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【下克上】例えば名無しが作者編【成り上がり】
- 223 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:57 ID:dnwJcKvw
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「東京」と書かれたスケッチブックの隣で車が停止した。運転手
は助手席のドアをあける。
「君、ひとりかい?」
「はい。」
「乗りな。」
「ありがとうございます。」
男はスケッチブックをしまいながら車に乗り込んだ。車は発進した。
「こんなところでヒッチハイクなんて珍しいな。」
「ええ全然車がこなくて焦ってたんです。」
「だろうな。」
「本当にありがとうございます。」
「いいってことさ。旅は楽しい方がいいからな。」
「あ、申し遅れましたけど、僕●●と言います。」
「●●君か。えっと、俺は──って言うんだ。よろしく。てかさ
名前なんかよりなんか面白い話しようぜ。なんか旅の最中で面白い
話とかないの?」
「実は僕旅を始めたばかりなんです。」
「え、そうなの?なんか旅慣れてる感じだと思ったのに。」
「そう見えました?実はこの辺地元なんですよね。」
「そうなんだ?なに?じゃ、東京になにしにいくの?」
「実は友達が上京してて。」
「ほうほう。」
「で、僕も行こうって思ったんだけど、お金なくてでヒッチハイ
クで。」
「おいおい、親御さんは承知だろうね?」
「はい・・・反対してお金は出してくれませんでしたけど。お前の人
生だから好きにしろって。」
「そうか。そこまでして東京に出たいんだ。」
「そうなんです。」
「そっか。まぁ俺も地方から東京に出て行ったんだけどね。」
「そうなんですか?」
「ああ。でも俺は地方で就職して、会社の関係で東京に行くこと
になってさ。」
「東京は大変ですか?」
「いや俺は特にそうは思わなかったけどさ。夢を追いかけて東京
に出てった連中にはずいぶん大変そうなやつもいたよ。そういうの
じゃなきゃ大丈夫だよ。」
「あぁ、僕そういうのなんですよね。」
「え、君?」
「はい。実は僕音楽やってるんです。」
「へぇ、そうなんだ。」
「はい。実はお金ないのもそれが原因で・・・」
「高いギターでも買ったか?」
「いや、実はCD作ったんです。」
「え?CD?すごいじゃん。売ってるのそれ?」
- 224 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:58 ID:dnwJcKvw
-
「まだ売ってはないです。東京に出たら売るつもりで録音した
やつなんで。いま持ってますよ聞いてみますか?」
「お、だんだん面白くなってきたね。でもちょっと待って。CDこ
っからじゃ入んないんだよ。ていうか伴奏なしで歌えない?」
「え、アカペラですか?」
「それくらいの度胸はあるだろ?今から売り込みに行くくらいな
んだから。」
「よっし、じゃあ『Last Day』って曲歌います。」
車に歌声が響く。歌は3分くらいの曲だった。
「いい歌じゃん。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「心がこもってるよ。なんだめちゃくちゃ下手だったら面白いと
思ったのにな。」
「それ逆に気まずくないですか。」
「それもそうだな。いやでもいい曲だよ、ほんと。君が全部作っ
たの?曲とか歌詞とか。」
「そうです。」
「見た目によらず純真なんだな。あんな一途な恋の歌歌うと思わ
なかったよ。」
「え、僕ってどんな風に見えるんですか?」
「すごく遊んでそう。」
「うわっ。そうすか?」
「だね。」
「僕、めちゃくちゃまじめですよ。いやほんとですって。」
「わかったわかった。で、その歌詞だけどさ、実話なの?」
「え?」
「ほら、東京に女の子を迎えに行くって歌詞だよ。」
「あぁ現実と言うより願望入ってます。」
「願望?」
「そういう女の子がいたらいいな、っていう。」
「なるほどね。やっぱり妄想が作品作りには大事ってわけだ。」
「そうですね。」
- 225 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:58 ID:dnwJcKvw
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運転手は男に飯を食わせた。話をしているうちに男の言う東京
の友達と言うのは、幼なじみの女だということがわかった。歌手
をしているらしい。
「その女の子を迎えに行くわけだ。『Last Day』みたく。」
「違いますよ。あれはあくまで想像ですよ。それに……」
「それに?」
「あいつ結構売れてるんですよ。だからそう簡単には会えないん
です。」
「そうなんだ。」
「僕も成功すれば会えるんですけどね。」
「はは、実はそれが目的だったりして。」
「……」
「っと、怒らないで。本気で言ったんじゃないんだから。ごめん。」
「いえ。…実はかなりそういう気持ちもあるんですよ。」
「そうなの?」
「変……ですよね。僕。」
「変じゃないよ。」
「そうですか?」
「それくらい好きなんだろ。」
「はい。」
「いいじゃないか。若いなぁ。」
「でもこんなことじゃうまく行かないですよね。」
「ん?」
「僕、本当に音楽も好きで東京に行こうって決めたんですけど、
こんな生半可な気持ちじゃやっぱりだめかなって思ったりして…
…。」
「今からもう一回引き返せっていうんじゃないだろうね。」
「まさか。もちろん決心はしたんです。」
「まだ少し迷いがあるな。大丈夫だよ君の歌は本当によかったと
思うよ。たとえそれが君の彼女をつかまえるための手段だったと
しても、伝えようとする気持ちって言うのかな、そういうのが俺
にも分かったよ。」
「そうですか。そういってもらえるとうれしいです。」
2人は無事に東京についた。男は運転手にCDを置いていった。
夕焼けが若者の船出を祝うようだった。ルームミラーから男が
消えるのを確認すると、運転手は彼の成功を祈った。
「俺の若い頃にもあんな勇気があったらなぁ。」
男は泣き始めた。男にも歌手の幼なじみがいた。藤本という名前だった。
end
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