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Run Down or Run On
- 1 :匿名著者:2004/08/28(土) 23:27
-
肌を刺すような強い日射し。
そこかしこから聞こえてくるセミの鳴き声。
青々とした草のかおり。
そのすべてを五感で感じ取ると、ボクは深く息を吸い込んだ。
都会では感じることのなかった、清々しい感覚。
空気が身体の隅々にまで染みこんでゆくかのようだった。
ゆっくりと踏みしめる一歩までもが、懐かしい。
数年ぶりの帰郷だった。
この一年の大学生活の中で、少し疲れていたのかもしれない。
最初は帰るつもりもなく、友人たちと夏休みの旅行の予定まで立てていたのだ。
それを急遽断ってまで、今ボクはここにいる。
ボク自身はこの一年で少しは変わったのだと思う。
しかし、故郷はボクがこの町を離れたときと、何も変わっていない。
まるでここだけ、時が止まっているかのようだった。
これから先もこの風景だけは変わらないだろう。
そのときのボクには何の根拠もなくそう思えた。
「やっぱ、ここも変わってないよな。
学生時代は毎日ここを自転車で通ったっけ。
あの頃は……ん?」
ボクは不意に誰かに名前を呼ばれたような気がした。
「なーに、ボケっとした顔してんの?」
「……だれだ?」
声の方向へと振り向いたボクは、相当まぬけな表情だったに違いない。
さっきまで人の気配のまったくなかった、田舎道。
そこに突然、彼女は出現したのだ。
驚くな、というほうが無理だろう。
「キミ……いつのまに?」
- 11 :匿名著者:2004/08/30(月) 00:13
-
「おかえり……おにーちゃん」
「なんだ、そのおにーちゃんってのは!」
「某ゲームのマネ」
「タメ口もダメだが、おにーちゃんもダメだ」
「こういうの、好みじゃない?」
「いや……ちょっといいけど……ってなに言わせんだ!」
「きゃははははは!」
こうして無邪気に笑う姿を見ていると、すべて許したくなってしまう。
まるで妹のように。
「オマエ、ゲームのやりすぎだろ。
受験生なんだから勉強しろ、勉強」
「ふわーい。うわ、やっばーい!アンタのこと、迎えに来たんだ。
こんなとこで立ち話をしてる場合じゃないよ」
「……おいおい」
久しぶりに美貴と並んで歩くこの道。
考えてみれば、ボクが大学に入るため、上京してからもう1年になる。
その間、一度も帰郷することがなかったのだ。
ほんの一年。
だけど一年。
故郷は何も変わっていないように見えたが……。
「ん?」
「な、なんだよ」
「さっきからチラチラ、こっち見てない?」
「バーカ、自意識過剰だって」
「ふーん」
突然美貴は正面に回り込むと、ボクを探るようにのぞき込んだ。
「……どう?」
ついと突き出すように、美貴の顔がボクに近づく。
予想外に近い距離に戸惑う。
そしてなにより……。
香水?
ふわりと柑橘系のほのかな香りが、ボクを包んだ。
それは香水というには、あまりにかすかで、気をつけなければわからないほどの香り。
だけど、一緒に水浴びをし、山を駆け回り、化粧っけなんてまったくなかった美貴。
そんな高校時代のイメージとのギャップにボクはただ自分の動揺を隠すので精一杯だった。
- 12 :匿名著者:2004/08/30(月) 00:14
-
「な、なんだよ……」
「べっつにー」
からかってる?
よく見れば、今の美貴の服もかつてのイメージとはかけ離れたものだった。
美貴がスカート姿など、制服以外で見たこともなかった。
それがどうだ。
今の美貴はキャミソールから伸びた、すらりとした両の腕は立派に「女の子」をしていた。
変わらない故郷。
そうボクは思っていた。
だけど、確かに時は過ぎてゆく。
それを感じた一瞬だった。
ただ……美貴の性格だけは変わってないようだったけれど。
「なんだか不思議だよな」
「え?」
「ほれ」
つん、とキャミソールの肩ひもをつまむ。
「オマエがこんな女の子らしい格好をしてるのって不思議」
「……セ、セクハラっ!」
「誰がだよ?」
「アンタよ、アンタっ!見たでしょ!!」
「はん?」
「胸、見たでしょ!」
恐ろしい剣幕でつめよる美貴。
これはいつものじゃれ合いとは、ちょっと違う。
だけど、ここで引き下がっては男がすたる。
- 13 :匿名著者:2004/08/30(月) 00:14
-
「ガキの身体なんか興味ねぇっつーの」
「ガ、ガキっ!?ガキって言ったな!
19歳の女の子つかまえて、ガキって言ったな!」
「へぇ。19のワリに……」
「そのスケベそうな目で見るなっ!」
「どう見ても幼児体型だよなぁ」
「バ、バカにしてっ!」
「……えっ?」
ボクはいつものほんの悪ふざけの延長のつもりだった。
昔の美貴ならば、こんなことくらいで……。
いや、絶対に人前で涙なんて見せることはなかった。
それが目の前で大粒の涙を浮かべている。
久しぶりに会う美貴。
その安心感に、ボクはハメをはずしすぎたのかもしれない。
「泣かなくてもいいだろ」
「……」
1>なぐさめる
2>怒る
- 14 :名無し娘。:2004/09/01(水) 22:23
- 2
- 15 :名無し娘。:2004/09/01(水) 22:34
- 1
- 16 :名無し娘。:2004/09/02(木) 16:09
- ( ^▽^)<匿名作者さん頑張れ
- 17 :名無し娘。:2004/09/02(木) 16:10
- ( T▽T)<名前間違えたました。匿名著作さんですね。頑張って。
- 18 :名無し娘。:2004/09/02(木) 20:15
- 匿名著者なのに・・・
もしかして漏れ釣られた?
- 19 :名無し娘。:2004/09/02(木) 21:50
- 2
- 20 :匿名著者:2004/09/02(木) 22:30
-
確かにボクも少し言いすぎたかもしれないが、なにも泣くほどのことじゃない。
これではボクだけが悪者みたいじゃないか。
そう思うと、美貴の涙が理不尽なものに思えてきた。
「あのな、もう19だろ?なら、この程度で泣くなよ。
だからガキだっていうんだよ」
「ガキじゃない!」
「なら泣くなよ!」
「泣いてない!」
「泣いてるだろ!」
「泣いてないって言ってるでしょ!」
どうどう巡りだ。
沈黙。
さっきからものも言わず前を歩くその姿にボクは心配になった。
「……」
「……」
「……」
「……」
家まではたいした道のりではないはずだった。
それが時にこうも長く感じるものなのか。
「……あの」
「こうして歩くのって、久しぶりだよね」
「……え?」
振り返りながら、美貴の発した言葉にボクは面食らった。
「昔は毎日通学で一緒に歩いた道だけど……。
久しぶりに歩くと、なんだか変な感じだと思わない?」
「……そうだな」
「ね……手つないでいい?」
「はぁ?」
コイツ、何を言ってるんだ?
ボクはそんな目で美貴のことを見ていた。
- 21 :匿名著者:2004/09/02(木) 22:32
-
「高校を卒業して、お互いにもういい歳なのにか?」
「さっきはガキ扱いしたくせに」
「それは話の流れってヤツで……」
だいたい、こんなところで手を繋いで歩いているところを、
同級生に見られでもしたら……。
そう思うと、恥ずかしさが先に立つのは仕方ないだろう。
「ダメ?……泣いちゃおっかな」
それを言われると辛い。
コイツ、確信犯だ。
さっきのことで負い目があると踏んでいるに違いない。
断らないと思っているんだろう。
コイツにいいようにあしらわれている。
でも……。
1>手をつなぐ
2>つながない
- 22 :名無し娘。:2004/09/02(木) 22:37
- 2
- 23 :名無し娘。:2004/09/03(金) 00:00
- み、美貴さま… 1で
- 24 :名無し娘。:2004/09/03(金) 01:23
- 1 頑張って下さい!
- 25 :名無し娘。:2004/09/03(金) 02:16
- 4
- 26 :名無し娘。:2004/09/03(金) 21:42
- 1でぜひ。
- 27 :名無し娘。:2004/09/03(金) 22:56
- 2
- 28 :匿名著者:2004/09/03(金) 23:21
-
まぁ、いいか。
べつに手をつなぐくらい。
これで美貴の機嫌がなおるのなら、安いものだ。
「仕方ねぇな」
ボクは渋々、という表情を作って美貴に手を差し出した。
ぷにっ。
小さくて柔らかな手。
そして温かな手。
ああ、美貴の手ってこんな感じだったんだ。
幼いころはもちろん手を繋いで歩いたこともある。
だけど、物心がつくようになると、女の子と手を繋いで歩くことだけでも、
変に意識してしまうようになる。
特に男は一時、『女なんて……』と変にツッパってしまう時期があるものだ。
そんな時を経て、こうして今ボクは美貴の手の温もりを感じている。
「……」
「どうだ?これで満足か?」
「……」
「なんだよ、なんとか言えよ」
無言のまま、手をつなぎ、あぜ道を歩く二人。
そして……。
「……ぷっ」
吹き出した。
「やっぱりダメだっ!」
「……はぁ?」
「ちょっと懐かしくって、手を繋いでみたけど……恥ずかしー!」
笑うな、コラ。
オマエが繋ぎたいって言ったんだろうが。
「あ、あのな……」
- 29 :匿名著者:2004/09/03(金) 23:22
-
ボクの非難がましい視線にも、美貴はあっけらかんと笑顔で返した。
二人、あぜ道を淡々と歩きながらボクは思った。
1年ぶりに会う美貴。
確かに彼女自身、成長はしているのかもしれないが、それでもこうして久しぶりに会っても、
また変わりなくバカみたいにじゃれ合うことができる。
変化のない、何年経とうとも安心して戻れる関係。
それはボクには心地よかった。
「でも、変わらないよな」
「それって、またわたしが成長してないって言いたいわけ?」
「そうじゃなくってさ……」
幼なじみ。
家族。
肉親。
そういった不変の安心感をボクは美貴に感じていたのだ。
だが、そう話すと、美貴は少し口を尖らせた。
「なんだかそれって、『ケンタイキ』の夫婦みたいじゃない?」
倦怠期。
美貴の口から出るとまったく別の言葉に聞こえてしまう。
それくらい違和感があったのだ。
「難しい言葉知ってんなぁ」
「またバカにして。でもまぁ、幼なじみだしね。変わりようがないっていえば、ないのかも。
この道も、いっつも一緒に歩いてきたもんね」
幼稚園。
小学校。
中学校。
そして、高校。ボクたちはずっと同じ道を歩んできた。
ボクが上京することになって、離ればなれにはなったけれど、
こうして帰郷すれば、また同じようにこの道を歩いている。
- 30 :匿名著者:2004/09/03(金) 23:25
-
「そういえば小学生の頃さ、オマエ……」
その瞬間、美貴がびくっとした。
「いっつもお漏らししてさ、泣きながら俺に手を引かれて帰ってたよな。
帰ったらお母さんに怒られるってさ」
「ち、ちょっと!いっつもってのはいいすぎ!一年生のときに1,2回…3,4回あっただけじゃない」
「それだけあれば十分だろ」
「だいたい、なんでわたしたちの関係が変わらないって話から、そっちに行くわけ?
まるでわたしが今もお漏らししてるみたいじゃない」
「いや、ふいに思い出しちゃってさ」
「思い出すな!だいたい、アンタだって、ウチのクラスの梨華に……」
「それを言うか!?」
「ガラにもなくラブレターなんて書いて……」
「わーっ、わーっ!」
「だけど、肝心のロッカーを間違えて、わたしのとこに」
「……最悪のとこに入れたもんだ、我ながら」
そんな他愛のない昔話で盛り上がれる関係。
それは貴重なものなのかもしれない。
「だけど、この町もぜんぜん変わらないよな」
「そっかな?知らないと思うけど、角にあったタバコ屋ね、コンビニになったんだよ」
「えっ!?」
「なによ、その驚き方は。コンビニくらいできたっていいでしょ?」
「だって、あそこのバアチャン、時間が止まったみたいに、ずぅーっと、歳取らないってイメージあったからさ」
「あ、それはいえてる。産まれたときから、おばあちゃんだった、みたいな。
でも、今はもう引退しちゃって息子さんが店継いでるよ」
「えっ!?中澤さんが?」
- 31 :匿名著者:2004/09/03(金) 23:26
-
ボクにとっては中澤さんは、結構年上のセンパイで、いろんなことを教わった存在だ。
いいことも。
悪いことも。
その中澤さんが、コンビニの制服を着て、店に立っているというイメージがピンとこなかった。
この町は変わらない。
そう思っていたが、ボクの気づかないところで確かに変化していたのだ。
時は流れ、人も町も変わってゆく。
美貴との関係も……?
いや、それだけは変わらないだろう。
これからもずっと……。
そう。
美貴との関係は変わらない。
変わりたくない。
この安心感を失いたくはなかった。
美貴との関係、そして懐かしい故郷での生活は、ボクをくつろがせる。
上京して、東京での生活が嫌になったわけじゃないけど、やっぱり帰ってきて良かった。
最初は迷っていたのだ。
上京すると決めたとき、『あの日』のことがあったから……。
『あの日』のように……。
『あの日』……?
そうだ。
忘れるところだったが、あの子……亜弥。
彼女はいったい何だったんだ?
彼女の存在。
それは記憶にひっかかったまま、まるで取れない小骨のように気になっていた。
美貴なら覚えているかも?
もしかしたら美貴の友達という可能性だってあるじゃないか。
昔、紹介されて、それで覚えていた、という。
「あのさ……亜弥って子、知ってる?」
- 32 :匿名著者:2004/09/03(金) 23:26
-
唐突な質問。
そして次にやってくるのは気まずい瞬間。
美貴は、『それ、誰?』という表情をしていた。
「……それ、カノジョ?」
「い、いや、そういうんじゃなくってさ」
「じゃ、誰?」
表情は笑顔だが、その問いつめるような口調。
なによりも目が笑っていない。
「説明してくれなきゃ、わかんないじゃない」
……う。
これは誤解を解くためにも、きちんと説明すべきか?
それともお茶を濁すべきなのだろうか。
1>説明する
2>ごまかす
- 33 :名無し娘。:2004/09/04(土) 21:13
- 2
- 34 :名無し娘。:2004/09/04(土) 22:56
- 2
- 35 :名無し娘。:2004/09/05(日) 14:47
- 2で
- 36 :名無し娘。:2004/09/05(日) 16:19
- 2
- 37 :匿名著者:2004/09/09(木) 22:09
-
ヤバっ……。
思い切り誤解されているような気がする。
この状況では、何を言ってもいいわけとしか受け取られないような気がした。
ここはいったん、ごまかしておく方が賢明かもしれない。
下手なことを言って、美貴にかえって邪推をされてもつまらない。
「えっと……なんだっけ」
「はぁ?」
「何の話だっけ」
我ながら下手なごまかし方だ。
きっと浮気を見つかった男というのはみんな、こうなのだろう。
……浮気?
浮気もなにも亜弥とは何もないし、まして美貴ともそんな関係でもない!
なんだか頭の中がこんがらがってきた。
「たしか亜弥って子がなんとか……」
「……そ、そんなこと言ったっけ?」
「……言った」
「あ、そ、そうだ。東京でさ、カノジョが出来て……それが亜弥っていうんだ」
「カノジョ?……できたんだ」
「あ、あったりまえだろ」
「ふーん、アンタにねぇ」
「その値踏みをするような目はヤメろ」
「だってさー、東京には物好きもいるもんだと思って」
「ひとを珍獣かなにかのように言うな!」
「だって、小学校から高校までずーっと一緒だけど、モテたの見たことないよ」
「ぐっ。お、俺だって少しくらいモテたことが……」
「……あった?」
「……う」
「バレンタインだってさ、毎年わたしからの義理チョコばっかで……」
「……もういい」
「でも良かったよね、カノジョが出来て。
あ、今度わたしが東京に行ったとき、紹介してよ。
アンタの恥ずかしい過去、みーんな教えてあげるから」
マズイ。
いくら亜弥のことをはぐらかすためだったとはいえ、
些細なウソがとんでもない方向へと進みつつある。
- 38 :匿名著者:2004/09/09(木) 22:10
-
「……」
紹介しろだ?
カノジョなんているはずもないのに、どうやって?
「だ、だけど、オマエはまず大学受からなきゃなぁ」
「大丈夫。どっちにしても受験で東京に行くわけだし、そのときでいいよ」
マズイ。
こんな具体的な話になってきている。
ここは正直にウソだった、と白状すべきか。
しかし正直に言ったら言ったで、亜弥のことを説明しなければならなくなる。
どっちに転んでもマズイ。
ボクは自分の中で堂々巡りをしていた。
しかしこのままではドツボにはまってしまう。
さて、どうするべきか?
1>正直に話す
2>ウソをつきとおす
- 39 :名無し娘。:2004/09/10(金) 15:52
- 1がいい
- 40 :名無し娘。:2004/09/10(金) 16:48
- まあ、2だな
- 41 :名無し娘。:2004/09/10(金) 22:44
- 1
- 42 :名無し娘。:2004/09/14(火) 12:28
- 2だよ
- 43 :名無し娘。:2004/09/24(金) 22:25
- うんと、1
- 44 :名無し娘。:2004/09/27(月) 02:05
- 2de
- 45 :匿名著者:2004/09/28(火) 19:40
- すみません、選択肢1で進めさせていただきます。
- 46 :匿名著者:2004/09/29(水) 23:57
-
ここはやはり正直に話した方がいいだろう。
そもそも亜弥のことを何故ごまかす必要があるんだ?
なにもやましいことなどないのに。
「あ、あのさ……ゴメン!」
「な、なに、突然!?」
「ウソついてた」
「は?」
「オレ……カノジョいないんだ」
「……そうなんだ」
美貴は一言、そうつぶやくと顔を伏せた。
怒っている。
きっと自分が騙されたことに怒っている。
この後、顔をあげると、怒りに顔を真っ赤にした美貴が……。
『よくもだましてくれたわねー!』
という展開が待っているのだ、きっと。
ボクは次に来る、その悪夢のような瞬間を、首をすくめて待った。
「よくもだましてくれたわねー!」
……来た。
ボクは思わず身を縮めた。
情けない話だが、怒った美貴にはかなわないのだ。
嵐が過ぎ去るのを待つしかボクには手がない。
「……なーんてね」
「は?」
恐る恐る目を開けると、そこにはニヤニヤと楽しそうにボクを見つめている美貴がいた。
「……怒らないのか?」
「なにを?」
「カノジョがいるって言ったこと」
「だって、最初からわかってたもん」
「は?」
- 47 :匿名著者:2004/09/29(水) 23:58
-
ボクはそんな間抜けな声を発するしかできなかった。
美貴はすべてわかっていた?
そのくせ、紹介しろなどと言っていたのか?
……からかわれていた?
そう思うと、無性に腹がたった。
「わかってて、紹介しろとか言ってたのか!?」
「うん!だって、アンタにそう簡単にカノジョができるわけないと思ってたもん。
いくら東京だって物好きがそう多いとは思えないしね」
「オ、オマエなー!」
「ごめーん、そんなに怒らないでよー。最初にウソついたの、そっちでしょ!」
美貴はケラケラと笑いながら駆け出した。
「で、どこで亜弥ちゃんに会ったの?」
「え?」
「だって、さっき亜弥って言わなかった?」
コイツ、亜弥のことを知っているのか?
「あ、今の顔。わたしが亜弥ちゃんのこと覚えてるなら、
ウソつく必要なんかなかったな、そういう顔だった」
当たり前だ。
何のためにボクはこんな冷や汗をかかなきゃならないんだ。
美貴が亜弥のことを覚えているなら、最初から……え?
『知っている』じゃなくて、『覚えている』?
もしかして美貴とあの亜弥って子は知り合いだったのか?
「亜弥って子のこと……オマエ、知ってるの?」
「……はぁ?」
今度は美貴が間抜けな顔をした。
「本気で言ってる?」
「何が?」
「亜弥ちゃんのこと忘れたの?」
「オマエの知り合いだっけ?」
その瞬間の美貴は、思いっきりボクを哀れむような目だった。
「昔、遊んだことあるでしょ?」
「昔……?……!」
- 48 :匿名著者:2004/09/30(木) 00:09
-
美貴の言葉を聞いた瞬間、ボクの記憶が蘇った。
それは毎年、夏休みの数日だけ会える友達。
あの頃は夏休みの間だけ、親戚のうちに遊びに来ている都会の子、そんなイメージで接していた。
だけど、どの家に泊まっていたのかは知らない。
考えてみれば、こんな小さな町で、
どこに泊まっているのかわからないというのも変な話ではあったが……。
そして夏の終わりとともに彼女は、いつのまにかこの町から姿を消すのだ。
「だけど……」
「まだ思い出さない?それでよく大学生なんてやって……」
「いや、思い出した。思い出したんだけど、どう見ても、まだ16,7にしか見えなかったんだよな」
そう。
さっき会った亜弥は、ボクの中で今、鮮明に蘇った彼女とまったく重なって見えたのだ。
まさに過去がリピート再生されているかのように。
「彼女が幾つか忘れたけど、まだ16,7ってことはないだろ?」
「亜弥ちゃんの歳?たしかわたしと同い年だったと思うんだけど……。
でも、19歳が16,7に見えるってのは、許容範囲じゃない?童顔ってこともあるし」
理屈では美貴の言うとおりなのだ。
だが、そのときのボクは理屈ではない不思議な感覚を覚えていたのだ。
夏の陽が落ちるのは遅い。
とはいえ、二人で歩くこの道にも夕暮れが訪れようとしていた。
先ほどまでうるさく鳴いていたセミも静かになっていた。
ボクの前を歩いていた美貴が、ふいに立ち止まる。
「いつまでこっちにいられるの?」
「そうだなぁ、一週間くらいかな」
「そんなもん?」
「あのな……大学生っていっても、忙しいんだ。
いつまでもこっちでのんびりしてるわけにも……」
瞬間、美貴の表情に陰が宿ったような気がした。
だが、それもほんの一瞬。
「へぇ、アンタでも忙しいんだね」
「まぁな……何か?」
夕暮れの田舎道を沈黙が支配する。
「ううん……なんでも」
- 49 :匿名著者:2004/09/30(木) 00:10
-
ついと背を向けると、美貴は再び歩き出した。
その背が急に小さく見えた。
アイツも女の子なんだよな……。
そんな当たり前の言葉が出てしまうほどに、普段の態度とは違って、華奢に見えたのだ。
「んじゃ、オレんち、こっちだから」
「……あ、そうだね」
別れの言葉を口にしながらも、ボクたちはどちらもその場を動こうとしなかった。
息が詰まるような長い沈黙の後、まるで何かの合図を聞いたかのように二人は同時に口を開いた。
「あの……」「あのさ……」
「あ、そっちが先に……」
「そっちこそ、何か言いたいんだろ?」
これじゃ、まるで安いメロドラマだ。
こういうお約束な展開の後、どちらかが告白をする、なんて。
何を考えているんだ。
このシチュエーションが余計な想像をふくらませてしまうのだ。
相手は美貴なのに……。
美貴なのに?
美貴だとダメなのか……?
「……なに考えてるんだか」
妄想を振り切るように、ボクはかぶりを振った。
「なにやってんの?」
「なんでもないって」
「……じゃ、私の話、いいかな?」
……来た!
「亜弥ちゃんにさ……会ったんだよね?で、どうだった?」
「どうって、何が?」
美貴の問いの意味がいまひとつわからない。
まさかヤキモチ?
……んなわけない。
などと、自分にツッコんでみる。
- 50 :匿名著者:2004/09/30(木) 00:11
-
「た、たとえばキレイになってた、とか」
「……うーん、わからん」
「わ、わからんって、アンタね!昔は一緒に遊んだ相手のことでしょ!?」
「そんなこと言われても、キレイになったかどうかなんて、オレに聞かれてもわかるかよ」
「……ダメだ、こりゃ」
「ダメっていうな、ダメって!」
「だってそうでしょ、女の微妙な変化にも気づかない鈍感なヤツ、
ダメって言わなくて、何をダメっていうのよ!」
「はいはい、オレはダメな男ですっ!」
「……ガキみたい」
「どっちがだよ!さっきから変な態度で!そんなに亜弥がキレイになったかどうか、気になるか!?」
「……なるわよ」
「はぁ?」
「なるって言ってんのよ!」
気まずい雰囲気が周囲を押し包んだ。
いたたまれなくなったその状況から、逃げ出したのはボクの方だった。
「用がないなら、帰るぞ」
東京から我が故郷まで、片道でも3時間かかる。
本当はさっさと実家に戻って休みたいところだ。
だが、このまま美貴を置いていくのも気が引けるのも事実。
だけど、この重い空気の中に身を置くのも……ジレンマだった。
「……泣かなくてもいいだろ。……帰るぞ」
何も言葉が返ってこない。
「んじゃな」
そういって離れようとしたボクの背中に美貴の大声が突き刺さった。
「ちょっと待った!」
「はぁ?」
「話……まだ終わってない」
「まだ何かあんの?」
「お父さんが、顔出せって……それだけ伝えろって……」
「オ、オジサンが……?」
- 51 :匿名著者:2004/09/30(木) 21:35
-
美貴に頭があがらないのは、実はそのバックにこのオジサン、つまり美貴の父親がいるせいもある。
無口で怒鳴り散らすこともない。
しかし、その目でぎょろっとやられると、下手に怒鳴られるより、ずっと恐ろしいのだ。
小さい頃からイタズラをしては、いつも『ぎょろっ』とやられてきたので、
それがボクのトラウマになっているといってもいい。
ましてや美貴を泣かせてしまったのだ。
なにを言われるかわかったものじゃない。
「……わ、わかった」
「……じゃ、伝えたから」
ぶっきらぼうにそう言うと、美貴の姿は駆け足で消えていった。
じめっとした感覚が、肌に貼りつく。
夜になるとほんの少し、この暑さも日射しがないぶんだけ和らいだが、
このじめじめした感覚だけはなくなることがなかった。
それでも都会のむわっとした熱気に比べれば、まだましだった。
暑さの中でも、時折吹く人工的でない涼風が心地良い。
「あぁ、そういえばオジさんが顔出せって言ってたんだよな」
ウチワをパタパタと仰ぎながら、ボクはオジさん、つまり美貴の父親の顔を思い浮かべていた。
「うわっ!」
オジさんの顔を思い浮かべた途端、全身をぞわっと鳥肌がおおった。
「……また怒られたりしないだろうな」
何か悪いことをしたわけでもない。
だから怒られる要因など皆無なのだが、小さい頃からの苦手意識がこういうときでてしまう。
怒られる要因……そういえば美貴がさっき見せた涙。
- 52 :匿名著者:2004/09/30(木) 21:36
-
「美貴のヤツ、親父さんに告げ口とかしてないだろうな」
我ながら、その発想も幼いとは思うが……。
そもそも何故あそこで涙を見せるのかがわからない。
幼い頃からずっと一緒に育ってきたが、あんなにすぐ泣く子ではなかったはずだ。
久しぶりに会う美貴はどこか変だった。
それを一年の間の成長、などと陳腐な言葉で片づけてしまうのは簡単だった。
「だけど、成長……じゃないよな。アレじゃ、ただの泣き虫になってるだけだろ」
時計が夕刻を知らせる。
「マズっ!オジさんのとこ、早くあいさつに行ってこなきゃ!」
駆け出そうとする足が、どうにも重い。
べつに会いたくないというわけでもないのだが、苦手なのだ。
美貴の父親という以上に、どうもあの古き日本の父親像という感じの重さが苦手といっていい。
「うっし、気合い入れていくか!」
そういうと、パンとほほを叩いた。
我ながら、たかだか幼なじみの父親に会うだけで、この気合いの入れようもないとは思うが……。
久しぶりの美貴の家。
それでも何も変わった感じはない。
ボクにとっては自分の家と同じくらいに馴染みの場所だった。
「なにしてんの?早く奥に入れば?」
「あ、あぁ。おじゃましまーす」
「なんで、そんなオドオドしてるの?」
「……う」
後ろめたいことがあるわけではない。
しかしこの家に来ると、そして美貴の父がいるとわかっていると、
どうしてもこういう態度になってしまうのだ。
「おう、久しぶり」
出た!
美貴の父がぬっと顔を出した瞬間、ボクは思わず固まってしまった。
- 53 :匿名著者:2004/09/30(木) 21:36
-
「お、お久しぶりです」
「なに、堅くなってんの?」
「か、堅くなんか……なって、ない」
言葉ではそういっていても、身体は正直だった。
身体がまるで自分のものではないかのように、重く、堅く感じた。
ただ、念のために言っておくが、オジさんのことが嫌いなわけではない。
小さい頃からよく面倒を見てくれた人。
だが、苦手なものは苦手なのだ。
滅多に笑ったところを見せない。
それどころか、表情を緩ませたことすらないオジさんを目の前にすると、
不思議と怒られている気分になってしまうのだ。
繰り返すが、『決して』嫌いなわけではない。
苦手なだけなのだ。
「いつ帰ってきたね」
ぼそっというしゃべり方も変わらない。
「は、はい!今日の昼に……」
「そうかい。そりゃ悪かったなあ。疲れてるだろうに、呼んじまって」
「そ、そんなことないです!ボ、ボクもオジさんに会いたかったです!」
社交辞令である。
こういうところが自分でも大人になった、と思える。
それが良いか悪いかは、置いておいて、とりあえず目上の相手に対しては、
それなりに気を遣うことができるようになったのだ。
昔なら、黙って愛想笑いを浮かべるのがせいぜいだったのに。
「それじゃ、準備してくるから、ちょっとだけ待っててね」
「準備?」
美貴はボクの問いには答えることもせずに、家の奥へと小走りに消えていった。
結果、ボクはオジさんと二人きり……。
沈黙。
その重苦しい空気を打ち破ったのは、意外にもオジさんの方だった。
- 54 :匿名著者:2004/09/30(木) 21:37
-
「……一杯やるか?」
「え?」
「酒だよ」
「あの……ボク、まだ二十歳になってないもんで」
「そうか」
再び沈黙。
今ほど美貴が側にいて欲しいと思ったことはなかった。
この雰囲気には耐えられない。
そう、ボクが限界を感じたときだった。
「美貴のヤツ、変わったと思わねえか?」
「……」
オジさんが突然そう切り出したのだ。
ボクはそれに対して、どう答えていいものか、戸惑った。
たしかにボクが最後に美貴と会ったのは、彼女がまだ高校生の頃だった。
それから久しぶりに会う、その姿は変わっていない、といえばウソになる。
あの性格だから、女らしくなった、などとは毛ほども思わないが、
それでも時折見せる表情にドキリとする瞬間があった。
ボクが何も答えずにいると、オジさんはなおも話を続けた。
「美貴のヤツ、ここ数日妙にはしゃいでてなあ。まあ、言ったら美貴には怒られるかもしれねえが、
オマエが上京して以来、あんなにはしゃいだ姿、見たことなかったくらいにさ」
そしてオジさんは最後に究極の一言を告げた。
「なあ、美貴のことをどう思ってる?」
「!」
- 55 :匿名著者:2004/09/30(木) 21:37
-
まったくこの帰郷は驚かされることばかりだ。
美貴のことをどう思っているって?
しかもオジさん、つまり美貴の父親から真剣な顔で切り出されたのだ。
ボクはその意図をはかりかねていた。
冗談?
だが、オジさんの表情はいつもと何も変わらない、ポーカーフェイスのままだ。
たしかに美貴のことは嫌いじゃないけれど、この場合はどういう意図の質問なのだろうか。
ボクにとっては美貴は幼なじみ、妹のような存在、そんな感じでしか考えてこなかった。
そういう意味での質問なのか?
それとも別の……。
「美貴のことをどう思っているかって言われても……」
1>好きだ
2>別になんとも
- 56 :名無し娘。:2004/09/30(木) 22:17
- 3 下僕
- 57 :名無し娘。:2004/10/01(金) 12:07
- 2de
- 58 :名無し娘。:2004/10/01(金) 23:34
- 1.「実は僕まめおだったんです」
- 59 :名無し娘。:2004/10/08(金) 22:17
- 2de
33KB
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