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俺と娘。の夢物語〜in 狩狩〜4

38 :『遅刻、とか』:2007/12/06(木) 01:16

「せんぱいっ」

掛けられた声に本へ落としていた目を上げると、そこには今まで読んでいた本のことなど忘れてしまうくらい素敵な笑顔があった。
それは久しく見ていなかった笑顔で、とても身近にある笑顔なハズだった。

「愛ちゃん。えっと…、どうかした?」
「あ? なんで?」

一つ飛ばした会話が、笑顔から驚いたような不思議がる表情に変える。
思わず吹き出した僕に向けられた視線はそれを咎めるものだけど、少しだけ拗ねた調子も感じられて。
ここのところの鬱屈した心中へ吹き込んで、いつもの自分に戻してくれるような接し方だと思えた。

「ん、なんでもない」

愛ちゃんは軽く首を傾げてから切り替えるみたいに表情を引き締めた。

「ま、いいです。それより、…ありがとーございました」
「…なにが?」

今度はこっちが解らない。
僕の反応へ晴れ晴れとした笑顔を返して、それからポツリとこう言った。

「プレゼント。ちゃんとくれました」

ああ……
約束を果たした……、果たせただけで、止まっていた時間を再び動かすことができただけで。
それだけで留まっていた自分に「正解だよ」と回答してくれたように、一つの事柄にきちんと収まりをつけてくれた。

39 :『遅刻、とか』:2007/12/06(木) 01:17

「ちょっと遅刻でしたけど」

ニッと歯を見せた愛ちゃんが悪戯に口にする。
顧みた自分に言い返せるはずもなく、ただ手詰まりに笑ってみせるしかなかった僕に、不意に訪れた刺激は軽く。
それでいてとても強いものだった。

「あ…、愛ちゃん?」

僕の洩らした言葉はやわらかな栗色の髪に吸い込まれる。
コトンと預けるように胸に寄せられた額からぬくもりと微かな振動が伝わってきた。

「せんぱいならって、信じてたから」
「っと、……期待を裏切らないようにします」

一時の自分を戒めるための言葉に、俯いていた顔が上げられた。
その距離の近さと、真っ直ぐな瞳に一つ心音が跳ねる。

「普通のせんぱいでいーんですよ?」

なにを計ることもない優しい肯定だった。
だから僕は思った。
なにも計ることなんかなく、あるがままの自分で。
愛ちゃんを…、みんなを笑顔にしてあげたいって。
今更ながらにそう思った。

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0ch BBS 2006-02-27