■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 最新50
朝妙楼

1 :朝妙楼崇安:2007/04/19(木) 10:21
ここ狩狩の片隅に、棲みつくことに致しました崇安と申します。

陋屋に名付けて朝妙楼。
「楼」などとご大層に僭称しておりますが、なにただの隠居所です。

AAを駆使するほどの技量を持ち合わせておりませんので、文字ネタ・小説のようなものを綴ってまいります。

更新頻度は低め。時には放置するやもしれません。ご寛恕下されませ。

2 :朝妙楼崇安:2007/04/19(木) 10:25
さて、ただいまこの板では「さしみ賞」という催しが行われております。

新参が大変に厚かましいことではございますが、ご挨拶代わりにわたくしもエントリーしようかと思います。

お暇な折にでもお読み下されば幸甚でございます。

3 :逝ける王女のためのパヴァーヌ:2007/04/19(木) 10:27
「……何だろう、これ?」


バッグの中に見覚えのない封筒。上品な薄紫色の表面には何も記されてなかった。
封はされていない。中には共紙で2枚の便箋。


あ。



そこには見覚えがある文字が書かれていた。

4 :プロローグ:2007/04/19(木) 10:30
何を伝えたかったのだろう。


今になって思う。きっと彼女は、わたしに何かを伝えたかったのだと。
救いを求めていたのか、或いは行き場を失ってしまった想いが高まって噴き出してきたのか。

だが、もう真実が分かることは永遠にないのだろう。




わたしは、二度と取りに戻ることができない忘れ物をしてしまった。

5 :あの日:2007/04/19(木) 10:32
あの日。

卒業を控えたわたしは、単独の取材を受けてから楽屋へ向かった。

途中で偶然会った顔見知りの局スタッフさんに「新リーダーはマイペースだからやりにくなぁ」と言われ、
「周囲の人に助けてもらえるように気を使えって言っときますよ」などと少し立ち話をした。

途中で引っかかっていたせいか、楽屋にはもう誰もいなかった。
焦ってもう一度ドアから出たとき、小さな影がこちらに向かってきた。

6 :あの日:2007/04/19(木) 10:35
「あ、れいな! 次どこよ?」
「○○スタですけど、今、藤本さんたちを先に撮ってます。もう少しかかると思います」
「ん」

れいなはわたしの脇をすり抜けて楽屋へ入ると、ストンと座ってペットボトルから水を飲んだ。

「わたしはまだいいのかな?」
「マネジャーさんが呼びに来るまで待っとってくれって」
「そう」

わたしも楽屋の中へ戻り、適当に腰掛けた。
れいなは、吉澤さん長かったですね、とわたしに笑顔を向け、もう一口水を飲んだ。

「ライト浴びると喉が渇くけん」
「ん。そうだね。体にはあんまりよくないかもなあ」

仕事やけんしょうがないですけどね、と呟きながら、れいなはウェットティッシュで手を拭いていた。

7 :あの日:2007/04/19(木) 10:37
「撮りはわたしと誰?」
「れいなとさゆと小春ちゃんです」

れいなは丁寧に指先を拭ったあと、ウエットティッシュをくず入れに放り込むと立ち上がり、わたしの傍に座りなおした。

「小春もどっか呼ばれてました。戻ってくるまでまだしばらくあるし、休んどったらいいですよ」
「そうだね。シゲさんは?」
「さぁ?」

れいなは微かに首を傾げて答えた。子どもっぽい仕草の中に、ほのかな色気がある。

「吉澤さん」
「ん?」

軽く居ずまいを改めてわたしの名を呼んだれいなは、存外真剣な目をしていた。

「次のOFF、予定ありますか?」
「え。あぁ、えーと、午後なら空いてるけど。2時すぎかな」
「れいなとデートして下さい」

8 :あの日:2007/04/19(木) 10:42
「はぁ〜?」

いきなりで面食らったけれど、れいなはこれで結構人懐っこいところがあって、それほど意外な話でもない。
わたしの卒業まであとひと月もないから、急に淋しくなったのかもしれない。
わたしは微笑んだ。

「いいよ」

れいなもにっこり笑うと、約束ですよ、と言いながら携帯を取り出した。
わたしが馴染みの街の名を挙げると、れいなはすぐに頷いた。わたしたちは時刻と待ち合わせ場所を決め、
お互いに「遅れんといて下さい」「遅れんなよ」と言い合った。


どこへ連れて行こうかな。ぼんやり考えていると、シゲさんが戻ってきた。
れいなはさっきの真剣な態度を忘れたように、シゲさんにちょっかいを出しに行ってしまった。


ホント、どこへ行こうかな。れいなも案外気難しいからなぁ、下手なところへ連れて行くと拗ねそうだしなぁ……。

9 :デート:2007/04/19(木) 10:45
「デート」の当日、れいなは何やらおどろおどろしい色のTシャツの上にパステルカラーのパーカーをはおり、
極細の黒いパンツを履いて待ち合わせ場所に現れた。この子の色彩センスは、相変わらずよく分からない。

「凄い色だなー」
「何でですか。綺麗なムラサキじゃないですかー」
「まぁ、ムラサキっちゃムラサキなんだろうけどさあ」

と、視野の隅をこちらは本当に綺麗な紫色がかすめた。

「(!)」
「どうしました?」
「れいな、あれ買ってやるよ」

わたしは、十数歩先にあったこぢんまりとしたファンシーショップへ歩いていき、店先にあった紫のバンダナを手にとった。
これ下さい、と店員さんに声をかけてから、れいなの方へ向き直った。

「デート記念だよ。れいなは紫が好きだから」
「わぁ! ありがとうございます!!」

10 :デート:2007/04/19(木) 10:49
予期していたよりも本気で喜ぶれいなを見ていたら、わたしも嬉しくなった。

いい気分で予定していたカジュアルレストランへ、れいなを引っ張って行く。
だが、満員なだけじゃなく、順番待ちが思いのほか長い列をつくっていた。
安くて美味しい店だからしょうがないのだが。

「どうしよ、並ぶ?」
「んー。……時間がもったいないちゃ。ファストフードでもいいですよ」

それなら、とわたしは以前メイクさんに教えてもらったホットドッグ屋さんに、れいなを連れて行くことにした。
ちょっと古びた店だけど、ソーセージもパンもとても美味しいんだそうだ。
そこいらのホットドッグとは、断然モノが違うという。


通りを渡り、教えられた路地に入って行って店を探した。
れいなは、この辺は来たことないっちゃ、と言いながら興味深そうにあたりを見回している。


あ。あった!

11 :デート:2007/04/19(木) 10:52
古風なドアを押して店内へ。
お客さんは2、3人しかいないようだった。

さほど広くない店内の隅っこにあるテーブルにれいなを座らせ、カウンターでプレーンのホットドッグをオーダーする。
カウンターの人に、初めてならぜひプレーンを試して欲しいと言われたのだ。

コーラを両手に持って、テーブルへ。

「マスタードは要らないんだよね」
「はい」

れいなは素直に頷く。
こどもだからなぁ、とからかうと軽くふくれたが、言い返そうとはしなかった。

「……大人にならんといかんですよね」
「んー、そうかぁ? 無理することはないと思うけど」
「下の子たちもいるし」
「れいなはれいならしくしてれば、それがお手本になるんだよ」

12 :デート:2007/04/19(木) 10:54
一生懸命やってる姿を見せればいい。
下の子に気を配ってあげるのは大事なことだけど、気負いすぎはよくないよ。自分を見失ってしまう。

わたしがそう言うと、れいなはふんふんと頷いていた。
悩んでいるのかとも思い優しく真剣に話したのだが、そんなに深刻なふうでもなかった。


話をしているうちに、お店の人が出来上がったホットドッグを持って来てくれた。シンプルで飾り気のないホットドッグ。
いただきますとかぶりついたら、ソーセージからじゅわっと肉汁が溢れてきた。おぉ、ジューシー。
れいなも大きく口を開けて食べる。

「美味しい!」

れいなは、口いっぱいに頬張ったホットドッグを苦労してのみ込むと、鼻から息を吐いてから言った。
その「ムフーッ!」という様子が可笑しくて声をたてて笑うと、れいなも笑いながらわたしを睨んだ。

13 :デート:2007/04/19(木) 10:55
楽しい「デート」だった。

何軒も服を見て結局なにも買わず、歩き疲れたらお茶をしたり。アクセサリーもいろいろ見た。アイスクリームも食べたな。



心から楽しいデートだった。

14 :思いがけないできごと:2007/04/19(木) 10:58
よく知っている街のはずなのに、馴染みのない界隈に来てしまった。

大よそどのあたりにいるのかは分かるから、本格的に道に迷ったわけじゃない。
けれど、ごく軽く不安に似た感覚をおぼえる。見知った通りに戻ろうと、れいなをうながして角を曲がった。

薄闇に包まれた路地から人の影が絶えた。
そこを抜けたすぐ先のちょっと大きな通りは明るく、たくさんの人が歩いているのに。


ぽっかりとここだけ真空になったように、わたしたち以外だれもいない。

不意にれいなが立ち止まった。

15 :思いがけないできごと:2007/04/19(木) 10:59
「吉澤さん。……………い」

れいなが何か言った。聞き取れなくて、ん? と訊き返した。

「れいなにキスして下さい」

小さな声だったが、はっきりとれいなは言った。わたしが見たことがないれいなの顔。沈黙。え? え?

だが、次の瞬間わたしはれいなの薄い肩に手を置いて、キスをした。自然に、そっと。



その感触はひどく硬質で、ひんやりとしていた。

16 :思いがけないできごと:2007/04/19(木) 11:00
唇を離したとき、
れいなは彼女に似つかわしくない、醒めた微苦笑のような表情をしていた。

17 ::2007/04/19(木) 11:07
翌朝、目覚めるとふわふわした気分だった。
昨日のことが現実感のない夢のように感じられる。
どんな顔でれいなに挨拶すればいいのか悩みながら支度をし、家を出た。

楽屋入りすると、部屋の外からマネジャーさんに手招きされた。
ドアの陰には亀ちゃんが立っていた。青ざめてこわばった顔をしている。

「田中が来てないんだ。亀井から話聞いといて。ちょっと行ってくるから」

マネジャーさんが足早に行ってしまうと同時に亀ちゃんが口を開く。怯えたように。

「れいなが昨日、急に泊まりに来たんです。『今から行っていい?』って電話があって。来たらすごい元気で、
吉澤さんとデートしたんだーってすごいはしゃいでて。ずっと喋ってたら遅くなっちゃったんです。
そのうち絵里が先に寝ちゃったんですけど、目が覚めたら、れいないなくて……」

早口になったり口ごもったりしながら亀ちゃんは説明してくれた。
彼女の家族も、れいながいつ出て行ったのか気づかなかったという。
探しているうちに入りの時刻が迫ったのでマネジャーさんに連絡して、取り敢えずここへ来たということだった。

18 ::2007/04/19(木) 11:08
「……それで、あの」

亀ちゃんが言いよどんで、声をひそめた。あたりをうかがうようにして、薄紫色の封筒を取り出した。

「絵里のバッグに入れてありました。これ、マネジャーさんには話してないんです」

便箋が2枚入っていた。手紙。走り書きのれいなの手紙。

「読んでいいの?」
「読んで下さい」

19 ::2007/04/19(木) 11:09
エリへ。
最後にいっしょにいてくれてありがとう。このままいなくなろうと思ったけど、やっぱりだれかにそばにいてほしくて。
それがエリでよかったよ。ありがとう。でも、エリはれいなのこと忘れて。ほかのみんなにも忘れてほしい。れいなのお願い。
別に自殺なんかしないから心配しないで。ただいなくなるだけだから。それからもうひとつ。
吉澤さんにこの手紙を渡してください。お願いします。

20 ::2007/04/19(木) 11:10
吉澤さんへ。
今日はありがとうございました。ほんとにほんとに楽しかった。れいなのことを忘れないでください。

21 ::2007/04/19(木) 11:11
亀ちゃんは「吉澤さん以外には言わない方がいいと思って」とささやき声で言った。
強い意志が込められた声だった。

わたしは頷いた。

22 ::2007/04/19(木) 11:15
それきり、れいなはいなくなってしまった。

当初、事務所は急病ということにしていた。
わたしの卒業コンサートも予定通り行われた。れいなが不在のまま。
わたしはモーニング娘。を卒業した。

もちろん隠し通せるはずもなく、れいなの失踪は週刊誌やワイドショーの格好の話題になった。
なかには悪意にみちた酷い憶測もあったけど、亀ちゃんとわたしは、手紙のことは誰にも言わなかった。
れいなのご家族の悲嘆を考えれば打ち明けるべきなんじゃないかと常に心が苛まれたが、
秘密にするのが正しいという確信は、二人とも頑としてゆるがなかった。

れいなが姿を消した直前に会っていたわたしと亀ちゃんは、事務所のスタッフや警察に何度も何度も事情を聴かれた。
どんな様子だったか、思い当たる節はないか。
わたしは「いつも通りでした」「何もありません」と答えるしかなかった。
キスしたことなど、話せるものではない。

れいなの消息は完全に不明になってしまった。幻のようにかき消えてしまったのだ。

23 :逝ける王女のためのパヴァーヌ:2007/04/19(木) 11:17
亀ちゃんにだけは、しばらくたってからキスのことを打ち明けた。

「そう、ですか」

亀ちゃんは絞り出すように言い、口を一文字に結んだ。
しばらく黙っていたが、意を決したように話し始めた。

「れいなにとっては、吉澤さんとデートするのが最後の手段ていうか賭けだったんじゃないでしょうか?」
「ん。賭け?」
「吉澤さんと、その、キスしたら変わる、変われる、みたいな感じで」

わたしも思った。れいなは何かを求めていたんだ、わたしに。
それをれいなに渡してあげられれば、れいなは今もわたしたちの前にいたはずだ。
れいなの存在をつなぎ止めることができたはずだ。でも、それが何だったのかわたしには分からない。


どうすべきだったんだろう。何をすべきだったのだろう。



ただひとつだけ。わたしはれいなのことを忘れない。忘れることはできない。あのガラスのような唇を。

24 :朝妙楼崇安:2007/04/19(木) 11:18
「逝ける王女のためのパヴァーヌ」  了

25 :朝妙楼崇安:2007/04/19(木) 11:27
後記

これは実は、かなり以前にごく一部の人の目に触れる形で書いた拙文をリライトしたようなものです。
設定や小道具は変わっていますし、人物も娘。さんになっていますが、アイディアとタイトルは同じままです。
この板に昔の拙文を読んだことがある方がいらっしゃるとは到底思えませんが、念のため書き添えておきます。

尚、タイトルはラヴェルの曲からパクリました。

26 :名無し娘。:2007/04/19(木) 11:28
これ続くかと思ったんだが続かないのか

27 :名無し娘。:2007/04/19(木) 12:50
パヴァーヌってなんだろう

28 :名無し娘。:2007/04/19(木) 23:13
雰囲気重視ですね

29 :朝妙楼崇安:2007/04/20(金) 01:17
おぉレスがっ!

……ってさしみ賞にエントリーしましたからね。
エントリーしてなきゃ、レスなぞつきませんわな。


>>26
続くような余韻で終わるのはそもそもの狙いだったのですが、
自分で読み返しても、これは続くっぽいラストだと思います。
力ある人ならここから続けられそうな気も確かにします。


書   か   な   い   か   ?

30 :朝妙楼崇安:2007/04/20(金) 01:22
>>27
正直、よく知らんのですが。

>パヴァーヌ(仏語:Pavane、英語ではパヴァン)は、16世紀のヨーロッパに普及した行列舞踏である。
>パヴァーヌのかしこまった行進は、厳粛なスペインに影響された16世紀イタリアの宮廷作法に似つかわしく、
>パヴァーヌはスペイン起源の舞曲なのかもしれないと想像させるが、パヴァーヌの名称の由来は
>いまだに諸説に分かれている。そのうち一つは、「パドヴァの踊り」(padovana)の転訛とするもの、
>もう一つは、一列に並んだ女性を、孔雀(ラテン語でpavo、スペイン語でpavon)の尻尾に見立てたとするものである。

だそうで(ウィキペディア)。ラヴェルの同名曲は、いい曲だと思います。

31 :朝妙楼崇安:2007/04/20(金) 01:24
>>28
ですね。

我ながら「内容が無いよう」です。しかも、まとめを急ぎすぎた気がします。
ふいんき(なぜかry)重視なら、もうちょっと会話をそれらしくすべきだったと反省しております。 

32 :朝妙楼崇安:2007/04/22(日) 16:13
さて、今日は選挙ですね。
投票行って、そのあと仕事に行かなくてはなりません。
帰ってきたら、何か書くかもしれません。できれば、ですが。

33 :朝妙楼崇安:2007/04/23(月) 23:51
何も考えずに書き始めたらオチを思いつきませんでした。

34 :断簡:2007/04/23(月) 23:56
「柴ちゃん、やめなよー」

わたしが言っても柴ちゃんはやめない。ぷかーっと煙を吐き出している。

「いーじゃん、別に。ハタチ超えてるんだから」
「そりゃそうだけどさ」

35 :断簡:2007/04/23(月) 23:57
柴ちゃんが煙草を吸うようになったのは、ここ何カ月かのことだ。

或る日、今日のように一緒に食事をして、食後の珈琲を飲んでいるときだった。

「梨華ちゃんも吸う?」

馴れた手つきでシガレットケースを取り出し、金色のライターで火を点けた。
目を丸くしているわたしに、ロックよロック、と妙な節をつけたように言ってニヤリとした。

「体によくないよ。それに、わたしたち一応歌手だし……」
「梨華ちゃんが“一応”って言うと重みあるねー」
「な。なによっ!!」

36 :断簡:2007/04/23(月) 23:58
柴ちゃんは、ははは、と笑って煙草を揉み消すと、分かった分かったもう吸わないから、と言った。
その日はそれからあとは、確かに一本も吸わなかった。でも。

会ってお茶したりご飯食べたり、たまーにちょこっとお酒を飲んだりするときに1本か2本、
柴ちゃんは、あの金色のライターで火を点けて煙草を吸った。

村田さんに訊いてみると、

「あー、たまに吸ってるねー。楽屋なんかでは吸わないけど、食事のあととかね」

という返事だった。そして、何回か止めたんだけど大人のすることだしねぇ、と付け加えた。

37 :断簡:2007/04/24(火) 00:04
「なんでそんなふうになっちゃったの?」
「そんなふうって、わたしそんなに変わったかな?」
「柴ちゃんは、どっちっかていうと真面目な人だと思ってた」
「今でも真面目だよー」
「だって、煙草……」
「ヘビースモーカーでもチェーンスモーカーでもないんだけどなあ」
「でもさあ……」

柴ちゃんは2本吸うと、ケースをバッグにしまった。宙をみつめて溜め息をついた。

38 :断簡:2007/04/24(火) 00:08
未完

39 :朝妙楼崇安:2007/04/24(火) 00:08
思いついたら続きを書きましょう。

40 :朝妙楼崇安:2007/04/24(火) 04:37
あ、そうだ。
スレ立てした日にwikiに項目が立ってて驚きました。執筆して下さった方、ありがとうございました。

41 :朝妙楼崇安:2007/04/29(日) 02:09
30日に更新したいと思っています。
できれば。

42 :名無し娘。:2007/04/29(日) 02:16
ほう

43 :朝妙楼崇安:2007/04/30(月) 11:45
何だか風邪っぽい。予定通り更新できないかもしれません。
その節はご容赦願います。

44 :名無し娘。:2007/04/30(月) 11:57
なんてこったい

45 :朝妙楼崇安:2007/05/01(火) 13:43
そんなわけで。
昨日は一日予定がなかったので、こつこつ執筆して夜更新、という予定をたてていたのですが、
調子悪くて寝たり起きたり寝たりを繰り返していて、思い通りにいきませんでした。

仕事の合間にちょこちょこ書き溜めて、連休明けにアップできればいいなあ。
しばらく放置気味になってしまいます。ご覧下さっている方には申し訳ありません。

46 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:49
ちょっと思いついたので、
さしみ賞にもう一つ下らないものを。

47 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:51
「なんだろう、これ?」

足元に何か落ちていた。つぶれたハートマークのような、妙な形をしていた。

48 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:54
卒業コンサートが終わり、お客さんがみんなひけてしまったあと、
わたしはスタッフさんに無理を言って、もう一度ステージに立たせてもらった。

だだっ広い空間が目の前に口を開けている。
客席には後片付けをしている人たちがいた。

こういう人たちにも、わたしたちは支えられてきたんだな、と思った。

49 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:55
しばらく、じっとしてあたりを眺めていた。
こんな広い会場で歓声を浴びていたなんて、さっきまでのことが現実とは感じられなかった。

ゆっくりと歩き回る。
今日のパフォーマンスはどうだったかな、お客さんは満足してくれただろうか。

ステージの先端まで行ってみた。
こうしてみると、ステージってずいぶん高いものなんだなと思った。

50 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:56
と、足元に薄ピンク色の小さな塊のようなものが落ちているのに気づいた。
すこうし灰色がかって、汚れても見える。なんだろう、と拾い上げてみると、
軟らかくてぷよぷよしていた。どことなく優しい手触りだ。

客席の床に目をやると、同じものがそこかしこに落ちていた。
踏まれたのか潰れてしまっているものもある。
前の方にはたくさんあって、後ろの方が少ないように見えた。

51 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:56
「どうしたんですか、吉澤さん?」

いつの間にか隣にシゲさんが来ていた。

「いや、ちょっと感傷にふけろうと思ったんだけどさ……」

52 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:56
手にしたものを見せる。一瞬きょとんとしたシゲさんは、あ、と声をあげた。

「知ってるの?」
「見たことあります。コンサートのとき、お客さんからぽーんって飛んで来たことがあって」
「どうなった?」
「さゆみの足元に落ちて、踏んじゃったんですけど、別に」
「何もなかったんだ」

はい、と頷くとシゲさんは、わたしの手にしているそれを人差し指でつついた。

53 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:57
「よっちゃん、何してんのー?!」

ミキティの声がした。ちょっと怒ってる。

「もう、打ち上げ行くよ!! ってシゲさんもいたあ」

小走りにわたしたちのところへやって来た。
主役が何してんのさあ、といいながら、わたしの手もとを覗き込んだ。

54 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:57
「あ、そんなもん拾わない方がいいよ」

ミキティは眉をひそめた。

「え。ミキティ知ってんの?」
「うん。捨てなよ。それほど汚いってこともないけど、ちょっと気持ち悪いよ」
「なんなのよ?」

ミキティはしかめっつらで答えた。

55 :朝妙楼崇安:2007/05/05(土) 20:58



「ヲタさんが捨てた羞恥心だよ」

56 :朝妙楼崇安:2007/05/07(月) 21:34
気軽に書き散らした2作目のエントリーで、
優秀作品に選んでもらっちゃいました。感激です。

詩吟さん、ありがとうございます。

57 :朝妙楼崇安:2007/05/11(金) 13:26
辻さんの件、吃驚しました。
ただただ、それだけでございます。

58 :名無し娘。:2007/05/11(金) 20:47
詩吟さんにべた褒めされてたね

59 :朝妙楼崇安:2007/05/12(土) 07:23
べた褒めということもないと思いますが。

詩吟さんは、「褒めて伸ばす」タイプの方のようで、くさした評価は一つもされなかったのですから。
どの作品にも長所を認めて、そこを寸評で取り上げていらっしゃいました。
優秀賞をいただいた作http://kari2.kuron.jp/test/read.cgi/bbs/1176945715/47-55についても、
ストレートに「これ」の正体をオチに持ってきたアプローチを褒めて頂いたのだと受け止めています。

それにしても、高評価を得られたのは望外の喜びでありました。

60 :朝妙楼崇安:2007/05/17(木) 23:41
すいません放置中でございます。一応構想はあるのですが、形にする暇がなく。

61 :朝妙楼崇安:2007/05/22(火) 07:38
さしみ賞出品作品を全部読み直してみたのですが、
やはりみなさん凄いですねえ。いやはや、感服仕りました。
もちろん、出おち的なものもあるし、設定だけのようなものもありましたが、
出おちは出おちで決まっているし、設定も見事なものでした。

精進せねば。

62 :名無し娘。:2007/05/22(火) 19:38
頑張ってくれ

63 :朝妙楼崇安:2007/06/04(月) 13:40
ご無沙汰しております。

ようやく何か書き始めました。
私の場合、書き出しはともかくオチに持っていけるかどうかが問題なので、
このままアップできる形になるかどうかまだ分かりませんが、どうにかしたいと思います。

64 :朝妙楼崇安:2007/07/01(日) 09:23
月が変わってしまった。。。

65 :名無し娘。:2007/07/01(日) 13:04
もうダメなのか

66 :朝妙楼崇安:2007/07/17(火) 02:10
さて。
やっとなんとかなったかもしれません。

67 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:12

ガキさんは憂鬱だった。


原因は、モーニング娘。10年記念隊である。

68 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:13

もちろん、10年記念隊の一員になれたことは嬉しい。
オリメンの安倍さんや飯田さんと一緒に選ばれたことが、夢みたいに感じられるほどだ。
ガキさんのモーヲタ人生の中で、もっとも輝かしく誇らしい出来事であることは間違いない。

まずは安倍さんや後藤さんありきで、そして今や現役娘。随一の知名度を誇る小春を入れようということから、
1・3・5・7期の奇数組から選抜されたとも言われたが、仮にそれが本当だったとしても、そんなことは問題ではなかった。
メンバーに選ばれただけで光栄だった。


さすがにモーヲタのガキさんである。

69 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:14

だから初めは、記念隊のスケジュールが入ると嬉しかった。安倍さんと一緒の仕事というだけで楽しくてたまらなかった。
だが、いつのころからか記念隊の現場に行くのが憂鬱になってきたのだ。

70 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:14

原因は、誰あろう久住小春である。

71 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:15

ガキさんはこれでも、冷静で公平な目を持っていると自負している。
現在、自分よりも小春の方が知名度が高く、「小さなお友達」に人気があることはよく分かっていた。
CDだって売れている。事務所が小春の方を推しているとしても、責める気など毛頭ない。
自分よりも小春が優遇され扱いが良かったとしても、そのことに腹を立てたり凹んだりするガキさんではないのだ。

では、何故なのか。

72 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:16

小春は物怖じしない。それに、まったく遠慮というものがない。

飯田さんにだって安倍さんにだって、ガンガン甘えに行く。また、飯田さんも安倍さんもそんな小春が可愛くて仕方ないらしい。
あの後藤さんの膝にだって、容赦なく乗っかって甘えていた。
後藤さんも、あれで案外子どもっぽいところがあるから、喜んで小春と一緒になって遊んでいた。


ガキさんは、そういう光景を眼前で見せられるのが、何となく不愉快で憂鬱だったのだ。

73 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:17

「別にヤキモチを焼いてるわけじゃないんだ」

ガキさんは口に出して言ってみた。うん、ヤキモチじゃない。そんなんじゃないんだよ。

「小春ちゃんは……小春ちゃんは、安倍さんたちがどんなに凄い人か分かってない!」

74 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:18

ガキさんは思うのである。

栄光ある娘。の歴史の一頁に名を刻む者の一人として、
オリメンである安倍さんや飯田さん、中興のエースとでもいうべき後藤さんに対する深い深い崇敬の念が不可欠ではなかろうか。
小春にはそれが分かっていない。若手のエースとまで言われながら、娘。メンとしての自覚がない。

75 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:19

それはガキさんだって、撮影やステージの合間に記念隊のメンバーとじゃれあうようなことがないでもなかった。
しかし、遊んでもらう時といえども、尊敬の心を忘れたことは一瞬たりともないのだ。しかるに小春の態度は何事であるか。
先輩たちが優しいのをいいことに、甘え放題ではないか。小春はまったく分かってない!

なかんずく、安倍さんに対する小春の態度が馴れ馴れしすぎるのが、ガキさんの神経を逆なでしていた。
冗談とは分かってはいても「小春もそろそろ『なっち』って呼んでもいいですよね〜」だと!!

76 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:19

なんのことはない、なちヲタ・ガキさんの嫉妬に相違なかった。

77 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:20

☆  ☆  ☆

78 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:23
日を追うごとに、ガキさんの憂鬱は深くなっていったのである。

そんな或る朝……。

79 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:24

「おはよ。どうしたのガキさん? このごろ元気ないねー」

控え室に入ると、安倍さんがいつものように軽く訛りながら、真っ先に声をかけてくれた。

「お、おひゃようごずります(!)」

慌てたので変な噛み方をしてしまった。

80 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:24

「なんか嫌なことでもあったのかい? まあモーニングもいろいろあって大変だろうけどさ、元気出していこうよ」
「え、あ、大丈夫です大丈夫です。ハイ。新垣はいつも元気ですよぉ」
「ならいいけどさ。今日もハードだけど、頑張ろうね」
「ハイッ!」

今日は幸先がいい。これなら気持ちよく仕事が出来そうだ、とガキさんは思った。
お昼は、ぜひ安倍さんと一緒に食べようと固く心に誓う。

81 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:27

よいスタートを切ると、物事はうまく運ぶものだ。

仕事はトントンと順調に進み、ガキさんもピンのシーンを撮ってもらったりしながら気分がよかった。
スタッフさんにも「今日はいい表情してるね」と言われたくらいだ。ふふん♪

撮り終えて、るんるんとみんなのところに戻ると小春の甘え声が聞こえてきた。

「安倍さ〜ん。じゃあ今日は、小春とご飯食べましょうよ」
「あははは。いいよー、天気いいから外でお弁当食べよっか」

82 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:28

(……これだよ)

とガキさんは内心毒づいた。
つい先刻まで飯田さんに甘えかかっていたと思ったら、ちょっと目を放した隙に安倍さん狙いをつけやがって。
折角の「いい表情」が曇っていくのが、自分でも分かる。

ガキさんは、さっきまでの弾んだ気持ちがあっという間にしぼんでいくのを感じていた。はぁぁ……。

83 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:28

間違いなく、ガキさんのヤキモチである。

84 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:29

☆  ☆  ☆

85 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:29

「ニィニィなんか怒ってるの?」

ロビーのようなところの片隅で、後藤さんとお昼をしていたら優しく語り掛けられた。「ニィニィ」って懐かしい呼ばれ方だ。
ガキさんは動揺して、食べていたお弁当の肉団子をのどに詰めそうになってしまった。

86 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:30

安倍さんと小春は、外のベランダにカフェテラス風のしつらえがしてあるところで、お弁当を食べている。
安倍さんがガキさんも誘ってくれたのだが、もにょもにょ生返事をしていたら、

「今日さ、ガキさんとちょっと話ししたいんだ。いいでしょ」

と後藤さんにここに引っ張って来られたのだ。飯田さんの姿は見当たらない。どこかで交信中なのだろうか。

87 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:31

「怒ってんじゃなくて凹んでるのかな。よかったら、ごとーに話してごらんよ」

後藤さんの眼差しは優しかった。
ガキさんは、アタマの中に色んなものがぱぁっと噴き出してきたのを感じたけれど、口から出てきたのは、まったく別のことだった。

「後藤さんっていつもセクシーでカッコいいですよねスタイルいいし何食べたらそんなふうになれるのかなあなんて思ってて。それなのに、話すとなんか可愛らしくて」
「はぁ……?」

88 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:32

ガキさんが急き込んだように喋ると、後藤さんは何ともいえない表情をしたあと、首を傾げてまた優しく笑った。

「んふふふ。あー、じゃあねぇ、ごとーが勝手に喋るよ。聞いても聞かなくてもいいからね。そこに座っててくれれば」
「え」

後藤さんは、ガキさんの頭の上30cmほどの空間を見据えながら話し始めた。
ガキさんは食べる手を止め、かしこまって聞いている。

89 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:33

「ごとーはねぇ、モーニングに入ったとき一人だったでしょ? いちーちゃんは良くしてくれたけど、けっこう心細かったんだよねえ、最初。同期いないしさ年下だしさ。大

変だったんだよぉ、これでも」

おだやかにここまで話すと、後藤さんはガキさんの顔を見て人懐こそうな笑みを浮かべた。

「ニィニィはモーニングの大ファンだから、こんなこと全部知ってるだろうけどねぇ」
「はぁ」

90 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:34

でね、と後藤さんは言葉を継いだ。

「なんだったかなー、何かの撮りのあとだったかなぁ。車ん中でなっちと隣り合わせに座ったんだよね」

安倍さんの名前が出てきたので、ガキさんは緊張する。その様子が可笑しかったらしく、後藤さんはクスリとした。

91 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:36

「なっちはねぇ、優しかったよ。ごとーがね、『何となく寂しい』って言ったら、『じゃあ一緒に遊びに行こう。なっちに甘えていいからね』って言ってくれた。何度かご飯食べに行ったなあ。家にも遊びに来てくれたことがあるよ。よく『ごっつぁんはオトナっぽく見えるから損してるねえ。なっちは究極の童顔で得してるかも』なんて言って笑ってたなー」

後藤さんは懐かしそうに言った。柔らかな表情だ。
静かにフッと笑い、食べないと時間なくなるよ、とガキさんを促して、自分も箸を動かした。

92 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:39

「そのあともなっちはいろいろ気遣ってくれたよ。ライバルとか言われてたし実際そういう感じもあったけど、仲は良かった。『口もきかない』なんて書かれたこともあるけどさー、全然ウソ。
そりゃあいちーちゃんやよっすぃーとの方が年も近いしよくじゃれてたし、辻加護もいたからね、なっちと話す時間は長くはなかったけど、あれで結構深い話もしたんだよお。なっちが『ごっつぁんがいるからもっと頑張ろうと思えた』って言ってくれたのは嬉しかったな」

そして、今もそれは変わらないんだよ、と後藤さんは外の安倍さんの方にチラリと目をやった。

93 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:41

「……なっちはさ、自分からはあんまり手を差し伸べないかもしれないけどさ、求めれば与えてくれるよ。
ごとーもね、最初のころはちょっと冷たい人なんじゃないかと思ったこともあるんだけど、なっちにはなっちなりの主義っつーの? 考え方があるんじゃないかな。
なんてのかなー、相手を同格の仲間だと認めてるから余計なお節介はしない、みたいな。手助けが必要だったらしっかり応えるって感じでさ」

オフに一緒に遊びに行くとかはあんまりしない人だけどねーと言いながら
後藤さんは、箸でつまんだ肉団子を見て顔をしかめた。
においを嗅ぐと気に入らないらしく、更に眉を顰めた。脇へどけてしまった。

94 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:42

「くっすみんのことは、どうもまだ子どもだと思ってるようだよね。あのころのごとーと歳は変わんないんだけどねえ」
「よく分かんないけど、小春の方が幼い気はします」
「そーかな? ま、多分なっちはそう思ってんだろうね」

肉団子を残して食べ終わった後藤さんは、ペットボトルのミネラルウオーターを豪快に飲み干して、付け加えた。

「ニィニィはなっちが大好きなんだよね。大丈夫、その価値はあるよ。間違ってない」

95 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:42

☆  ☆  ☆

96 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:43

午後の仕事は、いろいろごちゃまぜだった。
雑誌のインタビューを受けたりスチールを撮ったり。場所を変えてCM用の短いカットも撮影した。

ガキさんは、なんだか自分が違う場所にいるような気分になっていた。
上の空というほどではなかったが、いまひとつ集中できなかったのだ。
けれど、我ながら神経が散漫だった割には簡単にOKが出て、マネジャーさんには褒められた。

不快で憂鬱な感覚とは違っていたからかもしれない。

97 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:44

パーティションの向こうから、小春のやや甲高い声が聞こえてくる。
昼間、あれほど苛々させられた声が、まったく気にならなくなっていることにガキさんは気づいた。

結局、この日の仕事は案外に早く終わった。

98 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:44

☆  ☆  ☆

99 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:45

控え室に戻る。

ガキさんは、ゆったりした動作で着替えながら、後藤さんの言葉を反芻していた。
そう、わたしは安倍さんが大好き……間違ってない……とても好き。

おつかれさま〜と言って、飯田さんが一番先に出て行った。
戸口から出しなにガキさんの顔を見て、にっこり微笑んだのは何だったのだろう? 
コツコツというヒールの軽快な音だけが後に残った。

ガキさんは脈絡もなく、移動のときに目にした夕空が綺麗だったな、と思う。

100 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:46

安倍さんは、部屋の反対側でまた小春と話している。眩しいような笑顔。
身繕いを終えたガキさんは吸い寄せられるように、そちらに近づいて行った。

101 :ガキさんの憂鬱:2007/07/17(火) 02:47

「安倍さん」
「ん?」
「明日は早いですか?」

いやぁそうでもないけど、と安倍さんはガキさんに笑いかけた。あの特徴的な「なっちスマイル」だ。
躊躇いなく何かを跳び越すようにガキさんは言った。

「予定なかったら晩御飯食べに行きませんか」

37KB
続きを読む

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail(省略可)

0ch BBS 2006-02-27