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魔法騎士れいにゃーすっ!

1 :名無し娘。:2005/04/30(土) 17:03
从 ´ ヮ`)<にゃ〜♪

270 :名無し娘。:2005/11/22(火) 00:00

週刊誌を二つ買って、でも中澤が驚いたのはその記事ではなかった。
どちらにも武州信用金庫事件の記事が詳しく載っていて、
飯田のことも当然たくさん書かれていた。だが、驚いたのはそれではない。

それは後ろの方の小さな記事だった。見出しには「謎のひったくり?」とある。
財布をひったくられたという小さな窃盗事件についての記事だったが、
そこには財布が手つかずのまま郵便ポストに入れられていたとあり、
しかもキャッシュカードを使って現金が引き出されかけた形跡があるとも書かれてあった。
そして、あまりの残高の少なさに哀れに思ったのか、という勝手な推論を載せ、
とにかく奇妙な事件である、と締めくくっていた。

そんな記事を見て、中澤は「どうなんやろなあ」と独り言を呟いていた。
すっかり忘れていたことが今さらのように浮かび上がってきたことに対する感想だったが、
ちぃとめんどいことになるかもしれへんな、という思いがなくもなかった。
記事はおもしろおかしく書かれてあるので、そこまでしっかり捜査しているわけではない、
というような様子が見て取れるのだが、そのタイミングがどうも気になったのだ。

そこから芋づる式に今回の事件まで、ということはまあありえないが、
二つの事件が同じ週刊誌に載ったという偶然が、偶然ではないような気がしたのだ。
「嫌な方に行かへんければええんやけどな」
中澤はそう呟いて、コーヒーを一口、口に含んだ――。

271 :名無し娘。:2005/11/22(火) 00:00

「色々あって……みなさんにお騒がせして……まず、それを謝りたいと思います」
飯田はかなり謙虚だった。被害者でありながら謝罪の言葉から入ったのだから。
それを見て保田は好感度上がりまくりね、なんてことを思ったが、
すぐにそれを取り消さなくてはならなかった。いや、そういう役なら他に適任がいるのだ。
「きゃはははは。これぜってー好感度上がりまくりだって。カオリンやるじゃん」
「こら、それは不謹慎だってば」
「あ、ごめーん。でもさあ、いい宣伝になるよねえ。こういうのってさあ」
しかし全く同じことを考えていたということで、保田はちょっと笑いを浮かべてもいた。

飯田は淡々と話を進めていた。どうしていいかわからなくて、気が気でなくて、
もうなにがなんだかわからなくて、気が動転していて、と、とにかくそんな言葉がよく出る。
本来なら受け付ける予定のなかった質問にも飯田は答えた。
「一番怖かったのは……多分、最初に襲われたときです」
そう言って飯田は下を向いた。
その瞬間、二三のカメラがフラッシュを焚き、飯田は見事なまでにそれに怯えていた。
「やめてください。お願いですからフラッシュはやめてください」
事務所の男性がそう制止して、その言葉で飯田はさらに体を震わせた。
脇にいた事務所の女性が飯田に駆け寄り、そしてマイクに口を近づける。
「飯田さんは爆弾よりスタンガンの方が怖かったんです。今も光に敏感になってるんです」
その言葉で飯田は情感が高まったのか、思わず涙をこぼしてしまっていた。
そして、その涙を撮ろうと次から次へとフラッシュが焚かれ、会見場は騒然となった。
「や、やめて……お願いだから……おねがいだから……」
その小さな声が聞こえないくらい、パシパシというフラッシュの音が続いた。

「なんか……かわいそうだね、カオリン……」
あまりのことに矢口がそう言って、でも保田はそれとは全く逆のことを考えていた。
おめでとう、また一つ新人賞にノミネートされたわね、と――。

272 :名無し娘。:2005/11/22(火) 00:01
今日はここまでです。楽しんでいただければ幸いです。

273 :名無し娘。:2005/11/22(火) 02:34
じわじわ迫ってくる感じがいいね

274 :名無し娘。:2005/11/22(火) 11:55
イイヨイイヨー      

275 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:13

石川はるんるんしていた。とにかくるんるんしていた。
事件のニュースは毎日見るのに、そのどこにも自分たちを疑う気配はないのだから。
中澤や保田や稲葉や自分たちの名前がいきなり出てくる、なんてことはまずありえないが、
あれだけ話題になっている飯田が全く疑われていない、というのが石川には嬉しかった。
ソースの不確かな噂話を掲載するようなゴシップ誌でさえ、飯田を疑ってはいない。
そう思うと、石川はなんだか初めて社会に勝ったような気がして、自然とうきうきしてしまう。
例え下級の偵察要員であったとしても、そんなことはどうでもよかった。
石川は社会に挑み、そしてそれに勝ったのだ。歴史に残る完全犯罪を成し遂げたのだ。

だが、そんな気分はその日の午前中までだった。
「なんか警察の人が話が訊きたいって。なんか事件の日近くにいたんだって?」
マネージャーがそう言って、石川は呆然となった。一瞬頭の中が真っ白になる。
飯田より先に自分が疑われることになるとは思ってもいないことだった。
ただ、そういうことになるという想定が全くなかったわけではない。
あの日、四人で保田の部屋に戻ったときにそれは教えられていたのだから。
「あ……あの、もしかしてケーキ屋さんのこと?」
石川は中澤たちから伝授された想定問答集を思い出していた。
ただ、その要点はなるべくぽかんとした表情を心掛ける、ということだけだった。
なぜ自分が疑われているのかわからない、そんな雰囲気を醸し出せれば勝ちなのだから。

「あ、ケーキ屋にいたんだ」
マネージャーが納得したようにうなづいた。
「はい。あのー、もしかしてあの近くだったんですか、飯田さんの事件って?」
「ああ、なんかそうらしくて、それで、ちょっと警察の人が来てるみたいだから」
マネージャーは少し困惑している様子だったが、それは疑いというものではなかった。
飯田が巻き込まれて迷惑してるのに、さらに石川までか、というような思いでいたのだ。
「いいですよ。でも、なんか覚えてることあるかな?」
石川はそう返事をして、心の中でカメラを意識した。すでにカチンコは鳴っていた――。

276 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:14

記者会見のVTRからまたスタジオへと画面が戻り、だが部屋に言葉はなかった。
矢口は自分が飯田の不幸を笑ったことを後悔していた。
そして上を見て下を見て、また上を見てから口を開いた。
「カオリン……かわいそうだったね。あんなにフラッシュ浴びて、やめてって言ってるのに」
「そりゃ怖いよね。だって目の前で先生がやられたんだから。そりゃ怖いよ」
飯田の演技には負けるなあと思いつつ、保田も演技を続けていた。
「ひどいよね。寄ってたかってあんなに。あれじゃいじめだよ」
「でも、よく頑張ったよね、カオリン。私だったらあの場に出るなんてできないもん」
「うん。よく頑張ったと思う。なんか、カオリンの良さを改めて感じたかもしんない」
矢口がそう言って、またしばらく会話が止まる。
テレビでは相変わらず関係ない人間が好き勝手なことを喋っていた。
もちろん、しばらくは飯田を擁護してマスコミを批判する意見が続いてはいたが。

「ねえ、マンガ、読んでもいいかな」
空気を変えようと矢口がそう言って、保田はなんの気なしにそれに答えた。
それがどういう結果をもたらすことになるのか、全く予想もせずに。
「うんいいよ。いつもんとこにあるから、好きなの持って来て」

勝手知ったる他人の家、という感じで、矢口は立ち上がって隣の部屋に向かった。
そして、しばらくして一冊のマンガを手に戻って来た。だが、その顔には笑顔はなかった。
その様子に保田は首をかしげた。
「どうかした?部屋ちらかってたかな?」
「あ、いや、そうじゃなくて。ただカオリンのこと思い出してただけだから。うん」

矢口が帰り、保田は部屋の掃除を始めた。
リビングから始めて、隣の部屋では床に乱雑に散らばっていたマンガを棚に戻す。
だが、その部屋の隅に放置してあった汚い袋には全く注意を払わなかった。
その袋には番号不揃いの現金三千万円がそのまま入っていた――。

277 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:14

ロビーの椅子に座っていたのが女性の刑事さんで、石川はほっとしていた。
それも見た目では刑事だとわからないスーツ姿だ。
「石川梨華さんですね。すいませんお時間取らせてしまって」
「あ、いえ」
「えーと、突然でびっくりしてると思うんだけど」
そう言って女刑事が話を切り出した。
「事件が起きたとき、ベル・シャトウっていうケーキ屋さんにいたんだよね?」
女刑事は三十過ぎくらいで、友達に話し掛けるような口調でそう言った。
疑ってはいないんだけど、というのがその口調からも伝わってくる。
だが、それをそのまま受け取ることはできない。石川はその女刑事を疑っていた。
「はい。あの、ショコラ、なんだっけかな、ショコラなんとかっていうケーキが美味しいんです」
「あ、そうなんだ。でもあれだね、偶然とはいえ、事件の瞬間にそこにいたわけだよね?」
「みたいですね。私知らなかったんだけど、さっきマネージャーさんから聞いてびっくりして」
女刑事はうんうんと相槌を打ちながらそれを聞く。
手には手帳を持っているが、なにかメモを取るという様子は今のところなかった。
ただ、駆け引きが始まっているのは確かなのだと、石川はそう捉えていた。
「別に疑ってるわけじゃないの。それはまあわかってると思うけど」
そう女刑事が言って、石川はやはり疑っているんだという確信を強めた。
「ただね、あの時間近くにいたわけだから。なにか目撃したりとかしてないかなって」
「うーん、目撃ですか?」
「そう。教習車が信用金庫の前に停まったと思うんだけど、覚えてないかな?」
「うーん、どうだろ。そんなこと考えたことなかったし。ごめんなさい、よく覚えてません」
「そうよねえ。もう十日も前のことだしね」
「そっか。でもあそこの近くだったんだ。なんかそんな感じ全然しなかったんだけどな」
「お店の斜め前に信用金庫があったんだけど、それも知らなかったかな?」
「そう言えばそんな感じだったかな?でもどうだろ。ケーキは美味しかったんだけど」
石川はそう言って、全くわからないという目をした。
いや、頭を空っぽにしたといった方がいいのかもしれない。
石川はなにかを演じる必要はなかった。ただ普段通りアホでいればいいのだ――。

278 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:14

石川が警察から話を訊かれたという話は、メンバーを少し不安にさせていた。
なにかボロを喋ったんじゃないかと、気が気ではなかったのだ。
だが、そんな不安をよそに、当の石川はけろっとしていた。
るんるんした気分ではなくなっていたが、それでも乗り切ったという自信がそこにはあった。
「あんた、本当に大丈夫だったの?」
保田がそう尋ねる。その日はハロモニ。の収録日であり、
そこは天王洲スタジオの彼女たちのいつもの楽屋だった。
「うん。言われてた通りにいつも通りにしたし。最後の方はなんか呆れてたし」
「あっちゃんは大変だったみたいよ。かなり詳しく事情を訊かれたって」
「あ、稲葉さんも?」
「あんたがあっちゃんと落ち合う約束だったって言ったからでしょ。まあ予定通りだったけど」
「そっか。私だけじゃなかったんだ」
「でもまあうまく説明したみたいだし、それに警察は別の方に向いてるみたいだから」

保田が言った別の方というのは、内部犯行ということと、襲われた教官のことだった。
新聞は不確かな情報は書けないため、そのような記事が載ることはなかったが、
週刊誌などはその方面に関して大いに書き立てていた。

内部犯行説では、全社員の普段の素行が調べられたということが書かれてあった。
そして、実行犯に女性がいることから、社員の浮気すら調査対象になったのだとも。
つまり、愛人を巻き込んでの犯行、という線を見ているらしい。

279 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:14

だが、事件も十日を過ぎ、それ以外にもう一つの線が浮上してきてもいた。
それは襲われた教官に借金問題や女性問題があったということであり、
二十年前のダジャレのような教習車強襲事件に着想を得ていた。
つまり、強盗というのが第一の目的であるが、その教習車、その教官を狙ったところに、
また別の目的、怨恨のようなものがあったのではないか、とする線である。
その教習所と社員を含む信用金庫との間に、幾つかの接点が見つかったともあった。
雑誌ではそこまでしか書かれていなかったが、そこにはその教官が犯人の一味である、
つまり自作自演の可能性もありうる、というようなニュアンスが含まれてもいた。

「じゃあその車の先生が疑われてるんだ」
「そうよ。でも、そうなるとカオリンが疑われたって不思議じゃなくなるわね」
「あ、そっか。先生が疑われるんだもんね。それじゃ飯田さんが疑われるかもしれないんだ」
「でも大丈夫よ。カオリンはあんだけうまくやったんだから。誰も疑ってないわ」
「だよね。大丈夫だよね」
その言葉を聞いて保田は、あんたが一番心配なのよ、と言いたくてたまらなかった。
保田は犯行がばれるのは飯田からではなく、石川からだと考えていたのだ。
ただし、そう考えているのは保田だけではない。それは石川を除く全員の総意だった――。

280 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:14

教習車が襲われた現場は、今ではすっかり普通の道に戻っていた。
「教官の自作自演だったとして、でも愛人はアリバイがあったんですよね?」
若い刑事がそう疑問調で言った。隣には例のベテラン風情がいる。
「金が欲しい女はいくらでもいる。一人や二人外れてもその次はわからんさ」
「でも、私はその線はないと思うんですよね。だってわざわざ騒ぎにしたりしますか?」
それはわざわざ飯田圭織という芸能人が教習のときに実行するか、という意味だった。
捜査本部は話題をそらすために芸能人をあえて事件に巻き込んだのだと考えていた。
つまり、飯田圭織は偶然ではなく、故意に狙われたのだと。
だが、騒ぎが大きくなればなるほど、不利になるのは教官ということになる。
それは週刊誌が書き立てていることを読めばすぐに理解できることだった。
「確かにそうかもしれん。でも、そうでないかもしれん。誰にも未来は読めんのだ」
それはその刑事の口癖だった。未来から、つまり結果から物事を考えるのではないのだと。
出発地点は犯行を計画した時点であり、そこにこそ後に結果となるべき原因があるのだ。
「じゃあ、やっぱり教官が怪しいと考えてるんですか?」
「計画通りに行くような犯罪はまれだ。ほとんどは予想とは違う方へ行くもんだ」
スタンガンで気絶さえすれば自分は疑われない、教官がそう考えていても不思議ではない。
そしてそうであれば、芸能人の教習生は話題をそらすには恰好の標的となる。

と、そこでそのベテランの刑事がなにか思い出したかのような表情を浮かべた。
「予想とは違う方、か。そう言えば被害者の二人、証言が食い違ってたな」
「襲ったのが男か女かってやつですよね?」
「うーん、でもよくわからんな。教官が気絶してたってのはまず間違いないからな」
そう聞いて、でもその言葉に若い刑事は首をかしげるしかなかった――。

281 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:14

「稲葉さんって知ってますか?ハロプロのメンバーで、ダンスの先生とかしてて」
「稲葉、名前はなにさんかな?」
「稲葉貴子さん。“たか子”って書いて“あつ子”って読むんだけど」
「稲葉、貴子さんね」
「稲葉さんって、とても面白いんですよ。関西人で、ツッコミとかがプロ級で」
女刑事は手帳に名前を走り書きした。もちろんツッコミのことまでは書かない。
「それで私、稲葉さんに色々相談とかしてて。すっごい親身になってくれるから」
「相談ってどんなことかな?」
「ダンスとかはないんだけど、ラジオで面白い話がしたいとか、バラエティの心構えとか」
「ああ、なるほどね。ダンスの先生だけどお笑いの先生でもあるんだ」
「あ、そうそう!そうなんです。稲葉さんって、もしかしてお笑いの師匠かもしれない」
石川は目を輝かせながら、稲葉の面白さについてその女刑事に延々と話し出した。
そこには強盗の仲間だというような緊張感は全くなかった。
自分が疑われていることもわからないというほど、それはポジティブな脳天気に見えた。

「ありがとう。一応、稲葉さんにも話を聞くことになるけど、もちろん一応だからね」
「はい。でもどうなんだろ。稲葉さんって、最近物忘れとかひどいんですよ」
ドラマの演技ではない、素の演技であれば、石川は誰にも負けなかった。
もう何年も、石川はアイドル石川梨華を演じ続けていたのだから――。

282 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:15

「十日前ですか?なんやろ……どうやったかな……」
「石川梨華さんと会う約束だったとか」
「あー、その日か。えーと、すいません、ちょっと手帳持ってきていいですか?」
「あ、別にそこまで詳しく聞くつもりはないんで。単なる確認なんで」
「いやいや、こういうのはちゃんとせなあきまへんで。うち疑われたないですもん」
稲葉は笑顔でそう言った。それは疑いを持つ女刑事に対する挑発でもあった。
「えっと。あったあった。せや、石川との約束その日やったわ。なんや事件の日やったんか」
「そのとき、偶然だけど石川さんが現場付近のケーキ屋にいたんです」
「あー!あのケーキ屋か!あれ、うちが教えたんですよ。あの近くやったんですか?」
「ええ、まあ。それで、一応ね、目撃証言を探してるんで」
「でもあの日は確か、うち寝坊して、結局そこには行かへんかったし」
「その日は石川さんとは?」
「会いましたよ。車であん子拾って、そんでスタジオに一緒に」
石川と稲葉がその日一緒にスタジオに来たことはすでに調べが済んでいた。
そのケーキ屋が、稲葉と石川の自宅、そして天王洲スタジオの位置を考えたとき、
特に不自然ではない場所にある、ということもすでにわかっていた。
そこまで疑っているわけではなくても、一つずつ疑惑を消していくのが刑事の仕事だった。
「わかりました。それじゃ現場には行ってないんですね?」
「すんません。うちがおったら犯人の顔とかしっかり目に焼き付けたったんに」
それは飯田の敵討ちと言わんばかりだった。
ただし、そこには犯人が目出し帽かぶっとるのに顔なんかわかるかいな、という、
そんな稲葉的お笑いセンスも含まれていた。稲葉はそれを楽しんでいた――。

283 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:15

事件発生から十三日目。事件の報道は絶えないもののすっかり大人しくなり、
飯田の話題が出ることもあまりなくなっていた、そんな日。
警察の捜査本部は混乱していた。捜査を根本から覆すような新事実が発覚したのだ。
しかも、それはこれまでノーマークだった飯田圭織に関しての事実だった。
「それじゃ、飯田圭織は偶然事件に巻き込まれたんじゃなく、狙われたんだと?」
「その線が本星だとしたら、そうなるわな。計画当初から彼女“が”被害者だった」
それは飯田を疑うというようなものではなかった。それとは全く逆だった。

捜査員は幾つかの班に分かれてそれぞれの線を突き詰めていた。
内部犯行の線、教官の線、またプロの犯罪組織という線もまだ消えてはいない。
そして、それ以外の遊離班の中から、新たに捜査員が集められていた。
その全員にコピーが配られる。
「これが飯田圭織の所属事務所に送られていた不審な手紙だ」
それは飯田圭織に対するストーカー的な手紙だった。脅迫状とも受け取れる。
「日付は一番古いのが三ヶ月前。それから大体週に一通のペースで送られていた」
「全部で十通ですね」
「まだ事件との関係はわからんが、ストーカーによる犯行という線も考えられる」
「ストーカーですか……」

飯田圭織が狙われたという見方は、少数派ながら事件当初からあったものだった。
その論拠となっていたのは、現金要求のメモにある「女」という文字。
つまり、犯行グループは最初から女性の教習生を人質にする計画だったことになる。
もちろん、それだけでは飯田圭織という芸能人が狙われたとは断言できない。
しかし、犯人が教習車の駐停車場所など、緻密な計画を練っていることを考えると、
飯田圭織が教習生だということまでわかっていた可能生は十分にある。
それがストーカーであれ別のものであれ、とにかく、飯田は狙われていたのだ――。

284 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:15

「ねえねえ、圭ちゃんさあ、最近カオリンと仲良かったりする?どう?」
矢口がそう尋ねて、保田はその意味がわからずにいた。
「どうって訊かれても。特に変わらないよ。事件から一度も会ってないし」
「そうじゃなくて、その前とか。だってユニットで結構遊んだりしてたじゃん」
「あ、プリプリピンクか。うん、四人で遊んだりしたよ。みんな似たような境遇だし」
「でもいいなあ。おいらアレがあったから、仕事だってみんなと分けられたし」
“アレ”というのは矢口の脱退騒動のことだ。
「真里いっぱいテレビ出たじゃない。正直羨ましかったんだからね。みんな」
「まあそうなんだけどさ。でもおいらって一人なんだよね。最近ずっと」
矢口がなにが言いたいのか保田にはまだわからない。
「でも四人で集まったりとかしてたんだよね?」
「そうね。ここで一緒にお酒飲んだりとか。カオリンはほとんど飲めないんだけどね」
「へえ。やっぱり四人で集まったりしてたんだ。ふーん……」
矢口は頭の中を整理しているような、そんな素振りを見せた。
だが、結局保田はそんな矢口を変だなと思うことはなかった――。

285 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:15

事件から三週間。飯田も仕事に復帰し、またいつもの生活が戻ってきていた。
もちろん飯田の仕事といっても、ハローの身内の仕事くらいで、数はそんなに多くない。
事務所の中には、事件のマイナスイメージを心配する声もあり、
そんな身内の仕事でさえ、もうしばらく様子を見た方がいいという意見もあった。
警察が飯田のストーカーによる犯行という疑いを持っているというのも理由の一つだ。

だが、そんな予想はすぐに覆されていた。
まず事務所に殺到したのが、各種メディアによるインタビューだった。
週刊誌はもちろん、新聞や日常の雑誌までもが、我先にと飛びついてきたのだ。
事務所が事件のことに触れないことを条件に出し、幾つかは手を引いたものの、
それでも結局、飯田は事件のことについて触れないわけにはいかなかった。

元々の丁寧さもあり、飯田のインタビューはメディア関係者には好評だった。
儚(はかな)くも健気(けなげ)な女性というイメージが自然と浮かび上がる。
そしてそんなイメージからか、事務所には数本のCMの話まで舞い込んできていた。

だが、事務所にはこれを大々的に利用するという一派と、慎重な一派があった。
そして結局、事件が解決するまでは大々的な露出は控えるということになったが、
それでも事務所の飯田への扱いは以前とは全く別のものになっていた――。

286 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:15

部屋には久しぶりに五人が揃っていた。
中澤裕子、稲葉貴子、保田圭、飯田圭織、そしてもちろん石川梨華もいた。
みんな社会に勝ったことの喜びを顔に表していた。
外では無理でも、その保田の部屋だけはそんな顔が許されていたのだ。
ただ、石川にはなんだか、その“それぞれ”がちょっと奇妙に思えていた。

「しかしみんなようやったわ。ほんま凄いで。これならもうなんでもありやな」
そう言った中澤の言葉に、石川はやはり不安を感じずにはいられない。
この人は調子に乗ったら危険なのだと、これまでのことを改めて思い返す。
「うちもな、刑事が来たときはびびったで。ここまで来たんかーってな」
稲葉もちょっと危険だった。陽気さは以前と変わらなかったが、
それでもなんだかなにか一人で企んでいそうな、そんな気がしたのだ。
「あ、それでお金のことなんだけどさ、あれ、結局どうしたらいい?」
保田がそう言って、石川はなんのことだろうと一瞬迷ったが、
保田が隣の部屋から例の袋を持ってきて、ようやくその言葉の重要性を理解した。
「うちら別に金には困ってへんからなあ。それに、それ安全かどうかほんまはわからんし」
「安全じゃないの?」
石川がそう口を挟んだ。番号不揃い、未チェックだから安全だとばかり思っていたのだ。
「警察がそう言ってるだけかもしれへんやろ。チェック済みやったら使ったらお縄や」
「また郵便ポストに入れちゃう?それともゆうパックとか?」
「そんなんしたらほんま捕まるで。まあなんや、しばらく置いといてまた考えよか」
結局、事件が解決しなかったのは、犯人の目的が金ではなかったこともあるのだろう。
事件から一ヶ月が経とうとしている頃に、ようやくそれを思い出したくらいなのだから。
ただし、稲葉だけはその金にかなり興味を持っている様子だったが。

287 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:16

「でも、一番の活躍はやっぱりカオリンよね。だって凄かったもん」
保田がそう言って、飯田が照れ笑いを浮かべた。
ただ、なんだか苦しそうな笑顔だなと、石川はそんなふうに感じていた。
よっぽど精神的に疲れたんだろうな、なんてことを思う。
が、次の瞬間、その自分の目が捉えたものを見て、やっぱりおかしいと石川は思った。
飯田の首筋に、大きな赤いあざがあったのだ。
それは通常の飯田であれば考えられないようなことだった。

保田たちの話をよそに、石川はまじまじとそれを眺めた。
その視線に気づいたのか、飯田がさりげなく襟で首筋を隠す。それはやはり異常だった。
飯田に彼氏がいてそういうことをしている、というのは別にどうでもよかった。
ただ、飯田がそんな不注意なことをした、というのが石川には信じられなかったのだ。

なにかがまだ続いているのかもしれない。石川はそう思った。
そして、それはきっと、自分を巻き込むことになるのだと。
石川はスリルとショックとサスペンスから離れられないことをすでに承知していたが、
絶対にショックだけは嫌だと、そんなことを思ってもいた。
ショックを受けるくらいなら、その前に自分からそのショックを消してやるのだとも。

288 :名無し娘。:2005/11/22(火) 20:16

中澤がグラスにビールを注ぎながら、そろそろええかな、という合図をする。
保田と稲葉がそれに目で応え、飯田もうんとうなづく。
「ほな、そろそろ次の計画やな」
「次の計画?」
石川がそう訊き返し、でも、次に進むことを怖れる気持ちはもはやなかった。
いや、むしろ早く先に進みたいと、そんな気持ちがその声には含まれていた。

中澤がビールを一口飲み、そしてその言葉を口にする。
「次に狙うんは……つんくの資産、三十億円や!」

石川の背筋にゾゾゾッと奇妙な感覚が走る。
だが、それは石川にとって、はっきりとした快感であり、快楽だった――。

┌――┐
││3 │
│└→│
└――┘

289 :名無し娘。:2005/11/24(木) 11:17
う〜んハラハラするぜぃ

290 :名無し娘。:2005/11/25(金) 00:01
マジおもしろいなぁ

291 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:02

透明のレインコートが赤く染まり、彼女はその自分の手を見つめた。
日常生活ではほとんど持つことのない包丁、その金属の光沢もまた赤く輝いていた。
何度も突き刺したせいか、先端が少し欠けていて、その欠けた部分に肉片がぶらさがっている。
いつまでしがみついてるつもりなのか、彼女にはそれが少し腹立たしかった。
だが、そんなことは些細なことだった。彼女は笑顔を浮かべ、ふふふふっと静かに笑った――。

292 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:02

「つんくさんってそんなに持ってんの?」
三十億円という額を聞いて、石川がそう訊き返した。
「はいこれ。この前の経済紙のインタビュー記事と、それとネットでの情報」
保田が人数分コピーした用紙をそれぞれに手渡す。
「がっちり溜め込んでるらしいで。あん人貧乏性やろ。小室みたいな贅沢でけへんねん」
「でも意外に少ないんやな。もっと稼いどるか思ったんやけど、しょせんその程度かいな」
稲葉がそう言って、中澤が微妙に反論する。
「アホなこと言うなや。三十億やで?才能枯渇してそんだけ残っとれば十分やろ」
「ほとんどコーラス印税だったりしてね」
飯田がそう口を挟んで、場の雰囲気が和んだ。そんなところはいつもの飯田のように見える。
「一枚千円のCDを仮に五百万枚売ったとして、売上高は五十億円でしょ、それから……」
保田がそう言いながら頭の中で計算を始める。
商業高校中退とはいえ、簿記の資格なんかも持っていて、計算はそこまで苦手ではない。
「原価や流通は考えなくてええやろ。作詞作曲にプロデュースで取り分何パーかやな」
デビュー前にOL経験のある中澤がその計算に加わる。
「十パーセントでも五億円か。じゃあもっと貰ってるってことかな?」
「アルバムとかもあるさかいな。それに、シャ乱Q時代のミリオンなんかもあるで」
「カラオケとかそういうのも入るんじゃない?着メロとかは少ないだろうけど」
「それで三十億かいな。税金引いてそんならまあ妥当なとこかもしれへんな」
「でも問題はこれよね、これ」
そう言って保田が用紙のある部分を指差した。
「ほとんど有価証券らしいわよ。不動産と貯蓄は少しで、あとは全部ガチガチの投資信託」
「あ、ねえねえ、ユーカショーケンって?トーシシイタケ?」
「簡単に言えば株ってことね。あたしも投資信託でインド株やってるんだけど」
「あー、インド株かいな。なんや最近そんな話ばっかりやな。ほんま儲かるんか?」
「なんや、あんたら株なんかやってんのかいな。よっぽどアレなんやな」
稲葉がそう言って保田が苦笑いを浮かべる。
ただ、石川だけはそんな大人の世界を凄いなあと思うしかなかった――。

293 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:02

保田はコンビニで買った高級カップラーメンをすすりながら、テレビを見ていた。
あの事件以来、家にいるときは知らず知らずニュース番組をつけるようになっていた。
興味のない外交や政治問題のニュースが流れ、そして殺人事件の速報が入る。
「殺害されたのは、自動車学校勤務、○○○○さん、五十歳で……」
そんなニュースを聞きながら、ぶっそうな世の中よねえ、なんてことを思う。
それとは別に、ちょっとチャーシューが小さいかしら、なんてことも思う。
保田にとってはそっちの方が重要だったのかもしれない。
だが、チャーシューの小ささへの不満は、すぐに重要なものではなくなっていた。
「○○さんは二ヶ月前の武州信用金庫事件において、教習中に襲われた教官でもあり……」
そのアナウンサーの言葉に保田はピタッと箸を止めていた。麺が箸から滑り落ちる。
めっきりニュース番組で聞かなくなったその言葉が、久しぶりに保田の耳に届いていた。
「警察では、武州信用金庫事件との関連も踏まえ、捜査に乗り出す方針です」

ニュースが次の話題へと移り、しかし保田はしばらくその意味がわからずにいた。
カップラーメンからは刻一刻と湯気が立ち上り、しかし時間とともに白く薄らいでいく。
「どういうこと?なんで?」
そんな言葉しか出てこない。それは全く予期せぬフラグが立った瞬間だった――。

294 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:02

「もう……やめてくれませんか……」
女は怯えた顔でそう言った。白いシーツの隙間から淡雪のような肌が淋しそうに覗く。
「なにをやめるんだ?」
男の目には狂気が浮かんでいた。いや、その収“獲”に対する狂喜なのか。
とにかく男は完全に優位に立っていた。そして女を支配していた。
「お金なら……払います……だからもう……」
「金はもちろんだが、若い愛人がいるって方が人生は楽しいからな」
「私……私もう嫌なんですあなたのことなんて全く……」
“愛していない”と言おうとして、だがその口は男の唇によってふさがれていた。
「ふむむ……ん……」
女は辛そうにそれを振り払った。地獄のような苦しみがその目には浮かんでいた。
「ふん、愚息がまた元気になっちまった。もう一番楽しませてもらおうか?なあ?」
男が女の上に覆いかぶさり、女の目から再び涙がこぼれた。
だが、それはまだ枯れてはいない。枯れたらどうなるか、それは女にもわからない――。

295 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:02

事件のニュースを聞かなくなって久しいその日、稲葉は自宅で作業をしていた。
パソコンの画面を見ながら、その文面を何度も何度も推敲する。
「前略より拝啓の方がええわな。時候の挨拶なんかもまじえたら余計に不気味や」
そんなことを呟きながら、慣れた手つきでタイプを打つ。
「日に日に寒さが身に染み、燃える様に色付いた木々が目に眩しい今日この頃っと」
ちらっと机の上にある『手紙の書き方入門』なんてのを見たりもするが、
そこに彼女が伝えたいような例文は載っていない。載っているはずもない。
「あかんなあ。もっとこう、そこしか見えてないっていうような生真面目な感じ出さんと」
稲葉は肩を左から右へと回し、そして両手を大きく上に上げて伸びをした。
そして立ち上がると、テレビの横にあるステンレス製のラックから書類ファイルを取り出した。
「最初どんなんやったかいな。前略やなし拝啓やなし……一筆啓上やったか?」
そのファイルをパラパラとめくる。そこには十数通のファンレターのコピーが挟まっていた。
宛先はどれも同じで、“アップフロントエージェンシー 飯田圭織様”となっていた――。

296 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:03

ハロモニ。の収録に飯田が来ていたのは事件以来初めてのことだった。
仕事に復帰してすぐ、ファンに向けたメッセージを撮影したりはしていたが、
こうして他のメンバーに混じって出演するというのは、まさに久しぶりのことだ。
「どうや、少しは落ち着いたんかいな?」
中澤がそんなことを尋ねた。もちろんそれは飯田ではなく、その周りに向けた言葉だ。
「うん、まあね……。フラッシュも慣れてきたし、もうあんまり思い出すこともないかな」
飯田の言葉もまた、中澤と同様だった。周りにはスタッフや数人のメンバーたちがいた。
「そか。それならまあいいんやけど。でもなんや、CMの話来てるらしいやんか」
中澤がそんなからかいを口にする。中澤でなければちょっとした失言かもしれない。
飯田は困惑した笑顔を浮かべた。だが、その目は石川にはちょっと淋しそうに見えた。
「悲劇のヒロインって思われてるのかな。私は以前とちっとも変わらないのにね」
「ええやん。とことん利用したったらええがな。せっかくのチャンスなんやし」
もちろんそれもまた冗談だった。本気でそんなことを言えるだけの度胸があれば、
もっと多くの仕事が殺到していることだろう。ただし、それもまた周り向けではあったが。
「強くなりたいな……。私が強かったら、それをチャンスって言えるんだろうな」
その言葉に中澤は戸惑っていた。なんだかそれが演技ではなく、本気のように思えたのだ。
そして、そう思ったのは中澤だけではなかった。
石川もまた、その飯田の言葉に、不思議な静けさを感じずにはいられなかった――。

297 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:03

男は息絶えていた。だが、それは当然の報いでしかないのだと、彼女はそう思う。
卵の殻を流し台の三角コーナーに捨てるように、彼女はあっさりと邪魔者を排除した。
ただそれだけだった。卵は割れて、少し中身を飛び散らせたものの、すぐゴミとなった。

だが、それで全てが終わりになる、ということはない。
それは彼女にとって、次のステージに向かうための単なる一場面にすぎなかった。
心置きなく次へ進むための。ただそのためだけの。そんな殺人。

彼女にとって、そこにスリルとショックとサスペンスはなかった。
それは一人ではなく、みんなで味わうものだと、彼女はいつしか気づいたのだから――。

298 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:03

「ねえ、あのお金だけどさ、三千万円。思い切って使ってみない?」
保田が電話でそう言い、でも少し顔をしかめた中澤の姿は見えない。
「なんや、急に贅沢したなったんかいな?」
「そうじゃなくて。ただね、ずっと眠らせとくのももったいないし、どうせ使わないんだったら……」
「あかんで。どうせ全額インド株にでも突っ込もう言うんやろ?」
「あら、ばれちゃってた?だって数年で倍とか、当たれば何十倍にもなるって」
「あかんあかん。大体まだあれが安全かどうかもわからへんのやで」
「それはそうだけどさ。でもどんな週刊誌読んでも、あれはノーチェックの三千万だったって」
「嘘の情報かもしれへんやんか。警察は信用でけへんって、カオリンかて何度も言ってたやろ?」
それは飯田から聞いた警察情報のことだった。
警察はわかっていることのほんの一部だけを選んでマスコミに発表しているのだと。
そしてその中にはダミーの情報も紛れていて、週刊誌をわざとミスリードさせるのだ。
もちろん週刊誌もそんなことは知っていて、あえて突っ走った記事を書いているらしいのだが。
「でももし安全だったら、それってかなりもったいないよね?」
「あんなあ、うちらが三千万、株に突っ込んでみ?その時点でかなり怪しいやんか」
「あ、そっか。あ、でもさ、それならもっと少額に分けたらいいんじゃない?」
「まああれや。しばらくは待機や。また今度集まったときにでも話するさかい」
「うん、わかった」
「それに、つんくの三十億に比べたら三千万なんてたったの一パーセントやで?」
「あはは。そっか、一パーセントなんだ。なんかそう聞くと変な感じ」
「ほな、またみんなの日程聞いて集まる日決めるさかい。それまでタンス貯金しててや」

電話を切り、保田は一つ溜め息を吐いた。
たった一パーセント、そう聞くと、それは確かに微々たる額に思える。
だが、三十億円という金額は夢想でしかない。その計画もまた、今はまだ夢想でしかない。
それに比べて三千万円は三千万円であり、それははっきりとした現実のお金だった――。

299 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:03

事務所にはすっかり顔の知られた三人の刑事の姿があった。
ベテラン風情に、それに教育されていると思しき若い刑事、それに女刑事だ。
担当・専任ということではないが、三人はストーカーの線を洗っている捜査員だった。
「それじゃ、また脅迫状が届いたんですね?」
「はい。今朝一番の配達で。中はまだ見ていません」
普段は接客室として使っているその部屋に、三人と事務所の代表二人が入った。
刑事は白い手袋をはめて、その封筒をハサミで慎重に開封する。
手袋をはめたところで、犯人が指紋を残すような簡単なミスを犯しているわけはないのだが、
それは一応決まりだった。どこにどんな手掛かりが残されているのかはわからないのだ。
実際、それまでの封筒ではノリの部分に付着したホコリ成分が鑑定されたりもしている。
特定までには至らなかったが、それは室内用カーペットの繊維であったらしい。

「拝啓、日に日に寒さが身に染み、時の流れの虚しさを痛感する今日この頃……」
女刑事がそれを読み上げる。正しいのか正しくないのかよくわからない書き出しだ。
「不気味だな……事件以来久しぶりの手紙なのに、時の流れの虚しさときた」
「事件のことは当然知ってるでしょうからね。問題は、それが本星なのかどうなのか」
女刑事は二人の会話に耳を傾けながら、さらに文面を読み進めた。
そこには事件のことも書かれてあった。ただし、それはあくまでも第三者の視点だった。
「テレビや雑誌でわかることだけですね。犯人しか知らないようなことは一つも」
「だからと言って犯人じゃないとは限らんさ。まあ犯人ならもっと楽しいこと書いてくるだろうが」
そのストーカーが犯人であれば、しばらく手紙が来なかったのは事件のせいということになる。
だが、その犯人が今さらのように手紙を出したとすれば、
そこにはもっと注目を浴びたいという、そんな欲求が表れていてもいいはずだった。

「結局、要求はいつもと同じでしたね」
「ああ、プリプリピンクの新曲を出せ、紅白に出場させろ、か」
そう言って二人は同時に苦笑いを浮かべた。
それは凶悪ではない、変質的に生真面目な、幼いファンレターだった――。

300 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:03

廊下で飯田と遭遇し、石川は時間が再び動き出したことを実感していた。
「おはよう、どう調子は?」
「いいですよ。飯田さんは?」
「ぼちぼちかな。なんか疲れちゃって。どこ行っても注目されるんだから」
「あ、飯田さん、ちょっと質問いいですか?」
飯田が過ぎ去ろうとしたところで、石川は思い切ってそう尋ねていた。
「ん?なに?」
「あのですね、この前のことなんですけど……」
石川が尋ねたかったのはあの日見た飯田のキスマークのことだった。
だが、なんだかそれを訊いてはいけないような気がして、石川は結局言葉を濁していた。
「あ、やっぱりいいです……私の勘違い、かな?かな?」
「まあいいけど。それじゃ、またなんかあったら電話してよ。今はもう直接でもいいから」
「うん、わかった」
飯田が後ろ向きに手を振り、廊下から消えていく。
石川はそれを最後まで見送り、だけど、なんだか変だなあと感じていた。
直接でいいというのは、それまで飯田との連絡は中澤を仲介していたということであり、
今はもうそんな配慮はしなくていいという意味だったが、問題はそうした手法ではない。
「電話して、だなんて、初めて言われたかも」
そう呟いて、石川はなんだか飯田が無意識のうちに助けを求めているような気がした。
飯田が石川に電話するように促すなんて、そんなことはそれまで一度だってなかった。
メンバーの一人として電話やメールのやり取りがなかったわけではないが、
石川に対してそんなことを告げる、というのが石川にはやはり不思議でならなかった。

やっぱりなにかが起きているんだ、と石川は思った。
そして、そう思った瞬間、石川は知らず知らずのうちに行動に出ていた。
自分の知らないところでなにかが起きているなんて、石川には我慢できなかったのだ――。

301 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:04

彼女はインターホンを押した。ドアが十センチほど開いて、男が顔を覗かせる。
男は戸惑いの表情を浮かべた。それが知らない顔だったというのが最初の戸惑い。
次の戸惑いは、それが誰だかわかったことに対する戸惑いだった。
「私のこと、わかりますよね?」
彼女がそう言い、でも男は無言だった。それがなにを意味するのか、じっと考えていたのだろう。
「入ります」
そう言って、男の言葉を待たずに彼女はその重いドアを開けた。
部屋の中は男の一人暮らしにしてはかなり片付いている方だった。
ただ、ところどころに女の痕跡があり、それが男の素行の悪さを裏づけていた。

「あなたがなにをしているのか、私は知っています」
彼女はそう言った。
「あなたがなにを望んでいるのかも、私は知っています」
彼女はさらにそう言った。
男はただ唖然とするばかりだった。いや、唖然とするしかなかった。
彼女は男を問い詰めに来たのではなく、男の望むものを与えに来たのだから――。

302 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:04

「あー、全然駄目や。ガード固い言うんか、ほんまガチガチに運用しとるらしいで」
「三千万の百倍もあるのに、手元にはほとんどないんだ」
「それや。現金で三十億あれば余裕やのにな。強盗に比べたら余裕のよっちゃんやで」
二人は悪びれる様子もなく、大きな声でそんな会話をしていた。
天王洲スタジオにあるダンススタジオ。ただし、そこには今その二人しかいない。
そこが一番の仕事場となっている稲葉貴子と、久しぶりに立ち寄った保田圭だった。

「裕ちゃんがマラソンと誘拐絡めたらうまくいくとかって言ってたけど、なんか聞いてる?」
「なんやそれ?マラソン?誘拐?どう絡めるねん?」
「わかんないけど、なんかマラソン見て思いついたんだって。交通規制を利用するとかって」
「あー、あれか。Qちゃんが優勝したやつやろ。ほんま裕子は色んなこと思いつくんやな」
「誘拐ってのはあややだって。誘拐して、そんで事務所かつんくさんを脅迫するんだって」
「松浦かいな。そこまでやったらほんまうちら歴史に残るで」
「冗談だとは思うけどね。ただ、三千万をそれで安全なお金に換えれるかもしれないって」
「そんなんできるんかいな?」
「わかんないけど、なんかそれをうまく結び付けられればうまくいくかもって」
「なんや、思いついただけで結局なんも考えてへんのかいな。そら全然あかんわ」
「あたしも考えてみたんだけど、全然駄目。大体マラソンはもう終わっちゃったし」
「ほな箱根駅伝とか考えとるんちゃうか?正月はスケジュールが無理やろうけどな」
そんな会話に、保田はやっぱりそれは現実ではないのだという思いを強くしていた。
教習車で銀行を襲うというのも今思えば夢想でしかないのだが、
次のステージは雲のようにふわふわしているだけで、そこにはなんの姿も見えなかった――。

303 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:04

「どういうこっちゃ?」
中澤は大きな声を出していた。その聞いた意味が全く理解できなかったのだ。
「だから、あの教官が殺されちゃったのよ。それで、警察が事件との関連とか調べるって」
電話口からそんな声が聞こえてくる。保田もかなりパニックになっているらしい。
「いや、なんで殺されるねん。そんな、ありえんやんか」
中澤は必死でそれを否定しようとしていた。それが計画にあるはずのないことだというのが一つ。
もう一つは、それが自分たちを追いつめることになるのだという重い直感だった。

「私だってわからないわよ。でも、殺されたって。血まみれで見つかったって」
「と、とにかく今はあれや。うち今から本番やねん。また連絡するさかい……」
通話を切り、中澤は今自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
教官をスタンガンで襲ったときには、足は硬い地面をしっかりと踏んでいたはずなのに、
それが突然、ふわふわの雲の上を歩いているような、そんな感覚に変わっていたのだ。
「なんでやねん。ありえへんやん。なんでそんな……誰が、いや、なんでや……」
中澤の頭の中に色んな出来事が洪水のように押し寄せてきていた。
だけど、その中にはただの一つも、その殺人に繋がるような道筋はなかった。

本番が始まる。中澤は無理に笑顔を浮かべていた。
下衆な男であれば、生理が辛いんかいなと言いたくなるほどの、そんな無理な笑顔だった――。

304 :名無し娘。:2005/11/25(金) 01:04

飯田はスタジオを出て、通りをとことこと歩いていた。歩きながら、流れる車を見ては手を挙げる。
そんな動作を見て、石川は飯田がタクシーを拾おうとしているのだとすぐに理解した。
それもかなり慌てているらしく、もっと多くの車に出会おうとどんどん歩道を進んでいく。
結果的にはそこに立ち止まっていても同じなのに、飯田はなおも離れていく。

石川は二時間ドラマによくあるシーンを頭に思い浮かべた。
容疑者がタクシーに乗り、素人探偵が慌ててタクシーをつかまえるというシーンだが、
実際にはそんな都合よくタクシーが連続して来るわけがない。
石川はそれを知っているから、自分もその場で慌ててタクシーを拾おうとした。
が、飯田がタクシーを拾う前に、そのタクシーに乗り込んだのは石川の方だった。

「お客さん、どちらまで?」
そう言われて、でも石川にはまだどこに行くかはわからない。
後部座席から後ろを見て、飯田の様子を眺める。飯田はかなり遠くまで離れていた。
「お客さん?」
「あ、あの、もうすぐここにタクシーが来るんで、それを尾行してもらえますか?」
「尾行ですか?」
不審そうに運転手がそう言い、石川はとっさに言い訳を考えた。
「あの、テレビの番組で、鬼ごっこみたいなので、あの、犯人役を追いかけなくちゃいけなくて」
「ああ、そういうことですか。タレントさん、ですか」
運転手もそこがテレビ東京の天王洲スタジオだということは知っていた。
そうであれば、それを疑っても仕方がない。テレビというものは奇想天外なことをするのだから。
それに、その後部座席に乗り込んだ女性が確かにタレント風だったというのもあった。
「あ、今乗り込んだんで、もうすぐ来ると思うんですけど」
「はい。あのタクシーですね。わかりました。なんとか頑張ってみますよ。プロですからね」
結構いい運転手さんかもしれないと石川は思った。
だが、それ以上にやはり飯田がどこに向かうのか、それが気になっていた――。

305 :名無し娘。:2005/11/25(金) 21:21
きな臭くなってきたね〜
キャラも立ってて面白いよ

306 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:57

「仏さんは?」
例のベテラン刑事がそう尋ねた。顔見知りと思われる少し年下の刑事がそれに答える。
「かなりひどかったらしいですよ。腹部がズタズタになるくらいの刺し傷、それに顔や首にも」
カーペットは乾いて赤黒い染みになっていたが、部屋の中にはまだ血の臭いが充満していた。
「内蔵が飛び散ってたらしいですから。遅く来て正解でしたね」
「怨恨か。それにしても陰惨だな……」
「物取りの形跡はないみたいです。やっぱり怨恨、仲間割れってとこでしょうね」
「その線が強くなるだろうな。でも、それ以外の線も消えたわけじゃない」
「例のストーカーですか?」
それは本気ではない、というのが誰にもわかる口調だった。
今では誰も飯田のストーカーを本星とは見ていなかった。
「いや、あれは単なる偶然だろう。だが、彼女が狙われたのは偶然じゃない」
「まあこんな事件が起きたんですから、どっちにしろすぐに捕まりますよ」
ベテラン刑事はそれには答えず、その部屋を見回していた。
そして教習車になにも残っていないくらいだから、物証は出てこないだろうと踏んでいた。
出てくるとすれば物証ではなく、多分奇妙な目撃証言になるはずなのだから、と。

二人はその部屋を出て、アパートの廊下を遮断する黄色いテープの前で立ち止まった。
近所の人たちが不安そうな面持ちで集まって来ていた。道路には一台だが中継車。
「なにか証言は出てきてないのか?例えば、若い女を見かけたとか……」
「若い女ですか?ああ、犯人の一味の女ですか。さあ、まだだと思いますけど……」
「そうか……」
ベテラン刑事は水色の空を見上げ、そして再び視線を下ろし、その場を後にした――。

307 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:57

保田の部屋に稲葉が来ていた。中澤は大阪から戻り次第駆けつけるということだった。
「カオリンは?」
「事務所で待機してるって。狙われてるかもしれないからって警察が」
「狙うって、でも誰が狙うねんな。犯人はうちらなんやで?うちら以外に誰がおんねん?」
「あたしだってわかんないわよ。でも、なんかどっかで間違えてたのよ、きっと……」
二人とも苦々しい表情を浮かべていた。口調もどこか喧嘩ごしだった。
自分たちが犯人であるはずなのに、そこにいきなり別の犯人が登場したのだから。
そして事件の被害者である教官はその犯人によって殺害された。
そうなると、次になにが起きても不思議ではなかった。最悪、自分たちが狙われたとしても。

「あの教官、殺されたんやろか……それとも、勝手に死んだんやろか……」
稲葉がそんなことを呟いた。
「勝手にって、どういう意味よ」
「うちらと関係なく、ただ死んだんやろかって意味や。その可能性かてあるやろ」
「でも、普通借金や愛人で殺されたりする?絶対、なにかあるのよ」
「せやけど、もし別のことで殺されたんやったら、うちらが疑われることは百パーなくなるで」
「……」
「週刊誌がいっぱい書きよったやろ。せやから、そこからなにか出てきたんやとしたら?」
「なにかって?」
「それで女性問題がこじれたとか。借金取りが教官を犯人だと思い込んで脅迫したとか」
「あるかもしれない……」
「やろ?だってあんだけ自作自演やて匂わされてたんやで?誰だってそう思うやん」
「じゃあ教官は三千万持ってるって誤解されて?そんで殺されたって?」
「それしかないやんか。犯人はうちらなんやから……」
「そうだよね……犯人、あたしたちだもんね……」
そう言いながら、保田はなんだかその言葉が急に怖くなってきていた。
ただし、そこに自分たちのせいで教官が殺されたかもしれないという不安や罪悪感はない。
あるのは、犯人であることを楽しめなくなってしまったという、そんな恐怖だった――。

308 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:57

タクシーは渋滞を避けるように裏道をどんどんと先へ進んでいた。
前のタクシーとは間に車を一台挟んで十メートルくらいの距離か。
付かず離れず、適当な距離を保っている。その点はさすがプロだなあと石川も思う。
が、前の車が左折に手間取ったせいか、飯田を乗せたタクシーとの距離がかなり開いた。
「あー、行っちゃう……」
「大丈夫ですよ。すぐに追いつきますから」
運転手がそう言ったものの、前方の道は右に大きく曲がりくねっており、
飯田のタクシーはそのカーブを過ぎて視界から消えていった。
石川は居ても立ってもいられなくなり、歯をギシギシと左右にスライドさせていた。

だが、石川の心配は無用だった。
カーブを同じように過ぎたところで、前方に再び飯田のタクシーが見えたのだ。
それも、そのタクシーは停まっていた。
ハザートを点滅させて、しかし降りる気配もなければ動き出す気配もない。
「どうします?停まりますか?」
「あ、あの、前に回ってから停めてもらえますか?」
「追い越してからってことですか?」
「はい。あの、追い越してだいぶ進んでから」
「わかりました」
石川のタクシーは停まっている飯田のタクシーを追い越し、
飯田がまだ乗っていることを横目で確認しつつ、かなりの距離を開けてその前方に停車した。
父親の趣味で本格派の二時間ドラマやら探偵ドラマを見ることの多かった石川は、
知らず知らずのうちにそんな尾行の基本テクニックを習得していた。

309 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:58

石川は後ろ向きの姿勢になり、両手を後部座席の背もたれに掴むように置いていた。
スカート姿だったが足はガニマタに大きく開き、座席の上にその膝で立つような格好だ。
つまりかなり変形ではあるが、石川はハニパっていた。

一分くらいそんな姿勢で後ろを凝視し続け、姿勢を変えようとしたときだった。
石川の目は一人の男性の姿を捉えていた。四十代半ばから五十歳くらいだろうか。
その脂の乗り切った中年男性が、飯田のタクシーに乗り込んだのだ。
石川はやっぱりなにかあったんだ、と思った。もしそれが仕事関係者であれば、
飯田が一人でタクシーに乗って、その男性を拾いに行くということは考えられない。

そして、石川にはもう一つ気にかかることがあった。
信号から直進した後、大きなカーブがあり、そのすぐ先の道を左折する。
以前にそのような道順を通った記憶があったのだ。
その記憶が正しければ、その左折した先には例の自動車学校がある。
偵察部隊とはいえ、石川は一度、稲葉の車でその場所を確認したことがあったのだ。

点と点が線になる。石川にはすでにそれがなにを意味するか、おおよそわかっていた。
その場所がどこで、その男性が誰で、そして二人がどういう関係なのかも。

飯田のタクシーが石川の横を通り過ぎ、“石川もまた”再び動き出した――。

310 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:58

飯田は事務所にいた。そして、本気で驚いていた。
「それじゃ……先生……殺されちゃったんですか?」
その目は泳いでいた。どうしてそうなったのか、全くわからなかった。
「はい。今朝、死体で発見されました。つまり、殺人事件です」
「なんで?……なんでですか?なんでなんですか?」
飯田は自分で気づかないうちにそんな大きな声を出していた。
それは晴天の霹靂であり、飯田は完全に動揺していた。いや、動揺せざるをえなかった。

「事件との関連はまだわかりません。でも、私たちはその線が強いと見てます」
若い刑事がそう言った。隣には女刑事、しかしベテラン刑事の姿はない。
「ご存知でしょうけど、警察は彼が犯人の一味だった可能性をずっと追っていました」
「先生が……犯人?」
「ええ、かなりの借金を抱えていました。それに、信用金庫内部との接点もあった」
「……」
「もちろん、そうじゃないかもしれません。そうだとすると、なにかを目撃していたのかも」
「目撃、ですか?」
「犯人に心当たりがあったのかもしれません。そして、犯人を脅迫した……」
「……」
「でも、だとしたら飯田さんは安全です。飯田さんは被害者なんですから」
その言葉に飯田は発狂しかけていた。飯田はすでに極度の興奮状態にあった。
「違う、違う違う!被害者なんかじゃない!私は被害者なんかじゃない!」
「い、飯田さん?お、落ち着いて、落ち着いてください!」
首を大きく左右に乱れ振り、両手で頭を抱える。しかし、それは演技ではありえなかった。

飯田は教官を殺そうとしていた。殺して、その苦しみから逃れるために。
なのに、飯田は苦しみから解放されることはなかった。
例え教官が死んだとしても、自らの手で始末することができなかったのだから――。

311 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:58

「あ、おいら、矢口だけど……」
「あ、やぐっちゃん。どうした?」
「あのさ、石川にちょっと話があるんだけどさ」
「あ、うん。いいよ。なに?」
「いや、電話じゃなんだし、直接会って話したいことなんだけど」
「なんかあった?」
「うん。なんか、すっごいことで。多分、おいらしか気づいてないと思うんだけど」
矢口はドキドキしていた。それはその電話の相手が石川だったこととは関係ない。
誰かにそのことを話すというのが裏切りのようであり、また罪のような気がしていたのだ。
「今日さ、バラエティあるんだけど多分九時までには終わると思うんだ。だから……」
「私はいいよ。どっかクラブでも誘ってくれるの?」
石川にはかなり余裕があった。人生に対してポジティブになったというか、
一人でも頑張れるんだという自信がいつのまにか石川には芽生えていた。
「いや、できれば石川の部屋か、おいらの部屋か、どっちかがいいんだけど」
「わかった。じゃあうちに来てよ。場所、わかるよね?」
「うん、覚えてる。じゃあ行くから」
電話を切って、矢口は自分の手が震えていたことに初めて気づいた。
でも、石川なら話をしても大丈夫かもしれないと、なんとなく思えてもいた――。

312 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:58

「いい?あんたはなにも知らなくていいから。怖がったりしなくていいんだからね」
「どうしたの?なんかあったの?」
「あんたは知らなくていいの。もう全部忘れていいの。それがあんたのためなのよ」
「ねえ、なんのこと?教えてくれたっていいじゃん」
「ほんと言うとあたしたちも弱ってるの。もうなにがなんだかわからなくて……」
電話口の保田はかなり憔悴していた。隣には稲葉がいるらしいが、
陽気な関西弁が聞こえてきたりもしない。保田の声以外はなにも届いてこない。

「大丈夫だよ。なにがあっても私は平気だし、みんなも平気だよ」
「どうしたのよ、なんかいつものあんたじゃないみたいよ」
「私ね、一人でも頑張れるようになったんだ。みんなのおかげで」
「……」
「だからね、今度からは私がみんなを守るの。だから、みんなも大丈夫だよ」
「あんたに励まされるなんて、なんか変な感じね。でも、なんだか安心したわ」
保田の声が落ち着きを取り戻し、石川は自分が保田を励ましたのだと思った。
そして、一皮向けた自分をもっともっと伝えたいと思った。
「私ね、もっともっと圭ちゃんに誉められたいって。いっつもそう思ってた」
過去の色んな場面を思い出しながら、石川はそう言った。
だけど、その最後の場面にいたのは、他でもない石川ただ一人だった。そして続ける。
「でもね、誉めてもらえなくても、自分で自分を誉めるようなこと、できればそれでいいんだって」
「どうしたのよ……なんか、やっぱり梨華じゃないみたいじゃない」
「私、みんなを守るよ。だって、早く次に進みたいし。もっとみんなと楽しみたいから」
電話を切って、石川は全てに満足していた。
石川はずっと保田に面倒を見てもらっていた。迷惑をかけたこともたくさんあった。
でも、ようやく圭ちゃんと肩を並べられるようになったのかもしれないと、石川はそう感じていた。
もう、一人でもやれるし、自分がみんなを守ることもできるのだと。

そんな大人になった石川の携帯が再び電子音を鳴らした。
それは矢口真里からの電話だった――。

313 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:58

東京駅のホームに降り立ったときには、すでに夕方になっていた。
空はすっかり暗くなり、足早で過ぎ去る人々の背中がどこか虚しく感じる。
中澤はマネージャーを待たせて、立ち止まって電話をかけた。
「今東京駅についたさかい。あと一時間くらいで行ける思うわ」
電話を切り、再び歩き出す。人々の中に混じり、改札口へ向かって流れ出す。
だが、中澤はなぜか、自分だけが逆に流れているような気がしてならなかった――。

314 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:58

「シャワー浴びてきてもいいですか?」
彼女は笑顔でそう言った。男の目の前には三百万円の現金があった。
さらにもうすぐ若い女の体も手に入る。色白の透き通るような美女ではなかったが、
若さが溢れているという点では、それはそれ以上の新鮮な肉体だった。

男は疑うことなくうなずくと、シャツのボタンを外し始めた。
彼女はその狭い部屋から、玄関へと向かう短い通路の横にある脱衣所へと消えた。
だが、彼女が服を脱ぐことはなかった。むしろ、彼女はさらに上になにかを着ていた。

男はズボンははいたまま、上半身裸でベッドの上に座ってタバコを吸っていた。
が、男の前に姿を見せたのは、裸の女でも、バスタオルを巻いた姿でもなかった。
それはレイコンートを羽織った姿だった。そして、その手には包丁が鈍く光っていた――。

315 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:59

「どないや?なにかわかったんか?」
中澤がそう尋ねて、でも保田と稲葉は首を横に振るしかできなかった。
「そか……」
「カオリンは家に帰ったって。しばらくは事務所の人が付き添うって。警察も見回りするって」
「狙われとるんか?カオリンが?」
「わかんないわよ。なにがどうなってるのか、あたしにだってさっぱり」
「石川はどないしたんや?怯えとるんとちゃうんか?」
「電話したけど、大丈夫みたい。なんか、あの子じゃないみたい強くなってた」
「そか……ほな、うちらも石川みたいに強くならなあかんな……」

三人とも精神的に疲れていた。もう次の計画へ進む気力はなくなっていた。
現実は彼女たちが考えたほど単純なものではなかったのだから。
どういう接点でそうなったのかはわからない。でも、彼女たちはその現実に負けていた。
不安と焦りだけが重く圧し掛かってくる。机の上のビールの炭酸はすでに抜けていた。
彼女たちは結局、ただ黙ったまま、その夜を三人で過ごした――。

316 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:59

タクシーは駅裏のごみごみした通りに入っていた。
表側には綺麗な飲食店街なんかがあったりするが、裏側にはそこまでの活気はない。
幾つか風俗店があったりもしたが、それらのネオンは少し寂れていた。
まだそういう時間帯ではない、ということもあるのだろうが。
ただ、その先に進むと、道路はアスファルトからレンガ模様へと変わり、
一転して少しだけ若者風の街並みになる。そして、そこは小さなホテル街でもあった。

「お客さん……」
運転手が後部座席に座った石川に困った顔で話しかけた。
ただ、石川にはその理由はすでにわかっていた。
いや、その前から、飯田のタクシーに男が乗り込んだ時点でわかっていたのかもしれない。
「お客さん……中まで、入りますか?」
運転手はそう尋ねた。石川が最初に告げた目的地に変更がないのであれば、
そのタクシーはその垂れ下がった布を押し分けて中へ入らなくてはならないことになる。
飯田を乗せたタクシーはその中へと入って行ったのだから。

「いえ、もう結構です……全部わかりましたから……全部……」
石川は苦々しい表情でそう答えた。じわじわと腹立たしい感情がこみ上げてくる。
だが、それが確定したとして、今の段階ではまだどうすることもできない。
飯田のSOSを受け取ったのは、今のところ石川一人だけだったのだから――。

317 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:59

「なあ……おいらたちって、圭ちゃんの妹みたいなもんだよな」
矢口が石川にそう確認を求めた。部屋にはその二人しかいない。
「うん、そんな感じだね」
「おいら圭ちゃんとはずっと一緒だったし、石川だってよく一緒にいるもんな」
「うん」
「だよな」
そう言って矢口は一呼吸置いた。石川と二人きりというのは意外に珍しいことだった。
保田を含めて三人というのは何度もあったが、そこには保田が絶対的に欠かせなかった。
つまり、保田を慕うという点でしか、二人には接点がなかったのかもしれない。
「ねえ、なんか変だよ。今日はみんなみんな変だけど」
矢口のすっきりしない表情を見て、石川がそんな言葉を口にした。
だが、矢口はそのみんなが変な理由というのをまだ知らなかった。
ニュースはほとんど見ないし、見ていたとしてもほとんど気にかけることはない。
なにかが変だというのは、確かに矢口がその日話したいことではあったが、
それはその日のことだけではない。事件以来、いや、事件以前からのことなのだから。

「あのさ、圭ちゃんとかカオリンとか、おいらちょっと様子が変だと思うんだ、最近」
「あ、うん。事件あったもんね」
「そうなんだけど、でも、おいらはそれとは違うと思うんだ。おいら見ちゃったし」
「見たって?」
石川がそう尋ね、矢口はそこで話をそらした。
「石川はさ、圭ちゃんのこと好きだよな?圭ちゃんのこと、好きで信頼してるよな?」
「うん、もちろんだよ」
「じゃあさ、圭ちゃんがもし悪いことしてたら、それを注意してやめさせるべきだと思うよな?」
その言葉に石川ははっきりと嫌な予感がしていた。
矢口はなにかに気づいたのだと。そして、それを自分に伝えに来たのだと。

318 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:59

「うん……」
石川は小さく返事をした。だが、その顔はいつのまにか真剣になっていた。
矢口は石川にとって身内だった。だから、もし全てがばれていたとしても、
笑ってごまかすようなことだけはしたくなかった。最後まで堂々としていたかったのだ。

矢口はそんな石川の顔を見て、やはり石川もなにかに感づいていたのだと思った。
自分と同じように、保田たちの異変に気づいていたのだと。
そして、やはり最初に石川に話をしに来てよかったと思った。
矢口の考えが正しければ、そこには話をしてはいけないメンバーもいるはずなのだから。
その点、石川にはその心配はなかった。もちろん、それが正しければ、であるが。

「見たんだ。圭ちゃんの部屋で。袋に入った三千万円……」
「三千……万円?」
「あの事件の後、カオリンが記者会見やった日だと思うけど。多分三千万くらいだった」
「それって……」
「うん。おいらの予想だけど、あれは銀行強盗のお金だと思う」
矢口はそうはっきりと言い切った。そして言い切ったことで、矢口はその自信を深めていた。
つまり、悔しいけれど、あの事件の犯人は保田や飯田たちなのだと。
「じゃあ……圭ちゃんが犯人だってこと?そうなの?」
「圭ちゃんだけじゃない。カオリンもそうだし。多分裕ちゃんも……」

警察が事件を解決できないのは、微塵も飯田圭織を疑っていないからだった。
どうしても借金や女性問題のある教官ばかりに目が行ってしまい、
一方の飯田に関しては、芸能人がそのようなリスクを犯すはずがないという思い込みがある。
だが、一度飯田を疑えば、それはそれでかなり怪しいものとなるのも確かだった。
現に矢口が疑いを抱いたように――。

319 :名無し娘。:2005/11/27(日) 22:59

その夜のニュースは久しぶりに武州信用金庫事件を伝えていた。
だが、犯人が捕まったというニュースではなく、それは被害者が殺されたというニュースだった。

アナウンサーが警察が信用金庫事件との関連を捜査している、と伝える。
だが、それ以上のことはなにも言わなかった。今はまだ容疑が固まっていないのだ。
教官が犯人の一味であり、仲間割れによって殺されたのだとしても、
推測記事を載せることができる興味本位の週刊誌と違って、テレビは慎重だった。
そのため、夕方から各局で報じられたニュースはどれも、少し味気ないものだった。

が、その夜のうちになにか進展があったのか、翌日の朝刊はどれもその事件を一面にしていた。
内部協力者を揺さぶるためなのか、そこには教官が犯人の一味である可能性がある、
とも記されていた。また、教官が犯人に気づいていた可能性がある、ともあった。

ただし、そこにはやはり、飯田を疑うようなことはなに一つ書かれていなかった。
例え、警察内に飯田に疑いを持つ人間がいたとしても――。

320 :名無し娘。:2005/11/27(日) 23:00

「あはははは。なーんだ、そんなこと考えてたんだ」
石川は陽気に笑っていた。矢口の話を聞いているうちに、
それがかなりあやふやな疑いにすぎないのだとわかったのだ。
矢口はただ袋に入った現金を見ただけで、それ以上のことはなにも知らなかった。
それが石川には突然滑稽に思えてきたのだ。
だから、それはごまかすための笑いではなかった。石川は矢口を嘲笑ったのだ。
自分はこんなにも詳しく知っているのに、それに比べたらなにも知らないのと同じなのだと。
もちろん、石川以上のことを知っていたら、それはかなりの名探偵ということになってしまうが。
「だけどさあ……」
「だーかーらー、圭ちゃんね、なんか最近株で大儲けしたんだって。私聞いたもん」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。なんかトーシシンタクでインド株ってのやってて、十倍くらいになったって」
矢口はにわかにはその話を信じられなかった。
だが、石川の口から“投資信託”やら“インド株”という難しい言葉がスラスラ出てくるのだ。
それが本当なのだと思わざるをえない。石川にそんな嘘は不可能なのだから。
「そっか。株で儲かったんだ」
「うん。なんかね、貯金や不動産よりこれからはユーカショーケンだって。そんなこと言ってた」
それらはどれも、つんくの資産の話をしているときに石川が小耳に挟んだ言葉だった。
だが、それは石川と同様、矢口にとっても難しい大人の世界だった。
「そっか。そんなことしてたんだ。そう言えば前に株がどうこうって聞いたことあったかも」
矢口は納得してそんなことを言った。ただし、そこには一つ大きな間違いがある。
矢口が聞いていたというのは、料理の煮物の話だったのだ。
ただ、それがあまりにも退屈だったので、矢口はそれを聞き流し、
株という言葉だけが頭の中になんとなく残っていた。つまり、それは勘違いだった。

「へえ。株かあ。そっか。そうだよね。圭ちゃんたちに強盗なんてできるはずないもんね」
矢口が笑って、石川もニコッと微笑む。
それはこれでまた次のステージに進めるんだという、そんな達成感による笑顔だった――。

321 :名無し娘。:2005/11/27(日) 23:00

その日は雨が降っていた。みぞれ混じりというわけではないが、冷たい雨だ。
そんな雨の中、二人の男が黒色の傘を持って道路の上に立っていた。
「現場百回ってやつですね」
「まあな。今さらこんなとこ来るのは俺たちくらいだろうが、ただ、ずっと気になっててな」
「例の証言ですか?」
「殺された教官が犯人の一味だったとして、どうしてそんな証言をしたのかだ」
「それは、自分が被害者で、突然襲われたってことを強調したかったんじゃないですか?」
「それもある。だが、実行犯が男女のペアなのはどう証言したっておんなじだ」
ベテラン刑事がそう言って、若い刑事が頭をひねる。それは当たり前のことだった。
「それは隠しようがないですからね。気絶したのは教官だけですし」
「そう。教官は気絶した。そして後ろにいた方が女のような感じだったと証言した」
「ええ。実際は逆ですけど」
ベテラン刑事はその言葉をあえて聞き流した。
「教官が犯人だとしたら、被害者を装うための証言として問題はないかもしれん」
「ええ」
「それに犯人じゃなかったとしても、勘違いで済まされる話だ。問題にはならんわな」
「はあ……」
「でもな、どうも俺は、この犯行自体にかなり問題があると思えてならんのだ」
「どういうところです?」
ベテラン刑事はその雨に濡れたアスファルトの上を数歩後ろに進み、道路脇の塀を指差した。

322 :名無し娘。:2005/11/27(日) 23:00

「実行犯はあそこに隠れていた。そして、さっきいたのが教習車の停まった場所だ」
「ええ。約五メートルでしたっけ」
「犯人二人はそこから飛び出してきて、助手席のドアを開けたわけだ」
「何度も再現しましたからね。それは間違いないと思います」
「だが、なにかおかしいと思わないか?」
「なにがですか?証言は食い違ってますけど、それ以外は矛盾してませんし」
「普通、男女二人が犯人だったら、襲うのは男の方じゃないか?」
「そ、それは……」
「ところが、証言をまとめると、女が襲って男は後ろで待機していたことになる」
「ええ……」
「だが、飯田圭織は男の方は怖かったが、女は若くて優しそうだったとも証言している」
「あっ……」
「目の前で教官を襲ったのは女の方。なのに彼女はその女には恐怖心を感じていない」
そう言ったベテラン刑事の頭には、記者会見での飯田の姿があった。
「一番怖かったのは襲われた瞬間と、スタンガン。それにしてはどうも奇妙じゃないか?」
「確かに奇妙です。まるで男と女を全く逆に証言してるみたいで」
「教官は後ろが女だと言った。彼女の証言は、まるでそれを証明してるようだと思わないか?」
「思います。後ろが女で、襲ったのが男。そう考えた方が辻褄が合います」
「しかし、それがなにを意味するのかだ」
「勘違い、にしては大きいですよね。パニックになったとはいえ、気絶したわけじゃないですし」
若い刑事はかなり興奮していた。
それまで信じきっていた事実が、全く別のものへと変わろうとしていたのだから。
が、それに比べて、ベテラン刑事の言葉はいつもと変わらぬ静かなものだった。
「俺はどうも、それが意図的な証言のような気がしてならんのだ」

雨は降り続いていた。だが、その雨もいつかは止むのだろう――。

323 :名無し娘。:2005/11/28(月) 11:51
イイヨーオモシロイヨー       

324 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:31

道はぬかるんでいた。小汚いビルの間の狭い路地。
地面はコンクリートであるはずなのに、雨のせいで泥が混じり、
その泥のだらっとした感触が、その焦りをより一層かきたてる。

遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
雨が上がって空気が清んでいるせいか、そのファンファンという音がやけに耳に迫る。
心が寒くなり、手足が自然と震える。青ざめた顔で今にも泣き出しそうなのを我慢し、
だけどもう全てを終わりにさせてほしいとも思う。

そんな雨上がり、石川梨華は一人だった――。

325 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:31

丸一日降り続いた雨が止んだその朝、石川はお気に入りの服を着ていた。
白とピンクを基調としたちょっと女の子チックな服。ダウンジャケットとニットの帽子も白だ。
普段は家の中で着るだけで、それで外に出るということはほとんどなかったが、
全てを次に進めたい、そんな気持ちが石川にその服を選ばせていた。

自宅から出て、タクシーを拾うために通りへと向かう。
その日はオフで、久しぶりに保田の部屋に集まることになっていた。
そう思うと、なんだか自然とうきうきしてしまう。
実際は例の事件について重要な相談をするということだったのだが、
それが石川には、止まっていた時間が再び動き出したように思えていた。
これでいよいよ次のステージに進めるのだと、石川はそう信じていた。

雨の後というのもあるが、目の前の景色がなんだか華やいで見えていた。
そのスリルとショックとサスペンスを歓迎してくれているかのように。
が、その景色に一つだけ、別のものが映りこんでいることに石川は気づいた。
そして立ち止まる。スーツ姿の男が石川の方に向かってゆっくりと歩いてきていた。
耳にはイヤホンをつけていて、その奥には人の乗った一台の乗用車が停まっていた。
それは勘だった。石川には女刑事から事情を訊かれたことだってある。
だからわかったのだ。それが自分に向かっている刑事であるということが。

そう思った瞬間、石川は後ろに向かって駆け出していた。
「あ、お、おい!」
男の声が聞こえ、やっぱりそうなんだという思いを強くする。
石川は竹脇無我ならぬ無我霧中で走った。
足はそんなに速い方ではなく、むしろ確実に遅い方なのに、
自分が捕まるんだと思うと、なぜか自分でも信じられないくらいのスピードが出ていた。
それは生まれて初めてのスピードであり、そんな風を感じたのも初めてのことだった。

326 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:32

どこをどう走ったのか、石川は見知らぬ世界に迷い込んでいた。
自分の住んでいる街なのに、それが知らない街のように思える。
石川はそれでもビルとビルの間の路地を縦に横にと夢中で駆け抜けた。
ふと初めて犯行を行ったときのことが頭に浮かぶ。財布を盗んだ、あの初めての日。
石川は足がガクガクと震えていた。胸もバクバクと脈打っていた。
それがなんだか懐かしく思えてくる。

が、そう思った瞬間、石川は自分が今、再び同じことを味わっていることに気づいた。
いや、だからこそそんなことを思い出したのだと、そのことに気づいたのだ。
狭い路地にいた。そしてなにかから逃げていた。それは自分の楽しみを守るため。
ただ一つだけ違うのは、その日の石川が一人きりだということだった。

「私、一人なんだ……」
石川はそう呟いた。すでに息は切れて、石川は立ち止まっていた。
「私、一人なんだ……」
もう一度石川が呟いた。ただし、これまでにも一人で行動したことはあった。
ATMで暗証番号を確認したときも一人だった。
信用金庫の斜め向かいのケーキ屋で偵察していたときも一人だった。
女刑事から事情を訊かれたときだって、近くに人はいたけれど石川は一人だった。
そして、次に進むために行動したときも一人だった。

だが、そんなことを思い出せば思い出すほど、石川はなんだかそれが怖くなっていた。
そして、突然泣きたい衝動に駆られていた。手足がガクガクと震え始め、
唇はワナワナと震えていた。どうしていいかわからなくなっていた。

まだ全てを終わらせたくないという思いもある。確かにそれはある。
つんくの資産三十億円、松浦亜弥誘拐、それに日本銀行の地下倉庫。
どれも話を聞いただけでドキドキワクワクするような楽しみだった。
そこにはこれまで以上にスリルとショックとサスペンスが待っている。
それを考えると、まだ捕まるわけにはいかないというポジティブな思いが強くなる。

だが、それとともに、もう全てを終わりにしたい、全てを終わらせてほしい、
そんなネガティブな気持ちも石川の心の中には久しぶりに浮かび上がってきていた。

327 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:32

どれくらいの時間そこにいたのか、石川はずっと一人で立ち尽くしていた。
顔の色は青ざめ、唇の色はどす黒く濁っていた。足は震えたまま、でも動かなかった。
ただし、石川は自分が犯した罪の重さを痛感していたわけではなかった。
次のステージに進めないという残念と、そんなゲームに参加してしまったことへの後悔が、
同時に襲ってきていたのだ。それもリセットボタンを押す前に電源ボタンを押したくなるほど、
いや、電源ボタンを押す前にロムカセットを引っこ抜きたくなるくらい強烈に。

遠くからサイレンの音が聞こえてきていた。不気味な音だった。
単調で、電子的で、短いメロディを何度も繰り返す。微妙に音色が変化したりもする。
それが石川にはたまらなく怖かった。
それが石川を追っている音ではなく、すぐに遠くに消え去っていったとしても。

突然、石川は家族の声が聞きたくなった。なぜかはわからない。
みんなの声ではなく、家族の声が。だが、携帯の入ったバッグはどこかで落としたらしい。
そのことに気づき、石川は絶望がひしひしと迫って来ているのを感じた。
失敗はいつも、連続して訪れるものなのだから。

その予感通り、足音がした。それは後ろからしたのに、人が現れたのは前からだった。
石川の目の前、路地の入口に一人の男が立っていた。
「石川、梨華さんですね?」
男は慎重な言葉でそう言った。追いかけて来たせいか、少しだけ息が乱れていた。
そしてスーツの内側に手を入れてなにかを取り出そうとする。
石川にはそれが警察手帳だということは当然わかっていた。自分を逮捕するのだと。
実際には逮捕するには令状が必要であり、その警察官は任意同行を求めるため、
まず自分の身分を名乗ろうとしていたのだが、そんなことは石川にはどっちも同じだった。

328 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:32

ただ、石川はまだ望みを完全に捨てたわけではなかった。この先には楽しみが待っている。
瞬間的にその男の表情や体勢やその呼吸の様子を観察する。
そして、男が手帳を見せようとした瞬間、石川は後ろを向いて再び駆け出そうとした。

が、石川の足はその先の水たまりをよけることもなく、三歩走っただけで止まっていた。
その路地の出口にも、男が一人立ちはだかっているのが見えたのだ。

石川は絶望を感じた。そして全ての気力が溶けてしまったかのようにその場にへたりこんだ。
そこにはお気に入りの服が泥にまみれるというような思いはすでになかった。
石川の靴も、ズボンも、全てが泥にまみれていた。それを着ている石川自身も。

329 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:32

取調室は薄暗かった。蛍光灯がついてはいるが、その光はどこかくすんでいて、
それに比べて机の上の電球は煌々としていて目に痛いほどだった。
石川は奥の椅子に座らされた。机を挟んで向かいの椅子に中年の刑事が座り、
ドアの横には婦警の制服を着た女性が心配そうな様子で立っていた。
部屋の外から幾つかの話し声が小さく聞こえてくる。
だが、その部屋はまるで誰もいないかのようにシーンと静まり返っていた。
石川はその静けさに、ただ俯くしかできなかった。

ドアが開いて、ようやく物音が耳に戻ってきた。
白色のセーターを着た女性が入ってきて、ゆっくりと言葉を発する。
「始めますか?」
「ああ」
男の刑事が後ろを振り返って答えた。どうやらセーター姿であっても刑事であるらしい。
そのセーター刑事が隅にある机の前に座り、なにか用紙のようなものを取り出した。
そしてペンを握る。これで準備は整った、ということなのだろう。

中年刑事がそれを見て、再び石川の方へ向き直った。
電気スタンドの首を少しいじって角度を微調整する。
それがなんの意味もないことなのか、癖なのか、作戦なのかはわからない。
だが、そんな些細な動作一つ一つが石川を完全に追い込んでいく。

刑事が口を開いた。
「石川、梨華さんですね?」

330 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:34

その瞬間だった。石川はその言葉に、その自分の名前に思わず発狂していた。
自分がアイドル石川梨華という架空の存在であることに今さらながら気づいたかのように。

「私……私!飯田さんが脅迫されてるって知って、だから!だからあいつを殺したんです!」

石川はそう叫んでいた。だが、それは自分を守るためでもみんなを守るためでもない。
石川は観念していたのだ。アイドル石川梨華との別れを、さよならを。

「そんなの絶対、絶対に許せなかったから……どうしてもそれをやめさせたくて……」
石川は再び俯いて、小さな声で淡々と話し始めた。
だが、石川は気づいてはいなかった。
その石川の話に、目の前の刑事も、セーターを着た女性も、制服姿の婦警も、
誰もが言葉を忘れ、目を丸くして驚いていたということに。
そして、刑事が机の上に置いた写真の意味にも。

そのモノクロ写真には一人の女性が映っていた。
帽子を深くかぶり、なにかの機械に向かっている女性。
それは銀行のATMコーナーを映した防犯カメラの映像をプリントしたものだった。

「それに私……もっともっと次に進みたくて……進めなかったけど……」
その声は震えながらも、その目はどこか満足そうでもあった。
それはきっと、石川が自分の失敗にまだ気づいていなかったからなのだろう。
いや、それは石川にとって失敗ではなかったのかもしれない。
本人が認識して初めて、失敗は失敗となるのだから。それは唯一幸せなことだった――。

331 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:34

鳴っていたサイレンが止み、数人の警察官がマンションの中に足早に入っていった。
目的の部屋には二人の女性がいた。部屋主である保田圭、そして中澤裕子。
二人はなにが起きたのか全くわからないというふうにただ唖然としていた。
だが、手錠をかけられてマンションを出る頃になって、やっと事情が呑み込めたのか、
二人はお互いに顔を見合わせて、そして同時に優しく微笑んでいた。
「でも、これで良かったのよね」
「ああ、せやな」

保田の部屋からは、現金三千万円の入った袋と、
そして全ての計画が記載されたノートなどが押収された。
だが、そのノートに記載されていたまだ見ぬ事件は、もう起こることはないのだろう。
それがどんなにスリルとショックとサスペンスを彼女たちにもたらすものであったとしても――。

332 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:35

ダンスレッスンの講習を終え、保田の部屋へと向かおうとしていた稲葉貴子は、
周りに幾人か人がいる中、天王洲スタジオ一階のロビーで警察に逮捕された。
だが、彼女にはなんの戸惑いもなかった。むしろ、彼女はどこまでも堂々と陽気だった。
まるで最初からそれを望んでいたかのように。

「これで完成やな……。ああ、完成や……」

それと同じ時間、稲葉の部屋からは飯田圭織に宛てた脅迫状のコピーが押収された。
だが、それが事件とどのように関係しているのかは最後までわからないままだった――。

333 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:35

パトカーのサイレンが大きいまま突然止まり、
しかし事務所の中はその音の意味にはまだ気づいてはいなかった。
見慣れた顔のベテラン刑事と若い刑事、そして女刑事が姿を見せる。
だが、その三人の顔はこれまでとは全く違うものになっていた。
どれもすっきりしない、苦々しい表情を浮かべていた。

「飯田圭織さんはどちらにいますか?」
若い刑事がそう尋ねた。ベテラン刑事の勘が当たっていたことを喜びたくもあったが、
素直には喜べない、そんな複雑な心境が表情にも表れていた。

その日、飯田圭織は今後のことを相談するために事務所に呼ばれていた。
三人もそのことは知っていた。朝一番でカウンセラーと面談していることも。
だが、それを知っていたとしても、それを尋ねないわけにはいかなかった。
三人が事務所を訪れたのは、いつもの理由とは全く違っていたのだから。

案内された部屋の中に飯田圭織はいた。
二人掛けの椅子の真ん中に、申し訳なさそうに座っていた。
その向かいの椅子には事務所の社員が二人。男性と女性だった。
「あ、刑事さん、どうかしたんですか?」
男性がそう尋ね終わる前に、ベテラン刑事は警察手帳とともに逮捕令状を広げていた。
二人の社員が目を丸くする。まるでドラマの中に突然巻き込まれたかのように。
だが、そんな二人に比べ、飯田は全く平然としていた。そして優しく微笑む。
それはドラマの主役を霞ませるほどの、美しく静かな、しかし淋しげな犯人だった。

334 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:35

事務所の社員が見守る中、飯田が手錠をかけられて通路を歩いていく。
そして誰もいなくなったところで、飯田はそのベテラン刑事に尋ねた。
「どこでわかったんですか?」
「仲間がボロ出したみたいだな」
「そうですか」
「だが、あんたにもボロはあった。仲間に先は越されたが、時間の問題だった」
「私?」
「あんた、演技が上手すぎたんだよ。それが証言との食い違いを浮かび上がらせた」
それを聞いて、飯田は一つ大きな息を吐いた。
だが、それはようやく自分が解放されたという、安堵の溜め息だったのかもしれない。

パトカーに乗り込もうとして飯田は空を見上げた。
その空はどこまでも高く透き通っていて、それがなんだが飯田には嬉しかった――。

335 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:35

翌日の新聞の一面には、どれも彼女たち五人の写真が載っていた。
中澤裕子、稲葉貴子、保田圭、飯田圭織、そして石川梨華。
だが、その笑顔が本当の笑顔なのかどうか、それは誰にもわからない。

┌―┐
│完│
└―┘

336 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:36
こんなに自分でドキドキワクワクしながらネタを書き進めたのは初めてかもしれません。
みなさんにもそんな楽しさが少しでも伝わっていればと思います。読んでくれてありがとう。

337 :名無し娘。:2005/11/28(月) 19:53
ブラボー!オオブラボー!

338 :名無し娘。:2005/11/28(月) 21:39
めっちゃ面白かったよ
最後までどきどきわくわく読みますた
作者GJ乙!!

339 :名無し娘。:2005/11/28(月) 22:06
久しぶりに先が楽しみでうずうずしながら読んでた
面白い作品ありがとう

340 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:27

 ――――――――――――――――――――――――
         それは一人の少女の涙から始まった―――――――

 川o;・-・); <私じゃないのに・・・私じゃ・・・ないのに・・・
        ――――――――――――――――――――――――
 ―――――――追い込まれる少女
    ―――――――限りなくグレーな状況証拠
       ―――――――だが、目撃者は彼女を許さない

    だって紺ちゃんしかいないじゃん。実際に歌ってたし>(VvV#川

 川o;・-・); <違う・・・私はただ・・・ただ知ってた歌だったから・・・

     そんなのどうでもいいけど、とりあえず腹減ってね?>(~▽~ ∬

 ■現場は密室■事件か事故か■ある曲をめぐっての不可解な謎■
 ■誰が何のために■そして第四の人物が浮上する■――――――

 <ふふふふふっ。事件の臭いがするのれす!
       <それも限りなくハンバーグに近い臭いが!
                                      @ソバ@
  ハンバーグ弁当食いながら何寝ぼけたこと言うてんねん>(‘д‘; )

 ―――丸二年の沈黙を破って奴は現れた―――――――――――
 ――――――ボツネタながらも冴え渡る推理
 ―――――――――未完の前作を上回る緻密な真相追究
 ――――――――――――そして辿り着いた一つの意外な結論――

 <犯人は、この中にいるのれす!!!
                           で、それなんてエロゲ?>

 ━━━━━━━━『お勝手探偵のの』2nd stage ━━━━━━━━

 ━━━━━━━━驚愕の事実が今、明かされる━━━━━━━━

341 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:27

12月某日某時刻――モーニング娘。楽屋

川#VvV)y-~~<うぜえよ。マジうぜえ。そんな言い訳聞きたかねーんだよ。

川o・-・)<で、でも・・・本当に私じゃなくて・・・。

川#VvV)y-~~<もういいよ。紺ちゃんがそんな奴だったとか、別に驚かないし。

川o;・-・); <そんな・・・。


                               川#VvV) アバサ
                               ゝ| |
             ;'~                   ||
          ━~                  ((  (,,),)


川o;・-・); <ほんとに・・・ほんとに私じゃないのに・・・。

342 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:27

某時刻――同・楽屋

川o・-・)<・・・。

∬ ~▽~)<あーあ、なんか腹減ってたまんねーな。晩飯まで後何時間だよ!

川o・-・)<・・・はあ・・・。

( ・e・)<あさ美ちゃん、どうかしたの?なんかさっきから暗いけど。弁当まずかったとか?

川o・-・)<ううん・・・別になんでもない・・・。

∬ ~▽~)<うわっ、まだ一時半かよ。おやつまで二時間もあるじゃねーか!

( ;・e・)<てかまこっちゃん、昼飯食べてまだ三十分も経ってないんだけど・・・。

( ;・e・)<・・・(しかもラーメン定食にさらにラーメンとギョーザとチャーハンつけて・・・)

( ;・e・)<・・・(それならラーメン定食二つ頼めばいいじゃんっていうツッコミすら無視して・・・)

∬ ~▽~)<もう待ちきれねえ!やっぱ弁当貰って来らあ!ラーメンだけで足りるかっての!

∬ ~▽~)<どうせスタッフ用の弁当なら残ってるだろうし、ちょっくら失敬してくらあ!


                                 ∬ ~▽~)
                                 (    )
                       ドスン ドスン  |   |
                         ( ( ( (  (__,)_)


( ;・e・)<足りないのかよ・・・なんのために弁当断って外食したんだよ・・・。

343 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:27

川o・-・)<・・・。

( ・e・)<それはそうと、あさ美ちゃん大丈夫?なんか変だけど。

川o・-・)<うん・・・実はね・・・美貴ちゃんと喧嘩しちゃって・・・。

( ;・e・)<もっさんと喧嘩か・・・。

川o・-・)<うん・・・昨日カラオケ行ったんだけど、そのことで揉めちゃって・・・。

( ・e・)<あー、あの人カラオケだといつも以上(に自己中心)だからねえ。
                              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                               ↑言わなくても通じる部分

川o・-・)<うん・・・でも、なんか私じゃないのに私のせいにされて・・・。

( ・e・)<誤解ってこと?

川o・-・)<うん・・・なのに美貴ちゃん・・・私のこと嘘つきって・・・。

川o・-・)<・・・。

             ふむふむ。それはなにやら事件の臭いがするのれす>

Σ川o・-・)<だ、誰?

Σ( ・e・)<そ、その声は!!!

344 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:27

 ノンノンバo∈
 の ´D`)      「勝手に現われ勝手に推理!そして勝手に解決!お勝手探偵のの見参!」
  / 〈〉,;fづ==┐
  h  ,,;r└--┘
  'r i ,,;/      オーフローニハイッテカーゾエマショー♪ ホラ オーフローニハイッテカーゾエーマショー♪
   | I ,/
  (_,/",_)             ラララ ターノシイナー♪ ラララ ターノシイナー♪ ホラ オーフローハタノシイナー♪

345 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:28

川;o・-・)<の、のんちゃん・・・。

( ;・e・)<な、何やってんの?そんな格好で?しかも登場の選曲完全に間違ってるよね?

( ´D`)<やだなあ。皆さんお馴染みの『お勝手探偵』じゃないれすか。テーマ曲もお馴染みなのれす。

( ;・e・)<あさ美ちゃん知ってる?

川;o・-・)<ううん、初耳だと思う。

( ´D`)<あれあれ。照れなくてもいいのれすよ。
       前回の謎解きでのみんなの絶賛と賞賛はのんが一番覚えてるのれす。

( ;・e・)<前回って?

( ´D`)<今を遡ること二年ほど前。狩の別荘でのんが事件を解決したのれす。

川;o・-・)<二年前とか言われても・・・全然記憶にないし・・・。

( ´D`)<・・・。

( ;・e・)<解決以前にそもそも事件とか知らないし・・・。

( ;´D`)<・・・。

( ;´D`)<ま、まあその、あれだあれ。もしかすると解決する前に未完のまま放置したとか、
       そんな手違いがあった可能性も否定しなくもないけど、とにかく二年ぶりなのれすよ。

( ;・e・)<解決してないんじゃん・・・。

( ;´D`)<いや、まあその、今となってはそんなことは迷宮入りというか・・・時効というか・・・。

川;o・-・)<全然駄目じゃん・・・。

346 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:28

ガチャッ

( ‘д‘)<あ、おったおった。やっぱここにおったんかいな。

( ・e・)<あ、あいぼん。

( ‘д‘)<のん、何やっとんねんな。けったいな格好してからに。

( ´D`)<お勝手探偵なのれす。知らないのれすか?

( ‘д‘)<知らんし知りとうもないわ。

( ;´D`)<あがががが・・・。

( ;´D`)<と、とにかく、のんは事件の臭いに敏感なのれす。

( ;´D`)<そしてその臭いに引き寄せられて来たのれすよ。

( ;´D`)<とっても美味しそうなハンバーグみたいな臭いなのれす。

( ‘д‘)<それは手にハンバーグ弁当持ってるからちゃうんか?

Σ( ´D`)<ハッ、なんという名推理!まさかあいぼんが明智君だったとは!

( ;‘д‘)<いや、推理以前に見たまんまやし。というかそれスタッフ用の弁当やろ?

( ´D`)<えへへ。一個だけ余ってたから頂戴してきたのれすよ。食べ物は粗末にできないのれす。

( ;‘д‘)<まあ最近ののんならそれくらい食った方がええかもしれへんけど。

( ;・e・)<・・・(それは別の意味でまずいことになるような・・・)

ガチャッ

∬ ~▽~)<くそっ、弁当残ってねーじゃねーか!誰だよ最後の一個を掠め取った奴は!

( ;・e・)<・・・(やっぱりか・・・)

347 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:28

( ´D`)<それはいいとして、何か事件が起きたみたいれすね?

( ・e・)<特に事件ってわけじゃないよ。あさ美ちゃんがもっさんと喧嘩したってだけで。

( ´D`)<あーー、わかるわかる。守山口のおやっさん喧嘩っ早いからねえ。

( ;・e・)<いや、守山口のおやっさんじゃなくて藤本さんなんだけど・・・と言うかそれ誰?

( ´D`)<あれれ、守山口のおやっさんじゃなかったのれすか。それは勘違いなのれす。めんごめんご。

( ;‘д‘)<というか守山口のおやっさんってうちの叔父さんやんか。なんでのんが知っとんねんな?

( ´D`)<それは守山口のおやっさんとのんの二人だけの秘密なのれす。教えられないのれす。

川o・-・)<あ、守山口のおやっさんって、もしかして守山口に住んでる叔父さんって意味?

∬ ~▽~)<てかお前ら、守山口のおやっさん守山口のおやっさんっていい加減言い過ぎだろ・・・。

( ‘д‘)<そう言うまこっちゃんかて守山口のおやっさんて言いたかっただけちゃうん?

Σ∬;~▽~)<ぐはっ・・・なぜそれを!

( ´D`)<ほほお。さすがは明智君。守山口のおやっさんの親戚だけのことはありますな。

( ;‘д‘)<とりあえず守山口はもうええさかい。それと誰が明智君やねん、誰が!

348 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:28

某時刻――同・楽屋

( ´D`)<なるほど。では藤本さんと紺野さんが喧嘩したというわけれすか。

川o・-・)<喧嘩というか誤解なんだけど・・・。

( ´D`)<ふむ。ではその概要を簡単に簡潔に端的に適切に適当にそれでいて少し艶かしく教えてくれませんかな?

( *・e・)<・・・(なんて注文の多い・・・しかもあさ美ちゃんにほのかな色香を求めてる!!!)

川o・-・)<は、はい。事件というか、発端は昨日一緒に行ったカラオケボックスなんだけど・・・。

( ´D`)っφメモメモ <ふむふむ。事件発生は昨日、現場はカラオケボックス、と。

川o・-・)<それで順番に歌ってたら、途中、私が歌い終わった後に誰も入れた覚えのない曲が流れて・・・。

川o・-・)<でも知ってる曲だったから、せっかくだし私が歌おうかってなって・・・。

349 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:28

【事件概要】――証言者・紺野あさ美

・事件発生は昨日
・現場は都内カラオケボックス
・現場にいた当事者は紺野あさ美、藤本美貴を含めて四人
・順番通りに歌っていたところ、突然誰も入力していない曲が流れた
・紺野はその曲をなんとなく知っていた
・歌い終わったばかりでマイクを握っていたこともあり、紺野はその曲を歌った
・次は本当なら藤本の順番だったが、藤本はその時は紺野が歌うのを止めなかった
・後になって、藤本は紺野が故意に入力したのだろうと言い出した
・挙句の果てに「嘘つき女」「ズルい女」「つるセコ女」「女」などと紺野を罵った
・ただの「女」は認めるとして、前の三つは紺野にとって耐えられなかった
・紺野は潔白を主張するも藤本は認めず喧嘩別れに

350 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:29

( ´D`)<ふむふむ。どうやら高度な密室トリックの予感がするのれす。

( ;‘д‘)<いや、全然せえへんし。単なる誤解による喧嘩やんか。どうせ誰かの入力ミスやろ?

川o・-・)<うん。私も入力ミスだったと思う。でも美貴ちゃんは私が故意に入力したんじゃないかって。

( ・e・)<歌っちゃったんならそう思われても仕方ないかもね。実際もっさん自身そういう卑怯なことやるし。

∬ ~▽~)<そうそう。あの人そうやってマイク独占したりするからアレなんだよねえ。

( ‘д‘)<ほないつも自分がやってたからそんな疑い持ったってわけやな?

( ´D`)<ふふふっ、明智君は甘いれすな。甘い甘い、天武天皇くらい甘いのれすよ。

( ;‘д‘)<の、のんがそないな知的なダジャレをかますとは・・・これは天変地異の前触れか!
                       オ オ ア マ ノ ミ コ
川;o・-・)<・・・(のんちゃんがそんな歴史上の人名を知ってるなんて確かに意外だ・・・)

川;o・-・)<・・・(いや、と言うかすぐにそれを理解したあいぼんも意外と言うか恐るべしと言うか・・・)

( ・e・)<天武天皇って何?

川;o・-・)<・・・(なぜだ・・・なぜこれほどまで安心できる・・・!!!)

351 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:29

( ‘д‘)<どこが甘いねんな。だってそういうことやろ?

( ´D`)<やれやれれすな。のんたちはまだ事件の概要をちょろっと聞いただけなのれす。
       推理の基本はどれだけ多くの情報を聞き出せるかにかかってるのれす。
       今の段階での決めつけや思い込みは後々大変なことになるのれすよ。

( ‘д‘)<まあ言いたいことわからんでもないが、でも間違ってへんやろ?

( ´D`)<はいはい。

( ;‘д‘)<なんやそのむかつく返事は!ほんまにお勝手やな!

( ´D`)<それほどでもないのれすよ。てへへへへ。

( ;‘д‘)<誉めたんとちゃうんやけど・・・。

( ´D`)<まあそんなことはどうでもいいとして、とりあえず詳しい話を聞かせてもらいましょうかな。

( ´D`)<まず、そのカラオケボックスには他に誰がいたんれすか?確か四人とか言ってましたな?

川o・-・)<えっ?・・・あ、うん。私と美貴ちゃん、それにまこっちゃん。

( ・e・)<なんだ、まこっちゃんもいたんだ。

∬ ~▽~)<ああ、昨日のカラオケね。あれ、なんかいまいち盛り上がりに欠けたんだよねえ。

( ´D`)<・・・で、残りの一人は?

川o・-・)<えっ?

352 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:29

( ´D`)<いや、だから残りの一人は誰れすか?四人なんれすよね?

川o・-・)<いや、だってそれは・・・。

Σ( ´D`)<ハッ。わかったのれす!ストッストップ!言わなくてもいいのれす!!!

( ‘д‘)<ん?どないしたんや?

( ´D`)<ふっふっふ。なんとなく謎が見えてきたのれすよ。これはとてつもなく重要な鍵なのれす。

( ´D`)<紺野さんは四人だったと証言したのれす。しかし、名前を挙げたのは三人。
       これが何を意味するか、のんにはすぐにわかったのれす。一目瞭然なのれす。

( ‘д‘)<何を意味するんや?

( ´D`)<その残りの一人こそがかなり怪しい人物、それも限りなくクロに近い人物ということれす!

( ‘д‘)<そのまんまやけど、でもあれや。確かにおかしな話ではあるわな。

( ´D`)<紺野さん、その残りの一人とやらを教えてもらえますかな?ふふふ、犯人をかばっても無駄ですぞ。

川;o・-・)<いや、と言うかその一人ってのはのんちゃんなんだけど・・・。

( ´D`)<・・・へっ?

川o・-・)<だから、のんちゃん。私と美貴ちゃんとまこっちゃんとのんちゃん。覚えてないの?

( ;´D`)<なななななんですとーーーー!!!

( *‘д‘)<それは確かにかなり怪しい人物やな。それも限りなくクロに近い人物やで。

( ;´D`)<ぬぬぬ・・・いきなり大どんでん返しとは、ミステリの王道を破る奇抜で斬新な展開なのれす!

353 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:29

【補足】――証言者・紺野あさ美

・当事者は紺野あさ美、藤本美貴、小川麻琴、辻希美
・四人は事件が起きた時、現場となったカラオケボックスにいた
・歌う順番は藤本→辻→小川→紺野(→藤本へと続く)
・紺野が歌い終わった後、藤本の曲との間に不可解な曲が入っていた

354 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:29

( ´D`)<なるほど。それじゃ昨日のカラオケで事件が起きてたんれすね。ちっとも気づかなかったのれす。

( ;‘д‘)<絶対こいつが犯人や。どこが事件の臭いに敏感やねんな。

( ´D`)<まあまあ。焦りは禁物ですぞ。のんはたまたま現場に居合わせただけで関係ないのれす。

( ;‘д‘)<そんな言い訳が通じるんやったら全員シロになるやんけ。

( ´D`)<はいはい。

( ;‘д‘)<ほんまお勝手や・・・この人ほんまにお勝手や・・・。

( ´D`)<それはいいとして、その四人でカラオケに行ったわけですな?

川o・-・)<うん。

( ´D`)<はて、それは少し奇妙な話ですな。

川o・-・)<奇妙?

( ´D`)<藤本美貴、紺野あさ美、小川麻琴、そして辻希美。この四人の名前を聞いてもわかりませんかな?

( ‘д‘)<どういうことや?

( ´D`)<つまり、オフの日にカラオケに行ったにしては、あまりにもアンリアルな組み合わせということれす。

( ;‘д‘)<アンリアルて、確かにありそうでない組み合わせやけど、それ以前にこれネタやんか。

( ´D`)<ネタでもリアルかアンリアルかというのは重要なのれす。
       のんが「〜れす」と喋っただけで、「萎える」とか言いやがるむかつく読者だって中にはいるのれすよ。

( ;‘д‘)<いや、小説でなら聞いたことあるけどもやな。ネタでは一度も聞いたことあらへんで?

355 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:30

( ´D`)<てへへ。嘘なのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

( ´D`)<のんは嘘つきなのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

( ´D`)<だから嘘つきというのも嘘なのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

( ´D`)<つまりのんは正直者なのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

( ´D`)<やっぱりそれも嘘なのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

( ´D`)<でも嘘というのは本当なのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

( ´D`)<ということはのんはやっぱり正直者なのれす。

( ;‘д‘)<えーーー!

川;o・-・)<あの、どっちでもいいんで、話進めませんか?

( ;‘д‘)<えーーー!

356 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:30

某時刻――同・楽屋

( ´D`)<では話を進めるのれす。

( ´D`)<まずはその誰が入れたかわからない曲というのを教えていただけますかな?

川o・-・)<えーと、曲名なんだったかな・・・。

( ´D`)<ほほお。曲名もわからないのに歌ったとは、これまた新事実発覚れすな。

川o・-・)<あの、有名な曲だったから。ひゅ〜りる〜ひゅ〜りる〜らら〜♪って曲。

( ´D`)<歌詞が少し間違ってるけど、それは『越冬つばめ』れすな。

川o・-・)<あ、そうそう。それそれ。『越冬つばめ』。それが私の後に入ってたの。
                                                  マドカ
( ´D`)<離婚で騒動になった森昌子の曲れすな。ちなみに作曲は「とんでとんで」の円ひろしなのれすよ。
       関西では嫌でも週に一度は見かけるおっさんれす。のんは別に嫌じゃないけど。

( ;‘д‘)<関係ないウンチクはいらへんから、話進めようや。

( ´D`)<てへへ。これは失敬なのれす。

川o・-・)<それで、知ってた曲だったから、美貴ちゃんに「歌ってもいい?」って聞いて。

( ´D`)<それで二曲連続で歌ったわけれすね。そして誤解が生じたと。

川o・-・)<私があの時歌わずにすぐに消してたらこんなことにはならなかったんだけど・・・。

( ‘д‘)<でもまあ、そういう偶然があるからカラオケはおもろかったりするんやけどな。

( ´D`)<ほほお。珍しくいいことを言いますな。確かカレーライス和尚とか申しましたかな?

Σ( ;‘д‘)<誰がカレーライス和尚や!どこをどうやったらカレーライス和尚なんて名前になんねん!

( ´D`)<いや、まあなんつーか、ただの昔のネタの再利用なのれすよ。作者が自分で大爆笑、みたいな。

( ;‘д‘)<ったく、のんものんやけど作者も作者やな。よりにもよってカレーライス和尚を再利用せんでも・・・。

357 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:30

( ・e・)<ねえ・・・なんか一つ思いついたんだけど・・・。

( ´D`)<ん?これはこれはマーガレット男爵殿、いかがしましたかな?

( ;‘д‘)<今度はマーガレット男爵かいな。どないな感性しとんねんな。

( ・e・)<本当に入力ミスだったのかなって。これはマーガレット男爵としての長年の経験からの疑問なんだけど。

Σ( ;‘д‘)<ほんまにマーガレット男爵やったんかいな!そっちの方が事件やんか!

( ´D`)<誰かが故意に入力したと言いたいのれすかな?ふむ。確かにありえる話れすな。

∬ ~▽~)<ありえるの?

( ´D`)<犯人には何らかの意図があった。例えば・・・退屈しのぎに適当に曲を入れて順番を狂わせようとした。
       あるいはもっと単刀直入に言えば、次の番である藤本美貴への嫌がらせという線もありますな。

( ´D`)<そう言えば小川麻琴さん、あなたさっき、昨日のカラオケは盛り上がりに欠けたとか言ってましたかな?
       しかもマイクを独占する藤本さんに対してあまりいい印象は抱いていないようにお見受けしましたが?

∬;~▽~)<そ、それは・・・。

( ´D`)<怪しいれすな。マーガレット男爵殿の閃きのおかげで容疑者が一人浮かび上がったのれす。

( ;・e・)<あ、あの、故意に入力したって言っても、私が言いたかったのはそういうことじゃなくて・・・。

( ´D`)<あ、違ったのれすか?こりゃ早とちりしちゃったのれす。めんごめんご。

358 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:30

( ´D`)<ではマーガレット男爵殿、どういうことですかな?

( ・e・)<だから、もしかするともっさんが自分で入力したんじゃないのかって。

( ´D`)<藤本美貴が自分で、れすか?

( ・e・)<本当は自分が歌うつもりだったのに、みんなもっさんがそんな古臭い曲を歌うなんて思いもよらず、
      それを入力ミスだと思ってしまった。そんな空気にもっさんも自分が入れた曲とは言い出せなくなった。
      その時あさ美ちゃんがその曲を知ってるからというので、もっさんの曲を歌い出してしまった。
      もっさんはますます言い出せなくなり、その不満がくすぶってあさ美ちゃんに怒りをぶちまけるに至った。

( ´D`)<なるほど。筋は通ってますな。筋は。

359 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:30

【推理】――新垣里沙(マーガレット男爵)

・『越冬つばめ』を入力したのは藤本自身だった
・しかし周りがそうだとは思いもよらず、入力ミスということにしてしまった
・そんな空気に藤本も自分の曲だとは言い出せなくなった

360 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:31

川o・-・)<じゃあ、あれは美貴ちゃんの曲だったんだ・・・。

∬ ~▽~)<あれ?でも『越冬つばめ』の後にちゃんと藤本さんの曲入ってたような気がするけど?

( ´D`)<ふむふむ。となると、藤本真犯人説は成立が難しくなりますな。やはり素人の浅はかな推理だったのれす。

( ・e・)<あ、でももっさんが二曲連続で入れたってことも考えられるんじゃないかな?

( ´D`)<やれやれ。敗北をなかなか受け入れないのは素人の欠点なのれすよ。

( ・e・)<だってもっさん、さっきも言ったけど、いつもそうやって自分の順番以外でも歌ったりしてたし。
      その時はあさ美ちゃんが歌っちゃったけど、本当は自分が歌うつもりだったとしても・・・。

∬ ~▽~)<そっか。『越冬つばめ』なんてみんながみんな誰かの入力ミスだって思うはずだし、
       そこで「じゃあせっかくだから私が歌う」なんて言って連続で歌うつもりだったとしてもおかしくはないか。

( ´D`)<ほほお。素人にしてはやりますな。となると藤本真犯人説が再び浮上したということになりますかな。

( ;‘д‘)<そうやって敗北をなかなか受け入れないのは素人の欠点ちゃうんかいな?

( ´D`)<はいはい。

( ;‘д‘)<くーーー!なんやこのこみ上げてくる脱力感を含んだ不思議な怒りは!!!

361 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:31

( ´D`)<しかしあれですな。そうだとしてもやはり藤本真犯人説は強引な気がしますな。

( ・e・)<強引?

( ´D`)<筋は通ってるのれす。しかし、それを許すならば、
       その藤本美貴が主張するところの紺野あさ美が故意に入力したという疑念も許されるのれすよ。

∬ ~▽~)<そっか。藤本さんがあさ美ちゃんを疑ったのとほとんど同じことだもんね。

( ´D`)<それに、少し筋が通りすぎてるのれす。推理小説ならそれでいいかもしれませぬが、
       しかし実際の事件というものは不整合で様々な矛盾を内包してるものなのれすよ。
       犯人がなぜ事件を起こしたのか自分でも把握してない、なんてことも多いのれす。

( ‘д‘)<・・・。

( ´D`)<だから筋が通り過ぎてる場合はあえて除外するべきなのれすよ。それが逆に真相に近づく一歩になるのれす。

( ‘д‘)<なるほど・・・そうや・・・その通りや!

( ´D`)<ん?どうしたんれすか?のんの推理手法に感銘でも受けたのれすか?

( ‘д‘)<その通りやで。犯人がなぜ事件を起こしたのか自分でも把握してない。それがこの事件の真相や!

( ´D`)<・・・?

( ‘д‘)<全部わかったで。どんな無意味に見える情報でも、より多くの情報を集めるのが推理の基本・・・。
       それもその通りや。最初からずっとそれが引っ掛かっとったねん。その不可解で些細な情報が!!!

( ´D`)<ほほお、それではカレーライス和尚とやら、その推理を聞かせてもらいましょうかな?

( ‘д‘)<いや、これはもう推理やない!解決編や!!!

川o・-・)<か、解決編!

( ‘д‘)<ズバリ言うで!!!犯人は・・・犯人はこの中にいる・・・!!!!!

362 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:31

   Σ( ・e・)<犯人が!!!

         Σ∬ ~▽~)<この中に!!!

               Σ川o・-・)<いる・・・!!!

                      ( #´D`)<ケッ、そんなの当たり前なのれす・・・

363 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:31

川;o・-・)<その犯人というのは、一体?

( ‘д‘)<犯人は、もちろん昨日そのカラオケボックスにいた四人の中の一人です。

( ‘д‘)<そして、この中にいない藤本さんは犯人ではありません。

( ‘д‘)<つまり、あさ美ちゃん、まこっちゃん、そしてのんの三人の中にいるってことや!

( ´D`)<ふへへへへ。何言ってんれすか。それくらいなら誰にでもわかるのれすよ。
      藤本美貴真犯人説以外なら、当事者はその三人しかいないじゃないれすか。

( ‘д‘)<まあまあ。それはそうや。せやけどうちはもう、誰が犯人かはっきりとわかったねん。

( ;・e・)<その犯人というのは・・・?

( ‘д‘)<おかしいなって思ったんは、ある人物のある証言やった。

( ‘д‘)<その人物は通常知りえない情報を知っていた。

( ‘д‘)<そして、その人物は自分が犯人であるということに全く気づいてすらいなかった。

( ‘д‘)<いや、最初はフェイクやと思ったで。こいつは隠し通してるんちゃうやろかってな。

( ‘д‘)<せやけどそれは違うわ。犯人はそういうおっちょこちょいな奴やねん。

( ‘д‘)<そう。まるで昨日のカラオケのことを全く忘れていたような・・・!!!

Σ川;o・-・)<じゃ、じゃあ犯人は・・・犯人は・・・!!!

( ´D`)<・・・。

( ‘д‘)<のん、お前が犯人や!!!

Σ( ´D`)<・・・へ?な、なんでれすか?なんでのんが犯人なのれすか?

364 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:31

( ‘д‘)<簡単や。まず、昨日のカラオケボックスの順番を考えてみーや。

( ‘д‘)<あさ美ちゃんの証言で、それが藤本→辻→小川→紺野というのは明らかになっとる。

( ‘д‘)<普通に考えて、のんが順番を間違えてもっさんの前に選曲を入れてしまったというのは十分ありえることや。

( ´D`)<やれやれ。なに普通に考えてんれすか。これだから素人は困るのれす。

( ‘д‘)<話は最後まで聞きな、ウォッシュレット博士。

( *´D`)<はい。最後まで聞きます。

( ;‘д‘)<そう素直に喜ばれても困るんやけど。まあええわ・・・。

( ‘д‘)<確かにそれは単純な順番間違いで済む話やな。せやけど、鍵はのんの忘れっぽさや。

( ‘д‘)<のんは昨日のカラオケのことを忘れてたわな。そしてまるで部外者みたいに振る舞っとった。

( ‘д‘)<そんなのんのことや。順番を間違ったことも、自分の選曲のことも、忘れてても不思議やあれへん。

( ´D`)<・・・。

( ‘д‘)<それだけなら単なる人間的欠陥に基づく状況証拠に過ぎひん。せやけど・・・。

( ‘д‘)<のんはこんなこと言いよった。みんなも覚えてるやろ?

( ‘д‘)<あさ美ちゃんの歌を聞いて、それをすぐ『越冬つばめ』だと答えよった。

( ‘д‘)<そして森昌子の曲だとも言うたわな。さらに円ひろしの名前まで出しよった。

( ‘д‘)<それは全て、十代の女性が通常答えられるはずのない情報や!

Σ川o・-・)<た、確かに!!!

365 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:32

( ‘д‘)<それをなぜのんが答えることができたか、その答えは一つしからへん!

( ;・e・)<のんちゃんが・・・。

∬;~▽~)<その曲を入力した・・・。

( ‘д‘)<その通り。のんは昨日『越冬つばめ』を歌うつもりやった。

( ‘д‘)<以前からその曲を知ってたんや。いや、知ってるどころかかなり好きで歌ったりもしてたはずや。

( ‘д‘)<そして昨日もその曲を入力した。だが、順番を間違って入れてしまった。

川o・-・)<美貴ちゃんの後なのに、前に入れちゃったんだ。

( ‘д‘)<しかし、当ののん自身は、もっさんの前に『越冬つばめ』が流れたことに気づいていなかった。

( ‘д‘)<自分の番はもっさんの後だという意識があったんやろ。

( ‘д‘)<それか、すでに何の曲を入力したかすら忘れてたかもしれへん。

( ‘д‘)<とにかく、そうやって入力したのにも関わらず、のんはその自分のミスに気づかへんかった。

( ‘д‘)<そして、それが原因であさ美ちゃんがもっさんと喧嘩したことも、のんにとっては他人事やった。

( ‘д‘)<どないや?よーく思い出してみいや。のんが入力したんやろ?そうなんやろ?

366 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:32

【推理】――加護亜依(カレーライス和尚)

・犯人は辻希美
・辻は『越冬つばめ』を知っているどころか、通常知らない知識まで持っていた
・辻の順番は藤本の後だったが、間違ってその前に入力してしまった
・しかし忘れっぽい性格から、ほんの少し前に入力したことすら忘れていた
・実際、昨日のカラオケのことも、そのメンバーのことも忘れていた

367 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:32

( ´D`)<ふふふふふふ。甘い。甘い甘い。              オ ナ ペ ッ ト
       つるっぱげの和尚やら煩悩の塊のエロ小坊主どもの凌辱妄想の対象くらい甘いのれすよ。
                           アマ
( ;・e・)<わからないけど、なんとなくお寺の尼さんのことを言ってるっぽいってのはわかった。

( ‘д‘)<何が甘いんや!最初から登場してる中で最も意外な人物が犯人ってのがミステリの定番やんか!

( ‘д‘)<のんには十分にその資格があるで!そして『越冬つばめ』に対する情報という動かぬ証拠(証言)!!!

( ´D`)<やれやれ。まだわからないのれすか・・・。

( ‘д‘)<だから何がや!のんが犯人で間違いないやんか!

( ´D`)<ぶっちゃけ、これネタれすよ?

( ‘д‘)<ネタだからなんやねん!

( ´D`)<ネタなのにそんなにムキになって真面目に推理するとかありえないのれす。笑えるのれす。

( ‘д‘)<なんやそれ!

( ´D`)<この作者のネタ的にも、そんなまともな解決編は絶対にありえないのれす。

( ´D`)<大体のんが最も意外な人物だとか言ってる時点で間違ってるのれすよ。

( ´D`)<もう一度最初から読み直してほしいのれす。あんなにヒントがあったのになんで気づかないんれすか?

( ‘д‘)<なんや、なんのことを言うてるんや!のんは誰が犯人や言うつもりなんや!

( ;‘д‘)<ハッ・・・ま、まさか・・・!!!



.

368 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:32

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369 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:32

  Σ( ;・e・)<あっ・・・!

      Σ∬;~▽~)<いっ・・・!

            Σ川;o・-・)<うっ・・・!










( *´D`)<ブブー、残念!

Σ( ;‘д‘)<えーーーーー!!!

370 :名無し娘。:2005/12/09(金) 21:33

( ;‘д‘)<な、なんやねん!それじゃないとしたら誰が犯人やねん!この作者的に!!!

( ´D`)<簡単れすよ。のんもちょっとおかしいなって思ってたのれす。

( ;‘д‘)<なんや、何がおかしいねん。どこにどんな疑念があったねん!

( ´D`)<あさ美ちゃんの歌れすよ。歌。

川;o・-・)<私の・・・???

( ;‘д‘)<歌・・・???

( ´D`)<あさ美ちゃんが歌った『越冬つばめ』は、微妙に間違ってたのれす。

( ;・e・)<あさ美ちゃん、どう歌ったんだっけ?

川;o・-・)<えーと・・・ひゅ〜りる〜ひゅ〜りる〜らら〜♪って。

∬;~▽~)<確かになんか違う気がするけど、でもだからってあさ美ちゃんが犯人だとは・・・。

( ´D`)<あれあれ。誰もあさ美ちゃんが犯人とは一言も言ってないのれすよ。

( ;‘д‘)<それじゃなんやねんな。その歌の間違いから何をどう導くんや。

( ´D`)<犯人はその歌の中に最初からいたのれす。

川;o・-・)<歌の・・・中に・・・?

( ;‘д‘)<燕が犯人ってことか?それとも、森昌子?円ひろし?

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