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【下克上】例えば名無しが作者編【成り上がり】

180 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:50 ID:sVbTKPV.

ここのところ美貴の様子がおかしい。
隣の家に住み、ベランダ越しに人の部屋へ入ってきたり、互いにあけすけに話をしあえる仲だったはずなのに。
四、五日前からだったろうか、妙に口数は減り、俺の部屋へ顔を出すこともなくなった。
そして昨日、いや一昨日だったな。
ついには俺を避けるような様子まで見せ始めた。

正直ショックだった。
嫌われるようなことはした覚えがないし、もし気がつかずにしてしまったとしても、真っ直ぐにそれを話してくれるヤツだったから。
事情も解らないままに離れていく幼なじみに言い表しがたい淋しさを覚えていた。
考えても考えても答えは出ない。
当たり前だった。なにもしてない、ハズなんだから。

181 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:50 ID:sVbTKPV.

それでも考えて考え抜いて、そして一つの結論にたどり着いた。
それが事実だとすれば……そう考えると何故だか胸が苦しくなってくる。
ああ、そうだったんだと気がつかされるんだ。

「俺、美貴のことが好きだったんだな」

言葉に出してしまえば簡単なことで。
だけどそれは決定的に時機を逸してしまっているだろうことがより俺の胸の痛みを強くする。
日の沈みだした薄暗い部屋で横たわり、自分はどうするべきなのかを探し求めていた。

182 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:50 ID:sVbTKPV.

部屋が真っ暗になった頃、ようやく導き出した答えに身体を起こしたとき、美貴の部屋に明かりが灯った。
カーテンに映るシルエットが美貴の行動を逐一教えてくれる。
窓際にある勉強机に肘をついた姿勢で落ち着いたらしい。
俺はベランダへ出て、口笛で一つ合図をする。
すぐに気がついたらしい美貴がカーテンを開くけれど、俺の顔を見るなりサッと閉められてしまった。
やれやれとため息を洩らし、美貴のベランダへと渡ることにした。
コンコンとノックをして「ちょっと話せないか」と声をかける。
少し逡巡するような間をおいて、静かにガラス戸が開かれた。
怒っているようなぶっきらぼうな表情で部屋へと迎え入れられる。

183 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:51 ID:sVbTKPV.

「なに?」
「お前さ……好きなのか?」
「な、なに言ってんのよ、今さら……」

図星だったらしい。
少し頬を赤らめて、動揺が声にもありありと表れている。
改めて事実と向き合うのはなかなか辛いことだった。

「お前がそう決めたんなら……俺は祝福するよ」

やっとの思いで口にしたセリフだった。
笑顔の美貴が見たかったから、笑ってそう口にしたつもりだった。

184 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:51 ID:sVbTKPV.

「アンタ……バカ?」
「えっ?」
「なんでそんなこと言うのっ? なんでそんな他人事なワケっ!?」

急に激昂した美貴に捲し立てられる。
俺がなにをしたって言うんだろう。

「だって……違うのか?」
「違わないっ! 全然違わないから怒ってんでしょ!」
「ち、ちょっと待てよ。訳が解らないよ」
「ハァ!? アンタふざけてんの?」
「いや、マジで。どういうことなんだよ」
「それが美貴が必死んなって書いた手紙の答えだってことでしょ」
「手紙? 手紙って……なんの?」
「えっ? 手紙……入ってたでしょ。下駄箱に」

美貴が急激にトーンダウンする。
手紙? 手紙……

185 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:52 ID:sVbTKPV.

「あぁ!?」

一声上げて急いで自室に戻った。
机の引き出し……確か無造作に放り込んだハズだ。

「あった!」

とんぼ返りで美貴の部屋へ戻る。
困ったような顔で立ちつくしている美貴へ手紙を見せた。

「これのことか?」
「ほ、他になにがあんの」
「これ……美貴が?」
「そうだよっ。今さら照れくさかったけど、どうしてもって思ったから書いたのに……」
「いや、だってこれ……イタズラだと思って」
「はっ? なにそれ。人が恥ずかしいの我慢して一生懸命に書いた――」
「名前、書いてないから……」
「……え?」
「名前、書いてないんだ。誰かのイタズラかと思った」
「……え?」
「いつもの美貴の字じゃないし」
「うっ……」

186 :名無し娘。:2006/10/07(土) 18:52 ID:sVbTKPV.

よほど丁寧に書いたんだろう。
普段の美貴の字とはまるで違う文字で書かれている手紙。

「そっか。美貴だったのか……」
「そ、そうだよ」
「そっか。ふはっ、はははっ」
「なに笑ってんだよっ」

思わずこみ上げてきた笑いを、美貴が真っ赤な顔で遮る。
やっぱ可愛いやコイツ。

「それで……?」
「え?」
「ど、どうすんの? それ」

ついには耳まで真っ赤にしてささやくような小声で見上げてくる美貴。
どうしようもないほどにわき上がってくる思いと、少しばかりのこみ上げる笑いを堪えて。
そっと手を差し伸べた。

「これからもよろしくな」

笑顔の美貴が見たいから……。



 おわり

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