもう十年以上も前のものだから。
「久しぶりだね・・・元気そうじゃん」と市井。
あいかわらず感情を隠すのが下手らしく、顔は笑顔ながらも声には戸惑いの色が感じられた。
彼女は私にとって、保田と並んで忘れられないメンバーの一人だった。
もちろんその理由は言うまでもなく・・・。
そして保田がもう一人を紹介する。
「ああ、わかってるって。佐伯だろ？三人とも元気そうじゃねーか」
テントの横の椅子――丸太を削ったもの――に三人を座らせ、薪に火をつけてお湯を沸かす。
その間、保田と佐伯から質問攻めにあう。市井は一人でテントの中を興味深そうに見ていた。
三人にお茶とクッキーを差し出す。そのクッキーを見て保田が尋ねる。
「へえ、こういう生活してても、こういうの食べれるんだ・・・」
「ばーか。一応俺の場合はホームレスもどきで趣味だからな。ある意味キャンプみたいなもんだ」
「そうなんだ・・・でもこれ・・・どっかで見たことある気がするんだけど・・・」
「ああ、それ貰いもんだからな。お前らも昔よく食ってたはずだぞ」
その言葉の意味がわからないらしく、三人は顔を見合わせる。
まさか、それが後藤のお気に入りのクッキーだとは思ってもいないだろう。
しばらく賑やかな時間が流れる。それは私にとっては久しぶりの体験だったものの、
しかし、私にはそれが昔からずっと続いていた時間の延長のように感じられた。
三人を残し、中断していた作業を再開する。と言ってもそんなに時間のかかることではない。
ただテレビなどのいらないものを近くの仲間に届けるだけだったのだが・・・。
90 ：
162
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:20:19
テレビを抱えながら一番近くのテントに向かう。もちろんここでの仲間の一人のテントだが、
そのテントの前に二人の女性の後姿が見えた。二人とも二十代後半といったところだろうか。
先ほどの三人と同じく、ここを訪れるには違和感を覚える後姿だった。
こっそりとその後ろに近づき、二人の話を盗み聞きする。
二人はタケさん――そのテントの主だ――に何かを尋ねていた。
その声ですぐに私は彼女たちが誰か、そして何を尋ねているかを理解した。
それはもちろん・・・。
「いよぉ！久しぶりだな！」
そう言うと二人は振り返り、そして驚いた表情を浮かべた。
「も、もーちゃんさん？」と小川。
一方の紺野は驚きのあまり声も出なかった様子で、私をただただ見つめていた。
そして我に返って私に駆け寄ると、いきなり抱きついてきて、そして大きな声で泣き出した。
二人とも先ほどの三人とはまた違った反応だった。
「おいおい、何泣いてんだよ。俺、何か悪いことしたか？」
そう言うと小川が笑いながら口を開く。
「突然驚かせないで下さいよ！びっくりしたんですからね！」
「ああ、すまんすまん。ちょっとからかいたくなってな・・・」
彼女たちがここに来たのも、先ほどの三人と同じ理由なのだろう。
すでに三人からは同窓会の話やその関係で私を探していたことなどを聞いている。
とすれば、その二人もまた、三人とは別に私の居場所を見つけ出したのだろう。
それも偶然、同じ日に・・・。
「ひどいですよ・・・。もーちゃんさん、ずっと会いたかったんですよ・・・」と紺野。
紺野はしばらく見ない間にすっかり大人の女性になっていた。
テレビなどで見かけることはあったが、やはり実際に見るとなるとその変貌振りには驚いてしまう。
一方の小川は顔も体型も昔とほとんど変わらず、私が気に入っていた素朴な雰囲気のままだった。
91 ：
163
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:20:36
二人を連れて自分のテントに戻る。
テントの陰に隠れ、三人の姿は見えない。しかし、その話し声だけはこちらに聞こえてくる。
「女の人の声がしますよ」と紺野。少し疑うような口調だ。
「ははは、まあ見ればわかるって」
その答えに小川も首をかしげる。
「ただいまー」と声をかけると、三人が「おかえりー」と声を返す。
その三人の声と姿に、紺野と小川があっけにとられた顔を浮かべる。
もちろん驚いていたのは三人も同じだった。
しばらく話が続く。保田がここに来たのは思い出の場所を思い出したからだった。
一方の紺野は小川が手に入れた情報を元にここにやって来たらしい。
保田は紺野とはよく会っているらしく、小川とも少し前に会っているらしいが、
しかし、市井は紺野とも小川とも久しぶりらしく、佐伯に至っては二人とはあの部屋以来の再会らしかった。
ただ、それが決して偶然の再会ではないことは、その後で痛いほど経験することになるのだが・・・。
テレビに続いて毛布などのいらないものをタケさんのテントに運ぶ。
と言うのも、それらの大半は元々タケさんたちから借りていたもので、それを返すだけだったのだが。
テントとビニールシートを畳むと、あっという間にそこは元の何もないスペースに戻った。
人数が多いとさすがに作業も早く進む。
すでに必要なものはダンボールに詰め込んであり、後は持って帰るだけになっていた。
その様子を見た紺野がふと、不思議そうな表情を浮かべて私に尋ねる。
「テント畳んじゃいましたね・・・これからどうするんですか？」
「ああ、これから部屋に持って帰るよ・・・しばらくここは留守にするからな・・・」
「持って帰るって・・・どこにですか？」と紺野。
その質問に彼女たちも皆、その疑問に気づいたらしい。
ここを引き払った後、どこに行こうとしているのか。そして荷物をどこに運ぶのか。
「まあ、見ればわかるよ。多分驚くと思うけどな・・・」
そう言うと紺野が周りを見渡す。しかしキョトンとした表情は周りも同じだった。
92 ：
164
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:20:56
堤防から階段を降り、しばらく進むとその先に一つのマンションが姿を見せる。
鍵を使って一階のオートロックを開ける。その様子に彼女たちが不思議そうな表情を浮かべる。
それも当然だろう。ホームレスもどきの生活をしていた者が、突然普通の生活に戻ろうとしていたのだから。
エレベーターを上がり、部屋の前に到着する。
その表札の名前を見て、保田が思わず声を出す。
「ね、ねえ・・・これ後藤ってなってるけど・・・」
「だから言ったろ？驚くって・・・」
あいにく後藤はしばらく留守の予定だったが、
その私の言葉でその後藤が誰のことなのかはすぐにわかった様子だった。
「真希と住んでるの？」と保田。今日一番の強い口調の質問だった。
リビングのソファを勧めたものの、それどころではないらしい。
「ああ・・・住んでるっていうか、留守番頼まれてるって感じだな」
「ごっちんは？今日はいないの？」と市井が保田に続く。
そう言えば市井は後藤とはかなり仲がよかったっけ。
「なんか一月くらい中南米行くって言ってたぞ。もうすぐ帰ってくると思うけど・・・」
「後藤さんは何をしてるんですか？」と紺野。
私への質問がいつしか後藤の質問に変わっていた。
それもそのはず。後藤はあまり彼女たちとは連絡を取っていないらしかった。
もっとも、保田や市井とはたまに電話などで話すこともあったらしいが、
ただ、それもここ二年くらいはご無沙汰だったらしい。
「まあ・・・話せば長くなるんだけどな・・・でも全員そうじゃねーか？」
そう言うと彼女たちが再び顔を見合わせる。
私や後藤だけではなく、彼女たちもまた同様にそれぞれの人生を歩んでいた。
一部のメンバーの間で今も交流が続いていたとしても、それは決して全体ではない。
そして今日ここに集まった五人のメンバーもその例外ではなかった。
93 ：
165
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:21:14
しばらく会話が弾み、時計の針はすでに正午を軽く回っていた。
「せっかくだからピザでも頼むか？なんなら寿司でもいいけど」
そう言うと市井が不思議そうな顔を浮かべる。
「そんな余裕あるの？あるんだったらそれでもいいけど・・・」
どうやら先ほどのテント暮らしの印象が強かったらしい。
それに市井は私と二人で暮らした半年間で、私のケチさを一番よく知っていた。
「ああ、余裕はないけどさ、でもほら、今日はがっぽり稼いでるメンバーが集まってるからさ」
それは市井に対してのからかいだったのだが、それに反応したのは保田だった。
まあ、保田もそこそこ女優として稼いでいるのだろうが。
「それはあたしに奢れってこと？」
「なんだ、お前が奢ってくれるのか？そりゃまた意外だな」
そう言うと再び保田が噛み付く。
「どういう意味よ！いいわ、今日はあたしが奢るわよ！それでいいんでしょ？」
その様子に市井は苦笑いを浮かべ、そして小川と紺野が懐かしそうに顔を見合わせる。
佐伯はまだその雰囲気――以前のあの部屋のような――を思い出せないらしく、ただ呆然としていた。
結局ワリカンでピザを頼むことになったのだが、そこで紺野があることを話し出した。
それは紺野が計画しているというお芋屋の話だった。
昔から芋好きだったとは言え、さすがに焼き芋の宅配はどうかと思うのだが・・・。
まあ、紺野らしい夢のある話かもしれない。事業として成功するかどうかは別としても・・・。
しばらくして部屋のインターホンが鳴る。
「あ、あたしが出るよ」と保田。財布を片手にリビングから玄関へと向かう。
しかし、再び戻ってきた保田の手にはピザの姿は無かった。
ただ、その代わりに保田の後ろには二人の女性が立っていた。
その姿を見て、全員の顔に再び驚きの表情が浮かぶ。それは先ほどと全く同じ状況だった。
94 ：
166
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:21:34
「すっごーい！！！ねえ、なんでなんで？なんでみんな揃ってるの？」
その高い声の主は石川だった。そしてその横にいるのは少し太った吉澤だ。
石川とはあまり久しぶりという感じはしなかった。
それは週に何度もテレビで顔を見かけているからなのだろう。
一方の吉澤には以前の面影はほとんど無かった。
すっかり主婦といった感じで、時間の流れというものを的確に表していた。
ただ、それでも幸せな生活を送っていることはその表情からすぐに見て取れたが。
その石川の疑問はこの場にいる全員が思っていたことだった。
私を除いて七人のメンバーが集合していたのだ。それも当然だろう。
もはやそれは偶然という言葉では表せるものではなかった。
石川が仕事のためにすぐに帰り、部屋の中は私を含めて七人になった。
ただ、石川も仕事が終わればまたすぐに戻ってくるとのことだった。
ピザが届き、しばらくするとすでに部屋の中には先ほどの驚きは完全に消え去っていた。
ただ、そこにはまるで以前のあの部屋のように、それぞれとの話に興じるメンバーの姿があった。
それぞれのメンバーが話に夢中になっている隙に、冷蔵庫から人数分の缶ビールを用意する。
「せっかくだから乾杯でもするか？」
そう言うと紺野が嬉しそうに答える。
「私、もーちゃんさんとお酒を飲むのが夢だったんですよ。いつも先輩たちが羨ましくて・・・」
そう言えば私が知っている紺野はまだ幼い未成年だった。佐伯ももちろんそうだ。
吉澤や石川とは一緒に飲んだ記憶はあったが、それ以下のメンバーは当然記憶にはなかった。
「そっか。紺野ももう大人になったんだよなあ。佐伯もか。そう言われればそうだよなあ・・・」
「私もう２８ですよ！」と紺野。「２４です」と佐伯が続く。
それに対して保田がわざとらしく答える。
「うっそー。まだ２４なんだあ。私より８歳も年下だったっけ？」
「おい保田、お前俺より二つ下だろ？その計算間違ってないか？」
95 ：
167
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:21:53
「乾杯ペイペー！」
懐かしい乾杯の掛け声を合図に、ビールを一気に飲み干す。
こんなに美味しいビールは本当に久しぶりだった。
それは彼女たちとまた一緒に、そして紺野や佐伯と初めて一緒に飲むことができたせいなのだろう。
夢想家の私と言えども、こんな日が再び訪れるとは夢にも思っていなかったのだ。
しかし、その夢はまだほんの序の口に過ぎなかった・・・。
夕方になり、石川の出ている番組をみんなで見ていると、再びインターホンが鳴る。
そして、そこに現れたのは中澤姉さんと、そして福田明日香だった。
二人はその場にいるメンバーを見て驚きを隠せない様子だった。
保田に市井に紺野、それに吉澤に小川に佐伯・・・そして私。
しかし、酒が入っていたせいか、はたまたさすがに慣れてきたのか、
部屋にいたメンバーはそこまで驚きを表すことはなかった。
「な、なんや？どういうことや？なんでこんなにぎょうさん集まっとんねん？真希はどこにおんねん？」
いまいち事情が飲み込めない姉さん。保田が簡単に説明する。
一方の福田は「予想外の展開でしたね」と言いつつ、冷静に周りの表情を窺う。
「姉さんいつもテレビ見てますよ」
そう言うと姉さんは怪訝そうな表情を浮かべる。
「何言うてるんや。あんた探すのでどれだけうちらが苦労したと思っとんねん！」
ちょっときつい口調だったものの、それもどこか安心したような声だった。
姉さんの要望によって再び乾杯をする。ビールが好きなのは昔と同じらしい。
「よっしゃー。ほなら今日はとことん飲んで騒ぐで！」と姉さん。
それに対して「最近飲みすぎですよ」と紺野。
どうやら紺野は保田よりも中澤と親しくしているらしい。それはちょっと意外だった。
ビールの予備が無くなり、席を立って買出しに向かう。
96 ：
168
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:22:11
と、後ろからついてきたのは紺野と小川だった。
紺野は外見とは裏腹に酒癖が悪いらしく、結構酔っている様子だった。
一方の小川はあまり飲んでない様子だったが、それも紺野を抑えるためなのかもしれない。
「ねえ、もーちゃんさん。今もまだ保田さんのことが好きなんですか？」と紺野。
「さあ、どうだろうなあ・・・」と、そう答えると、紺野は突然強い口調で私を責め始める。
「どうだろうって何ですか！保田さんのこと好きじゃないんですか！嫌いなんですか！」
「まあまあ。あーしゃ、落ち着いてってば」と小川。
「私は、私はね、ずっともーちゃんさんと保田さんのこと応援してたんですよ！」
それからしばらく紺野の話は止まらなかった。
まるで今までたまっていたものが一気に噴きだしたような、そんな感じだった。
小川が「すいません」と謝りながら、紺野を連れて部屋へと戻る。
そんな二人の後姿を見ながら、過ぎていった月日の大きさを改めて噛みしめる。
しかし、その大きさも決して無意味なものではなかったのだろう。
私にとっても、そして彼女たちにとっても・・・。
買出しを終えて部屋へと戻る。と、その途中でまた見覚えのある姿を見かける。
それは飯田と石黒の二人だった。もちろん私の姿を見て驚く二人。
しかし一方の私はそのあまりの偶然の連続に笑いを堪えることができなかった。
「ちょ、ちょっと、なんで笑ってるのよ。何がおかしいのよ」と飯田。
「いや、だってさ、お前らがもしかしたら仕組んでるんじゃないかって思えてさ」
当然その意味が二人にわかるはずもなく、二人は不思議そうな表情のまま私の後ろをついてくる。
そして部屋に入るなり、その意味を悟ったらしく、二人で顔を見合わせる。
「おー、待ってたで！なんや早かったやんか。夜に来る言うてなかったか？」
「うん・・・ちょっと早く仕事切り上げてね・・・でも・・・これ、どういうこと？」と飯田。
「話せば長くなるんだけどね・・・」と保田が口を挟む。
「よくわからないけど・・・でもなんか・・・あの部屋みたいだね」
もしかすると、その飯田の言葉が全てを表していたのかもしれない・・・。
97 ：
169
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:22:28
モーニング娘。の同窓会から数ヶ月が過ぎた・・・。
私は今、また昔のようにフリーのライターとして日本全国を渡り歩いている。
全国の名所を訪れては文章にまとめたり、神社やお寺を廻っては鬼の伝承を調べて雑誌に載せたり・・・。
そんな生活の合間にこうしてこの部屋へと戻ってくる。
部屋の主の後藤はほとんど留守だが、たまにメンバーの誰かが留守番をしていたりする。
昔私の部屋に彼女たちがやって来ていたように、今はこうしてこの部屋がその役割を担っているのだ。
しかし今日は私の他には誰もいない。
2015年の大晦日。その日のその部屋は私一人だった。
お酒を飲みながらテレビを見る。つけているのはもちろんNHKの紅白歌合戦。
しかし、今年の紅白はいつもとは様子が違っていた。
視聴率低迷を打破するためにNHKが考えた苦肉の策。
それは司会以外の出場歌手を一切公表しないというものだった。
そのため、今月に入ってから各マスコミは紅白出場歌手の独自の予想に熱を入れている。
関係者に聞き込んだり、有名歌手のスケジュールを確認したり・・・。
しかし、NHKや事務所などの関係者の口は堅く、また、ダミーの情報が流れていることなどもあって、
誰が出るかは結局本番までわからないままだった。
それらの予想の中には私の知っている名前も少し含まれていた。
福田明日香に佐伯まどか。福田は出場すれば三年ぶり三回目となる。佐伯はもちろんソロとしては初めてだ。
その他にも市井がプロデュースしているユニットも確実とされている。
番組が始まり、ようやく姿を現す出場歌手たち。
予想通り市井プロデュースの"Life has started"は中盤で姿を見せたものの、
結局最後まで福田も佐伯もその画面に映ることはなかった。
そして番組はクライマックスへと突入する・・・。
98 ：
170
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:22:47
白組のトリは各マスコミの予想通り、氷川きよし。
その熱唱が大きな拍手とともに終わり、ついに最後の赤組のトリを迎える。
会場の熱気に包まれながら司会者がやや興奮気味に話し出す。
「今から十数年前、不況にあえぐ日本を励ましてくれた一つのグループがありました・・・」
「そのグループはメンバーを入れ替えながらも歌い続け、そして十年前に惜しまれながら解散しました」
「しかし、その絆は決して絶えることはありませんでした・・・今もその絆は健在です・・・」
会場がシーンと静まり返る。皆次の言葉を待っている。
「今夜は十年ぶりに再結成し、所属していた２３人全員がこうしてこの舞台に帰ってきてくれました！」
「作詞は福田明日香、作曲は市井紗耶香・・・ここまで言えばもうおわかりかと思います！」
「それではお聞きください！」
「 モ ー ニ ン グ 娘 。 で ・ ・ ・ 『 永 遠 の 絆 』 ・ ・ ・ 』
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99 ：
171
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:23:06
----Epirogue
誰かが呼ぶ声が聞こえる。
その声は少しずつ大きくなり、そしてやがてはっきりと私の耳に届く。
「もうさくさん！もうさくさん！」
目を開けるとそこには福田がいた。
片手で私の体を軽く揺すっている。
「ん？・・・福田・・・どうしたんだ？」
「どうしたじゃないでしょ！今日はもうさくさんが朝御飯作るって言ってたじゃないですか？」
「んん？・・・ここはどこだ？」
「なに寝ぼけてるんですか！ごまかしたって駄目ですよ！ちゃんと御飯作ってもらいますからね！」
起き上がって周りの様子を窺う。
ぼんやりとした瞼に映る景色・・・それは私の部屋だった。
「ああ・・・なんだ・・・夢かよ・・・」
それに対して、「いったいどんな夢見てたんですか？」と福田。
「ああ・・・なんか変な夢見ちまってな・・・。なんかしらんがホームレスになった夢・・・」
そう言うと福田が笑いながら答える。
「それは変な夢ですね。私なんて今朝はソロで紅白に出場した夢を見ましたよ！」
「ははは、そりゃまた縁起のいい夢だな。実現するといいけどな！」
笑いながらそう言うと、どうやら福田もそれが皮肉だとわかったらしい。
「からかわないでくださいよ！いつか本当に出場してみせますから！」
まあ普通なら無理だろうけど、こいつならマジで実現させるかもしれないな・・・。
顔を洗い、朝御飯の準備を始める。
100 ：
172
◆w6WpxJOw
：2003/07/21 12:23:23
「えっと・・・あれ？今日ってお前だけだったっけ、泊まったのって？」
「紗耶香と私の二人ですよ！本当に大丈夫ですか？」
「そっかそっか。よっしゃ、それならインスタントの味噌汁で十分だな！」
それを聞いて、「ちゃんと作ってください！！！」と福田。きつい口調だ。
「ははは、冗談だって！冗談！」
とりあえず三人なら適当に作ればいいか・・・。
台所で料理を作る。すると奥の部屋から何か楽器の音が聞こえてくる。
彼女たちが寝泊りをしている彼女たちの部屋だ。
「なあ、福田。なんか音が聞こえるんだけど、あれって・・・市井か？」
「ええ、起きてからずっと作曲に取り組んでるみたいですよ！」
「作曲って・・・お前じゃなくて市井がか？・・・そりゃまた珍しいな」
朝御飯が出来上がり、市井と福田の三人で食卓を囲む。
二人とも確か三日前から泊まりに来てたんだっけ。
市井は今日東京に帰るみたいだが、福田は今日も泊まるらしい。
しばらくして携帯に電話がかかってくる。それは彼女・・・保田からの電話だった。
「珍しいな、お前が電話してくるなんて・・・」
「ん？ハリウッド女優？何寝ぼけてるんだよ。・・・はいはい、忙しいからもう切るぞ！」
すぐに電話を切る。本当はもっと話したかったんだが、ちょっと市井と福田の視線が気になって・・・。
「何の電話でした？」と福田。市井も興味深そうに私の顔を見ている。
「ああ、なんかハリウッド女優になった夢を見たんだとさ。・・・そんなことくらいで電話してくるなっつーの」
それにしても、なんとものんびりした生活だ。
彼女たちと知り合ってからまだ半年も経っていないけど、
それでも彼女たちのおかげで私はこうして楽しい生活を送ることができている。
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