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★魁・読み切り作品発表スレッド★

1 :名無し娘。:2005/07/18(月) 22:30
とりあえずストーリーの続かない、読み切り作品書き捨てスレ。

ネタの形式は自由。自分の連載作の番外編でも可。マターリ。

前スレ
★新・読み切り作品発表スレッド★
http://www.omosiro.com/~sakuraotome/live/test/read.cgi/bbs/1062146347/

関連スレ
集えネタ小説職人! ★読み切り作品発表スレッド★
ttp://www.musume.co.uk/log/mor/999/999256841.html
 ★読み切り作品発表スレ★Ver.2
ttp://www.metroports.com/test/read.cgi/morning/1004887773/l15

300 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:28

./    .r''´    ,i' l      ゙i     l    l,    i          r'⌒i、_r'⌒i、_r'⌒i、_r'⌒i、_r'⌒i、_
'   /     ,i'   l       l    ゙i      l,    i         /                        )
  ,r'     ,r'    l      l    ゙i     ゙i,    i         (    いいか久住、よく聞け   (
 ,i'       ,i'      l      l    ゙i      ゙i,     i          )                     )
.r'    ,' ,i'         l         i,    ゙i,    ゙i,     i        (                       (
l    l' ,i'        .l         l,      ゙l,    ゙i、   i        )     これは遊びじゃない   )
   i' r'          i,         l,     ゙l,    ゙i、    i   ∠、                   /
   i' i'  ,,___       ゙i,      ゙i、     ゙i、    .゙i,    i    し'^`し'^`し'^`し'^`し'^`し'^`し'
  l |     ゙゙゙ー::,,     .゙i,      ゙i、    ゙i、  .  ゙i、    i
.  l .|        `ー::;;,,,.  ゙i、  、   ゙:、 、 、 ゙i、 ヽ  ゙i,    i
  l  |      i_/_, ,  '   ゙i,   ヽ     、 ,           l
. l゙i |     _´ i, 。`i'、          ,.-i'''''''・´、,         |        r'⌒i、_r'⌒i、_r'⌒i、_
 | `|       ' ,-,、.,''.._.,,!         .く___ ー-゚,rヾ       |      ノ           )
 |  |                          ''!'''~`        l   と´   真剣勝負だ  (
 |  ,l                                    ,|´     ヽ、              )
 |   i.                                   i'.|       し'^`し'^`し'^`し'^'´
 |.   ,i.                              ,' .|
. |     | i,                              ,'  |
.,|    |   i,          、                     ,i'  .|
.|    |    i,          `    '´                ,i'   |
|.    |     i、                            /.    .|
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     |         i、   ゙゙``ー-‐'''''`゙゙゙''       ,r'  .|    |
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301 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:28

                             ,. -――- 、,
                              ,..'´       `゙ヽ
                          (   なるほどー   )
                            ''-..,,_   _,,..-''
                               `゙y'´            _______
                                  , ー-、      ,.-''´          `ヽ、
                             〃〃ハヽ   ,.'´ っていいのかな    ヽ
                                (´ゥ` o从  -<                   )
                              ,く|   |_l.    ゙:、   納得しちゃって…  ノ
                               ((,)),---'i,l     `:-、_           _,.'
                              lニl~lニl            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                             (___l l___)












                      ,λ,、λ,、λ,、λ,、
                       χ            χ
 ,.-――、     i^li       γ  よし、いいぞ  χ
〃     ヽ,   | l|         χ            χ
|    || || |l    | l|          `γ゙´γ゙´γ゙´γ゙´
l    (lVl    | l|
l      l ン    | l|         ,λ,、λ,、λ
l, ,  , l`tt----⌒`i      χ         χ
l     |_|――‐i-i.'     γ  投げろ  χ
l      /    |;;|;|      χ        χ
l     .i    |;;,!;!        `γ゙´γ゙´γ゙´

302 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:28

                        ,,..--――――――――--..,,
                     ,..-''´                 ゙゙-..,,
                   ,.:''´                       ゙:、
                        |   うーん、あまり気が進まないけど…   |
                    |                               |
                   |                             |
                       ゙i,          行きますよー        .i'
                        `゙゙―-..,,_                 _,,..-―''´
                           `゙゙―-..,,_    _,,..-―''´
                                 `ヽ/´
                                     _
                                ,,'´   `゙i,
                                   || || ||  .l
                                   」 ‘  |)  .|
                                   ゝ   | l |
                                `ー  ,| l !
                                 /⌒ メ, ,し
                                   l___  i,
                                 |  |  ll
                                  |  |  .ll
                                   |  l   | l
                                / ./__l l
                                l  )    | ,メ,
                                   `ー'___ll(..))
                                     |   |l ´゙``
                                    |   .||
                                    l   ,l.l
                                   l   | l
                                  |  .l .l
                                      |  | |
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                                 ::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙
                                ::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::
                                       ::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙::゙

303 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:29






                      ,ノ,.ヽ、   --..,,,___
                    (( ( ) ))  ''--..,,_
                      ´' ' ゙ ' `  ー、_  `
                               ~゙








 

304 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:29

                                               ,. ー- 、
                                      〃〃ヽ i
                               パキョ    (VvV川
                            . .     ,;--i^^)   i,ゝ.
                            /,/   ,.    ̄.~l____lヽ,ヽ、
                                  (())     く/_l_ゝ`ー'
                              ´'゙`     .| | | |
                                        |_,.l .|__|
                                    (_l .{_`i

















                         ,,..---一 -- 、,       ,. -―――――――-、
                         ,r''           ヽ、    ,.'               ゙i
                           /             ゙i、    l  あ、長ネギ折れた  |
                      i'             i    ,ゝ                  ,!
                         i'    l   l    l    i     ̄`:―-----------―''´
                          |    l   .l    l    |
                      |   l    l    l    |
                       |   l    l     .l    |
                        |   l    l    l   .|

305 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:29

.          ,. -‐ ) ,'_..
          〃〃 ゚ヽ`
          J|i:.VvV)
           i:_,/ヽ、 i)
          i:. ヽ .ヽi,
           ぐ.__i__ヽ._,)
           i:. l.i:. l     ヾ  l;i;l
            i:._| i:._|        ノノ
.            i:.___):.__,)     `´
                                                            __
               ゙,ニニ';                                          ,. -''´    ` - 、
        ,;、                                                 r'             ヽ,
        ((_)),,                                               i'              i、
      ´゙`                                                   l i                   l
                                                          | | | l              l
                                                           | | | | !,            l
                                                      i ヽ   |    l    .:   .|
                                                       l     |    .|    .|   |
                                                         l     |    |    .|   |
                                                      ウ   |     .|    .|   |
                                                       `.、_  .|      |    .|   |
                                                               |     l    |  .|
                                                              ,r''|     |    |   |
                                                           ,i'´ ,ノ      ,!    ,.!   !i,
                                                           ,i'                 ゙i,

306 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:29
     ,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、,.、
  ┌'                                      `┐
`ーく   こはるぅ〜!!!  とうとう罠が完成したと〜!!!  ゝ
  └.、                                   ,┘
     `'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'´`'





                                                     l;l;l
                                        ,           ノノ
                            ,.-- 、          (())    ;ニニ!  `'
          γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ.    〃〃ハ
            (  返しておいて  ,ゝ   J|VvV)
           ヽ._______,ノ    ιl.___,i,!⊃                       ,...._
                          く/__;_;、ゝ                       〃ハヽ
                            , /_/ ヽヽ.                       (´ゥ`;从   ,.‐〜〜〜〜〜-、
                           `ー゙  ゙ー'゙                        (lつとl)  -<  絶対に無理  )
                                                      l;;;._;;;.!     `ー〜〜〜〜〜'´
                                                        ,! | ,! |
                                                    `゙゙ .`゙゙

307 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:32
コテハン推奨って誰かが言ってた

308 :名無し娘。:2006/09/23(土) 00:41
みんな名無しで書いてんだよな

309 :名無し娘。:2006/09/23(土) 01:12
激ワラ

310 :名無し娘。:2006/09/23(土) 01:44
向こうも見てるんで反応してたw
や、面白いってばwww

311 :名無し娘。:2006/09/23(土) 20:57
れいなキャワス

312 :こんミキ:2006/09/23(土) 21:42
川o・-・) <ガッタスの試合を観戦ってのも新鮮な感じがするなあ。

从VvV)<あれ、紺ちゃんなんで来てるの?

川o・-・) <気分転換に見に来ることも許されないんですかそうですか。

从VvV)<別にそんな事言ってないじゃん。大学受験に向けて準備できてる?

川o・-・) <完璧です!!
      
从VvV)<さすが紺ちゃんだね。

川o・-・) <美貴ちゃんも大学受験すればいいのに。

从;VvV)<いや、それは絶対に無理だからっ!!

313 :名無し娘。:2006/09/23(土) 23:20
絶対に無理だあああああああああああああ

314 :ムクロニ:2006/09/23(土) 23:40


リアライズ

315 :_:2006/09/23(土) 23:41
のんの体が宙を舞う。
ウチがとっさに伸ばした手は空を切り、何の手ごたえも残さず虚空をさまよう。
のんが落ちる、その瞬間がスローモーションのように引き伸ばされていき、
ウチはその確定された未来を永遠にも等しい煉獄として味わわされる。
でものんは、のんの表情はただ一点の曇りもなくまるで慈母のような笑みを浮かべていた―――。


☆ ☆ ☆

316 :_:2006/09/23(土) 23:41
繰り返し見る悪夢。
多い時は一晩で何度も何度も同じシーンを見ることもある。

夢の原因はとても単純で、きっとどんなにヘボなカウンセラーにだってわかるはずだ。

ウチがこうして昼も夜も無関係に何もすることもなく部屋でごろ寝していること。
のんに合わせる顔が無いということ。
すべてはウチが実家で謹慎し始めてから早半年以上が経過していることに起因していた。

つけっぱなしのテレビからは毎日代わり映えのしないニュースをさぞ大事のように喚きたてる声が聞こえている。
ウチはその音を聞くでもなく、とりとめも無い妄想に身を任せていた。

もしウチが気ままなフリーターだったら、ごく普通の恋に胸を焦がしていただろうか。
もしウチがとっくに結婚して優しいダーリンがいたら、帰りを待っているだけで幸せになれるだろうか。
もしウチがただのムシだったら、何も悩まずに生きていけるだろうか。

317 :_:2006/09/23(土) 23:42
そんな仮定は今自分が置かれている現状の前では全くの無力だった。
ずっと真面目に向き合うのが嫌でなるべく考えないようにしていた。
でも、そろそろいい加減答えを出さないといけない時期になってしまったのかもしれない。
段々夢の周期が早くなってきている気がするのも、多分関係しているのだろう。

結局自分は復帰したいのか、したくないのか。
やり残した事も未練も謝るべきことも山ほどある。
けれど戻って自分はまたちゃんとやっていけるのだろうかという不安がつきまとう。
まだ孤独に苛まれて皆に迷惑をかけるくらいなら、いっそこのままフェードアウトしたほうがよいのではないか。

最終的な選択はどうやらウチに任されているようだった。
ちゃんとはっきりしたことは聞いていないが、事務所としてはそういうスタンスでいるようだった。
ただ復帰すると決めたところでも、すぐにできるとは限らないというようなことも聞いていた。

318 :_:2006/09/23(土) 23:42
その辺りの事を考え出すとどうしても思考は過去へ向かっていく。
それはつまり、どうしてあんな事をしたのだろうという苦い後悔だ。

ただ、多分振り返って思うに喫煙は偶然じゃなかった。
誰しも通る道だった。
退屈と鬱屈が詰まったウチらにとっては文字通り格好の憂さ晴らしだった。
多分自分が知る限りのメンバーは程度の差こそあれ、皆一度は煙草を咥えていたと思う。
だけどそれはおふざけだったり、単なる格好付けだったり他愛の無い理由がほとんどで、
本当に煙草に依存していたメンバーはいなかったし、自分だってほとんど煙を吸い込んだことは無かった。
単に自分の口から紫煙が漂っているという状態が好きだった。
いや、好きだったかどうかはよくわからない。
でも日々の言い表せない沈殿し切った汚泥がちょっとでも形になって外に出て行くような不思議な安堵感はあった。
でもそれだけのことだった。恒久的な安心なんてどこからも得られなかった。
そんなに落ち着かない日々を暮らしていたのだろか?
今となってははっきりと思い出せないけれど、とにかく何かに焦っていたのは確かだった。
じりじりと崖っぷちに追い詰められていくような焦燥感。

319 :_:2006/09/23(土) 23:42
もちろんだからといって、自分のしたことを正当化するつもりは全くない。
焦っていたり、気分が沈んでいるというくらいのことでやっていいことでは無かったのはよくわかっている。
まったくもってバカなことをした。
いや、多分バカなことだとわかっていながらやった、という方がより正確かもしれない。
ウチは煙草を咥えながら、それが何を意味するかちゃんとわかっていたと思う。
わかっていたのに止めなかったのは何故か―――。

きっとどこかで誰かに止めてほしかったのかもしれない。
随分と甘ったれた考えだとは思う。
でも昔も今もウチは甘ったれた奴だった。
長い年月を経て培われた性格はちょっとやそっとのことでは変わったりしない。

320 :_:2006/09/23(土) 23:43
携帯が短く震えた。
おそらく、のんからの『定期便』だ。

ウチがこうして隠居してから、毎日ずっとメールが来る。
時間はバラバラだけど、確実に定期的にやってくる。まあ最初の頃は色々なメンバーから沢山来てたけど。
今ではのんだけが毎日よこしてくる。
正直苦しい。
でも反面、楽しみにしているところもある。
今まで騒がしく過ごしてきたあの混沌とした世界にちょっとでも繋がっているような気がするからかもしれない。

内容は大体がのん自身の出来事を羅列したもので、ウチに触れるようなことはほとんど書いてこない。
つまりほとんどが当たり障りの無い内容だ。
そもそも今までだってメールではあまりシリアスなことはやり取りしていなかった。
いや、メールだけじゃなくて会話においても本心をぶちまけたことはあまりなかったと思う。

それはウチが臆病だからというのと、もう一つはのんとの関係が一筋縄でないということが原因だろう。

321 :_:2006/09/23(土) 23:43
ウチとのんはアホみたいに長い時間を一緒に過ごした。
その結果として友情とか愛情とかそんな簡単な言葉で説明がつくような関係ではなくなってしまった。
ある時はライバルであり、また盟友であり同士だった。
バカみたいにベタベタしたこともあったし、くっつきすぎてお互いに嫌気が差したこともあった。
まるで夫婦みたいだよねとちゃかされて、事実成り行きで結婚式まで挙げてしまったが、
それすらも二人の関係を適切に表しているかというとよくわからなかった。
少なくとも自分にとってのんはかけがえのない存在であり、それゆえに簡単に心のうちを曝け出したりできなかった。
そもそもそんな必要など無かったのだ。二人でずっと走っている間は。

そう、のんがいればどこにだって行けると思っていたのは間違いない。
それだけは胸を張って言える。

そんなことを考えながらだから、返信を打つのに何時間もかかることもある。
まあ別に時間には苦労してないんだけど、贅沢な時間の使い方かもしれんなあとため息をつく。

322 :_:2006/09/23(土) 23:44
その時握っていた携帯が軽快な音を立てた。
最近あまり電話を受けることが無かったウチはとっさにかけてきそうな相手の顔を思いつかなかった。
しかもその時、時刻は既に真夜中だったので、ウチは少し身構えてディスプレイを見た。
そこには『こんこん』の文字が並んでいて、ちょっとほっとしたウチは落ち着いて開始ボタンを押した。

「もしもし?」
「あ、かーちゃん、おひさー。元気してた?」
「あ、うん。まあまあそれなりに。てか急に電話来たからちょっとびっくりした」
「あの、うーんとね、とりあえず窓の外見てほしいんだけど」
「窓の外?」

ウチは正直嫌な予感がしていた。
これは天気とか星とか宇宙人とかそういう他愛の無い話であってほしい。
しかし、そんなウチの健気な想いはあっさりと裏切られた。

二階の窓から外を見た瞬間目に入ってきたのは、街灯の下で大きく手を振っている見覚えのある二人組みだったからだ。

323 :_:2006/09/23(土) 23:44
挨拶もそこそこに乗り込んできた二人をもてなすために、ウチは紅茶を淹れている。
家の人は既に寝てしまっていたので、特に問題は無かったが、色々と納得のいかないものがある。
というより、懐かしさと何しに来たんだという不信感がごちゃ混ぜになった感情でいっぱいだった。

「で、何しに来たん?」
ウチは紅茶のカップを並べながら、幾分不機嫌さの混じった声で聞いた。
相手の非常識さもあったけれど、何より純粋に嬉しそうな顔をするのは気恥ずかしかったのだ。

それに呼応してマコトが待ってましたとばかりに勢い込んで説明を始める。

「えーそれがですね、まあこの度目出度く長い休暇というかバカンス? を取る事ができたうちらはですねー、
兼ねてから二人で長い旅行に行こうという計画を練っていたわけでありまして」
「まあ簡単に言えば一足早い秋の京都巡りのついでに寄った、といったところですね」
長口上になりそうなマコトを先回りして、こんこんがバッサリと話をまとめてしまった。

出番を奪われたマコトがふてくされる中、ウチは純粋な疑問をぶつけた。
「まあ、来た理由はわかったけど、何もこんな深夜に来なくてもいいんじゃないの?
家の人はもう寝てるからよかったけど、起きてたら説明するの大変だよきっと」

それを聞いたこんこんは紅茶を優雅にすすりながら平然と二本の指を突き出した。

324 :_:2006/09/23(土) 23:45
「深夜に来たのは簡単に二つ理由があります。一つはマスコミの目を避けること。そしてもう一つはすぐ寝るのによい時間だということです」
「二つ目の理由がよくわからないんだけど」
すかさずツッコミを入れるウチに構わず、こんこんは突き出した指を左右に振ってチッチッチと音を立てる。
「ある意味かーちゃんと私達は同じ問題を考えていたといえます。それは、『ハロプロに残るか残らないか』
私とまこっちゃんが事務所に今後の身の振り方を聞かれたとき、究極的にはこの問題に行き着きました」
話の流れが見えないウチはとりあえず聞くだけ聞こうと思って、無言で先をうながした。
「でも問題を与えられたところで、すぐに答えが出せるかといえばそうではありません。
それは、色々な思考や想いが結論へ向かう道をわかりにくくしてしまうからです。そして一度迷ってしまうと中々抜け出せません。
いわば袋小路だらけの迷宮を彷徨っているようなものです」
「うんうん」とマコトが妙に力の入ったうなづきを返す。
おそらくは、本人も身をもって体験したことなのだろう。
こんこんは一息ついてからまた長台詞を続ける。
「つまり現実で悩んで回答の出ないものは夢の世界で出せばいいんです。夢はそもそも無意識下での産物なのだから、
現実的な想いに惑わされることはありません。ある意味自分の純粋な気持ちがわかるのです」
なんとなくこんこんの言いたいことがつかめて来たウチは、彼女の言うところの内容をしばらく吟味して考えてみる。
すると、至極単純な疑問が浮かんだ。
「言うことはそれなりにわかるけどさ、そうそうそんな都合のいい夢を見られるわけないじゃん」

325 :_:2006/09/23(土) 23:45
そこでですね、とこんこんは我が意を得たりとばかりにニヤリと笑って、細長い棒状のようなものを取り出した。
「このキセルをですね、一服すれば……」
「いらんわ!」
ウチは反射的に突っぱねた。ていうかウチにそんなもんを見せるなんてデリカシーが足りないのじゃないだろうか。
ひどくむくれたウチを他所に、こんこんはただ飄々としていて、マコトはちょっと困ったような顔をしている。
っていうかコイツらおせっかいにもウチのことをどうにかしようと思って来たのだろうか。
それって本当に余計なお世話なんですけれども。

「うーんそうなるとですねえ、多少実力行使といいますか、ちょっと痛い目に遭うわけなんですが」
しばらく考えていたこんこんは、持ってきた鞄をごそごそやってからすまなそうな声色で告げた。
その手にはどこに入っていたのか、マンガでよく見るようなアホみたいに大きなハンマーを握っている。

「あのー一応聞くけどまさかそれで殴るつもりないよね」
「はい、殴るんじゃなくて思いっきりぶっ叩きます(はあと)」
「いやそれ絶対無理、ていうか本気? ちょマコトも止めてよ!」
「意思決定には多少の痛みは付き物ですからねえ」
「多少ちゃうやん! ってか死ぬわ!」

本気で身の危険を感じたウチはとっさに逃げようとするものの、後ろに素早く回ったマコトにがっちりと掴まれてしまう。
「それでは、失礼して……よい夢を」
こんこんは妙に嬉しそうな顔でハンマーを振りかぶり、物凄い勢いでウチの脳天目掛けて振り下ろした。

そして文句も恨みも言う暇も無くそれはやってきた。
恐ろしいまでの衝撃。
目の前に無数の星が散って、ウチの意識はあっという間に闇に落ちていった……。


☆ ☆ ☆

326 :_:2006/09/23(土) 23:46
「あーあーあー、ほら起きろ加護ー」
「ねえ起きて、ってダメだこりゃ」
「しゃあないなあ、ほんじゃうちの熱いベーゼを……」

悪寒とともに緊急信号が脳に送られて、ウチは跳ね起きた。
そのまま辺りを見渡すと、やけに薄暗い空間に自分以外に三人の人影が見える。
よく見るとそれはよく見知った顔ぶれで、中澤さん、飯田さん、保田さんのプリプリピンクマイナス一だった。

「アンタ今失礼なこと考えたやろ?」

すかさず中澤さんに突っ込まれたのでウチはぶんぶんと激しく頭を振る。
逆らうとキスの嵐が降ってくるのは既にいやというほど体験済みなのだ。

「まあええか、ちゃんと起きたみたいだし。とはいってもここはアンタの夢の中なんやけど」

ウチは多分思いっきりぽかんとした顔をしていたと思う。
でも確かに夢でもなければ、いきなり目の前にオバちゃん集団がいるなんてあり得ないことだ。
それにしても、わざわざ見る夢ならもう少しましな夢であってもいいのに。
ウチはこんこんとマコトのことを恨めしく呪った。

327 :_:2006/09/23(土) 23:46
「で、何かホラ悩み事とかあるんでしょ。カオリ達お姉さんが優しく聞いてあげるから」
とカオリはくねくねしながら長いまつげをパチパチさせている。
そんなカオリを押しのけて、中澤さんがだるそうな声で言った。
「ほんなん聞くまでもないやん。コイツが悩んでることなんて一つしかあらへんやん。
なあ加護、アンタは長い間結論を保留にしてきたやろ? とにかくアンタは今ここで自分の態度をズバっと決めんとあかん」

よく理解していないままに話がどんどん進んでいく。
だけど、何を話題にしているかはよくわかる。
ウチの夢だし、こんこんにこの世界に叩き込まれたんだから、これは復帰するかしないのか、この命題に間違いない。

「ひとつ言っとくと、これはあくまで意志であってそれが実現するかどうかというのとは無関係やからな。
それを成し遂げるのはアンタの力であって、今のこの選択が全部というわけじゃない」
ウチは首を軽くかしげた。
言っていることがわかるような、わからないような微妙な気分だ。
「つまりなあ、圭ちゃんがウィンクをするやろ。したらまあオェーってなるやん。
でも全員オェーってなるかどうかまではわからん。捻くれもんはせえへんかもしれん。
ここでアンタが決めることはウィンクをするかどうか、その決断や」

よくわかったウチはこくこくとうなづく。
それを満足そうに見つめた中澤さんがそのものズバリの問いかけを切り出してきた。

328 :_:2006/09/23(土) 23:46
「で、するの? しないの?」

誤解を招くような質問だが、三対の強靭な眼差しに射すくめられて一切の冗談を受け付けない雰囲気だ。
正直めちゃめちゃ怖い。
しかし如何に無意識下でのこととはいえ、こういった形で決断を迫られるとは思わなかった。
まあ、優柔不断なウチにはこれくらいでいいのかもしれないのだが。

だからこれは答えを出すチャンスかもしれないと思った。
出すというより出してしまう、というのが正しいかもしれないが、選択を迫られて出した結論であっても、
自分の想いの一部であることには間違いがないのだ。
それに今までいくら考えても結論は出なかった。
こんこんの言っていることはある意味で正しかった。
思考の袋小路にはまっていてはいつまで経っても抜け出す事なんてできやしない。
だからウチは考えるのを止めた。

そしてただ単純な気持ちに全てを任せることにした。
未練と不安を一瞬で秤にかけた。
その刹那において片方の気持ちが上回ってゆっくりと沈んでいった。
ウチは自分の口がゆっくりと開いて言葉を発するのを他人事のように聞いた。

329 :_:2006/09/23(土) 23:47
「ウチは……復帰する。いや、したい、と思います」

三人の目が同時にギョロリと動いた。
正直ちょっとした悪夢だ。いや実際夢なんだけど。

「じゃあその覚悟が本物かどうか試させてもらうで」
中澤さんが手にした携帯で何やら誰かと会話をしている。
ウチの夢の中なのにウチが知らぬ間に話が進んでいくのは何やら歯がゆい。
そのうちに手短に話を終えた中澤さんがこっちを向いて内容の説明をしてくれる。

「アンタは今から色々な場所に行って、よく見知ったメンバーに会うことになる。その全員に認めてもらえば、
まあ私達もアンタの決意も固いと認めてやる。でも同じメンバーとはいっても、厳密な意味では同じではない。
つまり、アンタが会うのはアンタが復帰しなかった世界のメンバーってことやな」
「復帰しなかった世界って?」

あまりに聞き逃せないことをさらっと言われたので思わず突っ込んでしまった。

「そんなん文字通りの意味やん。世界は可能性の数だけバーっとあって、アンタが復帰しない世界もあるっちゅうことや。
ほんで、復帰するつもりのアンタにとって敵になるのはそういう世界の奴らってことや」
「あの、それってウチが復帰したら……」
「うーん、確かなことは言えんが、多分その世界は力を失って最悪消えるかもしれん」

「そんな……」
「まああくまで可能性やから、あんま気にせんとき。ていうかごちゃごちゃ言ってないではよ行けや」

中澤さんは色々と面倒になったのか、手を振ってウチを追い払おうとした。
カオリとオバちゃんはもう少し普通に手を振って見送ってくれている。

「じゃあ、行ってきます」
その言葉が引き金になったのか、場面が一瞬で光に塗りつぶされウチはあまりの眩しさに目を閉じる。

330 :_:2006/09/23(土) 23:47
目を開けるとそこは、メンバーのたむろする楽屋のようだった。
今にして思えば随分と懐かしい感じがする場所だ。
そこにはゴロッキの面々と久住小春が思い思いの位置で談笑したり、ゲームをして暇をつぶしていた。

ウチがたどり着いた音と気配で、七対の目がほぼ同時にこちらを見つめてきた。
刹那、軽い緊張が走ったがそれを打ち破るようにミキティがぽんぽんと手を打ち鳴らして声を出した。

「はい、ということで加護ちゃんが来たので集合ー」

呼ばれた面々は特に何事もなく、まるでダンスレッスンの時のようにガヤガヤと寄り集まる。
ウチはもっと迫害の目を向けられることも覚悟していたので、案外普通の態度で少し拍子抜けしてしまった。
もっとも矢口さんや安倍さんの前例があるので、微妙な表情を隠すのに慣れてしまったのかもしれない。
ウチは自分が昔苦労したことを思い出してちょっと心の中で苦笑した。
すると、そんな思いを打ち破るようにミキティはテキパキと話を進めていく。

「まあ結論から言うと、ゴロッキ的には小春が代表ってことで、加護ちゃんが先に進みたいなら、
小春をどうにかしてから行ってください」
「はいなー」

名指しされた小春が勢いよく前に飛び出てくる。

331 :_:2006/09/23(土) 23:48
「あのー小春ちゃんゴロッキじゃないと思うっ……」
「まーまーガキさん、固い事は言いっこ無しやん、ほら早よういこ」

れいながガキさんを宥めながら、こっちに向かってウィンクを飛ばしてくる。
ちゃっちゃとやれってことか、と気持ちを引き締めて小春を観察した。

記憶にあった頃より随分背が伸びて、体が大きくなったように見える。
それだけじゃなくて、新人の弱弱しさが剥がれてきて芸能人のオーラともいうべきものが滲み出てきていた。
なるほどミラクルの名は伊達ではないのかもしれない。
けれど、ウチはもっと凄いミラクルを起こさんといけん。

「んきゃーーーーーーーっ」

勝負は一瞬の交差で決着がついた。
無心で突っ込んできた小春の股下をかいくぐり、ウチが必殺のカンチョーをヒットさせたのだ。

昏倒した小春を介抱する愛ちゃんと重さんを尻目に、ウチはとっとと次の場所へ進むことにした。
背後でミキティを親とした賭け事の支払いが行われていたような気もするけれど、もしかしたら気のせいかもしれない。

「てゆうか親しか得してない気がするんやけど」
「えーあれ、そういえばそうかも」
「だかられいなは賭けが偏ってるって言ったと。もー何かバカみたいっちゃん」
「うーんとりあえずここは亀のせいにしよう、ね、田中っち」
「えええっ」

332 :_:2006/09/23(土) 23:48
ウチは気が付くとみすぼらしい家を模したセットにいた。
自分の格好もいつの時代の子供だよ、とツッコミを入れたいものになっていて、自分がどこにいるかよくわかった。
その瞬間戸が勢いよく開いて、よく通る声が聞こえてくる。

「おう、今帰ったぞー」
ウチはやっぱり懐かし過ぎて思わず抱きつきそうになるのを抑えて、返事をしようとする。
キャラになっている限りは演じなければならない、そんな観念は身に沁みて根強く残っている。
「とうちゃん、お帰り」
「おう、ただいまだな」
向かい合って一徹と座る。いつもより一段と一徹の視線が厳しくて、何とも落ち着かない気分だ。

「それで、ひとすじ。旅に出るというのは本当か」
厳密な意味では今までずっと旅に出ていた、というのが正しいような気もするが細かいことを気にしていても仕方がない。
「はい、ふたすじと一緒にやっていくつもりです」
「あてはあるのか」
「ありません」
「じゃあ、ダメだな。わしも若い頃あてのない旅をしたことがあるが、あれは酷いものだった」
「でも」
「ダメと言ったらダメだ」
一徹はヘソを曲げてしまった。こうなったらウチの立場から何を言っても無駄である。ウチは素直にもう一人の登場を待った。

333 :_:2006/09/23(土) 23:48
「あなた、ひとすじを行かせてやってください」
「トメ子、お前は口を出すな」
「いいえ出します。だって昔あなたが旅をして倒れているのを助けたのは私ですよ」
「それとこれは話が別だ」
「別じゃありません! だってあなたが旅に出なかったら私たちは出会わなかったんですよ!」
「お前はひとすじとふたすじが出て行っても平気なのか!」
「平気なわけないでしょう! でもかわいい子には旅をさせよって言うじゃないですか」
「うううぬ、トメ子用意しろ」
「トメ子止めます!」
「トメ子止めるな!」

そしてお約束のようにちゃぶ台はひっくり返され、トメ子とウチは熱いビンタを食らってキリキリ舞をする。
ていうか何かマジで殴られてるんですけど。
仁王立ちしたままの一徹はこちらに顔を向けないまま、諦めたように溜息をついた。
気持ち上向き加減なのは、もしかしたら涙を堪えているのかもしれない。

「わかった。どこへでも好きなところへ行って来い……ただし必ず戻ってくるんだぞ」
「あなた!」

嬉しそうに寄り添うトメ子を見ながら、ウチはそっと目を閉じて次の場面を思い浮かべる。

「ついでにあのペンギンもどうにかしてやってくれ」

334 :_:2006/09/23(土) 23:49
次にウチを待ち受けていたのはごっちんで、恐るべきことにちゃんと起きていた。
何故かその格好はペンギンのような気ぐるみを着ていたが、ともすればだいこんのようにみえることもあった。
ウチの疑問が表情に出たのか、ごっちんは頭を掻きながら釈明する。

「あんまり遅いから寝てたんだけど、寝るのも飽きちゃってさあ」

飽きるほど寝たっていうのは一体どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
正直夢世界の時間の流れ方なんてウチにはよくわからなかった。

「ごとー的には特に言う事無いんだよねえ」
そう言ってごっちんは、ぽんぽんと膝の上を叩いて手招きをしている。
どうやらそこに座れという事らしい。
ただ、気ぐるみのかさが大きすぎて真上にうまく座ることができない。
仕方がないので側面に頭をあずけてもたれかかることにした。
ごっちんはウチの頭を軽く叩きながら、ぽつぽつと言葉を綴っていく。

335 :_:2006/09/23(土) 23:49
「あいぼんさあ、何か夢とかやりたい事ってある?」
「ごとーはね、少し前にシークレットライブやったんだけどさあ、あれはかなり楽しかった」
「ライブもダンスもまだまだだって思った。まだまだやれるしまだまだ楽しめる。まだまだ過ぎだね」

ごっちんの言葉はいちいち身に沁みた。
ウチがやりたいことって何だろう。

「わかんなくてもいいんだよ、なんて言うとえらそーだけどさ。自分だって昔はよくわかってなかったし」
「なんか特に言う事無いっつったけど、なんか一杯喋っちゃった気がする」

そういってごっちんはにへらーと笑った。
ウチはその笑みがあまりにも昔と変わっていなくて、思わず懐かしい呼び名を使ってみた。

「師匠、加護は行きます」
「うむ、行ってよし!」

力強く送り出されたウチはその気合を胸に、次の場面を思い浮かべる。
背後ではごっちんがくったりと倒れてスースーと寝息を立てていた。

336 :_:2006/09/23(土) 23:50
極彩色の背景の中、やぐっつぁんが腕を組んで仁王立ちしていた。

「やっと来たか」
ウチはやぐっつぁんから感じる本気のオーラを感じて、余計な事は言わずにただ頷いた。
ただどうしてもぴょ〜ん星人の格好なので全てにおいていまいち迫力が出ない。
そんなウチの気持ちを知ってか知らずか、やぐっつぁんも自身の格好を眺めてはため息をついている。
「はぁ、ハタチを超えてまでこの格好をすることになるとは……もー絶対お前の願望が入ってるよ加護ぉ」
そういうものかな、とウチは自分の無意識に思いを巡らせてみる。
正直自分も今の歳でこの格好は結構恥ずかしかった。

「オイラはね、やっぱ自分が大事だから加護を黙って行かすわけにはいかない」
「じゃあ殴り合いでもしますか」
「バッカ、うちらが本気で殴り合ったらますますバカみたいに見えるじゃないか。それにオイラは喧嘩がキライなんだよ」
「それじゃどうします?」
「そりゃお前、この格好だけにゲームで勝負するんだよ」

337 :_:2006/09/23(土) 23:50
目の前のスクリーンに突如として何やら画面が映し出される。
どうも大分デフォルメされていたがそれは対戦テトリスのようだった。

「最近なっちとはまっちゃってさー。オイラ相当やり込んだんだよね」
「ふうん、じゃあこりゃ負けちゃうかもしれませんね」
「かも、じゃなくてオイラが絶対勝つかんね……じゃ三本勝負で」

実のところバラしていなかったが、ウチは膨大な暇をいいことに最近の流行のゲームはかなりやり込んでいた。
しかも自分で言う事じゃないけれど、ウチは無駄に器用なのだ。

一本目は様子を見ながら行って、カウンター気味にぼこぼこ盛り上げて勝利。
二本目はやぐっつぁんも慎重に来たけれど、やっぱり問答無用に盛り上げて終了。

呆然としているやぐっつぁんを弄るのも可哀想なので、そっとしておいたら案の定ぐれて床にのの字を書いている。

「ほら勝ったんだから早く行けよー」
「親びん、ありがとうございます」

ウチがそう声をかけてもやぐっつぁんは振り向いてくれなかった。

338 :_:2006/09/23(土) 23:50
急に開けた場所に放り出されたウチは、広大な空間を見渡す。
どこまでも広がる青空。辺り一面のトウモロコシ畑。
それらを呆然とただ眺めていると突然背後から振り返る余裕も無く、いきなり抱きすくめられた。

「もー心配したっしょー」
体全体が柔らかくって暖かくって甘い匂いのするものに包まれる。
ウチは娘。のメンバーの中でこんな感触を持っている人はたった一人しか知らない。

「安倍さん」
「なんだべ」

まるで太陽のようだと称されたその微笑みは相変わらずとても優しかった。
そういえばこの笑顔を取り合ってのんと争ったこともあったっけな、と唐突に懐かしく思う。
しばし感慨に耽っているウチを優しく揺すりながら、耳元で静かに話し始めた。

「なっちはさ、結構前にいろいろあったっしょ。その後戻ってきて仕事始めた時ね、
そん時もうやっぱりすっごいすっごい辛くてさあ……。加護にはね、そういう辛いの味わってほしくないんだよ」
安倍さんの言う事は痛いほどよくわかった。
自分とて、戻ってきた安倍さんに対しては、なかなかちゃんとした態度がとれなかったのだ。
のんやガキさんは比較的同じように接していたけれど、他のメンバーもだいたいはちょっと壁を作ったような感じになった。
今度はウチがそういう扱いを受けるのだろう。
それにウチは耐えられるのだろうか。
たとえ耐えられなくても、もう何かに逃げることは許されないのだ。
ウチはゆっくりと自問自答する。
でも、既に答えの方向は決まっていた。

339 :_:2006/09/23(土) 23:50
ウチは乾いた唇をそっと舐めて、それから返答を返す。
「やっぱりのんに会わなきゃいけないしそれに……」
「ん、何さー?」
「あんな、ウチはおませだからお母さんのすることはみんなしたの。化粧とか料理とか全部。
結果とか良い悪いとか考えなかった。そんで、お母さんには負けたくなかった。だからダメだって言われてもやると思う」
「なっちはお母さんかい。まだそんな歳じゃないと思うんだけどなー」
「へへっ、おかあーさん」
「うわーなんかくすぐったいっしょー。やめてよもー」

言いながら安倍さんはとても嬉しそうに笑っていた。
ウチもつられてケラケラと心から笑った。
もう随分とこんな風に笑ったことは無かったように思った。
まだまだ笑えるじゃん、と思ったら心が物凄く軽くなった。
吹き抜ける風がとても心地よかった。

ひとしきり笑いあって、それから安倍さんはウチに向き合って、ウチの目を真っ直ぐに見据えた。

「あいぼん、ののをよろしくね」

340 :_:2006/09/23(土) 23:51
そしてウチはのんの姿を見た。
どこか懐かしい感じがするステージにただ一人立っていた。
これは、ウチらが初めて二人だけで立ったステージだ。
そのステージだけが切り出されて、余計なものは何も無かった。
端から見下ろした方向には本来あるはずの床さえ見えなかった。

ウチはのんの数歩前で立ち止まり、ただのんを見つめた。
もう随分長い事会っていなかったような気がする。
お互いに言いたい事は山ほどあったけれど、何一つとして言葉にならなかった。

「あいぼん……」

やっとのんがかすれた声を出した。

「あいぼん、のんは、のんはっ!」

一度声を出したのんは、叫ぶように次々と声を出していった。
感情が高ぶってきたのんは、呼吸を荒くし始めてゆく。
過呼吸の兆候かもしれない。

341 :_:2006/09/23(土) 23:51
けれど、ウチはのんに近寄って抱きしめていいのかわからなかった。
自分に対して後ろめたさもあった。
そして中澤さんの言う事を信じれば、『自分が復帰しなかった』世界ののんはどのみち助けられないとも思った。
それはただの言い訳に過ぎないと知りながらもウチは一歩も動く事が出来なかった。

「のんは、ずっと待ってた」

その言葉はどんな言葉より深くウチの胸をえぐった。
ウチはこの世界ののんを裏切っているのだ。
その世界でのんはどれだけの想いを抱えてきたのだろう。
ウチには謝る言葉の一つも思いつかなかった。

「あいぼんは、ここを超えれば帰ってくる」
魘されたように呟きながら、のんはじりじりとステージの端へ後退していった。
その足は震えて膝も笑い、今にも倒れこみそうだった。
ウチはもう声を上げて抱きとめようとした。
まさにその時、のんはどこから出したかというほどの大声を上げた。
ウチはビクっとして行動を止めてしまう。

「だから―――」
そしてのんは自らステージの端から奈落へと身を躍らせた。

342 :_:2006/09/23(土) 23:51
のんの体が宙を舞う。
ウチの伸ばした手は届かない。
ウチもそのままの勢いで落下していく。

繰り返し体験した場面が頭の中に激しくフラッシュバックした。
いつもいつもいつもいつも助けられなくて後悔ばかりしていた。
いつものんの愛情に助けられてばかりだった。

結婚式を挙げた時、のんを守ってやろうと思った。
たとえ『敵の』のんでも自分の目の前からいなくなるのは耐えられなかった。
あの時、のんを守ってやろうと思った、その思いには一片たりとも嘘偽りはなかった。

二人ならどうにかなる。
それにこれはウチの夢なんだから、どうにかできる、できるだろう?
ウチは心から願った。
願いの成就を祈った。

343 :_:2006/09/23(土) 23:52
気が付くと、ウチの右手はのんの足を掴んでいた。
ウチの方が遅く落ちたのに、普通はそんなことはあり得ない。
でも確かにちゃんと手ごたえを感じることができる。
つまりそれは、普通じゃない事が起きているということ。


のんの背中から片翼の羽が生えていた。
その羽がわずかな浮力をもたらしているのだ。

ウチの想いは歓喜に弾けた。
そのとたん、自分の背中にも熱い感触を感じた。
肩甲骨の辺りから急速に盛り上がって広がっていくものがあった。

今ではゆっくりと落下するだけになったウチらはお互いに手の届く距離にあった。
そのまま両手をしっかりと握り合わせる。
互いの体温を、鼓動を、存在を痛いほど感じることができる。
ウチらはやっぱり二人で一つだった。
最初からわかっていたことが、今さらになってちゃんと信じることができた。
のんの目がすぐ目の前にあった。
のんの瞳孔に映っている自分の姿が見えた。
のんの目を通してみた自分の顔はもういまにも泣きそうで見ていられなかったけれど、
一言伝えるまではちゃんと泣かずに頑張ってそして、



ごめんね―――。

344 :_:2006/09/23(土) 23:52
「これでわかったやろ。アンタの本当の願いは『辻と一緒にいたい』ってことが」

いつの間にか夢の最初の場面に戻っているようだった。
のんの手を握ったままのウチの周りに中澤さん達がいるのが見える。

「でも、ここにいるのんはウチが復帰しない世界ののんだからこのままじゃ消えちゃうよぉ!」

ウチは心から絶叫した。
折角掴んだ手を二度と離すまいと力を込めた。

「フン、大人はずるいってこと覚えとき。実はなアンタが復帰しない世界なんて無いんやで」
ウチが目を剥いていると、オバちゃんとカオリは微妙に視線をずらした。
みんなずるい大人だった。

「そのifはアンタの夢の中にはあるかもしれん。だけど現実にはアンタが進む世界はたった一つだけや。
アンタが復帰するかしないかは全部アンタ次第や。アンタはまだウィンクする前の状態ってことやな。
ウィンクするも翼を広げて飛ぶのもぜーんぶアンタのサジ加減や。自由って最高やん!」
「密かにウィンクとウィングがかかってるのね、ウフフ」
「カオリ的には多世界って素敵だと思うんだけどね」
「えーいアンタら混ぜっ返すなボケ! 一番ええとこやのに……」

ウチは肝心なことが気になって、中澤さんに質問した。
「なあ、これって結局夢じゃないですか。ウチは起きても今のこと覚えてるんですか?」
「うーん、夢って大抵全部は覚えとらんやろ? でも強烈な印象のところは心に残ってるやん。だから心配しなくてもええよ。
それに、アンタは立派にちゃんとやり切ったんだから大丈夫や」
「そうだよ大丈夫よ、あいぼん。カオリも祈ってあげるから」
「なんなら覚えられるようにウィンクしてあげよっか」

「いや遠慮しておきま……オェー」

そしてウチの意識はゆっくりと浮き上がるように途絶えていく。


☆ ☆ ☆

345 :_:2006/09/23(土) 23:53
眩しい光によって目が覚めた。
時計を確認すると、午前七時。既に朝になっていた。
朝もはよから差し込む光がとても気持ちいいと思った。

でも全身が汗でべとべとになっていて、頭は気が付くとずきんずきんと痛みを持っていた。
そういえば、いつの間にやらこんこんとマコトはいなくなっていた。
というよりそもそも二人が来ていたのも、現実だったのだろうか。
散らかしたままのはずのカップ類も片付けられていて二人がいた形跡はどこにもなかった。

ともあれ、ウチは深く考えるのをやめた。
何故なら本当は気持ちが悪くなるような状態でも、ウチの心は嘘みたいに澄み渡って、一つの決意をしていたからだ。


Wの三周年記念。
来年の五月までには絶対復帰する。

その時には新しいネイルを贈ろう。
それは大きな翼が描かれるはずで、ウチにはその造形の詳細を手に取るように思い浮かべる事ができた。

346 :_:2006/09/23(土) 23:54

fin

347 :名無し娘。:2006/09/24(日) 11:02
泣いた

348 :名無し娘。:2006/09/25(月) 00:47
泣けた(;´Д⊂)

349 :名無し娘。:2006/09/25(月) 08:21
悪くない

350 :名無し娘。:2006/09/26(火) 16:45
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
感動したあああああああああああああああああ

351 :名無し娘。:2006/12/11(月) 13:17
あいぼんに捧げる351ゲット

352 :名無し娘。:2007/01/06(土) 14:05
あいぼんに捧げる352ゲット

353 :名無し娘。:2007/01/29(月) 13:12
アイボンに捧げる352ゲット

354 :名無し娘。:2007/02/25(日) 12:23


355 :名無し娘。:2007/03/21(水) 00:10


356 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:31

「なんだろう、これ」
「ってゆーかなんだろうもなにもないと思うんですけど」

二人は異なる表情で同じものを見ている。

「いや、そうなんだけどさ。なんか……」
「あれ? 藤本さんも? もしかして絵里も一緒かも」

二人は同じものを見ていながら異なる表情を浮かべ。
それでいて瞳の奥にはその表情とは異なる、ある種同じ色を滲ませていた。

357 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:32

「ウソ、そう? なんか引っかかってる?」
「そーなんですよお。なんかどっかで見たことあるってゆーか」
「そうなんだよね」
「そりゃ見たこともあるし、食べたことだってあるんですけどお」
「美貴だってあるよ。でもそーじゃなくってさ」

そう話すとおり、二人が見ているものはごく当たり前の食べ物である。
おそらく多数の人間は、それを知っているし食べたこともあるであろうものだ。

358 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:32

「なんてゆーんですかね、こお……」
「引っかかるんだよね」
「引っかかりますねえ」
「やっぱ? なんだっけなあ」
「しかもですよ、なんかね、すっごいヘンなことなんですけど」
「なにさ」
「えっと……笑わないでくださいね」

そう話す絵里は自分でもおかしなことを考えてると、そう理解しているのだろう表情であり。
けれど、どこかでそういうこともあるのかもしれないと、そう考えてもいるかのようでもあった。

359 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:33

「笑わないけど、なに?」
「なんかね、もう一人いたような気がするんですよお」
「って?」
「娘。に、もう一人」
「うん」
「でもね、男の人なんです」
「……なわけないじゃん」
「ですよねえ」

二人はさもおかしなことを言い、おかしなことを聞いたと笑う。
笑いながらもその笑いは実感を伴っていず、上っ面をすべっているような乾いた笑いだった。

「“娘。”なんだよ? 男が入れるわけないじゃん。もうバカだなあえりえりは」
「ですよねえ。ホントどうしちゃったんだろう、あたし」

二人は下手な芝居でもしているみたいに言葉を交わす。
その言葉も虚しく響いているとお互いに気がついていると知っていながら。

360 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:33

「……ちょっとよっちゃんくらいの、感じ?」
「藤本さんとか、石川さんとか、くらいの感じ?」
「なんかへらへらしてそうだよね?」
「なんか優しいっぽくないです?」
「みんなに気ぃ遣うよね、きっと」
「みんなに好かれますよね、多分」

二人の会話は意味のない仮定のようなもので。
それでいてどこかで確かな形を持っているような口ぶりである。

361 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:34

「あ、なんかさ」
「えー? なんですかあ」
「こんな話してたら、なんか美貴無性にイライラしてきたんだけど」
「絵里はなんか楽しくなってきましたけど?」
「や、そっちじゃなくってさ。話ながらそれ見てたら」

美貴は先程まで二人が見ていた“もの”をあごでひょいと指し示す。
不思議そうにそれへ目をやった絵里は、しばらくジッと見つめた後、やはり不思議そうな表情で口を開いた。

「……なんか絵里イヤな感じしてきた」
「イヤな感じ? イライラじゃなく?」
「んー、そういうのと違うみたいなんですけどお」
「違うんだ。なんだろう……」
「なんですかねえ。なんかすっごいいじめられた後みたいな」
「なんだそりゃ」

二人は同じものを見つめながら、異なる感情が涌き上がってきていて。
異なる感情でいながら、どこかで同じ事柄を共有しているようであった。

362 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:34

「なんか、もうちょっとでハッキリしそうな気もするんですけどお」
「んー、美貴もなんだよねー」
「でも、これ、ジーっと見てると、なんか息苦しい気になってくるんですよお。なんでだろ」
「そうなの? 美貴はねー、なんだろ。なんかこう、やり場のない怒りが湧いてくんだよね」
「急に暴れ出したりしないでくださいよお?」
「しないっつーの」

顔をしかめて言い捨てた美貴が、ふと気がついたように視線を廻らせた。

「さっきっから静かだけどさ、なんかそーゆーのない?」

美貴の言葉に、やはり同じく今気がついたように絵里もその方向へと目をやった。
二人の視線が集中したもう一人は、まるでそれが合図ででもあるかのごとく動いた。

363 :名無し娘。:2007/04/15(日) 21:35

「あーっ!」
「あっ、こいつ! 喰いやがった!」

カリカリと噛みくだき嚥下しようとするその喉元へ美貴が腕を伸ばし叫んだ。

「喰うなっ。辻ちゃん! 辻っ!! 出せえ」
「のんつぁん! 食べちゃダメぇ!」
「もご、んぐんんっ、ぅんんーっ!」

二人に首と肩を揺すられながら、それでも何ごとか反論しようとしている希美の口内から、“それ”は落ちていく。
不思議な記憶を喚起する……、はずだったピーナッツは、胃袋の中へと消えた。

「んごんぐんんーーっ!!」

364 :小津苛K:2007/04/16(月) 18:12
从*・ 。.・)つω<何だろうこれ?

ノノ*^ー^)<さぁ・・・・?



从*・ 。.・)つω<何だろうこれ?

从;` ヮ´)<さ・・・・サー?   

365 :名無し娘。:2007/04/16(月) 19:19
pgr

366 :名無し娘。:2007/04/16(月) 21:51
亀井 「何だろう、これ。・・・うーん」
新垣 「考えちゃダメ。直感だよ、直感」
亀井 「え〜、そんなこと言ったって。んー、なんだろ。何にも見えない・・・」
新垣 「ハイ、3、2、1・・・」
亀井 「待って、わかった! 象だ! 象に見える!」
新垣 「象ぉ〜?!」
亀井 「そう! 象がこう立ち上がってパオ〜ンってやってるの」
新垣 「立ち上がって〜? どこがよ」
亀井 「いいの! 絵里にはそう見えるの!」
新垣 「はいはい。まあいいけど、たぶん載ってないと思うよ」
亀井 「そんなことないですって。みんな象に見えますって」
新垣 「・・・象、・・・象」
亀井 「どうですか?」
新垣 「えー、この絵が立ち上がった象に見える人はとても残念な人です」
亀井 「はい?」
新垣 「しかも天然ボケでギャグがちょー寒くて部屋もグチャグチャです」
亀井 「ウソだぁ。ぜったい書いてないよそんなこと。ガキさん作ったでしょ」
新垣 「うん、ウソ。象とかないから。てか、これが象に見えるのはやばいって」
亀井 「やばくないですって。じゃあさ、藤本さんにも聞いてみよう」
新垣 「いいよ。ミキティ、これ何に見える?」
藤本 「は? なんなの?」
亀井 「心理テストなんです。絵が何に見えるかでその人の性格がわかるんですよ」
藤本 「ふーん。そんで、どれ?」
新垣 「これ。何に見える? 考えちゃダメだよ。直感で」
藤本 「ティッシュだな。洟かんだあとの」
亀井・新垣 「うえぇ」
藤本 「見えるでしょ。洟かんだあとのティッシュをひろげてみるとこんな感じだよねー」
新垣 「カメ、向こうで続きやろうか」
亀井 「そうですね」
新垣 「これが象に見えるカメがあたしは好きだよ」
藤本 「ちょっと! 待ってよ! ティッシュに見えるじゃん! おーい!!」

367 :名無し娘。:2007/04/29(日) 21:53
   川#σ_σ|| <なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!!         ビクッ 煤i^▽^; )

(^▽^; ) <ど、どうしたの柴ちゃん。
川σ_σ|| <あ、梨華ちゃん。演技のお稽古してたんだけど、どうだった今の。

(^▽^ ) <今の演技だったの? お弁当にゴキブリでも入ってたのかと思った。
川σ_σ|| <やれやれ。今のはジーパン刑事殉職の有名なシーンでしょうが。

(^▽^ ) <そうなんだ。ゴメン、あたしジーパン刑事とか知らないし。
        スケバン刑事のマサオくんの爆死シーンなら覚えてるんだけど。
川σ_σ|| <松田優作も知らないで女優を気取ってるとか、梨華ちゃんもいい気なもんだよねー。
       こっちはいつ舞台の代役のオファーが来てもいいように日々努力してるっていうのに。

   川σ_σ||   (^▽^ )            大変だよ!!> (´〜`O)三三三

(´〜`O) <辻ちゃんが急病で舞台降板だって!
( ;^▽^) <ええっ、ののが?!

 キラーン
   川σ_σ||☆ キターッ!!              ( ;^▽^)  (´〜`O)

川σ_σ|| <辻ちゃんには気の毒だけどわたしにはチャンス・・・。神様ありがとう。

(´〜`O) <そんで急遽あたしが代役。参ったなあ、セリフとか覚えんの自信ないよ。
( *^▽^) <(やだ、よっちゃんがあたしに弱音を吐いてる!) 大丈夫、石川さんがついてるって!
(´〜`O) <頼むね梨華ちゃん。
( *^▽^) <任せて! ウォーミングアップから手取り足取り教えちゃうよ!!

   川+σ_σ||              イチャイチャ ( *^▽^)人(^〜^O) イチャイチャ

川+σ_σ||ノ <なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!!

368 :名無し娘。:2007/04/29(日) 21:55
ジュンジュン 「何是? 何故彼女達顔黒?」
リンリン. 「是ハ渋谷的若娘ネ。山姥娘ト呼バレテルヨ」
ジュンジュン 「山姥?」
リンリン. 「昔カラ日本ニ住ンデイル。人肉ヲ食ベルネ」
ジュンジュン 「食人種?!」

リンリン. 「其ノ末裔ネ。中央ノ娘ハ胃袋底無ヨ。挑戦的飲食店ノ店長、彼女見ルト泣キ出ス」
ジュンジュン 「我疑処可能是小身体」
リンリン. 「身体ハ小サイケド、中国ノ蝗ヨリ性質悪イ」
ジュンジュン 「吃驚」

リンリン. 「右ノ娘ハ眼鏡娘ネ」
ジュンジュン 「眼鏡娘?」
リンリン. 「下着ハ脱イデモ眼鏡ハ取ラナイ」
ジュンジュン 「何故? 意味不明」
リンリン. 「外国人ニハ理解難シイ。侘寂ノ境地ネ。大和撫子奥床シイヨ」
ジュンジュン 「日本文化深遠也」

リンリン. 「左ノ娘ハ辻希美サンネ」
ジュンジュン 「我知。小姐辻同様末裔山姥?」
リンリン. 「否、彼女ハ子泣キ爺の末裔ネ」
ジュンジュン 「子泣爺?」
リンリン. 「彼女ノ前デハ決シテ食ベ物自慢シタラ駄目ヨ。取リ憑カレテ泣カレルネ。
       泣ク度ニ彼女ハ石ノヨウニ重クナリ、最後ニハ潰サレテシマウ」

ジュンジュン 「恐怖!! 如何脱出方法?」
リンリン. 「八段氷菓子ヲアゲルト言エバ吉」
ジュンジュン 「八段氷菓子! 了解。我絶対不忘、謝々」
リンリン. 「ドウイタシマシテ。日本ノ事ハ何デモ聞イテネ」

光井   「(あぅ〜。違う・・・違うんやけどうまく説明できそうもあらへん・・・)」

369 :名無し娘。:2007/05/01(火) 23:11
「What's this?」
「ん〜発音これでいいんだっけ〜」

ガチャ
「おはよー…光井今日も早いね〜」
「おはよ〜ございます〜」

栓を抜いて放っておかれたラムネのような、どこか気の抜けた声。

「ところで光井、それ英語の教科書?」
「そうなんです〜イマイチよくわからなくって〜」
「ウチらが使ってたのとはそ〜と〜違うね」
「吉澤さん英語得意なんですかぁ?」
「一応ハロモニで帰国子女やってたかんね」
「じゃあ教えて下さいよ〜」
「あーあー聞こえなーい」

どこにでもあるようでここにしかない、そんなコピーの付きそうな会話。

370 :名無し娘。:2007/05/01(火) 23:11
「じゃあ光井はどうなの?」
「えーここに書いてあるぐらいならなんとか…」
「ちょっと読んでみてよ。
 2人きりで個人レッスンしてあげる」
「はぁ〜じゃあ読みます〜」

What's this?
Oh, is it this?
This is my bag I bought last week.
Is not it good?
Yes! It's so cute.
But, this bag was so reasonable.
Then, where did you buy this bag?
Let me see…
It's too complicated to explain the location!
Shall we go to the shop together this time?
Really!?
Thank you!

「すごいすごーい!キャハハ」
「何ですかそれ?」
「あぁ気にしないで。ところでそれどういう意味?」
「これはですね…」

371 :名無し娘。:2007/05/01(火) 23:12
ガチャ
「おはよーございます!」
「おぉガキさんおはよー」
「おはよ〜ございます〜」

一気に部屋は騒々しさの階段を駆け上る。

「あれ?これ何?」
「あぁこれ?先週買った新しいバッグ。良くない?」
「良い!すっごいカワイイ!」
「でもこれ結構安くてさ〜」
「じゃあ、このバッグどこで買ったの?」
「んーとねー説明しにくいな〜…今度一緒に行こっか。」
「本当!?ありがと〜!」

ひとしきり話した後、この一言。

「ゴメン光井、それでさっきのはどういう意味なの?」

372 :名無し娘。:2007/05/02(水) 22:23
(O^〜^)ノ <何だろう、これ。ゴソゴソ
从 ´ゥ`)<誰かからの差し入れだよー。
(O^〜^)<おっ、今川焼きかあ。おいしそう。みんなは食べたの?
从 ´ゥ`)<小春は食べた。

(O^〜^)<みっつぃーは?
川 ´┴`)<わたしは食べてないですー。
(O^〜^)<なんで? 今川焼きキライ?
川 ´┴`)<いえ、あの、それチョコとカスタードの2種類あるんです。吉澤さんが
       どっちが好きか分からなかったので。
(O^〜^)<それで待っててくれたんだ。好きなほうを食べちゃってよかったのに。
川 ´┴`)<でもー。

(O^〜^)<んじゃ一緒に食べよっか。そうだ、半分こしよ。
川*´┴`)<はい。
从 ´ゥ`)<小春も! 小春も半分こする!
(O^〜^)<いや、小春の分はないから。
从;´ゥ`)<やだやだ小春も食べる。小春カスタードの食べてないもん。

川 ´┴`)<じゃあこれ半分こしましょうか。
从 ´ゥ`)<うん! やったあ。
(O^〜^)<やれやれ。どっちが先輩か分かんないな。
从 ´ゥ`)<同い年だもんねー。
川 ´┴`)<はい。

(O^〜^)<みっつぃーもね、小春がうざかったらエンリョしないでグーパンチして
       いいからね。
从 ´ゥ`)<グーパンチぃ? ひどーい。
川 ´┴`)<んふふふふ。
从 ´ゥ`)<小春うざくないもん。小春とみっつぃーは仲良しだよねー。
川*´┴`)<はい。

373 :名無し娘。:2007/05/02(水) 22:25
田中 「何やろ、これ。この象、どっかで見た覚えがあるっちゃけど」
亀井 「あ」
田中 「あ、絵里。これ何か知っとー? なんかブサイクな象っちゃん」
亀井 「れいなそれどうしたの」
田中 「さっき拾った」
亀井 「それ絵里がさゆにあげたタイのおみやげだよ。ケータイのストラップ」
田中 「ああ! なんかこうブサかわいいって言うの? 愛嬌があるっちゃね」
亀井 「さゆ! さゆ! 象みつかったよ!」
道重 「ウソ、どこ?」
亀井 「れいながみつけてくれたんだよ」
田中 「ほれ」
道重 「やだ、どこにあった?」
田中 「ゴミ箱ん中」
亀井 「ええっ?! ちょっとー、あぶなかったじゃん」
田中 「れいなが救っといたから」
道重 「・・・ゴミ箱から?」
田中 「まあねー」
亀井 「ナイスれいな」
田中 「にひひ」
道重 「ありがとれいな」
亀井 「よかったよみつかって。さゆ、もうなくさないでよね」
道重 「でもこれ紐がすぐ緩んじゃうからなあ」
田中 「ふつう落としたら気づくやろ」
道重 「えー気づかないよ」
田中 「なんなら大事にしまっとけば」
道重 「あ、そっか。そうしよっかな」
亀井 「それじゃストラップの意味ないじゃん。ちゃんと付けててよねー」
道重 「え、うん。付ける付ける」


道重 「(家で捨てよう)」

374 :名無し娘。:2007/05/02(水) 22:26
从 ´ゥ`)ノ <何だろう、これ。ゴソゴソ
(O^〜^)<こらこら小春。他人のコンビニ袋をあさらない。それ梅子のだよ。
从 ´ゥ`)<梅子? ってだれー?
川 ´┴`)<それわたしのです〜。

(O^〜^)<光井梅子。梅が好きだから梅子って呼ぶことにしたんだよ。ねー。
川*´┴`)<はい。光井梅子でーす。
从 ´ゥ`)<・・・小春も梅好きだよ。
(O^〜^)<だから?
从 ´ゥ`)<小春も梅好きだもん。

(O^〜^)<小春はほんと負けずぎらいだなあ。
从 ´ゥ`)<うーめ! うーめ! 小春も梅がいーい!
(O^〜^)<じゃあ小春は小梅ね。久住小梅。
川 ´┴`)<わあ、かわいいですねー。
从*´ゥ`)<久住小梅! わーい!!

川 ´┴`)<モーニング娘。は梅好きな人が多いですよね。
从 ´ゥ`)<亀井さんにいっつもかりかり梅もらう。
(O^〜^)<カメちゃんか。カメちゃんは梅造だな。エリック梅造。
川 ´┴`)<新垣さんもよく食べてます。
(O^〜^)<ガキさんはおマメだからおウメにしよう。

川*´┴`)<んふふ、梅だらけになってきましたね〜。
(O^〜^)<これじゃあモーニング娘。じゃなくてモーニングお婆ちゃんだな。
川 ´┴`)<どうせお婆ちゃんですよ。
从 ´ゥ`)<どうせ老け顔ですよ。
川 ´┴`)<光井梅子で〜す。
从 ´ゥ`)<久住小梅で〜す。

川*´┴`)人(´ゥ`*从 <モーニングお婆ちゃんで〜す。      (いいよ君達)>(^〜^O)

375 :名無し娘。:2007/05/02(水) 22:37
いいねぇ

376 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:34
「? 何だろう、これ」

ドレッサーの引き出しの中に黒いケースがあった。
珍しくちゃんと整理しようと、普段半分くらいしか開けないのを全開にしたら、奥から出てきた。
たぶんアクセのケースだな。見覚えがあるような、ないような……。
取り出して見ると、シールが貼ってある。「Ayumi」の文字。

「あ」

梨華ちゃんとお揃いのピアスだ。二人でつけようね、と言って買ったんだ。
なのに、何となくそのまま引き出しの中に突っ込んでしまったんだよね。

たしか不思議な力があるってお店の人が言ってたけど、一度もつけたことはなかったっけ。
せっかくだから明日はこっそり学校帰りにつけてみようかな。

377 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:35







                      「エントリーしよう」






 

378 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:35

校門をでてしばらく歩いてから、いつもの通りポケットからピアスを取り出した。
最近ではもう習慣になってしまっている。

それは、ささやかなストレス発散の方法だった。
進学校ということになっているこの高校の制服が、私はあまり好きじゃなかったんだ。
制服は、英単語や漢字、あの難しい方程式や化学反応式と同じにおいがする。

それが、制服をちょっと着崩してピアスをつけると心が紛れる。
まるで好きな香水をつけた時のように、はっとする、新しい自分を見つけたような気持ちになれる。
特に学校で疲れた時には、この「香水」はよく効くような気がしていた。

だけど、その香水は強すぎたんだろうか。
それともまだまだ先のはずの受験戦争に、私は知らない間にストレスを募らせていたのだろうか。
最近、私は学校帰りのふとした瞬間に、まわりに誰もいないのに、人間の声のようなものが聞こえることがあった。

その声は「…ゃょ……ゃょ……」と聞こえた。
それはかすかな声だった。

誰にも相談できなかったけど、「幻聴だ」と私は思った。

379 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:35

だけどそうじゃなかった。

あれは、私が遅くまで出かけていた日だった。疲れて家に帰ると、ピアスをつけたままベッドに寝転がり眠ってしまった。
夜遅く、目覚めた。耳元であの幻聴だと思っていた声が、いつもの何倍もの大きさで聞こえてきた。

未知との遭遇、期待せざる邂逅、突然の出会いというものは時として人を完全に驚かせ、恐れさせ、失望させ、
落胆させる。そして時として我を失い、その結果として人は思わず叫んでしまうことがある、「何だろう、これ?」と。

それは私が、あのピアスを見つけたときと同じセリフだった。
ピアスの声がそうだったように、私の声もあの時の何倍もの大きさだった。

私が見たものは、ぼうっと宙に浮かぶこの世のものとは思えない小さな生き物だったのだ。

「あ、驚かせてもた。わたしはぁ、怪しいもんじゃなくてぇ、ピアスに住んでる精の高橋やよ、柴田さん」

380 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:35

「ピアスの精?」
「ピアスの精じゃないよ。ピアスに住んでる友情の妖精の高橋やよ。」
「やよ?もしかしてあなたがいつも耳元でやよやよ言ってたの?」
「『やよ』だなんて言って無いよぉ。私はいつも標準語ですよ。」
「えっと。なんて名前だっけ?」
「高橋やよ。」
「ほら、やっぱり言ってるじゃん。やよって。」
「あれ?ほやった?」
「ピアスの精でしたっけ?」
「友情の妖精やよ。」
「ほらやっぱり言ってる。いつも小声でささやいてたでしょ?そのときも言ってたし。」
「小声で?それって昼間のこと?ほなら多分高橋の寝言だと思う。」
「寝言?!いつも寝てたってこと?」
「私最近昼と夜が逆転していて・・・目が覚めるといつも暗い箱の中だし。」
「昼夜逆転?ピアスの精が?!」
「友情の妖精!」

381 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:36

「で、その友情の妖精がなんで出てきたの?」
「夢をかなえるためやの。」
「え?!それ本当?」
「うん。本当。」
「えー?どうしようかなぁ。わたしいろいろありすぎて思いつかない。」
「え?」
「やっぱりお金かなぁ。それとかあと一生衰えない美貌とか。だれにも壊せない幸せとか。」
「ん?」
「ねぇ?いくつまでだったら私の夢かなえてくれるの?」
「あ、ちがうよ。柴田さんの夢じゃなくて、私の。」
「え?高橋さんの夢?」
「そう!私の夢!」
「なんだ自分のためか。で、高橋さんの夢ってなんなの?」
「甲子園!」
「はぁ?甲子園?」
「そう!夢の舞台!甲子園!!」

382 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:36

「夢の・・・舞台?」
「というわけでお願い!この家に住まわせてください!」
「え?!ちょっ!そんなお願い私にされても。」
「柴田さんがいいと言ってくれればあとは妖精パワーでなんとかしますから!」
「そんなムチャクチャな。」
「お願い!この通り!」

私はしばらく考えてたけれど、その間高橋さんはずっと頭をさげていた。
妖精に頭を下げられるなんてなんだか申し訳ない気分になってきた。
「いやだめだ、きっとこれは妖精の作戦なんだ」と思ったけど、結局その作戦に
はまってしまった。

「いいよ。家族を説得できたらだけど。」
「ほんと?!いいの!?」

すると高橋さんは飛び上がったかと思うと急に大きくなった。
つまり普通の高校生サイズになったのだ。

「ちょっと、まだ家族がいいって言ってないじゃん!」
「大丈夫。大丈夫。あぁ安心たら眠くなってきた。ほいたら私もう寝るね。」

そういうと部屋を出て行く高橋さん。
「ちょっとどこ行くの?」って言おうとしたけれど強烈な眠気が襲ってきて・・・

383 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:36











                                               .


     

384 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:37

「あゆみ、起きなさぁい。」

そんな声が聞こえてきた。朝だ。
深夜の出来事などすっかり忘れていた。
私がリビングのテーブルにつくと、いつもより1つ多い朝ごはんの用意。
私はぎくりとした。

「あ、あれ?ひとつ多くない?」
「あら、愛ちゃんがいるでしょ。」
「え?」
「ようやく家にも慣れてくれたみたいね。」
「えぇ?!」
「だけど相変わらず朝には全然慣れないみたい。ほらあゆみ、愛ちゃんを起こしてきて。」
「えぇぇぇぇ!!!!」
「そんなに嫌がることないでしょ?」
「どこで寝てるの?」
「どこで、って。愛ちゃんはあなたの隣の部屋じゃない。」
「そんな部屋・・・」

「そんな部屋この家には無い」と言いかけて私は口をつぐんだ。
席をたって私は自分の部屋の前の廊下に飛び出した。

未知との遭遇、期待せざる邂逅、突然の出会いというものは時として人を完全に驚かせ、恐れさせ、失望させ、
落胆させ、そして時として我を失い、その結果として人は思わず叫んでしまうことがある、


「私の家、大きくなってる・・・」と。

385 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:37

「いざ!甲子園!!」


そうドアが開くと同時に聞こえた声。昼夜逆転していたという割にはものすごいテンションの
高橋さんの声だ。

そしてあらわれた、すっかりやる気の高橋さんは、クリムゾンレッドに白抜きで“Rabbits”と
描かれたユニフォーム姿。「そんなハデな高校球児はいないだろ」、とただただ呆れる私。

「・・・朝から元気だね。」
「実は寝てないんだ!柴田さんの学校に登校する記念すべき日だし。なんか興奮しちゃって!
嗚呼!高橋の甲子園への華麗なる第一歩やよ。」

寝てないせいなのかやたらとテンションがおかしい。いや普段からこうなのかもしれないと思うと
気が滅入ってくる。

「ていうかやっぱり私と同じ学校に行くつもりなんだ。」

結構入るの苦労したんだけどな。入試とか。

「もちろん!一緒に甲子園目指そうって約束したでしょ。」

そういって甲子園のある方向?を指差す高橋さん。

「はぁ。」

私はため息をついた。一緒に甲子園を目指すなんて約束した覚えはないけど、まあいいや。

「とりあえず制服着て。」

私もそんなに好きじゃないけどさ。

386 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:37












                                               .


     

387 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:38

高橋はさんは学校に着くと、当たり前のように私と同じ教室に入ってきた。

普通にクラスメイトにも馴染んでいて「友情の妖精との名は伊達じゃあないらしい」と、
私は妙に感心してしまった。

その日の授業は普段の授業と何一つ変わらない退屈な授業だった。
「こういうときに妖精パワーを活躍させてよ。」と、心の中でつぶやいきながら、
高橋さんの方をみてみるとコクリコクリと首が上下に揺れていた。

けれど不思議と高橋さんは先生に注意されない。

もしかすると授業中に居眠りをしても怒られないのが妖精パワーなのかと思って、
居眠りをしそうなふりをしてみると、顔を上げた瞬間ものすごい形相の担任と目があった。

388 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:38
そんな授業も終わり、私はいつもの通りさっさと帰ろうとしたら、高橋さんに止められた。

「ちょっとどこいくの?」
「え?」
「甲子園!放課後は練習の時間やよ。」
「練習って。わたし道具とかなにも持ってないよ?」
「そんなの部室にいったらあるよ。」
「え?部室?・・・うちには野球部なんてないけど?」
「ま、とりあえず付いてきて。」

そういって無理やり手を引っ張る高橋さんにしかたなくついていく私。
見慣れた学校の風景。けれど、たしかにその進行方向にいつもとは違う雰囲気をかんじる。
そしてその違和感に対する答えがだんだんと近づいてくる。
まずその答えの輪郭があらわれて、そしてぼんやりとしていた中身が段々と鮮明になってくる。
そして高橋さんがある部屋のドアをあけてようやくわかった。


クラブハウスが一回り大きくなっていたのだ。
そういえば登校してきた時からなにかおかしいと思っていたことを思い出した。

いかにも部室然としたこの部屋は、今日、登校してきたらすでにそこに“あった”ものだった。
例の“妖精パワー”とやらでしたことらしい。

この部室もそうだ。
部室があること自体もそうだが、道具類も本当に全て揃っているようだ。
おまけに心持ちグラウンドまで広くなっている。
ああ、素晴らしき哉妖精パワー。


「ちょっと大丈夫?使いすぎじゃない?妖精パワー。」
「大丈夫。大丈夫。とにかく中に入ってよ。」

389 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:38

「まぁほこにでもねまって。」

といって座り込む高橋さん。きっと「座れ」と言ったんだろうとおもって座る。

「甲子園に行くにはどうしたらいいか寝ないで考えたんだけど・・・」
「寝ないで考えたんじゃなくて寝れなかったんでしょ?」
「甲子園のことを考えていたら寝れなかったんだよ。」
「でも授業中寝てたじゃん。」
「妖精を甘く見たらイカンがし。甲子園のこと考えながら寝ていたんだから。」
「あぁもう、わかったわかった。甲子園はいいけどさあ、他のメンバーはどうするの?」
「ピッチャーはもう決まってるんだ」
「へえ。誰?」
「ちょっと待っててね。今連れてくるから」

そう言って出て行った高橋さんの後ろ姿を見送って、私は改めて部屋の中を見回しているとすぐに高橋さんは戻ってきた。


「柴田さーん。連れてきたよー」

その声に意識を向けると、若干サル系にも見える満面の笑みを浮かべた高橋が、誰かの手を引きながら部室へ入ってきたところだった。

「あ、後ろの子……ぉ?」

出しかけた柴田の言葉が途切れ、開いた口もそのままで、視線と同様に固まった。
高橋の後ろから姿を現したのは、まだどこかにあどけなさすら残る少女だった。

390 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:38

未知との遭遇、期待せざる邂逅、突然の出会いというものは時として人を完全に驚かせ、恐れさせ、失望させ、
落胆させ、そして時として我を失い、その結果として人は思わず叫んでしまうことがある。

「私、小さくなった?」

少女の顔が、その前にいる高橋さんの頭の上にある。訝しそうに少女が口を開く。

「こんにちは」
「あっ、どうも。こんにちは」
「熊井ちゃんです。こちら柴田さん」

まるで仲人のような口調で互いを紹介する高橋さん。私は服を引っ張ってその耳元で問いかける。

「あの子誰? うちであんな子見たことないよ」
「あ、うん。あの子、初等部の子やし」
「だって……、ええ!?ってかあの子小学生!?」
「はあ? 高校野球じゃないと甲子園行けないんだよ?」
「当たり前やろ、柴田さん。うちら高校生やもん。」
「小学生が混じってたらダメなんじゃないの?」
「そこは妖精パワーで」

長身から繰り出す速球について熱く語る高橋を横目に私は
呆れながらもついた諦念のため息と共に思った。
なんでもありかよ、と。

391 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:39

「あのぉ。今日はミーティングだけって聞いているんですけど。」

と、言う熊井ちゃん。

「そうやよ。今日は今後の作戦を練る重要な日だから練習なんてしてられないし。」

とずいぶん練習を軽くいう高橋さん。

「それじゃあ、今からご飯でも食べながらっていうのはどうですか?」
「あ、それいいね。」

と、私が言うと、高橋さんもうなずいた。

392 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:39











                                               .


     

393 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:39

「ほうかぁ…。高橋はんが甲子園に行きはがってふぁのには
ほんな理由があっはんらね〜」


駅前にあるたった1件のファミレス「やきそばランド」で
熊井ちゃんは3皿目のやきそばを頬張りながらしみじみ呟いた。

私はとりあえず食い終わってから喋ってくれ、と思ったが
食い終わると熊井ちゃんはそのまま冬眠に入ってしまう可能性が
あったので仕方なく黙って話を聞いていた。

「でもさぁ〜、うちら女の子じゃないですか。甲子園って男しか
出られないんじゃないんですか?」

なんて正論。そう言われればそうだ。

「それは大丈夫がし。茨城にある野球チームにも確か女の子がおったやよ」

甲子園関係ねー!

「あぁー友理奈そのチーム知ってます!
確か監督がインサイダー取引とやらで捕まっちゃったんですよね?」

熊井ちゃんは萩本欽一と村上世彰の区別が付かないらしい。



「何か先行き不安になって来た…」

私がそう言ってふぅっとため息をつくと、熊井ちゃんは満面の笑みで叫んだ。

「大丈夫ですよ!柴田さん、エンジョーイ!!」

「エンジョーイでも騎乗位でもいいから熊井はさっさとメンバー集めてくるがし!」

メニューにソースカツ丼が無いせいか、高橋さんはどこか機嫌が悪かった。

394 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:39

次の日の放課後。

グラウンドの片隅で私と高橋さんがあやとりをしながら待っていると
約束通り熊井ちゃんが後輩達をぞろぞろと引き連れてやってきた。

「随分いるね…」

正直こんなに連れて来るとは思ってなかったので面食らった。

「さすが熊井ちゃんやよ!思ったとおり顔がデカイがしね!」

そこは顔が広いと言ってやれ高橋。

「これで対外試合もこなせますよ!
では皆、柴田さんと高橋さんに自己紹介でもしてやって」

「おい…。何で上から目線なんだ?」

「何言ってるんやよ。始めから柴ちゃんより熊井ちゃんの方が目線が上にあるがし」

「いや、そういう意味じゃないから」

「そんなことよりさっさと高橋のヒモ取るがし」

「お前はいつまであやとりやってんだ!…まぁいいや、じゃあ熊井ちゃん頼むわ」

呆れる私をよそに、熊井ちゃんは後輩達にどこのジェロニモかと思うような
大声で号令をかけた。

「よし、お前ら整列!!!!!」

後輩達は訓練された兵士のようにビシッと一列に並んだ。





…縦に。

395 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:40

「待て!お前らスッペシャルジェネレーションでも歌う気か!?
横に並べ横に!」

「横ですか?分かりました!お前らフォーメーションガンマでよろしく!」

熊井ちゃんがそう言うと、後輩達は一瞬にして今度はズラッと横に並び直す。

「ガンマって何やよ?」

「むしろアルファとベータが何なのか気になるな」

ペースを熊井ちゃんに握られたまま彼女の後輩達の自己紹介が始まった。

396 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:40

「一番ショート前田憂佳です」

「二番セカンド福田花音です」

「三番センター田中杏里です」

「四番ファースト諸塚香奈実です」

「五番キャッチャー吉川友です」

「六番サード能登有沙です♪愛称はのっち、千葉県出身、1988年12月26日生まれ山羊座のAB型、
 趣味はカラオケ、切手収集、お絵かき、特技は書道、苦手なことは早起き、好きな色は赤、オレンジ、黄緑…」

「七番レフト橋本愛奈です」

「八番ライト真野恵里菜です」

「九番ピッチャー湯徳歩美です」

397 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:40

「ちょっと待つやよ!」

突如高橋さんが叫んだ。

「ん?どうした流氷の妖精」

「流氷やなくて友情の妖精やよ!!あっしクリオネじゃないがし!」

「クリオネは妖精じゃなくて流氷の天使ですが」

相変わらず熊井ちゃんは正確に言わないと気が済まないらしい。


「そんなことはどうでもいいやよ!何で打順とポジションが既に確定してるんやよ!
高橋と柴ちゃんは一体どこ守るがしか!?」

あぁ〜確かに。

「まぁ私は別にベンチでもいいんだけどさ。でも熊井ちゃんは出なくていいの?
ピッチャーなんでしょ?」

「え?ピッチャー?
…私、マネージャーなら引き受けるって言いませんでしたっけ?」

「え?」
「え?」

398 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:40

「…マネージャー?ピッチャーやらんの?」

間の抜けたトーンで高橋さんが聞いた。

「はい!だって私生まれてこの方野球なんて一度もやったことないですし♪w」

ここに来て衝撃の告白をする熊井ちゃん。

「でもさ、以前高橋さん、熊井ちゃんを連れてきたときに
この長身から繰り出す速球がなんちゃらかんちゃらとか熱く語っていなかったけ?」

「そうやよ!熊井ちゃんはロッテの渡辺俊介よりも速い球を投げることが出来るんやよ!」

また微妙な比較対象を。

「野球やったことないって言ってるのに一体どこでそれ見たのさ」

「あっ!」

急に何かを思い出したように熊井ちゃんが叫ぶ。

399 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:40

「もしかして高橋さん、あのときのアレを見てたんですか?」

ん?アレ?

「そうやよ!高橋あのときの熊井ちゃんのアレをバッチリ見てたんやよ!」

「いや、アレはたまたま偶然なんですって!もうムリですって!!」

「そんなことないって!アレだけのアレなら熊井ちゃんきっとアレだって!」

「お前ら越中詩郎かって!意味分からんから最初から説明しろって!」


私がそう言うと高橋さんは遠い目をして回想モードに入った。

「そうやね…。あれは、確か先月の終わり頃のことやよ…」

「あのー皆さん」

「今しゃべりようやろ人が!!」

どっかで聞いたようなツッコミだ。

400 :エントリーしよう:2007/05/05(土) 23:41

振り返ると我々の後ろには、ちっこい癖に
何故か女子大生っぽくも見える女の子がつっ立っていた。

「ん?あなたは誰?」

「のっちこと能登有沙だって!やってやるって!」

お前もサムライ・シローかよ。

「…あの、みんなもうとっくに練習始めてますけど」

「あ、ゴメン君らの事すっかり忘れてた!」

「ヒドスwww」

「それじゃあ柴田さん、私たちはどうしましょうか?」

「…高橋が石を蹴りながら一人で柴ちゃんちに帰る途中のことやった…。
その日は朝から強い雨が…」

「そうだね、とりあえず野球のルール覚えなきゃならないから
私、部室で究極ハリキリスタジアムやってくる」

「何ですかそれ!w のっち知ってる?」

「何だか分からないからやってみましょう!」

「…そのとき熊井ちゃんが現れたんやよ!高橋あまりのデカさに驚いてしまって…」


その後私と熊井ちゃんとのっちの三人は、練習に励む後輩たちと
回想に浸る高橋さんをガン無視し部室で5時間程ゲーム三昧だったのでした。



「でも楽しかったからいいのです。うぷぷ。」 (のっち・談)

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