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【下克上】例えば名無しが作者編【成り上がり】
- 210 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:43 ID:KYFGDTkA
- 朝もはよから差し込む光。さえずる小鳥。
さわやか過ぎるほど心地の良い秋の朝、ベッドの中で惰眠を貪る物体X。
身じろぎもせずに、一定のリズムを刻んですぅすぅと息を吐いている。
しかしその平穏はすぐそこに終わりが近づいていた。
なぜなら。
「やっぱお約束は守らんと」
ドアをそっと開けて部屋に侵入してくる一つの影。
そのままベッドの側に抜き足で接近したスネークは、ひとり頷いて悪戯っぽい笑みを見せる。
ちょいと寝顔を拝見……うーん布団に隠れてよく見えないけどカワイイ寝顔だ。
ニィと口角を上げて、お約束の醍醐味を堪能しつつ、早速本来の目的を行うことにした。
「朝だよー」
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
優しく揺すりながら、目覚めの時をそっと告げる。
いやー優しいなあ自分と自画自賛するも、肝心の対象にさしたる反応は見られない。
どんどん過激になっていくアクション。
優しい朝の寝覚めを体験させるという当初の目標はあっさりと失われているのだった。
- 211 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:44 ID:KYFGDTkA
- 「おーきーろー! ホラ朝ですよー!」
仕舞いには激しくその体を揺さぶりながら、耳元に向かって叫んでいた。
ここまでされて起きないなんて相当のツワモノである。
やむなくその頬っぺたを引っ張ってみた。
無反応。
耳穴に生暖かい息を吹きかけてみた。
わずかに口元がひくつくだけ。
流石にそれ以上深くボディにアクセスするのは、ちょっとためらわれた。
親しき仲にも礼儀あり。
と格好付けてみたものの、正直な所反撃が恐ろしいというのが事実だ。
しかしこのままでは埒が明かない。
あまり穏便な方法をとっていては、時間に間に合わなくなってしまうかもしれない。
かくなる上はもっと過激な手段に訴えるべきか。
その内容を模索し、思わずにやにやと頬が緩んだ時、足元にゴスっと何がぶつかる感触がした。
ディスイズアドッグ。
見ればラブリーな犬が足元に鎮座ましましている。
なんだよ驚かすなよーと思わずそのキラキラとした瞳に突っ込みを入れた時、
興味津々で足を見ていたその犬はやおら愛らしい口を開いてそのままガブリと噛み付いてきた。
- 212 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:45 ID:KYFGDTkA
- 「ちょ、ちょっおまっ、うわあああっ!!!」
甘噛みだったのかさほど痛みは感じなかったが、如何せん予想外の衝撃に思わず動転してしまった。
その時、何とか踏みとどまっていたもう一方の足にも何やら生体反応が見られた。
「ま、マジすか」
やんちゃそうなそいつは予想を裏切らず、しかも今回はかなり本気で顎を閉じてきた。
言葉にならない悲鳴を漏らしつつ、完全にバランスを失ってふらりと体が傾いだ。
そのまま成すすべもなくベッドにダイブ。
当然の如くベッドで惰眠を貪る物体Xと激しく接触した。
サイレン、サイレン。
頭の中でレッドアラートが鳴り響く。
この状況で目を覚ましてしまったら確実に言い訳ができない気がする。
うわあうわあと慌てながら何とか身を起こそうとするもの、動転しているせいか中々うまくいかない。
それどころか何だか段々お互いの密着度が上がってきているような気配。
やはりここはもがくのではなく、もっと抜本的な対策を採らなければいけない。
そう思い、左手に力を込めてどうにか体の位置を遠ざけようとしたところ―――
- 213 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:45 ID:KYFGDTkA
- むに。
左の掌は、確実に無機物ではない何か柔らかいものに遭遇した。
世の半分を劣等感に苛む平均という概念化を行うと、確かに貧相であるかもしれないが、
それはその感触を理解できるほどにはちゃんと存在を主張していた。
だが、そのことについて思考を巡らす余裕は無かった。
なぜなら。
今まで頑なに閉じたままだった対象の瞼が突然開いた。
最初はどこか蕩けたようにぼんやりとしていた視点が徐々に定まってくる。
パチパチと何度か瞬きをして、その焦点が次第に俺の顔を中心に結ばれていく。
やがて完全に認識が行われ、その目に理解の色が宿る。
凍りつく時間。
「や、やあ、おはよー」
とりあえず間抜けな挨拶をしてみる。
「朝なのに夜這いとはやってくれるじゃん」
不機嫌が鼻声に包まれて恐ろしいほどの濃度で伝わってきた。
- 214 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:46 ID:KYFGDTkA
- しかし悲鳴を上げたり驚かれたりしないのは流石と言うべきか。
体の上にのしかかって、あまつさえ胸まで触っているわけだが、もしかして気づかれていないのだろうか。
何にせよどうせ逝ってしまうのであれば、今一度ここでこの柔らかいものを堪能してしまっても、
バチは当たらないのじゃないだろうか。
そう思い、とっさに手の末端神経に大胆な命令を下そうとする、その時。
「ねえ、今すぐ死ぬのと、記憶を失ってボケ老人として生きるのとどっちがいい?」
「あ、あはは、ハイ、すいません……」
「ほら、早くどきなさいよ」
「わ、わかった」
手早く身を起こし軽く咳払いをする。
その際チラッと見えた美貴の耳元は微かに赤くなっているような気がして、つい余計な口を開いてしまった。
「美貴ってさー、寝顔は結構カワイイのな」
「ば、バカなこと言ってんじゃねええええっ!」
強烈な打撃。
さらに犬どもの追い討ち。
その後平謝りに謝って、美貴が朝食を採っている間ずっと土下座し続けた結果、
どうにか今日の昼と焼肉食べ放題で手打ちにしてもらう事が出来た。
- 215 :名無し娘。:2006/10/13(金) 23:47 ID:KYFGDTkA
- 「ていうかさー、モーニングコールしてっつったのに何で起こしにくるワケ?」
「やっぱそういうお約束はちゃんとやったほうがいいかなあ、みたいな」
「お約束とかそういうのいらないんですけどー」
「でもさー幼馴染が起こしにくるとか萌えない? 萌えるっしょ?」
「萌えとか言うなキショイ」
「やっぱ裸エプロンで起こしにくればよかった?」
「そんなことしたらもう一生口きいて上げない」
「うーんそりゃ困るなあ」
「そうだよ、美貴だってそんな面倒なことイヤなんだからやめてよね」
「じゃあ今度美貴が俺のこと起こしに来てよ」
「やだよ、そんな面倒くさいこと」
「そしたら勝負パンツでお出迎えするのに」
「死ねボケ。もう絶対起こしになんて行かない」
そんな会話をしてからしばらく経って、世にも恐ろしい目覚めを体験したのは言うまでもない。
おわり
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