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スケバン刑事 コードネーム=松浦亜弥

1 :名無し娘。:2006/10/07(土) 07:38


          ノノハ))    4代目スケバン刑事松浦亜弥
        从‘ 。‘)^)@  おまんら許さんぜよ!!
        リ`ヽ_ソ
        j___f
        /l l l l|
        l_|_|_|_i
        |ーl-|
        l__l___)

61 :◆JOJO8O9U :2006/10/25(水) 20:15

【LOVE DD色  終わり】





→To be continued

62 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 20:37

【第四話  100回のDD】

63 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 20:46

BABY! 恋にKNOCK OUT!のイントロのような
けたたましいサイレンの音が響いて消防車が学校に押し寄せる。
琴美をこのまま一人にするのはちょっと気が引けたが、
現場(コンサート会場のことではない)に行かないわけにはいかないだろう。
とりあえずあたしは琴美と携帯番号とメールアドレスを交換する。
トレカ以外のものを交換するのなんていつ以来だろう。


「ごめん。そんじゃあたし行くから」

「麻宮さん、ありがとう」

「サキでいいよ」

「サキちゃん、ホンマ嬉しかったわ。ありがとう」

「バーカ、礼なんて言うなよ。友達だろ」

「友達・・・・ホントに?」

「ほんとだって。ほんとだって。マジだって。真面目な顔して話してるでしょ?」

「ありがとう」

「こっちこそ、わがままな娘でゴメンね」

「え?」

「次はちゃんと守るから」

「ええよ・・・そんなん」

「絶対守るから」

64 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 20:57

特命刑事なんて言ったって正規のオーディションを通過してない
かつての2期メンバー並にうさんくさい存在なわけで、
まさかそこにいる警察官たちに捜査状況を聞くわけにもいかない。
どうしよっかなと思っているあたしの目に
「顔はヤバイよ。ボディにしな、ボディに!」とか言い出しそうな
アフロヘアーをなびかせたミラーボール星人が映る。

あたしは立ち入り禁止と書かれたロープが張ってある一歩手前から
黒く焦げたヨーヨーをミラーボール星人の後頭部に向かって放り投げる。
あたしは「おっと毛虫」ばりの昭和のリアクションを予想したが、
ミラーボーラーはこれまで見せたことのなかったような俊敏さで振り返り、
あたしの投げたヨーヨーを荒々しくキャッチッチする。
ギラリと暗い色の光がやつの目の中で光る。

ほんの一瞬、晒した本性。ヤツも刑事なんだ。
まるで加護亜依の関西弁トークを聞いたときのような不思議な感覚。
まあいいや。
なんかそれぞれに知らない部分とかあってもいいと思う。
あたしは親指を横に立ててヤツにこっちへ来いとサインを送る。

65 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 20:58

「サキか。車で話そう」

「車?どこ行くんだ?」

「暗闇警視のところまで」

「誰それ?」

「お前も会ったことがあるだろう。俺と一緒にいた・・・・・・」

「あのジジイか。あいつ暗闇警視っていうの?」

「ああ。あの人が暗闇警視で、俺が暗闇警部ってわけだ」

「だっせー名前。なんなら『スーパーウルトラキュートでセクシーダイナマイトかつ
トークもキレキレ新バラエティの女王にしてプレイボーイの連載も絶好調
矢口真里ことシンデレラガールネバーエンディング売れっ子うひうひうはうは
超絶ソロシンガー兼ハロコン司会担当145cmちゃんよろピーンク』って呼んであげようか?」

「行こう」

「なんで照れてるの?」

66 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 20:59

★ ★ ★ ★ ★



一人の刑事らしき男とサキは足早に車へと駆け込んでいく。
古ぼけたミニクーパーはいかにも面倒臭そうな感じでエンジンがかかり、
よろよろと校門から走り出て環状通方面へと消えていく。
大きなサングラスをかけた男はそれを確認すると
ゆっくりとタバコの火を消して焼失した体育倉庫の方へ目をやる。


予想以上だ。

今回の爆弾の破壊力がこれほどとは。

この調子でいけば計画は予定よりも早く進むかもしれない。
           . . . .
どうやら最後の決起集会の日も近いな。

あの新米刑事が俺の邪魔をするとも思わないが―――

集会が行われる前に排除しておくべきだろうか。



★ ★ ★ ★ ★

67 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 21:00

暗闇警部とかいうダッサダサな名前を名乗ったm刑事は
車で話そうとか言っておきながら無言で車を厚別方面へと走らせる。
爆弾魔のこと。麗華のこと。公安のこと。
8期オーデの進捗状況。赤西君がカトゥーンを脱退した真相。
それから・・・・それから・・・・・
聞きたいことは山ほどある。


「なあ。なんとか言えよ」

「運転中」

「携帯かけるわけじゃないんだからさ。別にいいだろ」

「運転中だっての」

「お前・・・・・まだなんか隠してるのか?」

「別に隠してるわけじゃないよ。誰かみたいに面白く話せないだけ」

「誰かって誰だよ」

「お前の聞きたいことは、暗闇警視が応えてくれるだろう」

「面白おかしく?」

68 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 21:01

「そっちこそどうなんだ。捜査は進んでいるのか」

「琴美っていう子に色々と聞いた。秋山麗華のこととか」

「何かわかったか?」

「いや。大したことは―――わっきゃない(Z)」

「わかったのかわからなかったのかどっちだよ」

「あんた言ってたけどさ、やっぱりあたしが刑事ってことを知っているのは麗華だけみたい」

「よっしゃ。よっしゃ。よっしゃ。秋山麗華が怪しいな・・・・・こっちでも調べてみよう」

「琴美は麗華に酷くいじめられてる。もっと何か知っているような気がする」

「お前は琴美と仲良くなったのか?」

「一応。麗華から守ってやるってことになった」

「よし、それでいい。その子は利用できるな。嘘でも仲良くしておくんだ」

「嘘でも仲良くって・・・・・係じゃねえんだから」

「着いたぞ」

69 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 21:02

警部は車を乱暴に地下の車庫に入れる。
がくんがくんと揺れる車内。
あたしは思わずジェットコースターに乗ったさゆのようにヘッドバンキングをかます。
手で鼻をつまみ「あわわわわ」とか白目で言いながら
あたしは事件のことや琴美のことを色々と考えるが、思いは上手くまとまらない。

利用か。確かにあたしはこの事件を解決して
モーニング娘。に入るためなら何でも利用するつもりだった。
だけど・・・・だけど・・・・

って言うか別に別に別に・・・
「守ってやる」って言った、
あの時の気持ちはウソとかそんなんじゃないし―――

70 :◆JOJO8O9U :2006/10/29(日) 21:02

【100回のDD  終わり】





→To be continued

71 :名無し娘。:2006/10/29(日) 21:30
係ワラタ。なつかしいねー
あちこちでニヤリとしてます

72 :◆JOJO8O9U :2006/11/01(水) 21:26

【第五話  桃色DD想い】

73 :◆JOJO8O9U :2006/11/01(水) 21:27

先を行く暗闇警部に続いてあたしは不自然なまでに暗い部屋の中に入る。
暗い。話しづらいよ。せめてサユリウム(原文ママ)でも光らせてくれないか。
そんな部屋の奥には自称・「暗闇警視」らしき爺がどっしりと椅子に座っている。
世が世なら一国の総裁って感じの貫禄。
うさちゃんピースとかは世界で一番似合わない人種だね。

暗闇警視が座っているのは笑わん姫みたいな無駄にゴージャスな椅子。
お付きの秘書とかはやっぱりキノコの帽子をかぶっているのかな?
そんな警視はあたしを見るなり無言で机の上にドザっと、
いやいや失礼。どさっとウエストポーチを投げる。


「これはあのオーディションのときの・・・・・」

「そう。あの時使われたのと同じ爆弾だ」

「!」

「信管は抜いてある」

「どこで手に入れたんだ?」

「被害者の・・・阿久津とかいう男の部屋から見つかったものだ」

74 :◆JOJO8O9U :2006/11/01(水) 21:28

ああ、世が世なら今頃あたしは3次オーディションに進出して―――
とかボーっとオーディションの記憶をたどっているあたしの耳に、
ポーチから嫌な音が聞こえてくる。

チチチチチチチ

中澤裕子の舌打ちのような嫌らしい音を立てて
進んでいるデジタル時計を見てあたしは思わず眉をひそめる。
だが警視はまるでお気に入りの矢口を舐め回す時の
中澤裕子のように嬉々として爆弾をいじっている。嬉しそうだな。不謹慎だぞ。
もっと警察らしくピリリと行こうぜ。ワビサビつけてさ。
それはともかく体育倉庫を吹き飛ばしたのもこれと同じものなのだろうか。


「学校の倉庫を吹き飛ばしたのも・・・・」

「おそらくこれと同タイプだろう。だが」

「だが?」

「破壊力が違いすぎる。これでは体育倉庫は吹き飛ばせんよ」


確かにオーディションの時は会場が吹き飛ぶなんてことはなかった。
爆弾持ってた男は死んだらしいけどね。
そこにいたあたしも冷や汗ジリリキテルって感じだったけど怪我はしなかった。
破壊力の大きさが今の熊井ちゃんと昔の熊井ちゃんほど違う。

75 :◆JOJO8O9U :2006/11/01(水) 21:29

「今回の爆破の規模は過去のものよりもかなり大きい」

「爆弾が改良されてるってことか」

「その通り。まあ今回のは情報不足だったから仕方ないが」

「なあ、仕方ないで片さんでよ・・・・・」

「だが規模は違っても同じタイプだとわかった。次は対応のしようがある」

「こんなもん止めらんないだろ・・・・・新種のチョコレートじゃあるまいし」

「止め方を教えよう」

「え?」

「そこの切れ目から出ている線があるだろう。一本切ってみろ」

「どの線を?三本くらい線が出てるけど」

「試しにやってみろ。正しい線を切れば時計が止まる。」

76 :◆JOJO8O9U :2006/11/01(水) 21:29

いくら信管が抜いてあるっていったって爆弾には変わりない。
何の知識もないあたしにやってみろっておい!
何の経験もない小春に声優をやらすようなもんじゃないか。
どれだけ無難にこなしても―――古参のアニヲタからは叩かれるという理不尽。
あたしが成功したらやっぱりこいつらは「感情がこもっていない」とか言うのだろうか?
まあいいや。とにかく小春スピリッツで前向きにやってみよう。

爆弾処理いらしい処理なんて初めてしちゃいまーす?
赤白ピンク。三色の線。
選べないとても選べないだって緊張しちゃいます。
わかってるそうねわかってるここが決める時ね。
「気合」入れて線を切りましょう。
勇気出して「こっちだ!」


チチチチチチチ


即、「さよなら〜」
解除になんてなってない・・・・・・・・

77 :◆JOJO8O9U :2006/11/01(水) 21:30

【桃色DD想い  終わり】





→To be continued

78 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:57

【第六話  Yeah!めっちゃDD】

79 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:57


「残念。正解はピンクの線だ」

「わかるかよ!」

「わかるようにならないとダメだ」

「売るセーバか」


女だけが持ってるものすごい直感が働くときもあるけれど―――
それは爆弾解除の時なんかじゃないみたい。
色々と考えても裏目裏目に結果が出たり・・・・・

まあいい。失敗から学びましょう。
次に同じタイプの爆弾を見たときは対応できる。
だってこのピンクの線を切るだけで止まるんだから簡単じゃん。

80 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:57


「とりあえず麻宮君はそのまま学校で捜査を続けてください」

「ああ。話は変わるけど・・・・・お前らに用意してほしいものがある」

「新潟産の美味しいお米?」

「なんでだよ!ちげ〜よ!」

「何がほしいんだ」

「武器が欲しい。このヨーヨーじゃダメだ」


相手はかなり強力な爆弾を持っていることがわかった。
いや、爆弾だけとは限らない。
他の銃火器を持っている可能性だって「感涙!時空タイムス」の視聴率よりは高いだろう。
あたしも銃くらい欲しい。

難しいかもしれないけど―――
出来そうもないくらいなこと、おねだりしてもいいよね?

81 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:58


「フッ。まだそのヨーヨーは使いこなせていないらしいな」

「あのなあ。ヨーヨーなんかで戦えるわけないだろ」

「ヨーヨーは特命刑事だけが使える特別な武器だぞ」

「無理無理無理。新垣家式でまともなもんじゃを作るようなもんだ」

「お前が不器用なだけだろ」

「ああ不器用さ。どうやってもなかなか上手になれそうになーい」

「よし・・・じゃあとっておきの必殺技を教えよう」

「ひ、必殺技?・・・・・なんかまゆげビーム並に胡散臭いな・・・・・」

「ヨーヨーを貸してみろ」

「う・・・うん」

82 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:58

暗闇警視はあたしからヨーヨーを受け取ると
椅子から立ち上がりずいずずいと部屋の中央へと進む。
警視はまるで一人、舞台の上でスポットライトを浴びているような感じになる。
なんだか今にも卒コン最後の挨拶をする卒メンみたい。


「よく見ておくんだ。一度きりしかしない」

「お腹いっぱい学ぶよ」


警視はそういうとヨーヨーの横をぐっと押す。
ジャキーンと鈍い音がして二枚の刃がヨーヨーから飛び出す。
おいおい!こんな機能があったのかよ!
小川が語学に興味があったっていうくらいの後付け設定じゃねーか!

83 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:58


「二枚刃ってわけだ・・・・100万パワー+100万パワーで200万パワー!」


いきなり熱く語り出す警視。
100万パワー?なにそれ。
すげえすげえすげえすげえ唐突!


「いつもの二倍のジャンプが加わって200万X2の400万パワー!」


とか言いながら真剣な顔で「 テ イ ク オ フ 」する警視。
お前、空飛ぶのかよ!そらマックの店員も必死で笑いをこらえるわ。
すげえすげえすげえすげえ跳躍!


「そしていつもの3倍の回転を加えれば400万×3の・・・・・・・・・」


3倍という言葉にいまだに微妙に反応するあたしはDD。
ごうんごうんごうんと音を立てて回りだすヨーヨー。
すげえすげえすげえすげえ回転!


「1200万パワーだあああああああああああ!!!!!!!!!!!」

84 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:58

葛・根・湯と乾いた音を立ててヨーヨーは部屋の隅に転がる。
確かに・・・見た目はすごいけど・・・・なにこれ?
1200マンパワーとかいっても全然ものごっつくないじゃん!
意味不明!ミステリアス!僕らの先とおんなじように
この必殺技にもまだ未知なる部分があるのかな?


「おい・・・・これのどこが必殺技なんだ?」

「わたしはDDではないからな」

「あぁ?」

「真のDDがこの技を使う時、ヨーヨーは光の矢となって使い手の意のままに飛んでいく」

「マジかよ」

「と聞いている」

「見たことないのかよ!」

「まあな。わたしもそこにいる警部も・・・・・実際に見たことはない」


そんなんで戦えるのかよ・・・・・という言葉をあたしは飲み込む。
真のDD?そうさあたしはDDさ。
DDにしかできないっていうならやってやろうじゃねーか。
確かに光の矢なんて胡散臭過ぎる。
ほんとは不安よ。私にできるかな?
でもなさねば、なんとかかんとかね!

85 :◆JOJO8O9U :2006/11/05(日) 19:59

【Yeah!めっちゃDD  終わり】





→To be continued

86 :名無し娘。:2006/11/05(日) 21:19
小ネタの挟み方がいいねw

87 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:39

【第七話  DD 美学】

88 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:39

解決出来ないで凹んじゃってみっともない。
ってわけにもいかないのであたしは翌日もまた何事もなかったかのように登校する。
それが学生の必然。特命刑事の美学。
あたしはコートの絵里を、じゃなかった襟を立てて早足で歩く。
雪が降り始めるちょっと前。10月末のこの街は風が一番冷たい季節。

北18条近辺の創生川通りはいつものように南行きのみ渋滞している。
北行きはガラガラで誰も通っていない。まるで何かを暗示するかのように。
ふう。あたしのハロプロ加入への道のりも険しい。
売れっ子への道、渋滞中ってか。

とりとめのないことを考えているうちに学校に着く。

89 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:39

あたしは自分の教室よりもまず先に琴美のクラスの教室に入る。
琴美の机にはごっちんブログのイラストのような
気持ち悪い落書きが山のように書かれていた。
琴美はそこにいなかった。カバンもない。
琴美を見つけられるかどうか心配してたら―――メールが届きました(着いちゃった)。
思わず振り返るが後ろには誰もいない。改めてメールの文面を確認する。

あたしは教室を出て乱暴に後ろ手でドアを閉める。
ダンダンダンと階段を駆け上がる。ダンはダンでも仔犬のダンのことじゃないよ?
きつい段差ににじむ汗。あたしはちょっとした発汗3号気分を味わう。
この階段を上りきったらどんな商品を紹介したらいいんだろうか。

大きく一つ深呼吸して心の扉、じゃなかった屋上への扉を思い切り開く。
屋上であたしを待っていたのはもちろん、
カルフォルニア生まれの埼玉育ち、Mr.スウェットじゃなくて琴美。
人は流した汗の数だけ強くなれる―――んだったらいいんだけどね。

90 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:40


「サキちゃん」

「教室戻ろ」

「そんなん・・・無理やわ」

「蛇螺蛇螺やってないですぐ行こうぜ」

「あそこにはあたしの居場所ないねん」

「居場所なんてものは自分で作るんだよ」

「そんなん・・・・無理や」

「全部心の持ちよう。『いいことある』って思い込めばなりそうじゃん!」

「・・・・・・・・・・・・」


言う事はいっちょ前のもう一人の私。
綺麗事なんてことはわかってる。でも。
「上手く利用するんだぞ」という警部の言葉が不意に浮かぶ。
この子の心を利用する―――
覚悟は半人前のもう一人の私。

91 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:40

あたしは事件を解決することを望んでいるのだろうか?
琴美が救われることを望んでいるのだろうか?
どっち?どっちが本当のあたし?

本当のあたし。
そんなものが一体どこにあるのかはわからないけど、
とにかく今はこの事件を解決することだけを考えよう。

92 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:40


「なあ!あんた麗華と何かもめたの?」

「いじめられるんはいつものことやから・・・・・・
あの人があたしにからんでくるようになったんは・・・・最近やけど」

「最近?いつから?」

「中尾君が死んでから・・・・・あの事件の後から化学部に来るようになって」

「中尾君って誰だよ」

「あたしと同じ化学部の子やってん。でもな、化学部をやめたすぐ後に死んでしもた」

「死んだってなんかあったのかよ?」

「爆発事件があったんよ。阿久津君もあんなことになってしもたし・・・・・」

「阿久津君!?」


阿久津という名前を聞いた瞬間、ピコーンと電球が灯るあたしの頭上30cm。
いや別にモーヲタの予想の斜め上を行くアイデアが閃いたわけじゃないんだけどね。
爆弾――阿久津――琴美――麗華。
ミニモニ。の連帯感(高橋を除く)のように一つにつながる事件の線。
ここでキーとなる言葉は「150cm以下(高橋を除く)」ではなく「化学部」だろう。
いやちょっと待て。

93 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:40


「阿久津君もそうやったって、もしかして親戚の人が爆発事件にあったとか?」

「親戚?いや、阿久津君本人がな・・・・・死んでしもてん。
なんやモーニング娘。のオーディション会場とかに乗り込んでな。
そこで爆弾を爆発させてしもたらしいわ」

「げ!あいつ高校生だったのかよ!」

「え?阿久津君のこと知ってるん?」

「いやまあ知ってるというか・・・あたし、その会場にいたんだよ・・・・・」

「え!ホンマに!?」

「ところで阿久津君っていうのも化学部の子だったの?」

「うん。でも二人とも途中で退部してしもたんやけどね」


驚いた。あの爆弾男が高校生だったとは。
あのみうなばりに光り輝く頭頂部はどう見ても40代だと思ったのだが。
つくづくモーヲタの見た目年齢というのはわからないもんだ。
あたしをじーっと見つめる琴美の黒目勝ちな美しい瞳。
うわ。
ベリーズの握手会に来るおっさん並みに不審に思われてるのかな。
あたしのこと―――どこまで話せばいいもんだか。

94 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:41


「サキちゃん、爆発事件に興味あるん?」

「いやまあ、あたしあの時偶然会場にいて・・・・・それで」

「偶然?オーディションを受けに行ったんやないの?」

「まさか!今さらモーニング娘。なんて、そんなねー、あはははは」

「サキちゃん可愛いから受けてたら受かってたかもね」

「ははははっ。モーニング娘。になんて入りたくないよー、だっせー」


あたしは心の中で、なぜかまず最初に藤本さんに謝りながら、
ほぼ完全にお世辞であると思われる琴美の言葉を聞き流す。

アウェイ番組の矢口のような乾いた笑いが閑散とした屋上に響く。
虚しい。声は笑っていても顔は笑ってはいない。笑えない。
あたしには麗華のような美しい笑顔はできない。
捜査をしていくためにも―――今は琴美に心を許すわけにはいかない。

そうだ。モーヲタであることを隠すんじゃなくて、
捜査をしてる刑事だってことを隠すんだからねって自分に言い聞かせる。
本当のところどっちなのかはあたし自身にもよくわからない。
本当のあたしってどっちさ?

95 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:41

キンコンカーンという音が聞こえて授業が始まる。そろそろ戻らないと。
はあ。やっぱり琴美と本当の友達になるのは無理だな。
モーニング娘。に入りたいという夢を晒せないあたし。小さくたぁって夢は夢よ。
心を晒せないあたしに琴美の孤独を癒すことなんてできないよね。
琴美にも―――あたしのように他人には晒せない夢があるのかな。
AKB48に入りたいとか。まあそれはそれで困るけど。

あたしは右手で琴美の左手をつかんで教室まで連れて行く。
まるで教育係の道重に従う小春のように従順な琴美。
あたしに利用されている可哀想な琴美。
いや、従順なように見えて操られているのはあたしの方☆カナ?
どっちが罠にかかったの?私なの?あなたなの?

そのつぶらな瞳を見ているとついつい本当のあたしを晒しそうになる。
「念には念を入れ自己紹介私はモーヲタのDD」とか。まあいいや。
あたしはもう一度この子の手をぎゅっと握り締める。
この子のおかげであたしの夢は実現に向けて少し近づいた。

捜査するDDとその女の魔力―――
孤独な時は二人離れずに―――夢を見るんだよ。

96 :◆JOJO8O9U :2006/11/06(月) 20:41

【DD 美学  終わり】





→To be continued

97 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:08

【第八話  草原のDD】

98 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:08

あたしは二階にある渡り廊下を渡って旧校舎へと向かう。
2002年の加護のように陰鬱としたこの学校の中で、
2006年の加護のように表世界から隔絶されている旧校舎。
そこの三階に化学部が部室として使っている化学実験室があるらしい。

ガラガラと娘。コンの客席状況のような音を立てて
一人の用務員が台車を押しながら渡り廊下の向こうからやってくる。
あたしは右側によけてその男をやり過ごす。
男は不審なくらい大きなサングラスをかけている。
なんだあれ?
プライベート時のれいなだってあんな大きなサングラスはしてないぞ。

すれ違いざまに用務員があたしを見ながらニヤニヤしていたのは―――
きっとあたしのスカートが人並み以上に短かったからではないだろう。
「SOME BOYS! TOUCH」みたいな衣装を着てたなら話は別だけど。
なんなんだあのグラサン野郎は?
気にはなるがそれ以上関わることなくあたしは化学実験室へと急ぐ。

99 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:08

★ ★ ★ ★ ★


サキは怪訝そうな表情でサングラスの用務員を見ていたが
何かを振り切るように旧校舎の方へと走り出す。
旧校舎は小気味良く動くサキの肢体をするりと飲み込み―――
その後を追うサキの影すらも、辻の胃袋のように貪欲に飲み込む。
男は振り向かない。男がその時にやるべきことは何もなかった。


化学実験室までたどり着いたか。
          . . . .
あの刑事が決起集会のことをつかむのは時間の問題だな。

だがそうなったとしても予定に変更はないだろう。

問題は麗華がどう動くかだが―――

麗華の行動だけは予想できない。

まあいいさ。俺がやるべきことは一つ。

こうなった以上、集会を止めることは―――もう誰にもできない。


★ ★ ★ ★ ★

100 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:08

人気のない(←モーニング娘。のことではない)教室は、
無用心にも鍵はかかっておらず、あたしはすんなりと
化学実験室へと足を踏み入れることができた。
助かる。あたしは小川と同じくらい錠前開けが不得意なんだ。

準備室の奥からはがたがたと物音が聞こえる。人がいる気配。
琴美の話では今の化学部には飯島と千葉という部員がいるという。
こちらの方に足音が近づいてくる。
そのまま出口へ向かうのか?――――いやそうとは限らない。
(わざわざ遠回りして私がいる)こっちから来たりしてwwwwwww


「おい」

「やったな」

「ああ。完成だ」

「よーし。派手にテストといくか」

「やっと僕達が主役になる時間がやってきたね。ブラザー」

「何言ってるんだ。今回は僕の一人舞台だぜ?」

「何やってんだ?おまえら」

「うわああああああああああああああああああああああ」

「誰えだよおまえええええええええええええ」

101 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:09

ほげかんせつ・・・じゃなかった顎関節症になるんじゃないの?
というほど口を広げて大声で叫ぶ二人の腰には
まだあたしの記憶に新しいデジタル時計つきのウエストポーチ。
ビンゴ!やはりここだったのか。
こいつらを捕まえればあたしはモーニング娘。に入って―――
今ならまだ年末の紅白に間に合うかな?


「ヤバイ!逃げるぞ!」

「よっしゃ!」

「走れええええええ!」

「うおおおおおおおおおおお」


予想以上のダッシュで二人は二手に別れて逃げ出す。
くそ。逃げる逃げる言うんじゃねーよ!
逃した魚は大きいぞ!とならないように追いかけなきゃ―――どっちを?
迷っている暇などない。またこの次なんてあるわけないじゃん。

あたしは校舎の外へ向かって駆け出したヤツは諦めて
校舎の奥へと向かったヤツを追いかける。
一人が捕まれば、もう一人も自由に動けなくなるだろう。
加護がいなくなった―――辻のように。

102 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:09

爆弾なんてゲジゲジンだのマルマインゲアーだの言ってるような
頭の悪いヤツには作れないと思うんだけど、
前を走るヤツは自らどこにも逃げ場のない屋上へと駆け上がる。
バカだこいつ。ハマグチェレベルだ。まあいいけど。

あたしもヤツにやや遅れて屋上に上がる。
もう逃げ場所はない。意外とあっけなかったね。
ハロモニ裁判のように何の盛り上がりもなく決着か。
こいつを逮捕したら、あたしはやっぱり「獲ったどー!」と叫ぶべきだろうか。


「来んじゃねねええええええええええええええ」

「それ、よこせよ」

「来んな!爆発させるぞ!やってやんぞこらあああああああ!」

「バカな真似はよせ!」

103 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:09

さゆと話しているときの柴田のように好戦的な態度だなこいつ。
いや、逆か。好戦的なのはさゆの方かもしれない。
でもまあ「ナチュラル担当」っていうのは
自分の感情を一切隠さずに傍若無人に振舞うって意味じゃないよね?

ヤツの腰のデジタル時計はどうやらチクタクと動いているようだ。
残り何分かはわからないが―――あまり時間はないだろう。
あのピンクの線を切ればいいんだよね。ピンクピンクっと。
あたしの頭の中ってこんなにピンク色だったっけ?
ところで「レインボーピンク」って虹なのに全部ピンク色って変じゃない?
真っ黒な白熊、みたいな。まあどうでもいいんだけど。

こうやって無言で向き合っている間にも時計は進んでいる。
爆発してしまったらハイ、お終い。だよね。
ハロモニのお花見クイズみたいに最後に大逆転チャンスとかはないだろう。
ここは出し惜しみしてる場合じゃない――――

104 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:09

あたしはヨーヨーの横をぐっと押す。
ジャキーンと鈍い音がして二枚の刃がヨーヨーから飛び出す。
うは。カッチョイイゼ!カッチョイイゼ!
あたしはヤツに向かっていつもの(いつもっていつだよ?)2倍の高さでジャンプし―――
いつもの(だからいつもっていつだよ?)3倍の回転を加えてヨーヨーを放つ。
狙うのはピンクの線ただ一つ。

その時ヨーヨーは光の矢―――――とはならず、
狙いの右15cm横にそれてウエストポーチの腰のベルトをかすめる。
ワオ!じれったいミスショット!!
と自分にツッコミキティする前にベルトが切れたウエストポーチは
ヤツの腰からすり抜け―――
屋上からみちよの人生のように転がり落ち―――
地面に落ちるかなり前に―――弾け飛んだ。


「うう、うあああああああわわわあああああ」

「おい」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい」

「ゴメンで済んだら著作権法とかいらねええんだよ!」


まるでFNS歌謡祭のHPASのように平謝りに謝る化学部員。
謝れば済むってもんじゃないが、こっちは本人が謝っているだけまだマシか。
あたしは軽くぽよよよーんとヤツの横腹を蹴る。
これで一件落着といけばいいんだけど―――なんとなく嫌な予感がしていた。

105 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:10

FUNFUNFUNとハロプロに異様に好意的だった番組名のような
サイレン音を響かせて警察がやってくる。For beautiful human life.
ハロプロが産業再生機構のお世話になるのはいつになることやら。
暗闇警部も当然のように学校に来ていた。
過去にこの学校で起こった事件などについて話を聞くあたし。

この学校でこういった爆発騒ぎが起こったのは、
あの体育倉庫の一件も入れてこれで四件目になるらしい。
今日のを入れなければ三件。今日のはノーカウントよ?んなわけねー!
まあ、どっちにしても多い。多すぎる。多杉田かな。
あのなっちが起こしたスキャンダルですらお塩と素敵だなの二件だけなのに。


「飯島の身柄は確保した。千葉の行方も全力で追っているところだ」

「おい」

「爆発させたのは拙かったが、まあ怪我人もなかったしな」

「おい!」

「なんだ?もう帰りたいのか?きらりん☆レボリューションの時間にはもう間に合わないぞ」

「録画してるよ!そんなんじゃねえ。あの必殺技のことだよ」

106 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:10

「『ゆで理論1200マンパワーがものごっついスペシャルDDエディション』のことか」

「そんな寒い名前とかどうでもいいよ!あれ、大嘘だろ?」

「大嘘でも小嘘でもないぞ。特命刑事に代々伝わる・・・・・・・・」

「光の矢なんかにならなかったし、狙い通りにも飛ばなかった!」

「そりゃお前が真の意味でDDじゃないからじゃないのか?」

「完璧DDだっちゅーの。誰だって大好きだもん」

「ストューカス・ロビン・翔子の誕生日は?」

「す、すちゅーかすろびん?」

「福田明日香の誕生日は?」

「ハロプロメンバーの誕生日なら全員言えるけど・・・・・」

「誰でも大好きなんだろ?まあ、お前もまだまだってことだ」


不覚・・・・・
真のDDってのは過去から現在まで全て押さえないといけないのか・・・・
それにしても福田明日香とは。
あぁーなつかしい、オリメンの人。
「DDになるって・・・・・むずかしいんだなぁー」

107 :◆JOJO8O9U :2006/11/07(火) 20:10

【草原のDD  終わり】





→To be continued

108 :名無し娘。:2006/11/08(水) 00:51
ふぉーびゅーてぃふぉーひゅーまんらいふwwww

109 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:23

【第九話  D〜D?】

110 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:23

ね〜えってばね〜え、お話聞いて〜
とばかりにあたしは琴美を化学実験室に呼び出したのだが、
それはお話を聞いてもらうためというより、お話をしてもらうためだった。
相変わらず辛気臭い雰囲気のあたしと琴美。でも仕方がない。
あたしは隙を見せないように慎重に話を進める。
娘。に入ったら愛ちゃんともこんな感じで接するべきだろうか。


「どうやらこの学校の爆発騒動も収まりそうだね」

「え?どういうこと?」

「だって飯島は捕まった。千葉が捕まるのも時間の問題でしょ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「あっ、ゴメンゴメン。飯島君も千葉君も琴美の友達なんだよね」

「いや、違う。そうやないねん」

「んじゃなに?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「なんか溜め込んでることがあるならあたしに話してみなよ!」

111 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:24

琴美はなんとなく話しづらそうな表情をしている。
左手でいじいじとボールペンを弄繰り回している琴実。
この子は左利きなんだね。ハリケーンな魔球とか投げられるのかしら。

なんとなく気まずい沈黙が部屋を支配する。
友達ならここは逃げの一手だけど、DD刑事にはそんなことはできはしない。
きっと彼女はまだ大事なことを隠している。嘘をついている。
そう確信したあたしは彼女の心を開こうと嘘くさい言葉で話しかける。
そうよ勝負よ。

でも口調がおかしいのが自分でもわかる。
梨華ちゃんばりの棒読みの台詞。ああなんて嘘臭い台詞回し。
気兼ねなく会話できる素敵なヤツになりたいんだけどな。無理かな。
あたしは不器用だしよく食べるけど、よく笑わないし優しいヤツでもないんだ。

笑えない。嘘でもいいから笑顔で励ましたい。でも笑えない。
だってあたしは琴美のことを―――好きになっちゃいけないから。
嘘でもいいから笑う?いや、作り笑顔とかなんか上手くできない。
あたしはあくまでもビジネスライクに琴美を扱う。
モーニング娘。を扱う―――UFAのように。

112 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:24


「あたしな、いじめられてたんやけど、たった二人だけ友達がおってん―――」


意を決したように琴美は一人語り出す。
「悪いところがあったら教えて?」と言われたわけじゃないが、
人が真剣に話しているので、あたしは普段は絶対切らない警察携帯の電源を切る。
かつて琴美の友達だったという化学部の中尾と金沢という男。
この爆弾騒動の全ての始まりはその二人の男だったらしい。


「でもな。ちょっと二人が喧嘩みたいになってな。中尾君は化学部をやめてしもてん―――」


喧嘩の理由を聞いても、中尾も金沢も絶対に答えなかったという。
中尾は部活を辞め、金沢ともほとんど話さなくなってしまった。
初期タンポポのようにバラバラになってしまった三人。
琴美に対するいじめは石川の髪型のようにどんどんエスカレートしていったらしい。
それを見ていた中尾はこう言ったという。

113 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:24


「これ以上我慢することはないよ琴美。この学校ごと全員、俺がぶっ飛ばしてやる―――」


その言葉はあっという間に現実のものとなる。
その当時琴美をいじめてた生徒三人が校舎内で爆殺されたのだった。中尾もろとも。
あっけなく―――本当にそれは知恵の輪が解けるようにあっという間の出来事。
生徒四人死亡の事故原因は学校によって、初期カントリーのようになかったことにされる。
この学校には―――スキャンダルなど―――いじめなどなかったのだと。


「それからちょっとして。麗華ちゃんがやけにうちの部室に出入りするようになってん―――」


麗華もあたしのように執拗に爆破事件のことについて琴美に聞いた。
そしてやがて麗華は金沢と親しくなっていったという。
麗華と金沢の二人は―――石川卒業コンサートツアーの最中にも―――
打ち上げを欠席して自宅デートとかしていたのだろうか。
そんな金沢は徐々に学校にも来なくなり―――第二の爆破事件が起こった。

114 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:25


「校長室がな、爆破されてん。爆破といってもほんのボヤ程度やってんけど―――」


その事件ならあたしも警部から聞いた。
体育倉庫爆破のときよりもかなり小さな爆破だったらしい。
爆弾自体は中尾が死んだ時と同タイプだったが、爆発はかなり小さかったとか。
ソースはmixi、じゃなくて警察なんだから間違いない。
少なくとも大阪美男の書き込みくらいは信用していいだろう。


「あたし、見てん。金沢君が爆弾作ってるところ。中尾君の真似して。あたし―――見てん」


金沢は校長室爆破事故があってほどなく学校を辞めた。
そして琴美も化学部を辞めた。
それから琴美は頻繁に麗華から嫌がらせを受けるようになったという。
今いる飯島や千葉といった部員は琴美が辞めてから入部してきた新メンで、
市井と4期メンバーのように琴実とはほとんど話したことがないと言う。

全てを話し終わった琴美は、魂の抜けた人形のように固まっている。
三人祭のように雷が落ちてビビビッてならないと元には戻らないかな?
本当にそんな感じでぐったりとしている琴美だが、
あたしは松本人志のように非情ではないので「病院行って来い!」とは言えない。

115 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:25

「話してくれてありがとう。やっとわかったよ」

「わかったって?何が?」

「つまり金沢と麗華を押さえないと、飯島や千葉を逮捕してもダメってことだろ?」

「違う・・・・そうやなくて・・・・」

「何を心配してるの?何もナイゼナイゼ。心配ナイゼ。問題ナイゼ」

「爆弾なんてもうどうでもええねん・・・・・・」

「どうでもよくはないだろ!」

「あたしのこと・・・・・あたしのこと全然わかってへん」

「ちょっと年上のあたしにも、それくらいわかるわよ」

「サキちゃん、ホンマにあたしのこと友達と思ってる?」

「あったり前じゃん!」

「爆弾事件とあたしとどっちが大事?」

「琴美が大事だからこそ爆弾事件を解決したいんじゃない」

「ありがとうなサキちゃん。でも・・・・でも・・・・・」

116 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:25

琴美は黙りこくってじっとあたしを見つめる。
つんくの才能のように沈黙していても、その目は雄弁にあたしに語りかけてくる。


「どうやって私守るのよ?根拠も何もないくせに」って。


あたしは琴美に向かって笑顔を見せようとしたが―――やめた。
どんな笑顔を見せても心の中が読まれそう。
だからあたしは琴美には笑顔を見せない。絶対に。
刑事である限り、琴美に笑いかけたりはしない。
だって事件を解決するためにはそんなことは必要ないから。
でも・・・・・でも・・・・・

迷うわー、こんな風になっちゃうのは
琴美が好きだからよ。琴美が好きだからよ。

117 :◆JOJO8O9U :2006/11/08(水) 20:25

【D〜D?  終わり】





→To be continued

118 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:18

【第十話  GOOD BYE 夏DD】

119 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:19


「琴美。麻宮さんの言ってることなんて全部嘘だよ」

「!」

「そいつは単に爆弾事件に興味があるだけ」

「そんな・・・・・・」

「琴美のことなんてどうでもいいと思ってるに決まってる」


薬品棚の後ろから出てきた麗華はキラキラとした目であたしと琴美を見つめる。
また出てきやがった。
屋上に出てきた昨日に続いて二日間の連続出現(1つ2つ3つ0華)。
あたしはイメージで麗華を「STKな子」にキャラ設定する。
盗撮くらい人並み程度にあるのかな・・・・・ってコラー!
とにかくいちいちうざったい麗華の声。麗華の話し方。麗華の仕草。
見てるだけでたまるストレスがたまる。ああぐちゃぐちゃよ。

確かにあたしは琴美に対して嘘をついていたけど―――
琴美の嘘はわかるじゃん。私の嘘はばれない。つもり。ワォ!
まあいいじゃん・・・・・

120 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:19


「金沢ってヤツはどこだ?そいつが爆弾を作ってるのか?」

「あら琴美、そんなことまで話したんだ。口が軽いのね」

「てめえはもうお終いだよ」

「ふふふ。金沢君にお兄さんがいるってことも知ってるのかしら?」

「兄?」

「やめて!麗華ちゃん!もうそれ以上言わんといて!」

「あーら。やっぱり全部は言ってなかったのね。ふふふ」

「麗華・・・・・お前この化学実験室で何をやってるんだ?」

「ここで?ここはあんまり好きじゃないなあ。薬品臭くて。なんかヲタク臭くって」

「てめえ・・・・」

121 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:19

いきなり出てきた金沢の兄という人間(兄沢?)にあたしは軽く動揺する。
さらに畳み掛けるように「ヲタク臭い」という言葉にもあたしは動揺する。
ヲタクを臭いって言うな。事実だけに心が痛むだろ。

そんなあたし以上に動揺が激しい琴美。まだ隠してることがあるのか?
ゆっくりと近づき、琴美の髪をさらさらと撫でる麗華。
泣いてるみたいな声がでちゃう琴美。
麗華の心が―――そして琴美の心が読めない。

122 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:19


「さあ、琴美。武道館・・・・じゃなかった武道場にでも行こうよ。
あそこなら空気もいいし見晴らしもいい。ここは暗くて辛気臭いから好きじゃないわ」

「でも・・・・・でもあたし・・・・」

「琴美、これが最後のチャンスよ。あたしと麻宮さん、どっちを選ぶの?」

「どっちって・・・・・・・・・・」

「あたしは琴美の全てを知ってるわ。でも麻宮さんはどうかしら?」

「・・・・・・・・・・・」

「全部話していないんでしょ?話す勇気があるかしら?」

「・・・・・・・・・・・」

「集会はどうするのかしら?今さら辞められないわよ?」

123 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:20

麗華と琴美はあたしを無視してずんずんと話を進める。
最後のチャンス?、チャンス of ラスト?、始まるわー危険な瞬間?

まあそれは別にいいんだけど『集会』?なにそれ。
武道館で集会とかって一体どんな現場系ヲタサークル?
そんなのがあるの?あたし知らない。
長崎年長組会談に出席しなかった安倍のような気持ちになるあたし。
琴美は黙りこくったまま石のように動かない。

124 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:20


「サキちゃんのこと・・・・・・・信用してええん?」

「友達だって言ってんじゃん」

「あたしのこと、許してくれる?」

「許すって何をさ」

「麻宮さん、本当に本当に本当にあたしのこと友達やと思ってる?」

「うん」

「本当に?爆弾事件に興味があるだけなんとちゃうの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「麻宮さんって本当は何者なん?」

125 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:20

真摯なまなざしで見つめてくる琴美。
何者って言われてもさ・・・・・・・・
二十歳のあたしは思わず自分が着ているセーラー服を見つめる。
高校生に見えてるかな?まあ中澤裕子のコントよりはマシかな。
いや。

やっぱ無理な話ね。違いすぎる。
あたしは琴美が思うほど純な女じゃない。
きっとウソはバレルわだから言えない。
もっと泥沼になったら―――切ないじゃない。

126 :◆JOJO8O9U :2006/11/09(木) 20:20

【GOOD BYE 夏DD  終わり】





→To be continued

127 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:52

【第十一話  THE LAST DD】

128 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:52

あたしは琴美の問い掛けに対して―――
うつむいたままで、わざと返事をせずにいた。
きっと何か言葉にすれば涙流れたろうな。
あたしは黙って琴美の方に右手をすっと差し出す。


「琴美のこと守るって言ったこと。あれは嘘じゃない」

「サキちゃん・・・・・・」

「あたしは琴美のことを守る。何があっても」

「あたしはもうダメや。あたしもきっと・・・・・爆発して死ぬ運命なんや」

「琴美はあたしが死なさない。絶対守る。約束する」

「いや・・・・アカンわ。あたしはもうアカンねん」

129 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:53


あたしは右手を琴美の方へと伸ばしたままずっと待つ。

琴美の手があたしの方へと差し伸べられるのを。

私待つわ。いつまで待つわ。

どんくらい時間が過ぎたって私は待てるわ。

市井紗耶香完全復活までは3年以上待った。

だが――――

どれだけ待ってもあの頃の市井が戻らなかったように、

琴美の手があたしの方へと差し伸べられることはなかった。

130 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:53


「ゴメンなサキちゃん。あたし・・・・やっぱり・・・・」

「行こうか琴美。最後の準備をしないとね」

「あたし・・・・・もう戻られへん」

「そうよ。もう戻れない。戻るなんて許さないわよ」

「うん・・・・・・わかってる」


琴美は麗華と話しながら準備室から出て行った。
旧校舎から外に出てグラウンドの向こう側にある武道場に向かう二人。
あたしの言葉は琴美の胸に届かなかった。
どうしてだろう。わかってる。「嫌われてるんだよ」って言われるまでもなく。
どんなに綺麗な言葉を並べても、琴美が気に入んなけりゃ意味ねえNight。

131 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:53

あたしは一人取り残された教室で空を切った右手を見つめる。
最後まで自分の正体を晒すことができなかった。
「なんでこんなに言うか分かる?琴美の事だからこんなに言うんだよ!」
とでも言えばよかったのだろうか。たとえ麗華に失笑されようとも。

それにしても琴美の考えていることば全然わからない。
彼女は一体何を胸の内に秘めているのだろうか。
わからない。全然わからない。
たとえつぼ八に呼び出したとしても、とてもわかりあえそうにない。
それでもあたしは、あたしは、あたしは―――この事件を解決しなければならない。

「守ってあげる」っていう言葉は嘘じゃないんだ。
正直な気持ちだから伝わってほしい。
今すぐじゃなくっても―――そのうちでいいから。

132 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:53

あたしは学校を出てとぼとぼと家路につく。
金沢に兄がいたということ。「集会」という言葉の意味するところ。
琴美と麗華の関係。オーディションに受かった時のコメント。
先輩だけど年下になるメンバーを愛称で呼んでいいものかどうか。
考えなければいけないことことはたくさんあった。
あたしは少し遠回りをして、近くにある大学の構内を通って帰る。

メインストリートの歩道をそれてふかふかの芝生に足を踏み入れる。
大学の博物館の横の芝生では犬の散歩をしている人がたくさんいる。
残念ながら足を怪我してるオバサンはいない。
あたしは犬には縁がないのかな。別に豚とは縁がなくてもいいけれど。
はあ。あたし・・・・・本当にモーニング娘。に入れるのかなあ。
なんだか怪しくなってきた。

キーンと金属音が聞こえそうなくらい冷たい風が髪と無邪気に遊んでる。
この街の短い秋ももうすぐ終わる。
そろそろ例のニット帽を出すシーズンかもしれない。
冬に比べればこの街ではずっと存在感の薄い季節、秋。
でもまあ秋が好きだと言えば好きになれたし。

そんなことを考えるあたしの耳に風よりもさらに冷たい鋭い感触。
空を見上げるとゆっくりと、本当にゆっくりと、
この街にこの季節初めての雪が舞い降りてきていた。
まるで飯田さんがデザインしたかのような綺麗な雪の精たち。


――――冬が始まる。

133 :◆JOJO8O9U :2006/11/10(金) 19:53

【THE LAST DD  終わり】





→To be continued

134 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:19

【第十二話  奇跡のDDダンス。】

135 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:19

あずすーんあず帰宅するやいなや警部が車でやってくる。
ちょっと本部まで一緒に来いとのお誘い。
あたしも丁度警部と話がしたかったところ。
ドライブなんてグッドタイミング。こんな日もあるのね。
あたしはちょっぴり三枚目な警部について行く。


「もう一人の化学部員、千葉も逮捕した」

「思ったより早かったじゃん」

「今、事情聴取してるところだ」

「『集会』・・・・・がどうとか言ってなかった?」

「『集会』?なんだそりゃ」

「着いたら詳しく話すよ」


あたしは琴美と麗華との会話を説明しようとしたが、上手く言葉が出てこない。
全然出てこない。
ココナッツ娘。の新曲のように一向に出てくる気配がない。
もしかしたら一生出てこないかもしれない。

136 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:19

車は混み合った環状通りを東に向かって進む。
多くの車はまだスタッドレスタイヤに履き替えていないようだ。
ノーマルタイヤの車は初雪がうっすらと積もった道路に悪戦苦闘している。
そんな中、警部の車は高橋愛のトークのように一度も滑ることなく(嘘)目的地に到達する。

以前来た建物の地下一階では飯島と千葉が個々に取調べを受けていた。
これが噂の取調べか。ソースカツ丼とか頼んだら出してくれるのかな?
四角く小さい窓越しに見える二人は、
なんだかごっちんに分けてあげたくなるくらい無駄にテンションが高い。
自分らが何をしたかってこと、全然わかってないんだろうな。


「どうやら元化学部の金沢という男が爆弾を作っていたらしい」

「なーんだ。もうそこまでわかってるんだ」

「ああ。今は金沢の行方を全力で追っている」

「これでもうあたしの役目は終わったんじゃないの?」

「・・・・・そういえばお前、『集会』とか言ってたな」

「ああ・・・それはその・・・・飯島と千葉に聞けよ」

137 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:20

あたしは元化学部の金沢の写真を警部からもらう。
兄が明で弟が明夫とかいう名前らしい。
あたしはじっと写真に写っている金沢明夫の顔を見つめる。
動物にたとえるならメガネザル。野菜にたとえるならカリフラワーってところか。
でもそんなことは口に出さない。いくらなんでも失礼というものだろう。

とにかく、警察の捜査は金沢兄弟のところまでたどり着いた。
ほんのちょこっとなんだけど―――前に進んだ気がする。
だが兄沢の方の写真は一枚も手に入らなかったらしい。
うーむ。
そいつは困った。ですね。ですねですねですね。
ですねですねですねですねですね(回数あってるかな?)。

話によると飯島と千葉は麗華に誘われて化学部に入ったらしい。
それまでは麗華とは全く接点がなかった飯島と千葉。
たった10分足らずで奇跡の恋となるってか?

麗華から離れて気づいた―――自分のやってることが犯罪ってことに。
まあ、きっと遅くない。まだやり直せる。DO THE LOVE!
そうさ。飯島だって千葉だって琴美だって―――そしてあたしだって。
きっと遅くない。まだやり直せるはず。

138 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:20

「どうやら集会ってのは明日行われるらしい」

「明日!で、集会ってのは何の集会なんだよ」

「『A』という主催者が行う決起集会―――らしい」

「らしい?」

「目的はよくわからんがどうやら・・・・・・10個の爆弾を使って学校を―――」

「10個!マジかよ」


たった一つでも体育倉庫を吹き飛ばすあの破壊力。
10個もあったら間違いなく学校そのものが消し飛ぶ。それが目的か。
それにしても『A』だと?誰だ?
兄沢のAか?秋山のAか?
それとも松浦と久米宏が組んだが低視聴率で打ち切られた―――

139 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:20

「とにかくだ。お前は学校に戻って『集会』の全容を探れ」

「麗華は?あいつを押さえた方が早いよ」

「今の状況では証拠が不十分だ。秋山を逮捕することはできん」

「証拠かー。ヒャクマミみたいな流出音源でもあれば決定的なんだけど・・・・・」

「それに秋山は自宅にも帰っていないようだ」

「彼氏の家にトイレットペーパーでも持っていってるんじゃないの?」

「とにかく!秋山を、そして集会を抑えられるのは学校に入れるお前だけだ」

「そんなこと言われたってもう明日だろ?」

「時間がないのはわかってる。だがやるしかない」

140 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:20

言うだけなら簡単だよな。
「つんくが良い曲を書けばモーニング娘。は復活する!」とかさ。
言うだけなら簡単なんだよまったく。
そんな愚痴をグチグチ言いながらあたしは深夜の学校に忍び込む。
愚痴ってばっかいないで何とかしな!ベイビー!

それにしてもすっかり遅い時間になってしまった。
警部が門限通りにうちに送ってくれる、
あたしよりも弱虫な人だったらこんな時間にはならなかったのにね。
女にゃそれなりの時間もいりまっしょい!

目指すは旧校舎の化学実験室。
自宅からも消えている麗華が行きそうなところってここしか思いつかない。
あたしは慎重に身を屈め、ドアの前に進む。
そして案の定教室の中には―――人の気配が―――誰かいる?
みんなスヤスヤと寝てるような夜中にこっそりしのび足。
この鍵開ければ逮捕よ・・・・・


ピリィィィィピリィィィィピリィィィィ


って携帯鳴らすの誰だよーーーーーーーー

141 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:20

素早く闇の中を二つに分かれていく人の気配。二人いるのか?
あたしは二つの気配のうちどっちにターゲットを絞ろうかと考えるが―――
二つの気配は全く逃げる気配もなく、むしろあたしを挟み込むように
移動しているのを感じて肌が粟立つ。ヤバイ。挟み撃ちにされる。
まさに前門の羊、後門の狼。粘着とバカ。どっちも怖い。

あたしはとっさに廊下の電気を点ける。闇はむしろ向こうに有利。
走りながらさらに実験室の電気も片っ端から点ける。
暗闇に慣れた目がちかちかする。
これって日本民間放送連盟が定めたガイドラインには違反してないよね?
とにかく二つの気配が誰なのかを確認しなければ。
本当言うと怖かった―――できればここから逃げだしたかった。
BUT「逮捕がしたい」が刑事の本能。

そんなことを考えながら窓を開けた瞬間、あたしの後頭部に鈍い痛みが走る。
乱れる制服。バサッと床に落ちる特命刑事ご用達のDD印の携帯電話と生徒手帳。
だがダメージは浅い。初めてプリプリピンクを見た時ほどの衝撃は受けなかった。
気を取り直しあたしは振り返る。若い男みたいなのが一人。
目が霞んでよく見えない。

考えるより先に相手の膝に素早くローキックを叩き込む。
男が呻く。
男はラブホの冷蔵庫くらいの小柄な体躯。
動作も鈍い。構えは隙だらけ―――この男が相手なら勝てる!

142 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:21

そう感じた瞬間、あたしの顔面に走る激痛。視界が真っ赤に染まる。
体重計に乗ったわけじゃないけど―――
思わずなんじゃこりゃなんじゃこりゃ状態に陥るあたし。
何かが顔に飛んできた。視界が元に戻るまでもう少し時間がかかる。
そう判断したあたしは愛の種(精子の暗喩)―――じゃなくて
そこら中のものを撒き散らしながらその場を離れ、少しの間時間を稼ぐ。


「大丈夫か」

「なんとか・・・・クソっ!この女!」

「ここは俺が片付ける。お前は早く逃げろ」

「けどよお!」

「下手に騒げば警察が来る。早く撤収しろ」

「じゃあここは任せるよ」


徐々に視野が戻ってくる。
あたしの蹴りでふらついているのは若い男。学生か?
警部の持っていた写真の男とよく似てるけど―――こいつが金沢弟か?
あたしは木綿のハンカチーフで目を拭き立ち上がる。
出血は大したことない。大丈夫だ。まだ戦える。
8期の入るモーニング娘。じゃないけれど―――まだあと三年は戦える。

143 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:21

「特命刑事の麻宮サキだな」

「お前に恨みがあるわけじゃないが」

「我々の計画を邪魔されちゃ困るんだよ」

「明日一日、ちょっと動けないようになってもらおうか」


金沢らしき男は後ろのドアから逃げ出す。でも追えない。
パンダみたいな大きなサングラスをかけた30前後の男があたしの前に立ちふさがる。
グラサン男は余裕綽々で鼻なんかほじってる。藤本かお前は。
あたしはこの男をどこかで見たことがある。ような気がする。
だがそれを思い出している暇はなさそうだ。
この男、腹が立つくらい余裕綽々なんだが―――全く隙がない。

逃げ出すことは無理。ならば倒すしかない。
あたしは腿に装着したヨーヨーに触れるが―――
この準備室は天井が低い。
例のなんちゃらマンパワーとかいう技を出すのは無理そうだ。
それでもあたしは鋭いスナップでヨーヨーを放つ。

まともに空手で戦っても絶対に勝てない。そう感じた。
なぜなら飯田圭織の負のオーラをも軽く凌駕するような
圧倒的な存在感が―――この男には漂っていたから。

144 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:21

あたしは低い姿勢のままでヨーヨーを放つ。
ハロプロのCDの売上のように低空飛行で飛んでいくヨーヨー。
だがヨーヨーは勢いも虚しく軽くコーンと弾かれる。
男は掌に何かを持っている。だがそれが何なのかはよく見えない。

間合いを空けないと―――と思う間もなく間合いを詰められる。
そんなに詰めるんじゃねえ。美貴様のカップじゃあるまいし。
息をつく暇もなく、マカロニ―――じゃなかった
マシーンのようにビシバシと連続して飛んでくる拳と蹴り。
この男、強い。戦い慣れしている。
あたしも必死に応戦したが―――ペースは常にあっち。

ズバッとサマータイム並みの蹴りがあたしのわき腹に入る。
ののたんのように過呼吸に陥るあたし。
逆、逆、逆。息が出来ないあたしの肺。でも戦わなくちゃ。
そうよみんな必死なんだから。あきらめるくらい、簡単だから。
と思いながらもあたしはスラッシュダンスを踊るようにたたらを踏んで地面に倒れこむ。
OH YEAH! VERY PRETTY DANCE!
とか言ってる場合じゃないよね。

でも動けない。苦丁茶のような苦い汁があたしの口の中に満ちる。
こんなに胸胸、切なくって苦しい。サングラスさん超イジワル!
あー、ダメだ。麻宮的にはー、グスングスン。もう立てないのー。

145 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:22

「サキちゃん!大丈夫!?」

「!」

「警察呼んだから!もうそこまで警察来てるから!」

「ふん、警察が?嘘丸出しだな」

「本当やもん!ほら!そこに!」


あたしは呻きながら声のする方を見る。
琴美じゃん。なんで琴美がここにいるんだ?
男はあたしに向かおうか琴美に向かおうか、
どっちに進むのか迷っているようだ。こっち?うーん・・・こっち?
だが男はどちらに進むこともなく―――
思わせぶりな言葉を残して闇に消えていった。


「まあいい。今日はこれくらいにしておこう」

「無駄だと思うが、一応警告しておこう」

「明日の集会を止めようなどとは思わないことだ」

「止まらない―――集会はもう止めちゃいけない」

「止まらない―――それはもう―――どこにも行かない」

146 :◆JOJO8O9U :2006/11/11(土) 22:22

【奇跡のDDダンス。 終わり】





→To be continued

147 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:32

【第十三話  DD(ヒヤシンス)】

148 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:32


「サキちゃん大丈夫?」

「琴美・・・・・なんでこんな時間にここにいるんだよ」

「ちょっと用事があってん。サキちゃんらしい子がいたんを見て―――」

「追っかけてきたってか?」

「すぐに携帯に電話したんやけど全然返事なかってんもん」

「アチャーミー。さっきの電話は琴美だったのか」

「うん。ついさっき。携帯にかけたよ」



琴美ってばいつもタイミング気にせずにおつかいの電話を入れてくる―――凄い人。
まあ、携帯の電源切ってなかったあたしが悪いんだけど。

149 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:33

「用事ってなんだよ。こんな遅くに」

「え。うん。ちょっと」

「明日の『集会』ってやつか?」

「・・・・・・・サキちゃん全部知ってるん?」

「話せよ。話せよ全部」

「ぜ・・・全部?」

「そう。全部だよ。集会のこと。化学部のこと。金沢兄弟のこと。
麗華のこと。さっきのサングラスの男のこと。琴美が知ってること全部。
どんなことも―――話してほしいのよ」


琴美は言葉を探すように宙に視線を彷徨わす。
あたしは琴美が話すのを待った。
なんだか待ってばかりだけど、待つことは苦じゃない。
辻の2nd写真集が出るまでは三年待った。

あたしはうたばんでの6期メンのようにずっと黙っていた。
黙って待っていればいずれ琴美が話し始めることはわかっていた。
この子はきっとずっと話せる人が来るのを待っていたんだ。
きっとそうに違いなかった。

150 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:33

やがて琴美は話し始めた―――

やはり爆弾を作っているのは金沢らしい。
化学薬品会社に勤める、金沢とは年の離れた兄とのコンビで。
爆弾の部品なんていう誕生日コンの最前のチケット並みに入手困難なものは
兄沢のコネクションで全部用意してたってわけか。

その爆弾というのは、元々は中尾が
琴美をいじめるやつらに対する復讐のために作り出したものだった。
だがその図面はこっそりと金沢の素敵ノートにぬっちされていたようだ。
中尾は金沢を激しく問い質したが―――問題が解決される前に中尾は死んだ。
琴美のために。たった一人の琴美のために、たった一人で死んだ中尾。

琴美はふうとため息をつき、真っ暗な空を見上げる。
空を見上げる時は―――いつもひとりぼっち。
悲しいこともあるけど、すべて意味があるんだね。

151 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:33

そして金沢に近づいた麗華が新しい化学部員を集め、
だんだん爆弾作りにも慣れて、だんだん度胸もついて、
爆発事件はだんだんと大きくなっていった―――
と、ここまでは大体以前に聞いた話とあまり変わりない。


「で、集会ってなんなんだよ。麗華は何を考えてるんだ?」

「麗華ちゃん。学校ごと全部吹っ飛ばすらしいねん」

「なんのためによ?」

「わからへん。学校が面白くないとか言ってる人を集めて色々やってるねん」

「あのヲタ奴隷みたいな取り巻き連中か」

「あの人ら怖い。ホンマにメチャクチャする人らやねん」

152 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:33


「明日の放課後、体育館にみんなを集めるんやて」

「おーおー。そいつは涙が止まらない放課後になりそうだな」

「そんで・・・・・体育館で全部爆発させるって言うてたわ」

「爆弾は?もう仕掛けてあるのか?」

「仕掛けるっていうか全部あの人らが身に付けて―――全員で『飛ぶ』ねん」

「おいおい・・・飛ぶって・・・・・推しジャンプとかじゃないよね?」

「ホンマはあたしも・・・・・その一人やってん」

「え!?」

「あたしも昔、それ用に爆弾を一個作ったことあるねん・・・・・」

「どういうことだよ!」

「ゴメン。サキちゃんゴメン。『集会』って元々はあたしが考えたことやねん」

「どうして?どうしてなの琴美?」

「中尾君が死んで・・・・・金沢君にも色々言われて・・・・・あたしは一人ぼっちで」

「バカが!だからって死ぬことはないだろ!」

「学校も。先生も。あたしも。みんな全部吹っ飛ばしたかってん。飛びたかってん」

153 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:33

だが琴美は計画の途中で怖くなって化学部を辞めてしまったらしい。
辞めて正解ということもある。石黒のように。今や福田は微妙だけど。
だが琴美が辞めた後も麗華と金沢は集会の準備を着々と進めていた。
その集会は明日決行される―――『A』という男の名の下で。
男?『A』って男なのか?女なのか?それともサファイアみたいに―――


「琴美、『A』って誰なの?麗華のことか?」

「違うと思う。表で仕切ってるのは麗華ちゃんやけど・・・・・・」

「あのサングラスの男。あれが金沢の兄か?」

「わからん。金沢君のお兄ちゃんって一回も会ったことない」

「一回もないってことはないだろ」

「ホンマにないねん。あの人はいつも家にもおらんらしいねん」

「なんで?遠くにいってもうたん?」

「わからん。でも金沢君、お兄ちゃんには絶対会わせてくれへんねん」

154 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:34


「まあいいや。大体のことはわかった」

「明日・・・・・どうするん?」

「もちろん集会をぶっ潰す。琴美も一緒に来いよ」

「え?あたし・・・・・怖い」

「大丈夫。琴美のことはあたしが守るから」

「でも・・・・・」

「琴美は集会を最後まで見届けるんだ」

「・・・・・・・・」

「見届けるんだ」


あたしは震える琴美を抱き寄せぎゅっと抱きしめる。
あたしはこの子に集会の、爆発事件の最後を見せてあげなければならない。
琴美には最後まで事の顛末を見届ける義務がある。
たとえライブ中に右足関節三角じん帯損傷の全治3週間のケガをしたとしても、
松葉杖をついてでもこの騒動のラストを見届けなければいけない。

なぜかそんな思いがあたしの中を支配していた。
全てが終わればきっと琴美は普通の生活ができるようになる。
受験して大学行ってアナウンサーにでもなって―――いや、北海道限定の地方タレントでもいい。
なぜかそんな風に―――楽観的に考えていた。

155 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:34


「サキちゃん。あたしは全部話したで」

「うん。ありがとね」

「サキちゃんもあたしに全部話して」

「え?何を?」

「サキちゃんって何者なん?なんでこんなにあたしに優しくするん?」

「なんでって・・・・・友達だからだって言ったじゃん」

「なんで爆弾とか集会のことに関わろうとするん?」

「琴美のためじゃん」

「その言葉をホンマに信じてええん?」


琴美はつぶらな瞳であたしを見つめる。
上目遣い。上目遣い。上目遣い。
嘘をついてるあたしはこの無垢な瞳を直視することができない。
この瞳はこれまで一体何度あたしの心を締め付けてきただろうか。
事件に関わるのは―――琴美のため?自分のため?
いや。どっちとかないんだよ!

156 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:34


何者なの?という琴美の真摯な問い掛けに対して
「爆弾の捜査をしている特命刑事でーす」と答えることはできない。
ぽーんと琴美の肩を叩いてあたしは無言で歩き出す。
目と目を合わすことはできない。きっと嘘ってばれてしまうから。

心の中に満ちる灰色の罪悪感。
どんな言葉も琴美を欺くための真っ黒な言葉に思えてしまう。
あれあたしってこんな人間だったっけ?
ただひたすらハロプロが好きだっただけの昔のあたし。
そんなに昔の話じゃないけど・・・・こんな色だったっけ?
今も「ふつう」で生きてるけれど―――これが私なんだろうか?

一つはっきりしていることは、琴美のおかげで事件は解決に向かい―――
あたしのモーニング娘。加入も実現に近づいたってことだ。
あたしと琴美の一方的なギブアンドテイクな関係。テイクアンドテイク?
だからあたしは「ありがとう」なんて気軽に声に出して言えない。
だってあたしは琴美に何も与えてあげることができていないんだから。
だからあたしは無言で―――心の中で琴美に礼を言う。

ありがとう。あなたがくれたすべてにありがとう。
ありがとう。あなたがくれたすべてにありがとう。

157 :◆JOJO8O9U :2006/11/12(日) 13:34

【DD(ヒヤシンス)  終わり】





→To be continued

158 :◆JOJO8O9U :2006/11/13(月) 21:43

【第十四話  YOUR SONG〜DD宣誓〜】

159 :◆JOJO8O9U :2006/11/13(月) 21:43

あたしと琴美は、お互いどっちがたくさんの嘘をついてるかなんて
比べて仕方のない事を夜明けまで語ったりはせずに
北12条の交差点で右と左に別れて互いの家路に着く。
あたしも琴美のように思いを全て打ち明けることができるだろうか。
まあ、いつか。いつかね。
すぐじゃないかもしれないけれども―――思いよ伝われ。

気がつくともう夜が明けようとしていた。
とりあえず明日だ。やるしかない。
気合入れて明日に向かって―――やるときゃやるのさ!
その前にあたしは、とにかくちょっと一息入れて
二時間ほど仮眠をとってから学校に行こうと思いベッドに入ったが、
次に目が覚めたのはお昼も過ぎた15時だった。

うわ。
ごっちんやなっちだってここまでの寝過ごしはしないよー
麻宮サキさんよぉ!辻じゃないけどおまえは・・・・・キッズ以下だな!
とか自分に突っ込みを入れるあたし。
もう完全に遅刻だけど、まゆ毛を慎重に書いてから家を出る。

160 :◆JOJO8O9U :2006/11/13(月) 21:44

あたしは自転車こぎこぎ全速力で学校に向かう。
急がなきゃ―――間に合わんデイ!
琴美の携帯にメールしようと思って気づく。
昨日のやりとりで落とした携帯と手帳は結局見つからなかったんだ。
嫌な予感が背中をぬるりと走る。
だけど されど そして いつか どこか 見つかる日が来るだろう。
自分に無理矢理言い聞かせるようにしてあたしは体育館に向かう。

体育館は―――まるでなっちの卒コン会場のように―――
建物の外から見てもそれとわかるくらい異様な雰囲気に包まれていた。
入り口では教師と生徒がそもさん、せっぱと押し問答をしている。
入れない。クソが。30円軍団か?心の狭いやつらだ。
モーニング娘。のオーディションだって門前払いなんかしないぞ。
どんな子でも、どんな子でも一応形だけでも一次は受けさせる。

どうする?裏口から行くか?まともにあそこから行くか?
まともにねえ。それはまずいか。
うちらが行ったらパニックになっちゃうよ。

161 :◆JOJO8O9U :2006/11/13(月) 21:44

だが頭で考えるよりも体が先に反応するタイプのあたしは自転車のスピードを上げる。
トップスピードで人垣に突っ込むあたしとあたしの自転車。
倒れる生徒。呻く先生。響く怒号。パニックは頂点に達する。
いや、頂点はないと思うんやよ。
怪我してる生徒を踏み分けて体育館の中に入るあたし。

体育館のステージ上には麗華と琴美の姿が。
あずすーんあずあたしを見るや否や麗華は琴美を連れてステージを去る。
どこ行くんだ―――と言うまでもなくあたしは30円軍団に取り囲まれる。
やあやあ皆さんお久しぶり。謹慎処分は解けたのかい?
それはなんとも羨ましい限りですね。
あたしはあいぼんの謹慎期間がどれくらいになるのか数えようとして辞める。

今やるべきことはこいつらを蹴散らすこと。
今度は手加減しない。
あたしを本気で怒らせたら知りませんよ。知りませんよ。知りませんよ。

分かるよね?

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