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魔法騎士れいにゃーすっ!
- 1 :名無し娘。:2005/04/30(土) 17:03
- 从 ´ ヮ`)<にゃ〜♪
- 158 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:01
- 翌日。
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|┌――┐| ↓上映会
||宝塚|| ←テレビ /⌒/
|└――┘| 川’ー’川(`▽´∬(・e・ )(・-・o川 / / ←ソファ
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|_[・・===]__| ←ビデオ (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ /
- 159 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:02
- 翌々日。
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|┌――┐| ↓上映会
||宝塚|| ←テレビ /⌒/
|└――┘| 川’ー’川(`▽´∬(・e・ )(・-・o川 / / ←ソファ
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- 160 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:02
- 翌々々日。
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|┌――┐| ↓上映会
||宝塚|| ←テレビ /⌒/
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- 161 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:02
- 翌々々々日。
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- 162 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:03
- 翌々々々々日。
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||宝塚|| ←テレビ /⌒/
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- 163 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:03
- 翌々々々々々日。
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- 164 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:03
- 川’ー’川 <今日もとても素晴らしかったです。特に○組の○○さんはとろけるくらい素敵です
∬;`▽´) <うーん、そろそろ高橋ちゃんの趣味もわかったので、次のステップに進んだ方がいいと思います
( ;・e・) <そうですね。プロの技も見て知ったことですし、私たちも負けないように頑張るべきです
川;o・-・) <それではこれまで宝塚を見ていた時間を、居残りレッスンの時間として利用しましょう
Σ川;’ー’川 <え?宝塚は今日でおしまいですか?まだまだ見てないビデオはたくさんあります
∬;`▽´) <宝塚はとても素晴らしかったです。今度は私たちが素晴らしくなる番です
( ;・e・) <その通りです。見ているだけでは追いつきません。私たちもプロになるための努力をするべきです
川;o・-・) <宝塚はまた今度にして、これからはレッスンに励みましょう
川;’ー’川 <また今度ですね。わかりました。今の言葉、ちゃんと覚えておきます
- 165 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:04
-
↓ダンスレッスン中
● ● ●
(===) (===) ● (===)
∬ `▽´)/ 川’ー’川/ (===) 川o・-・)/
( ) ( ) ( ・e・)/ ( )
/く く く /く く く /( ) /く く く
(___(___) (___(___) (__(__) (___(___)
∬ `▽´);∩ <今日のレッスンは燃えました。おかげで汗まみれですが、これぞ青春だと思います
川’ー’川 <通常のレッスンに加えて自主レッスンだなんて、これぞプロという感じがします
( ・e・) <少し疲れましたが、これくらいで弱音を吐いたりはしません
川o・-・) <私はもっともっとレッスンする必要があります。ですが今日は疲れました
∬ `▽´) <それでは今日はこれくらいにして、また明日頑張りましょう
- 166 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:04
- 翌日。
↓ダンスレッスン中
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(===) (===) ● (===)
∬ `▽´)/ 川’ー’川/ (===) 川o・-・)/
( ) ( ) ( ・e・)/ ( )
/く く く /く く く /( ) /く く く
(___(___) (___(___) (__(__) (___(___)
∬ `▽´);∩ <今日もレッスンを頑張りました。おかげで空腹です
川’ー’川 <明日もレッスンを頑張りましょう。そして明後日は勉強のために宝塚のビデオを見ましょう
( ・e・) <高橋ちゃん、それはダメです。私たちがプロに近づくにはまだまだレッスンが必要です
川o・-・) <その通りです。私も休みたいのはやまやまですが、今自主レッスンを止めるわけにはいきません
川;’ー’川 <そ、そうですね。みんなの言うことは一理あります。宝塚はまた今度にします
- 167 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:04
- 翌々日。
↓ダンスレッスン中
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∬ `▽´)/ 川’ー’川/ (===) 川o・-・)/
( ) ( ) ( ・e・)/ ( )
/く く く /く く く /( ) /く く く
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∬ `▽´);∩ <おなかが減ったので、これからラーメンでも食べに行きたいと思います
川’ー’川 <でもラーメンはカロリーが高いので他のものにした方がいいと思います
∬ `▽´) <それはそうですが、これだけ運動したのですからそれくらいは必要分です
( ・e・) <私もおなかが減りました。ラーメンを食べたいと思います
川o・-・) <それでは私もお供します。明日からのレッスンを頑張るためにも今はラーメンが不可欠です
- 168 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:05
- 翌々々日。
↓ダンスレッスン中
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∬ `▽´)/ 川’ー’川/ (===) 川o・-・)/
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∬ `▽´);∩ <腹が減って死にそうです。今日もラーメンを食べに行きます。2杯くらい食べます
川;’ー’川 <2杯は食べすぎだと思います。せめて1杯にしておくべきです
( ;・e・) <私もそう思います。ラーメン2杯は食べすぎです
川;o・-・) <それより二日連続でラーメンはおかしいと思います。別のものにするべきです
- 169 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:05
- 翌々々々日。
↓ダンスレッスン中
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∬ `▽´)/ 川’ー’川/ (===) 川o・-・)/
( ) ( ) ( ・e・)/ ( )
/く く く /く く く /( ) /く く く
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∬ `▽´);∩ <今日もラーメンに行きます。昨日と同じくラーメン定食を頼みます
川;’ー’川 <またラーメン定食を食べるのですか?ラーメンだけにしておくべきです
( ;・e・) <高橋ちゃんの言う通りです。ラーメンにギョウザにチャーハンはさすがに量が多すぎます
川;o・-・) <私は疲れすぎて食欲がわきません。今日は三人だけでお願いします
- 170 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:06
- 翌々々々々日。
↓ダンスレッスン中
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∬ `▽´)/ 川’ー’川/ (===) 川o・-・)/
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/く く く /く く く /( ) /く く く
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∬ `▽´);∩ <今日はあまりの空腹さに、禁断の大盛り定食(20分以内に食べたらタダ)に挑戦します!
川;’ー’川 <小川ちゃん、それはやめた方がいいと思います。頑張りすぎです
( ;・e・) <そうです。昨日もラーメン定食プラスラーメン大盛りを食べています。これ以上は健康に悪いです
川;o・-・) <私は疲れすぎて吐きそうです。とてものことラーメン1杯も食べられません
∬ `▽´) <ですが明日のレッスンを乗り切るためには、このラーメンが必要不可欠です
川;’ー’川 <それなら明日は自主レッスンを中止して、また宝塚の上映会を開きましょう。休息も必要です
∬ `▽´) <それはダメです。一日レッスンを休んだだけでも、それが積み重なれば怠慢に繋がります
- 171 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:06
- 翌々々々々々日。
↓ダンスレッスン中
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∬ `▽´)/ 川;’ー’川/ (===) 川;o・-・)/
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∬ `▽´);∩ <日々上達しているのを実感します。なので今日もラーメンを食べに行きましょう
川;’ー’川 <そろそろラーメンはやめた方がいいと思います。それより宝塚を見ましょう
∬ `▽´) <また宝塚ですか。私は宝塚のビデオを見るよりレッスンが大切だと思います
川;’ー’川 <でもレッスンの分だけラーメンが増えるのは不健康です。宝塚を見ましょう
( ;・e・) <私もそろそろ休息が必要だと思います。宝塚を見るかどうかは別として明日は休みましょう
∬ `▽´) <それは納得がいきません。レッスンをして汗を流してラーメンを食べるのが一番の健康法師です!
川;’ー’川 <それは不健康です!明日は宝塚を見るべきです!プロの技を見て勉強するのが一番です!
川;o・-・) <私は疲れたので明日は何もしたくありません。ごめんなさい
( ;・e・) <それはダメです。今は一日たりとも何もしなくていい日はありません!日々是勉強です!
- 172 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:07
- r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <なんか自主レッスン頑張ってるみたいだし、これはいい感じで未来が変わるかも
∬#`▽´) <私はもう絶対に宝塚なんか見ません!それよりもレッスンです!レッスンが大切です!
川#’ー’川 <小川ちゃんはただ汗流してラーメン食べるだけです!それでは意味がありません!
∬#`▽´) <宝塚馬鹿に言われたくありません!汗流して食欲がわくのは青春の証拠です!これこそ健康です!
川#’ー’川 <ラーメン定食に大盛りラーメンに大盛りチャーハンにギョウザ5人前食べるのは不健康です!
∬#`▽´) <健康だから食欲がわくのです!宝塚ばかり見ていても食欲はわきません!宝塚は不健康です!
川#’ー’川 <宝塚を馬鹿にするのは許せません!宝塚を馬鹿にする人は宝塚を馬鹿にする馬鹿です!
( #・e・) <二人ともいい加減にしてください!これだから貧乏人は賤しいのです!
∬#`▽´) <それはどういう意味ですか!ラーメンを食べるのは貧乏人だと言いたいのですか!
川#’ー’川 <宝塚は高尚な趣味です!賤しいなどと言われる覚えはありません!
r====i
[ ★ ]
Σ从;´ ヮ`) <ズガーーーーン実際の未来より修羅場!つまり未来は多分実際よりさらに修羅場!!!
- 173 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:07
- ∬#`▽´) <私は明日から一人でレッスンします。そして誰にも邪魔されずにラーメンを好きなだけ食べます
川#’ー’川 <私はもう自主レッスンには参加しません。宝塚を見て一人でプロの技を勉強します
( #・e・) <貧乏人には付き合ってられません。つんくさんにカネを渡して楽してミニモニ。に入れてもらいます
川;o・-・) <私は・・・・・私は・・・・・どうしていいかわかりません
∬#`▽´) <今日はもう帰ります。みんなの顔なんか見たくもありません
川#’ー’川 <それは私のセリフです。宝塚が理解できない人とは友達になんかなれません
( #・e・) <貧乏人は勝手に争ってればいいのです。私にはもはや関係ありません
川;o・-・) <・・・・・
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <あーあ、みんな帰っちまったな。やっぱり5期メンバーは5期メンバーってことか
- 174 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:08
- 川;o・-・) <・・・・・
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <あれ、紺野さん?どうかしましたか?
川;o・-・) <未来予言者さん、教えてください。私は、私はどうしたらいいんでしょうか?
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <どうしたらいいって、どうもしなくていいんじゃないかな?どうせこうなる運命だったんだし
川;o・-・) <でも・・・・・私、このままでは嫌です。せっかく友情が芽生え始めていたのに、こんなことになるなんて
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <そう言われてもねえ・・・・・最初の忠告通りしてくれたらそれで全て解決したんだけどねえ
- 175 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:08
- 川;o・-・) <未来予言者さんは全てを知っているはずです。それなら、何か解決策を知ってるはずです!
川;o・-・) <お願いします。5期メンバーの友情を元に戻したいんです
川;o・-・) <それに、私だけ何をしていいのかわかりません。私は何をどうすればいいのですか?
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <・・・・・紺野さんにそこまで言われちゃなあ。でも解決策なんて言われてもよくわからないし・・・・・
そもそも初期型紺野さんは赤点補欠合格者キャラでいつもそれを気にしてるだけの存在だし
何をしていいかとかじゃなくて、なんか頑張るだけ足引っ張るみたいな感じだったし・・・・・
川;o・-・) <私には、私には無理ですか?みんなを元に戻すことは・・・・・私には・・・・・
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <そうだねえ、頑張っても足引っ張るだけだし、怪我とかしちゃったりして・・・・・
・・・・・怪我?・・・・・そうか、怪我だ。紺野さん、確か近いうちに大怪我するんですよ
川;o・-・) <怪我、ですか?
r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <そう。人一倍頑張ろうとして、うたばんの大玉転がしで出血大サービスするんですよ
もしかしたらこれが5期メンバーの心境をかえるかもしれない
川;o・-・) <それで私はどうすればいいのですか?わざと怪我をするのですか?
r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <いや、多分紺野さんは普段通りに全力で励めばいいと思います
多分そういうことなのでしょう。私にもなんとなくわかってきた気がします
川;o・-・) <・・・・・?
- 176 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:09
- 5期メンバーの友情が崩壊して数週間後。うたばんの撮影が行われた。
川’ー’川 <私たちは大の仲良しです
∬ `▽´) <高橋ちゃんは宝塚の大ファンです。私もファンになりました
( ・e・) <みんな素晴らしい仲間です。よくみんなで庶民的にラーメンを食べに行ったりします
川;o・-・) .。oO(みんなカメラの前だと・・・・・)
そして大玉転がしが始まった。
ワーワーワー ワーワーワー
●λλλ ○λλλ
川;o・-・) .。oO(ここで人一倍頑張ってる姿を見せて・・・・・みんなに元に戻ってもらうんだ)
川;o・-・) .。oO(頑張って頑張って頑張って・・・・・そして、みんなを元に戻すんだ)
川;o・-・)ノ ワーーーーワーーーーワーーーー!!!
ワーワーワー ワーワーワー
●πλλ ○λλλ
↑
ずっこけた紺野さん
川;oY-Y) <い、いたいっ・・・・・
Σ川;’ー’川 <こ、紺野ちゃん?
Σ∬;`▽´) <こ、紺野ちゃん?
Σ( ;・e・) <こ、紺野ちゃん?
川;oY-Y) <わ、私は大丈夫です。それより玉を・・・・・早く玉をゴールに・・・・・
- 177 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:10
- 床が血に染まり、スタジオがシーンと静まり返った。そして静寂の後のどよめき。
スタッフの声が飛び交い、司会者は青ざめ、メンバーたちはただオロオロするばかりだった。
すぐに応急手当をされたものの、紺野はタンカに載せられ、救急車で病院へと運ばれた。
メンバーたちは口数も少なく、ただスタッフの指示に従って楽屋へと戻るだけだった。
川;’ー’川 <こんなことになるなんて・・・・・
∬;`▽´) <うう・・・・・
( ;・e・) <血が・・・・・血が・・・・・今も脳裏に・・・・・
川;’ー’川 <未来予言者さんは・・・・・こんなこと一言も・・・・・
∬;`▽´) <教えてくれていたら・・・・・止めれたのに・・・・・教えてくれていたら・・・・・
( ;・e・) <あるいは歴史が変わってしまったのかも・・・・・私たちが争うようになって・・・・・
r====i
[ ★ ]
从;´ ヮ`) <まあなんだ・・・・・
川;’ー’川 <み、未来予言者さん!!!
∬;`▽´) <お、教えてください!これは、これはどういうことなんですか!
( ;・e・) <あなたは、あなたはこれを知っていたのですか!そうなんですか!
r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <俺が知っているとか知っていないとか、それはさして大きなことじゃない
現実は未来の人間が決めることじゃなく、現在の人間が作りあげるものだから
川;’ー’川 <現在の・・・・・
∬;`▽´) <人間が・・・・・
( ;・e・) <作りあげる・・・・・
- 178 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:10
- r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <だけど、紺野さんは頑張ってたよ
いつか一人前のメンバーになるんだって・・・・・みんなに追いつくんだって・・・・・
だから大玉転がしみたいなゲームにも、手を抜かず、全力でぶつかって・・・・・
そして、それがきっと5期メンバーの友情に繋がるんだって、そう信じて・・・・・
川;’ー’川 <紺野ちゃん・・・・・
∬;`▽´) <悩んでたんだ・・・・・私たちの争い・・・・・
( ;・e・) <私たちのせいだ・・・・・私たちのせいで・・・・・
r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <ほれ、何ぼんやりしてんだ。今紺野さんが何を一番望んでるか。もうわかってるんだろ?
今日はどうせ収録は中止だし。行ってやれよ。そして見せてやれって。お前らの友情を
川*’ー’川 <未来予言者さん・・・・・
∬*`▽´) <お、おう、元からそのつもりよ!
( *・e・) <そうです。言われなくても私たちの友情は永遠です!つまりウイーアーフォーエバーフレンド!
r====i
[ ★ ]
从 ´ ヮ`) <複数形だからフレンズだけど、まあそんなことはいいか
- 179 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/22(月) 20:11
- @ @ @
(//////) (//////) (//////) @
___川o・-・)__ (`▽´∬ 川’ー’川 (/////)
||_|_( )|_|| ( U) ( U) (・e・U)
||, 〜〜'⌒⌒ヽ〜-、 UU UU (__(___)
||\ ' , ` ゙ヽ、
||\.\|| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄||
\|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
川*o・-・) <みんな、来てくれたんですね。ごめんなさい、みんなに心配かけちゃって
川*’ー’川 <紺野ちゃんは馬鹿です!そして私たちはもっと馬鹿です!
∬*`▽´) <お、おう、私たちは馬鹿です!大馬鹿です!
( *・e・) <学力という意味でも馬鹿ですが、ここで言う馬鹿とは人間として馬鹿という意味です!
川*o・-・) <でも、馬鹿でも来てくれて嬉しいです。みんな、元に戻ってくれたんですね
川*’ー’川 <紺野ちゃんが教えてくれたのです。夢や宝塚よりも、友情が一番大切なのだと
∬*`▽´) <情熱もラーメンも捨てがたいけど、やっぱり友情にはかえられません
( *・e・) <友情はお金では買えません。つまりプライスレスです
川*o・-・) <みんな、ありがとう。そして、ごめんなさい
川*’ー’川 <謝ることはないです。紺野ちゃんは全力で頑張って、それで怪我をしたんですから
∬*`▽´) <そうです。謝るとすれば、紺野ちゃんを悩ませた私たちです
( *・e・) <紺野ちゃん、今の私たちを見て、どう思いますか?頼もしい仲間に見えますか?
川*o・-・) <うーんと、新垣ちゃんのAAがニコチャン大王に見えます!
( *・e・) <ズガーーーーンそれは嬉しいような悲しいような、でも今は最高に嬉しい言葉です!!!
川*o・-・) .。oO(みんな ありがとう これからも ずっとずっと 一緒だよ!)
結局、歴史は変わることはない。
でも、運命とは自分たちで切り開くもの、なのだろう。僕はそう思う。
- 180 :名無し娘。:2005/08/22(月) 20:29
- 少しホロッときたよ。でも素直には喜べないかな?
- 181 :名無し娘。:2005/08/22(月) 20:32
- ナケタ
- 182 :名無し娘。:2005/08/22(月) 20:36
- (´Д⊂グスン コンナノ…モノクロームジャナイヨ…ニセモノダヨ…
- 183 :名無し娘。:2005/08/22(月) 21:05
- とてつもない名スレになってきたな
- 184 :名無し娘。:2005/08/24(水) 00:42
- えっと、髪型?やらガキさんの格好やらに
つっこんでもよいのかな
- 185 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/27(土) 19:53
- みなさん、モノクロームの世界にお付き合いいただいて本当にありがとうございました。
- 186 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/27(土) 19:53
- 紺野ちゃんの事故があってから数週間がたち、私たちはまた元の仲良しに戻りました。
事故はアクシデントでしたが、私たちにとっては必要な過程だったのかもしれません。
川’ー’川 <今日は久しぶりにラーメンを食べに行きませんか?
∬ `▽´) <それより宝塚を見て勉強しましょう
( ・e・) <私は自主レッスンがいいと思います
川o・-・) <私は、私はどれでもいいです。みんなと一緒に過ごせるなら
川*’ー’川 <私もそうです。みんなと一緒なら、なんだって楽しいです
私たちは未来を変えたのでしょうか。それとも未来はそのままなのでしょうか。
それはわかりません。だって、未来はいつも遠くにあって、
それは追いつこうとしても決して追いつけない幻のような存在だからです。
川o・-・) <未来予言者さん、いつのまにかいなくなっちゃいましたね
( ・e・) <うん
∬ `▽´) <あの人は何をしたかったんでしょうか。私たちに未来を教えたかったのか、それとも・・・・・
川’ー’川 <それは考えても意味のないことです。だって私たちは、いつでも現実にいるのだから
きっと、あの未来予言者さんは、モノクロームな世界から来た、モノクロームな存在だったのでしょう。
私たちに現実の大切さと、夢の広大さを教えるために来てくれた・・・・・。
- 187 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/27(土) 19:54
- 川o・-・) <私はまだまだ半人前です。でもいつか、本当にセンターで歌える日が来ればいいなと思います
川’ー’川 <その日はきっと来ます。予言だからとかではなく、紺野ちゃんの頑張りがきっと、きっと・・・・・
紺野ちゃんは未来予言者さんの話を本気で信じてるわけではありませんでした。
でも、紺野ちゃんはその夢を持ち続けています。そして、その夢をかなえるために毎日励んでいます。
( ・e・) <私はファンに叩かれてばかりですが、モーニング娘。を大切にしたい気持ちは誰にも負けません
川’ー’川 <いつかその気持ちがファンの人たちにも伝わると思います。私も負けてはいられません
新垣ちゃんはずっとファンからの誹謗中傷に悩んでいました。でも最近、吹っ切れたいみたいで、
コンサートでは先輩の誰よりも客席のファンに笑顔を見せ、手を振り、そしてそれを誰よりも楽しんでいます。
∬ `▽´) <私は将来のモーニング娘。のエースとなるため、日々奮闘努力する所存です
∬ `▽´) <いつか必ず、アイドルではなくアーティストと呼ばれる存在になってみせます
小川ちゃんはあいかわらず情熱で燃えています。そして私たち以上に自信に満ち溢れています。
小川ちゃんからライバル宣言された私も負けられませんが、今はその情熱に圧倒されるばかりです。
川’ー’川 <私はカメラの前だとあがってしまって、どうしても方言が出てしまいます
川’ー’川 <でもそのおかげで福井の子だ、なんて言われるようにもなりました
そして私です。私はなぜか知らない間に5期メンバーの中心にいました。自分でもよくわかりません。
努力では紺野ちゃんが一番です。情熱では小川ちゃんが一番です。
モーニング娘。を愛する気持ちは新垣ちゃんが一番です。
でも、私は自分が一番だと思えるものがありません。私が誰にも負けないと思えること・・・・・。
川’ー’川 <・・・・・
だけど、それはもしかすると、自分自身には見えないものなのかもしれません。
そして、三人は、そんな私の一番を見つけてくれているのかもしれません。
それは仮定の話ですが、でも私は、その一番を自分で見つけるためにも、これからも頑張り続けようと思います。
- 188 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/27(土) 19:54
- そして年月は過ぎます。
私はいつしか、モーニング娘。の次期エースだなんて言われるようになっていました。
そしてまた、私たち四人も今では「先輩」なんて呼ばれる存在です。
川’ー’川 <ちょっと照れます
( ・e・) <高橋ちゃんが照れています!つまり高橋ちゃんは照れ屋さんです!
川o・-・) <ズガーーーーンそのままです!
訛りはあいかわらずで、最初はそれがコンプレックスでしたが、
今ではそれもいい味なんだと自分で思えるようになりました。
川’ー’川 <どうしてカメラの前だとあがってしまって方言が出てしまうのはなぜ?
( ・e・) <それはカメラの前だとあがってしまうから方言が出てしまうからです
川o・-・) <ズガーーーーン二人とも文法が間違っています!
紺野ちゃんは昔とは別人のように明るくなりました。
今では消極的な面はほとんど見えません。最近は口癖もできました。
川’ー’川 <今日の収録はどうでしたか?
川o・-・) <完璧です!
新垣ちゃんは独特の個性を発揮するようになりました。
川’ー’川 <新垣ちゃんの今一番興味のあることはなんですか?
( ・e・) <日経平均株価
そう、私たちは自分たちのできる範囲内で、精一杯頑張って、
そして未来への階段を一歩ずつ、一歩ずつ上っているのです。
もちろん未来には手は届きません。
でも、私たち四人が力を合わせれば、いつかは現実を未来に変えることができると、
私はそう信じています。そして、みんなもきっと、そう信じていることでしょう。
- 189 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/27(土) 19:55
- だけど・・・・・。
現実はそう甘くはないのかもしれません。
未来に続いているといっても、やはり現実は現実なのです。
そしてその現実でつまずくことだってあるのです。
そう、彼女のように・・・・・。
- 190 :愛ちゃんオンリーラブ!モノクローム剣士:2005/08/27(土) 19:55
- 「はい、OKでーす!お疲れ様でしたー!」
スタッフの声が聞こえました。その声で一気に緊張が解けます。
そこはいつも通りの何気ないスタジオ、そして収録が行われていました。
だけど、私の隣にいる小川ちゃんだけは、なんだか暗い顔をしていました。
実はその理由を私は知っています。だって私はさっき聞いてしまったのですから。
本番前のスタッフの会話を……。セットの陰から小川ちゃんと二人で……。
「6期が入って5期もいい刺激になったみたいだな」
「ああ、でもあの小川ってのはさっぱりだな……」
「あの小川ってのはさっぱりだな……」
「小川ってのはさっぱりだな……」
「小川ってのは……」
「小川は……」
「小川……」
「小(ry」
これが、小川ちゃんの長い長い憂鬱の始まりでした。
http://yumeiro23.at.infoseek.co.jp/u2/u2-01.htm へ続く。
―― thx!――
- 191 :名無し娘。:2005/08/27(土) 20:03
- マジすか!
- 192 :名無し娘。:2005/08/27(土) 20:23
- エピソード1か
- 193 :名無し娘。:2005/08/27(土) 20:25
- はわわ!
- 194 :名無し娘。:2005/08/27(土) 22:33
- 結局モノクローム剣士の中の人は >>97 て事でFA?
- 195 :名無し娘。:2005/08/27(土) 23:58
- 次はエピソード7か
- 196 :名無し娘。:2005/08/28(日) 08:54
- ズガーン!! バイオレンスジャックの最終回以来の衝撃だ。
……ゴメン、ちょっと過言だった。でも同じ種類の衝撃が走ったのは事実。
- 197 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:30
- ごめん。再利用するね。
- 198 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:30
-
『ハローゲーム』
- 199 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:31
-
道はぬかるんでいた。小汚いビルの間の狭い路地。
地面はコンクリートであるはずなのに、雨のせいで泥が混じり、
その泥のだらっとした感触が、その焦りをより一層かきたてる。
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
雨が上がって空気が清んでいるせいか、そのファンファンという音がやけに耳に迫る。
心が寒くなり、手足が自然と震える。青ざめた顔で今にも泣き出しそうなのを我慢し、
だけどもう全てを終わりにさせてほしいとも思う。
そんな雨上がり、石川梨華は一人だった――。
- 200 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:31
-
狭い楽屋は好きじゃない。だけどこれはちょっと広すぎるよね、と石川は思った。
三人しかいないのに、ちょっとした集会所として使えそうなほどの十分の広さがある。
真ん中にはコの字型にセッテイングされた机があって、パイプ椅子が十二脚も並ぶ。
十二人いればそこは普通の広さなのかもしれない。でも、今は三人しかいない。
ガランとした空洞となにも書かれていないホワイトボードがやけに目に寂しい。
石川以外の二人は隣同士の椅子に座り、それぞれ器用に携帯をいじくっていた。
二人とも無言だった。石川もさっきまではそこにいたが、今は立ってうろうろしていた。
隅の方に鉄パイプ製のハンガーがあり、かけられている幾つかの衣装をただ眺める。
またこんな格好をするんだ、と思うとそれはそれで楽しいような気もするけど、
もう勘弁してほしいな、という気持ちもどこかにあって、それが肩を重くする。
別に仕事がうまくいってないわけじゃないし、三人の仲が悪いってわけでもないけど、
でもこんな毎日はそろそろ終わりにしたいな、なんて思いが自然と頭に浮かぶ。
そして頭を横に振る。だけどそんな動作は誰も見てくれてはいない。
手に持っていた携帯から交響曲『運命』の冒頭部分が流れ、
石川はビクッとして無意識に二人の方を見た。その音に二人も同時に石川の方を見る。
だけどすぐに自分の手元に視線を戻し、それが石川に言い様のない疎外感を与える。
メールが届いていた。差出人は石川の最も敬愛する保田圭だった。
だが、それが奇しくも石川の『運命』を左右することになるとは、石川はまだ知らない――。
- 201 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:31
-
最初の計画が実行されたのは、それから一ヶ月あまり後のことだった。
そのことを石川は今でもはっきりと覚えている。それはゲーム感覚だった。
それが犯罪であるとか、悪いことであるというような意識はほとんどなかった。
いや、実行に移す前は、それは石川に対してかなりの罪悪感と動揺と困惑とを与えていた。
失敗したときのことを考えて夜も眠れないというようなこともあった。
だが、いざ始まってしまうと、そんな気持ちはすっかりなくなってしまっていた。
石川の心をポジティブにしてくれたのは、いつもながら保田圭だった。
石川は保田と二人で並んで歩いていた。
保田は紺の地味なジャンパーを着て、サングラスにマスクをしていた。
一方の石川は黒の男物のジャンパーで、つばのある帽子を深くかぶり、
少し厚めのメガネをかけている。
こんな変装じゃすぐにばれるんじゃないかと最初は石川も不安だったが、
保田からその写真を見せられてからは、確かにそれもそうだと思い始めてもいた――。
- 202 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:31
-
「ほら、これを見てみなさいって」
「これ、圭ちゃんの写真じゃん。ハローで売ってるやつだよね?」
「それ見て、今のあたしの顔見てごらんなさい」
別人、というほどではないけど、それは別人と思えるくらいに違っていた。
顔の輪郭やパーツの位置は変えられないけど、印象は全然違う。
「それから、これがあんたの写真」
美勇伝の衣装を着た自分の写真を保田から見せられるというのも変な気分だったが、
そこに写っていたのはアイドルとしてのいつもの石川梨華だった。
「で、これこの前あんたがうちに来たときに撮った写真」
照明のせいか、それは全体的に薄暗い写真だった。そして、なんだかぼんやりとしていた。
「これ私だよ?」
「それはあんたがいつも見てる自分だからでしょ」
そう言われても石川にはなんのことだかまだわからない。そして同じ言葉を繰り返す。
「でもこれ私だよ?」
「あんたのファンがこれ見たら?」
「それは……どうだろ」
なんとなくわかってきたような気がして、でもやはり納得はいかない。
「こんな分厚いメガネしてるあんたの顔は誰も見たことないのよ」
「そうだけど、でも私だよ?」
「顔はどう?これは確かにあたしの知ってるあんただけど、でも今のあんたじゃないわ」
「でも、でも……」
言い返したかった。でも、言い返す必要はなかったのかもしれない。
化粧をせず、いつものメガネをかけている石川は、それだけでぼんやりとしていた。
元々肌が黒いということもあるが、それは外部向けの化粧のせいでもあって、
本来は黒いというより地味というのが正解だった。印象がとにかく地味なのだ。
「そういうこと。化粧は女の武器なの。そして、その武器で勝つのよ」
「でも、でもすっぴんだって……」
「だから他に変装するんでしょ。相手はあたしたちに関しては一応プロなんだから」
「プロかあ……」
そのプロという言葉が、石川からちょっとしたやる気を引き出していた。
プロの目を欺く、それほど楽しいことはないだろうな、と石川に思わせたのだ――。
- 203 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:31
-
最初の段階はうまくいった。それだけでも石川にとっては人生最大の冒険だったが、
そこで立ち止まるわけにはいかない。次のステージにはタイムリミットがあるのだから。
足がガクガクとはっきり震えるほどの不安と恐怖。だけどそこにはスリルがある。
そした新たな自分が誕生しちゃいそうで、それがどことなく嬉しくもあった。
そんな複雑な心境を落ち着ける暇もなく、石川はそこへと向かった。
帽子を深くかぶりなおして顔をなるべく露出しないようにし、
着ている男物の服装を下から上まで念入りにチェックする。
さっきの冒険とは違い、今度はビデオカメラという難敵がいる。
それは録画され解析されることになるかもしれないと、そこまでは保田から教えられていた。
以前の石川であれば、それだけですっかり及び腰になっていたことだろう。
だが、今の石川は違う。むしろ自分だからこそそれに勝つことができるのだと、
そう考えるようになっていた。カメラには元々慣れているのだから。
そして、カメラの前では誰にも負けないというプロ意識が潜在的に石川にはあった。
自動ドアだと思っていたのが手動だとわかって少し焦ったものの、
石川はそのガラスで仕切られたATMの中へと恐る恐る入った。
保田から言われていた通り、赤いランプが自分を狙っているのだと言い聞かせる。
顔のアップを撮られているわけではないが、ワイプとして画面の隅に映るくらいの、
そんなイメージで気を引き締め、そしてその機械の前へと進む。いよいよだ。
保田の考えが正しいのか間違っているのか、そしてその計画が成功するか失敗するか、
それは全て、その石川の指先が向かう先にあった――。
- 204 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:32
-
「あれにするわ」
と保田が言い、石川はその保田の視線の先を目で追った。
梨華LOVEと書かれたうちわが目に止まる。真面目に見るとかなり恥ずかしいが、
そのうちわを持っている男性が最初のターゲットに決まったわけだ。
「大丈夫?」
石川はぼそっとした口調で尋ね、そしてやっぱりやめようよ、という思いを表情で伝える。
「大丈夫よ。心配しないで。あれなら間違いなく、例の数字でうまくいくはずよ」
例の数字、というのがこの保田の計画の最もな骨子であり、
そして石川が乗り気ではないもののこの計画に楽しさを感じた部分でもあった。
だが、石川がここで伝えたかったことはそれではない。
「そうじゃなくて。本当にやるの?だって……これって……犯罪、だよね?」
石川の足が鈍くなり、保田が立ち止まって後ろを振り向く。
「今頃そんなこと言ってどうすんのよ。それはあんただって承知してたじゃない」
「でも……」
「あんた、このままつまらない人生送りたいわけ?そうなら帰ってもいいわよ」
「そ、そうじゃないけど……」
「退屈に負けるくらいならスリルとショックとサスペンスを求めるべきなのよ」
「……」
同じ議論を何度したことだろう、と石川は思った。
最初に計画の話を聞いたときから、保田は色んな形で石川を説得してきた。
最終的な目標は日本銀行の地下倉庫であり、それに立ち向かうために、
まず今回の計画で度胸をつけるのだと、そんな冗談めいた話をされたこともあった。
そして確かに例の数字にも興味を持った。それを確かめてみたいのだと。
だけど、やっぱり一番効いたのはそれだった。石川は毎日が退屈だったのだ――。
- 205 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:32
-
不思議なことに指先が震えるようなことはなかった。
道路の向かい側からこのATMを確認したときはあんなにも足が震えたのに、
いざ中に入り、そこにカメラがあるんだと意識しただけで、石川はプロの顔になった。
ただし、その顔はアイドル石川梨華ではありえない。
ポケットから用意していたキャッシュカードを取り出し、それを機械に挿入する。
案内音声が流れ、石川はタッチパネルの目的の場所を慎重に押した。
普通の犯罪であれば、それは現金の引き落としこそが目的ということになる。
だが、この場合はそうではない。
そして、そうではないからこそ、石川の罪悪感はやや和らいでいたのだ。
石川が押した場所は残高確認だった。だが、それも本当の目的ではない。
次にその機械の女性の声が告げたことこそが、計画の真の目的だったのだから。
場違いなドラマに出演したときのような緊張感と、そして喜びを感じる。
石川は意を決してそのタッチパネルの数字の部分を押した。
最初が4。次が7。そして1。最後に4。
画面に並んだ四つの米印。その後ろには“4714”という謎の数字が隠されていた――。
- 206 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:32
-
「つまり、そういうことよ」
保田がそう言って、でも石川にはすぐに話が呑み込めなかった。
「どういうこと?」
「だからー、あんたのファンは絶対に“4714”にしてるんだって」
「なんで?」
「あんたがうんこしないからに決まってるじゃない。さっき言ったでしょ?」
「うんこするよ?」
「するかもしれないけど、ファンはしないって信じてるのよ」
「どうして?」
「だーかーらー、あんたがブリブリのアイドルだからじゃない!」
「ブリブリするんだけどなあ」
「そういうブリブリじゃないの。いい?あんたはうんこしないの。絶対にしないの!」
「でもするもん。今日だって二回もしたもん」
「実際はどうでもいいんだってば。例えあんたが便秘でも下痢でも関係ないの」
「下痢はしないよ。便秘にはなるけど」
「いや、だからそれはどうでもいいの。問題はファンがどう思ってるかなの!」
「しないって思ってるんだ」
「そうよ。それでファンはインターネットで“4714”という数字を崇めてるのよ」
「しないよ、かあ。なんか変なのー」
「だからね、あんたのファンは絶対にそれを暗証番号にしてるはずなの」
インターネットでそんな話題があることはなんとなく聞いてはいた。
でも、それがまるで宗教のような信仰を持ってるだなんて、石川には信じられなかった。
そして、それを銀行の暗証番号にしているような熱烈な信者がいる、なんてことも。
だけど、それがもし本当なら、その信仰を確かめてみたいとも思った。
そして、自分にはそれを確かめる権利があるのだとも――。
- 207 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:32
-
ATMを小走りで後にしながら、石川はそのドキドキ感を止められずにいた。
スリルとショックとサスペンス、そんなものは日常では感じることはできない。
でも、そこには確かにそれがあった。そして、それは石川にとって快感に変わっていた。
信号を渡り、幾つかのビルを通り過ぎて路地へ入ると、そこに保田が待っていた。
「どうだった?」
「うん。予想通り」
「うまくいったのね」
「うん。それで残高だけど……」
「それは別にいいわ。今は早くここから立ち去らなきゃ」
「う、うん」
誰にも見られることのない路地の奥へと進み、そこで簡単に着替えを済ませる。
男物のジャンパーを脱ぎ、バッグの中から取り出した自分の私服を羽織る。
「これでいい?」
「いいわ。それじゃタクシー拾うけど、その前に最後の仕上げをしないとね」
そう言って保田は石川から受け取ったカードをハンカチで念入りに拭き、
そして財布に戻し、さらにその財布を同じようにハンカチで拭いた。
「これで指紋は消したわ。後は……ポストね」
二人は大通りから一本内側を走っているその道を進んだ。
だがそこには目的のものはなく、ATMからかなり離れた場所まで進んでから、
二人は大通りへと戻った。そこにはちょうど目の前に赤い郵便ポストがあった。
「これで財布は持ち主に戻るはずよ。中身も減ってないし、問題はないわ」
そう言って保田はハンカチ越しにその財布を定形外という受口に突っ込んだ。
「これで、いいんだよね?」
「そうよ。現金が盗られてるわけじゃないし、カードで引き落とされたわけでもない」
保田が淡々と口にする。確かにそう言われれば悪いことはしていないように思えてくる。
「一応銀行に連絡したりはするはずよ。でも、残高は全く減ってないわ」
やっぱり銀行に連絡がいくんだと思うと、それはそれでやはり不安だったが、
でもそれなら安心かもしれないと、石川はそうも思った。
だが、そう思った瞬間、石川はなんだか物足りないような、そんな気にもなって、
そのスリルとショックとサスペンスをもっと味わいたいなと思うようにすらなっていた――。
- 208 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:32
-
コンサートが終わり、派手な衣装を脱いだメンバーたちが一同に会する。
だが、そこに保田圭と石川梨華の二人の姿はなかった。
保田は体調不良とかでそそくさと楽屋を後にしていたが、誰も気に止めることなく、
またそこには関係者が送迎するというような普通の配慮すらなかった。
「あ、いえ、ちょっと調子悪いんで、知り合いが迎えに来てくれるらしくて……」
一応そんな言い訳はしたが、スタッフの誰一人としてそんな話は聞いてはいなかった。
事務所にとって、保田はそんなどうでもいい存在だった。
隔週で大阪の仕事が決まるまでは、マネージャーすらいなかったほどだ。
専属というわけではなく複数人を兼任しているマネージャーではあったが、
それがなければ保田は一人で新幹線の切符を買い、一人でグリーン車に乗り、
そして一人で新大阪駅でタクシーに乗り込んで「MBS」と告げていたことだろう。
「ご苦労様でーす」
裏口の通用門の守衛さんにそう挨拶し、保田は駐車スペースへと向かった。
そして車の陰で立ち止まって、携帯を取り出す。
「梨華、早くしなさい。お客さんみんな帰ってるわよ」
そこからコンサートの客が帰る風景は見えないが、終演からは確実に時間が過ぎていく。
保田の場合はそそくさと着替えて出てきたので、まだ時間的に余裕はあったが、
石川の場合、一人で抜け出すことが最大の難関なのかもしれない。
「あんた、前もって言ってあるでしょうね?」
時計を見つつ、自然と口調が厳しくなる。
だが、石川には逆効果かもしれないと思いなおし、保田は優しく言葉を続けた――。
- 209 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:32
-
「いい?決行は次のハロコンよ。夜の部が終わった後にするわ」
「本当にやるの?」
「やるわよ。あたりまえじゃない」
「でも……」
石川は相変わらずためらっていたが、保田にとってそれは想定の範囲内だった。
一度決めたことでも、時間が経てばまた決意が揺らいでいく。それが石川だ。
そしてそんな石川を知っているからこそ、保田は再び石川を説得したりはしなかった。
「あたしは終わったらすぐに会場を出るから。それは絶対に大丈夫よ」
大丈夫じゃないのに、と言いたげに石川が保田を見る。
「それであんただけど、あんたは家庭の事情とかで事前にマネージャーに伝えとくわけ」
「事情って?」
「それはあんたに任せるわ。だけど法事なんかじゃだめよ」
「ほーじって?」
その問いかけは保田にとって想定の範囲外だったらしく、
保田はマンガのようにズッコケかけたが、なんとか踏ん張り留まる。
「とにかく、親戚のおじさんがやばいとか、ペットが死にそうだとか、そういうのよ」
「おじさんやばくないよ?いい人だよ?」
「だーかーらー、嘘よ。あんたは嘘をつくの。そして演技するのよ」
「嘘?演技?」
「両親が離婚しそうで家族会議があるとか、そういうのでもいいわ」
「離婚なんてしないよ?仲いいよ?」
さすがの保田もそれには疲れを隠せない。だが、それならそうで方法は幾つもある。
- 210 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:33
-
「全部台本だと思って。それであんたは演技すればいいのよ」
「ドラマみたいなもん?それともハロモニ。のコントみたいな?」
「かなーり真剣なドラマよ。NHKの『ラストプレゼント』のとき以上の演技しないとだめよ」
「もしかしてチョー難しい?」
「じゃあこう考えて。あんた、本当はヲタクが嫌いなのに営業スマイルしてるでしょ?」
「嫌いってわけじゃないよ。ただ気持ち悪い人が多いなって」
「それはどうでもいいの。あのスマイルはあんたの本心じゃなくて、演技でしょ?でしょ?」
「そっか。そういうのも演技になるんだ」
「そうよ。あんたはそういう演技をすでに身につけてるの。それもかなりのスキルよ」
そう言われて石川はかなり嬉しくなった。ドラマの演技を貶されたことは何度もあったが、
誉められたことは一度もなかったのだ。そしてまた、それはコロンブスの卵のように、
演技というものに対する捉え方を全く変えてしまうような話でもあった。
「いい?あんたは両親が離婚の危機だって話をマネージャーにボソッとこぼしとくの」
「うん。演技ね?」
「そう。それでその日もコンサの前にマネージャーにその話をしとくの」
「うん」
「両親が離婚しそうで家族会議があるって。だから終わったらすぐに帰らないといけないって」
「うん」
「でも、あんたは事務所にとって大切な財布だから、一人で帰らせたりはしないわ」
「あたしの財布?」
「あんたが売れっ子だって意味よ。実際は小銭入れ程度だけど」
「小銭入れ?」
「今のは無視して。とにかく、そういう話をしておくわけね。家族会議があるって」
「うん」
「それで、そうね、タクシーで帰るから大丈夫ですって言って送迎を断るの」
「タクシーで帰るの?」
「帰らないわよ。だけど帰るって演技するの。保田さんに送ってもらう、でもいいけど」
「じゃあそっちがいい。圭ちゃんに送ってもらう」
「まあそれでいいわ。とにかく、あんたはそうやってあらかじめ抜け道を作っておくのね」
そう長々と説明して、保田は肩に鉛の骨が入っているかのような疲労を感じた。
だが、その計画がもう始まっているんだということを石川に思い知らせるという点で、
その疲労は必須の道であり、また最善の道でもあった――。
- 211 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:33
-
コンサートが終わり、ステージ裏はハローのメンバーたちでごった返していた。
保田の姿を見つけようともしたが、すでにそこに保田の姿はなく、
石川は私も早く逃げ出さなきゃ、という思いでいっぱいだった。
ただ、そんなときに限って、新垣里沙がカメラを手に近寄ってきたりする。
「石川先輩!一緒に写真撮りましょう!ほら、あさ美ちゃんも一緒に!」
「あ、あ、ごめん。あたし今日は急いで帰らないといけないから」
「なにか用事ですか?」
そう言ったのは紺野あさ美。何気ない言葉だが、そんなことが石川を不安にさせる。
もしかしたら計画に気づいてるんじゃないかと、ついつい余計なことを考えてしまうのだ。
「う、うん、ちょっとね。圭ちゃんと……」
「へえ、なんか羨ましいなあ」
そう紺野が言って、ようやく石川はいつもの紺野を思い出して疑念を払拭した。
紺野はいつもなぜか、保田と石川の関係を羨ましがっていたのだ。
そのくせ保田が誘っても全然乗ってこないのだが、
とにかく、紺野にとってそれはいつも通りの言葉であり態度だった。
一枚だけ写真を撮り、石川はそそくさと廊下を進んで楽屋へと戻る。
美勇伝の楽屋はカントリー娘。やメロン記念日と同じだったが、
そこにはまだメンバーの姿はなく、女性のスタッフが数人いるくらいだった。
「お疲れさまでーす」
「あ、お疲れさまです。あの、私、今日は早く帰らないといけなくて……」
訊かれてもいないのになぜかそんな言い訳をして、そして失敗したかな、と思う。
それは保田と全く同じだったが、二人に違うところがあるとすれば、その先だった。
誰も気にしていないのに石川はそれを失敗したと考え、そして失敗が頭から離れない。
- 212 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:33
-
石川は急いで着替え、そしていつもはしないものの、化粧を全てすっかりこそぎ落とした。
が、そんなときに限ってメロン記念日の柴田あゆみが楽屋に入ってきた。
「あれ、梨華ちゃんどうした?」
「あ、柴ちゃん」
「早いね。なんかあんの?」
「あ、うん。ちょっと用事があって」
「デート?」
と、柴田が女性スタッフに聞かれないようにと、そばへ近寄って耳元で囁いた。
「そういうんじゃなくて。ちょっと家庭の事情みたいな?」
「あ、そうなんだ。なんか大変だね」
「うん」
「化粧落としちゃったんだ」
「あ、うん。ちょっと家庭の事情で」
「あははは。それおもしろいかも」
柴田がそう言って笑う。だが急いでいる石川にはその笑いの理由がわからない。
「ねえ、来週の日曜日だけどさ、梨華ちゃん暇?」
「うーんどうだろ。なんかずっと仕事入ってたと思う。レコはまだ先みたいだけど」
「あ、そうなんだ。たまには遊ぼうかなって思ったんだけど」
「ごめんね。今日は家庭の事情があるから、また今度連絡するね」
そう言って石川は話半分で席を立ち上がると、バッグを持ってその場を立ち去った。
そしていつもの優柔不断な自分とは違う自分を、なんとなく誇らしく思う。
- 213 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:33
-
廊下に出る。ステージ裏から楽屋への通路は今もごちゃごちゃしていて、
机の上に並べられたお菓子やから揚げなんかをつまむ小川麻琴の姿が見えたりする。
「あれ?石川さーん、どうしたんですかー?」
「あ、麻琴。あんた、あんまり食べ過ぎると取り返しがつかないわよ」
「いや、もう取り返しつかないんで、別にいいんすよ」
「そう。あ、あたし今日用事があって、家庭の事情で、だからもう帰らないといけなくて」
またしても言い訳だったが、すでに小川はサンドイッチの方へと向かっており、
そんな話は小川の耳には届いていなかった。
「あんた、ほんとやばいよ……」
通路の逆側には派手な衣装を着たメンバーたちの姿は見えなかった。
ただ、スーツを着た男の人たちなんかがいて、そこは挨拶通りとも呼ばれていた。
「おつかれさまです」
「おつかれさまでーす」
「石川さん、おつかれさまでした」
「おつかれさまでーす」
なんでこんなにも人がいるんだろうと、いつになっても思う。
そんな余分なことを考えながら通路を進み、エレベーターの前で石川は腕を掴まれていた。
心臓がドキッとする。全てうまくいっていたのにまた失敗したのだろうかと思う。
「ご、ごめんなさい」
なぜか石川はそう謝っていた。謝ることをしたわけではないのに、そう謝っていた。
それはきっと、それから謝らなきゃいけないことをやろうとしていたからなのだろう――。
- 214 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:33
-
ターゲットはコンサートでよく見かける人種だった。
体型はかなり太っていて、これなら追いかけられても十分に逃げられる感じだ。
石川のよりさらに分厚いメガネをしていて、これなら顔を見られても大丈夫かもしれない。
服装はおしゃれの“お”の字もなく、しかも定番のリュック姿。
そして手に持った梨華LOVEと書かれたうちわ。裏側は石川の顔写真が印刷されている。
さらに会場で買ったグッズが詰め込まれていると思しき手提げの紙袋を持っている。
会場の周辺ではまだ何人ものファンがコンサートの余韻に浸っていた。
数人で談笑しているグループもあり、中にはなぜか名刺交換している人間さえいる。
だが、時間がかなり経ったせいか、それはもうかなりの少数派になっていた。
駅へ向かう道も人の姿はまばらで、一歩路地に入ればそこはほとんど無人だった。
そんな中、保田と石川はそのターゲットの後ろをゆっくりと尾けていた。
ぼやけたズボンからは長い財布が半分以上顔を出していて、
なんだかそのまま盗ってもうまくいくようにさえ思うほどの無防備さだ。
何度も計画を練って色んなシチュエーションやQ&Aを想定していたのに、
これではむしろ財布を盗ってくださいと懇願されているようだとすら石川には思えた。
保田が後ろを振り向き、そして周りを見渡してから口を開いた。
「いい?あの角を過ぎたらそのまま盗るわよ。そして左の路地に逃げるの。いい?」
「う、うん」
決行が迫り、石川にはもう戻ることはできなかった。
無事に家に帰り着く唯一の方法は、この計画を成功させること、ただそれだけだった――。
- 215 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:34
-
「おーここにいたか、探したんだよなあ」
その声に、石川はそれがマネージャーだったことにようやく気づいた。
そして謝ってしまったことをまた失敗だと思った。
「あ、あの、私……」
「えーと、なんか用事があるって言ってたっけ?」
「あ、あの、はい。家庭の事情で、両親が家族会議で、だから私、小銭入れで……」
「うーん、まあいいんだけど、えっと、車が一台空いてるらしくて」
「あ、でもあの、私、あの、タクシーで……」
「ああ、それならこっちで手配するし、それにできれば車使ってくれた方が……」
事務所としてはいくらコンサートが終わったとはいえ、仕事が終わったわけではなかった。
これからミーティングなどもあり、そしてメンバーの送迎というのも大きな仕事だった。
特にコンサート後はファンによる出待ち、なんてものもあって、
事務所の車が尾行される、なんてこともよくある光景だった。
「あ、あの、私、あの……」
と、動転していた石川の耳に、聴き慣れた交響曲が飛び込んできた。
バッグの中から携帯を取り出し、マネージャーに少し頭を下げてから場を離れる。
「圭ちゃん?」
それは保田からの電話だった。どうやらすでに裏口を出て待っているらしい。
「あ、うん。前もって言ってたんだけど、なんか捕まっちゃって」
石川は怒られるのだと思った。それくらい保田の口調は厳しかった。
だが、保田は怒ったりはしなかった。そして、話すうちに逆に口調が優しくなった。
「あ、うん。マネージャーさんに。そこにいるんだけど、なんか車で送るとかなんとか」
石川がそう説明し、保田は瞬時に的確なアドバイスを送る。それは想定の範囲内だった。
「あ、うん。わかった。そう言ってみる。うん」
- 216 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:34
-
電話を切り、石川はマネージャーのそばへと戻った。そして教えられた通りのことを告げる。
「あの、保田さんが外で待っててくれて。心配して送ってくれるらしくて」
「ああ、保田さん。そっか。ああそれじゃ心配しなくてもいいか」
「はい。あの、今日はお疲れ様でした。すいません。お先に失礼します」
「ああ、気をつけてね。それから、なにか困ったことあったらいつでも……」
その先を聞くことなく、石川は駆け足でその場を後にした。
そして裏口の通用門を通って、待っていた保田と落ち合った。
「よく出てきたわね。よくやったわ」
保田は時間のことを言ったりはしなかった。石川はほっと息を吐いた。
「化粧も落としたのね。それじゃ、後は変装するわよ」
それから二人はその狭く陰になった部分で簡単に着替えをした。
石川はコンタクトを外し、用意していたメガネをかける。そして男物のジャンパー。
一方の保田は全て終わっていて、サングラスとマスクを装着して完成だった。
「さーて、じゃあターゲットを探すわよ」
「う、うん」
悪いことをするんだ、と思うとそれだけで胸が苦しくなる。
だけど、その苦しさの奥にあるウキウキするような感覚を石川は否定できなかった――。
- 217 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:34
-
ファーストステージの敵は拍子抜けするほどに弱かった。
男の二メートルほど後ろを歩きながら、まず保田が十円玉を前へと転がし投げた。
男はちらっと後ろを向く。その瞬間が石川にとっては最初の冒険だったが、
予想通りというかその場所が暗かったこともあり、男は二人の顔に気づかなかった。
そして十円玉を拾おうと前かがみになる。その瞬間、保田が男を後ろから両手で突き飛ばす。
男はそのまま前に突っ伏し、いてっという声が漏れたが、
そのときにはすでに保田は男のズボンから財布を抜き取っていた。
男はなにが起きたのかわからないというような感じで、
その場で立ち上がると、とりあえずパンパンとズボンについた砂を払う。
そして後ろを見るも、そこには誰の姿もなかった。
石川と保田は全速で路地を走っていた。そのスリルに石川の顔になぜか笑顔が浮かぶ。
そしてすごいことをしたと思う。これまでの人生で一度もなかったようなことをしたのだ。
ただ、それとともに、実際は自分がなにもしていないということにも気づいていた。
やったのは全て保田だった。石川はただそれを見て、そして走っただけだった――。
- 218 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:34
-
鍵を開けて中に入り、明かりをつける。その明るさが石川には安心の光に思えた。
保田がドアを閉めて鍵をかけ、さらに念を入れて内側のストッパーをはめる。
「これで、まずは終わりね」
「うん」
「疲れたわね。梨華はソファで休んでて。コーヒーでも入れるから」
「あ、うん」
保田の部屋はかなり広かった。一人暮らしなのに部屋がリビングの他に三つもある。
本棚にはマンガ本が雑に並び、床や机の上にもそれが散らばっている。
テレビの横にはコルクボードがあって、そこにたくさんの写真が飾られていたりする。
中には石川の写真もあったが、保田が親友のビビアンとキスしてる写真なんかもあり、
それがちょっと恥ずかしかったりもする。冴えない男とのツーショットの写真もあった。
「テレビ見てていいわよ」
キッチンから保田がそう言ったが、石川はそれだけはやめておきたかった。
ニュースでこのことが流れていたらどうしようと、自分が映っていたらどうしようと、
もしかすると今まさに警察がここへ来るんじゃないかと、そんな不安があったのだ。
「う、うん。でもいい」
石川はそう言って、再びコルクボードの写真へと目をやる。
この部屋には何度も来ている。週に三回来たことだってある。
だけど、そのたびにその写真は変わっていた。そして、そこには色んな有名人がいた。
「圭ちゃんってさ、友達多いよね」
なんとなくそう言って、でも石川はそう口にした理由には気づいていなかった。
と言っても、それは石川が友達が少ない、というような類の話ではない。
石川は無意識のうちに早く日常の生活に戻りたいと思っていたのだ――。
- 219 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:34
-
その計画はそれから四度実行に移された。
二度目は予想に反して例の数字が通用しなかった。
三度目は未遂に終わり、無事に逃げ失せはしたが、保田が追いかけられたりもした。
四度目は成功し、そしてやはり例の数字のおかげで残高を確認することができた。
そしてその四度とも、犯行で相手に危害を加えるようなことはなかった。
どこからか入手していたクロロホルムもスタンガンも、どれも使わずに済んでいた。
「ふーん、ということは二分の一っちゅうか、三分の二っちゅうことやな?」
中澤がそう言って、でも石川にはなぜ中澤がそこにいるのかがわからなかった。
そして、なぜ中澤がその計画の話を知っているのかも。
「それにしてもあれやなあ。石川がよう参加したもんやで」
「あたしが無理やり巻き込んだのよ。ちょっと悪いことしちゃったわね」
「ううん、それは別にいいけど、ねえ、なんで裕ちゃんが知ってるの?」
それは石川にとっては当然の言葉だった。呼ばれて保田の部屋に来てみれば、
そこには中澤裕子がいて、そしてなぜか計画の話を知っていたのだから。
だが、中澤がそこにいるというのも、中澤と保田にとってみれば当然の話だった。
「この計画ね、実は裕ちゃんが考えたのよ」
「うそっ?」
「まあうちは冗談半分で言うただけやで?実際にやってもたんはそっちやろ」
「郵便ポストに入れるなんてのも裕ちゃんのアイデアだったりするし」
「捨てたりしたらあかんやろ。拾う人おっても中身盗られたらこっちが疑われるんやし」
財布を盗った時点で同じなのだが、罪の意識は今の三人にはほとんどなかった。
「それならすぐ本人に届けるべきやけど、交番に届けるわけにもいかへんさかいな」
「それで郵便ポストだったんだ」
「それなら無傷のまま財布は本人に届くやろ。免許証とか入ってるやろうし」
「今のところニュースにもなってないし、被害届も出てないんじゃないかな」
「じゃあもう捕まったりしない?」
「まあ完全犯罪いうわけやないけど、今さらばれる可能性は少ないやろな」
- 220 :名無し娘。:2005/11/14(月) 19:34
-
その言葉は石川にとっての長かった逃亡生活の終わりを表してた。
それに安堵するとともに、やはりどこか退屈な気持ちが浮かんだりもする。
が、それはまだほんの序の口、全ての序章に過ぎなかった。
「さてと、ほなそろそろ本番やな」
ソファに座りなおして中澤がそう口を開いた。
「とうとうやるのね」
保田も同じように座りなおし、不気味な笑みを浮かべる。
「本番って?」
石川がそう尋ねて、でも、そう尋ねたことを石川は後悔せざるをえなかった。
例えそこに再びスリルとショックとサスペンスが待っていたとしても。
「銀行強盗よ!」
二人がそう言って笑い、石川は横隔膜が痙攣するのをただただ感じていた――。
┌――┐
││2 │
│└→│
└――┘
- 221 :名無し娘。:2005/11/15(火) 21:32
- イイヨー超期待。
- 222 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:26
-
「人質となったのは、そのとき自動車の教習を受けていた、歌手の、飯田圭織さんでした」
アナウンサーが口にしたその言葉は、世間に多大な衝撃と関心を与えていた。
計画が実行された日の、そんな夜のニュース――。
- 223 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:26
-
「ぎ、銀行強盗???」
石川はその言葉に目をお月様のように丸くし、薄れそうな声でそう訊き返した。
全身の血がジェット気流に巻き込まれたかのような、そんな倒れそうなほどの興奮と、
全身の神経が一瞬で凍りついてしまったかのような、そんな緊張とを覚える。
それは石川が求めるスリルとショックとサスペンスの域を遥かに超えていた。
が、その答えを石川が教えられる前に、部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
「来たみたいね」
そう言って保田はソファから立ち上がると、壁際の受像器へと向かう。
警察ではないだろうが、石川にはなんだか悪い予感がしていた。
中澤と保田と、たった二人で銀行強盗なんて大それたことを考えつくわけがないのだから。
そこにはきっと、それ以外に悪(あく)の首領がいる。それもかなりの悪(わる)が。
いや、そうであってくれなければ、石川にはその二人を擁護することはできない。
保田がなにやら言葉を発し、そして再びソファへと戻ってきた。
その間、中澤は左肩に右手を置き、首を左や右に丹念に回していた。
「ちぃと遅かったんちゃうか?時間はきっちり守る癖つけへんとな」
そう言って今度は左肩をぐるりと回す。年のせいなのか、それともなにかの準備なのか。
中澤の発した“時間”という言葉がすでに計画の準備の一環である、ということには、
石川はまだ気づいていなかったが、なにかが始まろうとしているのだけははっきりと感じていた。
そして、やはり二人の裏には悪の首領がいるらしいということも。
それも時間を守らないくらいだからかなりの悪かもしれない、と。
- 224 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:26
-
石川はそんなことを考え、今すぐにでもその部屋から逃げ出したい気分になった。
今ならまだその計画の内容を聞いてはいない。だから抜けるとしたら今しかないのだと。
「あ、ねえ、あの、私……」
思い切って口を開いた割りに、その次の言葉が出てこない。
(銀行強盗はちょっと、私には、無理、かな?かな?かな?)
そう言いたいのにそれが出てこず、ただ最後の「かな」の部分だけが頭に何度も響き渡る。
そしてさらに、今まさにこちらへ近づいて来ている悪の首領の姿。
頭からすっぽりと黒い三角形のマントを羽織っていて、目の部分に二つの穴が開いている。
そしてキョキョキョキョキョキョと奇妙な笑い声。
仮にそれがパペットマペットでなければ、きっと蛇のように舌が割れている。
石川はその自分で勝手に想像した姿に思わずゾッとし、無重力なめまいを感じた。
が、次に目の前に現れた人物を見て、さらなるめまいを感じずにはいられなかった。
その悪の首領が全く意外な人物であったというのが理由の一つ。
そしてもう一つは、そんな悪の首領で大丈夫なのだろうかという前向きな不安だった。
恐怖の大王は飯田圭織だった。悪の首領のくせに、すっきりとした大人のオーラが漂う。
「ごめんねえ。なんかわざと渋滞のとこばっか通るんだよね。ほんっとむかついた」
飯田はそう言いながら三人を見て、そしてすぐ石川に気づいて声をかけた。
「へえ。石川もかあ。ふーん、なるほどねえ」
なにがなるほどなのかは石川にはわからない。
だが、飯田の考えることがわからないというのは、石川にとってよくある光景に過ぎない。
「とりあえず、今日はこの四人ってことになるわね」
保田のその言葉に、石川はさらに頭が破裂しそうになる。
これ以上さらにメンバーが増えるなんて、それは石川にとって悪夢でしかなかった。
そしてまた、そんな陳腐(ちんぷ)なメンバーで大丈夫なのかという、これまた前向きな不安。
せめてルパンのようなプロの泥棒でもいてくれたら、と石川は本気で思うしかなかった――。
- 225 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:26
-
二車線の小さな道路を自動車学校の教習車が走っていた。車の行き来はそんなに多くない。
地形的な条件もあって、都内としてはそこそこのどかな地域だ。
道路の両側には結構な幅の歩道があり、植え込みとともに等間隔で立ち木が並ぶ。
そんな道路を、その16号車と書かれた車がゆっくりと安全運転で進んでいく。
それは誰が見ても日常の光景であり、そこにはなんの異常もないように見えた。
だが、それはすでに始まっていた。
左のウインカーがカチカチと点滅し、植え込みの切れ目の奥で教習車が止まった。
歩道を挟んで暗く小さな雑居ビルがあり、その手前には同じく武州信用金庫の建物。
人通りは多くない。自転車が二台、その教習車の横を別々に通り過ぎたものの、
あとは止まった教習車を三台の車が追い抜いていったくらいだった。
そんな中、右側の運転席のドアが開き、一人の女性が道路へと下りた。
すらっとした美人だったが、とげとげしくはなく、ちょっとした可愛らしさがないこともない。
だが、その顔に笑顔はなかった。表情は固まり、まるで死ぬ直前のようにも見える。
そしてそんな表情のまま、彼女は武州信用金庫の建物の中へと入っていった――。
- 226 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:26
-
入ってすぐ、飯田はドキッとした。わかっていたこととはいえ、そこには警備員がいた。
だが事前の調査通り、その警備員はいかにも定年後の再就職といった感じで、
一応置いているというだけで全く頼りになりそうにはなかった。
飯田はそんな警備員に対し、いかにも困ったような素振りを見せた。
私、困ってるんです。私、助けてほしいんです。私、まだ死にたくないんです。
だが、警備員は首をかしげるだけで、その飯田のSOSに気づくことはなかった。
震えそうな足でゆっくりと窓口へ向かう間、飯田は店内を小さく見回した。
小さな信用金庫であり、平日の午前十時半であるから、客は多くはない。
三つの窓口のうち埋まっているのは一つだけで、
三十過ぎのお局様的な女性店員が、作業服っぽい男性に対応しているくらいだった。
それ以外には順番待ちの椅子に二人の客が焦る様子もなく座っていたが、
それは二人とも高齢のおばあちゃんだった。
- 227 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:27
-
ある意味当然ではあるが、飯田は順番を待つことなく空いた窓口の前に立った。
そこには誰もいなかったが、すぐに四十過ぎの中堅らしき男性が駆け寄ってきた。
「あ、すいません。順番お待ちしてもらえますか?」
そう言われて、でも飯田は無言で首を左右に振った。それは微かな動きだった。
そして手に持っていた一枚の紙切れを差し出す。飯田の目は泣きそうだった。
飯田は人質となった哀れな美女をカメラと店員の前で見事に演じていた。
「はい?なんでしょうか?」
男性が意味がわからないという感じでそう言って、
しかしその紙を見て、さらに意味がわからないという表情を浮かべた。
何度も演習を繰り返したのを思い出してコクリと小さくうなづくと、
飯田は小さな声で助けを求めた。それは誰にも聞かれないくらいの小さな声だった。
「た、たすけて、ください……わたし……爆弾が……」
その言葉で男性の動きが一瞬で硬直した。
その紙にはその言葉を裏付けるようなことが書かれてあった――。
- 228 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:27
-
午前十時過ぎ、石川梨華はなにも考えず、ただぼんやりと道を歩いていた。
本当なら色んなことを考えてしまって、またもや手足が震えていたことだろう。
だが、あんたはただお茶飲んでればいいんだから、という保田の言葉が、
石川の気持ちをかなり軽くさせていた。あんたはぼんやり歩いとけばいいの、とも。
ただ、そうは言っても石川も銀行強盗の仲間の一人なのは確かだ。
もし失敗したら自分にも捜査が及ぶ、という不安がないわけではない。
「あーあ、みんな勝手だよね……」
無意識にそう呟いて、石川はなんだかそれが自分の言葉ではないような気がした。
あれほど嫌がっていたのに、いつのまにか石川はそれに乗り気になっていた。
そして、そうだからこそ、自分が実行部隊ではないということが退屈だったのかもしれない。
気楽ではあるが、なんだか以前のスリルに比べるとそれは物足りなく感じられた。
二車線の道路の右側の歩道を石川は歩いていた。そして美味しそうな匂いに立ち止まる。
そこには一軒のケーキ屋があった。そして運のいいことに、その店は販売だけではなく、
店内に幾つかの席が用意されてあって、ちょっとしたカフェのような雰囲気でもあった。
ドアを開けるとガランガランという鈴の音がして、すぐに女性店員の声が石川を出迎えた。
開店は十時であるから、石川がその日最初の客ということになる。あるいは二番目くらいか。
石川はガラスケースの中のケーキを物色し、ショコラ・フランボワーズというのを頼んだ。
「あの、これ、ここで食べれますか?」
「あ、はい、どうぞ。お席にお持ちします。お飲み物は?」
「あの、コーヒーください。ブレンド?」
「あ、はい。わかりました。ごゆっくりどうぞ」
二人席が四つ並び、石川はその一番奥の手前側に座った。
そこからはガラス窓越しに道路がよく見渡せた。
そして道路の奥の建物、さらにその中の様子まで――。
- 229 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:27
-
稲葉貴子から飯田の携帯に電話がかかってきたのは、
予定通り教習が始まるほんの十分ほど前だった。
飯田は教習所のロビーで電話を受け、そして予定が普段と変わりないことを告げた。
教官もいつもの教官で、そしてそうであれば飯田の苦手な駐停車の練習はまず外れない。
前回の教習ではわざと安全確認を怠ったりという下準備までしているのだ。
仕事があって毎日通うということができないから、飯田の教習生活はのんびりしていた。
週に二度くらい通い、ようやく仮免を取って路上に出たのが一ヶ月ほど前だった。
そして初めての駐停車の練習で教官から言われた言葉が、そのヒントとなっていた。
「これから毎回ここに停めるから。確認のやり方だね。それがまだ不十分だから」
それから毎回、どの道を通ったときも必ず16号車はそこに停車することになった。
いや、16号車だけではなく、半分近い教習車がそこに停車するのだが。
そして、そんな頃、飯田たちの銀行強盗計画が始まろうとしていた――。
- 230 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:27
-
部屋には五人が揃っていた。中澤裕子、稲葉貴子、保田圭、飯田圭織、そして石川梨華。
そこに当然のように自分がいるということを石川はまだ納得いかない様子だったが、
もう戻れないことを悟ったのか、今ではそれを捕まることのない完全犯罪にすべく、
悪い頭をフルに使って四人の話の穴を探すことが石川の唯一の仕事となっていた。
「じゃあ、目標はその裕ちゃんの元カレがいた銀行ってことでいいの?」
「銀行やないで。信用金庫や。それもほんま小さなとこやで。しゃれならんわ」
保田と中澤のそんな会話に稲葉が加わる。
「でもおもろいこと考えたもんやな。振った男に仕返しするんにしてはスケールでかいわ」
「あんなあ。さっきも言ったやろ?別に仕返しっちゅうわけやないねん」
「あたしはどっちでもいいわよ。なにか理由があった方がおもしろいし」
と保田。そこにそれまでずっと無言でいた飯田がなにかを思いついたように口を開いた。
「武州信用金庫だっけ?それ、いつも通るコースにあったかもしれない」
「おお、なんやカオリン、仮免受かったんかいな」
「うん。先月ね。それからまだ数回しか路上出てないけど」
その五人の中で免許を持っているのは三人。
石川以外は一応運転できるということになる。それがちょっと羨ましかったが、
そのせいでまさか偵察部隊に任命されることになるとは、石川は全く思いもよらずにいた――。
- 231 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:27
-
コーヒーを飲みながら、稲葉は携帯の時計を何度も確認していた。
意味もなくその辺りを車で何度も回って様子を窺ったり、車を停めて眺めたりはしたが、
当日はそんな怪しまれる行動はできない。そう思い、稲葉は偶然その店に入ったのだが、
そこは思っていた以上の立地だった。店内にいながらにして、しかもコーヒーを飲みつつ、
目標である武州信用金庫の店内を奥まで覗くことができたのだ。
時間帯と店内の人間の数、人通りなどを一通り確認して、稲葉は店を出た。
そして早速、その店の情報を伝える。これで偵察場所の確保はできたことになる。
「じゃあ当日は梨華にその店に行ってもらえばいいわね」
「でも大丈夫なんか?石川やとちぃと頼りなないか?」
「それはあたしが保証するわ。あの子、この前だってちゃんと仕事したし。度胸あるわよ」
「しないよ、やったか。まあそれは意外やったけど、でも今度のはなあ……」
「大丈夫よ。だって、まさかあんな子が銀行強盗の仲間だなんて、誰も思わないだろうし」
「そういう利点はあるんやなあ。確かにあれじゃ誰も怪しまんわ」
そう言って保田と稲葉が笑う。
その頃、石川は美勇伝の仕事をこなしながら、一つ大きなくしゃみをしていた――。
- 232 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:27
-
コノ女ノ体ニ爆発物ガ仕掛ケテアル。
通報ボタンヲ押シタリ変ナ素振リヲ少シデモシタラ、躊躇ワズニ遠隔操作デ爆破サセル。
誰ニモ気付カレナイヨウニ現金ヲ用意シ、女ニ渡シテアル袋ニ詰メ込メ。
現金ハ番号不揃イ・使用済ミノ福澤諭吉デ参千萬円。
言ウマデモ無イガ、防犯用ノ番号チェック済ミ紙幣ヲ使ウヨウナ真似ハスルナ。
袋ニ詰メタラ女ヲソノママ返シテヤレ。
タダシ、モシソノ後デ警察ニ通報スルヨウナ真似ヲシタラ、女ハ殺ス。
オ前達ハ常ニ我々ニ監視サレテイル。内部ニモ仲間ガイル。
我々ハナルベク人ヲ殺シタクナイ。タダシ、オ前達ガ殺シタイナラ話ハ別ダ。
女ヲ解放シタラ、追ツテ連絡スル。以上ダ――。
- 233 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:28
-
「あ、これ美味しい」
と思わず言って、石川は他に客のいない店内を恥ずかしそうに確認した。
バイトと思しき女性店員がニコニコと笑っていて、石川もどうもという感じで微笑み返す。
(いけないいけない。大事な仕事をしてるんだった)
そう思い、石川はフォークを手に持ったまま再び窓の外へと目をやった。
特に異常は見られなかった。この店の中から監視するのは初めてだったが、
その目標を監視したのはこれが初めてではない。
一週間前の同じ曜日、同じ時間帯に、道路に停めた車内から石川はそれをしていた。
運転席には稲葉貴子。それまで何度も確認をしていたらしく、
普段がどんな様子で、客が何人くらいか、どのような客層か、という話を聞かされていた。
十時も十五分が過ぎ、連絡が来ないのが不安になってくる。
あまり長居すると怪しまれるということで、石川は定期的に携帯をいじくる真似をしていた。
電話をかける振りをして、少し大きな声で「今どこ?まだ?」なんて言ったりするのは、
もちろん全て教えられたことであり、事前に何度か練習したことでもあった。
ただ、やはり計画の実行日となると、ただそれだけで時間の流れが遅く感じる。
ケーキは全て食べ終わってしまい、コーヒーもすでに空になっていた。
石川は仕方なく、もう一度ガラスケースの前へ行き、追加を注文した。
ただ、店員がそんな石川を不審に思っているような素振りはなかった。
どうやらそれが石川梨華だ、ということには気づいているらしかったが――。
- 234 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:28
-
再び教習車に乗り込んだ飯田が、キーを回してエンジンをかける。
緊張のあまりクラッチが甘くなってエンストしかかったが、なんとか車は動き出し、
その武州信用金庫の前の道路はいつもと変わらぬ道路へと戻った。
「上手くいったのね」
後部座席に乗っていた保田がそう尋ねた。
いかにも強盗であるというような黒い目出し帽をかぶっていて、
それが周りに見られないように、身を低くしていた。
その隣には同じような格好の中澤。飯田が持ってきた袋の中を見て、コクリとうなづく。
車は普通に進んでいった。誰もその教習車が今まさに強盗をしたのだとは思いもよらない。
運転席には若い女性が乗っていて、そして助手席には教官の男性が乗っていた。
ただし、対向車から見れば、その男性は居眠りしているように見えたかもしれない。
教官はスタンガンによって気絶させられていたのだから――。
- 235 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:28
-
飯田はかなり焦っていた。てっきりいつものAコースだと思っていたのに、
その日進まされたのはBコースだったのだから。大事な計画を実行するというのに。
だが、三通りある定番コースのうち、別のコースになるという予想がなかったわけではない。
Cコースの場合は時間が違うだけで駐停車の場所自体はAコースと同じであり、問題はない。
だが、Bコースの場合はそもそも駐停車の場所が違う。
ただし、彼女たちもそこまで馬鹿ではなく、そのための計画もちゃんと練られていた。
「今日はBコース」
そう教官から言われた飯田は、焦りながらもすぐにそれを実行に移した。
途中で突然思い出したというようにあっと声を出し、教官に声をかけたのだ。
「あの、仕事で、大事な電話しなくちゃいけないの忘れてて……」
そんなやりとりをして、16号車は予定にはない場所でひとまず停車していた。
「こら、左の確認。どこで停まろうとそれは一緒」
「あ、すいません。よし、よし」
ハザードをつけて車は停車し、飯田は後部座席の小さなバッグから携帯を取り出した。
そして稲葉に電話をかける。
「あ、あの、すいません飯田です。あの、はい、そうです。今教習なんですけど……」
慌てた演技のつもりだったが、飯田は本気で焦ってもいた。
「あ、じゃあBスタジオですか?時間は同じで?あ、はい。わかりました、どうもすいません」
電話を切り、飯田は教官に頭を下げた。
「すいません。教習の前に確認しなきゃいけなかったのに忘れてて」
それはBコースに変更になった、ただし時間は同じくらいだという意味の伝言だった――。
- 236 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:28
-
石川の目の前を教習車が通り過ぎた。
横にはカラフルな模様と自動車学校の名前。そして16号車と書いてある。
その車は武州信用金庫の少し先で停車した。ご丁寧にハザードがチカチカと点滅している。
予定よりは少し遅かったが、車から飯田が降りてきたのを見て、石川はいよいよだと思った。
手に汗がにじみ、そして自分が今偵察部隊をしているということを誇らしく思う。
店員もさきほどまでいた客も通り過ぎる人たちも、そんな石川に気づいてはいない。
それがなんともいえない喜びであり、またスリルとショックとサスペンスでもあった。
四分ほどだろうか。実際は四分二十秒だったが、その間、石川の時間は止まっていた。
携帯に表示された時刻だけは一分おきに新しい数字を表示してはいたが、
石川にとっては生ぬるくまだるっこしいほどの時間であり、
そうかと思えばたった一瞬であったような、それはそんな奇妙な時間だった。
飯田が銀行から出てくるのを確認し、石川は再び携帯を手に取った。
教習車が発進して視界から消え、それと同時に電話が通じた。
「あ、あの、今出ました。あ、じゃなくて、もう出ました?」
ちょうど女性店員が奥に引っ込んでいて誰にも聞かれていなかったものの、
そんなイージーミスに、石川は全身が凍りつくようなサスペンスを感じていた――。
- 237 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:28
-
飯田の伝言を受けて、三人は同時に顔をしかめさせていた。
「まあしゃーないわ。BでもAでも計画は実行するで」
中澤がそう言い、保田もそれに続く。
「そうね。Aは公園の横だからばれにくいけど、Bでも同じよね」
そんな会話に参加することなく、運転席の稲葉はすでに車を発進させていた。
「二人とも用意はええやろな?スタンガンのスイッチ入れときや」
その言葉が三人それぞれに本格的な犯罪行為であるということを思い起こさせていた。
銀行強盗をする、ということよりも、むしろそっちの方に罪悪感を覚えていたのだ。
それは以前にヲタのキャッシュカードを狙ったこともある保田も同じだった。
あのときは誰も傷つけてはいない。つんのめったヲタがいたくらいだったが、
今度ははっきりと人を傷つけるのだ。
気絶させるだけとはいえ、それは強盗以上にはっきりとした犯罪行為だった――。
- 238 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:28
-
教習車は無事にその場へと戻って来た。
そのすぐ前には一台の白い乗用車が停まっていて、しかしそれ自体は不審なことではない。
問題は、その教習車から黒い覆面をした人間が二人降りてきたということだった。
一人は手に袋を持っていて、もう一人はなにやら小型の機械のようなものを持っていた。
二人が白い乗用車に乗り込むと、車はすぐに発進してあっという間に消え去っていった。
残されたのはただ一台、16号車と書かれた教習車だけであり、
その中にいた生徒と、そして気絶した教官の二人だけだった――。
- 239 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:29
-
石川は笑顔でお金を払い、そして笑顔で店を出た。
パトカーのサイレンなんかは聞こえなかった。だから気分がよかった。
きっと完全犯罪を成し遂げられたのだろうと、そんな気楽な達成感を覚えていた。
歩道を歩き、そして少し進むとそこにバス停があった。
石川はそこのベンチに座ってただバスを待った。
そして十分ほど経ったところでバスが来て、それに乗り込んだ。やはり笑顔だった――。
- 240 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:29
-
16号車は大通りから二車線の道路へと左折し、その曲がりくねった道を進んだ後、
今度は一車線ながら広い幅の道路へと進んだ。すぐにブロックで区切られた住宅街となり、
その交通量の少ない道を縦に行ったり横に行ったりする。
そこは教習所の教習コースの一つになっていた。
Aコースの場合、そこをぐるぐると回った後、ある決まった場所で駐停車をする。
Cコースの場合は別の場所を通った後で、駐停車のためだけにそこに来る。
ただし、Bコースの場合、そこを多少ぐるぐると回りはするものの、
駐停車をする場所はそこではなく、そこから向かう先にあった。
再び二車線の道路へと戻り、武州信用金庫の前を通ってしばらく進んだ後、また道を折れる。
そのときにはすでにケーキ屋に一人の女性がスタンバイしていたが、
彼女はそのコースを変更した教習車が目の前を通り過ぎたことには気づいていなかった。
実際に実行される前のことであるから、大きなミスということではなかったが、
それは確かに無用心ではあった。
16号車はある一帯に入り込んでいた。そこは広い駐車場や小さな工場があったりして、
一応車が通る道ではあったが、人通りという点ではかなり寂れた場所でもあった。
そこで車は駐停車をした。後ろから車が来たときのために左側すれすれに停める。
が、左側に側溝があるというのが頭にあるのか、それはいびつな斜めの形で停まった。
そして、事件は教官が生徒に注意しているときに起こった。
突然、助手席のドアに黒い覆面をした二人が押し寄せ、
ドアを開けるや否や、スタンガンでその教官を気絶させたのだ。
運転席にいた女性はなにが起こったのかわからないというようにただ怯えていた。
そして、怯える演技をしていた――。
- 241 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:29
-
部屋には中澤裕子、稲葉貴子、保田圭、石川梨華の四人がいた。
ただし、当然ながらそこに飯田圭織の姿はない。彼女は一人だけ被害者だったのだから。
「とりあえず、成功したみたいやな」
中澤がそう言って、稲葉がそれに応える。
「コース変更ってときはほんま焦ったわ。せやけど成功してよかったで。あとはカオリンやな」
「大丈夫よ。カオリンならちゃんとうまくやってくれるわ」
「そう本気で願うわ。ボロが出たら、うちらも一緒にお縄やさかいな」
その中澤の言葉でようやく石川が口を開いた。
「お縄?」
「捕まるってことよ」
保田がそう説明すると同時に、中澤と稲葉が一斉に石川の目を見た。
一番ぽろっと漏らしてしまいそうな感じがするのが石川だったのだ。
そこにはそういった警告の意味が込められていたが、石川にはそれ以上の効果があった。
石川は今にも泣き出しそうだった。ただし、捕まることが怖かったのではない。
小学校時代にクラスの女子たちに囲まれたときのような戦慄を覚えたのだ。
そんな石川に対して助け船を出したのは保田だった。
「まあそこまで心配しなくてもいいわ。前回の計画だって、梨華はちゃんとこなしたわ」
石川はそんな保田に心底、感動を覚えていた。
自分がモーニング娘。に加入したばかりの頃から、保田は石川の面倒を見てくれていた。
わからないこともあるけど色んなアドバイスをしてくれて、
そしていざというときには必ず助けてくれる。逆に冷たく突き放されることもあったが、
それでも石川にとって、自分の弱さを知られてもいい唯一の存在が保田だったのだ。
そしてまた、ちゃんとこなしたという評価の部分が、石川を心から嬉しくさせていた――。
- 242 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:29
-
飯田は呆然とした振りをしていた。そして、念のため助手席の教官を揺り動かす。
「先生、せんせい、せんせいってば」
しかし教官は意識を戻さない。スタンガンは予想以上の効果があったらしい。
飯田は車を停車させたまま、すぐに次の行動へと移った。
まず、後部座席を確認して、二人の忘れ物がないかどうかをチェックする。
二人は降りる際に小型のハンドクリーナーで髪の毛やホコリなんかを吸い取っているので、
見た感じではそこに痕跡はなかった。それにもし髪の毛なんかが落ちていたとしても、
そこには飯田のバッグがあり、それはいつも仕事場に持って行くものだった。
だからもし保田の髪の毛が見つかったとしても、疑われるようなことにはならない。
車内を掃除するというアイデアは、意外なことに石川が考えたことだった。
警察が特殊な掃除機で現場を掃除し、吸い取ったゴミの中から犯人の遺留品を探す、
そんな刑事ドラマを以前に見たことがあったのだ。
手袋をして指紋をつかないようにする、というだけでは警察の目は欺けないのだと。
飯田は確認を終えると、もう一度教官を揺り動かした。
ううん……という唸り声が聞こえはしたが、やはり意識を取り戻すまではいかない。
飯田は決心し、右足でブレーキを踏み、左手でサイドブレーキを倒した。
そしてバックミラーとサイドミラーをそれぞれ確認し、よし、よし、と呟く。
飯田は“犯人”に脅された通り、たった一人で教習所へと戻ろうとしていた――。
- 243 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:29
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四人は全てを飯田に委ね、わいわいとピザを食べていた。
「お、これ旨いやん。なかなかやで」
「この緑のタバスコがね、結構いいのよ」
「うちはその七味だけでええわ」
「七味って裕ちゃん、ピザなんだからスパイスとかなんとか言ってくれないと」
よくこんな状況で平気でピザなんか食べれるなあと、石川は一人かなり困惑していた。
普段なら真っ先に手を伸ばしているはずなのに、なんだか食欲が沸かないのだ。
それを石川は、罪悪感のせいだと考えていた。
その一時間と十分ほど前、計画が実行された時間に、
自分がケーキを二つも食べたということはすでに頭の中にはなかった。
「ほな、明日から色々大変やろうけど、うちらはなんも知らんのやし……」
「ただ普通に驚いてればいいのよね」
「そうや。カオリンのこと訊かれるやろし、ワイドショーなんかもうるさいやろけど」
「ええなあ。あんたら注目されまくりやん。うちは絶対なんもないで」
「わかんないわよ。プリプリピンクで一緒なんだし、最近はこうしてよく集まってるし」
「それはあんま出さん方がええかもな。仕事で一緒になることが多い言うくらいで」
「とにかく、事件を知って自分たちも驚いてる、そう言っとけばいいのよね」
保田がそう締めくくり、石川もそんな対応を頭にインプットした。
「梨華、あんたもびっくりしたって言うのよ。それと、もしもだけど……」
「もしも?」
「あんた、あの時間現場のそばにいたんだから、かなり怪しいわよ」
その言葉は石川に天地がひっくり返るほどの衝撃を与えていた。
偵察部隊だから一番安全なのだと、あれほどまで説明されていたのに、
いざ終わったと思ったら、いつのまにか一番危険なのが自分になっていたのだから。
石川は久しぶりに泣きたくなった。そこにはスリルもサスペンスもなかった。
あるのはただのショックだった――。
- 244 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:30
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教習所に戻った飯田は、その所内のコースに停車し、携帯で電話をかけた。
「あ、あの、武州信用金庫さんですか?あの、私、人質にされてて……」
犯人は車に一枚のメモを残していた。そこには事件が起きた支店の電話番号が書かれてあり、
教習所に着いたら連絡するようにと“犯人”から言われていたのだ。
「今、教習所について、あの、犯人から言われてて、電話するようにって」
飯田が電話を切り、その計画は終了を迎えた。
それから教習所の人たちを呼びに行ったり事情を説明したりと慌しくしているうちに、
やがてサイレンの音が聞こえ、教習所内に数台のパトカーがなだれ込んできた。
それからはあれよあれよという間に話が進んでいく。
警察は人質となった女性が芸能人である、ということにはすぐに気づき、
これは職業を尋ねられたためでもあるが、とにかく、その後の対応に苦慮しているらしかった。
それが公開情報になるとわかったのは、飯田が警察署に運ばれてしばらくのことだ。
教習所内で事務所に連絡したこともあり、また警察からも同じような連絡がいったため、
警察署にはすぐに事務所の関係者が数人駆けつけて来た。
そこには当然飯田を疑うような雰囲気はなかった。
飯田は完全に被害者として保護されていた――。
- 245 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:30
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ピザを食べ終えてしばらくしてから、まず中澤が帰っていった。
夜にテレビ収録があり、夕方にはスタジオ入りしなくてはいけないらしい。
それから石川は夕方から美勇伝の新しい振り付けのレッスン、
稲葉はそのダンスレッスンの講師として天王洲に赴かなければならなかったが、
それにはまだ時間の余裕があった。レッスンでありホームグラウンドであるということもあるが。
保田がなにげにテレビをつけて、石川には気が気ではなかった。
だが、画面に映るのは日常の番組であり、タモリが銀行強盗のニュースを読んだりはしない。
「事件、やってないね」
安心して石川はそう尋ねた。だが、そんな安心はすぐにかき消される。
「まだ事件起こったばっかやしな。夕方のニュースには絶対流れるはずやで」
「流れるんだ……やっぱり……」
「銀行強盗だもんね。そりゃ流れるよ。問題はカオリンのこと言うかどうかってこと」
「あ、言わないこともある?」
「どうやろな。教習車が襲われて生徒が脅迫されてってとこまでは言うやろな」
「そっか。そうだといいね」
石川はそんなことを言って、それなら安心できると思った。
飯田の名前さえ出なければ、その瞬間から自分は事件とは全くの無関係になるのだと。
実際は報道されないだけで、飯田が人質として利用されたという事実は消せないのだが、
石川にとって、それは他人事になるかならないかという点で重要な分かれ目だった。
だが、運命は石川の不安をそう簡単に消してくれはしない――。
- 246 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:30
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飯田は取り調べを受けていた。と言っても、よくドラマで見かける取調室ではない。
飯田が芸能人であるためかはわからないが、そこはちょっとした接客室だった。
ふわふわではないもののソファがあり、机を挟んで刑事から話を訊かれる。
飯田の隣には被害者の人権を配慮してか、事務所の関係者が一人付き添っていた。
「じゃあ、駐停車をしたときに、突然二人組が襲ってきたんですね?」
「はい。左の、なんて言うんですか、死角ですか?その死角になった部分から……」
「犯人は二人組」
「はい。二人がドアを開けて、それで先生を突然ビビビッて。それでもう私びっくりして」
「先生が気絶させられて、それから二人はどうしましたか?」
「私、もうどうしていいかわからなくて、とっさにキーを回してエンジンをかけようとしたり」
「パニックになるのもわかります。誰でもそんなことがあれば動揺しますから」
実際にはそのときより取り調べを受けている今の方がパニックに近かったかもしれない。
だが、そんな様子が警察に対してはっきりとした被害者というイメージを植え付けていた。
「それで、その二人なんですけど、後部座席に乗り込んだんですか?」
「は、はい。それで、後ろから私の体になんか針金みたいなのを巻きつけて」
「それは、爆発物のことですね?」
「わかりません。でも、爆弾だって言ってました。針金でくくりつけたって」
「それであなたは脅迫されて、指示通りにその信用金庫まで運転をした」
「はい。ボタンを押せばいつでも爆発させれるって。だから私、気が気じゃなくて」
そこで飯田は身体を振るわせた。だが、それは半分ほど演技ではなかった。
話をしているうちに自分が本当に被害者になったかのような気持ちになっていたのだ――。
- 247 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:30
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稲葉と石川が帰り、部屋には保田一人だけが残された。
以前のキャッシュカード強奪とは比べものにならないほどの達成感。
だが、そこにはそれ以上の不安がつきまとっていたのも確かだった。
近所のコンビニに雑誌を買いに行き、久しぶりにタバコを買ったりした。
それから部屋に戻った後、また近所のスーパーに買い物に出かけたりもした。
そして夕方のニュース番組の時間になり、保田はドキドキしながらテレビをつけた。
自分たちが成し遂げたことがどれほど凄いことで、どれほどのことと思われたのか、
それを早く知りたかったのだ。
保田が求めていたのは社会への復讐ではなく、社会への帰属だった――。
- 248 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:30
-
一通りのことを訊かれ、それから爆弾の話になる。飯田はその場で立たされて、
どのような形状でどのように取り付けられたのかを説明する。だが、それは嘘ではない。
飯田は犯行の間中、実際にへんてこな装置をつけていたのだから。
銀行の監視カメラに映ることはもとより、目撃証言が出てくるなんてことも想定済みだった。
だが、想定にはないこともあった。
「それでは、その今着ている服をお借りできますか?あ、後でいいんですけど」
「これですか?」
「ええ。爆発物が本物だったのかどうか、その痕跡を検証する必要がありますから」
「はあ。わかりました。そういうことなら……」
「それと、その装置のことですけど」
いつのまにかスケッチブックを持った婦警さんが目の前に戻ってきていた。
少し前に犯人の服装などを証言したときと同様に、その爆発装置の絵を描くらしい。
だが、言葉で説明するというのはかなり難しい。
封筒色の円筒形のチョークみたいなものが五本くらい丸まっていて、
それに小さな箱が針金で固定されていて、赤や青のコードがごちゃごちゃしている。
そんなことを言ってはみたものの、できたのは実物とはかけ離れたスケッチだった。
「あの、私、絵が得意なんで、自分で書きましょうか?」
疑われないようにと飯田は逆に積極的になっていた。鉛筆を握り、装置の絵を描き始める。
が、飯田は重大なことに気づいていなかった。
装置を取り付けられた本人は、その装置を詳しく観察することができない。
ただし、一つ救いだったのは、飯田が絵が上手いと言われる割りに、
実際はそこまで上手くないということだった。
それは誰が見ても、変な箱にコードがごちゃごちゃしているとしか見えない絵であり、
とっさのことであまりはっきりと見てはいない、ということを端的に示した絵でもあった――。
- 249 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:31
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一番早くに始まる夕方のニュース番組。
事件がそのトップニュースで伝えられたことに保田は喜びを隠せなかった。
ただし、そこにはまだ飯田圭織という名前はない。
「閑静な住宅街にある信用金庫が襲われました。しかし、犯行に使われたのは意外な車でした」
事件が起きた武州信用金庫前から中継が繋がり、リポーターがメモを読み上げる。
現場には警察の車両の他に各局の報道陣が多数詰め掛け、野次馬の姿も映っていた。
武州信用金庫の支店が襲われて現金三千万円が強奪された、というのが本筋だったが、
それに続いてそれが通常の強盗ではなかった、ということが伝えられる。
「犯人はその十分ほど前、近くで一台の車を襲い、乗っていた女性一人を人質にしていました」
リポーターがそこまで読み上げると、そこで画面は唐突に教習所の映像に切り替わる。
そして事前に収録して映像と合わせたであろう女性ナレーションの声。
「犯人が襲ったのは、驚くことに自動車学校の教習車でした」
ご丁寧に画面の隅に「犯行に使われたのと同型の教習車」というテロップが表示される。
それから犯人がどのようにして現金を強奪したのかという過程が説明される。
まず乗っていた教官を“スタンガンのようなもの”で気絶させたということ。
人質にした女性に遠隔操作式らしき爆発物を装着させ、窓口に向かわせたということ。
一枚のメモを渡させ、その女性の命を盾にして現金三千万円を用意させたということ。
女性はその後解放され、自力で教習所に戻るように指示されていたということ。
犯人は二人組であるが、それ以外に仲間がいる可能性があるということなど。
そして最後に犯人の服装や背格好が伝えられたあと、
アナウンサーは次の言葉を口にしてそのニュースを締めくくった。
「犯人は依然逃走中です」
そして次のニュースが流れる――。
- 250 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:31
-
レッスンはいつもと変わらなかった。
美勇伝の二人がいて、講師の稲葉と見慣れた二人の補佐がいる。
三十分ほどマンツーマンで指導を受けたあと、三人揃っての練習になる。
休憩になり、石川は鏡の前で自分の振り付けを反復練習していた。
ダンスはそこまで上手くはないが、それでも何年もそういうことをやってきている。
その日初めて教えられた振り付けではあったが、石川はそれをすでに自分のものにしていた。
と、ドアを開けてレッスン室に稲葉が入ってきた。
「なんかあったんかいな。なんや事務所の人がやけに慌てとったわ」
その言葉に石川はドキッとしていた。それがすでに事務所に伝わっているというのは、
当然の成り行きではあったが、その当然がいよいよ現実になったのだ。
石川にとって、それはなんだか事件がようやく始まったかのような錯覚を与えていた。
そしてまた、そのさりげない稲葉の演技には、ちょっぴり感心もしていた。
それから一時間ほどレッスンが続き、弁当を食べながら美勇伝の三人で歓談する。
と言っても主役は三好と岡田の二人であり、石川はただ愛想笑いをしているだけだった。
「でね、その写真が結構イケメンでさ」
「ええなあ。それ。うちにも見せてや」
それはファンレターにファンの写真が入っていた云々というような話で、
いつもなら石川もそれを楽しく聞いていたかもしれない。むしろ一番乗り気になり、
その三好が言うところのイケメンの程度を確認して心の中で嘲笑っていたかもしれない。
だが、今の石川にとって、そんなことは結局は子供の会話でしかなかった。
石川はここ数ヶ月の間に様々な冒険をしてきているのだから。
そしてまさにその日、銀行強盗という大それた犯罪行為を成し遂げたばかりなのだから。
石川は二人を子供だなあと思いつつ、弁当とともにちょっとした優越感を味わっていた――。
- 251 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:31
-
夜になり、保田は珍しくNHKのニュース番組を見ていた。普段なら絶対に見ない番組だ。
そしてやっと来たか、という思いでその画面を見つめる。
アナウンサーが新しい情報が入ったという言葉とともにその名前を告げたのだ。
これで世間の話題は独占ね、と保田はそんなことを本気で考えていたが、
保田がそう考えるのも当然のことだった。
銀行強盗だけならまだ普通の凶悪犯罪であり、最近ではそこまで珍しくもない。
だが、犯行に使われたのが強奪された教習車だったという劇場型の犯行に加えて、
犯行に巻き込まれて人質となった女性が偶然にも芸能人だったとなると、
それはやはり世間の興味と関心を集めずにはいられない。
そして、そんな予想を裏づけるかのように、そのNHKの真面目な番組でさえも、
普通の強盗事件よりも多くの時間を割いてそのニュースを伝えていた。
内容自体は夕方の各局の情報をさらにまとめたといった感じだったが、
それプラス、教習車が襲われた現場の映像などが新たに付け加えられていた。
そんな映像を見ながら、保田が勝手な憶測を口にする。ただし、独り言である。
「これはあれね、きっとカオリンを連れて現場へ行ったのね。現場検証ってやつよ」
それから事件当時信用金庫にいたおばあさんのインタビューなんかもあった。
「うん、若い女の人がね。青白い顔して、震えながら入って来て。様子が少し変だなあと」
真偽不明な情報を話すおじさんなんかもいた。
「事件の二時間前かな。怪しい男が一人、信用金庫の前をうろうろしてて……」
それから映像は出なかったものの、襲われた教官の話というのもあった。
「襲われた教官の話によりますと、犯人は二人組で、一人は女性のような印象を受けたと……」
さすがの保田もその話にはヒヤッとした。だが、それもはっきりと想定の範囲内だった。
「まあ一人はいいのよ。最初からそういうつもりなんだし。カオリンだってそう言ってるはずだし」
保田がそう独り言を口にして、そして事前の計画で話し合ったことを思い出す――。
- 252 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:31
-
「ほな、カオリンの車が停まるやろ。その陰にうちと圭ちゃんが潜んでるわけやな」
「目出し帽ってやつをかぶってるんだよね?覆面みたいなやつ」
「そうや。それで停まったら、うちがドアを開けて、すぐにスタンガンや」
「あたしはどうしてればいい?」
「後ろにおったらええわ。もし相手が暴れたりしたら、そんときは圭ちゃんがクロロホルムや」
それは以前のキャッシュカード強奪のときに準備していたもので、今もそのまま所持していた。
「ここが一番のポイントやな。突然の襲撃やけど、相手は男やさかい」
稲葉がそう言って保田と中澤がうなづく。その日は飯田と石川は仕事でいなかった。
「そのときやけど、圭ちゃんはうちが失敗せん限り、黙っといた方がええやろな」
「ばれるといけないもんね」
「いや、うちは多分揉めたりするやろし、そのときに声が漏れたりするわ。きっと」
実際はほとんど声は漏れなかったのだが、とにかく、犯行を想定しながら続ける。
「それでうちが女やってわかるはずやろ。でも、二人とも女やったらちょいとまずいわな」
「どうして?」
「どうしてっちゅうか、例えば一人女で一人男やったとしたら、うちらには当てはまらんやん」
「それはカオリンにそう証言させるってことかいな?」
「その通りや。犯人は男女で、さらに仲間と携帯で連絡を取り合ってたってことにすんねん」
「女はいたけど、女のグループじゃなくて、その中に一人いただけって思わせるのね?」
「そうや。その辺の犯人像はまたカオリンいるときちゃんと突き詰めなあかんけどな」
そんな着々と進んでいく計画に、保田は中澤を心強く思い直していた。
さすが財布を郵便ポストで送り返すというアイデアを出しただけのことはあると――。
- 253 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:31
-
パトカーだと思っていたのが普通の乗用車で、飯田はちょっとだけ残念だった。
だが、すぐにドラマのようにパトランプを上に乗っけたことで、それは帳消しになっていた。
パトカーの後ろにその飯田の乗る警察の乗用車、さらに後ろには同じく数台の車が続く。
まず中には入らなかったが教習所の前まで行き、そこで幾つかの質問をされる。
教習所を出たとき、怪しい車につけられているような様子はなかったかというようなことだ。
飯田は運転に夢中で気づかなかったと答えた。
ただ、気づかなかっただけかもしれない、とも付け加えておいた。これはアドリブだ。
それから、その日のコースを辿るというようなことはなく、すぐに車が襲われた現場へと向かう。
「えっと、確かこの道です。それで、その先を曲がるように言われて……」
飯田はどの質問にも丁寧に答えた。ただ、思いつめたような表情を装うことは忘れない。
人質の被害者とはいえ、犯行に加担してしまったという罪悪感を持った女性なのだから。
現場に着き、そこで本格的に話を訊かれる。だが、飯田はそれには答えなかった。
「すいません……私が……犯人の言いなりになったりしたから……」
後部座席の飯田の隣に座っていた婦警が慰めるように肩を撫でる。
「先生が襲われたときも、私、どうしていいかわからず、キーを回したりなんかして……」
それは警察署内でも話したことだった。飯田はしばらく手で顔を覆ったあと、
すいません、と言ってまた質問への返答を始めた。
「それで、犯人は二人、一人は女性で間違いないんだね?」
「はい。顔はわからないけど、男性と女性でした」
「さっきも訊いたけど、声で年齢はわからないかな?」
「どうだろ。女の人は若かったかもしれません。私のこと気遣ってくれてるみたいで……」
「自分と同じくらい?それとも?」
「うーん、わからないけど、私よりは年上かもしれません。そんな感じでした」
「男の方は?」
「結構いってると思います。低い声でしたから。凄みがあるっていうか、とにかく怖くて……」
飯田はそう言って思わず身震いをした。
どうやらその年の映画賞を総なめにするつもりらしい――。
- 254 :名無し娘。:2005/11/18(金) 19:32
- ここからちょいと小出しにします。色々書きたいことが増えてきたので。
感想とか書いてくれたらとても嬉しいです。ちょこっとでもいいので。
- 255 :名無し娘。:2005/11/18(金) 21:17
- 面白いよ。続きがすごい気になる
- 256 :名無し娘。:2005/11/19(土) 16:19
- 早く続きを!と急かしたいくらいおもしろいよ
じっくり待ってます
- 257 :名無し娘。:2005/11/21(月) 23:58
-
慌しい一日がやっと終わろうかという、午後九時。
飯田圭織は警察署の裏口から、車に乗せられて自宅へと戻った。
ただし、飯田一人というわけではなく、
その夜は念のため、事務所の女性が飯田に付き添うことになっていた。
「それにしても、大変だったわね」
「ええ……」
「疲れてるでしょ?」
「うーん、疲れてるというか、なんか警察の取り調べの方が疲れちゃった」
「それはそうかもね。ずっと拘束されてたもんね」
その女性とはそこまで親しくはなかったが、全く知らないというわけでもなかった。
ただ、こうして二人きりで話をするというのは、あっても一度か二度だった。
「明日も朝からみたいよ」
「うん。そう聞いた。現場検証とか、よくわかんないけど明日はちゃんとやるみたい」
「なんかドラマみたいよね」
その言葉に飯田も困ったような笑顔を浮かべる。
「私もそう思ってた。だって刑事さんとかがいて、スケッチしたりとか。ドラマみたいだなって」
「色々大変だと思うけど、困ったことがあったらなんでも相談に乗るから。ね?」
「ありがとうございます」
飯田はそう言って頭を軽く下げ、でもそう言いながら、
それもなにかに使えるかもしれないと、そんなことを考えていた。
飯田のドラマは、まだ始まったばかりだった――。
- 258 :名無し娘。:2005/11/21(月) 23:58
-
速報>一覧
 ̄ ̄  ̄ ̄
・21:04 教習車強奪現場付近で白色の不審車 目撃証言
・20:27 飯田さん今後の予定は未定 カウンセラーと相談
・20:22 飯田さんに被害なし 事務所「とにかくほっとした」
・20:14 所属事務所の記者会見 飯田圭織さんは姿見せず
・19:05 飯田圭織さん所属事務所 まもなく会見の模様
・19:00 武州信用金庫事件進展なし 犯人は依然逃走中
・18:36 人質女性は歌手の飯田圭織さん 教習中の悲劇
・18:31 人質女性は歌手の飯田圭織さん
・16:08 二人組が教習車を強奪 スタンガンと爆発物を所持か
・16:04 事件発生は午前十時半 五分前に教習車を強奪
・15:14 爆発物による脅迫 犯人が依然所持の可能性
・15:12 教習車の教官スタンガンで襲われる 実行犯は二人か
・15:11 被害額は三千万円 人質女性を利用した犯行
・13:44 教習車を強奪 女性を人質にして現金を要求か
・12:17 武州信用金庫に強盗 人質女性はすでに保護
・12:15 武州信用金庫○○支店に強盗 女性を人質か
武州信用金庫事件、教習車強奪事件関連のニュースは、以下の項目に移動しました。(21:15)
社会>事件事故>武州信用金庫事件――。
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