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私の中のモーニング娘。
- 1 :誉ヲタ ◆buK1GCRkrc :2007/06/30(土) 21:13 ID:1/HtvWqQ
- 新人です。遅筆ですが頑張ります。
目標とする人はピスタチオの作者さんです。
- 2 :名無し娘。:2007/06/30(土) 21:13 ID:1/HtvWqQ
-
私の中での『モーニング娘。』がいなくなっちゃうんです。
- 3 :名無し娘。:2007/06/30(土) 21:14 ID:1/HtvWqQ
-
★
- 4 :第一章:2007/06/30(土) 21:15 ID:1/HtvWqQ
-
6月に入り気象庁が高らかに梅雨入り宣言をした後も
まとまった雨が降ることはなく東京はただ暑いだけの日々が続いていた。
クーラーをかけて寝るという習慣がないあたしは
今日もまたぐっしょりと汗で濡れたパジャマの不快感で目が覚める。
時計に目をやる。
確認するまでもなく今日の仕事までにはまだ腐るほど時間がある。
シャワーで汗を流す。
クーラーはつけない。
また汗をかくことがわかっているので服は着ない。
バスタオルを体にまきつけてあたしはTVをつける。
- 5 :第一章:2007/06/30(土) 21:16 ID:1/HtvWqQ
-
TVをつけて初めて気がついた。
ビデオがうぃーんと音を立てて動き出している。
この時間にあたしが録画する番組なんて一つしかない。
つけたTVには月島きらりこと久住小春が出演していた。
小春は明るい笑顔で番組の進行に則ってきびきびと動く。
だがあたしはそこにある種の物足りなさを感じずにはいられない。
番組が終わった後もあたしはテープを巻き戻し、
録画した番組を何度も何度も見返していた。
- 6 :第一章:2007/06/30(土) 21:16 ID:1/HtvWqQ
-
「おはようございます」
仕事場で会った小春はいつもよりややトーンの低い声で挨拶をする。
小春が娘。に入ったのは丁度二年くらい前のことだろうか。
切れ味を増すその美しいビジュアルと比例するように
大事な何かが抜け落ちていっているように感じているのはあたしだけだろうか。
きっとあたしだけに違いない。
だって他のメンバーが小春のことについて興味を持つなんてことは
きっとありはしないから。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう」
次々とメンバーが集まってくる。
仕事だから全員揃うのは当たり前なんだけど、
最近は以前に比べて全員が揃う機会が少ないように思う。
仕事そのものが少ないからそう感じるのだろうか。
- 7 :第一章:2007/06/30(土) 21:17 ID:1/HtvWqQ
-
ロケは何のトラブルもなく順調に進む。
何事だって順調だ。
収録も。放送も。撮影も。企画も。そして次の仕事も。
全てが順調だ。
モーニング娘。に人気がないってことを除けば。
そんなことを考えながらあたしはケタケタと笑う。
あー、この仕事楽しいわー。
言っちゃなんだけど、この仕事は楽だわ。
ずっとずーっと続けていきたいわー。
あたしは笑いながら右隣の高橋にもたれかかる。
今日の高橋が少し調子に乗っているのが鼻息の勢いでわかる。
あたしは喋りたそうな高橋をほっといて一人で勝手に喋る。
そんなあたしよりも亀井や道重はさらに勝手に喋る。
やっぱりこの仕事は楽だわ。
- 8 :第一章:2007/06/30(土) 21:18 ID:1/HtvWqQ
-
メンバーは横一列となって道を行く。
1234567人。
これが今のモーニング娘。
そのうち中国人の子が二人入るらしいからそれで9人。
9人という数字がなぜかキリの良い数字のように思えるのはなぜだろう。
もちろん人数が少なければ少ないほど活動しやすいんだけど
人数が多ければ多いほど仕事が楽っていう考え方もあって
そんな矛盾の妥協点が9という数字なんだろうか
あまりにも曖昧な論理なので
それが正しいのかどうか判断することはできなかった。
面白そうな店を見つけて一行はそちらの方へふらふらと。
ぶわっと一気に上がっていくテンションが
仕事用のものなのか自然に湧き上ってきた物なのか
おそらくTVを見ている人には判断がつかないだろう。
もちろんそれは仕事用。
- 9 :第一章:2007/06/30(土) 21:18 ID:1/HtvWqQ
-
面白そうなものにガーっと食いつくメンバーをよそに
小春はどことなく他人事めいた表情を浮かべている。
これこれ。
今は仕事中なんだから仕事中の表情をしなさい。
たとえ画面に映っていなくてもね。
話を振られると小春は見事なまでに表情を切り替え
ビジネスライクな笑顔でもってその場の空気を華やかなものにする。
見事だ。
でも何かが物足りない。
小春のポテンシャルが物足りないのか。
それとも見ているあたしたちの側の問題なのか。
ややこしいことを考えるのは好きじゃない。
でも物足りないという気持ちは撮影の間ずっと消えなかった。
- 10 :第一章:2007/06/30(土) 21:18 ID:1/HtvWqQ
-
「小春ー」
「なんですか新垣さん」
「調子悪いの?」
「えー、何がですか?」
「元気ないからさ」
「元気ですよ。元気っぽく見えないですか?」
「見えない」
「目が腐ってんじゃないですか?」
「え?」
「いや、元気出していきますから」
- 11 :第一章:2007/06/30(土) 21:19 ID:1/HtvWqQ
-
亀井道重田中と三人越しに聞いたので
小春の声ははっきりとは聞こえなかった。
一瞬「目が腐ってるんじゃないですか?」というように
聞こえたのだがそれはあたしの聞き間違いだったのだろうか。
まあいいや。
事実最近のあたしの目は腐っているのかもしれない。
そんな深層心理が影響してそう聞こえたのかもね。
あたしは腐った目でもう一度小春のことを見つめる。
つんと澄ました横顔は一片の隙もなく美しい。
でも物足りない。
どこかが。なにかが。明らかに。足りないのだ。
番組の収録は淡々と進む。
文字通り淡々と進むので本当にこれで番組が盛り上がるのかどうか不安になる。
あたしは自分なりに番組を仕切ろうとするが上手くいかない。
みんな思い思いの方向を向いて好きなように喋っている。
あー、好きなだけ喋るがいいさ。
何も喋らないよりは100倍ましさ。
デビューした頃のあたしのようにね。
そんなことぼんやりと思うあたしをよそに
小春は最後まで自分からは番組の中に入ってこようとしなかった。
- 12 :第一章:2007/06/30(土) 21:20 ID:1/HtvWqQ
-
「小春ー、もっと積極的に喋らないとダメだよー」
みたいな説教はしない。
説教なら一年くらい前にした。
その時期は何度か小春にきちんと話をした。
でもそれ以来小春とは突っ込んだ話はしていない。
もちろん小春があたしのことを恨んでいるとは思わない。
でも
でも
でも
小春はあたしと違ってソロでも成功している。
でも何かが足りない。
小春は本当にモーニング娘。の一員なのだろうか。
あたしらはそうやって小春に接しているのだろうか。
小春は何を意識してそこに座っているのだろうか。
収録は終わろうとしていた。
終わっちゃダメだよ。
まだ何にもしてないよ。
こんなのがモーニング娘。の全てじゃないよ。
- 13 :第一章:2007/06/30(土) 21:20 ID:1/HtvWqQ
-
あたしは感心するほどの手際の良さで帰り支度を始める小春を見る。
他のメンバーは誰も小春のことを見てはいない。
あたしのことも見てはいない。
誰も誰のことも見ていない。
糸の切れた数珠のようにメンバーは散り散りになって帰途に着く。
待ってよ。帰らないで。あたしを見て。みんなで見て。
こんな時
あの人ならどうするだろう
あの頃の
あたしの中のモーニング娘。なら――――
- 14 :第一章:2007/06/30(土) 21:20 ID:1/HtvWqQ
-
☆ ☆ ☆
- 15 :第一章:2007/06/30(土) 21:20 ID:1/HtvWqQ
-
☆ ☆
- 16 :第一章:2007/06/30(土) 21:20 ID:1/HtvWqQ
-
☆
- 17 :第一章:2007/06/30(土) 21:20 ID:1/HtvWqQ
-
「ごっちん。これからどうするの?」
「んあ?」
「んあ?じゃないよ」
「あー、ゴメン。眠たくてさ」
「今の後藤に何を言ってもダメだって」
「ひどーい。全然ダメなことないから」
「だからさ、これからどうするの?」
「うーん。ちょっと寝たい・・・・・」
「寝ろよ」
- 18 :第一章:2007/06/30(土) 21:21 ID:1/HtvWqQ
-
汗の匂い。
香水の匂い。化粧の匂い。
仕事の終わった楽屋には女臭い匂いが満ちている。
仕事中とはまた違った種類の緊張感が満ちている。
無言で、あるいははっきりとした言葉で細かいやりとりは続く。
「そうだ!これからご飯食べに行こうよ!」
「あんた眠たいんじゃないの?」
「いやー、ここは大先輩のおごりで」
「あんた都合の良いときだけ後輩になるよね」
「せっかくだからさ―――
13歳の小さな新垣はキラキラとした目で後藤を見つめる。
誘ってくれるかな?誘ってくれないかな?
誘ってくれたら何て言おう。
お財布にはいくらくらい入っていたらいいんだろう。
ちゃんと払った方がいいのかな?
おごってもらった方がいいのかな?
「よーし、そんじゃ行こうか。新垣も一緒に行く?」
「は、ハイ!」
- 19 :第一章:2007/06/30(土) 21:21 ID:1/HtvWqQ
-
☆
- 20 :第一章:2007/06/30(土) 21:21 ID:1/HtvWqQ
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☆ ☆
- 21 :第一章:2007/06/30(土) 21:21 ID:1/HtvWqQ
-
☆ ☆ ☆
- 22 :第一章:2007/06/30(土) 21:22 ID:1/HtvWqQ
-
「小春ー」
「なんですか?先輩」
「このあとどうするの?」
「もう眠たいから・・・・・帰って寝ます」
「一緒にご飯食べに行かない?」
「行かないです」
小春は重たそうに荷物を抱えてあたしの視界からゆっくりと消える。
- 23 :第一章:2007/06/30(土) 21:22 ID:1/HtvWqQ
- 第一章 終わり
- 24 :名無し娘。:2007/06/30(土) 23:51 ID:D.VOqbpM
- 高まる期待
- 25 :名無し娘。:2007/07/01(日) 12:20 ID:AN7vDZ1M
- こういう話を待っていた
- 26 :名無し娘。:2007/07/05(木) 00:24 ID:BQDtXn9Q
-
★
- 27 :第二章:2007/07/05(木) 00:25 ID:BQDtXn9Q
-
今日もあたしらは横一列になって東京の街を行く。
軽そうなベビーカーを押す高橋を中央にして
12345人は並んで街を行く。
小春と光井ちゃんは学校とかでまだ来ていない。
きっといつものように後から合流するのだろう。
まあ5人も7人も大して変わりはない。
テレビカメラにまばらに反応する東京の人達を横目にあたしらは歩く。
今日この先に何が待っているのかはわからないけれど
番組がどういう風にまとまるのかはわかるような気がする。
わかってしまうような気がする。
でもそれを変えようとは思わない。
それはいつだってそうだから。
5人のときも7人のときも。
13人だったあの頃も。
- 28 :第二章:2007/07/05(木) 00:26 ID:BQDtXn9Q
-
カメラに映っているところでも映っていないところでもみんなよく喋る。
あたしは時にカメに割り込み、時には高橋に割り込みしながら喋る。
ただ歩くだけなのによく間がもつものだと思うときがある。
もしかしたらあたしたち5人はとても仲が良いのかもしれない。
あはははは。
オシャレな店のオシャレな料理にスプーンを伸ばす。
こんな店の料理なんだから美味しくないわけはないよねと思うが
口に入れた料理は際立った特徴もない平凡なものだった。
なんか最近こういうものばっかり食べてるよね。
でもみんなトビキリのリアクションを見せてその場を盛り上げる。
美味しいとか美味しくないとか。
そんなことを考える必要はないのかもしれない。
でも美味しくないよ。あー。一回TVで言ってみたい。
いつのまにか小春と光井ちゃんが合流してあたしらは7人になる。
- 29 :第二章:2007/07/05(木) 00:28 ID:BQDtXn9Q
-
小春と光井ちゃんはいつも一緒にいる。
もしかしたら仲が良いってことになっているのかもしれない。
カメとさゆは仲が良いってことになってるし・・・・・
あたしは一応、高橋と仲が良い。ということになっている。
なんか最近は高橋と話すことがこれまで以上に多くなったような気がする。
他に話す人だっているのにね。
何のイベントもない時も高橋は笑顔を浮かべてベビーカーを押す。
なんでこんなに御機嫌なんだろうね。この人は。
中身は大人なくせにその笑顔はまだまだ子供。
なんかこの人、デビュー当時よりも子供っぽくなってる気がする。
精神的には小春や光井ちゃんよりも子供なんじゃないだろうか。
そういえば高橋が小春や光井ちゃんと話してるのってあんまり見たことがない。
高橋が二人のことをどう思っているかはなんとなく想像できる。
でも二人が高橋のことをどう思っているかは全然想像できない。
二人が心を閉ざしているから?あたしが興味を持っていないから?
あたしと高橋。小春と光井。どっちが歩み寄るべきなのかはわかっている。
でも。
じろじろと高橋を観察するあたしに高橋は全く気がついていない。
- 30 :第二章:2007/07/05(木) 00:28 ID:BQDtXn9Q
-
「ガキさんこないだ小春とご飯食べに行ったん?」
「は?なにが?」
「だってこないだ小春を誘ってたやん」
「あー、あれね。なんか小春は用事あったみたいで」
「で、どこに食べに行ったん?」
「いや、だから食べに行ってないって」
「あたしも誘ったらよかったのに」
「は?はあ・・・・・まあ流れというか」
「あたしがおったら小春も断らんかったかもよ」
「なにそれ感じ悪い」
「小春ってめっちゃ感じ悪い子やん」
「あんたのことだよ。感じ悪いってのは」
「あー、ガキさんはまだまだ何もわかっとらんね」
- 31 :第二章:2007/07/05(木) 00:29 ID:BQDtXn9Q
-
普通、人が喋るときは真面目な話をするときは真面目な顔をし、
ふざけた話をするときはふざけた顔をするものだけど、
高橋の場合はそれが逆のときが多い。
いちいちイライラしていたらきりがないので、こっちもあまり真面目には相手しない。
相手しないのが高橋への優しさなのかもしれない。
ていうかなんであたしが高橋に優しくしなきゃいけないんだろ。
あたしは高橋に優しくしてもらったことなんて一度もないけど。
高橋はくるりと右を向いてさゆに話しかける
さゆはなぜかそんな高橋が好きなように見える。
さゆは頭良いもんね。
きっと頭が悪い高橋が可愛く見えて仕方がないのだろう。
高橋はくるりと左を向いてあたしに話しかける。
あんた。いつも唐突なんだよ。
- 32 :第二章:2007/07/05(木) 00:30 ID:BQDtXn9Q
-
「ガキさん。今日のロケ長いね。まだ終わらん?」
「スタッフさんに聞きなよ」
「まだ終わらんって言ってた」
「じゃあ終わんないんでしょ」
「何で今日は長いんやろね?」
「だからスタッフさんに聞けよ」
「予定してた店が急遽キャンセルしてきたんやって」
「知ってるならあたしに聞くなよ」
「ちゃらちゃっちゃちゃらちゃー」
「なにそれ」
「右から左に受け流すの歌」
高橋は極めて真面目な表情で変な歌を歌う。
よくわかんないけどあたしが高橋にからかわれていることは間違いない。
いいんだけど。ただからかうだけならいいんだけどさ。
あたしはそういう時に高橋が決まってする真面目な表情が、どうしても好きになれなかった。
- 33 :第二章:2007/07/05(木) 00:31 ID:BQDtXn9Q
-
「あんたさあ。もっとちゃんとしてくれる?」
「仕事はちゃんとやってるやん」
「ちゃんとねえ。あんたロケ嫌いなの?」
「嫌ーい」
「ハロモニ好きなんでしょ?」
「えー」
「この仕事好きなんでしょ?」
「えー」
「仮にもリーダーなんだからさ」
「アホ言うな。ただ一番年上なだけやん」
「年上だからこそしっかりと」
「年上でも何も偉いことなんかないやん」
- 34 :第二章:2007/07/05(木) 00:32 ID:BQDtXn9Q
-
高橋は年上という言葉は受け流さなかった。
その言葉が出た途端、急にへらへらと笑いながら
いかにも冗談っぽい口調に変えて答える高橋。
きっと冗談じゃないんだろうな。
こいつはリーダーとか年上とか言われるのが本当に嫌なんだろう。
高橋はモーニング娘。で一番年長となった今でも
昔と変わらないように好きなメンバーと喋り、嫌いなメンバーの悪口を言う。
それが年上のメンバーだろうと年下のメンバーだろうとお構いなしに。
別にそれが悪いとか非難するつもりはない。
誰でもみんなやっていることだから。
あたしもやっていることだから
でも
でも
でも
高橋は人間として決定的な何かが欠けているような気がする。
たとえ芸能人だとしても。
たとえアイドルだとしても。
それでも欠けちゃいけないものが欠けているような気がする。
- 35 :第二章:2007/07/05(木) 00:32 ID:BQDtXn9Q
-
やがて長かったロケも終わり高橋は長い長いため息をつく。
それが伝染したわけじゃないけどあたしも長いため息をつく。
急にこれまで歩いてきた街が大きくなったように見える。
道を行く人々の数が増えたような気がする。
なんでだろう。
そしてあたしたちがちっぽけな存在のように感じる。
高橋はスタッフさんと他愛のない話をしている。
聞こえないけど話の内容はなんとなく想像できる。
そしてやっぱり高橋はこの仕事が好きなんだとあたしは確信する。
でも違うの。違うの。そんなんじゃないの。
あたしが高橋に求めているのはそんなことじゃないの。
こんな時
あの人ならなんて言うだろう
あの頃の
あたしの中のモーニング娘。なら――――
- 36 :第二章:2007/07/05(木) 00:32 ID:BQDtXn9Q
-
☆ ☆ ☆
- 37 :第二章:2007/07/05(木) 00:32 ID:BQDtXn9Q
-
☆ ☆
- 38 :第二章:2007/07/05(木) 00:33 ID:BQDtXn9Q
-
☆
- 39 :第二章:2007/07/05(木) 00:33 ID:BQDtXn9Q
-
「?どこ見てるの?新垣」
「飯田さんです。ほら。あそこ」
「あんまりカオリばっかり見てちゃダメよ。バカがうつるから」
「え?えへへ。だって飯田さんって綺麗じゃないですか」
「あんなの顔が綺麗なだけじゃん」
「保田さん・・・・・飯田さんのこと嫌いなんですか?」
「えー、いやー。嫌いとかじゃなくってさー」
もちろん聞くまでもなく新垣には保田が飯田を嫌っていないことはわかっていた。
でも保田がその時言った辛辣な言葉には嘘がないようにも思えた。
表情から。仕草から。口調から。そして言葉から。
保田から放たれるどんな情報も見逃すまいと新垣はじっと保田を見つめる。
保田はそんな新垣の視線を強く意識しながらも
何かを語ることはなく沈黙を続ける。
冗談で済ますか。
真剣に答えるか。
迷うまでもなく保田の中では答が決まっている。
- 40 :第二章:2007/07/05(木) 00:34 ID:BQDtXn9Q
-
「あんたはもうモーニング娘。のファンじゃないんだから。しっかりしてよ」
「わかってます。頑張ります」
「頑張らなきゃダメ。でも頑張るだけじゃダメ」
「カオリはね。頑張ってるけどね。頑張ってるだけなの」
「あたしにはよくわかりません」
「まあ、そういうあたしだって偉そうなことは言えないけど」
「保田さんは凄いです!頑張ってます!あたしも保田さんみたいに」
「あんたはあたしとは違う」
「わかってます。あたしはあたしのキャラで・・・・・・」
「わかってないなあ」
「難しいです。やっぱりあたしはダメなんでしょうか」
「ダメ?さあ。でもあたしはあんたが羨ましいよ。あんたも。他の5期の子も」
「ありがとうございます・・・」
「お世辞じゃないよ」
「ありがとうございます」
「お世辞じゃないって。きっとカオリもあんた達のことが羨ましいと思うよ」
- 41 :第二章:2007/07/05(木) 00:34 ID:BQDtXn9Q
-
そんなことを言いながら保田は飯田のことをじっと見つめる。
そういえば飯田と保田が仕事の話をしているところは見たことがない。
話をしなくてもわかりあえるのだろうか。
まさか。そんなことなんてありえない。
きっと後輩の前ではそんな姿を見せないようにしているのだろう。
飯田は保田と新垣に気付き手を振りながらこちらに向かってくる。
他愛のない会話が始まるが、保田はやはり仕事のことは話さなかった。
飯田は新垣の髪を優しく撫でながらいつもよりも少しゆっくりと話す。
新垣はそんな飯田を見上げる。やっぱり綺麗だ。
この人みたいになりたい。
たとえあたしとこの人が、違うタイプの人間だったとしても。
新垣の強い思いは力となって瞳に宿り、視線となって飯田の体を隙間なく包む。
「新垣」
「はい」
「だからあんまりカオリのこと見ちゃダメだって」
「え?」
「バカがうつるから」
- 42 :第二章:2007/07/05(木) 00:34 ID:BQDtXn9Q
-
☆
- 43 :第二章:2007/07/05(木) 00:34 ID:BQDtXn9Q
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☆ ☆
- 44 :第二章:2007/07/05(木) 00:35 ID:BQDtXn9Q
-
☆ ☆ ☆
- 45 :第二章:2007/07/05(木) 00:35 ID:BQDtXn9Q
-
「ねえ愛ちゃん」
「なにガキさん」
「あんたこの仕事好き?ロケばっかだけどさ。いや真面目な話」
「うん。まあ好きやで」
「小春とか光井ちゃんのことは?好き?」
「好きではない」
「嫌いだったとしても、ちゃんと面倒見なきゃいけないってわかってる?」
「もちろん。あたしはモーニング娘。のリーダーですから」
高橋はこれ以上ないくらい真面目な表情でそんなことをさらりと言った。
- 46 :第二章:2007/07/05(木) 00:35 ID:BQDtXn9Q
- 第二章 終わり
- 47 :名無し娘。:2007/07/05(木) 20:58 ID:diVj06fg
- イイヨイイヨー
- 48 :名無し娘。:2007/07/08(日) 14:12 ID:dYQCBTVg
- この寂寥感がたまらない
- 49 :名無し娘。:2007/07/08(日) 17:32 ID:Fv.ku1Tc
- この空気いいですなぁ
- 50 :名無し娘。:2007/07/09(月) 00:00 ID:G991NqNA
-
★
- 51 :第三章:2007/07/09(月) 00:00 ID:G991NqNA
-
目が覚める。
微かに開けた窓の網戸越しにざあざあと雨の音が聞こえる。
雨が幾分下げた気温もあってあたしの部屋はいつもより少し涼しい。
でも目覚めたあたしのパジャマはいつも以上に汗で湿っていた。
あたしは目を開けているのか開けていないのかわからないような状態で、
手探りでごそごそと替えの下着を取り出して着替える。
まだ完全に目は覚めていない。
今ならまたすぐに眠りにつけそうだ。
布団に潜り込んであたしは意識をさっき見ていた夢へとつなげる。
ざあざあと降り続く雨の音が聞こえる。
やがてその音は現実のものか夢の中のものがわからなくなり―――
あたしは再び眠りに落ちる。
- 52 :第三章:2007/07/09(月) 00:03 ID:G991NqNA
-
目覚まし時計が鳴るほんの1分前。
いつものようにあたしは寝苦しさで目が覚める。
今日も鳴ることはなかった目覚ましのセットを掌で止める。
汗はかいていなかったが、相変わらず不快感は
あたしに離れることなくしっとりとまとわりついている。
エアコンの代わりに買った扇風機をつける。
この程度の電力なら使ってもいいよね。
くるくると首を振る扇風機の頭をかかとで押さえながら
あたしは今日の仕事の予定を頭の中で整理する。
今日もまた会うことになるメンバーの顔が次々と浮かぶ。
やつらはあたしの頭の中で勝手に喋り出す。
うるせえ。黙れ。寄って来るな。ここはあたしの部屋だ。
狭い部屋を何度か往復してあたしは仕事の準備を進める。
朝食を取る。数年前よりも規則正しくなったあたしの生活。
足で扇風機のスイッチを切る。
仕度は済んだ。
今日もまた先週と同じ日々が始まる。
ああ、違う。少し違うな。先週は雨なんて降ってなかったよね。
何の特徴もない、ただの雑音でしかないはずの雨音は
なぜかあたしの心を少し穏やかなものにさせる。
- 53 :第三章:2007/07/09(月) 00:04 ID:G991NqNA
-
降りしきる雨の中、それでも予定通りにロケは始まる。
雨天中止のロケなんてないもんね。
そういえば運動会の前の日ってすっごい雨のこと気にしてたなあ。
あたしの中に忘れていた感覚が甦る。
あの頃と同じようにドキドキすることってもうないんだろうな。
だってあたしはもう、あの頃のあたしじゃないんだから。
あたしは傘を高橋の方へと傾けながら歩く。
高橋の肩が濡れないように気を遣いながら。
笑顔でずんずんとベビーカーを押していく高橋のテンションは今日も高い。
あんた御機嫌だね。
でもそのベビーカーの端っこ、すっごい濡れてるから。ちょっとは気付けよ。
まあ別にいいけれど。
あたしに子供が生まれたら。
あたしの子供をベビーカーに乗せることがあったら。
そういうことには気をつけるとしよう。
- 54 :第三章:2007/07/09(月) 00:05 ID:G991NqNA
-
二人できゃあきゃあ言ってるさゆとカメをよそに一人ぽつんといるれいな。
あたしと高橋。さゆとカメ。
二人が二つ。れいなは一人
五人で三つ。
たった二つしかないのに不思議なくらいれいなのことは気にしない。
でもあたしがれいなを見つめたとき、
れいなはいつも楽しそうな表情をしている。
決して隙を見せないれいな。
あたしがれいなを見つめたとき、必ずれいなはあたしを見つめている。
もしかしたら―――
あたしが見つめていないときもずっと―――かもね。
あたしは傘をくるくると回してれいなに雨粒を飛ばす。
笑顔が消えて一瞬険しい表情になるれいな。
手負いの獣のような傷ついた目であたしを見つめる。
そんな顔しないでよ。
そんな顔するときじゃないのにさ。
- 55 :第三章:2007/07/09(月) 00:06 ID:G991NqNA
-
「もー、ガキさんそんなことしないでよー」
と無邪気にからんでくるれいなの表情は既に甘いものに戻っている。
あたしと同じようにくるくると傘を回すれいな。
なにその前傾姿勢。お前バカか。力の加減を知らないのか。
散弾銃にように飛び出した雨粒は放射状に広がり4人の服を濡らす。
れいなの方を振り向くさゆとカメの目は笑っていない。
でも怒ってもいない。
怒ればいいのに。
最初の頃はそうやってたじゃん。
れいなはそんな二人の視線を知ってか知らずかニヒヒと笑っている。
おー、良い笑顔だね。
ファンの人が好きそうな笑顔だよ。
でも
あたしはれいながどうしてそんな顔で笑えるのか不思議でならない。
辛くないのかな。
もしあたしがれいなだったら。
ああ。でも案外同じような笑顔で笑っているかもしれない。
- 56 :第三章:2007/07/09(月) 00:07 ID:G991NqNA
-
「れいなー」
「なんよー」
「ごめんね」
「なにがー」
「服、濡れちゃったね」
「気にしとらんよー」
「御機嫌だね」
「なんで?」
「ニッコニコじゃん」
「ふん。知らんもん」
「御機嫌じゃないの?」
「愛ちゃんの髪型」
「え?」
「すっごい変」
- 57 :第三章:2007/07/09(月) 00:08 ID:G991NqNA
-
れいなはあたしの言葉に照れたような表情を浮かべる。
ウェービーな高橋の髪を指差すその仕草にはきっと意味なんてない。
ただあたしの話を逸らしたかっただけなんだろう。
小さいあたしよりもさらに小さいれいな。
透明に見えるれいなの向こう側に街の景色が透けている。
というのは嘘だけど。
れいながいてもいなくても同じという事実は嘘じゃない。
小さなれいな。
いらない子れいな。
まるで昔のあたしみたいに。
いや、あたしには同期の子がいた。
頼りないけど3人の味方がいた。
今のれいなに味方はいるのだろうか。
少なくともあたしは―――れいなにとって味方ではないだろう。
- 58 :第三章:2007/07/09(月) 00:08 ID:G991NqNA
-
今日もロケは滞りなく進む。
れいなは頼りなくも台本の通りに喋るべきことを喋る。
あたしらも同じように動くべき通りに動く。
そして何事もなくロケは終わりスタッフは撤収の準備にかかる。
いつの間にか雨は上がり空は晴れ渡っていた。
こういうことが「仕事」っていうんだろうか。
働く人達は皆、今のあたしが抱えているような思いを抱えているのだろうか。
そうかもしれない。
でもあたしたちはそれを受け入れちゃいけないような気がする。
だってあたしたちは―――あたしたちは―――
ああ。
こんな時
あの人ならどうするだろう
あの頃の
あたしの中のモーニング娘。なら――――
- 59 :第三章:2007/07/09(月) 00:08 ID:G991NqNA
-
☆ ☆ ☆
- 60 :第三章:2007/07/09(月) 00:09 ID:G991NqNA
-
☆ ☆
- 61 :第三章:2007/07/09(月) 00:09 ID:G991NqNA
-
☆
- 62 :第三章:2007/07/09(月) 00:09 ID:G991NqNA
-
ステージに幕が下り華やかな舞台はその灯火を消す。
まだざわついている客席の声は舞台裏まで微かに届く。
いつもと違う雰囲気。
それは新垣にもわかっていた。
初めて上がったステージだったけど
それがいつもとは違う雰囲気だってことはわかっていた。
汗を拭い、普段のような素の表情に戻る先輩達をよそに
新垣の顔にはまだ固く笑顔が張り付いていた。
取れない。
いや。取っちゃいけない。
笑うんだ。あたし。笑うんだ。
そんな呪文を心の中で唱えながら新垣はタオルで顔を覆う。
- 63 :第三章:2007/07/09(月) 00:10 ID:G991NqNA
-
「新垣」
「は、はい」
「大丈夫?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
「疲れたっしょ。全部初めてのことだし」
「いえ。全然。大丈夫です」
「これで新垣も今日からモーニング娘。だね」
「本当に?」
「うん」
「本当にそれでいいんですか?」
「あははははは。いいもなにも。上の人が決めたことじゃん」
「そういう意味ですか・・・・・・」
「なーに期待してんの。そういう意味に決まってるじゃん!」
「でも・・・・・」
「でももなにもないっしょ!決められたんだからやるしなかいって!」
- 64 :第三章:2007/07/09(月) 00:11 ID:G991NqNA
-
そう言いながら安倍は能天気な顔で笑う。
安倍の笑顔は新垣がよく知っている安倍なつみの顔そのままだった。
安倍は新垣の両頬をつまんで左右に引っ張る。
どうしていいのかわからない新垣はされるがままになる。
そんな安倍を見た他のメンバーは
あー、なっちが新垣いじめてるー、などとはやし立てる。
新垣の心に不意に温かな思いが満ちるが
そんなセンチメンタルな感情は新垣の鼻の穴に突っ込まれた
安倍の人差し指によって遮断される。
痛い
安倍さん痛いっす
- 65 :第三章:2007/07/09(月) 00:12 ID:G991NqNA
-
「あはははは」
「安倍さん。あの」
「泣きたければ泣けばいいじゃん」
「でも」
「無理に笑うことないよ」
「あたし安倍さんの笑顔が好きなんです」
「あははははは」
「だからあたしも」
「あんた真面目な顔で何言ってんの。ほれほれほれ」
そう言いながら安倍はさらに奥深く人差し指を突き立てる。
新垣は大粒の涙を流しながらも安倍に挑みかかるように笑う。
- 66 :第三章:2007/07/09(月) 00:12 ID:G991NqNA
-
☆
- 67 :第三章:2007/07/09(月) 00:13 ID:G991NqNA
-
☆ ☆
- 68 :第三章:2007/07/09(月) 00:13 ID:G991NqNA
-
☆ ☆ ☆
- 69 :第三章:2007/07/09(月) 00:15 ID:G991NqNA
-
「れいな!れいな!」
「なーに、ガキさん」
「あんたじゃないよ」
「別にええやん。一緒に帰ろ」
「れいな!れいなどこ?」
「あれ?そういえばどこにおるんやろね?」
「何言ってるんだお前ら。田中ならさっき挨拶して帰っただろ」
「えー!本当ですか」
「ちょっとは気付けよ。お前らはいっつもそんなんだな」
機材の横にはれいなの置き忘れた傘。
空はいつものれいなの笑顔のように爽やかに透き通っていた。
- 70 :第三章:2007/07/09(月) 00:15 ID:G991NqNA
- 第三章 終わり
- 71 :名無し娘。:2007/07/09(月) 01:30 ID:SexaZBjk
- どうなるのこれから
- 72 :名無し娘。:2007/07/09(月) 21:27 ID:AyaPr8kY
- なちまめ好きや〜
- 73 :名無し娘。:2007/07/14(土) 19:30 ID:CbVwhg7Y
-
★
- 74 :第四章:2007/07/14(土) 19:31 ID:CbVwhg7Y
-
ハロモニ@のロケには準備らしい準備もない。
ただいつもの衣装に着替えて用意するだけだ。
台本らしい台本もないから打ち合わせみたいなものもかなり短い。
今日もまた耳としっぽをつけて撮影までの暇な時間を持て余していると
不意に携帯が震えて一通のメールが入ったことを知らせる。
仕事用に高めたテンションが少し下がる。
ああ。
そういえばハロモニ王国の動物達も携帯持ってたなあ。
あれで国王に呼び出しされているっていう設定だったっけ。うん。
そんなことをぼんやりと思いながらあたしは携帯を開く。
メールの主は光井ちゃんだった。
あれ?
あたしの新しいメールアドレスは教えてないはずなのに。
誰が光井ちゃんに教えたんだろ。
- 75 :第四章:2007/07/14(土) 19:31 ID:CbVwhg7Y
-
今日もロケの始まりは5人だった。
最近では小春と光井ちゃんが遅れてくるのが定番になっている。
なんだかこの5人だけでいいような気がする。
だって世間的には5人も7人も大して変わりないじゃん。
だったら気持ちよく仕事できるメンバーだけでいたいよ。
あれ?
あたしは7人より5人の方が気持ちいいのか?
この4人と一緒が気持ち良い?
あたしは右から亀井道重高橋田中と顔をながめる。
選ばれた4人というよりは残り物の4人。
あたしだって間違いなくそうだ。
残り物クイーン新垣だ。
小春と光井ちゃんは選ばれるのだろうか
それとも残り物になるのだろうか
- 76 :第四章:2007/07/14(土) 19:31 ID:CbVwhg7Y
-
ロケも中盤に差し掛かり、小春と光井ちゃんが合流する。
相変わらずテンションの高い二人だけれど、
きっと二人だけのときの方がもっともっとテンション高いんだろな。
「新垣さん」
「はい」
「さっきの店、行ったことあるって本当なんですか?」
「え?なんで?」
「なんか言ってることが違ってたような・・・・・」
「ああ。だってうそだもん」
「え〜」
「雑誌で見たことあるだけ」
「大丈夫なんですか?テレビでそんなこと言って」
「え?ああ。まあ、死にはしない」
- 77 :第四章:2007/07/14(土) 19:31 ID:CbVwhg7Y
-
あたしはからみついてくる光井を軽くあしらいながら考える。
光井ちゃんにアドレス教えたのは誰だろう。
高橋愛?亀井絵里?道重さゆみ?田中れいな?
うーん。
それとも藤本美貴?吉澤ひとみ?それとも。それとも他の。
どれもしっくりこない。
あたしはメールアドレスを変えるたびに
お知らせメールを出す相手を頭の中でリストアップする。
そのリストには小春とか光井ちゃんは入っていなかった。
自分が冷たい先輩だとは思わない。
「新しいメールアドレス教えてください」
その一言があればすぐにでも教えてあげるつもりだった。
リストに加えるつもりだった。
だけど小春と光井ちゃんからそういう言葉をかけてもらったことはなかった。
ただの一度も。
- 78 :第四章:2007/07/14(土) 19:31 ID:CbVwhg7Y
-
あたしの心の中ですでに分類を終えた小春はともかく。
光井ちゃんがあたしのことをどう思っているかはよくわからない。
あたしが光井ちゃんのことをどう思っているかもよくわからない。
小春と仲良くしてるけどそれはきっと歳が近いからだと思う。
二人は同期メンバーみたいなものだし。
本当に仲の良いメンバーを作るのはこれからかもしれない。
でも一回小春と仲良くなっちゃうと難しいだろうな。
あたしだって気がつけばずっと高橋と一緒にいるし。
でもカメと仲良くなったように
何かのきっかけで光井ちゃんとも仲良く?なれるかもしれない。
仲良く?なんか違和感あるねー。
やっぱりあたしは光井ちゃんにとって先輩でしかないんだろうか。
あたしは小春が少し離れた時を狙って光井ちゃんに訊ねる。
- 79 :第四章:2007/07/14(土) 19:31 ID:CbVwhg7Y
-
「ねー、光井ちゃーん」
「なんですか新垣さん」
「さっきのメールのことなんだけどー」
「メール?」
「誰にあたしのアドレス聞いたの?」
「あのー、新垣さん」
「はい」
「今はまだ収録中ですけど」
まあ。
憎たらしい。
- 80 :第四章:2007/07/14(土) 19:32 ID:CbVwhg7Y
-
あたしは収録が終わってから聞こうかと思ったけどやめた。
もうそんなんどうでもいいや。
メールしたければすればいいさ。
返事がほしいならいくらでも返してやるさ。先輩としてさ。新垣里沙としてさ。
収録は続く。
さっきのあたしとの言葉など全く意に介さないかのように
同じようにカメラの前であたしに甘えてくる光井。
年齢の割にはしっかりしているこの性格。
可愛くないと言ったら嘘になる。
この子は意外とあたしのことが好きなのかもしれない。
でも
でも
でも
あたしはどうしていいのかわからない
先輩としてこの子に何をしてあげればいいのか
こんな時
あの人ならどうするだろう
あの頃の
あたしの中のモーニング娘。なら――――
- 81 :第四章:2007/07/14(土) 19:32 ID:CbVwhg7Y
-
☆ ☆ ☆
- 82 :第四章:2007/07/14(土) 19:32 ID:CbVwhg7Y
-
☆
- 83 :第四章:2007/07/14(土) 19:32 ID:CbVwhg7Y
-
「加護さん何してるんですか?」
「なんでもない」
「加護さん今何隠したんですか?」
「あいぼんでいいよ」
「加護さんは加護さんですよ」
「同じ歳じゃん」
「加護さんが一個上です」
「同じ年生まれじゃん」
「加護さんが一歳上です」
「あいぼんでいいよ」
「加護さんは先輩ですから」
「でもあいぼんでいいよ」
「ありがとうございます、加護さん」
「わざと言ってる!!」
- 84 :第四章:2007/07/14(土) 19:32 ID:CbVwhg7Y
-
勿論わざと言ってるわけではなかったが
加護の笑顔を見ているともっともっと加護さん加護さんと新垣は言いたくなる。
その時部屋に辻が入ってくる。
辻は新垣のように遠慮することなく加護が後ろ手に持っていたものを奪い取る。
丁寧にラッピングされた何かを挟みながら二人は賑やかに騒ぎあう。
うわあああ
まさにあいぼんとのんちゃんだああああ
なんかいちゃついてるうううううう
本物だあああああ
二人を止めることなく見とれている新垣の後ろから後藤が部屋に入ってくる。
- 85 :第四章:2007/07/14(土) 19:32 ID:CbVwhg7Y
-
「なにしてんの?」
「あー、ごっちん!これ!」
「なにこれ」
「辻からの誕生日プレゼント」
「マジ?超嬉しい」
「ちょっと!それあたしのじゃん!」
「はあ?」
「これはあたしからの誕生日プレゼント!」
「違うもんねー、辻からのだもんねー」
「なになに?これあいぼんからなの?」
「そうだよ!」
「違うもんねー、辻からのだもんねー」
「どういうことよ?」
- 86 :第四章:2007/07/14(土) 19:33 ID:CbVwhg7Y
-
後藤は説明を求めるように新垣の方を向く。
新垣は正直にその場で起こったことを説明する。
加護は勝ち誇ったような表情で辻に後ろから抱きつく。
だが辻も悪びれることなく後藤に笑顔を向ける。
「ありがと。あいぼん」
「えへへへへ」
「で、つーじーのプレゼントは?」
「それ」
「だからこれはあいぼんのでしょ」
「だってー」
「あー、ふつー忘れるかなー、ごとーの誕生日を」
「新垣だって忘れてるじゃん」
「す、すいません」
「いいよいいよ。新垣は入ったばっかだもんね。辻と違って」
「ごっちんひでー、ごっちんがいじめるー」
- 87 :第四章:2007/07/14(土) 19:33 ID:CbVwhg7Y
-
ごっちんがいじめるー、と言いながら辻は新垣のお下げ髪を引っ張る。
のんがいじめてるー、と言いながら加護は新垣のもう一方の髪を引っ張る。
新垣は右の加護を見たり左の辻を見たりしながら
その場でどうしたらいいかわからずにまごつく。
後藤は目線を送るだけで加護と辻を操り、二人から新垣を解放する。
加護は後藤に抱きつきながら辻と新垣に向かって
「しっしっ、あっち行け!」とニンマリと笑いながら手を振る。
辻は辻で「ごっちんの誕生日忘れた軍団だ」とか言いながら新垣に抱きつく。
部屋の隅に置いてある新垣の鞄の中には、
行きがかり上、持ってきたとは言えなかった
後藤真希16歳の誕生日のプレゼントが静かに眠っていた。
- 88 :第四章:2007/07/14(土) 19:33 ID:CbVwhg7Y
-
☆
- 89 :第四章:2007/07/14(土) 19:33 ID:CbVwhg7Y
-
☆ ☆ ☆
- 90 :第四章:2007/07/14(土) 19:33 ID:CbVwhg7Y
-
あたしは光井ちゃんの髪を握ってぐいっと引っ張る。
光井ちゃんはあたしが予想していた通りのリアクションを見せる。
でもそんな光井ちゃんとあたしを見ているメンバーは誰もいなかった。
あたしは昔のあたしと同じように
何をしていいのかわからず
ただ困っている光井ちゃんを目の前にして戸惑っているだけだった。
- 91 :第四章:2007/07/14(土) 19:33 ID:CbVwhg7Y
- 第四章 終わり
- 92 :名無し娘。:2007/07/15(日) 00:36 ID:6Z0a/pOg
- せつないね
- 93 :名無し娘。:2007/07/18(水) 20:42 ID:ncaH8K5k
-
★
- 94 :第五章:2007/07/18(水) 20:43 ID:ncaH8K5k
-
あたしは眠っている
あたしは夢を見ている
夢の中で、これは夢なんだと気付いている
もうすぐこの夢が覚めることも知っている
目が覚めた
準備をして仕事に出かける
いつものメンバーといつものスタッフに挨拶する
仕事が始まる
そこで目が覚める
あたしの体は温かい布団の中
ああ、これも夢だったんだ・・・・・・
- 95 :第五章:2007/07/18(水) 20:43 ID:ncaH8K5k
-
あたしは細い腰に巻きつけたベルトをきゅっと締める。
これは夢ではなく現実でのお話。
高橋がいてカメがいてさゆがいてれいながいて。
そして小春と光井ちゃんがいて。
いつものようなあたしの日常。
そしていつものように楽しげな雰囲気を振り撒いてロケが始まる。
今日はなぜかカメはれいなと一緒にいるときが多い。
なぜだ。よくわからん。仲が良いのか。まさかね。
さゆは割り込むようにあたしと高橋の間に入り込んでくる。
ぷにぷにした肉厚のさゆの背中。つつきたい。
なんだかさゆの周りだけ2℃ほど温度が高いように感じる。
本人に向かってそう言ったら、さゆは怒るだろうか。
はしゃぐさゆの肘が、がしがしあたしの頬に当たってくる。
痛いってば。あんたが思ってるより痛いから。
ごめーんと明るい表情でさゆは謝る。
上から目線で。
なんかむかつく。
この子は今もまだ背が高くなっているような気がするよ。
- 96 :第五章:2007/07/18(水) 20:43 ID:ncaH8K5k
-
「ガキさーん。そんな顔しないでくださいよ」
「さゆ、近いよ。近いってば。も少し離れてよ」
「なに?やだー、ガキさん照れてるの?」
「そんなわけないじゃん」
「怒ったガキさんも可愛いですね。さゆのこと好きなくせに。」
「道重さんは可愛くないね。全然ダメ」
「目が腐ってんじゃないですか?」
「なにそれ」
「今、流行ってるんですよ。巷で」
「噂の?」
「そうです。巷で流行ってるんですこれ」
「腐ってるとかやめてよ」
「まあ、テレビじゃ使えないですね」
- 97 :第五章:2007/07/18(水) 20:43 ID:ncaH8K5k
-
さゆは高橋と違って思っていることが素直に表情に出る。
腐ってるとか言いながらもその表情は明るい。
あたしはこの子に好かれている自信がある。
ていうかこの子はきっとメンバー全員のことが好きなんだろうな。
あたしなんかよりもよっぽどモーニング娘。のことが好きに違いない。
あたしはあたしで娘。に対する思いがあるんだけど、
当然さゆにはさゆなりの思いがあるのだろう。
恵まれた環境にあるとは言えない今のモーニング娘。だったけど、
さゆはそんな中でも目一杯今の娘。を楽しんでいるように見えた。
この子は見た目以上にタフ。いつも感心させられる。
さゆだったらどんな過酷な環境でも生きていけるような気がする。
この子には悩みとかないんだろうか。
少なくともあたしには見えない。
本当にあたしの目は腐っているんだろうか。
- 98 :第五章:2007/07/18(水) 20:43 ID:ncaH8K5k
-
「ガキさん元気ないね」
「うそぉ。あたしは超元気だよ」
「もっとテンション上げていきましょうよ」
「あんたみたいには無理だよ」
「無理じゃないよ」
「れいなとかに言ってあげなよ」
「あたしはガキさんに言ってるの」
「だからあたしは元気だから!」
「あー、そうじゃないそうじゃない」
「なにが?」
「だってガキさん、全然楽しそうじゃないよ」
- 99 :第五章:2007/07/18(水) 20:43 ID:ncaH8K5k
-
楽しめないっつーの
という言葉をあたしは飲み込む。
楽しくないのに楽しい振りをするのは得意中の得意だったはずなのに。
ガキさんが楽しくないならさゆも楽しくないなー
などといけしゃあしゃあと言うさゆの顔を、あたしは見つめる。
すっごい楽しそうな顔してるじゃん。あんたすぐに顔に出るね。
あたしは一つ深くため息をつく。
誰かに何かを求める前に、あたしがちゃんとしなければならない。
後輩に頑張れと言う前に、あたしが頑張らなくちゃいけない。
何かをしてもらう前に、何かをしなければならない。
それはわかってる。でもあたしにはそれができない。
後輩のために何かをしてあげるなんてできそうもない。
もう遅い。もう遅いんだよきっと。
でも
でも
でも
こんな時
あの人ならどうするだろう
あの頃の
あたしの中のモーニング娘。なら――――
- 100 :第五章:2007/07/18(水) 20:44 ID:ncaH8K5k
-
☆
- 101 :第五章:2007/07/18(水) 20:44 ID:ncaH8K5k
-
広い舞台の上で一人の少女が歌っている。
自信なさげに歌うその声は、どことなくぎこちない。
メロディに乗ることなく外れていくその歌声は徐々に小さくなり、
やがて申し訳なさそうにその場から消えていく。
全ての機材が止められ、また最初からやり直される。
舞台に上がることはない多くの人間の目が、
舞台の上にいる少女の振る舞いを見つめている。
少女はそれに気付いているのかいないのか、再び歌いだす。
律儀にもさっきと全く同じような歌を少女は歌い―――
やがてまた全ての機材が動きを止める。
これでいったい何回目になるんだろう。
舞台上の少女を見つめる新垣は暗鬱な気持ちになっている。
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