■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 最新50
俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜4

78 :名無し娘。:2008/04/21(月) 23:30
「どうして桜って散っちゃうんですかねぇ?」

季節が終わり青さの増した夜桜を見ながら新垣さんは言った。

「それは、桜の花自体の役割が終わったせいだからだよ。」
「そんな難しい話されても分からないですよぉ」
「いや、ごめん。」

二人きりで夜道を歩くことがこんなに緊張するとは思わなかった。
どうしても小難しい話し方をしてしまう。新垣さんはそんな話方でも微笑みながら聞いてくれる。
それだけで僕はとても幸せな気分だ。

「もっとロマンチックなセリフは言えないんですかぁ?」
「無理言うなよ。そういうの言えないってわかってるだろ?」
「フフ、それもそうですねぇ」

昔からそうだ。僕はいつだって気の利いた言葉を言うことができない。
緊張を隠して平常心を装ってしまう。

「ちょっとコンビニ寄ってってもいいですかぁ?」
「あ、うん。何か買うの?」
「特にないんですけどだめですかぁ?」
「いや、大丈夫。」

正直、大丈夫じゃなかった。
一緒に歩いてるだけでも、歩き方がぎこちなくなっているのだ。
買い物なんて想像の範疇を超えていた。

79 :名無し娘。:2008/04/21(月) 23:31
店に入ると僕はすぐに雑誌のコーナーに向かった。特に読みたいものがあったわけではないが、
狭い店内を一緒に歩く勇気は無かった。

「そう言えば今月のこれに私表紙で載ってるんですよぉ」

びっくりする事に新垣さんは僕の隣で雑誌をめくっていた。
心臓が飛び出すんじゃないかってくらいに脈を打っている。

「何読んでるんですかぁ?やらしぃー」
「違うから。普通の雑誌だから。」

気がつけば適当に手に取った雑誌のグラビアページを開いていた。
僕は急いでページを変える。

「まったく男の人って」

ヤレヤレといった表情を浮かべているものの、やはり顔は優しかった。

「私スイーツ見てきます」

雑誌を棚にしまい、新垣さんはスイーツのコーナーに向かった。
極度の緊張から解放された僕は雑誌に目を落とした。
さっき勢いでめくったページには花言葉特集の記事が掲載されていた。
まてよと思い、僕は急いで『桜』の花言葉を探す。

「あった。桜の花言葉。『優れた美人』『純潔』『精神美』『淡泊』か。」

自分の新垣さんに対する素直な気持ちが、桜の花言葉と合致した。
しかし僕に自分の気持ちを伝える勇気がない。今でも手は汗ばんでるし。

「何も買わないんならそろそろ行きましょうよぉ」

びっくりして振り向く。ちゃっかりアイスを買っていた新垣さんが立っていた。

「あ、うん。帰ろうか。」
「何読んでたんですかぁ?」
「何でもないよ。行こう。」

80 :名無し娘。:2008/04/21(月) 23:32
再び青くなった夜桜の通りを二人で歩く。
僕は何度も何度も出かけたセリフを飲み込んでいた。
しばらくの間無言で歩き、大通りに出た。

「じゃぁ私こっちなんでぇ」
「あ、うん。おやすみ。」
「おやすみなさぁい」

やや間があってから新垣さんは向きを変えて歩き出した。
最後まで笑っていたが今の笑顔はどこか悲しそうだった。
気のせいかもしれないが、僕は自分の持っている勇気を振り絞り彼女を呼び止めた。

「新垣さん。」

すぐに振り向いて

「何ですかぁ?」
「あの、えっと、…僕は、」
「えぇ?聞こえませんよぉ」
「…僕は新垣さんのことを桜だと思っています。僕にとって新垣さんは桜です。」

しばらく沈黙があった。
自分が何を言ってるのか果たして伝わったのだろうか。
僕は急いで弁解の言葉を探す。

「いや、これは、えっと、」
「私は桜なんていいものじゃないですよぉ」
「え?」
「私は『ヤマザクラ』です」

彼女が何を言ってるのか分らなかった。

「そして先輩はわたしにとって『さくらそう』です」

そう言うと新垣さんは恥ずかしそうな顔を隠しながら振り向いて帰って行った。
暫くそこに取り残された僕は、急いでさっきのコンビニへ戻った。
さっきの雑誌を手に取り花言葉のページを開く。その直後僕は言葉を失った。


『ヤマザクラ』花言葉は『あなたに微笑む』
『さくらそう』花言葉は『初恋』

とある雑誌で表紙を飾っていた新垣さんは僕に優しく微笑みかけているようだった。

61KB
続きを読む

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail(省略可)

0ch BBS 2006-02-27