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【下克上】例えば名無しが作者編【成り上がり】

153 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:37 ID:k20CQu22
「皆さんお疲れ様っしたーっ!!」

どこにでもあるチェーンの居酒屋で、
よくある打ち上げの風景。

「無事、我々のサークルは文化祭で黒字を出す事ができましたー!」
「イェーイッ!」

その空気に溶け込みながら俺も声を張り上げる。

「今日はもう無礼講で、思いっきり飲みましょう!
 カンパーーーイッッッ!!」

154 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:37 ID:k20CQu22
皆が早いピッチでビール瓶を空けていく。
ただ、俺はそうしなかった。
そうしたくない理由があったから。

「イエ〜イ!飲んでる〜?」
「…吉澤もう酔ってんの?」
「ん〜?まだジョッキ3杯しか飲んでないよ〜?」
「完全に酔っとるやんけ」

スッと吉澤が俺の隣に入り込み、
空のグラスを2つ手に取った。

「ほら」
「…わかったよ」

155 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:37 ID:k20CQu22
しぶしぶ近くのビールを1つ目のグラスに注ぐ。
2つ目のグラスに…

「あぁそっちは私がするの!ほら!」
「お前やっぱ酔ってるな」

吉澤が流れるような動きで俺からビール瓶を奪うと、
代わりにグラスを持たせてギリギリまでビールを注ぐ。

「ハイカンパ〜イ♪」
「…カンパイ」
「ほらほらダメでしょ?乾杯はぁ、『杯』を『乾かす』ってぇ書くんだよ?」
「その話何回目だよ?」
「何回しても覚えないからでしょぉ?」
「うっせーなぁもう」

このやり取りも何度目だろう。
ただ、いつもはこれで終るのに、
今日は何かが違っていた。

156 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:39 ID:k20CQu22
「ねぇ」
「ぅん?」
「あんたさぁ、美貴ちゃんとは最近どうなの?」
「ハァ?」
「いやぁ…やっぱり仲いいのかなぁって」
「そんな事聞かなくても知ってるだろ?」
「そ、そうなんだけど…」
「それとも他になにかあるのか?」
「そんなんじゃないけどさ」

157 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:39 ID:k20CQu22
「それがそうもいかないんですよねー」
「里沙ちゃん!」
「おぉー新垣さんお疲れ」
「センパーイ飲んでますかぁー?
 あ、吉澤さん向こうで男子が呼んでましたよ」
「マジ?うー…早めに潰してくるか」

そう言うと吉澤は濃いサワーのピッチャーを抱えて
少しおぼつかない足取りで向こうへと歩いていった。
入れ替わるように新垣さんが俺の隣に座ると、
赤くなった顔を近づけてこう切り出した。

158 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:39 ID:k20CQu22
「さっきの話の事なんですけど」

「吉澤さん、最近すっごくセンパイの事気にしてるんですよ」
「へ?」
「どうも石川さんが最近カレシ作ったらしくてぇ、
 それで吉澤さんに自慢してるみたいなんですよ」
「でも、そんなの前もあったじゃん」
「イヤイヤイヤそれがねぇ、どうも石川さんが吉澤さんとセンパイを
 くっつけようとしてるみたいなんですよぉ」
「何ィ!」

かなり大きな声を出した事に自分でも驚いた。
周りのざわめきに全てかき消されたとわかっていても。

159 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:40 ID:k20CQu22
「でぇ、吉澤さんもまんざらでもないみたいでぇ」
「え!?あのサッカー部のやつとは…」
「あぁもうとっくに別れてますよぉ知らなかったんですか?」
「あいつそういう事言わないからなぁ」
「ほら!言わないって事はやっぱ好きなんですよぉ」

心の奥でミシッという音がした気がした。
そういう話は何回か聞いた事はある。
飲みの席で本人に聞いた事もある。
その時は笑って否定していたけど、
多分我慢していたんだろう。

160 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:40 ID:k20CQu22
「センパーイ、どうしたいんですか?てか今彼女いるんですか?」

この質問をされるといつも戸惑う。
今までは曖昧にうなづいたりしていた。
俺の事を良く知ってる人はこうすれば察してくれた。
もっと俺の事を良く知ってる人はこんな質問をしてこない。
今日もそうすればよかった。
それで何も問題はなかった。

・・・なのに。

161 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:42 ID:k20CQu22
その時、机の上でケータイがうなりだした。
すかさず俺は目で合図を配りながら席を立つ。
早足でテーブルから離れながら、
なぜか大切な物を置いてきたような気持ちになった。

店から出てケータイの画面を確認する。
分かっていた事なのに、ドキッとした。
慌てて電話に出る。
あぁ、いつもの感じだ。

162 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:42 ID:k20CQu22
「もしもし」
「もしもし?ゴメンねーまだ飲んでるの?」
「そうだな…もうしばらくかかりそう」
「今日オールするんじゃない?明日どうしよっか?」
「ぅん…行くよ…」
「でもさ、午前中映画見てご飯とか無理じゃない?」
「いや、絶対に行くよ」
「本当に?無理しないでよ」
「美貴が前から見たがってた映画だろ?」
「そうだけどさ…」
「約束は守るよ」
「フフッ」
「何かおかしかった?」
「今日はずいぶん男らしくない?」

163 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:43 ID:k20CQu22
言われて初めて気がついた。
普段なら言わないような事。
お酒のせいにしておけばいいんだろう。

「ん?俺はいつもこうだろ」
「バッカみたい」

このやり取りは初めてかな。
でも、ずいぶん昔からやってたような気がする。

164 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:44 ID:k20CQu22
「適当な所で帰るよ。それでも無理だったらさ」
「何?」
「看病してよ」
「…分かった」
「何だよお前も酔ってるの?」
「ナイショ♪」
「…それでさ、聞きたい事あるんだけど」

「石川さんが、俺と…」
「よっちゃんをくっつけようっていうやつ?知ってるよ」

思わず出た、自分の言葉。
思いがけない、美貴の言葉。

165 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:44 ID:k20CQu22
「…え?」
「知ってるよその話。梨華ちゃん私に聞いてきたもん」
「何て?」
「『美貴ちゃんさぁ、今カレシいる?』って」
「それで、何て答えたの?」
「明日教えてあげる」
「・・・そっか」
「じゃ、明日ね」
「うん」

ゆっくりとケータイをたたみ、店の中へと戻る。
さっきの自分と美貴の言葉がぐるぐると頭の中でらせんを描く。
自分達のテーブルに戻る。
さっきと何も変わらない、バカ騒ぎの中に身を投じる。
吉澤も、新垣さんもそこにいる。

166 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:45 ID:k20CQu22
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「いない間にずいぶん飲んだ?」
「えーそんな事ないですよぉ」
「じゃあこの空のグラスは何かな?」
「私そんな芋焼酎なんて知りません!」
「はい自白いただきましたー」

「そんな事より、さっきの続きなんですけど」

「センパイは彼女いるんですか?」

167 :名無し娘。:2006/10/01(日) 23:45 ID:k20CQu22
黙って手に持ったままのケータイを取り出す。
電池パックのふたを外して、裏側を新垣さんに見せた。
美貴と2人で撮ったプリクラ。
そのままふたを新垣さんに手渡し、
近くにあった青りんごサワーのグラスを引き寄せた。

「・・・」

相変わらず周りは騒々しい。
今俺が何を言ったかは誰も聞いてないんだろう。
そう思いながら、一息にグラスを乾かした。

終わり

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0ch BBS 2006-02-27