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【下克上】例えば名無しが作者編【成り上がり】

133 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:00 ID:g3i/0tr6

 * * *

134 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:00 ID:g3i/0tr6

「……ってことなんだ」
「ふむふむ」
「おーい?」
「ふむふむ」
「聞いてる? 美貴の話」
「ふむふむ」
「アンタ馬鹿?」
「ふむふむ」

 ――ムカつく

「ぎゃ!? 痛いっ!」
「人の話も聞かないで、なに雑誌なんか読んでんのっ!」

135 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:01 ID:g3i/0tr6

読んでいた雑誌を取りあげて言ってやった。
あ、ここは美貴の部屋で、大して強く叩いたわけでもないのに大袈裟に頭さすってるコイツ。
一応幼なじみ……、なんか気がついたら隣にいたって感じのヤツ。
こっちに出てきて、コイツとの縁も終わりなるのかなぁ、なんて思ったものだった。
なのに、高校卒業するなり就職するのにこっちに出てきて、あげくにウチから五分のボロいアパートに越してきた。

「だからって叩かなくたっていいじゃんか……」
「大体、なんでアンタ此処にいんの?」
「なんでって……自分で呼んだんだろーに。それ買ってこいって」

そう言いながら指差した先にあるのはトイレットペーパー。
12ロール入り……ダブルのヤツ。

「……そっか」
「そうです」
「………」

なんか勝ち誇った顔してる。
ちょっとムカつくんですけど……

136 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:01 ID:g3i/0tr6

「こんなのもいる?」

ヒラヒラと宙に踊らせた手をギュッと擦りあわせるように力を込めてる。
スッと力を抜いてゆっくり手を開くと……

「いりませんーっ!」
「そう?」

ポケットティッシュ。
いつのまにかヘンな手品覚えて、時折こうやって美貴のコトからかったりする。

「ってゆーか、そろそろ帰れば?」
「ヒドイなおい、カレシに向かって帰れだなんて」
「はっ? 彼氏? ドコに?」
「目の前に愛しいハニーがいるじゃないか」
「カ・エ・レ」
「はい……」

137 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:02 ID:g3i/0tr6

 ――ったくもう……ふざけてばっかなんだから。

けっ飛ばしたお尻を押さえてスゴスゴと帰って行く背中を見ながら思った。
思い返してみればいつもそうだった気がする。学校でも、家でも、いつも。
いつだっておちゃらけた態度で人のことからかうようなことばっか言って笑ってる。
バカでとぼけたちょっと憎らしい兄妹みたいなヤツ。

138 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:02 ID:g3i/0tr6

さすがに昨日のあれは悪かったかなって思って、仕事帰りにおみやげ買ってアイツのアパートのそばでタクシーを降りた。
時間的にもう帰ってるだろう二階の一番奥のアイツの部屋へ、錆びた階段をカンカンと小気味よく鳴らして上がっていった。
登り切るところでアイツの部屋の前に見慣れた背中を見つけて、ちょうどいいタイミングだったって声をかけようとした。

「おー、い……?」

口にした声が尻つぼみに小さくなる。
アイツの向こうにもう一人の人影があったからだった。
バレたらマズイかなって慌てて帽子を深めにかぶり直すと、少しドモリ気味に美貴の名前を呼ぶアイツの声が聞こえた。
かぶり直した帽子の陰からそっと様子をうかがうと、なんか気まずそうなアイツと、……知らない女が立っていた。

139 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:03 ID:g3i/0tr6

「……あれ? なにカノジョ?」
「そうですけど、貴女は?」

冗談交じりにそう聞くと、アイツを引き寄せるように前に出てきた女がそう言った。
強気な、でもどこか弱々しく感じる口調だった。

「み…アタシは……幼なじみだけど。ゴメン、知らなかったからさ。邪魔しちゃった?」
「別に平気ですよ? あがっていかれませんか?」
「いーよ。そんなヤボじゃないし。二人で仲良くやればいーじゃん。美貴だってそうする相手ぐらいいるしね」
「……そっか」

やっと口を開いたアイツは少し疲れたみたいな顔してボソッとそう呟いた。

「これ、良かったら二人で食べなよ」

美貴とアイツの分だったお弁当の箱をポイッと放り投げて階段を下りていく。
錆びた階段が、上がってくるときよりも軋んでるような気がした。
なんか胃の中に鈍りでも入ってるみたいな感じがする。
重くって気分が悪くて……なんか苦しい。

140 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:04 ID:g3i/0tr6

その日からアイツはうちにこなくなった。
週に二回も三回もきてたアイツがもう二週間も姿を見せない。
どうやらホントにあれがカノジョにだったってことなんだろうって思った。

アイツの顔を見なくなってから三週間。
こんなに会わずにいるのは東京に出てきたとき以来だと気がついた。
けど今回はあのときとは違う。
互いの状況も……それ以外のことも。

141 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:04 ID:g3i/0tr6

仕事を終えて帰ってきた自分の部屋でベッドに倒れ込んで、ふと上げた顔の先にコルクのボードが見える。
こっちにきてからプライベートで撮った写真が貼られてるボード。
亜弥ちゃんや娘。のメンバーと撮った写真が所狭しと貼り付けてある。
その中に一枚だけ、アイツと写ってる写真があった。
おちゃらけたポーズで笑ってる写真の中のアイツは、今日のアイツとは全然違うものだった。
美貴の知ってるアイツは、根はマジメなくせにふざけてて、そんでもってバカで……でもいっつも美貴のそばにいてくれて……

142 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:05 ID:g3i/0tr6

 ――バカなのは美貴の方だ…

アイツにカノジョがいるのがこんなにイヤだってこと、今頃になって気がついて。
今頃になって気がついて、こんなに胸が苦しくなるなんて……

「美貴はバカだ……」

143 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:05 ID:g3i/0tr6

枕が濡れるくらいに時間が過ぎた頃、さんざん泣いたせいかヤケに喉がかさついた。
冷蔵庫にはなにもないはずだった。からっぽの冷蔵庫を思いだして長いため息をつく。
けだるい身体を起こして、放り出してあった大きめの帽子だけを目深にかぶった。
その感覚で思い出してしまった。この帽子はあの日にかぶっていたものだ。
苦しいよ……。

144 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:05 ID:g3i/0tr6

コンビニを出るなり、よく冷えたスポーツドリンクのキャップをひねった。
一口含んでみてどれほどの水分を流したのかって思った。
500mlのペットボトルを一気に飲み干してしまったけれどまだ足りない。
違う種類のスポーツドリンクを開けて一口喉に流し込む。
口元を乱暴に拭って歩き出してすぐ、どこか耳に馴染む声を聞いた気がした。

「美貴…?」

振り返っってみれば汚いスニーカーが見えた。
こっちにきてからずっと履いてるって言ってたかな。

145 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:06 ID:g3i/0tr6

「……こんな遅くに買い物かよ」
「アンタには関係ないじゃん」

どっか刺々しい口調に苛立って、こっちまで言葉が荒くなる。

「っ……あぁ、そーだな。カンケーないよ。俺なんかよりも心配してくれるヤツがいんだろ」

ちょっとキレたようなアイツの言葉がすごく痛かった。
痛い、痛い、痛い……

146 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:06 ID:g3i/0tr6

「おい……どーかしたのか?」

なにも言えずにいる美貴に、少しやわらいだ口調でアイツが聞いてくる。
悔しいけど涙が出そうになる。

「…………もない」
「え? なんかあったのかよ」
「なんでもないっ! カノジョいるくせに優しくなんかすんなよっ!」

美貴じゃない女に話すための口で優しい言葉なんかかけんな。
これ以上情けないところなんかアイツに見せたくなくて、コンビニの袋を投げつけてアイツの前から逃げ出した。

147 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:07 ID:g3i/0tr6

夢中になって走って、息が切れるほど走って。
なのに気がついたら腕を掴まれて。
転びそうになったところをもう一本の腕で支えられていた。

「走んのはえーよ、バカ」

少し乱れた呼吸に合間にそんな声が聞こえた。
振り解こうともがくけれど、アイツの腕はしっかりと美貴を掴んで放さない。

「ちょっとこい」
「なんでよ、離してっ――」
「いいからこいってっ!」

グイグイと掴まれた腕ごと引っ張られて。
それっきり黙って歩くアイツの背中について歩かされた。

148 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:07 ID:g3i/0tr6

気がつくと美貴たちは、あの錆びた階段を上がっていた。
カンカンと二人の足音が噛み合わないリズムを刻んでるみたいに。

狭い部屋の中で気が抜けて座り込んでる美貴に、アイツが話しかけてくる。

「この部屋に入ったの初めてなんだぞ。男以外は」
「ウソばっか」
「こないだのは違うぞ。会社の子で、なんだか知らねーけど好かれちゃって。でも帰ってもらったし」

聞こえてきた言葉が信じられなくて、見上げたアイツの顔はいつになく強ばっていた。

149 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:08 ID:g3i/0tr6

「何年も、ずっと前から言ってんだろ。お前のこと好きだって」
「っ――だって、そんなの……あんなからかうみたいに――」
「しょーがねーじゃん。……本気で告って本気で拒まれたら、もうそばにいらんなくなるから」
「……バカ」
「マジで言うよ。……俺、ずっと美貴のことが好きだった。ずっと一緒にいたいよ」
「……ばーか」

目も鼻も、あつくてツンとする。
泣くつもりなんてないのに……止まんない。

「使えよ」

ポンと目の前に置かれたティッシュの箱。未開封のヤツ。
開けて渡してよ、なんて思いながら何枚も抜き出したティッシュで涙を拭ってた。

150 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:08 ID:g3i/0tr6

続けて数枚ティッシュを抜き出したとき、なにかおかしな感じがして箱を持ち上げてみる。
アイツが楽しそうに笑ってる。
もしかしたらって立て続けにティッシュを抜き出し続けると、箱の中にもう一つの箱があった。

「プレゼント」

アイツが楽しそうにそう言った。
その箱はよく見かける青紫のパコって開く小さな箱。
そっと取り出したソレを見つめてる美貴に「安いけどな」ってアイツが笑う。
おかしくなっちゃうんじゃないかってくらいドキドキしながら慎重に蓋の部分に手をかけて。
そっと、大切に開けた箱の中からひょっこりのぞいたソレは……小さく丸められたポケットティッシュだった。
またからかわれたって思った美貴はキレそうになる寸前に誰かの声を聞いた気がした。

151 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:08 ID:g3i/0tr6

 ――だめだこりゃ

152 :名無し娘。:2006/09/30(土) 22:09 ID:g3i/0tr6

なんかのTVだっけかな。
そんなことを考えながら蓋を閉めて。
その安い箱を思いっきり投げつけた。

ヒョイと箱をかわしたアイツが声を上げて笑いながら目の前に座り込む。

「プレゼント」

美貴の目の前に掲げられたそれは、親指と人差し指で摘まれた銀色のリングだった。
クルクルとめまぐるしく変わる状況の中で、もっとも強い思いを掴まえてアイツの首にしがみついた。

「バカッ……でもダイスキ」



おわり

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