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【下克上】例えば名無しが作者編【成り上がり】
- 216 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:52 ID:PvuUwYPY
- 少し遅めの夏休みを取って帰省した。
近況を聞いてみて、隣に住んでいた幼馴染の美貴も丁度帰省しているという事を知る。
俺と美貴は共に地元を離れ、帰省の時期も合わない為にここ何年か会っていなかった。
だいぶ物置としての役割を果たす様になってきた自分の部屋で、
過去の出来事に思いを馳せていると、丁度お隣に人の気配を感じる。
わざわざ訪ねるにはやや気が引けていた俺だが、もしやという思いで玄関を出ると、
果たしてお隣の庭に、小柄で小顔、特徴的な声の美貴が、
数年前とあまり変わらない後姿で佇んでいるのを見つけた。
- 217 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:53 ID:PvuUwYPY
-
「美貴」
「…おぉ!すっごい久しぶりじゃん。元気にしてた?」
「あぁ。美貴も元気そうじゃないか」
「勿論でしょ。ふふっ、アンタあんまり変わってないね」
人懐っこい笑みを見せる美貴。
互いの近況報告もそこそこに、思い出話に花が咲き出す。
立ち話も何なので、近所を少し歩くことにした。
美貴は「インドア派だから」と若干渋ったが、無理やり連れ出す。
- 218 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:53 ID:PvuUwYPY
- 久しぶりではあるものの、見慣れた近所の街並み。
照りつける日差しとセミの鳴き声、そして隣を歩く美貴の存在が、
俺の記憶を数年前にタイムスリップさせる。
「アンタ背伸びたね」
と美貴が言う。俺と同じように、記憶の中と今を重ね合わせていたのだろうか。
「さっきはあんまり変わってないって言ってたじゃないか」
「それは雰囲気がって事」
「お前のほうこそ…」
「何よ。アタシは相変わらず背ぇちっちゃいまんまじゃん」
「ま、背に限らずというか何というか」
「何だって」
なんてやり取りで美貴に小突かれながら、歩みを進める。
小さい頃の遊び場だった神社に差し掛かったので、そこで涼むことにした。
- 219 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:54 ID:PvuUwYPY
- 「さっきさ」
「ん?」
「背は伸びたけど、変わってないねって話したじゃん」
「あぁ」
「実はさ、安心したんだよ」
そう言う美貴の横顔は、俺の記憶の中にあるより数段大人びた笑みを浮かべて
遠くを見つめている。改めてまじまじと見つめたまま、視線を逸らせなくなる。
俺は黙って次の言葉を待った。
「変わってない物を見て、何か昔を思い出せた。安心できる感じを思い出せたって言うか」
素直に喜んでいいのだろうか。
「疲れてんのか?」
「かもね」
嘆息して見せて、美貴が続ける。
- 220 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:55 ID:PvuUwYPY
- 「変わっちゃうものなんて、いっぱいあるじゃん。世の中ほとんどそうだし、美貴自身だってそう」
「俺だってそうだよ」
「でも…思い出させてくれる。変わっちゃいけない事を思い出させてくれた気がする。
…アンタから見て、美貴は変わった?変わっちゃった?」
「お前は…変わったよ」
「…」
「ずっと色っぽくなった」
「なっ…!」
驚いて目を見開き、徐々に頬が赤くなる美貴。
「あんたにまでそんな事言われたら…困っちゃうじゃんか」
と俯きだす。それを見た俺が
「なんてね。そうやってすぐ顔に出るところが変わってない」
と続けると
「くっ!このーっ」
と今度は美貴に小突かれた。
- 221 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:56 ID:PvuUwYPY
- だめだこりゃ。
どうも俺の役回りは以前から変わっていないらしい。
さっきの俺の言葉は決してウソじゃない。
でも幼馴染みとしての変わらない俺の存在が、美貴の助けになっているのだろうか。
「そろそろ戻るか」
「ん」
もしそうならば、立派に務めようじゃないか。今日だって昔のように家に送り届けてやるんだ。
傾きだした日の光に照らされた美貴を横目に見ながら思う。
「まだこっち居るんでしょ。時間あったらまた話そうよ」
「あぁ」
幼馴染み。
昔も今も、この関係が心地よい。
<終>
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